Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

世田谷パブリックシアター『ロマンス』 A席3階中央

2007年09月28日 | 演劇
世田谷パブリックシアター『ロマンス』A席3階中央

前回観たのが8月22日ですから1ケ月以上ぶりの2回目の観劇です。前回とても楽しくて追加で取ったチケットです。前回拝見した時にすでにかなり完成されていると思ったお芝居でしたが、そこからまたまた進化していてビックリしました。役者同士、非常にまとまりがよく楽しそうに演じていながらも、かなりのガチンコ勝負。天井桟敷からの観劇でしたが、皆さんすごいパワーでした。またそれぞれのキャラクターに幅と深みが出ていました。そして、前回感じた「喜びと哀しみ」が増幅されていて、喜劇と悲劇は裏腹なのだと胸に響きました。生きることの哀しみ、だからこそ「笑い」を作らなければいけないのだと。本当に素敵なお芝居でした。

今回目を惹いたのは松たか子ちゃん。大竹しのぶさんに押され気味だった松たか子ちゃんが、相当な成長ぶりを見せていました。マリアの誠実さと兄を生きがいにしてしまった女性の哀しみが切ないまでに伝わってきました。切ない台詞のシーンはなんとなくお兄さんの染五郎さんを彷彿させた。この兄妹は、切ない台詞を言わせたら絶品ですねえ。それと体の動きがなんと美しいこと。天井桟敷からだからわかったのかも。

またそのマリア@松たか子ちゃんの成長ぶりにまだまだ余裕で受ける大竹しのぶさんが本当に素晴らしい。緩急豊かな芝居と深みのある台詞。さすが、というしかないですね。

そして男優陣、井上芳雄、生瀬勝久、段田安則、木場勝己の四人がそれぞれ自分も持ち味をフルに発揮。井上芳雄さんの素直な芝居、生瀬勝久さんのユーモラスで線の太い芝居、段田安則さんの繊細で背筋の通った芝居(段田さんのチェーホフが一番、前回より変化がありました)、木場勝己さんの暖かく懐の深い芝居、それぞれに見応えがありました。素敵な時間をありがとう、と言いたいお芝居でした。

公演情報:
こまつ座&シス・カンパニー公演 「ロマンス」 世田谷パブリックシアター

作/井上ひさし
演出/栗山民也
音楽/宇野誠一郎
衣裳/前田文子
振付/井出茂太
ピアノ演奏/後藤浩明

出演/
大竹しのぶ (オリガ・クニッペル/他)
松たか子 (マリヤ・チェーホワ/他)
井上芳雄 (チェーホフ少年/他)
生瀬勝久 (チェーホフ青年/他)
段田安則 (チェーホフ壮年/他)
木場勝己 (チェーホフ晩年/他)

国立小劇場『九月文楽公演 第ニ部『菅原伝授手習鑑』』1等前方下手寄&中央センター

2007年09月24日 | 文楽
国立小劇場『九月文楽公演 第ニ部『菅原伝授手習鑑』』1等前方下手寄&中央センター

吉田玉男一周忌追善公演で、今日は玉男さんの命日でもあります。写真展がおこなわれていたので拝見いたしましたが写真なのに玉男さんが操る人形は存在感が抜群で情感がありました。本当に凄いです。


『菅原伝授手習鑑』前半段の通しでした。通しは歌舞伎でも拝見していますが、やはり文楽で観ると「物語」が際立ちます。覚寿@文雀さんの場の支配力が素晴らしかったです。詳細感想は後日。


歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 1等1階席前方上手寄り

2007年09月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 1等1階席前方上手寄り

『阿古屋』
大舞台ですね。吉右衛門さん、段四郎さんがいることで舞台が大きくなっています。吉右衛門さんの情のある重忠。段四郎さんの憎めない岩永。

そこに玉三郎さんの渾身の阿古屋がいるんですから大きくならないわけがない。玉様は微細に渡って計算しつくされた動きをしていますね。近くでみると文楽の人形を相当意識しているのがわかります。演奏しているときに顔の動きの間合いがちょっと独特。何かが以前と違うと思ったのはここの部分かな。

