大阪松竹座『二月花形歌舞伎 昼の部』 3等3階前方上手寄り/1等1階前方上手寄り
大阪に観劇遠征してまいりました。松竹座は花形らしい勢いのある芝居に観客も乗っており熱気がありました。粗ももちろんありましたがとても楽しい観劇ができて大満足です。2日続けて昼夜2回づつ拝見しましたが感想はまとめて書きます。
【昼の部】
25日(土) 3等3階前方上手寄り
26日(日) 1等1階前方上手寄り
『慶安の狼』
花形らしい真っ直ぐな芝居が良かったです。しかし脚本が中途半端、演出がいまひとつでそこが少々残念でした。徹底的に友情ものにするか、それぞれの信念に準じたために悲劇のどちらかにしてほしかった。いかにも新劇風な演出は音の使い方がひどかったです、芝居の邪魔になっている。暗転時の演出がすべて同じだし…。もっと歌舞伎の世話のほうに演出できたはず。同じ新劇で獅童くんの主演でも『瞼の母』の演出は上手でした。個人的にはあのくらいのクオリティにしてほしかった。
丸橋忠弥@獅童さん、柄に合う役だと思う。ひたすら真っ直ぐに演じていらっしゃいました。そこに熱さがあって良かったです。獅童さんは歌舞伎の舞台だとなんとなく居心地の悪さを感じさせることが多々あったのですが今回はそれをあまり感じませんでした。ご本人もこのところ歌舞伎の舞台続きですし歌舞伎舞台でどう見せて行くかという部分でだいぶ慣れてきたのかなと思います。とはいえまだ芝居の引き出しが少ないのと台詞廻しがしっかり体に入ってない部分で肩に力が入りすぎて緩急が出てないかなあと。今のところ存在感と華でカヴァー。でも独特の存在感は魅力です。丸橋忠弥に関しての拵えはもっと研究したほうが。目元がパンダメイクでちょっと笑ってしまう…。ポスターくらいの拵えになぜしなかったのか?ポスターはカッコイイのに。
小弥太@愛之助さんは立ち居地としては良い役でしたし丁寧に演じていたとは思います。しかし行動原理が脚本の粗の部分で小弥太というキャラクターがハッキリせず損してた気が…。友情のためか武士としての矜持のためか何のために動いているのかが見えてこず、単に気持ちがふらふらしてるようにみえる。だから友人を裏切るのも唐突だし、その後、家老に裏切られ忠弥側に立つ心持ちも不鮮明。どうせなら友情の部分、突っ込んで演じてみたほうがよかったかも。
由比正雪@染五郎さん、少ししか出番ないですが非情さとカリスマ性があって謀反の中心のいる人物としての存在感がありました。謡いながら舞うシーンは素敵でした。
牧野監物@歌六さん、お家大事の冷酷さを腹に秘めつつ大義名分を滔々と語る、上手いです。忠弥母藤@竹三郎さんが気位が高いものの可愛らしさがある母。忠弥妻節@高麗蔵さんは控えめならがしっかりと忠弥を支える妻。金井半兵衛@友右衛門は佇まいに謀反側のどことなく怪しい雰囲気をみせる。べテラン組がさすがに舞台を締めていました。
田中格之進@亀鶴さんも芝居も殺陣も的確でさりげなく上手いです。内藤主膳@薪車さんが前に比べて骨太な感じになってきていました。
個人的に殊勲賞は丸橋家に仕えるじじいの八蔵役の錦一さん。『伏見の富くじ』の黒住平馬に使える牛山役を含めて錦一さん、とてもいい味わいでした。主人のために一生懸命になっている姿がとても良かったです。老け役は難しいのですがまだお若いのに老け役が似合う。これから役の幅が広がるのではないでしょうか。
同じ丸橋忠弥ものでいえば『慶安太平記』でも殺陣が見所になるけど今回も最後が大立ち回り。名題下の方々がよく動いてて感嘆。早い殺陣でもしっかり綺麗に動く。
