Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

ミステリー小説講座『江戸川乱歩フォーラム2008』

2008年09月27日 | 講演会レポ
『江戸川乱歩フォーラム2008』

11月国立劇場の歌舞伎公演、乱歩歌舞伎『江戸宵闇妖鉤爪』に絡んだ内容なのでこちらにupしてみます。

ミステリー小説講座
~読売 江戸川乱歩フォーラム2008~

日時 2008年9月27日(土)13:30~15:30(13:00開場)
会場 立教大学 タッカーホール

13:30~14:00 イントロダクション 藤井淑禎氏
14:00~14:20 「歌舞伎と乱歩」
          市川染五郎×鈴木英一氏(早稲田大学講師)
14:20~15:30 ミステリー作家対談 有栖川有栖氏×北村薫氏

◎旧江戸川乱歩邸特別公開!12:30~13:30/15:30~17:00


○イントロダクション 藤井淑禎氏
まずはなぜ立教大学で「江戸川乱歩フォーラム」を開催することになったのか、というお話から。このフォーラムは今回で5回目だそうです。乱歩邸を資料すべてとともに大学に寄贈され管理しており、研究する使命を負ってとのこと。保存と公開のバランスが難しいとおっしゃっていました。


○「歌舞伎と乱歩」市川染五郎×鈴木英一氏(早稲田大学講師)
鈴木さんは演劇研究センター講師で常磐津の太夫さん。染五郎さんとは仲良しなんですよね。歌舞伎がらみの対談のときによく駆り出されています。

トークべたな染五郎さんは知り合いの鈴木さんと一緒のせいかいつもより頑張ってトークをしてました(笑)でもやっぱり緊張しいな感じだし、決して上手ではないかな…。

今回は11月国立での乱歩歌舞伎『江戸宵闇妖鉤爪』に絡んだトークです。そもそものキッカケは染五郎さんが新しい歌舞伎をどういう題材でやれば面白いかと色々、妄想していたのを鈴木さんと飲みながら話していた時の話題のひとつなんだそう。乱歩で歌舞伎ができないか、という話からじゃあどれを?ということで『人間豹』が候補にあがったとのこと。人間豹は映像化も舞台化も今までやってないものだと思うとのこと。

「15年前のこと。高校時代から新作歌舞伎のことは色々考えてきたので今回これを実現できるのは大変嬉しい。」

「乱歩作品は歌舞伎とは違う色彩ではあるけど色彩美が豊かだし、音楽性もある。その部分で歌舞伎に置き換えられると思った。また登場人物も個性豊かだし、実はだれそれ、という展開も歌舞伎によくある展開なので。今回『人間豹』を『江戸宵闇妖鉤爪』として歌舞伎にする時には江戸末期に、レビューシーンを劇中劇に、気球で去るシーンは大凧の宙乗りにと、置き換えてできますしうまく歌舞伎にハマると思います。実は大凧は大凧じゃなかったり…あっ、言っちゃだめ?観てのお楽しみ。」

「恩田(人間豹)を演じさせていただくのですが、恩田は沢山人を殺していきますがその背景や動機がいっさい書かれてない。その得たいの知れなさ不気味さを歌舞伎でいうところの「悪の華」として演じたい。また江戸末期という時代のあれこれに通じていくという部分も今回の歌舞伎にはあります。まあそこは観てください。」

「演出は今までの歌舞伎の手法でないものも使います。父が色々考えてます。音楽は新内を使います。新内節は色気があるので乱歩にぴったりかと思って。」

(染五郎さんは新作の歌舞伎の時には音にすごく拘りますよね。パルコ歌舞伎ではテーマソングを作り、劇中音楽はすべて新作。染模様では講談を使い、竜馬では尺八。邦楽という枠のなかで冒険をしています。音でここまで色々やっているのは染ちゃんくらいでは?)

「脚本は昨日、あがってきました。新作なので準備期間は長めにとってあります。十分な準備ができると思うので頑張って完成度の高いものをお見せしたい。実は10月は父の勧進帳1000回に向けての大事な巡業があるんですが、父(幸四郎さん)と会うとこの話は全然出なくて乱歩歌舞伎のことばかりなんです(笑)」

これが国立で実現するなんてすごい、と鈴木さん。「だって、日生とかじゃなく、劇団☆新感線とかでもなく、国立の歌舞伎公演でですよ~。乱歩の世界ってエログロだったりするでしょ、それを国立が許可するなんて」と、何度も言ってました(笑)その流れで「幸四郎さんの明智が見られるなんて!演出は幸四郎さんなんですよね」「あっ、だから国立が?」なんて感じでおっしゃるものだから、染五郎さんが「企画は僕ですから!!、そこのとこよろしく!」って強調してました(笑)

鈴木さんも脚本を読んだそうです。「面白いです。事前に情報を仕入れないで観てください。筋書き買っても読まないで観てね。」とのこと。


○ミステリー作家対談 有栖川有栖氏×北村薫氏
これがすんごい楽しかった。とにかく有栖川さんと北村薫さんのお二人が面白すぎ。このお二人、乱歩がかなりお好きなんですね。乱歩の話だけで1時間10分突っ走りました。すご~い。

それにしても北村薫さんてあんなキャラだったんですね。もうしゃべりまくり、仕切りまくり(笑)有栖川有栖さんがトーク上手なのは知っていたのですがそれを上回る。有栖川さん、だいぶ北村さんに押されっぱなしでした。それでもやっぱ突っ込み体質な有栖川さんだけあって、それでもあちこちで突っ込みしまくりでイチイチ楽しかった。

