Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

ル テアトル銀座『W~ダブル』 前方センター

2010年08月26日 | 演劇
ル テアトル銀座『W~ダブル』 前方センター

フランスの作家ロベール・トマ原作。2転3転するサスペンスコメディでした。フランスのヒッチコックと呼ばれているとか。確かにそんな感じ。古き良き時代のサスペンスって感じでした。なかなか面白かったです。緊迫感がある芝居というよりは笑いを交えながらこの先どうなるんだろう、と軽く楽しみながら観る感じ。どうせなら言い回しとか今風に崩さないで古色蒼然のほうが雰囲気が出て良かったかも。

リシャール/ミシェル@橋本さとしさん、顔も芝居も濃かったです(笑)。この方は華があるし押し出しが強いですよね。酒と賭博が好きで金遣いの荒い暴力的な男リシャールと、気弱で兄に虐げられてきたミシェルの演じわけが上手。きちんと雰囲気が変えてくる。

フランソワーズ@中越典子さんは華奢で綺麗ですね。声がよく通ります。ラストはバシッと決めてほしかったなあ。あそこで複雑な心情を出してもらえると良いラストになると思うんです。

ルイーズ@堀内敬子さんは舞台ではお初に拝見します。可愛い感じですね。コメディエンヌがお似合い。三谷幸喜さんが好きそうな女優さんだと思った。戸田恵子さん系というか、雰囲気が似てます。

サルトーニ@山西惇さん、個性的な雰囲気を持った方です。うんくさい感じがいかにもでその造詣が楽しかった。


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ル テアトル銀座『W~ダブル』

パリ郊外にある豪邸。結婚して半年足らずのフランソワーズ(中越典子)は夫・リシャール(橋本さとし)の酒と賭博と暴力の日々にすっかり疲れ果て、早くも離婚を考え始めていた。しかし、いざ夫を前にするとその危険な魅力に抗しきれず、ついつい高額の小切手を渡してしまう。
 そんなある日、家政婦のルイーズ(堀内敬子)の恋人が、リシャールと瓜二つの弟ミシェル(橋本の二役)であることを知り、策略を思いつく。夫の留守中に、弁護士サルトーニ(山西惇)の目の前で弟ミシェルに兄リシャールを演じさせ、離婚の手続きをすませてしまおうというのである。
 ところが、その最中にリシャールが帰ってきてしまったから事態は急変。サルトーニは疑いを持ちはじめ、ルイーズには裏切りの気配があり、かんじんの弟ミシェルは臆病者でヘマばかり。
 果たして、妻が仕組んだ逆転劇は成功するのか? ラストで警察署長(コング桑田)が見とどけた驚愕の事実とは?

原作:ロベール・トマ   
演出・上演台本:G2
出演者:
リシャール/ミシェル--------------橋本さとし
フランソワーズ--------------------中越典子
ルイーズ--------------------------堀内敬子
警察署長--------------------------コング桑田
サルトーニ------------------------山西惇

国立大劇場『第八回 亀治郎の会』 1等席1階上手前方

2010年08月21日 | 歌舞伎
国立大劇場『第八回 亀治郎の会』 1等席1階上手前方

『義経千本桜 -忠信編-』
「道行初音旅」
澤瀉屋ver.の「道行初音旅」、音羽屋型と随分と違います。清元ですべて通していきます。詩章も多く、その分静御前の踊りや忠信と静御前の連れ舞が多い。全体的に華やかですが舞踊の色合いは柔らかい印象です。

忠信@亀治郎さん、終始本性の狐を意識した造詣のように見えました。鼓への意識が強いというだけではなく、たぶん亀治郎さんの舞踊の柔らかい持ち味も加味されたせいもあると思いますが終始、体の使い方が柔らか。戦語りにも忠信が語るというより狐が語っているような柔らかさしなやかさがありました。

戦語りには勇壮さや格の大きさのキレを求めてしまうのでちょっと輪郭が柔らかすぎるなという印象。語りが柔らかい舞踊に取り込まれてしまっている。もちろん、語りのカドカドがしっかりしていて情景はしっかり活写していたと思うのですが、単なる伝聞のようにみえてしまう。これもありなのでしょうが、私は武将、忠信の部分で語るほうがメリハリがあって好みです。猿之助さんがこういう戦語りの舞踊が非常にお得意で大きさやキレがあってそこに勇壮さを見せていたので、ついそこを求めてしまいまいました。なので、個人的には前半の静御前を慰める連れ舞の部分が一番好きでした。静御前@芝雀さんとのバランスもよく、華やか。お互いを気遣う意識のなかで舞に没頭していく感じが面白かったし、観ていて気持ちがよかったです。

静御前@芝雀さん、存在感がありました。しっとり艶やかで、義経一途ゆえの愁いを見せる。そこにあるオーラが濃いです。忠信に頼るというより主の心持ちが強く、そのなかで主従としての信頼を隠さない、そんな雰囲気。亀治郎さん忠信をゆったりと受けとめている雰囲気がありました。さすがですね。

