Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」』 1等A席1階後方センター

2010年12月26日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」』 1等A席1階後方センター

国立大劇場千穐楽、今年の芝居納めです。3回拝見する予定ではなかったんですが3週続けて観ることになりました。芝居は生もの、日によって違いますが、私が拝見した限り、今回の芝居は後半にいくにつれ尻上がりに役者の芝居が良く密になっていったように思います。かなり見応えが出てきていましたし観客の反応も良くなっていたように思います。

今回の上演形態に関しては個人的に満足いくものではなかったのですが、試みとして否定するものではありません。新しいことをしていくことは非常の大事だと思いますし、今回の上演も今後の上演の在り方を考える上で大事な上演であったとも思います。今回の演出の良い部分、悪い部分の両方をしっかり見極めて今後に活かしていただきたいなと思います。

なんてちょっと硬いことを書きましたが、役者さんたちの芝居を思いっきり楽しみました。皆さん、今年の芝居納めのせいか?ここは僕の見せ場だから的に思いっきりたっぷりたっぷり。そこを観客の私もたっぷり楽しませていただきました。また全体のまとまりも良かったです。全員がきちんとしっかり芝居をしている。こういう事ってとても大事です。

高師直@幸四郎さん、人物造詣はやはり?ではあったけど、だいぶイヤな輩にはなっていました。台詞廻しの部分で緩急をうまく使い尊大さを大仰に表現し、いやらしい雰囲気を出していました。そのためだいぶ判官を追い詰めることができるようになっていました。とはいえ、やはりどこか違うなと感じてしまいます。これは私の高師直像と噛み合わないだけで、役者のせいではありませんが。

由良之助@幸四郎さん、泣きの由良之助。存在感たっぷりに運命と悲哀を背負った男として演じていきます。ここまで泣きを表に出さなくてもと思ったりもしますが感情の在り方がわかりやすく等身大という言葉が浮かびます。また、幸四郎さんの由良之助は基本的に優しいですね。亡羊とした大きさがあまり無い代わりに、自分と相対する相手をしっかりと想うというか自分のためではなく、主君のため、残された諸志のため、という部分が際立ちます。

判官@染五郎さん、かなり表情豊かになり受けの芝居が良くなっていて、高師直@幸四郎さんとだいぶ芝居がかみ合ってきていました。まだもう少しと思う部分もありましたが、悔しい気持ち昂ぶりがきちんと伝わってきました。これで、もう少しふんわりとした風情がでるといかにもこの段の判官らしくなるかな。とはいえこの難しい役を初役でここまで持ってこれたのは褒めたいです。四段目の悲哀ぶりは非常に良かったです。覚悟を決めた表情が良く、終始緊張感を保って場がまったくだれません。台詞廻しなどはやはり勘三郎さん写しですね。

勘平@染五郎さんは悲哀の勘平のままでしたがそのなかでしっかり陰影が出てきていたかなと。とはいえまだどこか足りないかなあ。立ち回りは活き活きして良かったです。

平右衛門@染五郎さん、この役はしっかりモノにしてきたなという感じです。18日に観た時はお軽@福助さん対して弟ぽさが見えてしまいましたが、この日は声の調子も良く芝居の線が太くなり、平右衛門の真っ直ぐさを魅力的にしっかり見せてきたなと。

お軽@福助さんが非常に良かったです。どんどん良くなっていて、お軽の可愛らしさ、勘平一途さを華やいだ雰囲気で演じていました。七段目のウキウキした雰囲気から勘平を亡くしたことでの悲哀を丁寧にやりすぎることなくあくまでも可愛らしく演じていました。いつもは表情を作りすぎるかな?と思うことがあるんですが今回はそれを感じませんでした。台詞はほんとに上手いです。