面白すぎてトーク内容を再現できないっ。

お二人の乱歩体験の話とかどの作品が好きだとか、乱歩はどういう人だったのか?とかそこらへんのお話を。

北村さんが乱歩の肉声をテープで聞かせてくださいました。なんとべらんめいな江戸っ子って感じのしゃべり方でした。イメージと違う…。有栖川さんもそう思われたらしく「ぼそぼそっと後ろ向きな雰囲気で話される、というイメージが…」とおっしゃていました。

乱歩は歌舞伎好きで仲間と観劇会を定期的に開いていたそうです。。文士劇で河内山に扮したことがあるとか。(風貌と声からするとピッタリだったかもしれません)

乱歩の二面性は頭髪にあり、との分析は山田風太郎氏が書いているそうで…(^^;)。

「乱歩は自分大好きな人ですから」とは有栖川さん。自分に関する資料、すべて保管していたらしいです。おかげで研究資料には事欠かないとか。

北村さんは小学校時代から乱歩を読んでいる。中学のときに女性が裸の表紙の本が出て、買うの恥ずかしくて隣町まで買いに行ったらしいです(笑)

有栖川さんは『人間豹』を来る直前に再読してきたそうでこの話をしたくてうずうずしてました。ネタばれしていいでしょ?と色んなツッコミ話を。染ちゃんが恩田を「悪の華」と評したのがいたく気に入ったらしく、「染五郎さんのおっしゃったことに感銘しました。「悪の華」いい言葉ですね、そうですよ、まさしくそういう話。歌舞伎、楽しみですよ~、これは!」「人間豹は悪の権化だけど、快楽殺人犯ではなく気持ちがまったくわからない人物ではない。そこがいい。」

「人間豹」と「黄金豹」の違いとか。もう、これ、有栖川さんと北村さんの解説が可笑しすぎるんですが…。本物の豹と着ぐるみ豹。電話のとんでもない?やりとり。着ぐるみ大好きな怪人二十面相?等々。ここら辺から乱歩作品の突っ込み解説が。乱歩作品を色々と読みたくてしょうがなくなりました。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 1等1階センター上手寄り

2008年09月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階センター上手寄り

今月の歌舞伎座昼の部はなんだかとっても楽しい。

『竜馬がゆく 風雲篇』
今回はラストでじわ~っと涙が出てきちゃいました…。だってあそこで生き延びられた竜馬だけど、「生きとるっちゅうことは、ありがたいのう。生きとるちゅうことは、楽しいのう」と生きてることの嬉しさを語るだけに結局は道半ばで殺されちゃうんだよなってつい思ってしまって…。完結篇になるであろう第三部は絶対観たいけど暗殺シーンのこと考えるとなんだか切ない。

『竜馬がゆく』は幕見をしたので3回目ですがやはり後半にくると芝居の纏まりやメリハリが良くなりますね。特に海軍塾でのやりとりがすごく良くなっていたように思います。

竜馬@染五郎さんは飄々としているし熱いけど、やっぱりどこか孤独感を漂わせてるように見える。自身の考えを簡単に飛翔させることのできる柔軟で軽やかな心が彼の魅力だ。新しい世界を作る情熱を持ち、その時代に「日本人」という確固たるアイディンティティを勝ち得ようとする信念の人。だけどその信念をどう伝えればわかってもらえるのか いつも歯噛みしているようなところがある。あまりの激動の時代、価値観がまだ揺らぎきっていない血気に逸る仲間たちへ、これからの未来を作っていくうえでの価値観をただ自身で体現するしかない竜馬。それでも相手の懐に飛び込んでいき、なんとかしようと必死になる姿が印象的だ。少しづつ少しづつ、先へ向かっていく。染五郎さんはその竜馬にスコンと入り込んでいる。軽やかな情熱、そんなものが立ち上ってくる。また台詞も聞かせたいところをたっぷり言うようになって、より心情をストレートに伝えてきたなと思う。

中岡慎太郎@松緑さんがとても良くなっていた。一本気で熱い性格のなかに芯が通ったという感じ。また竜馬との信頼関係の部分で認め合って、お互いを必要としている、という部分がきちんとみえてきた。竜馬と中岡はこういう仲じゃないとね。お髭は薄めに書いていたけど中日頃の髭の形と微妙に違う…日替わり?

西郷吉之助@錦之助さんも大きさがかなり出てきていて、懐の深さが垣間見ることができた。外観、銅像に似せなくてもいいのになあ。

おりょう@亀治郎さん、変わり者具合が少々強くなってきてる気はするけど、やはり可愛くていい。こういうパキッとした現代風の女を演じられるのは亀ちゃんくらいなものだろう。芝居のメリハリがの部分が本当に上手い。

今回の『竜馬がゆく』、いちおう司馬遼太郎原作だけど、キャラクター造詣は竜馬に限らずそれぞれだいぶ違う。役者のニンの部分もあるけどあえて変えてる気がする。きちんと通しでみてみたいなあ。ぜひ最終章まで造りこんで、いつか一気に見せてください。まずは第三部も上演できますように!

