透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 1110

2011-10-30 | A ブックレビュー



10月の読了本6冊。内、日本人論・日本文化論が3冊。

『いきの構造』九鬼周造/講談社学術文庫 
単行本で刊行されたのが1930(昭和5)年、それ以来80年以上にわたって読み継がれてきた名著。「粋」とは何か、「粋」の本質は何に由来するのか。

『日本人の意識構造』会田雄次/講談社現代新書
日常の何気ないしぐさから読み解く日本人の特質。昭和47年10月発行。

『日本人の論理構造』板坂元/講談社現代新書
いっそ、どうせ、せめて・・・。日常よく使う言葉から日本人独特の論理や価値観を明らかにする。昭和46年8月発行。


『考えることの科学 推論の認知心理学への招待』市川伸一/中公新書
推論には領域固有性があり、無意識的に自分の期待に沿った推論をする。確率・統計的な考察に基づく推論は重要だが、日常生活においてそうすることは難しい。

『黄いろい船』北杜夫/新潮文庫
高校性のころから、北杜夫の作品に親しんできた。この秋、いくつかの作品を再読したい。

『日本のデザイン ――美意識がつくる未来』原研哉/岩波新書
繊細、丁寧、緻密、簡潔。日本人の持つ美意識、そこから生まれる技術を生かしたものづくりを考えよ。

6章から成る本書で興味深かったのは、第5章「未来素材」だった。ミラノ・トリエンナーレで開催された、日本のハイテク繊維の実力を示す展覧会の紹介。
日本人のしなやかな感性が創る作品。

立体構造の繊維でつくった「呼吸するマネキン」  中空の内部に透明な糸を張りめぐらせて、その糸をコンピュータ制御で床下から引っ張ってマネキンを動かす仕組み
たった1.5mm厚のアルミ板の裏表に厚さ0.25mmの炭素繊維を貼り付けて強度を確保してつくった「超軽量椅子」
髪の毛の7500分の1という超極細繊維でつくった「拭き掃除ロボット」 尺取り虫のように、柔らかく動いて床を拭く
無数の光ファイバーをコンクリートの中に整列させた「光を通すコンクリート」 壁と窓という区分のない両義的な空間! 
車のフロントを顔に見立てて、ストレッチ繊維を使ってその表情を変えるアイデア 4分の1のスケールの日産キューブによる試作 ほほ笑むクルマが街を走る日が来るかもしれない・・・

このような「未来」の可視化は技術開発の方向性、到達点を考えるのに極めて有効だ。



「さびしい」

2011-10-30 | A 読書日記



 北杜夫の『どくとるマンボウ青春記』中公文庫を読みはじめました。前々稿に書きましたが、この作品が最もよく知られていると思います。

こんなくだりがあります。**当時、私の心には、馬鹿げたパトスと共に、女学生よりも感傷的な心が同居していた。学校をよく午前中でさぼり、西寮までの畠の道を沈んだ顔つきでのろのろと歩いた。(中略)落葉松の玉芽が日と共にふくらみ、やわらかな針葉をひらいてゆく過程を、私は甘美な寂しさの中で見た。**(54頁)

続けて、父親の歌を挙げ、**これらの歌は、茂吉の『赤光』の中でむしろ駄作の部類である。しかし私にとっては、とにかく「寂しく」て「悲し」ければ、自分の心情にぴったりするのであった。**(55頁)と書いています。

私は北杜夫の作品、特に初期の作品に漂う「寂しさ」が好きなのです。

からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

北原白秋も「落葉松」で人生とはさびしいものだと詠いました。

私は「寂しさ」にひかれます。秋ですね・・・。