判内@亀鶴さんが品よく軽妙に敵役をきちんと演じてらして気持ち良かったです。気持ちの良い芝居をするのって難しいと思うのですが、初役で(判内は初役ではなく2度目とのことでした。2007年2月に演じていらっしゃいました。訂正させていただきます。2007年の時は一際印象に、という感じではなかったので今回、成長ぶりを見せてくださった、ということででしょう(^^))公演の最初のほうからそれが出来ていた。地力のある役者さんだと思います。もっと色々拝見したいですね。最初から同じ拵えで演じたのも良かったです。キャラクターとしての立ち居地が判りやすいですし、役割もよくわかる。

他、それぞれの役者さんしっかり緊張感を持ちつつたっぷり演じてきていて非常に見応えがありました。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」』 特別席1階前方センター

2010年12月18日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」』 特別席1階前方センター

1回目観劇から一週間後に2回目の観劇です。前方センターという良い席で観ても、個人的にはやはりショートカットした台本・演出への不満は消えなかったです。場をかなり削ったことで個々の人物像の輪郭や説得力が薄れてしまっていました。大枠の忠臣蔵らしい部分を抽出して、わかりやすくということで、確かにその雰囲気は伝わってくる舞台ではありましたが、その分薄味というのは否めない。

やってみないと、どうなるかというのは判らないものですからその意味で次回『仮名手本忠臣蔵』を上演する時はどうするか?の材料にはなったとは思います。短くしたことで濃縮されるどころか物語が薄くなってしまったというのがここまでハッキリ出るとも思わなかったんじゃないでしょうか。次回は普段掛からない段を含めて2ケ月公演なり3ケ月公演なりでしっかり通し狂言として上演していただきたいです。その使命を国立は持っていると思いますし、『元禄忠臣蔵』3ケ月公演を成功させたことを思えば、そのくらいの冒険をしてもいいかなと。まあ、松竹の協力は必須ですけど。もっと「歌舞伎」を育てていく気概を国立にも松竹にも持っていただきたいです。

反面、全体的に観客の反応も良かったですし、歌舞伎を観たこと無い初心者たちを感動させということは「物語」の厚みはないものの「歌舞伎役者」たちの存在感や芝居の篤みで見せてきたということでもありますね。そういう部分でいえば11日(土)に拝見した時より役者さんたちが充実して見応えはありました。

高師直@幸四郎さん、憎々しい風貌と押し出しの強さで見せてきますが、個人的にはやはり納得のいく高師直ではありませんでした。解釈不足なのではないかと思います。幸四郎さんは巨悪として演じるとおっしゃったようですが、そもそも高師直は巨悪ではありません。位が高く有能ではあるけどいけすかないスケベじじいなんですよ。その矮小さがあってこそ高師直だと思います。なぜ、この人は憎まれなければならなかったのか。悪人だからじゃないです。意地悪で金に汚く、自分が人妻に横恋慕し断わられたのを逆恨みするような懐の小さい人間で理不尽に人をいじめるような人物だから、だから人に憎まれるんです。ネチネチといやらしく判官を攻め立てていけないといけないと思いますが、今回は単に堅物で横柄な人物でしかなく、憎まれるほどの人物になっていませんでした。大序から三段の前半の若狭之助のくだりがないだけに、これでは判官役者が追い詰められてるようにみえず、判官役者泣かせな高師直の造詣だと思います。

由良之助@幸四郎さん、こちらは良かったです。声の調子もよく特に四段目は見応えありました。判官が信頼するだけの存在感があり、神経を張り詰めつつ冷静に場を対処するリーダーとしての資質とそこの秘める熱い信念がみえる造詣。場を制するオーラはさすが。七段目は後半からなので、放蕩部分が中途半端。前半がないと亡羊としたキャラから後半鋭さをみせていくというところをしっかり見せられませんからねえ…。とはいえ今までよりは酔いのなかの色気があったように思います。芝居にメリハリがついてきたかな。といってもやはり仇討ちにかける想いが表に出すぎてる気がします。

