買い物は旅の重要な要素であろう。なんと言っても見知らぬ土地に行くのであるから、何か珍しいものを買おう、その地でなければ無い物を買おう、と心ははやる。加えて、短期間のツアーなどでは、それに異常心理が加わる。そもそも、①二度と来るかどうか分からないのだからとにかく買っておこう(隣の町へ移動すればもうこの品は無いのだ!)、②時間が無いのだから良し悪しは別に買っておこう、という心理の下にあり、その上、③同僚を含めみんな買いあさっているのを見て、自分も買わなければ損をしているような気分になり、加えて、④旅行会社やガイドが、そのような心理をくすぐるのにピッタシの店に案内するのである。
今回のトルコでは、それにガイドフラット氏の愛国的熱弁が大きく作用した。彼は長いバス旅の中で、トルコの歴史、文化、産業を語りながら、産品の質の良さを強調した。
「トルコの地中海地方は暖かく、そこで育つ羊の皮は薄く柔らかい。しかもその子羊の皮で作ったジャケットやコートは絶品だ。是非買いなさい。」
「トルコ絨毯は世界一だ。ダブルノット織りは緻密で柔らかく丈夫だ。シルクロードの終点で、絹の絨毯を是非とも買ってください」
「トルコ石については言を俟たない。」(買わないなんて信じられない、ってな言い草)
そしてその通り、われわれは「皮屋」、「絨毯屋」、「宝石屋」の順に案内されたのである。
そこにおける物風景(前回「狂乱の買い物風景」などと書いたが、その言葉は訂正する)について詳細は別稿に譲るが、いずれにせよ相当な“大商い”が演じられたことだけは確かだろう。何よりも驚いたのはトルコ商人の商売根性だ。
まず最初の皮屋・・・、最初に見せられたのは美男美女によるファッションショー、しかも続いてわれわれツアー客の中から三人が舞台に引き上げられ(幸か不幸か、わがワイフもその1人であったのだが)、お似合いのコートなどを着せられ先ほどのファッションモデルに連れられて登場する。「日本人にもこんなに似合いますよ」と言うところを見せて、やっと店に案内して強烈な売込みを始める。
流暢な日本語と豊富なことわざ(日本の諺)を駆使しての商いに、前述したような心理状態にある客は次々と落とされていく・・・というしくもである。
豊富なことわざといえば、フラットさんのシャレを一つ。
「これからバスの長旅です。ここでトイレを済ましておいてください。なんたってここは皮屋(かわや・・・厠)ですから。」
隣席のワイフがすかさず「座布団一枚!」と叫んだが、革張りのVIPバスには座布団は無かった。(日本の三菱自動車製バスであったが)
早速本文をダブルノット織りと訂正させていただきました。
それにつけてもトルコの思い出は尽きることなく、いつのまにか「トルコ紀行」は20回を数えました。いつまで続くのですかねえ?
(09年11月13日)