歌番号 66 拾遺抄記載
詞書 天暦御時の歌合に
詠人 小弐命婦
原文 安之飛幾乃 也万可久礼奈留 佐久良者奈 知利乃己礼利止 可世尓志良留奈
和歌 あしひきの やまかくれなる さくらはな ちりのこれりと かせにしらるな
読下 あしひきの山かくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな
解釈 葦や檜の茂る深い山に隠れている桜の花、まだ散り残っていると、風に気付かれないでくれ。(風が花を散らすだろうから。)
歌番号 67 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 伊者満遠毛 和計久累堂幾乃 美川遠以可天 知利川武者奈乃 世幾止々武良无
和歌 いはまをも わけくるたきの みつをいかて ちりつむはなの せきととむらむ
読下 岩間をもわけくるたきの水をいかてちりつむ花のせきととむらん
解釈 岩の間を分けて流れる急流の水を、どのようにして散り積もる花びらは堰き止めるのだろうか。(岩間の水面に桜の花びらが留まっています。)
歌番号 68 拾遺抄記載
詞書 天暦御時の歌合に
詠人 源したかふ
原文 者留布可美 為天乃加者奈美 堂知可部利 美天己曽由可免 也万不久乃者奈
和歌 はるふかみ ゐてのかはなみ たちかへり みてこそゆかめ やまふきのはな
読下 春ふかみゐてのかは浪たちかへり見てこそゆかめ山吹の花
解釈 春の季節が深まったので、井手(山城)の川の水面が氷も解けて波立つ、その言葉の響きではありませんが、立ち帰りながら眺めて行きなさい、この山吹の花を。
注意 貫之集「音に聞く井手の山吹見つれども蛙の声は変らざりけり」を参考とする。
歌番号 69 拾遺抄記載
詞書 ゐてといふ所に、山吹の花のおもしろくさきたるを見て
詠人 恵慶法師
原文 也万不久乃 者奈乃佐可利尓 為天尓幾天 己乃佐止比止尓 奈利奴部幾可奈
和歌 やまふきの はなのさかりに ゐてにきて このさとひとに なりぬへきかな
読下 山吹の花のさかりにゐてにきてこのさと人になりぬへきかな
解釈 (この美しい花模様を見ると、確かに)山吹の花の盛りに井手(山城)に来て、この里人になった方が良いのでしょうか。(と思います。)
歌番号 70
詞書 屏風に
詠人 もとすけ
原文 毛乃毛以者天 奈可免天曽布留 也万不久乃 者奈尓己々呂曽 宇川呂日奴良无
和歌 ものもいはて なかめてそふる やまふきの はなにこころそ うつろひぬらむ
読下 物もいはてなかめてそふる山吹の花に心そうつろひぬらん
解釈 物も言わないで、ただ、眺めて時を過ごしてしまう、この山吹の花に、私の気持ちは乗り移ってしまいそうです。