判官@染五郎さん、11日に拝見した時よりかなり良くなっていました。端正で真っ直ぐな判官です。三段目は幸四郎さん高師直とは、どうももうひとつ噛み合わないのが残念です。戸惑いから怒りへの変化はよく見せてるとは思うのですが、幸四郎さん高師直の突っ込みがいじめぽくなく直線的すぎて、そこを世間知らず的な素直な戸惑いが噛み合っておらず、そういう意味でいかにも初役で丁寧に演じることだけになっていて対応しきれてない。これは染五郎さんのせいだけではないとは思いますが、役のこなれてなさが浮き出てしまう部分でもあります。その代わり、従来の演出での四段目の判官は非常に良かったです。覚悟を決めた強さのなかに透明感のある美しさがありました。自分の立場を充分わきまえつつ、どこか一縷の望みを抱え、由良之助を待ってるのだなと。あまり強い想いではなく、死を迎えるうえで「未練」を抱えていたくない風情。いかにも若い主君で薄幸を自分に引き寄せてしまった感。

勘平@染五郎さん、今回は情感が乗り、場の情景をきちんと描けていました。ただ前回同様やはり悲哀が強すぎるかな。主君の大事に居合わせられず、お軽に引きずられてきてしまった後悔がある、という部分での勘平としては正しいには正しいのだけど。道行ではもう少し開き直り感というかどこか抜けた色気があってもいいと思う。四段目の重い空気を舞踊で気分転換させる意味合いもある幕なので。染五郎さんの勘平はどちらかといえば五段、六段の勘平のほうかなと思いました。立ち回りはメリハリが利いてて良かったです。

平右衛門@染五郎さん、かなり良かったです。大熱演がいい方向に出たかなと。平右衛門の真っ直ぐな気性をだいぶ輪郭太く演じていました。台詞廻しの緩急が利いてきて、軽妙さと家族を想う悲哀と忠義一途さを場ごとにしっかり見せて来た。福助さんのお軽とのバランスでいえばもっと大きさは必要だとは思うけど、平右衛門としての存在感は充分にありました。

顔世御前@福助さん、佇まいがはやはり良いです。顔世御前としての悲しみが伝わってきます。

お軽@福助さん、前回ピンとこなかった「道行」のお軽がとても良かったです。勘平のことが大好きで、勘平の気持ちを浮き立たせようと絶えず気遣う可愛いお軽でした。勘平大好きオーラがあると姿もとても可愛らしく見えます。「七段目」はふわっとした色気がありつつ、勘平一途な想いをしっかり見せていきます。芝居のメリハリが効いて、お軽のどこかノー天気な性格の可愛らしさと、一途ゆえの絶望の落差が印象的。

力弥@高麗蔵さん、若々しく健気な力弥でした。若い役者とはまた違う、芸のうえの瑞々しさ。ここまでに似合うとは正直ビックリの好演でした。

石堂馬之丞@左團次さん、普段は薬師寺役が多い左團次さんですが、石堂役もとても良かったです。品がよく、さりげない情味があって、たえず敬いの心を忘れない石堂です。

薬師寺次郎左衛門@彦三郎さん、しっかり憎まれ役を演じていました。いやみったらしいのだけど、変に格を落とさずに。

小林平八郎@錦之助さん、2009年さよなら公演では竹森喜多八を演じられましたが今回は吉良側の小林平八郎。体力勝負の場面ですが若いまだ未熟な竹森喜多八@児太郎くんをしっかり受け止めて大立ち回りを演じています。ご苦労様です。個人的には、今回の座組みだったら錦之助さんの若狭之助が観たかったんですけどねえ。

竹森喜多八@児太郎さん、大役を貰いましたね~。まだ未熟ですが一生懸命頑張っているなと思いました。立ち回りは若くて体力があるだけじゃ見せられない部分もあるんだなとは思いましたが、11日拝見した時より上手になっていましたし、これからも頑張ってほしいです。

