Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

2006年観劇総括

2006年12月31日 | 年間統括
2006年観劇総括

今年は歌舞伎45回、文楽6回、演劇7回、クラシックコンサート8回のトータル66回です。ほとんど歌舞伎ですね…。今年1年を振り返って印象に残ったことを。役者の敬称は略。

【1月】

なんといっても歌舞伎座の坂田藤十郎襲名披露の『伽羅先代萩』が素晴らしかったです。坂田藤十郎の底力を思い知らされた感じ。これぞ丸本物という醍醐味を味あわせていただきました。「床下」の荒獅子男之助@吉右衛門と仁木弾正@幸四郎の対決も見ものでした。また、NODA MAP『 贋作・罪と罰』が言葉の力、美しさを感じ、印象深く残りました。

【2月】

私的に2月は歌舞伎座の幸四郎につきる。『一谷嫩軍記』「陣門・組打」と『梶原平三誉石切』の解釈と演出が非常に面白かった。また座組みのバランスをよく考えているなとも思った。舞台の空気がとても密だった。

【3月】

良くも悪くもPARCO歌舞伎『決闘!高田馬場』に振り回された月だった。出演している役者全員のことが大好きで、しかも大の贔屓の染五郎が座長の芝居なのに「好き」になりきれない歌舞伎でした。そういう意味では「どうして大好きになれないだろう」といまだに喉にトゲが刺さってる感じ。歌舞伎座では福助と幸四郎の『義経千本桜』「吉野山」が印象に残っている。「みせる」ことのできる二人の役者のみせた踊りだった。絵面の押し出しが強かったなあ。

【4月】

コンテンポラリーダンスがこんなに面白いものだったなんてと『ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団』に衝撃を受けました。とても刺激的だった。名古屋御園座『勧進帳』の義経@芝雀が素晴らしく役者として一皮向けたと確信。

【5月】

新橋演舞場の染五郎と亀治郎の舞踊『寿式三番叟』が面白かった。歌舞伎舞踊でこれほど気持ちが昂揚したのは初めてだったかもしれない。染五郎と亀治郎の丁々発止のテンションの高さ。また竹本、鳴り物の演奏者たちの気合の入り方も半端じゃなかった。なんだったんだ、あれは!という感じ。福助の『京鹿子娘道成寺』、亀治郎の『火の見櫓の場』の情念溢れる舞踊も印象的。文楽『生写朝顔話』の蓑助さんの深雪のほとばしる情念も凄かった。男が踊り、操る「女の情念の深さ」に女の私が共感を覚える、その伝統芸能の不思議さよ。

【6月】

歌舞伎座の『暗闇の丑松』がかなり好みでした。フィルムノワールを観てる感じがした。幸四郎と福助コンビ、もしかして好きなのかもしれない。また照明の使い方とセットは一見の価値ありだった。『双蝶々曲輪日記』の染五郎の放駒長吉がキュートすぎてツボに入りまくり。

【7月】

ヤン・ファーブル演出『主役の男が女である時』に感覚的な共感。すこんと何かが突き抜けた感じがしました。

【8月】

それなりに楽しんだんですがこれぞ、というものが無かった月でした。

【9月】

歌舞伎座の秀山祭に燃えに燃え(萌えに萌え)ました!『寺子屋』の幸四郎、吉右衛門の兄弟ガチンコ勝負。あの緊迫感溢れる舞台は見事でした。幸四郎の表裏含んだ台詞回しの巧みさに惚れ惚れ。『籠釣瓶花街酔醒』の福助の哀れな八ッ橋は絶品だった。吉右衛門の次郎左衛門の鬱積した怒りには鳥肌が立たった、まじで怖かった。芝雀の3役(お早、皆鶴姫、九重)すべてが目を見張るほど可愛らしく素敵すぎで萌えまくり。染五郎の松王丸→文屋→虎蔵→更科の前の4役の変身振りにも萌え。特に更科の前の姫ぷりに落ちました…萌え。

【10月】

なにはともあれ、マウリッツオ・ポリーニのピアノ・リサイタル。音、音、音。音楽は喜びだ、と心から感じさせてくれる演奏家。そして大阪松竹座『染模様恩愛御書』、とにかく楽しかった。楽しすぎて私のどこかが壊れました(笑)『弁慶二態』の吉右衛門の弁慶は今までの吉右衛門弁慶のなかでは一番の出来かと。弁慶そのものといった気迫。