『大當り伏見の富くじ』
今月の松竹座は個人的に『大當り伏見の富くじ』が最高に楽しかった。これだけで満足しすぎて他の演目はおまけ的な(^^;)ぐらいの勢いでした。 私はコテコテの笑いは実は苦手。でもこれは楽しくて楽しくて。物語の核の部分がしっかり歌舞伎のお約束があったうえで現代の演出アレンジで遊んでいたのが 私のツボでした。それとベタだけどほろりとさせてハッピーエンドなのも気持ちよかった。最後のフィナーレは完全に観客サービスだったけど徹底的にそこまでやってくれたのも良かった。
歌舞伎のくすぐりがいっぱい入っていたのが嬉しかったです。『籠釣瓶花街酔醒』『仮名手本忠臣蔵』『封印切』『切られ与三』は確実に入っていました。他にもありそうな気がすると思っていましたら友人たちから『助六』『筆幸』『吉田屋』も入っていたとのこと。
今回の『大當り伏見の富くじ』は明治時代に書かれた歌舞伎の脚本『鳰の浮巣』を元に新作として新たに書き下ろした作品です。染五郎さんが歌舞伎でハッピーエンドの喜劇を作りたいとの思いから作られた芝居。ネタをすべて計算し作りこんでアドリブはなしという喜劇。単に笑わせるだけではなく相手を 思っての縁切りなどホロリとさせられるところあり、紛失したお家の宝探しなどの歌舞伎のお約束ありと物語としても良いお話となっています。演出はスピーディで舞台美術も簡素ながら視覚的には鮮やかで照明も工夫されており華やかさを失いません。また音楽は生演奏ではありませんが使い方が上手い。全体的に新作の初演とは思えないほどの完成度。
染五郎さんは歌舞伎の手法を一切使わずに作るとおっしゃっていましたが、外部出演の経験をフルに生かした演出でその引き出しの多さに感嘆しました。また演出的に歌舞伎の手法を使わないものの演技の骨格の部分が歌舞伎なので「歌舞伎」として違和感なかったです。そういう意味で歌舞伎演目からとったくすぐりの部分、歌舞伎の手法もかなり生かされていました。また役者さんが皆キラキラしていました。役者さんの良い面が前面に出てきてる芝居だった。染五郎さんの新作や復活狂言を拝見するに演出家として役者さんたちのそういうところを引き出すのが上手いと思う。
大阪松竹座というハコ向けに作ったお芝居ですので関東で再演はよほど手直ししないと上演できないでしょうから関西限定なお芝居かな~とは思います。でも関西でいいので再見したいです。
幸次郎@染五郎さん、まず一言、染ちゃんアホや~~~!!(良い意味で)。かなり抜けているけどお人よしで優しくて憎めない愛嬌の持ち主を活き活きと楽しそうに演じていました。また落ちぶれてはいるけれど元大店のボンらしくふんわり品があり色気もある。情けない役を演じつつしっかり芯として華やかにそこにいる。アホぼんに徹して徹底的に演じることで皆を引っ張っていってました。これはお見事だと思いました。情けない役を演じているのに可愛いしカッコイイ。自虐ネタから入りそこから一気に様々な表情をみせ舞台を駆け抜けていました。芝居の緩急が上手いのですね。アホな部分で笑わせて、でも切ない恋模様を繊細にみせていきます。幸次郎、幸せになれて良かったねとしみじみ思わせました。