東京オペラシティ コンサートホール『ピエール=ロラン・エマール ピアノ・リサイタル』B席3階L席

2010年12月13日 | 音楽
東京オペラシティ コンサートホール『ピエール=ロラン・エマール ピアノ・リサイタル』 B席3階L席

興奮、興奮。本当に素晴らしかった。やっぱエマール氏はこれからも追いかけるピアニストの一人だわ。アンコールが相変わらず本番並のボリュームでした。現代音楽を本当に面白く聴かせてくれるピアニストは私にとってはポリーニとエマールですね。テクニックがあり音を多層に多彩に演奏できる人じゃないと現代音楽は面白く感じないんじゃないかなあ。

しかし、現代音楽中心の曲目だとお客が集まらないのが…。昨日は多く見積もっても6割程度の客入り。これだけの演奏家でこの入りかぁ…。でもその代わり客層は良かった。エマールの現代音楽が好きな人ばかり集まった感ありで集中度が高かった。エマールから「拍手は前半と後半の最後以外での曲間の拍手はしないように」との要望があったけど、皆しっかり守ってたし。おかげで最後に一音の余韻をしっかり楽しめた。あとは曲間で一部おじさんたちが無理矢理に咳を出すのをやめてくれたら…。

昨日は前半は少し演奏が硬かったかな。メシアンがさすがに聴き応えあり。 エマールは後半からかなり乗ってきた。リスト「巡礼の年第3年から「エステ荘の噴水」」が白眉。なんという美しさ。透明感のある煌くような演奏でした。ラヴェル「鏡」はどことなく物悲しく余韻のある演奏。いやはや、素晴らしい。で、アンコールは怒涛の現代音楽7連発。これがまた非常に乗った演奏でどれも聴き応えあり。現代音楽ってこんなに面白いんだ、楽しいんだと思わせる。自由で多彩な音色を聴かせ、音たちの世界を形作る。ちょっと凄かった~。


【プログラム】
バルトーク:4つの哀歌 op.9a から 第4番
リスト:巡礼の年第3年 から 「エステ荘の糸杉に寄せて――葬送歌第1」
メシアン:鳥のカタログ から 「カオグロヒタキ」
リスト:巡礼の年第1年「スイス」から 「オーベルマンの谷」
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リスト:巡礼の年第3年 から 「エステ荘の噴水」
ラヴェル:鏡(蛾/悲しい鳥たち/洋上の小舟/道化師の朝の歌/鐘の谷)

【アンコール】
クルターク:「ピアノのための遊び」より フェレンツ・ベレーニ70歳へのオマージュ
バートウィッスル:Harrison's Clocks
ブーレーズ:ノタシオン第9、10、11、12番
ベンジャミン:「ピアノ・フィギュアズ」から 第6、8、9、10番
メシアン:8つの前奏曲から 第3番「軽やかな数」
カーター:Matribute
シェーンベルク:6つのピアノ小品 op.19

国立大劇場『十二月歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」』  2等席1階前方上手 

2010年12月11日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」』 2等席1階前方上手 

今月の国立大劇場『仮名手本忠臣蔵』は変則通し狂言。わかりやすくという試みは買うし、連れて行った初心者達は一様に面白かった、楽しかったと言ってくれたし、これはこれでドラマとして成り立っていたとは思う。しかしながら私個人は正直物足りなかった。連れて行った初心者さんたちに気を取られていたせいで(彼らの見物様子を見たりしつつだったので)個人的には集中度が欠けての観劇だったのも大きいかも。細かい部分、逃してるところも多い。また再見するので、その時にどう思うか。従来の『仮名手本忠臣蔵』通しを何度も観ている方で今回の演出の面白みをうまく受け取っている方も意外に多いようなので、そこら辺きちんと確認しよう。

