Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

大阪松竹座『二月花形歌舞伎 昼の部』 3等3階前方上手寄り/1等1階前方上手寄り 

2012年02月26日 | 歌舞伎
大阪松竹座『二月花形歌舞伎 昼の部』 3等3階前方上手寄り/1等1階前方上手寄り 

大阪に観劇遠征してまいりました。松竹座は花形らしい勢いのある芝居に観客も乗っており熱気がありました。粗ももちろんありましたがとても楽しい観劇ができて大満足です。2日続けて昼夜2回づつ拝見しましたが感想はまとめて書きます。

【昼の部】
25日(土) 3等3階前方上手寄り
26日(日) 1等1階前方上手寄り

『慶安の狼』
花形らしい真っ直ぐな芝居が良かったです。しかし脚本が中途半端、演出がいまひとつでそこが少々残念でした。徹底的に友情ものにするか、それぞれの信念に準じたために悲劇のどちらかにしてほしかった。いかにも新劇風な演出は音の使い方がひどかったです、芝居の邪魔になっている。暗転時の演出がすべて同じだし…。もっと歌舞伎の世話のほうに演出できたはず。同じ新劇で獅童くんの主演でも『瞼の母』の演出は上手でした。個人的にはあのくらいのクオリティにしてほしかった。

丸橋忠弥@獅童さん、柄に合う役だと思う。ひたすら真っ直ぐに演じていらっしゃいました。そこに熱さがあって良かったです。獅童さんは歌舞伎の舞台だとなんとなく居心地の悪さを感じさせることが多々あったのですが今回はそれをあまり感じませんでした。ご本人もこのところ歌舞伎の舞台続きですし歌舞伎舞台でどう見せて行くかという部分でだいぶ慣れてきたのかなと思います。とはいえまだ芝居の引き出しが少ないのと台詞廻しがしっかり体に入ってない部分で肩に力が入りすぎて緩急が出てないかなあと。今のところ存在感と華でカヴァー。でも独特の存在感は魅力です。丸橋忠弥に関しての拵えはもっと研究したほうが。目元がパンダメイクでちょっと笑ってしまう…。ポスターくらいの拵えになぜしなかったのか?ポスターはカッコイイのに。

小弥太@愛之助さんは立ち居地としては良い役でしたし丁寧に演じていたとは思います。しかし行動原理が脚本の粗の部分で小弥太というキャラクターがハッキリせず損してた気が…。友情のためか武士としての矜持のためか何のために動いているのかが見えてこず、単に気持ちがふらふらしてるようにみえる。だから友人を裏切るのも唐突だし、その後、家老に裏切られ忠弥側に立つ心持ちも不鮮明。どうせなら友情の部分、突っ込んで演じてみたほうがよかったかも。

由比正雪@染五郎さん、少ししか出番ないですが非情さとカリスマ性があって謀反の中心のいる人物としての存在感がありました。謡いながら舞うシーンは素敵でした。

牧野監物@歌六さん、お家大事の冷酷さを腹に秘めつつ大義名分を滔々と語る、上手いです。忠弥母藤@竹三郎さんが気位が高いものの可愛らしさがある母。忠弥妻節@高麗蔵さんは控えめならがしっかりと忠弥を支える妻。金井半兵衛@友右衛門は佇まいに謀反側のどことなく怪しい雰囲気をみせる。べテラン組がさすがに舞台を締めていました。

田中格之進@亀鶴さんも芝居も殺陣も的確でさりげなく上手いです。内藤主膳@薪車さんが前に比べて骨太な感じになってきていました。

個人的に殊勲賞は丸橋家に仕えるじじいの八蔵役の錦一さん。『伏見の富くじ』の黒住平馬に使える牛山役を含めて錦一さん、とてもいい味わいでした。主人のために一生懸命になっている姿がとても良かったです。老け役は難しいのですがまだお若いのに老け役が似合う。これから役の幅が広がるのではないでしょうか。

同じ丸橋忠弥ものでいえば『慶安太平記』でも殺陣が見所になるけど今回も最後が大立ち回り。名題下の方々がよく動いてて感嘆。早い殺陣でもしっかり綺麗に動く。

『大當り伏見の富くじ』
今月の松竹座は個人的に『大當り伏見の富くじ』が最高に楽しかった。これだけで満足しすぎて他の演目はおまけ的な(^^;)ぐらいの勢いでした。 私はコテコテの笑いは実は苦手。でもこれは楽しくて楽しくて。物語の核の部分がしっかり歌舞伎のお約束があったうえで現代の演出アレンジで遊んでいたのが 私のツボでした。それとベタだけどほろりとさせてハッピーエンドなのも気持ちよかった。最後のフィナーレは完全に観客サービスだったけど徹底的にそこまでやってくれたのも良かった。