この三人の大御所のなかに入る榛沢の染五郎さんは控えめにしてても華がありました。

『身替座禅』
団十郎さん、ますます酔っ払い右京(笑)んで、まあ羽目物からは相当ずれてるんですけど、許せちゃう。団十郎さんのこういう役は好きなんですよね、私。

左團次さんの玉の井はやはり可愛気がないですねえ。もう少しふんわりした可愛げな部分があるといいなあ。でも奥方らしい品はありました。

染五郎さんの太郎冠者が一番羽目物のなかの人物でした。今回、羽目物からずれてるカップルのなかで一人上品にやっているので、なんとなくアンバランスな感じも受けますが飄々とした雰囲気で可愛らしいです。語る部分はしっかり軽妙に踊っていました。最近、こういう踊りに表情が出てきたと思います。

千枝&小枝がやはり良いです。実のところ今回のこの舞台を支えています。さすがはベテラン。それに二人ともとっても可愛いと思う。

『二条城の清正』
前回同様、やっぱり話には乗りきれませんでした。清正にどうしても思い入れができなくて。ただ、役者さんたちは皆しっかり仕事をしていたし、その部分では前回よりかなり楽しみました。

吉右衛門さんのラストの熱演が凄かった。たっぷり台詞を謳いあげていました。贔屓ならたまらない一幕でしょう。

二幕目の福助さんは超、美しい公達で惚れ惚れでしたが三幕目は幼すぎかと。二幕目の感じのままでいいと思う。

芝雀さんが前回よりあまりぶちゃいくじゃなかったです(おすべらかしが似合わないのですね…でも今回はすっきり見えました)。やはり存在感が出てきたと思います。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席中央上手寄り

2007年09月16日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席中央上手寄り

『阿古屋』
見栄えのする華やかな舞台でした。玉三郎さんの阿古屋の華やかさは勿論のこと、吉右衛門さんの大きさ、段四郎さんの濃さ、染五郎さんの爽やかさがいいバランスでした。それにしても吉右衛門さん、段四郎さん、染五郎さんの三人、本当にピタッと動かないでいますね。こういうところに役者の地力が見えます。

秩父庄司重忠@吉右衛門さん、存在感があります。裁き役として真摯に阿古屋に向かっているという風情があって良いです。また型のひとつひとつが丁寧で綺麗でした。時々、目が遠くなっているところがあるようでしたが(笑)

岩永左衛門@段四郎さんは人形ぶりの誇張のしかたが上手いですね。コミカルだけど軽くならないのが段四郎さんならでは。

榛沢六郎@染五郎さん、最初と最後以外は動かず座っているお役ですが瞬き以外ほんとに動かなかったです。しかも目がきちんと生きていました。

阿古屋@玉三郎さん、玉三郎さんの阿古屋は今回で3回目です。さすがに前回より着実にレベルUPしてきました。琴、三味線、胡弓の演奏で三曲ともきちんと演奏して聴かせることが出来る人はそうはいないでしょう。本当に大したものです。時々、三味線の伴奏と時々合わないのはご愛嬌。反対に三味線の伴奏が邪魔な時もありました。琴の演奏の時、三味線はいらないなあ、と思ったくらいに玉三郎さんの演奏が良かったです。また今回は特に胡弓が前回に比べかなりの上達していたと思います。阿古屋以外でも玉三郎さんの胡弓の演奏は2003年の『御所五郎蔵』の皐月で聞いていますが、段違いに上手くなっていると思います。奏法を少し変えてきたのか、肩の力が抜けたのか、安定感が増していました。

また演奏もさることながら、姿の美しさに磨きがかかっていました。隙がないというか、計算しつくされた絵のような姿でした。特に階段のところに身を投げ出すとこは本当に見事でした。思わず舞台写真を買ってしまいました。文楽の蓑助さんの阿古屋(人形とは思えない色気でした)を見てしまっているので「身ごもっている」という色気がもう少しあったら完璧なんだけどな、と少しばかり贅沢な注文もあるのですが、まあこれはほんとに持ち味の違いですから。ここ最近の玉三郎さんのなかでは個人的には阿古屋が一番の出来だと思います。

『身替座禅』
この演目はとにかく楽しいので好きです。

右京@団十郎さん、楽しそうに演じてるだけで私は満足でした。踊り、裾裁き、台詞回し等々、不器用な部分が多々ありますが、おおらかさがその足りない部分をカヴァー。見ていて気持ちのいいほんわかしたオーラがあったし、この演目に関しては「楽しませる」のが主眼だと思うのでそれでいいのです。

