Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『初春大歌舞伎 昼の部』 一等一階花道寄りやや後ろ

2004年01月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『初春大歌舞伎 昼の部』 一等一階花道寄りやや後ろ

花道近くで全体を見渡せられるいい席だった。私的には花道近くは後ろのほうがベストポジションだな。夜の部に引き続き、昼の部も見ごたえ十分な演目が揃っておりました。勘九郎さんが踊りではうまさが光り、女房役で古典の確かさ演技の確かさを見せつけた。また玉三郎さんの情愛の演技が素晴らしく、思わず涙し、菊之介の可憐さが目を惹きました。あと、今回はひさびさに見た魁春さんの品のあるたたずまいやきっちりした演技の良さに感心したのであった。

『義経千本桜』 「鳥居前」
忠信役の松緑さんは荒事がだいぶ板についてきた感じで元気よさが気持ち良い。しかし、見得の部分が弱い。拍手を出させるくらいの気合がもう少し欲しいところ。セリフも相変わらず滑舌が悪く篭もりがち…もったいない。静御前の万次郎さんはどう見ても静御前な美貌とは言えないのですが楚々とした雰囲気は出ておりました。万次郎さんのお姫様姿は初めて見たかも…かわぶちゃいくって感じでした。す、すいません。全体的に最初はなんとなく柄が合ってなさそうな役者ばかりの組み合わせかな?と思いましたが手堅い演技をする役者が揃ってわかりやすい場になっていて面白かったです。

『高杯』
次郎冠者の勘九郎が出てくるだけでふわっと春のほんわかした空気が流れる。このなんともいえない愛嬌ある華やかさは勘九郎独特のもの。また、よほど訓練しているのだろうと思う足裁きが見事で高下駄でタップダンスしてしまうという踊りの面白みが十分伝わってくる。

ちょっとした儲け役の高足売りの新之助は顔が美しいというだけでも舞台では大事と思わせる華やかさ。だが私には新之助はちょっと陰がある華に見える。次郎冠者を騙すシーンなどうまくやっているとは思うけど意地悪さのほうが先にたつのは、こういう明るい舞台ではどうなんだろう?と思う。お父さんの団十郎さんのようにもう少しおおらかさが出ると大器になるだろう。まあまだ若いからね。

『仮名手本忠臣蔵』 「九段目 山科閑居」
お石に勘九郎、戸無瀬の玉三郎の組み合わせで以前も観ている場なのだが今回のほうが緊張感があって素晴らしい出来。勘九郎は義太夫狂言ほうがより演技が際立つ。大星由良助としての妻の強さ大きさがあっていい。玉三郎は母としての心情がより表現されていて胸を打つ。この二人の丁々発止のやり取りが一番の見ものだった。また小浪役の菊之助が恋する可愛らしい娘を造詣して説得力があり。玉三郎と菊之助コンビの美しさがなおのこと哀れさを醸し出していて良し。

対する男性陣はもう一歩といったところか。団十郎さんの本蔵はいまひとつ説得力がない。以前観た仁左衛門さんのときは子を思う親の気持ちに溢れてて泣けたのだが、団十郎さんは情と武士としてのハラのどちらも中途半端。うむむ、こういう役は向いていないのかも。新之助の力弥もどうということのない演技で印象が薄い。心二つに、という複雑な心根を表現するにはまだまだといったところ。

由良助は幸四郎さん、受けるだけの役なのだが大きさを見せる。なにげない表情がうまいのだが細かすぎるかも。席がいい席だったので楽しめたけど後ろで見てはわからない微妙さ加減で義太夫狂言のなかの一人という感じはしないのが難点か。

『芝浜皮財布』
落語を元にしたお芝居。菊五郎さんはやはりいなせな江戸っ子の役が一番だなー。生き生きとしてて見てて気持ちがいい。私的にかなりひさびさの魁春さんの女房役が絶品。セリフ回しがなんとも情に溢れて「あれ?こんなにお芝居上手だったっけ?」と思ったほど。後味すっきりのお話で元の落語を聴いてみたいと思いました。