「四の切」
亀治郎さん、全体的にビックリするほどしごく丁寧に演じていました。基本に忠実にの意識が強い感じ。台詞廻しや、佇まいなど猿之助さんを丁寧に写してきていました。もっと押し出しの強い狐を演じてくるかと思ったのでちょっと意外でした。

狐忠信はしなやかな柔らかさが狐らしく、小柄なのでとても可愛い感じでした。狐言葉は義太夫のノリ地が上手く非常に丁寧に。高音部分は女形の発声を駆使して自然で素直な台詞廻しとなっていました。また何より良いと思ったのは狐忠信の心情を丁寧に丁寧に拾って演じていたところ。健気さ、切なさがあって、鼓を与えられた時の嬉しさが際立ったように思います。ただ、ケレンのある所作の部分で少しメリハリが足りなかったかな。猿之助さんは所作のひとつひとつが明快で大きく鮮やかでしたが亀治郎さんはどちらかというと流れるようにしなしなっと動くんですよね。なので視覚的に鮮やかに入ってくるというよりは、さらりとしてしまう。ただ、後半の喜びの部分の所作は本当に嬉しそうにそれでいて鼓を柔らかく扱うので「親大事」の心持からの所作として鮮明に映りました。またクルクルと回転する様の膝の使い方の柔らかさが綺麗です。

本物忠信のほうは手堅く演じてはいましたがやはり武将オーラというか格がちょっと足りないかなあ…。こういう役はあまり演じてこなかったせいか、細かい部分での動きにまだメリハリがないんですね。偽者忠信と捕まえようと縛り縄を扱うとこや、引っ込みで、次の間を伺う仕草などがちょっと流れ気味。楷書で演じようとする意識が強くですぎてまだ試行錯誤中な感じがあったので細かい部分はまだまだこれからなんでしょう。こういうのは回数をこなすことも大事ですから次回の楽しみに、ということに。

それにつけてもつくづく猿之助さんが稀有な役者なんだなあと思い知りました。そこを目指す若手は大変です。また猿之助さんは兼ねる役者ではあるけどあくまでも立役が本業。亀治郎さんは女形が本業。忠信の印象の違いはそこの違いもあったような気もします。今回の亀治郎さんの狐忠信を「女狐」と評した方がいますが、そう考えると納得します。狐の性別はハッキリしていませんから、アプローチ的に柔らか味を前面に出すのもありかなと。私は今回は男ぶりがよく、所作のひとつひとつが大きく鮮やかな猿之助さんの忠信を求めてしまったのでちょっと違和感も多少感じてしまったのですが、持ち味の違いを考えたらそこを求めるのも違うかなとも。亀治郎さんはどの方向でいくのでしょう。次回が楽しみです。

静御前@芝雀さんの存在感が舞台を全体的に締めていたような気がしました。義経の愛妾としての可愛らしさと格。そして忠信への詮議での凛とした強さ。この強さがないと狐忠信が活きてこないと思うんですよ。受けと攻めの緩急が非常に上手い。そして情の厚み。芝雀さんは静御前は当たり役と言われていますが伊達じゃないですねえ。

義経@染五郎さん、格の高さがしっかりとみえるノーブルな殿様でした。梅玉さん系の浮世離れした流転の悲劇の貴公子ですね。狐忠信の身の上話を聞き自分の身に置き換え、狐忠信に情をかける心持ちがしっかり出てたのが良かった。これで声がもう少し前にでると存在感が出ると思います。

駿河次郎@門之助さん、亀井六郎@亀鶴さんは丁寧に。お二人ともきっぱりとしてて良かったです。

『上州土産百両首』
お話そのものがなかなか面白かったです。役者さんの組み合わせで色々楽しめる演目だと思いました。普段なかなか掛からないお芝居ですがもっと掛かってもいいかも。以前、猿之助さんと勘三郎さん(当時、勘九郎)で上演したそうですが、さぞや面白かっただろうと思います。今回は歌舞伎役者だけで演じるのではなく映像で活躍する役者さんと女優さんが入ったため、場によって芝居のトーンが変化し歌舞伎味はちょっと薄い感じでした。

正太郎@亀治郎さんは場面ごとにしっかりと年月を感じさせる芝居。こういう細かいところが上手いです。才気活発だけど、横道に反れてしまったがゆえに真っ当な道を歩ませてもらえなかった正太郎を正攻法で演じていました。

牙次郎@福士さんはドジでまぬけだけど心がピュアな牙次郎を非常に素直な芝居で演じていました。空気感は現代劇の役者さんなので軽いんですけど、透明感があって可愛らしく、とても良かったです。「あにき~」「あじゃあ」の台詞廻しが非常に印象に残ります。

三次@亀鶴さんが鋭い目つきで演じ、なかなかの存在感。江戸の人物なんだなという説得力がある。亀鶴さんは拝見する機会が少ないのですがお上手です。

金的の与一@渡辺哲さん、独特の雰囲気を持っている方です。また台詞回しも独特。キャラクター造詣がとても、らしくて印象に残りました。

十手持ちの親分(同心かな?)勘次@門之助さん、心の広い親分さん。最後美味しいとこ拾っていきます。

おせき@吉弥さん、ぽんぽんといかにも江戸の同心のおかみさん。

おそで@守田菜生さん、三津五郎さんの娘さんだそうで目元がお父さんに似てました。

新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第三部』 3等B席右袖

2010年08月18日 | 歌舞伎
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第三部』 3等B席右袖