歌舞伎のくすぐりがいっぱい入っていたのが嬉しかったです。『籠釣瓶花街酔醒』『仮名手本忠臣蔵』『封印切』『切られ与三』は確実に入っていました。他にもありそうな気がすると思っていましたら友人たちから『助六』『筆幸』『吉田屋』も入っていたとのこと。

今回の『大當り伏見の富くじ』は明治時代に書かれた歌舞伎の脚本『鳰の浮巣』を元に新作として新たに書き下ろした作品です。染五郎さんが歌舞伎でハッピーエンドの喜劇を作りたいとの思いから作られた芝居。ネタをすべて計算し作りこんでアドリブはなしという喜劇。単に笑わせるだけではなく相手を 思っての縁切りなどホロリとさせられるところあり、紛失したお家の宝探しなどの歌舞伎のお約束ありと物語としても良いお話となっています。演出はスピーディで舞台美術も簡素ながら視覚的には鮮やかで照明も工夫されており華やかさを失いません。また音楽は生演奏ではありませんが使い方が上手い。全体的に新作の初演とは思えないほどの完成度。

染五郎さんは歌舞伎の手法を一切使わずに作るとおっしゃっていましたが、外部出演の経験をフルに生かした演出でその引き出しの多さに感嘆しました。また演出的に歌舞伎の手法を使わないものの演技の骨格の部分が歌舞伎なので「歌舞伎」として違和感なかったです。そういう意味で歌舞伎演目からとったくすぐりの部分、歌舞伎の手法もかなり生かされていました。また役者さんが皆キラキラしていました。役者さんの良い面が前面に出てきてる芝居だった。染五郎さんの新作や復活狂言を拝見するに演出家として役者さんたちのそういうところを引き出すのが上手いと思う。

大阪松竹座というハコ向けに作ったお芝居ですので関東で再演はよほど手直ししないと上演できないでしょうから関西限定なお芝居かな~とは思います。でも関西でいいので再見したいです。

幸次郎@染五郎さん、まず一言、染ちゃんアホや~~~!!(良い意味で)。かなり抜けているけどお人よしで優しくて憎めない愛嬌の持ち主を活き活きと楽しそうに演じていました。また落ちぶれてはいるけれど元大店のボンらしくふんわり品があり色気もある。情けない役を演じつつしっかり芯として華やかにそこにいる。アホぼんに徹して徹底的に演じることで皆を引っ張っていってました。これはお見事だと思いました。情けない役を演じているのに可愛いしカッコイイ。自虐ネタから入りそこから一気に様々な表情をみせ舞台を駆け抜けていました。芝居の緩急が上手いのですね。アホな部分で笑わせて、でも切ない恋模様を繊細にみせていきます。幸次郎、幸せになれて良かったねとしみじみ思わせました。

鳰照太夫@翫雀さんが超ラブリーだった。もうそれだけで個人的にツボに入りました。ぶさだけど愛嬌があるという設定ですが、いやいや可愛いですって。幸次郎@染五郎さんに「もちもち~っとしててまんまるでお月さんのようでほっぺた押すとこし餡がぷにゅ~と出てきそう 」と言われるふくふくしい姿と笑顔。ふんわりとしたなかに品格がありそしてしっかり太夫の切なさも演じてくれてとても素敵でした。幸次郎が惚れるのもさもありなん。すぐに下駄が脱げてしまうお茶目さと苦界に生きる女の切なさ、好いた男を思う優しさ、そういものをごく自然に演じお見事でした。また幸次郎@染五郎さんと鳰照太夫@翫雀さん、お二人とも何をしても品がよいのでカップルぶりが可愛らしいんですよね。思わず応援したくなる。『京乱噂鉤爪― 人間豹の最期 ―』での今回と男女逆の配役ですが実次@翫雀さんと大子@染五郎さんのカップルも可愛らしかったな~と思い出し、このコンビのカップルぶりが私は好きなようです。

お絹@壱太郎くん、兄思いでしっかりもののお絹ちゃんを可愛らしく演じていました。健気だけど芯がしっかりしているお役が似合いますね。ほんとに呆けてしまった兄、幸次郎を甲斐甲斐しく世話するところなど本当に心根がいい子だなって思わせました。またコメディの部分では時々ハイトーンすぎる声がここでは上手く活かされていました。お絹ちゃんが言い寄られて「ほんまにいやーーー!」っていう場面笑えました。最後の場面で花道で雛江@米吉くんと一緒にぽいぽいと踊る場面ではおきゃんな感じ。踊り上手ですね。かわゆし。

