Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『柿葺落四月大歌舞伎 第三部』 1等席中央上手寄り

2013年04月20日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落四月大歌舞伎 第三部』 1等席中央上手寄り

4/20(土)観劇。

『盛綱陣屋』
丸本ものらしい濃厚さ。個人的に今月の芝居のなかで一番気に入ったかも。仁左衛門さんと吉右衛門さんが並ぶと舞台が大きくなる。

盛綱@仁左衛門さん、義太夫に細かく乗って情味たっぷりに華やかに大きく演じていきます。義太夫にしっかり乗った台詞廻しの自在さ。そして計算されつくしたかのような細やかな表現。姿の美しさにどこか文楽人形を感じさせる。情感が真っ直ぐに伝わってきます。『熊谷陣屋』の義経でも感じましたがやはりちょっとばかり質感が変わったような。前回このお役を拝見した時より線が太く丸くなったように思います。品格の部分でどこか十三代目さんにダブるところも。

和田兵衛秀盛@吉右衛門さん、存在感が凄いですね。和田兵衛の豪快さのなかに底知れぬ肚をみせる。吉右衛門さんと仁左衛門さんを同じ舞台で拝見するとは義太夫ものが得意で同じように細かく心情を重ねていくやりかただけど表現方法がだいぶ違うし台詞廻しも息遣いがちょっと違うのがわかります。江戸と上方の違いかな?面白いな~。

篝火@時蔵さん、とても良かったです。母の情味を強く押し出した。一見強そうなのだけどどこか脆さを抱える。小四郎を犠牲にすることを納得できてない、そんな雰囲気。う夫の高綱に計略押し切られてしまったんだろうなと思わせました。時蔵さんの篝火は私が拝見した日は感情が入りすぎたのか手が滑ったのか木戸を勢いよく本気で叩いてしまったようで「ごつん」という鈍い大きな音が…怪我されてないといいんだけど。

早瀬@芝雀さん、凛とした強さを押し出した早瀬。兄嫁としての貫禄とさりげない気遣いのバランスがいい。芝雀さんがこの役を演じきれたのには驚く。こういうお役では今までは前に出てこれなかったと思う。役の幅が広がったのではないかしら。

時蔵さんと芝雀さんは芸格があがって今回の座組みのなかでも存在感がしっかりとありました。この二人の色々な大きなお役を拝見したくなりました。

微妙@東蔵さん、孫を想う気持ちが溢れ優しげ。仁左衛門さん相手だともう少し格が欲しいかなとは思うけど立場の苦しさと孫可愛さをストレートに伝えてくる。

小四郎@金太郎くんがほんとしっかり芝居していました。集中度が高くどの場面でも空気を作りダレないのですから見事です。白塗りするとお父さんの染五郎さんにそっくりですね。とっても健気で切なくて儚げで泣かせてきます。金太郎くんの健気な芝居に本気でぽろぽろ涙がでてきてしまいました。

小子三郎@大河くん、小さい体ながらキビキビと溌剌としててとても可愛かったです。そろそろ左近を襲名させてもいいのでは?

時政@我當さん、おみ足が悪いのですが独特の存在感があります。この古怪さが貴重。考えてみたら得体の知れない恐さを出せる役者さん現在は少ないですね…。

ご注進の二人も良かった。信楽太郎@橋之助さんのキビキビとした勇壮さと伊吹藤太@翫雀さんの丸みを帯びたほどのよい滑稽味と。この二人は年齢的にもいい感じに油が乗ってきたかも。

『勧進帳』
あの広い間口にみっちりと詰まっているように感じた勧進帳だった。そしていつもの勧進帳とどこか違ってた。なにが?と問われてもよくわからない。色んなものが混在してた。勧進帳は羽目物のなかに時代物と荒事がミックスされている作品だと思うのですがその混ぜ合わせた個々が浮き出た恰好。色々思うことありだったけど緊迫感や熱気、空気の濃さは十二分に感じハラハラドキドキと面白く拝見できた。にしても弁慶の六法は観客にとっても特別な感覚があるのかな。これは誰の弁慶に対してもだけど一気に客席のボルテージがあがりますね。

弁慶@幸四郎さんはいつもの智将たる一所懸命な幸四郎さん弁慶。わかりやすくの方向へ突っ走ってるのはいつも通り。「芝居」が強調されているのでそこが時代物風。でも出だしは能掛り強調でまた散りばめられている荒事も強調されていた。というか今回そこをひとつにまとめきれなかったのかも。さすがに体力的な部分で一気にいけなくなってる感。昨年10月の『勧進帳』では幸四郎さん弁慶は方向性のバランスが非常にいい方向に行けたと思っていたのですが今回は身体がそこに追いつけなくなっている部分があったように思います。ただ体力面でまとまりは欠いているのだけどそこで終わらせないのがさすがベテランで弁慶がなさねばならぬことへ邁進するさまを詰めた間合いで推し進める。声の良さも手伝っての押し出しの良さと一所懸命さにどこか可愛げな様子をみせる。延年の舞の集中度と息の詰め方は本当に見事。