鳰照太夫@翫雀さんが超ラブリーだった。もうそれだけで個人的にツボに入りました。ぶさだけど愛嬌があるという設定ですが、いやいや可愛いですって。幸次郎@染五郎さんに「もちもち~っとしててまんまるでお月さんのようでほっぺた押すとこし餡がぷにゅ~と出てきそう 」と言われるふくふくしい姿と笑顔。ふんわりとしたなかに品格がありそしてしっかり太夫の切なさも演じてくれてとても素敵でした。幸次郎が惚れるのもさもありなん。すぐに下駄が脱げてしまうお茶目さと苦界に生きる女の切なさ、好いた男を思う優しさ、そういものをごく自然に演じお見事でした。また幸次郎@染五郎さんと鳰照太夫@翫雀さん、お二人とも何をしても品がよいのでカップルぶりが可愛らしいんですよね。思わず応援したくなる。『京乱噂鉤爪― 人間豹の最期 ―』での今回と男女逆の配役ですが実次@翫雀さんと大子@染五郎さんのカップルも可愛らしかったな~と思い出し、このコンビのカップルぶりが私は好きなようです。
お絹@壱太郎くん、兄思いでしっかりもののお絹ちゃんを可愛らしく演じていました。健気だけど芯がしっかりしているお役が似合いますね。ほんとに呆けてしまった兄、幸次郎を甲斐甲斐しく世話するところなど本当に心根がいい子だなって思わせました。またコメディの部分では時々ハイトーンすぎる声がここでは上手く活かされていました。お絹ちゃんが言い寄られて「ほんまにいやーーー!」っていう場面笑えました。最後の場面で花道で雛江@米吉くんと一緒にぽいぽいと踊る場面ではおきゃんな感じ。踊り上手ですね。かわゆし。
雛江@米吉くん、おっとりと優しい鳰照太夫づきの新造さんの雛江を演じます。品よくふんわりふんわりとして人形のように可愛いです。声も可憐で女形さんに向いてると思います。お絹@壱太郎くんと花道でぽいぽいと踊るところも柔らか。かわゆし。
千鳥@宗之助さん、鳰照太夫の妹分の太夫。少し幸薄そうな女の子を演じるとピッタリ。いえ、千鳥は幸せになりますけどネ。また今回は立役と女形の声を一瞬で切り替えるという技をやってのけます。
黒住平馬@獅童さん、お絹@壱太郎くんに惚れこんで汚い手を使ってでもなんとか手に入れようとする殿。ずれまくる鬘がトレードマーク。キモいです、とてつもなくキモいです(笑)。ちょっと甘えた口調でベタベタとお絹に迫る。いやあ、よくぞやってくれました。時に遊びが過ぎがちな獅童さんのキャラを存分に使って完全に飛び道具。そこにいるだけで笑える。獅童さんに愛嬌があるからこそできたお役だと思います。キモいけどどこか可愛いんですよね。
雪舟斎@歌六さん、大団円に導くデウスマキナな役割を飄々と演じ舞台を締めます。判じ物を解く場ではなんと古畑任三郎に。 邦楽アレンジした古畑任三郎テーマ曲にのり片手を額にあててかっこよく。
お爪@竹三郎さん、強欲ばばあをそのまましっかりと演じ舞台に歌舞伎世話の空気を感じさせてくださいます。で、でそれだけではなく竹三郎さんもなんと「家政婦のミタ」ネタをっ。
小春/伏見の神官@千壽郎さん、鳰照太夫の飼い犬の狆の小春ちゃんとちょっと変わった伏見の神官をユーモラスに演じます。小春ちゃんはキュート。ふわふわの長い耳をかきあげつつ失意の幸次郎を慰める役なんですがなんとも可愛い。伏見の神官はいたって真面目に可笑し味を出しておりました。
信濃屋伝七@愛之助さん、渋くかっこよくキメておりました。
芳吉@亀鶴さん、喜助@松也さん、幸次郎の友人のボン二人。ボンらしい佇まいで良い友人なんだか悪い友人なんだか二人組のじゃらじゃらが面白いポイントに。
他にも書きたいことがいっぱい。ありすぎて書ききれません。ベテランが遊びつつしっかり締めてくれて若手や脇が思いっきりきちんとはじけてて。役者さんが皆本当にキラキラしていました。