雛江@米吉くん、おっとりと優しい鳰照太夫づきの新造さんの雛江を演じます。品よくふんわりふんわりとして人形のように可愛いです。声も可憐で女形さんに向いてると思います。お絹@壱太郎くんと花道でぽいぽいと踊るところも柔らか。かわゆし。

千鳥@宗之助さん、鳰照太夫の妹分の太夫。少し幸薄そうな女の子を演じるとピッタリ。いえ、千鳥は幸せになりますけどネ。また今回は立役と女形の声を一瞬で切り替えるという技をやってのけます。

黒住平馬@獅童さん、お絹@壱太郎くんに惚れこんで汚い手を使ってでもなんとか手に入れようとする殿。ずれまくる鬘がトレードマーク。キモいです、とてつもなくキモいです(笑)。ちょっと甘えた口調でベタベタとお絹に迫る。いやあ、よくぞやってくれました。時に遊びが過ぎがちな獅童さんのキャラを存分に使って完全に飛び道具。そこにいるだけで笑える。獅童さんに愛嬌があるからこそできたお役だと思います。キモいけどどこか可愛いんですよね。

雪舟斎@歌六さん、大団円に導くデウスマキナな役割を飄々と演じ舞台を締めます。判じ物を解く場ではなんと古畑任三郎に。 邦楽アレンジした古畑任三郎テーマ曲にのり片手を額にあててかっこよく。

お爪@竹三郎さん、強欲ばばあをそのまましっかりと演じ舞台に歌舞伎世話の空気を感じさせてくださいます。で、でそれだけではなく竹三郎さんもなんと「家政婦のミタ」ネタをっ。

小春/伏見の神官@千壽郎さん、鳰照太夫の飼い犬の狆の小春ちゃんとちょっと変わった伏見の神官をユーモラスに演じます。小春ちゃんはキュート。ふわふわの長い耳をかきあげつつ失意の幸次郎を慰める役なんですがなんとも可愛い。伏見の神官はいたって真面目に可笑し味を出しておりました。

信濃屋伝七@愛之助さん、渋くかっこよくキメておりました。

芳吉@亀鶴さん、喜助@松也さん、幸次郎の友人のボン二人。ボンらしい佇まいで良い友人なんだか悪い友人なんだか二人組のじゃらじゃらが面白いポイントに。

他にも書きたいことがいっぱい。ありすぎて書ききれません。ベテランが遊びつつしっかり締めてくれて若手や脇が思いっきりきちんとはじけてて。役者さんが皆本当にキラキラしていました。

大阪松竹座『二月花形歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター/3等3階前方センター

2012年02月25日 | 歌舞伎
大阪松竹座『二月花形歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター/3等3階前方センター

24日(金) 1等1階前方センター
25日(土) 3等3階前方センター

『すし屋』
唯一の古典。古典は骨格がしっかりしてるのでまずその部分で楽しめるんだなと今回もつくづく思う。花形で観るのは久しぶり。最近ベテランのばっかりだったのでいかにも花形だなという印象ではあるけどそれぞれの役者がきちんとハマっていたと思う。完全に松嶋屋型。

権太@愛之助さん、骨太でいかにも「いがみ」ぽい雰囲気でニンに合った役だと思う。少々泥臭さがあるのがいい。仁左衛門さんとの個性の違いがこの役には出てる。今までは仁左衛門さんコピーがすぎて個性がみえない部分があったけど、今回の役はきちんと自分の個性が出てたのではないかしら。前半が非常に良かった。荒くれ者の粗暴さと家族への甘えがうまく出ていた。後半は松嶋屋型の早めにハラを割る芝居。妻子を差し出す辛さを真っ直ぐに。腹を刺された後のクドキはまだまだ。歌六さんに助けられてるけど残念ながら不鮮明。愛之助さんの権太を観て思ったけど松嶋屋型は『木の実』の段ありきの型だな~。次回はこの段含めて演じてほしいです。

維盛@染五郎さん、今回はおこつきがなかったし松嶋屋型に準じていました。前回演じてたときは播磨屋型の江戸前の型でした。二枚目風情が今回はしっかりとあり、また弥助と維盛の切り替えがだいぶ鮮やかにできるようになってました。また悲哀の部分が鮮明になり存在感があるので維盛一家の物語という側面が鮮明に。染ちゃん、初演時の維盛から比べて段違いに良くなっていた。

