Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 1等1階後方仮花道寄り

2016年09月27日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 1等1階後方仮花道寄り

『吉野川』
今日はそれぞれが上手く噛み合って密な芝居になっていた。久我之助@染五郎さん、雛鳥@菊之助さんの花形が濃くなっていたのは大きい。大判事@吉右衛門さんと定高@玉三郎さんも色は違うけどトーン合うようになってた。

背山側だったのも大きいかもしれないけど、大判事の親としての心持ち、久我之助の覚悟の有り様が迫ってきてグッときた。吉右衛門さんと染五郎さんの芝居がまた細かく丁寧に密に積み重ねていくのよ。ちょっとしたところの息の合いかたがなんとも言えない空気感。

定高、雛鳥は母娘として女の情を大切に表現。感情をストレートにたっぷり押し出し現代の感覚にも添える作り。玉三郎さんは全身を使ってエモーショナルに演じていく。菊之助さんは赤姫としての可愛いらしさが増して、そのなかでの激情を丁寧にまっすぐに。

大判事@吉右衛門さん、大人物ではない心の揺れ、親としての脆いまでの情を丁寧に積み上げて行って、弱さを隠さないからこその佇まいに役者としてのスケールの大きさがみえるものであったと思う。花渡しの段も観たかったです。

定高@玉三郎さん、まずは定高の感情を伝えきるという芝居だったように思う。娘のため、’女’としてどう決断していくか、その一点に集中していたように感じた。そこに悲哀と苦渋とを余すことなく表現していく。玉三郎さんの前では義太夫は単なる伴奏でしかなかったですね。これからの、の一つの回答。

久我之助@染五郎さんは義を通す覚悟のなかでの情の揺れを愁いのなか静かにみせていく。若者らしい真直ぐさ正義感と凛質さ。雛鳥を思いやり、父を思いやり、苦しみを耐える。相手を思うからこその情の部分が明確でストレートだった。久我之助もすごく若いんだよな~ってしみじみ。人物造形が通し狂言のなかでの久我之助をより意識したものにもなっていて、全体を特に意識しながらであったろう今回の吉右衛門さん大判事とのやりとりに深みが出てた。通しで観たくなってしまった。

雛鳥@菊之助さんは10日拝見した時に比べて、かなり赤姫が身体に馴染んで大層可愛らしくなっていて久我之助一途の健気さが増したな~と。台詞廻しもぐっと丸本物らしくなって息遣いのコントロールもよかった。最後はちょっと生ぽかったけど今回はありかな。やはり菊之助さんは楷書が似合う。

梅枝くんと萬太郎くんの腰元二人もかなり良かった。しっかり突っ込んで演じつつ、はみ出さない。姫想いないい腰元でした。巧い兄弟だわね

『らくだ』
アンサンブルが良くなってテンポよく。軽く楽しく下品にならず、いい塩梅だったかな。笑えないという感想も見たのですが全体的には観客の反応は良かったです。間や身体性の部分で笑わせた感。若いからよく動く。 話芸のほうはまだこれからかな。というより染五郎さん、松緑さんが喉やられていてせっかくの面白さが減じていた感。

久六@染五郎さん、とことん、とぼけた味わいでキュート。ちょっとした台詞や動きの間が巧い。らくだを背負わされた後の情けない声や動きもいいし後半の気が大きくなっていくのも自然。楽しそうに伸び伸び演じているようにみえて見ている側も楽しくなる。しかし声が掠れていてせっかく台詞廻しの間合いやテンポがよくなったのに聞かせきれてなくてそこが残念すぎた。

半次@松緑さん、せっかちな江戸っ子らしい佇まいが良し。強面な部分と情に真直ぐなところのバランスがよくなって、久六といい対照。台詞廻しの間はまだ要研究というところと、珍しく声が掠れてて声が前に出てないのがやはり残念でした。染五郎さんとともにどこか楽しそうで、気持ちよく観れたのが幸い。