『通し狂言 東海道四谷怪談』
  「序幕 浅草観世音額堂の場より大詰 仇討の場まで」

花形らしく本筋が見えやすい芝居でした。

お岩/小仏小平/佐藤与茂七@勘太郎さんが出色の出来。勘太郎さんのための芝居になっていた感じがしました。勘三郎さん写しだけど、勘太郎さんの硬質さが活きて雰囲気は少し違う。 また三役の切り替えがかなり上手い。これで芝居の本筋をかなりわかりやすくした。

お岩さまは、武士の娘らしさ、凛とした品位が立っているお岩さまです。浪宅でのひとつひとつが丁寧でしっかり見せてくる。見事だと思う。 惜しむらくは髪漉きあたりから、ちょっと一本調子かな~。恨みがまだまだ若いねえって感じです。勘三郎さんのお岩さまだと、恨みのなかに哀れさ切なさが含まれるんだけど、さすがにそこまではいかなかったかな。また「恨み晴らさで」の台詞がちょっと男ぽい感じになってしまってたのが残念。でも全体的に凛としたプライドのなかに女の哀れさを漂わせ、とても良いお岩さまでした。今後、お父様同様に当たり役にしていくことでしょう。

宅悦@市蔵さん、ちょっと生真面目すぎかなと思いつつも初役にしてはかなり良かったんではないかと。もう少しクセのある味わいが欲しいところではありますが気弱なところ、流されてしまう性格などがよく出ていました。個人的に宅悦@市蔵さんを拝見して、亀蔵さんが宅悦をやっても面白そうと思いました。

お袖@七之助さんは可愛かったです。世間知らずゆえの愚かさがあるのが面白かったです。まだちょっとお袖の女房としての佇まいというか人物像の空気感は薄いのですが七之助さんは女形として安定感でてきたように思います。

茶屋おまつ@歌江さんとおいろ@小山三さんの存在感は格別。ただそこにいるだけで空気が濃くなる。そういえば小山三さんて、勘太郎くんのこと勘九郎って言い間違ってました(笑) 早く襲名してほしいのかな。

直助@獅童さん、役には非常に合ってる。でも第二部の『暗闇の丑松』の祐次同様に台詞がうわっついてしまっている…。動きも相変わらず腰が決まらずひょこひょこしてしまう。獅童さんは舞踊をもう少し稽古したほうがいいと思う。所作のひとつひとつが色々と甘すぎます。台詞はうわっついてしまうけど、ストレートでクセがあるわけではないのでこなしていけば改善していけるだろうと思う。

他の配役、伊右衛門@海老蔵さん、お梅@新悟くん、舞台番@猿弥さん、喜兵衛@家橘さん。

新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第二部』 3等B席左袖

2010年08月18日 | 歌舞伎
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第二部』 3等B席左袖

『暗闇の丑松』
面白かったです。女性にとっては「えっ~、そりゃないよ」な突っ込みどころ満載です。長谷川伸の女性観はあまり好きではないんですが、それでも芝居としては戯曲がしっかりしてるなあと思います。

丑松@橋之助さんが役に合っててかなり良い感じ。愚直なまでの真っ直ぐさがあって思い込みの激しさも納得する。ただ、いつもの熱演しすぎな部分で、台詞が伝ってこなかったり。もう少し押さえて芝居にメリハリをつけてきれると心情ももっと伝わると思う。

お米@扇雀さんは丑松一途なところははよく表現されていたと思うんだけどお米というキャラクターぽくはない感じ。強さのほうが前で出て、芯の弱さ哀れさがあんまり無い。米にしては線が太すぎるのかも。

お今@福助さん、あだっぽいお今さんにピッタリですねえ。けだるい感じが似合います。拵えも着物も綺麗でした。

四郎兵衛@彌十郎さん、兄貴分の大きさと性根の小ささのバランスが上手い。

料理人祐次@獅童くん、役にピッタリだし勢いもある。なのになぜ台詞があんなにうわっついてしまうんだろう…もったいない。

遺り手ばばあ@芝喜松さん、三吉@橘太郎さんが存在感があってとても良かった。

演出に関してはわりと平坦。幸四郎演出版が特殊だったのかもしれないが、戯曲の意図が明快にでた幸四郎さん演出のほうが好み。

『京鹿子娘道成寺』
道行がカットでした…がっかり。

花子@福助さん、全体的にきちんとした踊りで前回演舞場で踊った時より断然良かったです。ゆったりと大きく踊っていらした感じ。また恋する娘の表情も豊か。ただその代わり、恨みの部分が抑え過ぎかも。恋の手習いあたり、恋と恨みの両方の心情がもう少し入ったほうが好み。

押し戻しはやっぱりいらないなあ…。誰がやっても必要性を感じず。