お里@壱太郎くん、娘らしい一途さとそこにある気の強さのバランスがいい。体の使い方も堂に入ってる。伸び盛りの役者らしい華やかさも。全体の緩急や声はまだコントロールが利かないところもあるけどこの年齢でこれだけやれたら大したもの。拵えはもう少し工夫したほうがいい。ちょっと色をきつく入れすぎじゃないかと思う。元が可愛いのだし若いんだからあそこまで作り込まないほうがいいと思う。もったいない。

弥左衛門@歌六さんの、初演した時は少し手探りなところがあったと思うが完全に手の内に入れてきた。歌六さんの弥左衛門は手強さがあり義の部分が鮮明。それだけに弥左衛門一家に降りかかった理不尽な悲哀がそこに浮かぶ。舞台をしっかり引き締めていました。

お米@吉弥さん。最初、老け役?とビックリしましたたけど思った以上にハマってて上手いです。しかもとても可愛らしい母。とっても良かったです。

若葉の内侍@米吉くんはそもそも無謀な配役。そういう意味で格の部分や体の使い方などはまだまだだけど品があるのと憂いがあって想像以上に似合うし受けの芝居もできてる。幼い妻ぽいので恨み言が切実だったりもした(笑)。維盛、罪な男だのう。

『研辰の討たれ』
若手らしい勢いとそれゆえの粗が大きくでた芝居でした。

野田版でない演出で原作通りのは初めてみました。原作通りだと辰次がほんとにお調子者で屈折したイヤ~な部分を持っているのがわかる。野田版は本筋は思っていた以上に同じではあるけど家老の死因などだ いぶ柔らかく辰次にも平井兄弟にも感情移入しやすく作り変えてあるのですね。それと野田版では群集心理の怖さを描いてるけど原作はそこまでではない。また今回の演出は場ごとに幕を閉め転換する昔ながらの演出で野田版を見てるだけに転換が間延びするのも場ごとは面白かったのでもったいないなという感じ。個人的には全体的に野田版の作りのほうが好きです。

それと今回、気になったのは最後の場面が笑いに走りすぎていて原作にあるであろう皮肉や悲哀がきちんと出てなかった部分。笑いに走るのはいいけれどそこからもっと空気をガラリと変えなくては意図が伝わらないと思う。最後の最後、あそこまで笑いに走るのであれば辰次が助かったとホッとしてから平井兄弟が出て来るところはもっと間を溜めるべきだった。 もっといえば平井兄弟は笑わせに走るべきではなかった。野田版では平井兄弟は終始真面目に辰次と相対していた。だからこそ滑稽なまでの辰次の足掻きが生への執着にみえただの笑いにはならなかった。今回は平井兄弟の二人も笑わせに走ったり笑ってしまうので笑いが前面に出てしまう。本来、最後のあがきの場では辰次も平井兄弟も悲哀を味わってるはずなのにそこが三人ともに出ない。残念ながら中途半端な出来になっていた。前の幕までは演出は少々間延びはしていたものの場とてはそれぞれしっかり見せていたと思うし。粟津の城内や宿屋内の場が良かっただけに最後の場だけがそこから浮いてしまって残念ながら中途半端な出来になっていたように思う。もったいない。

辰次@染五郎さん、基本勘三郎さん写しだだったかなと思います。ただ卑屈さのなかに終始愛嬌のあった勘三郎さんの辰次より染五郎さんの辰次のは町人出の劣等感ゆえの卑屈さいやらしい部分が強調されていましたた。拵えもかなり不細工に作っている。粟津の城内での劣等感での同僚への横柄さと奥方に対する調子のよい媚びやお追従を上手く表現し表面的な軽々しい屈折した辰次を造詣。また宿場での場でも軽々しいなかに横柄さがあり人のいやらしさを出すとともに逃げ惑う様は身体性でみせ、所詮小物の可笑し味もみせていく。ここまではとても良かったと思う。ただ最後の境内の場でこのせっかくの造詣を活かしきれていない。野田版の勘三郎さんの辰次のキャラ造詣に引きずられている。そういう 点で勘三郎さんの求心力まではまだいかないけどだいぶ人を巻き込むことはできていた。しかしながら前半の造詣と齟齬がでた。辰次ののらりくらりぐだぐだと あがいている様は笑いを誘う。そこはいいと思う。みっともないまでにあがく、そこが出ればいい。でも死にたくない生への執着心までは出てなかった。みっともなさのなかに悲哀が多少感じられたものの笑いに引きずられた感がある。