久六@染五郎さんとらくだ@亀寿くんの大家宅玄関前でのわちゃわちゃ、引戸ごしだったけどちょいちょい見えて面白かった。 あそこは日替わりなのかしら?らくだ@亀寿くんのダラッと具合、上手だった。松緑さんからかなり雑に扱われいて(笑)アザだらけになってないか心配。

『元禄花見踊』
玉三郎さんが若手引き連れての図を愛でるの時間。玉三郎さんは一人だけオーラが違い別格。美しくて天女のようでした。

若手は前半に比べだいぶ動けるようになって、華やかさが増した。若手のなかでは児太郎くんが気になってそちらばかり見てしまう私である。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席真ん中センター

2016年09月10日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席真ん中センター

『吉野川』
役者の集中度の高い終始、緊迫感のある舞台だった。個々の覚悟の在り様やそれぞれの心持ちはわかりやすいと言っていいほどに細かく繊細に伝わってくるものだった。激しい情感のなかの「覚悟」の強さという部分で舞台に清冽さが生まれていた気がする。ただ、アンサンブルはまだこれぞというところまではいってない気がした。もっと密度を濃くできるんじゃないかなと思ったり。かなり久しぶりの上演だし、まだ前半だし。

大判事@吉右衛門さんの演じ方と定高@玉三郎さんの演じ方の違いが大きくまだ良い意味でのぶつかり合いがまだ生じ切れてないような。大判事としての存在感、定高としての存在感の拮抗が今月の舞台を大きくしていることには違いないので呼吸がもっと合ってくれば良くなっていくかなと思います。

それよりは若手のほうが頑張れなんだろうな。特に久我之助@染五郎と雛鳥@菊之助の恋人同士はもっと出来るだろうと。丁寧に演じてるし良いとこもあるんだけど全体でいうとまだ無難なところに治まってる感。特に前半。これぞという為所があまりない場だから難しいだろうけど。

大判事@吉右衛門さん、手の内に入ったからこその行書ではなく丁寧な楷書の芝居という感じがした。台詞も所作も丁寧に丁寧に積み重ねていく。そして今回の大判事は父としての顔、情のもろさが強調されていたと思う。義を立て意地を通す覚悟のなかの弱さを隠さない。以前ほど芝居が武張ってなくて弱さをストレートに出してる感じがしましたし、役としていい具合の老け具合と弱さがあったと思います。

幸四郎さんの大判事に非常にもよく似てた。役者の色も台詞の出し方もあれだけ違うのにとそう思った瞬間、そうか白鸚さんかと。役者として自分の色を確立させ、これぞという役者がそこにいるのだけど、そこには受け継がれてきたものが確実にあるのだな。幸四郎さんと吉右衛門さんはたまに役によって拵えが似てたり雰囲気が似ることがあっても台詞廻しがまず違うし、それだけでなく役の在り様がかなり違うことが多い。今回は拵えた顔は似てなかったけど、芝居の在り様が似てた。それを感じたのは初めてかもしれない。

定高@玉三郎さん、たぶん役者のなかで今のところ一番出来上がってる。覚悟ある凛々とした声、そのなかに女だてらに家を守りぬく悲壮な覚悟と母として娘の心を守ろうとする気持ちのひとつひとつがこもっている。気持ち本位とはこういうことかと思うようなストレート真っ向勝負。その表現の在り様が定高という人物像とうまくリンクしてる感じがある。表現としては義太夫味はなくてだいぶ現代に寄っている感じ。型から自由になっているわけではないのだけど、表現したいものを前に出し動くというか。いわゆる玉三郎さんらしい草書の芸。