11日(土)に観た限りでは全体的に変則通しにしてバッサリ切った場面が多かったせいでキャラクターが立たない部分が多かったように思う。あとやはり座組みの薄さは否めない。他の演目なら十分すぎる座組みだと思うけど仮にも『仮名手本忠臣蔵』の通し狂言。特に塩谷判官をやって早替えで勘平って、あり得ない、顔世御前から早替えでお軽もありえない、と私は思う。三段目は若狭之助のくだりは入れるべきだった。今回の座組みなら錦之助さんで充分こなせたと思う。それと七段目も前半はしょるべきではない。巡業の時によくやる手だけど無理がありすぎる。その代わり討ち入りの場面を短めにして、引き上げの場は全部削っても良かったと思う 4段目が通称「通さん場」というほど重要なのはなぜかを考えたら判官から勘平ってあり得ない。顔世からお軽もありえない。気持ちの持ちようが違いすぎる。この役を兼ねさせること自体が役者に酷。

塩谷判官と平右衛門は180度違うキャラで、同じ役者がやることによってかえって立場の違い、身分差を感じさせる部分があって、まだしも意味は無くはなかったと、少し強引かもしれないけど意味付けはできる。しかしそれも七段目の前半あればこそ。後半のみならその意味も薄れる。

期待してた幸四郎さんの高師直が良くなったのがとても残念。いかにも上っ面をなでたような造詣。大序が無い弊害だけでなく師直という人物を造詣しきれてない。卑屈さのある意地の悪さとか、すけべじじいぶりとか、いわゆる因業じじいになってない。高師直の幸四郎さんの造詣の甘さが、きちんと判官を追い詰めていけてない。これは受ける判官役者が可哀想。しかも若狭之助のくだりもないので、理不尽ないじめを受けているという場面の説得力が薄れているからなおのこと。ここはちょっとどうにかしてほしかった。しかも余計な演出(烏帽子を刀で落す、たぶん首を落されるという暗示、見立て)はいらない。とにかく芯になる幸四郎さんが全体的に冴えてなかった。体が重そうで声の調子もやられててかなり疲れている感じだった。

由良之助@幸四郎さん、得意な4段目でさえ、もうひとつ精彩に欠けていた。余裕がない感じ。その余裕のなさが活きた場面もなくはなかったけど、リーダーたる毅然とした部分など薄め。七段目にいたっては、元々この段にしっくりこない幸四郎さんの由良さんのなかでも、良くない部類だったなあ。あまりにも仇討ちへの思いが表層に出てしまっているのと、ほろ酔いの色気がなくあれでは素面でしょう。

とはいえ幸四郎さんは持ち前の存在感と押し出しで座頭としての勤めは果たしていた。なんだかんだ中心にいる人物として成り立たせていた。そこは底力と華の部分でなんだろう。でも芯の吸引力がいつもよりなかったせいで全体的に薄味になったのは否めない。

判官@染五郎さん、楚々として世間知らず系な判官。最初なぜ意地悪されてるのかさっぱりわからず、え?え?と思ううちに怒りを制御できずにキレちゃう。演技の流れは良いのに幸四郎さん師直がよくないので受けきれず。初役でこなれてないうえに、あんな師直で可哀想だった。染五郎さん判官は基本勘三郎さん系。台詞廻しなど稽古つけてもらった気がする。ただ、まだこなれておらず。三段目より四段目のほうが良かった。覚悟を決めた風情の凛とした美しさ。由良之助待ちの切ない部分もしっかり出ていた。ただ「かた(き)」というところは少々強すぎるかも。

勘平@染五郎さん、道行のみなので踊りとしての判断。愁いのある背中。動きも丁寧で美しい。でもまだそこまで。気持ちがのりきれてない。情景描写、心理描写が上手い踊り手の一人だと思うけど、11日観劇の時点では描写しきれてない。道行の勘平は覚悟が弱い揺れる男&恋ゆえに落ちる男。覚悟を極めた判官を演じたあと、どこまでそのメンタリティにもってこれるか。初役でこれはかなり無茶な流れで大変だと思うけど、このままでは終わってほしくないなあ。少しでも勘平に近づいて欲しい。