大阪に観劇遠征してまいりました。松竹座は花形らしい勢いのある芝居に観客も乗っており熱気がありました。粗ももちろんありましたがとても楽しい観劇ができて大満足です。2日続けて昼夜2回づつ拝見しましたが感想はまとめて書きます。
【昼の部】
25日(土) 3等3階前方上手寄り
26日(日) 1等1階前方上手寄り
『慶安の狼』
花形らしい真っ直ぐな芝居が良かったです。しかし脚本が中途半端、演出がいまひとつでそこが少々残念でした。徹底的に友情ものにするか、それぞれの信念に準じたために悲劇のどちらかにしてほしかった。いかにも新劇風な演出は音の使い方がひどかったです、芝居の邪魔になっている。暗転時の演出がすべて同じだし…。もっと歌舞伎の世話のほうに演出できたはず。同じ新劇で獅童くんの主演でも『瞼の母』の演出は上手でした。個人的にはあのくらいのクオリティにしてほしかった。
丸橋忠弥@獅童さん、柄に合う役だと思う。ひたすら真っ直ぐに演じていらっしゃいました。そこに熱さがあって良かったです。獅童さんは歌舞伎の舞台だとなんとなく居心地の悪さを感じさせることが多々あったのですが今回はそれをあまり感じませんでした。ご本人もこのところ歌舞伎の舞台続きですし歌舞伎舞台でどう見せて行くかという部分でだいぶ慣れてきたのかなと思います。とはいえまだ芝居の引き出しが少ないのと台詞廻しがしっかり体に入ってない部分で肩に力が入りすぎて緩急が出てないかなあと。今のところ存在感と華でカヴァー。でも独特の存在感は魅力です。丸橋忠弥に関しての拵えはもっと研究したほうが。目元がパンダメイクでちょっと笑ってしまう…。ポスターくらいの拵えになぜしなかったのか?ポスターはカッコイイのに。
小弥太@愛之助さんは立ち居地としては良い役でしたし丁寧に演じていたとは思います。しかし行動原理が脚本の粗の部分で小弥太というキャラクターがハッキリせず損してた気が…。友情のためか武士としての矜持のためか何のために動いているのかが見えてこず、単に気持ちがふらふらしてるようにみえる。だから友人を裏切るのも唐突だし、その後、家老に裏切られ忠弥側に立つ心持ちも不鮮明。どうせなら友情の部分、突っ込んで演じてみたほうがよかったかも。
由比正雪@染五郎さん、少ししか出番ないですが非情さとカリスマ性があって謀反の中心のいる人物としての存在感がありました。謡いながら舞うシーンは素敵でした。
牧野監物@歌六さん、お家大事の冷酷さを腹に秘めつつ大義名分を滔々と語る、上手いです。忠弥母藤@竹三郎さんが気位が高いものの可愛らしさがある母。忠弥妻節@高麗蔵さんは控えめならがしっかりと忠弥を支える妻。金井半兵衛@友右衛門は佇まいに謀反側のどことなく怪しい雰囲気をみせる。べテラン組がさすがに舞台を締めていました。
田中格之進@亀鶴さんも芝居も殺陣も的確でさりげなく上手いです。内藤主膳@薪車さんが前に比べて骨太な感じになってきていました。
個人的に殊勲賞は丸橋家に仕えるじじいの八蔵役の錦一さん。『伏見の富くじ』の黒住平馬に使える牛山役を含めて錦一さん、とてもいい味わいでした。主人のために一生懸命になっている姿がとても良かったです。老け役は難しいのですがまだお若いのに老け役が似合う。これから役の幅が広がるのではないでしょうか。
同じ丸橋忠弥ものでいえば『慶安太平記』でも殺陣が見所になるけど今回も最後が大立ち回り。名題下の方々がよく動いてて感嘆。早い殺陣でもしっかり綺麗に動く。