玉の井@左團次さん、柄の大きさで笑いを取ります。この方も不器用さのある役者さんですが無理なことをせずにストレートにやっているのが良かったです。もう少し可愛らしい部分を出してくれるとなお良いのですが。

太郎冠者@染五郎さん、飄々とした味わい。小手先に頼らず品よく演じてやはり見ていて気持ちいいものでした。主人に振り回されてのオロオロぶりは可愛いです。台詞回しも羽目物らしい味わいを終始きちんと保っていました。

小枝@右之助さん、千枝@家橘さんの二人がベテランらしい安定感。若手とは一味違い、とても良かった。またお二人とも想像以上に可愛らしさもありました。

さて、余談ですが今まで観てきた配役では玉の井は団十郎さんがマイベスト。個人的にもうこれ以上の玉の井はいないと思っております。もうほんと可愛い玉の井なんですもの。団十郎さんの玉の井、また拝見したいです。右京は菊五郎さんか吉右衛門さんのが好きです。

『二條城の清正』
こ、これは見ているのがキツかったです…。私の体調がよくなかったこともあると思うんですが、二幕目、三幕目のテンポがどうにもしんどい。一幕目は動きもあるし、わりと楽しんだんですけど…。

話の内容は悪くないというか、何を見せようとしているのはわかるのですが、どうにもこうにも見せ場が見せ場にならないというか。役者は皆しっかり演じていて悪くないのですが…。

吉右衛門さんは渋カッコイイし、福助さんは綺麗な公達だし、芝雀さんは存在感があるし、久しぶりに男女蔵さん良い感じですとか、桂三さんはちょっと出だけど何気に上手いとか、種太郎くんは可愛いとか、友右衛門さんとこの息子二人、頑張ってるじゃん(弟くんのほうが姿勢良し)とか、芝のぶちゃんやっぱ綺麗よねとか、その他諸々、個々に見るべきところはあるんですけど…。

どうにも今回は乗り切れないで終わってしまいました。2回目を拝見するときには体調を整えてしっかり見ようと思います。

歌舞伎座『秀山祭 九月大歌舞伎 昼の部』 1等1階中央花道寄り

2007年09月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭 九月大歌舞伎 昼の部』 1等1階中央花道寄り

『竜馬がゆく 立志篇』
一週間前に観た時より芝居全体が締まっていました。若手とベテランのかみ合いがとっても良いですね。若手中心の二幕目に勢いとまとまりが出てますます見応えがでていました。

改めて、物語を進めるうえでオムニバスという形式を取ったのは非常に良い選択だと思いました。一幕を30分程度にすることで飽きさせないし、それでいて竜馬の人となりを抽出し場面場面で強調することにより一貫性を保っている。そういう意味では脚本、演出ともに成功していると言っていいだろう。好みとしてはライトの使い方をもう少し工夫してほしかったり、花道をもう少し使えないかなとか、ツケを入れて欲しいなどの部分もあったりするのだが、新作ということを考えれば上出来だと思う。三部構成を考えているということなので今後、二部、三部も今回を踏まえてきちんと上演していって欲しい。

また、ワールドミュージック的なオープニング曲は前回は生演奏じゃない、ということについ疑問を持ってしまい違和感があったのですが今回は冷静に聴けたせいかとても素敵な曲だなと思いました。これが生演奏だったらたぶん全面的に受け入れただろうな。作曲は「き乃はち」という若手の尺八奏者だそうです。

一幕目では竜馬@染五郎さん、桂小五郎@歌昇さんのイキが合ってきて、「同士」と認め合う過程がよく見えてきた。しかし立ち回りの部分はもう少し短くしてすっきりさせてもいいかも。その代わり、もうひとつ何かエピソードを足すとかできたら、単なる出だしの幕という感じがなくなると思う。ここでは染五郎さんは突き抜けた明るさ、というものを見せてとてもいい。人は明るいものを惹かれるのだ。竜馬の「人たらし」ぶりは底抜けの前向きさ、だったんじゃないかなと思う。