平右衛門@染五郎さん、さすがに三回目だけあって一番こなれていた。しかし由良さんに徒党に加えてと嘆願する場面がなく、足軽の立場、悲哀をみせる場が無く、見せ場が減らされている。しかし全体的に染五郎さん平右衛門は前に比べだいぶ骨太になり兄さん風情が出てました。とても家族想い、妹想いの兄さんです。またおっちょこちょいで落ち着きのない軽さのなかに芯の秘める仇討ちの思い、悲哀を抱えるキャラとしての造詣がかなりしっかり出てたと思う。

顔世御前@福助さん、悲痛な面持ちでの品のある佇まい。存在感がしっかりあるのがさすが。良かったです。

お軽@福助さん、道行は丁寧に踊ってて良いのだけど福助さんにしては情感があまり出てない。過剰な情感は必要ないけど、もう少しノー天気な勘平ラブが欲しい。顔世御前のあとにすぐにノー天気お軽になれといってもねえ…。いくら福助さんでも大変なんじゃないかしら。 七段目のお軽は色気もあり、かといって過剰ではなく可愛らしい。勘平一途さが明快で上々。平右衛門に対する兄への気安さのなかでの距離感も緩急つけつつ上手い。作りこんでない表情がいい感じ。全体に雰囲気のあるたっぷり感がらしい。歌右衛門さんぽいとこも。ただ、声の調子がやっぱりやられてる気が。嘆く場、いつもより悲嘆さが出てなくて…これは声が出てないせいかな?と。

九太夫@錦吾さん、どうしても人のよさが透けちゃうんだけど演じるのが二回目だけあって世渡りの計算高さ、せこさはしっかり表現。こういう悪役はかえって難しいんでしょうね。

周囲の皆さんは手堅くしっかり演じてきている。さすがに密な空間をしっかり保っていた。それぞれに書きたい点があるくらい。そこら辺は二回目観劇のときに一緒に書こうかなと思っております。

日生劇場『十二月大歌舞伎 昼の部』 3等4階席センター

2010年12月04日 | 歌舞伎
日生劇場日生劇場『十二月大歌舞伎 昼の部』 3等4階席センター

『摂州合邦辻』
とても面白かったです。今の時代、物語がわかりやすい通し狂言での上演のほうが良いと思う。この演目、2007年国立劇場での坂田藤十郎さんの玉手御前で観て以来久しぶり。今回は若手花形中心なのでたっぷり感はありませんが物語がストレートに伝わります。

玉手御前@菊之助さんが大健闘。時分の華だけじゃないものが、芸の実がつきはじめたなと感じた。特に「合邦庵の場」が非常に良かった。出から玄関先の美しさ、いじらしさは見もの。それとクドキの場をしっかりと聴かせ見せてきた。 菊之助さんは文楽をきちんと勉強していると聞いているがその成果が良く出てる。今回の菊之助さんの玉手御前は文楽で言うと文雀さん系。とても品があり情念を奥底に秘める。お父さんの菊五郎さんの玉手御前とは持ち味が違うが今の菊之助さんにはこちらが似合う。恋より義の道をひたすらに進み、固い信念の元の大きな犠牲の精神。個人的に「恋があればこそ」の玉手も見たいけどそれは10年後に。これから玉手は持ち役にしていくだろう。

合邦@菊五郎さん、たぶんニンではないと思う。個人的に合邦には剛胆な実直さがあってほしいと思う。たださすが菊五郎さんなのは、ニンではない部分をカヴァーするだけの上手さがあること。台詞がなにより良いのと枯れた愛嬌のなかに芯のある部分をしっかりみせて切なさを出してる。 なかなか良い味わいの合邦でした。菊五郎さん、「合邦庵の場」で時々菊之助さんに対して師匠の目つきだったような。そういう菊五郎さんを垣間見られたのが個人的にはちょっとツボに押されてみたりして。

