Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄りセンター

2008年12月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』3等B席下手寄りセンター

21日(日)に夜の部を観劇した時に今回の『籠釣瓶花街酔醒』がいたく気に入ってしまいどうしても再見したくて思わず千穐楽の3B席を取ってしまいました。つくづくノワール系物語が好きな私です。会社を早退できる状況ではなく『名鷹誉石切』は諦めて『高坏』と『籠釣瓶花街酔醒』の二本のみ観劇。週末・祝日以外はあまり入りがよくなかったらしい今月の夜の部ですが千穐楽のせいかほぼ満席。幕見も立ち見が出ておりました。今年の観劇納めが籠釣瓶花街酔醒』でいいのか?と思いつつ充実した芝居を見せていただき満足感が大きく、ラスト後味悪くても大満足しました。

『高坏』
21日に拝見した時よりぐんと良くなってました。今回は中日(幕見)と21日を見て、この舞踊で観客をわっと沸かせるまでにはいってなくて、さすがにこの舞踊は難しかったかしら?と思っていたのです。しかし、今回はしっかり踊りとタップで観客をぐんと湧かせてきました。踊りにかなり華やぎがでてほろ酔い加減という部分や恋模様などの情景をふんわり柔らかに表現。そして高下駄タップにもだいぶメリハリがでて、そのメリハリで色んなところで拍手が湧いてました。また品のよさというものが崩れずにあって染五郎さんらしい舞踊でした。

さすがに勘三郎さんのようにぐわっと観客を巻き込むような鮮やかさや「おお、すごい」と感嘆させるまでにはいってなかったですけど、回数重ねたらだいぶ良い線いくんじゃないかと思いました。これは千穐楽をみてよかった。それにしてもふんわかホケホケのキュートな染五郎さん本当に可愛いです。邪気のない子供みたいな可愛らしさでした。

『籠釣瓶花街酔醒』
人間の闇の部分を際立たせた今回の芝居、やっぱり面白いです!!

次郎左衛門@幸四郎さんの真っ直ぐな人物造詣には感嘆する。あれだけ真っ直ぐに演じているのに人物像に幅がある。あの造詣はちょっとやそっとじゃ出来ないと思う。また幸四郎さんて、芝居に「人間」というものを曝け出すことに躊躇がない。男の情けない滑稽さがそのまま提示されながらも、きちんと生きてきたという品格とプライドを芯の部分に持つ。そういう人間が、憎悪というどす黒い醜い狂気を爆発させる。だからなおさら次郎左衛門という人物の哀しさが浮き立つ。

八ッ橋@福助さん、苦界に生きる女の切なさややるせなさが伝わってきます。女の哀れさがあってじーんときてしまいました。元は武士の娘、実は世間知があまりない女性なのかなと思いました。思うように生きてこれない身に「身請け」という「自由」を提示された時、次郎左衛門の「家」に束縛されることは考えなかったんだろうな。もしかしたらこれで栄之丞が来るのを待つのではなく自由に会えるようなるかもなんて淡い期待をしてしまっていたのかも。そんなことを感じさせた八ッ橋だった。

今回、次郎左衛門と八ッ橋の二人の生き様の在りようがもうほんと哀しくって辛かった。

そして、栄之丞@染五郎さん。甘さのあるいわゆる本当の二枚目。浮世離れした花のような存在。だからこそ次郎左衛門が心の奥底にしまいこんだコンプレックスを刺激してしまったんだろうと思う。次郎左右衛門が栄之丞が八ッ橋の間夫だと悟った時、絶望が憎しみに転化した瞬間かなとと思いました。

栄之丞@染五郎もたぶん流されて生きるタイプの人間だろう。今までずっと女に甘やかされて生きてきたんだろうな。自分のことしか見えてないこんなダメ男。それでも素敵なんて思っちゃダメよと思いつつ、甘いオーラに女はやられる。苦界のドロドロのなかで生きている八ッ橋にとっちゃ夢をみさせてくれる男だったんだろうな。大事にしてきた綺麗な部分を栄之丞に託してたんじゃないかな。やっぱ栄之丞を選んじゃうよねえ。