久我之助@染五郎さんは凛質さ、若者らしい真直ぐな矜持、父へを想う情が伝わる台詞廻し、姿や所作の美しさなどほぼ悪いとこは無いのだけどもう一段上に行って欲しい。前半の憂いや雛菊への想いがまだ足りないと思う。あと喉を痛めて声が荒れてた。凛とした良い声があるのに。たぶん昼の部の碁盤忠信で荒らしてしまったのであろう。前よりはだいぶ荒らさなくはなってきたけど、役が続けば疲れが出る。色々やりたいのはわかるけど、どこかで抑えることも必要だしやるならもっと鍛えて。言われたくないだろうけど、声は大事だし荒らさないのがプロ。

雛鳥@菊之助さんは可愛らしく赤姫らしいたっぷりした所作も良いし情感のある台詞もよく通り良い出来ではあるけど前半、恋の前のめりさが少し足りない。後半も台詞の情感のもっていき方は巧いんだけど声の調子をコントロールしきれてない感があり、おぼこさがたまに減じるか。玉三郎さんに合わせようとしすぎかも。

若手ということで梅枝・萬太郎の腰元ペア、かなりしっかりやっているけど、もう少しウキウキとやってほしい。萬太郎くんの今回の拵えは玉様の好みだと思うので言っても可哀想なんだけど従来の三枚目の拵えのほうがいいと思うんだけどな~。

『眠駱駝物語「らくだ」』
岡鬼太郎脚色の通称『らくだ』。初代吉右衛門のやり方での上演です。落語とは違うところが多々あるようです。

舞台はまだ前半でこなれていない感じがあり、それなりに面白いの段階かな。余裕がまだ無いかなあと。台詞の応酬がいいテンポでいってない。ただそのなかで役者たちが良い意味で楽しそうに演じているという空気を感じさせてきているのは良かった。こういうのは楽しそうにが伝わらないと笑えないから。あと身体性の部分ではきちんと笑わせてきている。

久六@染五郎さん、前幕の久我之助から打って変わって小汚い屑売り。それだけでちょっと笑ってしまう。背を丸めてちょっと気弱だけどずるさも持ち合わせているキャラをうまく造詣。後半、酔っていくうちに酒乱になり横柄になっていく過程も巧み。ちょっとした動きや間で笑わせる。ただ台詞が特に前半、滔々と語る部分で染五郎さんの世話物の時にありがちな悪いクセというか台詞が走ってしまいしっかり聴かせられなかったのが残念。テンポ重視ではなくもう少し台詞を丁寧に発声してほしい。

半次@松緑さん、威勢のよさと鯔背な風情がいいです。一本気な情味がある造詣。人の良さが前に出るので前半、もう少し強面な感じのほうが後半活きるんじゃないかなと思う。台詞廻しはもう少し要研究かなあ。ちょっと一本調子ぎみ。

らくだ@亀寿さん、踊りが上手なだけあり、死体っぷりもお見事。大家玄関先での久六@染五郎さんとのワチャワチャが楽しい。

家主夫婦の 歌六さんと東蔵さんが世話物の空気をしっかりつくり締めていました。

おやす@米吉くんは、ぽんぽんと言いたいことだけを言ってというちょっと気の強そうな女の子が似合います。少しあだっぽい感じがあるかも。

『元禄花見踊』
綺麗な舞台をただめでる感じの舞台で楽しかった。

玉三郎さんが、しみじみ綺麗でした。自身を見せることに長けている役者さんです。サービス精神もいつもより旺盛だったような。

若手も華やかで良かったです。亀寿さんの踊りがクセがなくまっすぐな踊りというかとても良いですね。児太郎さんの身体の動きがお父様の福助さんにますます似てきて何か感慨が。今、ぐんと成長している気がします。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

2016年09月01日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

『碁盤忠信』
日生劇場で上演した時から演出がだいぶ変わり、一幕目はほぼ新たに作り替えた形。それゆえかまだ全然こなれてないし、まとまりがない。舞台転換含めまだまだこなれてない感。でも全体的にキュートな雰囲気なのは良いかな。役者は花形いっぱいで、楽しい。