二幕目、若手全員の頑張りが「熱い芝居」としての集中度に繋がっており、かなり見応えが出ていました。それぞれが自分の役柄にうまく入り込んでいたと思う。忠一郎@種太郎くんの一生懸命さが役柄にぴったり合い、若さゆえのプライドのための無謀さがよく出ていた。山田広衛@薪車さんが郷士を差別する側の「悪い部分」をしっかりと見せて好演。寅之進@宗之助さんがやさしい素直な青年を真っ直ぐに演じて哀れさを誘い、やはり好演。また、ここでの竜馬@染五郎さんは若者たちの中心にいる人物として芯のある芝居。華がある、というのはこういうことだと思う。また悲痛さを感じさせる怒りの芝居がやはり上手い。

三幕目、台詞の応酬にメリハリとリズムがつき、ますます見応えが。このシーンは台詞を聴かせる場になっており、勝海舟と竜馬の丁々発止という部分以外に歌六さんと染五郎さんの丁々発止として観る感じにもなり、歌舞伎らしい場だと思います。 空気がどんどん張り詰め、濃くなっていくのが目に見えるよう。千葉重太郎@高麗蔵さんは書生らしさがだいぶ出てきた感じです。

ラストのピンスポはやはり少々違和感があるのですが、盛り上がったところでそのまま一気にラストに、という演出は上手いと思います。竜馬@染五郎さんの謳いあげる決め台詞は非常にかっこいいです。前回観た時より声が朗々と響いていたように感じました。

『熊谷陣屋』
相模@福助さん、藤の方@芝雀さんの存在感が出てきて、大きさのある芝居になってきたように感じました。特に、前半のこの二人の芝居は非常に丁寧で情味のあるものでした。お互いの立場が明確にありつつ女同士、母親という立場同士で繋がっている雰囲気があり、バランスがとても良かった。

藤の方@芝雀さんは、しっかり前に出て存在感がありました。しかしやはり「品格」という部分が残念ながら足りない。こういう役をあまりしてない、ということもあるのでしょう。少しづつこういう役もこなし「格」というものも身に付けていってほしいです。

相模@福助さんは本当に丁寧にきっちりと演じています。また情味をとても感じさせました。ただやはり後半、その情味をうまく表現しきれていないかなと。でも雀右衛門さん、芝翫さんという大御所と比べてしまうのは酷というもの。これから除々にご自分のものにしていってくれるでしょう。

義経@芝翫さん、品格と情味のバランスが本当に見事です。

弥陀六@富十郎さん、こなれてきたせいでしょう、ますます存在感を際立ってきました。シンプルに演じているだけに弥陀六という人物の生き様がしっかり伝わってきます。

熊谷@吉右衛門さんがかなりの熱演。前回拝見した時よりいわゆる義太夫味の部分からほんの少し外れてリアリズム志向の芝居をしてきたと思います。かといって、リアリズムに流れることもなく熊谷という人物像の輪郭をくっきりと際立たせていました。哀しみを堪えに堪え、その「苦渋」を身に潜ませた骨太な頑固さのある熊谷像。だからこそ、ラストの崩れが活きてきます。型の流れが非常に洗練されていた、という印象も受けました。

今回、初代の芝居をかなり意識してきた、と思いました。初代の熊谷陣屋は映画で見ていますが、人物像にかなり無骨さがあり、また芯のある感情をリアルにしっかり伝える熊谷でした。この熊谷は幸四郎さんのほうが受け継いでいると個人的には思っていました。そういう意味では今回の吉右衛門さんは幸四郎さんの熊谷像と近くなっていると私は感じました。勿論、持ち味の違いもあり解釈も違う部分があり、同じものでは決してないのですが。それにしても不思議なもので、初代の持ち味を二人の兄弟がそれぞれに彼らの持ち味のなかで感じさせるのですよね。初代の持ち味は初代だけのものでそのすべて受け継ぎようがありませんが、それでも感じさせる部分がある、というのが受け継いでいくということなのかもしれません。

『村松風二人汐汲』
前回拝見した時は玉三郎さんと福助さんの資質の違いからくる踊りのバランスがしっくりこないと感じたのですが、今回はその資質の違いが非常にいいせめぎあいになっており、見応えのある舞踊になっていました。それにしても本当にこの二人が舞台に立つと華やかです。