『大當り伏見の富くじ』
今月の松竹座は個人的に『大當り伏見の富くじ』が最高に楽しかった。これだけで満足しすぎて他の演目はおまけ的な(^^;)ぐらいの勢いでした。 私はコテコテの笑いは実は苦手。でもこれは楽しくて楽しくて。物語の核の部分がしっかり歌舞伎のお約束があったうえで現代の演出アレンジで遊んでいたのが 私のツボでした。それとベタだけどほろりとさせてハッピーエンドなのも気持ちよかった。最後のフィナーレは完全に観客サービスだったけど徹底的にそこまでやってくれたのも良かった。
歌舞伎のくすぐりがいっぱい入っていたのが嬉しかったです。『籠釣瓶花街酔醒』『仮名手本忠臣蔵』『封印切』『切られ与三』は確実に入っていました。他にもありそうな気がすると思っていましたら友人たちから『助六』『筆幸』『吉田屋』も入っていたとのこと。
今回の『大當り伏見の富くじ』は明治時代に書かれた歌舞伎の脚本『鳰の浮巣』を元に新作として新たに書き下ろした作品です。染五郎さんが歌舞伎でハッピーエンドの喜劇を作りたいとの思いから作られた芝居。ネタをすべて計算し作りこんでアドリブはなしという喜劇。単に笑わせるだけではなく相手を 思っての縁切りなどホロリとさせられるところあり、紛失したお家の宝探しなどの歌舞伎のお約束ありと物語としても良いお話となっています。演出はスピーディで舞台美術も簡素ながら視覚的には鮮やかで照明も工夫されており華やかさを失いません。また音楽は生演奏ではありませんが使い方が上手い。全体的に新作の初演とは思えないほどの完成度。
染五郎さんは歌舞伎の手法を一切使わずに作るとおっしゃっていましたが、外部出演の経験をフルに生かした演出でその引き出しの多さに感嘆しました。また演出的に歌舞伎の手法を使わないものの演技の骨格の部分が歌舞伎なので「歌舞伎」として違和感なかったです。そういう意味で歌舞伎演目からとったくすぐりの部分、歌舞伎の手法もかなり生かされていました。また役者さんが皆キラキラしていました。役者さんの良い面が前面に出てきてる芝居だった。染五郎さんの新作や復活狂言を拝見するに演出家として役者さんたちのそういうところを引き出すのが上手いと思う。
大阪松竹座というハコ向けに作ったお芝居ですので関東で再演はよほど手直ししないと上演できないでしょうから関西限定なお芝居かな~とは思います。でも関西でいいので再見したいです。
幸次郎@染五郎さん、まず一言、染ちゃんアホや~~~!!(良い意味で)。かなり抜けているけどお人よしで優しくて憎めない愛嬌の持ち主を活き活きと楽しそうに演じていました。また落ちぶれてはいるけれど元大店のボンらしくふんわり品があり色気もある。情けない役を演じつつしっかり芯として華やかにそこにいる。アホぼんに徹して徹底的に演じることで皆を引っ張っていってました。これはお見事だと思いました。情けない役を演じているのに可愛いしカッコイイ。自虐ネタから入りそこから一気に様々な表情をみせ舞台を駆け抜けていました。芝居の緩急が上手いのですね。アホな部分で笑わせて、でも切ない恋模様を繊細にみせていきます。幸次郎、幸せになれて良かったねとしみじみ思わせました。