そうそう、昨年の『竜馬がゆく立志編』で流れた時はシンセサイザー加工した録音音源を流していたのだけど、今回は生演奏だった主題曲、き乃はちさんの『宙へ』がいたく気に入ってしまいました。生演奏の力って大きいですよね。絶妙なタイミングで入るし、歌舞伎座の舞台にはやはり生音がしっくりきます。


『ひらかな盛衰記』「逆櫓」
この芝居をここまで面白くみせたのってすごいと思う。主役の吉衛門さんがいいというだけでなく脇の揃いぶりも見事だと思う。


樋口@吉右衛門さんがまずほんとに今ノッていて、しかもニンに合っているのが一番。世話と時代の切り替えも上手いし、なによりやはり台詞がいい。きっぱりした部分の大きさと情味のバランスが良い。

個人的に殊勲賞は源四郎@歌六さん。源四郎の心情を余すことなく伝えて本当に見事。 この源四郎がいて樋口@吉右衛門さんが際立った。

お筆@芝雀さんの造詣も見事だった。初日はちょっと物足りなかったのだけど、今回、お筆の立場での苦渋がしっかり伝わってきた。ノリ地の台詞がこのところ際立って良くなっていると思う。また全体の動きや姿もかなり綺麗になってきた。

およし@東蔵さん、出はちょっと老けてみえるのだけど演じていくうちにどんどん若い雰囲気になってくる。 漁師の女房のくだけ加減とか母としての立場とかとても明快。東蔵さんはなんでもこなす役者さんだけど女形さんのときのほうが好きだなあ。

漁師仲間の歌昇さん、錦之助さん、染五郎さんの三人組はやっぱり贅沢。でもおかげで場面の意味が明快になったのだからこのやりかたのほうが良いと思う。

でも染ちゃんは今回完璧に素だった…。初日はしっかり船頭さんだったと思うんだけど…。もう、おじさんの樋口をしっかり覚える気満々というか、樋口の動きをマネしそうになってない?台詞言いそうになってない?という場面多々。こらこら(^^;)


『日本振袖始』
楽しい、とにかく楽しい。よくぞここまで徹底して派手派手にしてくれました、玉三郎さん。

岩長姫&八岐大蛇@玉三郎さんは人外の役がほんとに似合う。酔っていくうちにどんどん怪しい雰囲気を纏っていく。そのなかにちょっとばかり男子な部分を見せてくれちゃうのも楽しいし。男と女の狭間の中性的な雰囲気がとても素敵だ。実は酔いの振り付けの部分はちょっと好みじゃないとこもあるんだけど、でもまあいいや。玉さまも楽しそうだし。後半の隈取した姿はほんとなんだか蛇みたい。口が顔の半分まで本当に裂けているかのよう。そのギャップも見事。

素盞鳴尊@染五郎さんはも綺麗だしかっこいい。染五郎さんの踊ってる姿はほんとひとつひとつの形が良くて、惚れ惚れしまう。初日にくらべ大きさもだいぶ出ていました。

八岐大蛇の尻尾軍団の立ち回りが非常にきれいに纏まっていて見応えありました。群舞って感じですね。

DVD『NHKスペシャル 人間国宝ふたり 吉田玉男・竹本住大夫』

2008年09月21日 | 文楽
DVD『NHKスペシャル 人間国宝ふたり 吉田玉男・竹本住大夫』

ドキュメント「NHKスペシャル 人間国宝ふたり ~文楽・終わりなき芸の道~」と、大阪・国立文楽劇場で収録された公演「文楽 心中天網島 北新地河庄の段」の2部構成。


「NHKスペシャル 人間国宝ふたり ~文楽・終わりなき芸の道~」

なんだか、もうただただ圧倒させられるばかり。終わりなき芸の道と副題が付けられているけどまさしくそういう世界にいる人たちの凄みというか厳しい世界のほんの一端をみせてもらったという感じです。文楽は完全なる実力主義の世界。そのなかで芸を極めることを目指す人々にただもう感嘆するばかり。そして観ているうちになんだか涙がこぼれてしまう。すでに亡くなった方々が何人かいて、その姿を拝見するからという感傷ではなく(私には残念ながらその資格がない)、まだこういう世界が生きているんだという重さやそういうなかにいて極めようとする人々の真摯な姿をみて、なんだか生きていくということの凄さというか、そんなものに感じ入った。

淡々と飄々としていながら芯の部分でかなり熱いものを持っているを感じさせる玉男さん(当時82歳、2006年に没)。「年齢を得て枯れることで生まれる芸がある」という。舞台に立ち続けたいという情熱をさらりと言ってのけるところの凄み。映像でみてでさえ、玉男さんが遣う人形にはオーラがある。遣う玉男さんには表情はない、玉男さんの感情すべてが人形に乗り移っているかのようだ。まずどこを切り取って隙のない姿の美しさがあり、そこに繊細で緻密な表情がある、それが一体となって人形に情感、風情が現れて大きなオーラとなって纏う。玉男さんの人形、もっと見たかったなあ。

反対に住大夫さんは感情豊かで熱い人。情熱をどんどん人にぶつけていく、怖いくらいに。弟子への稽古の激しさはすごい。大夫になって21年の中堅大夫に罵詈雑言ですよ。でも、素人が見ていても明らかにレベルが違うのでもうしょうがないという感じ。その中堅大夫もピンで聞いたら上手いとしか思えない語り。でもまだまだその上があるんだ、ということがわかる。その上を目指すための稽古。そして、その厳しい稽古を付ける住大夫さんのすごいところは今の地位を得ても先輩太夫に稽古を付けてもらうってところですよ。自身の研鑽あってこそのあの稽古なんだとわかります。これじゃ後輩も食らい付いていくしか道はないでしょうねえ。

そしてその住大夫さんに稽古をつける四世竹本越路大夫さん(人間国宝)がこれまた凄いんですよ。住大夫さんにがんがんダメ出しを出すんだけどもうこれがもう、声といい語りといい現役を退いた後ですらここまで語れるのか、という…。文楽の一時代を築いたといわれる大夫さんというのが納得。しかもこの大夫さんにして「修行するにはもう一生涯欲しい」というこの世界、どんだけ深いんだと思う。

こういう世界で成り立っている文楽という伝統芸能を絶やしてほしくない、とも痛烈に思った。時代に沿っていくことも必要、と玉男さんは言う。変化していく、ことが宿命なら受け入れなければいけないこともあるのだろう。ただ、そこに信念がないといけないと思う。漫然としていてはただ滅びるだけだ。歌舞伎の世界もそれは同じだろうね。