玉三郎さんのお姉さん然としたしなやかで流れるような踊り、福助さんの妹らしい可愛らしさがあるメリハリのきいた踊り。この二人の対照的な踊りが上手い具合に濃密な空気を生み出しておりました。お互い持ち味を生かしつつも、しっかりお互い合わせるところは合わせてくる。前回、福助さんが玉三郎さんを横目で気にしながら踊っているな、と感じた部分が今回、きちんとキャッチボールになっていました。新作はやはりこなれて来る頃に見るほうが良いですね。

パルコ劇場『シェイクスピア・ソナタ』マチネ S席後方センター

2007年09月09日 | 演劇
パルコ劇場『シェイクスピア・ソナタ』S席後方センター

岩松了さん作・演出です。松本幸四郎さんが主催するシアターナインスのプロデュース作品ですから幸四郎さんが前面に押し出されている作品かと思ったら全然違いました。いわゆる群像劇で、アンサンブルでみせる芝居。中核にいるのは勿論、幸四郎さんですがあくまでもアンサンブルの一員としていました。こういう幸四郎さんを観るのは初めてかも。とっても新鮮。

戯曲がすごく独特で面白かったです。私が好きなタイプの芝居。ドラマチックなものではなく、言葉のひとつひとつを楽しむ感じ。いわゆるストレートプレイってほとんど見ない私ですがこの芝居って「テキスト」の試みって感じなのかなって思いました。まずはホンに役者が殉ずるというか。脚本にかなり仕掛けが多いのはわかるんだけど把握しきれない。微妙な情報がさりげなく入ってるんですよね。行き着く先が見えない芝居で、曖昧さを楽しむ大人の芝居でした。どの方向に向かっていくかが、みえない芝居というか。仕掛けがありすぎてわかりずらいんだけど、そこが面白い。

日常と芝居の境界線の曖昧さ。シェイクスピアの四大悲劇のエッセンスや台詞が日常の言葉に組み込まれてしまっているんです。読み解きが難しい。そしてそれだけでなく岩松さんの台詞は詩的でどこか哲学的でもある。厳しい視点と優しい視点がバランスよく共存している。台詞の掛け合いで物語がどんどん膨らんでいくんですよね。実際に姿を見せない何人かの登場人物が活き活きと立ち上がってきて、舞台にいる登場人物たちはそのいない彼らに翻弄され、影響されてもいきます。ラストがちょっと唐突すぎるのがどうなんだろう?と思ったりはしたんですが、それにしても見事なテキストだと思います。

また出演した八人の役者さんたち(松本幸四郎、高橋克実、緒川たまき、松本紀保、長谷川博己、豊原功補、岩松了、伊藤蘭)が皆とてもよかった。それぞれがきっちり芝居ができる人たち。こうなるとアンサンブルが面白いんですよね。

幸四郎さんは座長としての存在感はあるけど、中身は誰かの支えがなければ自分を見失ってしまうんじゃないかと恐れているような弱い男を演じています。そのキャラがまた妙にしっくりしていて印象的。台詞回しは独特な抑揚があり、感情の襞が見えてくるかのよう。この方が話すと、そこにない情景がくっきりと浮かんできます。

高橋克実さん、上手いですねえ。存在感があります。この方本人が持つキャラを最大限活かした人物像ではあるのだけど、間や表情にとても説得力がある。人としての弱さのなかに芯がある男性像にはとても共感できる。

緒川たまきさん、可愛いです。とにかく可愛い。オフィーリア的キャラなんだけど、その儚さ、思い込みの激しさがいい。幸四郎さんと夫婦役でラブシーンも一応あるんだけど、抱きしめあうシーンで「幸四郎さん、それはいかんだろう~~~」とツッコミを入れたく…。だってなんか犯罪的というか…ドキドキしちゃう(笑)

伊藤蘭さん、細い方なんですが輪郭がハッキリした芝居をする方でした。やはり独特の存在感がある。強さのなかの弱さ、弱さのなかの強さ。そういう女性をまっすぐに演じていました。

豊原功補さん、かなり二枚目。TVで観るよりカッコイイですね。そしてきちんと舞台役者としての存在感もありました。ちょっと単純さがあるまっすぐな青年という感じなのですが、単なる二枚目ではない。受動的なキャラが似合っていて、あたふたするところに魅力がありました。

長谷川博己さん、まったく知らない役者さんでしたが、なんとなくしなやかさのある芝居ができる人のように見受けられました。でも今回はそういう役ではありません。直情的で破綻した若者。とても難しい役かと思います。屈折した心情をどこに持っていったらいいかちょっとまだ迷いがある感じがしました。後半、うまくキャラに入り込めたら面白いものになりそうなキャラでもあります。