鳰照太夫@翫雀さんが超ラブリーだった。もうそれだけで個人的にツボに入りました。ぶさだけど愛嬌があるという設定ですが、いやいや可愛いですって。幸次郎@染五郎さんに「もちもち~っとしててまんまるでお月さんのようでほっぺた押すとこし餡がぷにゅ~と出てきそう 」と言われるふくふくしい姿と笑顔。ふんわりとしたなかに品格がありそしてしっかり太夫の切なさも演じてくれてとても素敵でした。幸次郎が惚れるのもさもありなん。すぐに下駄が脱げてしまうお茶目さと苦界に生きる女の切なさ、好いた男を思う優しさ、そういものをごく自然に演じお見事でした。また幸次郎@染五郎さんと鳰照太夫@翫雀さん、お二人とも何をしても品がよいのでカップルぶりが可愛らしいんですよね。思わず応援したくなる。『京乱噂鉤爪― 人間豹の最期 ―』での今回と男女逆の配役ですが実次@翫雀さんと大子@染五郎さんのカップルも可愛らしかったな~と思い出し、このコンビのカップルぶりが私は好きなようです。
お絹@壱太郎くん、兄思いでしっかりもののお絹ちゃんを可愛らしく演じていました。健気だけど芯がしっかりしているお役が似合いますね。ほんとに呆けてしまった兄、幸次郎を甲斐甲斐しく世話するところなど本当に心根がいい子だなって思わせました。またコメディの部分では時々ハイトーンすぎる声がここでは上手く活かされていました。お絹ちゃんが言い寄られて「ほんまにいやーーー!」っていう場面笑えました。最後の場面で花道で雛江@米吉くんと一緒にぽいぽいと踊る場面ではおきゃんな感じ。踊り上手ですね。かわゆし。
雛江@米吉くん、おっとりと優しい鳰照太夫づきの新造さんの雛江を演じます。品よくふんわりふんわりとして人形のように可愛いです。声も可憐で女形さんに向いてると思います。お絹@壱太郎くんと花道でぽいぽいと踊るところも柔らか。かわゆし。
千鳥@宗之助さん、鳰照太夫の妹分の太夫。少し幸薄そうな女の子を演じるとピッタリ。いえ、千鳥は幸せになりますけどネ。また今回は立役と女形の声を一瞬で切り替えるという技をやってのけます。
黒住平馬@獅童さん、お絹@壱太郎くんに惚れこんで汚い手を使ってでもなんとか手に入れようとする殿。ずれまくる鬘がトレードマーク。キモいです、とてつもなくキモいです(笑)。ちょっと甘えた口調でベタベタとお絹に迫る。いやあ、よくぞやってくれました。時に遊びが過ぎがちな獅童さんのキャラを存分に使って完全に飛び道具。そこにいるだけで笑える。獅童さんに愛嬌があるからこそできたお役だと思います。キモいけどどこか可愛いんですよね。
雪舟斎@歌六さん、大団円に導くデウスマキナな役割を飄々と演じ舞台を締めます。判じ物を解く場ではなんと古畑任三郎に。 邦楽アレンジした古畑任三郎テーマ曲にのり片手を額にあててかっこよく。
お爪@竹三郎さん、強欲ばばあをそのまましっかりと演じ舞台に歌舞伎世話の空気を感じさせてくださいます。で、でそれだけではなく竹三郎さんもなんと「家政婦のミタ」ネタをっ。
小春/伏見の神官@千壽郎さん、鳰照太夫の飼い犬の狆の小春ちゃんとちょっと変わった伏見の神官をユーモラスに演じます。小春ちゃんはキュート。ふわふわの長い耳をかきあげつつ失意の幸次郎を慰める役なんですがなんとも可愛い。伏見の神官はいたって真面目に可笑し味を出しておりました。
信濃屋伝七@愛之助さん、渋くかっこよくキメておりました。
芳吉@亀鶴さん、喜助@松也さん、幸次郎の友人のボン二人。ボンらしい佇まいで良い友人なんだか悪い友人なんだか二人組のじゃらじゃらが面白いポイントに。
他にも書きたいことがいっぱい。ありすぎて書ききれません。ベテランが遊びつつしっかり締めてくれて若手や脇が思いっきりきちんとはじけてて。役者さんが皆本当にキラキラしていました。