「文楽 心中天網島 北新地河庄の段」

舞台映像なので生の臨場感には到底及ばないと思うものの、凄かった。ビックリした。私、歌舞伎でこの演目を観ている。歌舞伎もほぼ本行と同じ演出。なんだけどまったく受ける印象が違う。ここまで違うなんて思ってもみなかった。同じ芝居なのに受ける印象が180度違うんだけど…。こんなに切ない話だったの…。紙屋治兵衛のキャラがとにかく違う。もう、なんだろバカな男だけどすんごい切ない。なんで?なんで?うそおお。玉男さんが操る治兵衛って実は想像つかなかった。でもこれならわかる。そうか、そうかあ。こういう造詣なんだ。

そして孫右衛門の内心の苦渋も、もっと深い。人と人との絆の深さがそこのある。最盛期の文吾さんがどれだけのものだったのかもようやくわかった。私は最晩年の力が落ちてしまったしまったものしか見て無いから…。

住大夫さんの語りもほんと情感があって切なさに胸が抉られそう。こういう話だったの、というか私この舞台の心中天網島のほうが好きだ。これ観れてよかった、ほんと良かった。

国立小劇場『九月文楽公演 第二部』 1等席センター

2008年09月20日 | 文楽
国立小劇場『九月文楽公演 第二部『奥州安達原』』1等席センター

今月は五世豊松清十郎襲名披露の月。一部のほうで襲名口上と襲名披露公演があったのだけど、文楽初級者してはまずはなるべく通し狂言演目のほうを選ぶべしと二部の『奥州安達原』を選択しました。文楽の醍醐味はやはり「物語」を聴き、観ることだと思うのです。まずはそこを押さえておこうかなと。

『奥州安達原』
歌舞伎では「袖萩祭文」の場、文楽でいうと「環の宮明御殿の段」のみが上演され、他の段、場はほとんど掛かりません。私はこの段以外、観たことがなく、なおさら今回はとっても楽しみにしておりました。今回の上演は三段目、四段目の半通し。期待通り、とっても面白かったです!とにかく話の筋が面白い。これでもか、これでもかのどんでん返し。

もうね、物語好きとかミステリ好きは一度文楽の時代物を観たほうがいいよ。特に戯作者、近松半二が絡んでるのを!話の転がせ方が上手いし面白いです。現在だったら絶対ミステリ作家になってたと思う、この方(笑)

それと今月、演者の方々がすごい熱演でした。襲名披露の第一部に有名どころというか円熟された演者が固まっているので二部は中堅中心で少々薄手かと思いますがその分を気迫で乗り切ろうという感じでしたでしょうか。いわゆる濃い空気感のある舞台ではなかったですが全体的にぐわ~っと押して押しまくって勢いで見せてきたという印象を持ちました。感情の濃さとか揺れの部分でもうひとつ欲しいという部分はいくつかありましたけど、空気が緩んでしまうシーンはなく、ほとんど気持ちを逸らすことなく観ることができました。

「環の宮明御殿の段」は歌舞伎と比べつつなところがありました。やはり歌舞伎は役者本位だなあと。本筋の部分よりその場、その場のキャラクターの感情がクローズアップされる。文楽だと物語本位で話の根底の部分をじわじわと見せて行く。歌舞伎だと親子対面ならじの悲劇のほうに気を取られててしまうのだけど文楽だと根底にある政治的な思惑の部分がまずあってこその悲劇として際立つ。受ける印象がだいぶ違う。

そしていつか観てみたいなと思っていた「一つ家の段」、凄かった…スプラッタだよ、これ。この段、凄まじいよ。ホラー映画も真っ青だよ。怖いよ、悲惨だよ、すんごい話だよ。うひゃ~、なんだこれ。なんかあまりに凄まじいお話で眩暈がしてきそうでした。鬼より怖いものって人間だよ。すごいなあ、すごいなあ。この段、かなり気に入ったかも…ひどい話なんだけど面白い。しかし、この段、歌舞伎で観てみたい。もちろん大顔合わせで。

にしても、この時代の物語はいつも女はただの道具扱いですが、それにしても『奥州安達原』の話は相当ひどいです。許せん!なんだけど物語としては面白いんですよねえ。それに腹が立つわ、ムキ~(笑)

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 1等1階センター

2008年09月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 1等1階センター

『近江源氏先陣館』「盛綱陣屋」
がっちり重厚な時代物の芝居でした。どんな芝居でもそうですが同じ演目でもやはり演じる人によって雰囲気が変わりますね。前半に観た人によるとアンサンブルがいまひとつだったらしいのですが、中日になってそのアンサンブルの部分、だいぶこなれていました。

時代物は竹本も重要ですが私は綾太夫が大好きで、今回も一番語り口が好みでした。なんか綾太夫が語ると泣けちゃうことが多い。

さて役者さんたちですが『盛綱陣屋』はいつもだと女形さんに引き込まれることが多いのですが今回は芯である盛綱@吉右衛門さんに引き込まれました。吉右衛門さん、時代物に関してはこのところかなり充実していますね。余計なものを削ぎ落としつつある感じ。ひとつひとつの動き、そして台詞にすべて意味があるのだということがストレートにシンプルに伝わってくる。それでいて人物像に膨らみと大きさがある。この兼ね合いのバランスが非常に良く、だから説得力がある。首実検の場での盛綱の心の動きが手に取るようにわかるのだけど、その判りやすさで盛綱の武将としての品位が減ずることなく、人としての大きさが際立ってみえる。吉右衛門さん、秀山祭を手掛けるようになって自分の方向性がしっかり見えてきたんじゃないかなあ。今年になってまた以前以上に一気に役者として充実してきたと思う。