松本紀保さん、いかにもいそうな女性を演じていました。しっかり自分のポジションに自覚的。ただそのポジションに少し飽きてきて打開していきたい雰囲気をも感じさせました。少し台詞が一本調子なところがもったいないかなあ。

岩松了さんは道化的役割のキャラを楽しげに。何気に空気を動かすことができる人ですね。

そうそう岩松さんが日本のチェーホフと言われているのが納得できました。この芝居を観て、芝居としての「桜の園」がようやく私のなかでイメージが立ち上がった。この人の演出のチェーホフの芝居が観たい。

こう感想を書いていたらまた観たくなってしまいました。後半にいくと、まただいぶ印象が変わりそうな芝居でした。


作:演出:岩松 了
出演:松本幸四郎
   高橋克実 
   松本紀保 
   豊原功補 
   伊藤 蘭
   緒川たまき
   長谷川博己
   岩松 了

<あらすじ>
『ハムレット』、『マクベス』、『リア王』、『オセロー』の4大悲劇を演目に旅廻りを中心とした活動を通し、シェイクスピア俳優として地位を確立しているベテラン俳優の沢村時充(松本幸四郎)。彼の率いる一座の成長の影には8カ月前に亡くなった沢村の先妻の父、菱川宗徳の支援があった。菱川家は、石川県能登市で、造り酒屋をして財をなす資産家で、娘婿である沢村時充のため経済的援助を惜しまなかった。

長年連れ添った妻は、一座にとって重要な役を演じている中心的な女優でもあった。しかし、沢村は、妻が亡くなって一年にもならないのに、一座の二番手女優だった松宮美鈴(緒川たまき)と再婚。松宮が後釜となったのである。

一座は、年に一度の旅廻りの最後には必ず、菱川家の広い庭先に一座のために設置された舞台で,4大悲劇上演することになっており、今年も能登へ向かった。

沢村たちを一見暖かく迎えた菱川家ではあったが、沢村の先妻の妹である夢子(伊藤蘭)や、菱川家の入り婿、友彦(高橋克実)、本当に心から受け入れているはずがない。また先妻との息子である一座の若手男優・沢村美介(長谷川博己)、一座の中堅俳優・二ツ木 進(豊原功補)、山田隆行(岩松 了)、横山 晶(松本紀保)にとっても複雑な心境だった。

こうした状況の中、上演は始まるが、肝心の菱川宗徳が席に現れなかった──。果たして一座は、今年も例年のように無事に公演を上演し、幸せな夏の終わりを迎えられるのか。

歌舞伎座『秀山祭 九月大歌舞伎 昼の部』 3等A席

2007年09月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭 九月大歌舞伎 昼の部』 3等A席中央列センター

『竜馬がゆく 立志篇』
新作にしてはだいぶこなれた脚本でわかりやすかったです。あの長い話を無理に納めないで、オムニバスに仕立てたのはいい考えだと思った。また役者さんたちの勢いある芝居も見ごたえがありました。

坂本竜馬役の染五郎さんは線の細さを人好きのするほがらかさと素直な爽やかさでカヴァー。従来のイメージの竜馬からは少し外れるとは思うものの違和感なく演じていた。一幕目は若者らしい無邪気さがあって可愛いし、二幕目は中心にいる人物としての大きさがあり、また友人を死なすことになった土佐藩の現実を突きつけられ怒りを爆発させる部分に無念さと怒りの凄みがあり非常によかった。三幕目では素直さとおおらかさな明るさがあり以前より懐の深い破天荒な男を演じられるようになったと思う。

一幕目は竜馬と桂小五郎の出会い篇。いきなりこの場、というのは少々唐突感があったかな。でも竜馬の性格を印象つけるという意味では、桂小五郎との台詞のやりとりで明確になる。桂小五郎の歌昇さん、ちょっとイメージとは違うものの、冷静に大局を見極められるというキャラをまっすぐに。口跡のいい方なので、やりとりが明快でわかりやすい。だんだんに気心知れていく、というシーンがお互いらしい感じで良かった。また、竜馬を世話してるすぎ役の歌江さんがスパイスとして効いていて、楽しい場になっていました。