新国立劇場『シンデレラ』 マチネ A席1階後方センター

2008年12月23日 | 演劇
新国立劇場オペラパレス『シンデレラ』マチネ A席1階後方センター

クラシックバレエを観るのは10年ぶりくらいかな。先月、国立劇場『江戸宵闇妖鉤爪』を観にいった時に、抽選招待の申し込みをしておいたのが当選したのです。

新国立劇場の中はすっかりクリスマス仕様でサンタさんまでいました。また『シンデレラ』という演目にあわせてガラスの靴をもったお小姓さん姿の方々が「お試しになりませんか?」と歩き回ってたり、お子ちゃま向けのメイクコーナーがあったりでロビーでのパフォーマンスがなかなか楽しい。それにしても客層の若さにはビックリ。祝日マチネのせいもあり、いかにもバレエ習ってますな小学校低学年お子様連れの親子がいっぱい。それから10代後半~20代の女性たちもいっぱい。しかも超ドレスアップしております。どこぞのパーティに紛れ込んだかと。最近はクラシックコンサートでもドレスアップした人が少ないし、歌舞伎は着物人口は沢山だけどいかにもなドレスアップな人は少ないし、年齢層高いしね。いつもとまったく違う客層に驚く。またブラボーおじさんじゃなくブラボーおばさんがいたり、小学生たち大勢のブラボー声を聞いたりでカルチャーショックでした(笑)

さて、肝心のバレエですが楽しかったです。プロコフィエフ作曲『シンデレラ』のアシュトン振付版でのバレエ。私はバレエの『シンデレラ』は初見です。アシュトン版は楽しいよ、と聞いていたのですが確かに楽しい。振り付けはユーモラスでどこか鋭角的なキレのよさを感じさせる。ロマンチックな場面でも優雅さのなかにシャキシャキっとしたものを感じました。

個人的に特に男性ダンサーが演じる義姉たちの場面は面白すぎてツボりました。意地悪な義姉たちなんだけどなんだか可愛いの(笑)義母がいないのがちょっと不思議でしたが姉たちだけのほうが陰湿なイジメにならずいいのかも。あとは群舞がなんだか独特な感じがしたな。見応えありました。

ソロパートは残念ながらどのダンサーにも「うわあ凄い」とまでは感じなかったけど、若手中心ぽいメンバーだったようなのでこれからの人たちなのでしょう。主人公シンデレラのさいとう美帆さんは小柄で可憐な感じが役にとても似合っていました。踊りにかなり安定感がありますし緻密にしっかり踊っていた。また体の置き方が他のダンサーより際立って良かったと思います。でももう少し華やかなオーラが欲しいなあと思ったりも。王子様のマイレン・トレウバエフは普通にノーブルな感じでサポートがしっかりしてる感じかな。この演目では王子様の見せ場が少ないですね。道化師の八幡顕光さんのほうが見せ場は多い。しかしキレよく頑張っていましたが時々軸がぶれるのが気になったかも…。

衣装と装置がとっても素敵でした。英国ロイヤルバレエのものだそうで、さすが。ポスターにもなったキラキラした馬車が綺麗で、舞台上ですぐに去ってしまうのがもったいなかったな。もっとじっくり見せて欲しかった。

それにしてもプロコフィエフの『シンデレラ』はやっぱりプロコフィエフだ(笑)旋律が難しいし音全体が暗め。これにロマンチックな振りを付けるのは難しいんじゃないかと。これに素敵な振り付けをしたアシュトンさん、すごいです。。演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。相変わらずここは管が弱いなあ…。でもわりと伸びやかな演奏で全体的には良かったです。

歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方花道寄り

2008年12月21日 | 歌舞伎
歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方花道寄り

夜の部ですが、まず書いておきます。今回の『籠釣瓶花街酔醒』、色んな部分で面白いです。千穐楽が26日でもう日が無いですが幕見でぜひ観てくださいと言いたい。幕見なら1000円ですよ。見逃すべからず!