和田兵衛秀盛@左團次さん、すごく良かったです。一癖あるお役なのですがその人物に大きさと重みを与えていました。重厚さのなかに飄としたものを感じさせる。個人的に左團次さん久々の大ヒットです。

微妙@芝翫さん、衣装がとてもお似合いで存在感があります。今回、以前よりかなり祖母としての立場を強調していたように感じました。武家の女としての苦渋という方向ではなくあくまでも祖母としての情が強調されていました。なので小四郎とのやりとりでの切なさが際立った微妙でした。

篝火@福助さん、艶やかで綺麗です。丁寧にきっちりと押さえた芝居。控えている時の姿にも子を心配する母親の気持ちがしっかり伝わるものでした。武家の奥方にしては色気ありすぎ、と思わなくもないですが、そういうオーラの持ち主なのでそこはしょうがないですね。

早瀬@玉三郎さん、品がありとても綺麗です。きりっと意思の強い女性、という雰囲気。時代物の玉さまは久しぶり。しかもノリ地の台詞回しを聴かせてくれたのってかなり久しぶりな気がします。なんだかうれしい。篝火@福助さんとのコンビネーションもよく、うまく押さえて芝居をしていた感じです。玉さまって時代物は強い女のほうが似合います。政岡とか戸無瀬とか、またそろそろ演じてほしい。それと秀山祭だけじゃなくもう少し吉右衛門さんと時代物で共演してくれるといいなあ。

信楽太郎@松緑くん、勢いがあってなかなか良かったです。腰もきちんと落としてましたし、華やかさもありました。化粧はもう少し研究していただけると。相変わらず面白顔(^^;)

伊吹藤太@歌昇さん、上手い、上手すぎ。元々、踊りは上手い方ですがまた一段と良くなっていたような気がする。

時政@歌六さん、出はそれほどでもないと思ったのですが盛綱とのやりとりが始まるといきなり大きくなりました。この方は台詞がやはり良いのですよね。低音の響く声も良いのでしょう、ちょっとした不気味さもあり舞台を締めてくださいました。

さて、この芝居に大事な子役ですが小四郎@宜生くん、頑張っていました。よくあれだけの台詞をきちんと言えました。最初は幼すぎるかな?と思ったんです。なので親と謀をした、という雰囲気ではなく、幼い知恵を絞って思わずやってしまった、という感じになってしまうんですが、子としての健気げさがすごくあってこれはこれで良いかもしれません。

小三郎@玉太郎くんも頑張っていました。花道での引っ込みで客を沸かせていました。


『鳥羽絵』
ほのぼのとした舞踊でした。富十郎さんが元気に踊られているというだけで満足してしまいました。体全体のキレや線の美しさはもう残念ながら拝見できないのかな、という感慨を覚えてはしまったのですが、手や体の置き方から出てくる表情の豊かさはやはり見事というしかありません。

今月夜は子役が頑張ってますね。鷹之資くん、神妙にしっかりと踊っていました。お父さんの姿を一生懸命見ている真剣な目にも感心。少しづつ成長しているんですね。


『天衣紛上野初花 河内山』
『天衣紛上野初花』は3年前の国立の通し狂言で観て、かなり楽しくって(この時の感想)、これが自分のなかでデフォになってしまい『河内山』単独だと少々物足りない。アウトローなヒーロー像は通し狂言でのほうがわかる。またあの座組みで通しで観たい~~、とつい思ってしまいました。

河内山@吉右衛門さんは従来のみどりでかけた時のたっぷりとした大きさのある河内山でした。楽しそうに演じてらしてその部分が、河内山の悪さを楽しんでいる、というところに繋がっていました。緩急のある七五調の台詞が気持ちいいです。大胆不敵などちらかというとカッコよさのある河内山。いわゆる今までの歌舞伎のイメージ通りのキャラクターだったかも。個人的にはもう少し茶目っ気がほしいなあとは思ったり。

松江出雲守@染五郎さん、私が拝見したなかで一番若い松江候です。しかも吉右衛門さん相手にどーなるだろうと心配しておりました。が、思った以上に存在感があり、河内山@吉右衛門さんとの丁々発止もしっかり見せてかなり頑張っていたと思います。。どちらかというとすけべじじいなイメージで演じられてきた松江候ですがさすがに若いだけにその雰囲気はなく、神経質で我侭な癇癪持ちのお殿様という感じ。でもその方向での演じ方もありかな、なんて思いました。底の底のほうで悔しさや怒りを溜めている感じで、ラスト、いずれこのままじゃ済まさせないぞな雰囲気が(笑)それにしても悪人メイクはしているもののかっこよすぎるし、河内山相手に我慢している姿も品がよく、河内山にやり込められてざまーみろな感じにならないのがまだまだかも。私が浪路だったら速攻、側室になりますわ。

北村大膳@由次郎さん、亡羊とした雰囲気をもつ由次郎さんにこの役出来るのかしら?と心配していた配役でしたが、化粧を強く作って頑張っていらっしゃいました。憎々しいまではいかないのですが所詮、小悪党な風情があって面白かったです。

上州屋おまき@吉之丞さん、出てくるだけでなんだか場が締まるというか、おっ、何かが起きるって思わせるんですよね。貴重な役者さんです。

高木小左衛門@左團次さん、我侭殿様に仕えてちょっと苦労人の家老ながらそれをうまく乗り越えているタイプとしての高木小左衛門でした。今月、左團次さんかなり良いですねえ。

宮崎数馬@錦之助さん、正義感のあるまっすぐな若者をストレートに演じていました。浪路との距離感がしっかりあってよかったです。浪路が芝雀さんなので、ヘタすると密通の疑いが本物ぽくみえるかも?なんて思ったんですが、そこは堅物さを出して、とても錦之助さんらしい数馬でした。