二幕目は土佐藩の郷士への差別への悲哀を描く。種太郎くんは真っ直ぐな気性の中平忠一郎役を頑張っていました。上士として忠一郎を侮蔑する山田広衛の薪車さん、きっちり敵役を演じていました。ここで上士の郷士への扱いをしっかり見せないと後が続かないので良い芝居。そして弟のために思わず向かっていってしまう寅之進に宗之助さん。ああゆう男ぽい役は新鮮。大人しい雰囲気の宗之助さんなので哀れさがあって私はいいと思う。高麗屋のお弟子さんの錦弥さん、錦一くんが暑苦しい郷士を熱演。この二人好きなのでつい目で追ってしまいます。

三幕目は勝海舟との出会い。この幕が一番面白かったです。丁々発止な芝居が好きなので(笑)勝海舟の歌六さん、台詞の聞かせ方が上手いです。江戸弁も心地よく明快。竜馬が勝の話に引き込まれていくのに説得力がある。歌六さん、染五郎さんの二人のやりとりにはピンとした空気が流れ気持ちを逸らさせない。

ラストはピンスポの演出。うーん、この照明はどうなのか?あざとすぎるような…。染五郎さんは独白芝居は上手いのでしっかり締める芝居。なんとなく奈落から船でも出てくるかと期待したけど、さすがにそれはなかった(笑)

全体的に『竜馬がゆく』はしっかり芝居として見せてきたと思う。ただなぜこれを秀山祭で上演したのかしら?という疑問符も。五月の吉右衛門座頭の演舞場での上演のほうがしっくりきたような気がしますが…。『鬼平』もやったことだし。それにしても主題曲には色んな意味で参りました(笑)。今から劇団☆新感線の芝居が始まってしまうのかと思いました。紗の幕に「竜馬がゆく 立志編」のタイトル、染五郎さんの目のアップ映像付き、みたいなのが、ばーんと降りてくるかと<半分期待した(笑)なぜ生演奏でやらなかったのかなあ。染五郎さんだったら生演奏にこだわる人なので生にしたと思うのだが。生と録音ではかなり印象が変わってきます。齊藤さん、あまり新派劇にこだわらないで、歌舞伎風味ももう少し大切にして欲しかったかな。照明の使い方も、もう少しフラットな照明にしてほしかった。フラットな照明で十分いけると思うし、もう少し歌舞伎ぽく見えたんじゃないかと。

演出家の齊藤雅文さんは新派出身なので演出が歌舞伎ぽくない部分が多々。歌舞伎では『ひと夜』、商業演劇の『信長』の演出もされています。歌舞伎という世界も大好きだけど新派の芝居を残していたいという想いも強い方のようです。そういう部分で確信犯的に今回の演出をしてきたんだろうと思います。齋藤さんなりのこういう演出も歌舞伎に取り込んでいってもいいのでは?という提示なのかもしれません。どうせやるなら新橋演舞場『竜馬がゆく』で3時間半くらいの芝居にしても良かったんじゃ…ともつい思ったりしましたが松竹としても歌舞伎座でやる意義というものの何かしら考えのあったことなんでしょうね。


『熊谷陣屋』
しごくスタンダードな『熊谷陣屋』を観たという感じです。自分のなかでなんですが。

熊谷の吉右衛門さん、安定感と大きさのある熊谷でした。骨太で揺るぎない。

義経役の芝翫さんの存在感が凄かった。上の立つものの威厳。そのなかに情を感じさせて非常にいい。

福助さんの相模はしっかりものという感じ。芝翫さんの台詞廻しにそっくり。雰囲気は歌右衛門さんにちょっと似てた。でも基本は芝翫さんのやり方でした。藤の方をかばう部分がきちんと伝わってきて、その部分が良かった。でもクドキの部分がまだこれから、ってとこですね。相模として観客の心に訴えかける、というとこがまだ薄い。

芝雀さんの藤の方、品格という部分がまだまだだし、全体の形ももう少し、なんですが、「母」の気持ちがすごーく伝わってきて存在感があったと思う。表情のひとつひとつが良かった。

富十郎さん、弥陀六としての存在感はやはり見事。元、武士としての気概がしっかり。だけど台詞の息継ぎがかなり頻繁でちょっとお辛そうな感じがあって…大丈夫かな?