【11月】

ロシアパワーにやられました。ワディム・レーピンのヴァイオリンの音色に惚れました。サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団の演奏にはただただ圧倒させられました。ビバ!クラシック音楽。巡業『勧進帳』が思っていた以上に面白くて満足。信二郎があれだけやれるとは、予想以上の出来。幸四郎の弁慶はMy Best弁慶ではないのだけど観てるうちに愛着が出てきてしまった気がする

【12月】

歌舞伎座の菊五郎のお玉がツボ。もしかして私の好きな菊五郎が戻ってきたかも~~~。こんなことなら11月の政岡も見るべきだったかも、と後悔。10月~12月の3ケ月通し上演『元禄忠臣蔵』を完走し満足。国立劇場、頑張ったねえ!


国立大劇場『元禄忠臣蔵 第三部』特別席前方センター

2006年12月23日 | 歌舞伎
国立大劇場『元禄忠臣蔵 第三部』特別席前方センター

第三部は討ち入り直後から切腹に至るまでの赤穂浪士の心情を淡々と見せていきます。大きな事をやり遂げた充足感と虚脱感とを、また死へ向かう浪士の覚悟と揺れを同時に描いてみせ、人間群像としてのドラマがありました。最終章として非常にまとまった良い芝居を観たという感じです。この第三部は役者のアンサンブルがうまくかみ合い、終始舞台上の空気が締まっていたように思います。あだ討ちという熱が冷めた後の静かな冴え冴えとした空気感とうねり。

普段は前へ前へと芝居していく幸四郎さんが抑えた芝居で重量感をみせ、またほんの少しの表情動きで大石の心持をみせていく。揺れがありながら、初一念を通した芯の強さがある大石でした。また、大石内蔵助という人物がリーダーとして傑出たりえた部分であろう目配りのうまさがよくみえ、とても納得のいく人物像としてありました。それにしても今月の幸四郎さんは白鸚さんをかなり彷彿させました。今まであまり似てるとは思ったことないのですが、姿といい台詞廻しといい、私が拝見した舞台上の白鸚さんが一気によみがえってきました。たぶん、幸四郎さんがお父様のことをかなり意識されていたのではないでしょうか。

幸四郎さんの大石を核として、 周囲の役者が本当によく揃っていたなと思います。なんというか、大石が「人の支えあってこそ」と思うに至る心情とこの舞台とがリンクしていたような感じ。詳細感想後日書きます。ほんとそれぞれの役者さんが持ち味を生かしていい出来だったと思う。

10月から始まった『元禄忠臣蔵』、三ヶ月の通しという国立の試みは成功でしたね。あまり華やかさのない演目ではありますが通しで見る意義は十分ありました。また吉右衛門さん、藤十郎さん、幸四郎さんの大石のリレーも非常にうまく嵌まっていたなと思います。三ヶ月通ったご褒美の手ぬぐいをしっかりいただきました。

シアターコクーン『NODA・MAP ロープ』A席後方センター

2006年12月17日 | 演劇
シアターコクーン『NODA・MAP ロープ』A席後方センター びっくりするほどストレートな芝居でした。最初のほうは面白くてアハハと笑って観ていられたのですが後半になって主題がハッキリしていくうちにヒリヒリとした痛みが伝わってきてしんどくて、辛くなった。そして切なかった。タマシイの母を演ずる宮沢りえちゃんを抱きしめてあげたくなった。野田秀樹さんはどうしてここまでストレートに描くことにしたのだろう。もうここまでしないと「わからない」と、そう思ったのだろうか。作品全体に「憤り、怒り」が溢れていた。私は美術館に行っている人でありたい。





以下、ネタばれになりますのでこの芝居をこれから観る人は読まないでください。

実況中継で語られたことは本当にあったこと、そして舞台美術の碑は実際にあるものを写したものでした。

ソンミを振り返る

歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』3等B席前方上手寄り

2006年12月09日 | 歌舞伎
歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』3等B席前方上手寄り

