Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 海老蔵襲名披露 夜の部』 一等二階真ん中中央

2004年06月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 海老蔵襲名披露 夜の部』 一等二階真ん中中央

今回は復活の雀右衛門さんのおとく(『傾城反魂香』)がやっぱり素晴らしく、菊五郎さんの忠信(『義経千本桜』)がさすが当たり役だけあってひさびさの大ヒット。一番期待していた『助六』は脇に幹部が総出演でそれぞれに見応えがあり派手で楽しかったんだけど物足りなさが残った。

『傾城反魂香』
この演目は歌舞伎座ではよくかかる演目で何度も観ている。吉右衛門さん、雀右衛門さんの又平、おとく夫婦ペアも以前に観ていて、今までのなかではベストカップルだったのだがやはり今回もとても良かった。

特に雀右衛門さんが又平代わりに必死で訴える様や、一緒に死を選ぼうとするその心情まで、一途に旦那を思う情愛がさりげなく、それでいてたっぷり感じさせて胸に染みる。

吉右衛門さんは以前のどちらかというとユーモラスに演じた時よりどもりという障害への悲哀を少し浮き立たせた感じだった。それがいやみになる手前で押さえ命がけの必死さを見せる。私としては前回の又平のおおらかさが好きだが、よりリアルな心情が伝わってきた今回であった。

そういう部分では段四郎さんの師匠、土佐将監の厳しさが納得できるものだったせいもあるのかもしれない。今回初めて「氏名」を与えるために何か必要かをしっかり分かったような気がする。また今回の厳しい土佐将監に対して奥方の吉之丞が思いやりのある優しい奥方でとてもバランスが良かった。友右衛門の修理助がしっかりしているなかに、きちんと幼さが残っているのにちょっと驚く。京屋さんは「若い」を演出するのが上手なのかも。

『義経千本桜 吉野山』
菊五郎の忠信がさすがであった。あまり狐ぶりを見せるわけではないのにちゃんと狐に見えるのがすごい。また踊りが華やかで観ていてうきうきする。

静御前の菊之助は顔の作りが美しく花道の出では歓声があがったほど。それで期待したのだが、踊りが菊五郎さんとどうも合わない。たっぷり華やかに踊っている菊五郎さんに対して、付いていけてない感じ。どこが?と言われるとよくわからないのだがポーズひとつひとつがちょっと流れてしまってる感が。あと、脇で控えている部分が腰が高すぎるし姿があまりきれいじゃない。ただ立ってるだけじゃダメだと思う。きちんと忠信を見ていないといけないと思うのだが気持ちが入ってるようには見えなかった。

『助六由縁江戸桜』
脇のアンサンブルが見事で襲名披露を盛り立てるベテランたちの芸の確かさを今回も感じた。特に玉三郎の揚巻の姿の美しさは形容しがたいほど。啖呵をきるシーンはぞくぞくするほどカッコイイ。ポーズひとつ取っても絵になる美しさ。白酒売りの勘九郎さんが想像以上に彼独特の愛嬌が役にあってて出てくるだけで場を和ませる。

肝心の主役の海老蔵の未熟さ加減がストレートに出すぎ。いわゆる姿はとっても柄に合ってて、華もあるし色男の助六にはピッタリな風貌で花道の出はそれはそれは良かったんですよ。だけど声を発した途端に、ガクッ。セリフ回しのダメさ加減がいつもより悪く出てるわ、それ以上に、形の悪さはどうしたものかと。とてもきれいに型を整えることができるはずの海老蔵がメタメタだった。大きさが全然ないのはどうしてよっ。まだ若いんだから粗があるのはしょうがないけど、その代わりのパッションが感じられないようでは…。2ケ月目の半ばで疲れているのかもしれないが、若いんだから踏ん張ってほしい。