『村松風二人汐汲』
華やかな二人の女形の華やかな舞踊。

玉三郎さんと福助さんの踊り、まったく正反対ですね。役者としての持ち味も正反対だと思うけど踊りもまったく違う。体のもっていきかた、扇子の扱いの間の違い、腰の入り方、ここまで違うかと。

この踊り、どうせならユニゾンなんて無視してお互いも持ち味を存分に生かして、火花散らしてほしいかも。お話的にそれでいいんだし。

この日は福助さんに遠慮がある感じでした。福助さんがかなり玉三郎さんを気にしながら踊ってました。今日、私には福助さんが菊五郎さんに似てるように見えた。顔つき、というか、踊り方が似てる気がしたんだけど?勘違いかな?

サンシャイン劇場『犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート』

2007年09月02日 | 演劇
サンシャイン劇場『犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート』ソワレ S席後方センター

池袋サンシャイン劇場に劇団☆新感線の『犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート』を観に行きました。『レッツゴー忍法帖』以来のネタものです。今回はゆる~い感じでした、特に二幕目。新感線で二幕目がゆるいのは珍しいのでは?そろそろ楽に近づいてる日程でこれって…かなりゆるゆる?でもパロディ芝居としてはよく出来ていて、なんだかんだ大笑いしてましたが(笑)

まずはきちんと角川映画『犬神家の一族』の骨格をきれいに移し替えてる。新感線ファンじゃなくても角川映画『犬神家の一族』が好きな人は観たらかなり楽しいと思う。あと『八ッ墓村』も少しばかり入ってます。あの角川映画の雰囲気はしっかりありました。前半はミュージカルのパロディが多かったです。私がわかったのは『オペラ座の怪人』『CATS』『コーラスライン』『エリザベート』くらい。他にもあったかな?あともう一つ重要なのがタイトルに含まれている「です。ノート」…だからこのサブタイトルだったのか~~~と(笑)とりあえず元ネタをある程度は知らないと楽しめない部分もあれこれありました。

途中、特に二幕目は劇中劇ぽい『桃太郎』は必要なの?とか温泉シーンでは繰り返しが多すぎてだれるとか、ここはちょっと短くしたほうがテンポよくなるのでは?という部分がいくつかあって心の中ではツッコミが入りました。でも新感線にしては珍しくゆるゆるだなあ、と思いつつも適度に「あはは」と笑えて楽しい芝居でした。

宮藤官九郎さんは金田一ならぬ金田真一耕助之介にピッタリでした。いや、まじで金田一やってもおかしくないよ。 ひょろひょろとして頼りない風情が殺人事件を未然に防げないキャラにピッタリ(大笑)

太郎子@木野花さん、なんかいい感じ。何がいいのかよくわかんないんだけど、あの空気感が(笑)笑い落ちしまくっていたのが可笑しかった。

玉男@勝地涼さんは少々うんくさい系の爽やか青年にハマってました。きちんと動けてたしこれからも新感線に使ってもらえそうな感じ。

大@池田成志さん、前半大活躍。ちょこちょことした妙な動きが可笑しい。

小松巡査@小松和重さん、飄々としてて不思議な存在感。

ロベール@古田新太さん。ほんまにフランス人か?というフランス人を楽しそうに演じてました。新感線を踏み台に野田さんと、そして蜷川さんに、って言われてました(笑)次に狙うのはどこでしょね。このクラスの役者が被り物を被ってしまうのが新感線。「桃太郎」の犬の時に立ち回りが妙にカッコよかったです。

助佐衛門助介・犬滝神官@橋本じゅんさん。いるだけで可笑しいんだけど…。しかし平賀源内のモノマネって…えっと、誰もわかりません(笑)

次郎子@高田聖子さん、アンジェラ・アキが笑えました。いつもよりキャラ的に大人しかったような気もするけど。

番外:
今日はなんと、お初で罰ゲームを見れました~~。木野花さんがカテコの後、宇田々ヒカル「Autmatic」を歌わされてました(笑)ちゃんとソファ付きでですよ!木野花さんは鼻黒メイクを2回ほど忘れて舞台に上がってしまったそうで、今回の罰ゲームとなったようです。登場前に「真打ち登場」とか書かれてました。過去の勝地涼さんの罰ゲームとエマさん、さとみさん二人の罰ゲームの映像も見られてちょっとお得感ありました。