浪路@芝雀さん、判ってはいたけど、これだけ?ほんとにこれだけ?な出番。しかもずーっと下向いてるし…。せっかくの可愛いお顔がっ。でも若々しくて華やぎがあって良かったと思います。これ以上のコメントが出来ないお役です。しどころなしなお役ですからね、夜の部がこれだけとはちょっともったいないような…。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎』『竜馬がゆく』一幕見

2008年09月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎』『竜馬がゆく 風雲篇』一幕見

『竜馬がゆく 風雲篇』
初日に比べてやはりだいぶ芝居がこなれてきていました。特に脇の人たちの芝居が細かくなっていた。それにしてもやはりこの芝居やっぱり面白い。歴史物の体裁だけどどちらかというと青春物としてのほうが強く出てるのと、一貫して「命を無駄にするな」という主張があるから観やすいんだよね。

そういえば尺八の主題曲も今回はとてもよく馴染んでる。前回の『立志編』では録音だったけど、今回は尺八が生音。わざわざ尺八奏者に来てもらっているんだろう。前回より歌舞伎座に芝居が馴染んでるのは音の使い方にあるかも。

竜馬@染五郎さんはやっぱ良い、というかかなりこのキャラ好きです。とても染五郎さんらしい真っ直ぐさとか可愛らしさとか、そして切なさとかがある。今日は初日にはなかったどこかしら孤独な雰囲気と底にある怖さが時々見えた。能天気さを装ってるけど実はそれだけじゃない一筋縄ではいかない竜馬だった。

おりょう@亀治郎さんはますますはじけてた。気が強いけど可愛い。『決闘!高田馬場』のホリちゃんに似てるけど、でも違う。おりょうはもっと視野が広くて、それでいて純粋。亀治郎さんて染五郎さん相手だとかなりまっすぐに懐に飛び込んで芝居をしている感じがする。なんだろ、亀ちゃん独特の強いアクを染ちゃんがうまく中和させてるような気がする。

中岡慎太郎@松緑さん、髭が薄くなっていました~。こっちのほうが断然良いよ~。それと、「坂本さん!」がすご~く緊密になっていた。お互いとっても信頼しあっているんだなっていう部分がしっかり。やっぱ竜馬と中岡の仲にはこれがないと。今回はおりょうに竜馬を取られちゃったけどね(笑)

西郷吉之助@錦之助さん、おおっ、前回より存在感が出てましたよ。あと頬の含み綿はやめた模様。少し男前度up。これでいいと思いま~す。だってちゃんと西郷はんになってるもん。

お登勢@吉弥さん、気風のいい女将ぶりが素敵。色気があっていいですねえ。

三吉慎蔵@松次郎さん、味のある存在。上手いです。

そういえば初日、演出だと思っていた所が初日だけのハプニングだったらしいことを発見。竜馬がおりょうの妹におにぎりをあげて、それからもう一つをおりょうにあげるとこ。初日、そのおりょうにあげるはずのおにぎりを染五郎さん、落っことしちゃったのよ。んで、そのおにぎりを拾って土を払う仕草をしながら「このくらい平気、平気、食べられるから」「はい」と言っておりょう@亀治郎さんに渡した。それからそのまま、おりょう→中岡→妹は同じ芝居。初日のほうが泥おにぎりを押し付けあってるみたいで笑えてよかったんだけどな(笑)落としたおにぎりをそのまま渡しちゃうのっていかにも竜馬ぽいし。

新橋演舞場『新秋九月大歌舞伎 夜の部』 3B左袖席

2008年09月06日 | 歌舞伎
新橋演舞場『新秋九月大歌舞伎 夜の部』 3B左袖席

今回初めて左袖の席に座りました。この席ひどすぎですね…上手の三分一が見切れる。花道はモニターに写してくれるのでそこは良かったんですが。なのでストレスがかかった状態での観劇。それでも時蔵さんの尾上と亀治郎さんのお初を目当てで行ったかいは十分にありました。

『加賀見山旧錦絵』
尾上@時蔵さんがとにかく良かったです。まずきちんと中老としての気概があるのがいい。それでいて、商人の家の出であることをコンプレックスに思っていて強く出られない弱さも感じられ、尾上の複雑な感情の揺れを丁寧に描いていました。だから尾上の気持ちの流れが納得できる。死を決意するにもただ気持ちに押しつぶされているだけでない。死をもって訴える、というギリギリの強い意志があって、時蔵さんの尾上はそこがとても魅力だ。本当に良かったなあ~。この尾上像、かなり好きです。時蔵さんの当り役になるのではないかと思う。今度、ぜひ大顔合わせで歌舞伎座でやってください。

お初@亀治郎さん、利発なお初にぴったりです。このお初は自分の主人の尾上が大好きで大好きで、という可愛らしさがある。つい主人のためにしゃしゃり出てしまう、そんな短絡な純朴さがあってとても良かった。その健気さがしっかり出てて、また出っぱなしになりがちな亀治郎さんですが、今回は押さえる所と出る所のメリハリも利いていて良い出来。声もしっかり出てました。どことなく雰囲気が時々、京屋ぽい感じを受けました。

この二人はしっかり大歌舞伎になっていました。尾上とお初の関係が密にあってこの二人の場が一番良かったです。これで岩藤が幹部役者だったらなあ…。相当いい芝居になってたと思うのだけど…。なんだか、時蔵さん、あそこでやらせるのがもったいない感じがしてしまいました。