九市郎@愛之助さん、才次郎@獅童さん、宿屋内までは丁寧に演じててとてもよかったと思います。ところが最後の境内の場に入ってからはぐだぐだ。花道の出から笑いに走るのはどうなのか?特に九市郎@愛之助さんは何が可笑しいのか出てから笑いっぱなし。才次郎@獅童さんは真面目な顔でそんな愛之助さんに突っ込みを入れる。そういう意味では獅童さんは笑いと真面目の部分の緩急はできていましたがどちらかというと笑いを取るほうに気を取られていた感じ。なのでこの兄弟あだ討ちの旅に疲れた悲哀を出せてない。やはり笑いに引きずられどうにも最後締まりませんでした。

粟津の奥方@高麗蔵さん、奥方らしい品と天然な真面目さでとても良かったです。

平井市郎右衛門@友右衛門さん、真面目で融通が利かない家老を真面目に。もう少し町人出の辰次をばかにしている風情があってもいいかな。

粟津の家来衆は皆さんそれぞれ個性があって良かったです。

世田谷パブリックシアター『カラス/Les Corbeaux』 1階前方センター

2012年02月17日 | 演劇
世田谷パブリックシアター『カラス/Les Corbeaux』 1階前方センター

今まで私が観てきたコンテンポラリーダンスのなかで一番抽象的でテーマを受け取るのが難しかったけど、そこを含めて色々と面白かった。私は異形を感じるものが大好きだ。

コンテンポラリーダンスというよりパフォーマンスアートといったほうが近い印象。生演奏の音楽とのセッション、即興の絵、砂と金属の筒を使った音と筒の構築、そして身体表現。なんとも緊迫感に満ちた不思議な空間がありました。おじさん同士が遊んでるようにも見えるんだけどね。実はちょっとシュールで笑いがこみ上げてくる部分もあったんだけど笑える雰囲気ではまったくなく。観客のあの静けさもまた舞台の空間のひとつ。

アコシュ・セレヴェニ氏の音楽が色々と楽しかった。不協和音一歩手前なんだけど耳障りではない。サックスを声を出しながら吹いたり、リードを使わないで吹いたり(すか~っという音を出すw)、急の大音量で鳴らしたり。弦や打楽器は東洋的な音使い。アコシュ・セレヴェニ氏の唸り声は途中、お経のようにも聴こえた。絶えず音を鳴らすのではなく静寂と音と。ポストトークでその「間」を大事にしたとのことでした。そこに真実があると。フリー演奏なのか決まった演奏なのかわからなかったのだけど、どうやらフリー演奏だった模様。

ジョセフ・ナジ氏は最初は白いスクリーンの裏で音に合わせて絵を描いていく。四角い箱をかぶっていて人影が抽象的になる。絵は適当そうにみえて意外と緻密なバランス。絵が上手いんだろうなと思う。最初は落書きしたりアコシュ・セレヴェニ氏と一緒に砂で遊んだり(笑)しているので普通のおじさんに見えた。でも踊り始めたら凄かった。腰を落としてちょっと独特の姿で数秒静止したのだけど、それがとんでもない質量感。人の身体があれほどの質量を感じさせるのかと驚いた。ずしっとした重さがそこに現れた。そして動き始めるのだけど、人を連想させない。異形がそこに蠢いてる、私にはそんな風にみえた。カラスというより異形。ジョセフ・ナジ氏が描くカラスは羽ばたかない。どちらかというと甲殻類系ぽかった。特に最初のほう。ザムザを連想。後半大きなインク壺に身を沈め真っ黒になる。てらてらと光ったその姿が彫像のようにもみえる。ゆっくりと動きながら白い床に黒々と痕跡を残す(描く?)。白と黒、光と闇、その境界に立ち現れた異形。

この舞台にテーマがあったとしたならば正直、私にはそれが何かわからなかった。でも驚きや感覚的な面白さは感じた。とはいえ黒意外はカラスへの連想が出来なかった私…。黒々とした異形が変態し殻を脱ぎ捨てたみたいなイメージ連想しながら観てました。どう考えても全然違いますね…。壺はカラスの行水かしらん?で、濡れそぼったカラスがバタバタと水と飛ばしまくると(笑)。とか、そんな短絡的なものではないと思います(^^;)、と自己ツッコミ。神話的な物語を重ねているということなので東ヨーロッパの伝説・神話を知らないときちんと理解はできないのでしょうね。

