旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

「戦争はイヤだ」と叫ぶオペラ … 『カプレーティとモンテッキ』③

2016-05-11 20:54:15 | 文化(音楽、絵画、映画)

 

 カプレーティ家とモンテッキ家は戦争に明け暮れていた。その両家に生まれた二人の恋は、初めから悲劇の運命を背負っており、2人は死によって添い遂げるしか途はなかった…。これがシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の筋書きであった。
 しかし、別の台本もあった。二人は、この相争う世界から逃げようとした。ロメオは「戦争は人が死ぬのでイヤだ」と言い、「二人で戦争のない世界へ逃げよう」とジュリエッタを誘う。世間を知らないジュリエッタは家を離れること自体に躊躇するも、「死を装う」という危険な手段に挑み「家からの離脱」に向かう。
 二人は生きようとしたのだ。策の手違いからロメオは毒薬を飲むことになるが、駆け付けたカプレーティ家の主カペッリオに対し、とり巻く人々は「殺したのはお前だ!」と戦争に明け暮れた様を糾弾する。その場におけるロメオとジュリエッタは、少なくともメロドラマの存在ではない! ベッリーニのこのオペラを、鬼才岩田達宗はどのように描くのだろうか?

 第二次世界大戦から70年が経った。この間、世界の各地に戦争の絶えることはなかったという史実がある。人類は、あの悲劇的な大戦の後も、地上のどこかで何がしかの戦争を続けてきたのだ。その中で日本が、一度も、どこの国とも戦火を交えなかったのは奇跡とさえ言われている。それはまぎれもなく憲法九条のお蔭であったと思う。
 日本国民はこの憲法九条を、戦後70年にわたって育み、自分のものとして身に着けてきた。日本人が闘わなかったのは、単に九条の条文があったからではない。その精神を愛し、慈しみ、自己のものに育て上げてきたからであろう。
 しかし一方に、戦争を好む勢力も存在する。彼らはこの70年間、戦争をやりたくてウズウズして来たのではないか? 憲法九条の解釈改憲を続けてきたが、昨年の集団的自衛権承認の解釈に至って、彼らのウズウズは沸点に到達したかに見える。人はどこまで争おうとするのか? このオペラは、今の日本にどのような一石を投じるだろうか? 

 もちろん、オペラは理屈を言うために見るのではない。ベッリーニの美しい調べと、実力派の歌手たちの歌唱力に、じっくりと浸りたい。きれいなチラシが出来上がった。ミャゴラトーリ常連の、イラストMariさん、デザイン太田さんによるものだ。一面にちりばめられた満天の星は、一体何を表しているのだろうか? これもオペラを見る楽しみだ。

  
 


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