Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『蛮幽鬼』マチネ 3等B席後方上手寄り

2009年10月04日 | 演劇
新橋演舞場『InoueKabuki Shochiku-mix 蛮幽鬼』マチネ 3等B席後方上手寄り

とりあえずどんな感じか早く観たかったので3等B席で観てきました。花道は見えないけど3等B席センターは観やすいです(個人的に同じ3等Bでも袖席は最悪)。

さて、芝居ですが始まったばかりなのでこなれてない部分は多々ありましたが、基本筋の部分が面白いので十分楽しめました。前作のいのうえ歌舞伎『蜉蝣峠』が個人的に苦手だったので期待値が低かったのもあるかもしれないけど、私は『蛮幽鬼』のほうが断然好きです。やっぱり「基本は少年まんが」だけど中島かずきさんの脚本の「いのうえ歌舞伎」は観てて気持ちが良いし思い入れもできる。

とりあえず、今回、ネタばれは書きたくないので書かないけど、ラストのいわゆるオチの言葉が個人的に、「中島さんそこですか!そこにきましたか!」と土門@上川さんのとある一言で、私的によっしゃ~~!でした。そのひっくり返しは個人的に大好き。その一言で芝居はとても深いものになっていました。中島さん、たぶん『蜉蝣峠』にも触発されたよね(ニヤリ)って感じでもありました(笑)。私はこういう心の闇の使い方のほうが好み。物語の転がし方や持って行きかたが良いなあ。これぞ中島かずきって感じだった。

とはいえ相変わらずツッコミどころもあれこれありますがっ…。土門と美古都、美古都と刀衣の関係性をもう少し描き込んで欲しかったり、終盤の土門の復讐の部分、もっとドロドロしてから反転というように捻りが欲しかったかなとか、細かい部分で。後半、物語的に方向性として一気にいかない感じがあって若干散漫な感じになったかなと。復讐の空しさ(個)と国を憂う(公)、という二本筋に途中で分かれそうになりそこがうまく絡んでいってないような(これ書くと若干ネタばれかも?)。これは脚本のせいだけではなく演出の問題もあるとは思いましたが。

ただ今回、中島さんの脚本の物語性の大きさや構築力の上手さに比べ細かい部分である種荒さを感じさせるのは役者の解釈や芝居にあとは任せる、という部分もあるのかも、と思ったり。余白があるために役者がやろうと思えばいくらでも深められる。反対にクドカン脚本は全体は荒いけど細かい部分が緻密なので深めるのがかえって難しいのかも、とか<とちょっと色々考えてみた(笑)。ま、余談です。

珍しく脚本から感想を書いたのはオチ台詞を褒めたかったのが大きいのだけど、反対に演出に多大なる文句がっ。だって~~、また映像多用だよ~~。しかもいらない説明映像ばっかり。無くても通じるし、無いほうが良い。その分、役者に芝居させろ~~、間を大事にして~、いのうえさ~ん。

映像を多用することで、台詞と映像説明が二重になって無駄な感じがしてしまうし、映像にしているところは誰かが流すような台詞で伝えても十分観客に伝えることができる部分ばかり。それと生身の役者が板の上で醸し出す余韻が生まれないのでかえって時間の経過とかが実感として伝わらない。またこの映像を流す時間があるなら、違う部分で役者にたっぷり芝居をさせて欲しい。特に美古都@稲森いずみさんをもっと出してもよかったんでは?脚本の部分でもう少し書き込んで欲しかったと書いたけど、脚本が手薄でも演出次第で土門と美古都、美古都と刀衣の関係性をもう少し深く見せることは出来たはずだ。

舞台装置の使い方は相変わらず非常に良かったです。特に大セリの扱いが見事。演舞場の機構を存分に使っていました。歌舞伎等であの使い方を色々観ている私には大きな驚きはなかったけど、普通の観客は驚いたんじゃないかしら。盆廻しはいつもより多かったかな。場割りが細かかったせいかぐるぐると廻しておりました。相変わらずスピーディな転換には感心します。 照明も相変わらず綺麗。ただ、床に今回マーブル模様が最初から施されていて、照明の面白さを堪能するにはその模様が邪魔だった。あの床の模様は必要だったのかなあ?つるっとした大理石のように見えてしまい岩窟の部分でごつごつ感が感じられないし、あまり効果的は思えず。