富樫@菊五郎さん、いつもより熱い受けっぷりでカッコイイ。この人は情に落ちる富樫というイメージでしたが今回は攻めがいつもより熱いので受ける部分に骨太な男らしさが加味された。また台詞がわかりやすく芝居っ気の強い幸四郎さんと合う。台詞の良さだけでなく思い入れをする時の姿が非常に良くてさりげないんだけど印象に残る。問答でかなり前へ前へと身体が来て静かなる熱さをもつ富樫というのを印象づける。

義経@梅玉さん、3年前のさよなら公演時に演じられた時の武将の統領たるキラキラ感が印象に残っているのですけど今回は悲運の義経の自分の運命への達観と信頼するものへの情愛の濃さが強かった。「御手を取り賜い」の時の優雅な姿にとても柔らかいオーラがありました。

四天王、個性ありすぎる(笑)。詰め寄りの時の空気の圧し方が凄かったです。弁慶、この四人を止められないじゃ…と思ったほど。座頭をすでに務める花形三人なので華やかさだけでなく人物像に厚みを出していました。左團次さんは飄としたとこを隠さずにさりげなくあとの三人をサポートしてる常陸坊海尊。四天王の花形三人はこちらの見方もあるのかもしれないけど兄弟みたいな絆がありそうに見えた。染五郎さんは冷静に目配りしてな亀井六郎だと思ったら詰め寄りが怖いくらいで「弁慶邪魔っ」とか言ってそうだった(笑)。松緑さんはぐっと腹が座り、勘九郎くんはギラギラと勢い込んでいた。染五郎・松緑・勘九郎は延年の舞になるとどうも目線が弁慶のほうに寄りまくる。それまではそうでもないのに(笑)三人三様の表情になってて面白い。そうえば松緑くん、何かにつれ染五郎さんのほうに身体が寄っちゃってたかも。なんでだろう?

番卒は幸四郎弁慶では鉄板の三人でした。さすがに間合いが上手くて安心して観ていられる。

太刀持@玉太郎くんはお行儀がいい。少しばかり大人びた顔つきに。お父さんに似てきたかな。

歌舞伎座『柿葺落四月大歌舞伎 第一部』 3等A席後方上手寄り

2013年04月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落四月大歌舞伎 第一部』 3等A席後方上手寄り

4/13(土)観劇。

『壽祝歌舞伎華彩 鶴寿千歳』
ゆるりと踊られる祝い舞踊。華やかでどこか清々しい。個人的には染五郎さんの頭に花を咲かせた麗しい春の君を堪能して満足なわけで(笑)

『お祭り』
十八世中村勘三郎の捧ぐと銘打っていますが故人が賑やかなのがお好きだったということでカラリとした雰囲気の舞台となりました。どうしても七緒八くんの可愛らしさに釘付けになってしまい皆さまの踊りを堪能できない…(^^;)七緒八くんは今日は袖にいる獅子舞の獅子に気をとられてた感じ。そして面倒をみる七之助くんが母のようでした。

『熊谷陣屋』
とても充実していました。

直実直実@吉右衛門さんが完全に円熟の域。いい意味で自然体。直実という人物を完全に自分の身に沿わせている。哀しみの深さ、絶望ゆえの諦観。そこに武士の世界の不条理さをごくごく自然に体現してみせる。直実の強さと弱さと、そういうものを押し出すのではなくただ感じさせる芝居。お見事と唸ってしまいました。

相模@玉三郎さん、かなりリアルさのある芝居でした。小次郎の母としての顔が非常に濃い相模。今回は玉三郎さんの独自の演じ方だと思う。嘆きぶりが激しく子を戦場に赴かせざるおえなかった悔しささえ滲ませる。ちょっと独特。直実@吉右衛門さんとの夫婦感は惚れあって的な情の濃さはまだちょっとなかったです。。久しぶりの大歌舞伎ですし吉右衛門さんとも久ぶりの共演でしたからまだ息が合うところまでいかない感じでした。

義経@仁左衛門さん、やはり円熟した芝居。品格のある華やかで少し憂いを帯びた存在感。仁左衛門さんの芝居の質感が少し変わったような感じを受けた。台詞のひとつひとつをどこか軽やかに謳いつつそこにある深い感情を表現するという域。仁左衛門さん、こけら落とし公演で『菅原伝授手習鑑』の通しで菅丞相を演じていただきたい。さよなら公演の時とは違った菅丞相になるような気がしてる。

