透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

転がる石に苔つかず

2006-07-27 | A あれこれ

豊島公会堂で日曜日に開催された公開講座について先日書いた。
今回は「薬師寺大伽藍の再建と西岡棟梁の仕事」の講演から。

講師の石川博光さんは中堅ゼネコンの社員。
薬師寺の再建一筋36年とのことだが、自ら希望してこの仕事に就いたわけではないらしい。ビルの建設を担当していた時に白羽の矢が立ったとのことだった。(今朝の新聞に白羽の矢が当たった、と誤用する人が多いと文化庁の調査結果が載っていた。)

あの西岡棟梁と共に薬師寺の金堂や西塔、中門などの再建にずっと携わってこられた体験の色んなエピソードを語っていただいた。

「知識としてでなく体験として知っていることが大切」 おそらく石川さんの実感だろう。この仕事に就いたばかりのころは全く何も分からなかったとのことだ。「ぼちぼち やりなはれ」と棟梁に声をかけてもらったそうだ。
その西岡棟梁はずっと先のことを気にしていて「千年後に東塔が残っていて西塔がなかったらえらいこっちゃ」と言っていたという(東塔は昔のままで西塔が再建された)。

現在石川さんは薬師寺のすぐ近くに住んでおられて、台風のときなどは夜中でも薬師寺に見回りに出かけるそうだ。24時間薬師寺のことばかり考えて生活してきたそうで、家庭を顧みることもしてこなかったと語っておられた。
***
「転がる石に苔つかず」
日本では、だから転がるな。アメリカでは、だから転がれ。
職業観が日米ではこのように異なる。石川さんはこの旧来の日本人の職業観に当て嵌まる半生を送ってこられた方だろう。

最近の日本の若者は、就職後数年でかなりの割合で職を変えるらしい。
但し「転がる石に苔はつかない、だから転がらなくては」というアメリカ的な考え方に因るのかは分からないが・・・。