おとく@東蔵さん。このところ老けの母役が増えていますね。娘への強い想いをしっかり出してきたと思います。芯の強さがあり、なるほど玉手御前の母なのだなと思わせました。

羽曳野@時蔵さん、品格があり非常に良かったです。今回、時蔵さんが出るだけで場が締まる場面多々。御殿庭先の場はちょっと見ものでした。時蔵さんの玉手御前も観てみたい。

奴入平@松緑さん、為所は少ないがしっかり存在感があって良かった。今月拝見して改めて菊之助さん、松緑さんがかなり地力がついてきたなと思ったり。もうそろそろ中堅に入り始める花形たち、努力している役者たちに実が付いてくる時期かなと。

次郎丸@亀三郎さん、押し出しがよく敵役の存在感がありました。

俊徳丸@梅枝くん、台詞もしっかりしてるし風情もあり頑張ってはいる。若手でここまで演じられたら合格点なんだろうとは思う。だけど、芝居全体のバランスとしてどうしても玉手御前@菊之助さんに対すると弱くなるのが残念。浅香姫のほうを観たかった。

浅香姫@右近くん、かなり頑張ってたけど頑張ってます、という段階。

俊徳丸と浅香姫の二人の存在感がしっかりして、玉手頂点に綺麗にトライアングルにならないと物語としては面白さ半減になってしまう…。ここの配役、できればもう少し考えてほしかった。


『達陀』
二世尾上松緑(藤間勘齋)が作った歌舞伎舞踊には珍しい群舞。この舞踊を孫の現・松緑さんが中心となって踊る。

僧集慶@松緑さん、青衣の女人との絡みの部分は風情がちょっと無いかも…。舞踊のなかの表現という部分ははまだこれからという感じではあった。しかし群舞の部分では若手たちをよく纏め、群舞の中心としてよく踊っていたと思う。

青衣の女人@時蔵さん、透明感があり綺麗です。しっとりと丁寧な踊り。

群舞のなかでは亀三郎さん、松也くんがよく動いていた。他にもこれからの菊五郎劇団を担う若手勢ぞろいで、これから彼らがますます重要になっていくんだろうなとちょっとしみじみしてしまいました。

サントリーホール『ワレリー・ゲルギエフ指揮「ロンドン交響楽団」』 C席RAブロック

2010年12月01日 | 音楽
サントリーホール『ワレリー・ゲルギエフ指揮「ロンドン交響楽団」』 C席RAブロック

マーラー『交響曲第9番』の1曲だけの演奏です。とても繊細なマーラー交響曲第9番でした。

やっぱりロンドン交響楽団はレベル高いなあと思いました。特に第3~4楽章が素晴らしかった。弦の音色が耳に残る。この楽団の弦はほんと巧いと思う。管のほうは聴いた位置のせいもあったかもしれないけど、時々雑な音が出てた気がする。でも集中度の高い演奏であったことは確か。 最終楽章が終って最後の音が消え、たぶん15秒近く客席含めて無音になりました。そうよ、この時間があるべきなのよ。そのあと万雷の拍手。 無音の音色ってあるんだなあって思った演奏会でした。

今回の演奏はダイナミックでエモーショナル演奏を求めたら違うってなりそうな感じでもありましたが、私は今回の演奏、気に入りました。曲想に感情が入るのではなく曲そのものを音として提示してきた、というように感じました。音の面白さのほうが先に立った演奏だった。

にしてもゲルギエフってほんと面白い指揮者ですね。 ゲルギエフのおっちゃん(笑)の指揮はやっぱ独特。ひらひらっとな。顔と手の動きのギャップが~~。にしても曲の組み立てがこの方、ほんと緻密で繊細なのね。


サントリー大ホール
ワレリー・ゲルギエフ指揮『ロンドン交響楽団』
【曲目】
マーラー『交響曲第9番ニ長調』