岩藤@海老蔵さんは姿は綺麗だし、いつもより神妙にやってるとは思う。でも全体的にメリハリがない。時蔵さん相手だと完全に格負けだし、台詞回しがやっぱりいつものごとく時代ものになってなくて…ダメダメ。なんでああなるんだろう?台詞がよくないから岩藤というキャラクターがきちんと浮かび上がってこないんだよね…上っ面を撫でているような感じで薄い。動きは顔の表情含めて濃いんだけど。でもそのせいで笑ってる客が多かった。ちょっと目を剥いて大仰な芝居になったり、台詞が男声になるとすぐに反応して笑う。モチロン、笑っていい場面もある、だけどそうじゃない場もいくつもあった…。尾上が自害しているところに追い討ちをあっける場は笑うとこじゃないよね?これは客も悪いかな?それにしても弾正とのやりとりもなんか兄妹というとやりとりになってないし。もう少し相手を受ける芝居もして欲しい。

剣沢弾正@團蔵さんは目のきつさが利いていていかにも悪人な感じでよかったです。

庵崎求女@松也さんが爽やかに演じていてしっかりとした存在感もあっていい。

奴伊達平@巳之助さん、納涼の舞踊の時は腰が入ってないなと思ったのですが今回の立ち回りはなかなか綺麗に決めてきて良かったです。

『色彩間苅豆 -かさね-』
はっきり言って退屈だった。ロンドン公演や金丸座で評判良かったですよね?これ?う~ん、期待しすぎたかな?期待した濃密な空気がまったく感じられず…。亀治郎さんと海老蔵さんのバランスが悪すぎた感じがしました。それぞれはきちんとやっている。でも二人の世界になってなくて個々勝手にやってますな感じ。そうなると面白くない。

かさね@亀治郎さん、やはり舞踊となると一際、上手い。なぜか時々、歌右衛門さんの面影が浮かんできました。特に面相が変わってしまった後が。体の動かし方とか、時々「あれ?」って思わせた。これ凄いことかもしれない。化粧も似ていた気がする…。でも、でもなんだか自分の世界に没頭しすぎな感じが…。与右衛門ラブな雰囲気があんまりない…というか無い?なぜにして??

与右衛門@海老蔵さんは台詞に難ありだけど、黙ってれば綺麗だし、あまり動かない役だしキメのとこはしっかりやってるし柄にも合ってる。自分勝手な男という雰囲気がしっかりあるし悪くはないとは思う。でもやっぱりそれだけ。場面場面の情景描写が甘いというか…う~ん…なにかが足りない。

DVD『夏ホテル』

2008年09月05日 | 演劇
DVD『夏ホテル』(2001年公演)

2001年にパルコ劇場で公演されたシアターナインス5周年記念公演『夏ホテル』を観ました。ドイツの避暑地、バーテンワイラーのホテルでの2日間の物語。岩松了さんの芝居って淡々としていてどこか緊張感を強いられますね。台詞のひとつひとつを聞き流せない。すべてが意味ありげ。シニカルでどこか切ない人間模様。岩松さんのチェーホフリスペクトな芝居でもあるのかも。

シアターナインス10周年記念公演『シェイクスピアソナタ』でもその場にいない人物がリアルに立ち上がり物語を動かしていましたが、『夏ホテル』でもマジシャンである主人公の替え玉ダミーが来られないというところから物語が転んでいきます。きちんとした起承転結がある芝居ではないのですがじんわりとした余韻が残る。人と人の関わりのなかのその時々での温度差がよく描けている。この芝居、意味を求めるととても難しいのだけど、そのなかにある空気感がとても良いです。生で観たかった。岩松了さんはやはり今後なにかで観たい作家かも。獅堂くんの『羊と兵隊』を観るべきだったか。

今観るとメンバーが凄いなあと。ノグチ@幸四郎さんと相良@串田和美さんのやりとりがなんだか可笑しい。距離感がすごく変なんですよ。同級生同士という設定がいいんだろうな。持ち味がまったく違うところでのバランスが絶妙というか。またこのコンビで何かやってくれないだろうか?カオル@たか子ちゃんはどことなく初々しさが残っていて、思いっきり背伸びしてる20代の女の子。感情を爆発させるとこ、やはり上手い。トミ@紀保さんはイライラ虫に囚われた女性。なんか、いるような、いなさそうな不思議な感触のキャラクター。にしても紀保さん、スタイル良すぎです。鍋田@岩松了さんはずるいです(笑)美味しいとこを持っていく。ドイツ語がとてもお上手でビックリ。


『夏ホテル』
作・演出:岩松了 

出演者:
松本幸四郎--------ヒデ・ノグチ
松たか子----------カオル
松本紀保----------トミ
串田和美----------相良満
岩崎加根子--------花塚雪江
岩松了------------鍋田
ミヒャエル・シュトゥッキ---ボーイ
ハルツォーク優李亜---------メイド
マルゴ・ダンフィ-----------接客係


歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 3等B席中央上手寄り

2008年09月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 3等B席中央上手寄り

初日の昼の部に行ってきました。とても楽しかったです。

『竜馬がゆく 風雲篇』
初日なのに完成度はかなり高かったです。段取りめいたとこはあるにしろ気にならない程度。場面転換が立志篇の時より思い切った演出で効果的だったと思う。幕を引いたのは1回だけ。なんだかいわゆる「新作」とは思えないぐらい脚本も演出も密。役者もそれぞれハマってるし、観ていて気分がいい。

「立志編」では歌昇さん、歌江さん、歌六さん等のベテランが要所で締めてくれたけど、今回の「風雲篇」はほぼ若手のみで引っ張っていかないといけない。でもほとんどだれることなく一気にいった。『竜馬がゆく』の青臭い真っ直ぐな熱気が舞台にしっかりありました。これはお見事。染五郎さんが昨年より一回り大きくなって中心にしっかり立って引っ張っていっていましたし、松緑さん、亀治郎さん、錦之助さんが自分の個性を生かしたキャラクター造詣でうまくハマっていた。名題下の人たちも大活躍。配役を観た時に全体的に役者が薄いかな?と少し危惧していたのですが、全然大丈夫でした。なんだかほんと楽しかったです。