歌舞伎座『初春大歌舞伎 夜の部』 一等一階真ん中後ろ

2004年01月12日 | 歌舞伎
歌舞伎座『初春大歌舞伎 夜の部』 一等一階真ん中後ろ

『鎌倉三代記』がかなり面白かった。雀右衛門さんの姫がいつにもまして素晴らしい出来、菊五郎さんのひさびさの若武者姿は丁寧さが好感、幸四郎さんは義太夫狂言ひさびさの当たり役かもの形の美しさとちょっと異様なキャラへの構築のうまさが光った。

『鎌倉三代記 絹川村閑居の場』
私、ようやく義太夫狂言の見方が分かってきたのかも、と思った一幕でした。いつもはどこか気が抜ける瞬間があることが多い義太夫狂言でまったく退屈せずに役者たちの動きを楽しめた。それだけ役者が充実していたということでもあるのだろう。昨年10月の『祇園祭礼信仰記 金閣寺』とほとんど同じ役者陣だがこの時とは比較にならないほど面白かった

時姫の雀右衛門さんのひとつひとつの細やかで意味のある動きが恋に一途で世間知らずな姫に説得力をあたえている。ヘタするとただの恋にとち狂ったばか娘になりかねない役柄なのだが雀右衛門さんの可愛らしさがほんわりした姫像を描き出し、悲しい運命に翻弄される健気な娘として存在させていた。

対する敵方の姫に思いを寄せられる若武者、三浦之助に菊五郎。ひさびさに若々しくて美しい若者姿の菊五郎さんを拝見。とても丁寧にきっちりと演じられていてまだまだ若く美しい姿もお似合いだ。母思いのまっすぐな若武者に情があり、いい。しかし、時姫をうまく言いくるめ敵方の大将である父を打たせようとする場はためらいもなく、騙すのがうますぎて「三浦之助ったら、いくらなんでもひどくないかい。」とつい思わなくもなかった(笑)

北条(敵方)の間者、藤三郎実は策士、源頼家の武将、佐々木高綱役に幸四郎さん。大当たり!。動きが義太夫節に非常にうまくのり、形も美しく、見ごたえ十分。滑稽な役は軽妙さが出てて楽しく、その後の策士としての顔へ、そして恨みを抱えたちょっと不気味さをたたえた武将への変わり方が実に見事。特に佐々木高綱のぶっかえりのシーンなどは大きさがあり、この人ならでは良い部分がきれいに出た感じ。

『京鹿子娘二人道成寺』
これはただただ美しい舞台を楽しめばいいという感じでした。玉三郎の妖艶な美しさと菊之助の可愛らしい美しさがバランスよく華やかな姉妹のようでした。踊りに関しては玉三郎が1枚も2枚、いやそれ以上に上手という感じでどのポーズととっても隙のない美しさ。玉三郎がどれほど稽古し、また計算してきたかがよく分かった舞台でもありました。また若い菊之助を立てる余裕の笑みが、また素晴らしかった。玉三郎一人の舞台が見たいと思わせちゃうのがこの方のすごいところ。菊之介は若さを前面に押し出し、玉三郎に必死に食らい付いていて好感がもてました。比べてしまうとまだまだと思う部分が多かったけど激しい部分で思いっきり弾み、見ごたえはありました。

『花街模様薊色縫 十六夜清心』
若きお坊さん、清心が遊女十六夜となじんでしまい、女犯の罪で寺を追われたところへ、子供が出来たと十六夜が足抜けして追いかけてくる。もう心中しかないと二人川へと飛びこむのだが…、という退廃美あふれる黙阿弥の世話物。

清心に初役の新之助。心中を思い立ったもののこのまま死んで何になると未練たっぷりな清心がなんというか新之助の若かさや姿の美しさゆえに妙な説得力があった。ただその若さの勢いだけで造詣している部分があり、台詞や立ち振る舞いの美があったかというと微妙なところ。ただ、新之助が歌舞伎役者として非常に恵まれた資質を持っていることがよく見えた役ではあった。しかし2年前まであった狂的な凄みは薄れたかも。でも良い意味で正統派になってきたということだろう。大河ドラマは無駄ではなかったのかな。

十六夜には「えー、まだやってなかったんだ」の初役の時蔵さん。時蔵さんには残念ながら十六夜の初々さがあまりなかったのが難点ではあるがだんまりでのたち振る舞いがさすがに美しい。もう少しせっぱつまった想いが見えると良かったような気がするが若い新之助を終始引っ張っていってさすが。ベテランの芸の確かさが見えました。