『名鷹誉石切』
梶原平三@富十郎さん、場の吸引力が…少々無くなってきたかなと…。お声のハリはまだまだ衰えず台詞回しも非常に良かったとは思うんです。でも舞台を支配する力がどうも衰えてきていると感じざるおえなかった。富十郎さん、少し前までは小柄なのを物ともしない明るく大きなオーラがあったのですがそれが、このところ少しづつ落ちてきている。この演目は主役に吸引力がないと面白さが減じてしまう。梶原平三は主人公だけど基本的に受身の役。動きが少ないなかでどれだけ見せてくるか。なので一世一代のはずの今回、相当な集中力で臨んでいるとは思うのですが…。富十郎さんは表情をほとんど変えず動きも極めてシンプルに肚芸だけで演じようとしている。だけど体全体の姿が動きにキレがないことで肚芸がさらさらと流れてしまう感じ…。あとなんというか、この役には多少機嫌のよさ必要な気もするのだけど、今回の富十郎さんはひたすらマジメ。せっかくの明るいオーラをもっと見せてもよかったんじゃないかなあ。この役思っていた以上に難しいんだ、と思った。

大庭三郎@梅玉さん、どうも品のいい捌き役が並んでるようにしか見えなかったです…。大庭は単なる敵役ではないにしろ、権力を盾にした尊大で嫌味な野郎じゃないとと思うのですが。じゃないと梶原平三が際立たない。今月、梅玉さんはニンじゃない役をまんまニンじゃない部分で演じちゃってる。もう少し工夫しもいいんじゃなかな。ニンじゃないから、で終わらせちゃもったいない。

俣野五郎@染五郎さん、赤っ面はニンじゃないかなあ。あの拵えをしてても品のよさが表に出てしまっている。けど、そのなかでしっかり役は作ってきたと思う。前髪のやんちゃで生意気盛りな部分と、こすっからい憎まれ役なところはしっかり出ていた。とはいえ憎まれ役なのに可愛げすぎる部分はあったかもしれない(笑)台詞は吉右衛門さんから稽古つけてもらったんじゃないかと思う。吉右衛門さんの台詞術にとても似ていた。声がだいぶ前に出るようになってきたなと思いました。

六郎太夫の段四郎さん、芯がしっかりした気骨ある六郎太夫。情だけに流されていない感じがあって印象的。

梢の魁春さん、控えめな娘。きちんと演じていたとは思うけど少々落ち着きすぎかも。

並び大名のなかで巳之助くんが座っている時の姿勢が背筋がきちんとしてなくて曲がっているのが気にはなったが、場面場面での反応は一番良かった。

『高坏』
ふんわかふんわか品のいい『高坏』。幕見で拝見した時より全体的にメリハリが出てて楽しい一幕になっていた。一足早く春が来た雰囲気。早春の軽やかな風を感じました。

染五郎さんの次郎冠者は阿呆さ加減がほんわかしてかなり可愛らしい。酔いの部分がほどの良い酔い加減で邪気がなく観ていてとても和む。淡い桜色の空気を醸し出していてほんわか。高下駄でのタップはだいぶメリハリがついていたものの、やっぱり勘三郎さんの強烈な次郎冠者を見ているともっと押し出しがあってもいいなあとつい思ってしまう。下駄タップの部分、かなり鍛錬が必要なんでしょうねえ。

高足売の彌十郎さんが存在感があってかなり良い。ちょっとばかりちゃっかりしているけど、悪い人間ではない、そのバランスが絶妙。

『籠釣瓶花街酔醒』
前述した通り、一見の価値あり。幸四郎さんの年齢的に今観ないとたぶん今後は観られない芝居だと思うので観て欲しい。すでに古典として確立している演目だけど今回、様式から外れた感覚を取り入れていてちょっと今までに無い味わい。今の幸四郎さんだからできる芝居。身体的にギリギリのとこだろうと思う、たぶん二度と無い。様式としての芝居は今後も観られると思うけど。今回は「生の人間」を感じさせる生々しさを伴った芝居だった。

また座組みのチームワークがすごく良かったと思う。脇の脇までほぼ漏れがない。こういうのもなかなか無いと思う。あえていえば花魁道中の東蔵さんは少々きついものがあったけど…そこは味わいのある花魁ということで納得させる。