終演後ポストトークがありました。

出演:ジョセフ・ナジ/アコシュ・セレヴェニ
ゲスト:野村萬斎(世田谷パブリックシアター芸術監督)/田村一行(大駱駝艦、ナジ振付『遊*ASOBU』出演)

通訳を挟むし若干噛み合わないところもありましたけど楽しいトークでした。萬斎さんは相変わらずフリーダム(笑)。

○カラスのイメージについて。
萬斎さん「日本ではゴミを散らかしたり嫌われものという印象があるが。
ナジさん(旧ユーゴ出身のフランス人)「故郷では知恵、長生きの象徴でポジティブなイメージ」
萬斎さん「日本でいう八咫烏のほうですね。神話的な。」
ナジさん、「そう、神話的なほうのカラス。日常のカラスではないほうのイメージで。」

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世田谷パブリックシアター『カラス/Les Corbeaux』
[振付・出演] ジョセフ・ナジ
[音楽・演奏] アコシュ・セレヴェニ

《プロフィール》
◎ジョセフ・ナジ[振付・出演]
旧ユーゴスラヴィア(現セルビア)のカニジャ生まれ。大学で美術史と音楽を学ぶ傍ら武道や演劇にいそしむ。舞台を志し渡仏後、パントマイムをマルセル・マルソーに師事。87年、『カナール・ペキノワ』でデビュー。95年、フランス国立オルレアン振付センター設立に伴い、芸術監督に就任。演劇的で詩的なユーモアに溢れる独創的なスタイルのステージで世界中に熱狂的なファンを集める。第60回アビニョン演劇祭のアソシエイト・アーティストを務め、オープニングプログラム『遊*ASOBU』(世田谷パブリックシアターとの共同制作)で、黒田育世(BATIK)、斉藤美音子(イデビアン・クルー)、田村一行、捩子ぴじん、塩谷智司、奥山ばらば(以上、大駱駝艦)らを起用、世界5ヶ国15都市をツアーし一大センセーションを巻き起こした。振付家としてはもとより、立体作品や絵画、デッサンなど、美術家、写真家としても活躍している。

◎アコシュ・セレヴェニ[音楽・演奏]
ハンガリー出身。幼少よりクラシックや民族音楽を学び、17歳でジャズ・ミュージシャンとしてデビュー。フリージャズ、即興ジャズの分野で活躍する一方、数々の舞台・映画への楽曲提供、伝説的ロックバンド ノワール・デジールのサポートメンバーを務めるなど、多方面で活動。同郷のジョセフ・ナジとは『遊*ASOBU』をはじめ近年の代表作で共演。ナジが最も信頼を寄せるミュージシャンの一人。

http://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/02/les_corbeaux.html

新橋演舞場『勘九郎襲名披露 二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席左袖

2012年02月11日 | 歌舞伎
新橋演舞場『勘九郎襲名披露 二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席左袖

3等A席か2等B席あたり取りたかったんですが満席でかろうじて残っていた3等B席左袖席。かなり見切れるだろうなと思っていましたが位置が良かったらしく思ったほど見切れのストレスはなかったです。3等B席は1列目のほうが良いみたい。

『鈴ヶ森』
これぞ大舞台という濃密な空間がありました、素晴らしかった。夜の部は最初のこの演目だけで大満足してしまったくらいです。『鈴ヶ森』という舞台はこういうものなんだ、と見せ付けられた気分です。今までは単に役者ぶりを楽しむ芝居と思っていましたけど、今回の舞台はそれだけではありませんでした。『鈴ヶ森』の場に連なる背景がみえる。本当にこの舞台を観ることができて良かった(感涙)。

白井権八@勘三郎さん、絶品です。まさしく腕の立つ十代の水も滴る美少年、白井権八がそこにいました。身体の運び、台詞廻し、身体から発する風情、すべてがピタリとハマっている。私は勘三郎さんは基本二枚目役者だと思っているのですが、これぞ二枚目役者と思いました。またそれだけでなく、芝居のそのなかにどんな素性でどんな人間なのかが佇まいから知れる。白井権八という人物造詣に厚みがありました。世間知が足りないながらも神経を絶えず尖らせ隙がない。見事というしかない。

幡随院長兵衛@吉右衛門さん、絶品の白井権八@勘三郎さん、に相対するはどっしりと大きい存在感と芯にやはり厳しさ鋭さを持つ長兵衛でした。もうこの役者しかいないでしょう、というくらいやはり役にハマる。いかにも任侠の世界で生きる粋な男気があり、またそのなかに影を背負う。洒落た台詞のなかに一筋縄ではいかない人物像を垣間見せる。上手いなあと唸ってしまいました。

