旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

原点に立ち返った農業--農業家K氏の視点

2009-04-01 14:57:22 | 政治経済

 秋田県鹿角市で農業を営むK氏の話を聞く機会を得た。今年還暦を迎えたK氏は、実は7年前から農業を始めた。永年自動車セールスなどのサラリーマンを続け、定年退職を機に、かねてから思いを温めてきた米つくりを始めたのである。
 秋田に、米を中心にした秋田の産物を都会に届け、代わりに都会の人に秋田に来てもらいたい(旅してもらいたい)という目的で設立された「こめたび」という会社がある。そのこめたび社が米を仕入れる7人の契約農家の一人がこのK氏である。こめたび社が売る米の中では最も値段が高いが、最も人気のある米の一つである。
 10人ぐらいで夕食を共にしながらのK氏の話には、学ぶべきことが山ほどあったが、特に心に残ったことだけ記しておく。

 日本の食糧自給率問題など、今後の日本農業にさまざまな不安を抱く私は、かねてより疑問に思っていたことを質問した。つまり「経済のグローバル化の中で、大規模農業で合理化を進めるアメリカなどに対し、日本の小規模形態の農業では勝てないのではないか?」という、よく言われる疑問である。
 これに対しK氏の回答は明快であった。
 「大規模企業が良い物を作っているのではない。日本の自動車は世界に冠たるものであるが、それはトヨタが作っているのか? そうではない。中身は、下請けの何万という中小零細企業が作っている。高い技術力はその零細企業に蓄積されているのだ。」
 「広大な土地に機械技術で作るより、日本の段々畑で丹精こめて作ることが大切だ。そこに日本農業の値打ちがあり、良い米を作れば高価でも必ず売れて競争にも必ず勝てる。」

 もう一つ私にとってうれしい発言があった。「日本酒を飲みますか」という私の問いに対して、
 「はい、酒は好きです。しかし純米酒しか飲みません。清酒とは“清い酒”・・・、混ぜ物が入っていてはいけません。」
 という言葉が返ってきた。日本酒の原点である米つくりの、その原点に立ち返った人の発言だけに重みがあった。

 さまざまな疑問が吹っ飛んだような、何ともすがすがしい一夜であった。
                             


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