日生の時より芝居としての流れをシンプルにして筋をある程度分かりやすくした感じ。両花道を使うけど、これは今月せっかくあるから使ったかな。前回よりは分かりやすくなっているので、きちんと作りあげて欲しいです。

まずは最初の幕がまったく違います。板付きから始まるだんまり。役者がわらわらと出てきて目は楽しいけど、全体的にまだ場を見せきるとこまでいかないかな。ここにしか出ない役者が多くもったいないくらい。二幕目以降は前回からの練り直し。ここからはかなり分かりやすくなってる。こなれていけば楽しくなりそう。最後の幕の立ち回りが華やか。こなれてきたらもっと見応えが出ると思うあと碁盤忠信はかなり面白い座組で、それも楽しい。

佐藤忠信@染五郎さんは大奮闘。荒事の様々な要素をこれでもかと入れ込んでの芝居。キュートさがあるのが良い。でもまだまだ色々足りない。声が荒れ気味だったのが残念。動きも力みがち。身体の線やキメの姿は非常に美しい。力まずにもう少し肩の力を抜いてやると荒事らしい稚気がでるのではないかな~と。もっと楽しんで。染五郎さんて総髪が似合う役者さんだと思ってるんだけど、忠信でもそうだった。最初のうさぎ耳の拵えも可愛くていいんだけど、立ち回り時の総髪がカッコイイ。

横川覚範@松緑さんは慣れたもので荒事の丸みがあってとても良い。化粧がちょっと面白かった。新しく考えた隈かな?青の部分、上からみえるとお髭にみえた。

染五郎さんと松緑さんの組合せは息の合い方が良いなあと思う。絵面と間がちょうどよいと言うか。節分時期設定なので秋の今見るのは少し違和感が少しあったな。

呉羽の内侍@菊之助さんが貫禄の存在感で酒売りの言い立てがキュート。やはり女方のほうが色気があるなあ。

最初に出てくる三郎吾@隼人くんはよい役もらっていて期待に応えるべく頑張ってます。右平太@歌昇くんと左源次@萬太郎くん悪コンビが可愛い。小車の霊@児太郎くんがしなやかに。存在感が出てきたな~。台詞がお父さんそっくり。小柴入道浄雲@歌六さんがコミカルな悪役で大活躍。珍しく台詞がいくつか詰まってた(^o^;)頑張って下さい!番場の忠太@亀蔵さんが入ってて新鮮。相変わらずふわっと可愛い。


『太刀盗人』
羽目物らしい品のいいコミカルさで楽しい。

九郎兵衛@又五郎さんが表情、間とも絶妙なバランスで本当に巧い。盗人にしては踊り巧すぎかもくらい(笑)

万兵衛@錦之助さんもほどよく、踊りも丁寧。目代丁字左衛門@彌十郎さんもおおらかにいい塩梅。従者藤内@種之助くんもきっちり。可愛い。

『一條大蔵譚』
鉄板の見応え。復活新作の『碁盤忠信』の後なので特に古典の洗練された強みがわかる。

大蔵卿@吉右衛門さんが圧巻。前回演じた時より阿呆と正気の区別をハッキリ見せるやり方。それでいて終始どちらも自然体というか、そうして生きてきた大蔵卿の哀切さが伝わってきたように思う。

常盤御前@魁春さんもとても良かった。華やかで位取りの取り方がさすが。周囲を圧する凛とした佇まい。内に秘めた激情が垣間見えるようだった。

鬼次郎@菊之助さんとお京@梅枝くん夫婦は芝居が丁寧でくっきり。それにしても梅枝くんの人妻系のお役の安定感たるや。菊之助さんの鬼次郎は熱血系だった。台詞がとてもわかりやすい。

鳴瀬@京妙さんが新鮮。丁寧な芝居のなか、やっぱり色気ある。

襲名おめでとうの八剣勘解由@新吉之丞さんは少し緊張気味だったかも。

茶亭与一@橘三郎さんが安定したうまさ。自然に馴染んでました。