竜馬@染五郎さん、も~う、カッコイイです。贔屓目全開です!昨年以上に竜馬にますますストンとハマっていました。飄々としながらも芯のある熱き青年でした。つい先だってまで『女教師は二度抱かれた』でテンションの低い天久六郎をやっていたとは信じられない。がむしゃらに前に進む男でした。そして人たらしぶりがね、いいんですよ。彼が話しはじめるとなんだかつい聞いてしまう、そんな魅力がありました。また、染五郎さん独特の可愛げがあるのですよね。おりょうとのやりとりとか、もうなんだかほのぼのしてて良いです。そして、寺田屋で襲撃されるシーンでは総髪の血みどろ染五郎さんです。うわあああ、これは反則です。カッコイイよ~~、やばいよ~。はい、 総髪の血みどろ染ちゃんは大好物なので目がハートになってしまいます。壊れました私。

中岡慎太郎@松緑さん、髭面です、でも目がクリクリして可愛いです(笑)無骨さと猪突猛進なとこがとっても似合ってていいです。松緑さんの良いところが活かされている感じ。芝居に緩急が出るようになってて、ちょっとしたところで気のよい部分とかさりげなく出てるし、そしてなによりこの舞台に必要な熱さがありました。こういうとこやっぱ中心に立てる役者ならではかなと思いました。

おりょう@亀治郎さん、また痩せたかな?綺麗でした。風呂上りのモロ肩出しの浴衣姿も見せちゃいます。ただ声が少しやられてるかも?まだ完全に復活してないのかな?それにしても亀ちゃんのおりょう、素敵です。気が強くてちょっと変わり者な女の子をとっても魅力的に演じていました。竜馬が彼女に惹かれるのがなんだか納得しちゃう。竜馬とおりょうのバカップル、楽しいです~~~。おりょう、亀ちゃんでピッタリだったかも!

西郷吉之助@錦之助さん、ぶっとい眉に頬膨らませてました。せっかくの二枚目が~~~(笑)でも知的な西郷さんで今までのイメージとは少し違う作り。錦之助さんのスマートさにアテガキしたのかな?、薩摩藩の知恵袋的な雰囲気で中心にいる感じがあって奔放な竜馬と対照的で良かったです。


『ひらかな盛衰記』「逆櫓」
おおっ、歌舞伎だ~(笑)という感じでした。いかにも時代ものなとっても濃ゆい空気がそこに。なんだろね?吉右衛門さん、歌六さん、東蔵さん、芝雀さん、富十郎さんが揃ってるだけでいわゆる歌舞伎って感じがしちゃう。

こちらも初日のわりに吉右衛門さんも富十郎さんも台詞がしっかり入ってて(笑)、なかなかの完成度。まだこなれてなくてダレる場もあったんだけど、でも役者を観てるだけでいいって感じのとこも。そこがまた幹部役者のすごいとこなんだろうな。「逆櫓」はとても面白い芝居ってわけじゃない気もするんだけど、場面場面で見せてくる感じです。

とりあえず、権四郎@歌六さんは芝居がほんとに巧みだ。台詞の聞かせ方が上手いんだよねえ。泣かせてきますよ。貴重な役者だとつくづく思う。

松右衛門@吉右衛門さんはとにかく存在感で押しまくる感じ。まだ気持ちが入りきってない雰囲気もあったけどスロースターターなので次回が楽しみ。

お筆@芝雀さん、武家の論理のあつかましさを忠義でくるむ。ヘタするとイヤな女になりそうなとこ、必死な雰囲気で納得させちゃう。芝雀さんだから許せるキャラかも?濃い衣裳が似合って綺麗です~。いつものふんわり感はなく、キリっとした雰囲気。こういう芝雀さんも素敵。

畠山重忠@富十郎さん、捌き役は本当にお似合いです。声のハリがやっぱり素敵。

船頭の富蔵@歌昇さん、九郎作@錦之助さん、又六@染ちゃんのトリオが贅沢。錦之助さんと染五郎さんは船頭には見えないねえ(笑)三人のなかで染ちゃん、キメのとこの形がやたらと大きく綺麗だった。先月のうっぷん晴らしてる?


『日本振袖始』
楽しかったです~。玉三郎さん、また能がかりにしちゃうんじゃないかと思っていたら、完全にエンタメ方向で作ってきました。派手派手で楽しい。蛇のしっぽも凄いんですよ。遠隔操作できちゃうの(笑)観てのお楽しみにね。

玉三郎さんのちょっと男ぽいところが見え隠れする踊りが素敵でした。なんというか、岩長姫のときから八岐の大蛇だよ~な妖しいオーラ全開です。お酒の飲みっぷりがすごいです。能がかりの舞踊であれこれ言われた鬱憤を晴らしたるぜぃと思ったか思わなかったか、とにかくいつもの玉様じゃないです。ガシガシ踊ってますって感じ?いやあ、楽しいわ。

稲田姫@福助さんは可愛いです、でも倒れっぱなしです。その姿勢で大丈夫ですか?寝ちゃいませんか?でもお得意のえびぞりを見せてくれます。玉様に連れさられるとこなんか二人してレズオーラが…エロい…二人とも男性なのに(笑)

素盞鳴尊@染五郎さんは後半に出番。こちらもカッコイイです。蛇な拵えの玉様との立ち回りでの絡みだけなのがチト残念です。染五郎さん、思いっきり突っ込んでる感じです。骨太さがあって体が大きく見えました。見得での姿が非常に美しい。