歌番号 61 拾遺抄記載
詞書 延喜の御時、ふちつほの女御歌合のうたに
詠人 よみ人しらす
原文 安佐己止尓 和可波久也止乃 尓八佐久良 者奈知留本止者 天毛布礼天美武
和歌 あさことに わかはくやとの にはさくら はなちるほとは てもふれてみむ
読下 朝毎に我が掃く宿の庭桜花ちるほとは手もふれで見む
解釈 朝毎に私が掃き清める屋敷の庭ですが、その庭に桜の花が散る間だけは掃き清める手も入れずにその花散る庭の風情を眺めましょう。
歌番号 62 拾遺抄記載
詞書 あれはてて人も侍らさりける家に、さくらのさきみたれて侍りけるを見て
詠人 恵慶法師
原文 安左知波良 奴之奈幾也止乃 左久良者奈 己々呂也寸久也 可世尓知留良无
和歌 あさちはら ぬしなきやとの さくらはな こころやすくや かせにちるらむ
読下 浅茅原主なき宿の桜花心やすくや風にちるらん
解釈 浅茅の原になってしまった屋敷の桜の花は、散る様にそわそわする人もいないので、心やすく風に散って行くのでしょうか。
歌番号 63 拾遺抄記載
詞書 きたの宮のもきの屏風に
詠人 つらゆき
原文 者留布可久 奈利奴止遠毛不遠 佐久良者奈 知留己乃毛止八 満多由幾曽布留
和歌 はるふかく なりぬとおもふを さくらはな ちるこのもとは またゆきそふる
読下 春ふかくなりぬと思ふをさくら花ちるこのもとはまた雪そふる
解釈 春の季節が深くなったと思ったが、桜の花の散るこの木の根元は、まだ、雪がふっていますよ。
歌番号 64 拾遺抄記載
詞書 亭子院歌合に
詠人 つらゆき
原文 佐久良知留 己乃志多可世者 左武可良天 曽良尓志良礼奴 由幾曽布利个留
和歌 さくらちる このしたかせは さむからて そらにしられぬ ゆきそふりける
読下 さくらちるこのした風はさむからてそらにしられぬゆきそふりける
解釈 桜が散るこの木の根元、風が寒いからなのか、空には気が付かないが、その根元に雪が降りました。
歌番号 65 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 安之飛幾乃 也万地尓知礼留 左久良者奈 幾衣世奴者留乃 由幾可止曽美留
和歌 あしひきの やまちにちれる さくらはな きえせぬはるの ゆきかとそみる
読下 あしひきの山ちにちれる桜花きえせぬはるの雪かとそ見る
解釈 葦や檜の生える深い山路に散っている山桜の花、その姿はまだ消えぬ春の雪かと眺めました。