あと、これはほんとに個人的な趣味の部分で気に入らなかったのがあって…女性ボーカル入りの曲はいらなかった。盛り上がりの部分であれを入れられると歌詞が邪魔して舞台面が散漫になる。ヘタすると安ぽい感じになるし…。

全体的にもう少し締まった演出してほしかったなあ。ここ最近、いのうえさんの演出、ちょっと平坦な感じ。映像に拘りすぎてるせいじゃないかと思うので、誰かいのうえさんに映画一本撮らせて心ゆくまで映像をいじらせてあげてください。舞台にあまり持ち込まないで~~(お願い)

役者さんたちは皆魅力でした。そこら辺はやっぱさすがに役者を見せる(魅せる)ことを大前提にした「いのうえ歌舞伎」だなあって思いました。ただ、立ち回りのワクワク感は今回残念なことにいつもよりは感じなかった。殺陣の手は派手だし見応えはあるんだけど、もうひとつ華やかさが足りないような。古田新太さん、堤真一さん、市川染五郎さん、阿部サダヲさんあたりの殺陣だと観てて無条件にワクワクするのだけど、そういうのが若干足りなかった。なんでだろ?まだ始まったばかりでこなれてない、という部分以外でもう一歩見せる殺陣に成り切れてないかなあと。

伊達土門@上川さん、「真っ直ぐ」という言葉がピッタリ。だから表と裏が簡単にひっくりかえる。白から黒へ。その振り幅を表現できる方ですね。でも誠実さという部分は壊れない土門だった。血の通った人の暖かさを身にまとう。受けの芝居が上手いです。受けて存在感を出すのって本当に難しいと思うのですが自然体でできている。また台詞が本当に真っ直ぐ届く。私たぶんこの人の声が好きかも。殺陣は『SHIROH』の時より動けてました。土門らしい殺陣でよかったと思います。が、ラストのサジとの殺陣だけはもう少し大きさを出して欲しかったなあ。美古都に…、のとこは良かったです。

サジ@堺雅人さん、あ、ちゃんと舞台人だ、と思いました。この人の独特の笑顔は舞台でも映える。ビックリした。それとこの人の笑顔キャラを上手く当てたキャラが楽しい。いや、楽しいキャラじゃないんだけどね(笑)。サジは中島かずき脚本のなかではかなり異質な存在だと思う。堺さんという役者に触発されたのかな?このサジという人間の特異なキャラ、色々想像できて面白いです。殺陣はもっと頑張れ~でしょうか。いや、かなり相当頑張っているんですが…。暗殺者の殺陣にしてはキレが足りないかなと…。

刀衣@早乙女太一くん、『トゥーランドット』の時より断然芝居が上手くなってました。感情表現がかなりできるようになってた。感心した~。太一くんファンには美味しい場が沢山あります。得意の女形もみせてくれた。しなやかな舞でなかなか素敵でした。殺陣はこなれてない部分はあれど小柄な軽さを生かした殺陣はとても綺麗でした。自分の体の使い方をよくわかってる。しかも体全身を大きく動かそうという意識が絶えず働いてるのがいい、こなれてきたらかなり良くなりそう。ただ、殺陣でワクワクさせるってとこまでいくのは大変かも。まだ若いからこれからだと思う。

美古都@稲森いずみさん、美しいです、可愛いです。舞台はお初なんですよね?台詞もしっかりしてるし、立ち姿も綺麗だし、想像以上に大事な役をしっかりこなしている。華もあるし、舞台慣れしてくればすごく良くなりそうな感じ。ラストの台詞のところはさすがに荷が重い感じです。どこまで成長してくださるかというところでしょうか。

あと、やっぱりいつもの使われ方だけど聖子さん、橋本じゅんは良いですねえ、色々と(笑)。それと千葉哲也さんがいい味。

後半もう1回観るので、その時にどこまで進化していってるか、楽しみです。

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『InoueKabuki Shochiku-mix 蛮幽鬼』
脚本:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:
伊達土門/飛頭蛮-----------上川隆也
京兼美古都----------------稲森いずみ
方白/刀衣-----------------早乙女太一
稀道活--------------------橋本じゅん
ペナン--------------------高田聖子
音津空麿------------------栗根まこと
稀浮名--------------------山内圭哉
遊日蔵人------------------山本亨
京兼惜春------------------千葉哲也
鳳来国大王----------------右近健一
音津物欲------------------逆木圭一郎
ガラン--------------------河野まさと
鹿女---------------------村木よし子
サジと名乗る男-------------堺雅人