今月のお目当ては菊五郎さんの『出刃打ちお玉』。池波正太郎さんがどんな歌舞伎を書いたのか観たくて。落としどころが池波さんだなあってちょっと思いました。面白かったです。『神霊矢口渡』は菊ちゃんが頑張っていました。『紅葉狩』は海老蔵さんはコミック歌舞伎道邁進中なのね、という感じでした。

『神霊矢口渡』
若手の女形さんを見せるのは格好の題材だなあと思いました。私はこれが初見。亀治郎さん、孝太郎さんが最近演じていらしたのですがこちらも見たかった。それぞれかなり違ったお舟だったでしょうねえ。

菊之助さんのお舟は品の良い可愛らしさのあるお舟。義峯に一目惚れするシーンはおぼこさがあってうっとりした表情が可愛い。それと女形の体の作りが非常に上手くなりましたねえ。特に肩のラインが柔らかくなった。後半、義峯の身代わりになった後、一途な部分はしっかりあって、義太夫へのノリも丁寧。菊之助さんらしい端正な娘で良いとは思うんだけど、この場はもっと恋情の激しさが欲しいような気がする。理が勝りすぎてる感じ。

富十郎さんの頓兵衛は少々迫力不足。姿は良いんだけど、力強さ、勢いがあんまりない。強欲さもそれほど見えなかったし。うーん、頓兵衛がもっと憎々しげだと面白いと思うんだけどな。

義峯の友右衛門さんが地味だけど品のよさと少々浮世離れした感覚があって思った以上に良かった。

うてなの松也さんは綺麗系で菊之助さんと好対照なのが良いけど裾の捌き方が雑。先月もちょっと思ったので松也さん、女形の時の裾捌きをもっと研究してくださいな。

『出刃打お玉』
菊五郎さん、私的に久々の大ヒット!。特に若い時のお玉が出色。菊五郎さんのお玉は色ぽくって、それでいて女気溢れていてすこぶるいい女。ちょっと男勝りで、さばさばしてて、でも女の色気はたっぷり。いいじゃないですか~、かっこいいです~。ただし後半の老婆になった部分が作りすぎじゃないでしょうか?ちょこちょこ歩くところなど、少しばかり受け狙いに走りすぎのような?老婆になったお玉はすごく哀しさのある女だと思うんですよね。その哀れさが隠れてしまう。幕切れ、もっと切なく出来るんじゃないかなあ。そのほうが私の好みだったりするってことなんですけど。

正蔵の梅玉さんもかなり良い味。青臭い23歳が妙に似合ってました。違和感ないんだもんなあ。そりゃ、「23歳」って言われた時には笑ってしまいましたけど、でもひ弱な純情男にどんどん見えてきちゃう。そして後半の変貌したエロおやじな正蔵も、慢心した雰囲気があって、世間のアカをいっぱいつけちゃった男って感じで良し。お玉の仕返しを「身から出たサビ」と言える、という部分がきちんとあった。

田之助さんの広円和尚がいかにも好色そうで、えーっ?田之助さん?ってちょっとビックリしました(笑)

おろくの時蔵さん、後半のイヤな女ぶりが良かったです。中年女性らしい体型を作ってきてて、それが雰囲気にピッタリで。

『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』
9月に復活舞踊として『鬼揃紅葉狩』を観たばかりですが、舞踊の構成としてはやはり『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』のほうがシンプルでわかりやすくて好き。ただ久しぶりに『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』を観て、『鬼揃紅葉狩』の花道の使い方は上手だったなあと思いました。

更科姫実は戸隠山の鬼女の海老蔵さん、何を目指しているんでしょう?先月演舞場に引き続き、「コミック歌舞伎」と名づけたい演じぶり。更科姫のほうはお顔は本当に美しくて姿も綺麗。肩のラインが男な部分を除けば、踊りのほうは一生懸命さがあって頑張ってると思いました。扇の捌きもしっかりしてましたし丁寧さに好感。ただ控えてる姿勢が赤姫じゃない。腕を落としすぎるし、ふらふらクネクネするのはよしたほうがいいかなあと。でも前半は十分な出来だと思いました。ビックリしたのは鬼女の正体を現す部分から…。ちょっとした仕草で魔性のもの、と知らしめるとこが上手く出てないなあ、なんて思っていた直後…、足を大またに広げ(股割りしてるのかってぐらい)着物の裾をばっさばっさと見得を切るのは正直、えっ?ええっと、それは鬼女ではなく、「おいらは男です」って正体現しただけでは?としか思えませんでした。鬼の魔性さは全然無いんですけど。で鬼女になってからは鬼女ではなく鬼というか、それは怪獣?「シャー」とか「ガーッ」とか吼えるのはアリなんでしょうか?まあ、パリのお客様にはわかりやすくていいかも?個人的には隈取の勇壮さで十分だとは思いますけど。まあそれはいいとしても正直、鬼になってからの踊りはいただけませんでした。海老蔵さんとしてはこちらのほうがきちんとしてないといけないと思います。腰がふらふらで全体的に美しくありませんでした。顔だけで表現しようとしないで体全体で表現するようにしていただきたいです。

