ミャゴラトーリ公演オペラ『リゴレット』が、観客者の中で話題になっている。牛込箪笥ホールを満席にしたとはいえわずか290名、ほんの一握りの観客数であるが、顔を合わせると『リゴレット』の話が出てくる。そして、これまでの常連ながら今回参加できなかった連中から、「なぜ1日公演だったのか、もう1回公演できないか」という声まで上がってくる。
聞くところによれば、多忙な演出家岩田達宗氏の日程の関係から、1回公演しかできなかったらしい。まあしかし、1回公演だからこそ強烈な印象を残し、また出演者のエネルギーも凝縮して発揮されたのかもしれない。290名の観客には無上の幸せであったというしかない。
これほどの感動を残したこのオペラは、実に素朴な舞台装置、小道具、衣装のもとに行われた。舞台装置といえるものは何もなかった。小道具は、4個の白木椅子と、ちょっと豪華に見える大椅子、それに小さな細長いテーブルだけであった。白木の椅子は、椅子取り合戦の椅子にもなれば、組み立てられて門や入り口の役をした。低い長テーブルも、必要な都度出演者が運びながら現れた。衣装も全く素朴なもので、目を引いたのは大男のバリトン歌手(大沼徹)が演じたチェプラーノ夫人のドレスぐらいのものであった。
それだけに、出演者の歌唱力と演技力のすばらしさが映えた。まさに演劇的オペラの演技力に観衆は引き付けられた。一般にオペラといえば、華麗な舞台と衣装がまず目に浮かぶ。日本の歌舞伎も全くそうだ。それはそれで楽しみでもあろうが、しかしその前の『能』の世界は、極めて簡単な舞台装置で、小道具などほとんどなく、専ら演技者たちの動と静の演技で観客を引き付ける。今回の公演は、その境地に似ていたといえるのかもしれない。
ミャゴラトーリも、これまでのオペラではそれなりの装置と小道具を使っていたので、いつもその製作場となっていた我が家は、最後の廃棄作業まで含めて大変であったが、今回はすべて音楽室に収まっている。その一つ、マントヴァ公がふんぞり返っていた椅子を、私が時々使用させてもらっている。