弥陀六@歌六さん、すっとぼける姿にも鋭さが表にでる弥陀六。複雑な胸中を明晰に伝えてきて場の空気を密にしていきます。すっかり持ち役にされましたね。

藤の方@菊之助さん、頑張っていらっしゃっいましたがさすがにいかにも若いなと。

歌舞伎座『柿葺落四月大歌舞伎』 幕見席

2013年04月03日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落四月大歌舞伎』幕見席

4/3(水)に観劇。

五代目歌舞伎座が開場になりました。初日の賑わいがニュースになり観る予定の日まで我慢できずにふと思い立って新しい歌舞伎座の幕見にトライ。初日は朝早くから並んで凄い人出だったらしいですがさすがに2日目で平日悪天候となればそんなに早くからは並ばなくても大丈夫だろうとの目論見が当たる。だいたいチケット販売時間(今回は開演30分前)の1時間45分前に並んで整理番号50番以内でした。

幕見席は相変わらずカオス。懐かしいやら変わってない感になにやら不思議な気持ちも。幕見観客の独特の仲間意識も久しぶりに味わったし楽しかったです。4階席の1列目上手寄りと2列目下手寄りに座って鑑賞したのですがどちらも七三花道が見えました。座席の足幅は変わらず超狭いです。音響ですが前ほどスコンと綺麗には届いてきません。響くには響くけど籠るというか音に湿った膜が張っている感じ。特に声と鼓系が…。弦系は聞く限り大丈夫だった。

まだ開場して二日目ということもあるのか劇場全体が高揚感に包まれていました。熱気が独特で拍手も凄かったです。大向うもうるさいくらいに掛かっていました。こういう歌舞伎公演も久しぶり。

三演目のみの観劇でしたが拝見してベテラン役者さんたちの円熟さのなかに肉体的衰えが垣間見え、気の入り方が見事なだけに命を賭けて臨むとおっしゃっている言葉もよぎり少しばかり泣けてきてしまいました。でも花形世代が次の時代を背負うという気概をみせていますし実力も着実に着けてきていますし上手に世代交代が進んでいければと思いました。

第一部『壽祝歌舞伎華彩「鶴寿千歳」』『お祭り』
ただひたすらおめでたい気分とほんのり切ない気分が入り混じった気分で拝見。

『壽祝歌舞伎華彩「鶴寿千歳」』では團十郎さんのお姿が無いことに、そして『お祭り』では勘三郎さんのお姿が無いことにまだ信じがたい思いともう舞台で拝見することが叶わないんだという寂しさと。それでも華やかな舞台面にはやはりうきうきもし、歌舞伎の本拠地が戻ってきたんだな~という喜ばしい気分も湧いてきます。そして一番最初に舞台に登場してきた染五郎さんの姿にはしみじみ舞台に戻って来られて良かったと思い、勘三郎さんのお孫さんの七緒八くんの初お目見えには繋がっていくのだなと。

『壽祝歌舞伎華彩 鶴寿千歳』、筝曲の雅な舞踊。豊穣を祈る振りも入っていておめでたい気分にさせる。ゆったり品のよい舞踊の後はワクワクする庶民のイキな踊り『お祭り』。舞踊を二題続けるって…と思ったけど歌舞伎の幅の広さを感じさせてかつおめでたい気分にさせるので良かったのかも。


第二部『弁天娘女男白浪』
3年前のさよなら公演では弁天小僧菊之助@菊五郎さん、南郷力丸@吉右衛門さん、日本駄右衛門@幸四郎さん、忠信利平@左團次さん、赤星十三郎@梅玉さんという配役でかなり充実し楽しかったという記憶がまだ新鮮に残る演目です。

今回は弁天小僧菊之助@菊五郎さん、南郷力丸@左團次さん、日本駄右衛門@吉右衛門さん(團十郎丈の代役)、忠信利平@三津五郎さん、赤星十三郎@時蔵さんという布陣。鳶頭清次を幸四郎さん、青砥左衛門藤綱で梅玉さんが付き合うのでさよなら公演と同様の豪華さではありますが稲瀬川の勢揃いの特別感は三年前のほうがありましたねえ。とはいえ円熟味のある役者と菊五郎劇団ならではのアンサンブルがよく楽しく拝見。またさよなら公演では上演しなかった極楽寺の屋根の上の立ち回りと山門の華やかな場面をつけて歌舞伎ならではのスペクタクルな部分で目を楽しませてくれたのも楽しかったです。

弁天小僧菊之助@菊五郎さんは完全に手の内に入ったお役。年齢を得た部分だから見せられる独特の可愛い色気のある弁天小僧。立ち廻りはさすがにキレは無いものの一瞬一瞬の形の美しさは健在。

南郷力丸@左團次さんは飄々とした小悪党風情。菊五郎さんとの息の合い方に遊びがあってらしい造詣。

日本駄右衛門@吉右衛門さんはどっしりとした存在感で受ける。得体の知れない不気味な大きさがあるのが吉右衛門さんならでは。