海老蔵さんの関しては、才能があると思うからこそ期待してました。だからこその辛口感想です。ただこのところの海老蔵さんの方向性は私にはついていけないものがあるので、今月の評をもって海老蔵さんの芝居について感想を書くのを当分やめようかと思います。今の海老蔵さんの方向性を支持する方も多いことですし、辛口を書く自分自身がいやになってきました。そこまで思い入れをする必要もないし。

やりすぎ、という部分では岩橋の亀蔵さんもやりすぎ。「コミック歌舞伎」を助長させています。ほんのりした楽しさ、くらいまでに留めてほしかったです。

平維茂の松緑さん、踊りがとても丁寧で腰もしっかり決まっていて姿がよくなっています。かなり良い出来。ただし、酒宴の席での終始お堅い雰囲気なのはどうでしょ?不機嫌そうに見えるのはよくないかと。少し酔った風情や色気があるともっと良い維茂になるんじゃないかと思います。

局田毎の門之助さんが要所要所で締めており、また踊りも丁寧で非常に良かったです。

山神の尾上右近くん、声が辛そうでしたが頑張ってましたね。子役の頃のキレがまだ戻っていないようですがひとつひとつ丁寧でした。足踏みはもう少し力強くしてほしいかも。

国立小劇場『社会人のための文楽鑑賞教室』 前方下手寄り

2006年12月08日 | 文楽
国立小劇場『社会人のための文楽鑑賞教室』 前方下手寄り

会社帰りに国立小劇場に『社会人のための文楽鑑賞教室』を観に行きました。かなり面白かったです。若手公演だからとあなどってはいけない。

『伊達娘恋緋鹿子』
「火の見櫓の段」です。短めだし八百屋お七のお話だしわかりやすい演目、というのが初心者にはいいのかも。歌舞伎でもかなりの見せ場になるシーン。とはいえ力量もすぐわかってしまう場でもありますね。演奏も人形もいかにも若手だなあ、という感じでした。人形の動きが硬くて柔らかさがあまりないというか。そのせいか娘の情念はあんまり伝わってことなかったかも。人形をどうやって櫓に昇らせるんだろう?と思っていたのですが、見事な演出。へええ、すごいな。ここの演出には素直に感嘆。

『文楽のたのしみ』
義太夫を相子大夫さん、三味線を龍聿さん、人形を紋臣さんとそれぞれに解説。これが面白いんですよ。相子大夫さん、龍聿さんはいかにも関西のノリでネタを含めつつ楽しくわかりやすく解説。紋臣さんはマジメなんですけど人形の遣い方自体が面白いのでやはり聞いていて楽しい。このくらい楽しいものを『歌舞伎教室』でもやれないのかしら?とちょっと思いました。

『恋女房染分手綱』
「道中双六の段」「子別れの段」、これがとても良かったんですよ~。「道中双六の段」はちょっと全体的にワサワサっとした感じではあったのですが呂勢大夫さんの語りは非常にわかりやすかった。玉翔さんが遣う三吉が大人びた子供といった風情が良く出ていてとても良かったです。そして「子別れの段」が語りも人形もどちらも非常に良くて、切なさが胸に沁みて泣けちゃいました。津駒大夫さんの語りがこの段にピッタリ、特に最後の馬子唄が素晴らしかった。また清之介さん操る重の井は「女」と「母」の情の部分がよく出ていて、かといって品を崩すことなく、重の井の哀しさがよく伝わってくるものでした。また玉翔さんの三吉の熱演がうまくハマって本当に見応えありました。