対照的でありながら芯の部分が同じ、そんな二人でした。本当に面白かった。吉右衛門さんと勘三郎さん、姿や雰囲気が対照的で、かつ芝居の質は同じという絶好のコンビ。これから共演を増やしていっていただきたいです。

『口上』
勘三郎さん、前の幕で本当にみずみずしい若者でしたがここでは子を必死に守り立てようとする素の父。それがとても印象の残りました。新・勘九郎くんは真摯に皆の言葉を聴いており真面目な性格そのまま。

全体的にアットホームな暖かい雰囲気でほのぼのな口上でした。仁左衛門さんが超カミカミでした…(笑)。吉右衛門さんが列座しているのにはしみじみしちゃいました。芝雀さん、綺麗でした~。扇雀さんの地声が凛とした良い声でおっって思いました。知的な声なんですよね。

『春興鏡獅子』
新・勘九郎くんらしい丁寧できっちりとした踊りでした。弥生は振りの一手一手をおろそかにすまじといった感じでかっちりかっちりと踊っていきます。そこに風情はまだ生まれていません。お父様の勘三郎さんの弥生のもつ柔らかさ、可愛らしさ、華やかさ、背筋にある色気はそこにありませんでした。そして舞踊のなかの背景もまだ鮮明に出てきていない。とにかく正確に踊りこむ、そういう弥生。なので弥生じゃなく勘九郎くんだった。まだ勘九郎くんの弥生が表に出てきてない、そう私には見えました。だから正直に書くとほんとによく踊っているとは思っても感動するとかわくわくするまでには到らなかった。ただ単なる勘三郎さん写しの動きでないところに、面白みを覚えました。首の使い方が勘三郎さんソックリ。でも全体の身体の使い方は勘三郎さんとちょっと違うんです。音を刻んできっぱりと使う身体がどちらかというと三津五郎さんのような雰囲気。新・勘九郎くんの個性というものがそのなかにあったような気がする。どの方向にいくかはこの次でしょう。

獅子のほうはさすがにしっかり獅子の精が立ち現れていました。特に良いのは線の太さ、力強さ。神聖まではいきませんが若獅子らしい昂ぶりがあります。またどこまでも真っ直ぐなキレあじのよさ。これは勘九郎くんの持ち味。毛振りは勢いがあって毛は絶えず上向き、しかし残念ながら珍しく安定していませんでした。膝を痛めてから毛振りに関して昔の安定感がないのでまだ膝が治りきっていないのかな?と思う。

ちょっと厳しめな感想になったかな?こちらの観る目、ハードル高くしすぎたかも。どうしても勘三郎さんの鏡獅子が基準になるので。

『ぢいさんばあさん』
新歌舞伎なのであまり好みじゃない芝居なんですが今回はわりと面白く拝見。妙な引っかかりを覚えずに納得できたんですよね。三津五郎さんの芝居に対するリアル志向がかえって「人の年月」を感じさせたせいかも。所詮男ファンタジィーな芝居ではあるけど、他の役者の時より切なさがあったように思う<私だけかな?

伊織@三津五郎さん、元々がカンの強い伊織にピッタリで説得力があった。単に真面目で人のよい人物ではないのですよね。伊織の欠点ゆえな部分もみせてきて、かえって「後悔」が自然。預かりになった37年間、おだやかに生きてこられてないんじゃないか、それゆえに長年帰れなかった家に対する思い入れが強くなっているんじゃないかな~と。ちょっと切なかったです。

るんは@福助さん、頑張りすぎじゃなかろうか…もう少し肩の力を抜いて自然体でやればいいのになあ。台詞がちょっとベタッとしてしまうのが、こういう武家の奥方の役のときだと気になります。かえって、ふけてからは私は良いと思いました。るんなりの想いがしっかりみえて、顔だけではなく立場が変わった身の部分もきちんと見えたし、ひたすらに生きてきたんだなと思わせて。

下嶋@橋之助さんはだいぶ強く作ってたと思うけどやっぱり悪い人にみえない。下嶋ってキャラは難しいですよね。しつこいけどヘンなことは言ってないんだもの。下嶋が殺されるのは理不尽だなと可哀相になっちゃって。なんとなくもっとネチネチと意地悪なタイプのほうがすっきりするのにと思って観ていたんですが、橋之助さんは悪い人として演じなかったそうです。でも、考えてみたらそのほうが伊織の37年の重さが際立ちますね。三津五郎さんの伊織に対しての下嶋としてはこちらのほうが正解だったのかも。

