とだ九条の会blog

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新自由主義的構造改革と働く女性(その2)

2006年08月01日 | 国際・政治
■ジェンダー論と働く女性の権利
神戸大学教授 二宮 厚美


おわりに
ジェンダー論と新婦人運動 新しい福祉国家
生活や家族の領域における男女平等の軸と、職場の労使関係における男女平等の軸、この2つの円心軸をもっただ円形で、これからの男女平等、女性の地位や権利の向上をはかっていかなければならないと思っています。
新婦人は、職場、家庭、社会の3つの平等といっています。トライアングル型で、家族と職場に円心軸があって、その軸から等距離にだ円型の円周がひかれ、これがひとつの社会を構成し、男女それぞれの権利の前進がはかられることを目標にしているようですが、これを達成することは、日本がめざす新しい福祉国家だと思います。福祉国家という面で全体が底上げされます。差し当たって女性は自分たちの働く権利をテコに、福祉国家を展望します。
旧来のヨーロッパのフランスやドイツ、伝統的なイギリスの福祉国家は、全部片働き家族がモデルです。日本のこれまでの福祉国家もそうです。ところがそれでは女性の権利は実現しないし、発展もしません。モデルは共働き型にしなければならないと思います。北欧型がこれにあたります。
とはいっても従来新婦人が担ってきた地域や家族のなかでの女性の運動はきちんと評価しなければなりません。それが人間の権利全体の底上げをしてきたのです。

「民主主義と平和」の福祉国家
たとえば日本の民主主義的権利の運動は、ヨーロッパと違って、「平和と民主主義」というように、民主主義を平和とセットにしています。民主主義が平和と結びついたときに、ヨーロッパにない力をもちます。それは日本国民としての誇りです。福祉国家はつねに平和国家でなければなりません。ヨーロッパは福祉国家であってもすぐに戦争を許してしまうところがある。平和と民主主義がセットになっていないからです。
日本の母親運動や新婦人の運動では、平和と民主主義をセットでやっているから、人権水準が高くしっかりしたものになっています。それを生かしながら、男女共働き型のイメージで福祉国家をつくることが、これからの課題です。
そのように整理されると、われわれ男性も女性におおいに協力していけます。福祉国家のいう労働権や教育権、所得保障や環境権といった新しい権利は、働く女性がもっとも必要としているものです。なぜなら保育や介護などがバックアップされていないと働く権利も実現しないし、所得や医療保障も、自らの労働権も実現できません。これをみごとに改善しているところに働く女性がいるのだと思います。
働く女性のパートナーの働く男性も比較的それに近い存在です。
新自由主義小泉構造改革は、露骨な企業の論理を遂行する中で、共働きをふやし、実質的には不平等を残し、男女ともに劣悪な労働条件においています。しかし、その渦中で男も女も新しい平和と福祉国家をつくらざるを得ない潜在的エネルギーが蓄えられています。そのときどきの運動に力を出すことが、偉業の達成につながると思います。

まとめ
この(2002年)4月1日から大学の付属養護学校の校長をやってます。かなり重い障害をもった子どもたちがいます。教育の場で障害児がきちんと受け入れられ、送り迎えの体制もあり、家族のサポート、土日の生活の保障がなければ、障害児をもつ母親の働く権利は実現できません。
1人ひとりの女性たちの人権としての働く権利をサポートしようと思ったら、その背後に社会制度や教育制度、福祉制度がないと働けません。昔は育児や介護のために仕事をやめざるをえませんでした。そこから保育運動、介護運動と母親・女性運動がむすびつき、働く女性も働かない女性も合わせて、女性の要求として運動してきました。これが福祉国家を考える原点です。

革新自治体の遺産
国としては全然やらなかったけれど、東京をはじめとした第1期の革新自治体の時代には女性たちが立ち上がってさまざまな要求を実現してきました。60年代後半から70年代前半の革新自治体はミニチュア版の福祉国家だったと思います。これらの遺産がまだ東京にはあって、いま石原都知事が猛烈な攻撃をかけています。
しかし、革新自治体の時につくったものは、なかなかのもので、遺産として引き継がれています。かつて市町村レベルでは革新自治体を誕生させたところには、必ず母親たちの保育所運動がありました。これは非常に参考になることです。
少数だった共働き家族が多数になり、さまざまな制度や権利を備えていかないとやっていけません。新しい福祉国家は、戦争国家とは縁をきり、もっと地方自治とか、公務労働者を活用するというさまざまな要素をふくんでいます。その1つの要素がジェンダーエクイティーのバージョンアップです。これは男女平等のレベルアップなしにはつくれないし、これがひとつの鍵をにぎっていると思います。
今日のシンポジウムで感激し、新婦人らしいなと思ったのは、女性が夫たちのサービス残業を告発するという、第1期革新自治体の時代とは違う今日的なたたかいを展開していることです。昔は、男性は家族に心配をかけてはいけないと、黙って男が頑張るという形でした。ところが今日のお話では、女性たちが労基暑にいって企業を告発するという、これまでには考えられなかったことをやっている。片働き家族であっても昔とは違う、非常に新しい、まさに新婦人そのものだと思います。
新しい家族が築かれているんだと大変興味ぶかく、これから新福祉国家構想のなかに、今の経験をとりいれて私もがんばりたいと思います。



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http://www15.ocn.ne.jp/~toda9jo/


コメント (1)
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