宮重久弥@巳之助くんと妻きく@新吾くんの若夫婦が可愛くて可愛くて。二人とも爽やかで良かったです。とても真っ直ぐな芝居。

久右衛門@扇雀さん、私最近は扇雀さんは立役のほうが好みです。今回の役は短気で感情の波が激しいって雰囲気はないものの直情さがあって、美濃部家を守るために生きていく人という部分納得できました。

東京オペラシティコンサートホール『バルバラ・フリットリ ソプラノ・リサイタル』 C席R2前方

2012年02月01日 | 音楽
東京オペラシティコンサートホール『バルバラ・フリットリ ソプラノ・リサイタル』 C席R2前方

久しぶりにオペラ歌手のリサイタルに行きました。私はクラシック音楽好きですが「歌」はあまり聴きません。「歌」に関してはほとんど初心者なので聴きやすいかな?と思った今日のプログラムのほうを選びました。オケを挟みつつ前半は歌曲、後半がオペラアリアという構成。

前半のマルトゥッチの作品は初めて聴きましたが叙情的な曲調。聴きやすい感じですね。

「追憶の歌」、歌曲はどう聴けばいいのかよくわかないこともあり訳詩を片手に聴いておりましたが全体的にまろやかな良い声だなあとまったり聴く感じになりました。歌声も安定していて聴きやすいし声質の良さは堪能しましたが情景や情感がしっかり伝わってきたとは言いがたかったかな。初心者には歌曲は難しいですね。歌曲のみだけで感動したのはホセ・カレーラス氏のリサイタル。内容がわからなくても情景や心情が繊細かつ豊かに伝わってきました。あのくらいのクラスになるは大変なんだろうな~。バルバラ・フリットリはまだ若いですから歌曲を情感たっぷりに聴かせるのはまだこれからというところなのかもしれません。

後半はオペラ楽曲。曲目がわからずとも聴いたことあるという曲が並びます。さすがにドラマチックでわくわくします。そしてバルバラ・フリットリはオペラアリアになって俄然活き活きとして、情感たっぷりに美しい歌声を聴かせてくれました。本当に正統派のまろやかな声でしかも声量もたっぷり。バルバラ・フリットリの本領は役に入り込んだ時なのでしょう。歌声だけで役がしっかりみえる。素晴らしかったです。圧巻は『アドリアーナ・ルクヴルール』、高音を伸ばす技術も圧巻だけどそれ以上になんというか歌声そのものがドラマチック。なんだかもう感動。そしてアンコール曲の『トスカ』にも心震えた。ほんと良かったわ~~。

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<バルバラ・フリットリ ソプラノ・リサイタル>
Barbara Frittoli in Japan 2012

【日時】2月1日(水) 7:00 p.m. 
【会場】東京オペラシティ コンサートホール
【曲目】
第1部  7:00 p.m. - 7:50 p.m.
G. マルトゥッチ Giuseppe Martucci
*「タランテッラ」 [オーケストラ]
  Tarantella, Op. 44, No. 6
*歌曲「追憶の歌」 
  "La Canzone dei ricordi"

-休憩20分-

第2部  8:00 p.m. - 8: 50 p.m.
G. プッチーニ Giacomo Puccini
*歌劇 『修道女アンジェリカ』 より  間奏曲 [オーケストラ]
  SOUR ANGELICA, Intermezzo
*歌劇 『ジャンニ・スキッキ』 より ラウレッタのアリア"私のお父さん"
  GIANNI SCHICCHI, "O mio babbino caro"
*歌劇『妖精ヴィッリ』 より 第2の間奏曲「夜の宴」 [オーケストラ] 
  LE VILLI, "Tregenda"
*歌劇『マノン・レスコー』 より MANON LESCAUT
マノンのアリア "この柔らかなレースの中で" ActⅡ"
  In quelle trine morbide"
*間奏曲 [オーケストラ] Intermezzo
F. チレア Francesco Cilèa
歌劇『アドリアーナ・ルクヴルール』 より ADRIANA LECOUVREUR
第4幕アドリアーナのアリア"哀れな花よ" "Poveri fiori"
第1幕アドリアーナのアリア "私は創造の神の卑しい僕" "lo son l'umile ancella"

【アンコール】
プッチーニ「トスカ」~歌に生き、恋に生き

指揮:カルロ・テナン
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団