佐野次郎左衛門@幸四郎さん、とにかく凄かった。自分の柄に引き寄せた演じよう。線が太く、ぶれない。だから最後の爆発が凄まじい勢いで来る。田舎者の泥臭さや腰の低さのなかに、大店の旦那としての格やプライドを秘める。実直に真っ直ぐにこつこつと生きてきた人間が周りがみえないほどまっしぐらに花魁に恋をしてしまったのだろうと思わせた。その男の素直な滑稽さと哀れさが実に切実だった。余裕のない実直さというものは幸四郎さんの突出した持ち味となっている。満座の中で愛想尽かしされた次郎左衛門の悲哀がそれだけにストレート。たぶん、男性が一番感情移入できる次郎左衛門じゃなかろうかと思う。愛想尽かしの場で観客の啜り泣きが聞こえてきたのは今回が初めてだ。

この場での呆然とした表情、悲しさと悔しさが相俟った身の置き所の無さが伝わってくる。幸四郎さんは愛想尽かしの場で怒りをほとんど表面化させない。先の状況を読ませない。だからこそ、最後の殺しの爆発力に唖然とさせられる。次郎左衛門の底に隠された怒りが溜まりに溜まり、爆発する。その怒りが狂気に転化した瞬間の凄まじさ。もう人間じゃない。幸四郎さんの殺しの場は獣だ。もう怖すぎです。なんであんな動きができるのか?体全体が名刀「籠釣瓶」となっていた。ほんとに一太刀で八ッ橋を完全に殺してると思いました。つーか自分が殺されるかと思った。ひえええ怖いよ、怖いよ(涙目)

八ッ橋@福助さん、2年前より花魁としてのプライドとやるせなさが出ていて凄く良かった。今回の花魁道中では、前回感じさせた自重した笑みではなくどこかプライドを感じさせる華やかさのある妖艶な笑みだった。吉原一と謳われる高級遊女としての存在感。前回より抑えた芝居だったと思うが華やかさが前に出た。そして後半は流されて生きていくしかない女の悲哀をじっくりと醸し出す。どうにもならない人生への苦しい心持を少しづつ吐露するかのよう。愛しい男への義理立てと自由になりたい気持ちとの鬩ぎ合いであったかもしれない。

下男治六@段四郎さんがまた役にピッタリで幸四郎さんとのバランスが非常に良い。朴訥した主人思いの下男という主従関係というだけでなく男同士の信頼関係もあるという風情。なにかにつけ次郎左衛門をフォローしてきたんだろうなあと思わせました。

繁山栄之丞@染五郎さん、今月一番の当たり役。凄く良かったです。まさしくニンのハマり役と言っていいでしょう。梅玉さん路線ではあるのだけど仁左衛門さんの風情も取り込んでいる感じがした。これは想像以上の出来。初役とは思えないほどの存在感と嵌りよう。あまりの二枚目ぶりに、これは八ッ橋が栄之丞を捨てられないのもしょうがないと思いました。悪ぶった甘さと冷たさがなんともいい風情。すねたような甘えと惚れられているという自信の兼ね合いがよく母性本能を擽る。それにしても立ち姿の美しさは半端ない。これは4月に切られ与三を演じた成果だろうと思う。

釣鐘権八@市蔵さん、こちらもハマり役。いやらしい小悪党風情ながら単なる薄っぺらチンピラ風情に崩れない濃さがあって良い。人のちょっとした隙に付け込む性根の悪さ、するがしこさがきちんとキャラクターとして昇華させている。上手いです。

立花屋女房おきつ@魁春さん、きっぱりとした才覚のある女でした。魁春さんは最近こういうキリッとしたなかに女性らしさを感じさせる役のほうが似合いますね。

立花屋長兵衛@彦三郎さん、茶屋の旦那の矜持をしっかり持つ骨太さをみせてくれました。

九重@東蔵さん、さすがに八ッ橋花魁に続く人気花魁にしては少々トウが立っているかな(^^;)と。しかし縁切りの場での次郎左衛門を慰める時の情の濃さにこういう部分で人気なのかな、と思わせるだけのものはありました。

初菊@児太郎くんは幼すぎて痛々しい。その幼さに所詮は女が売り物の苦界の話という部分でのリアルさは感じさせた。でもちょっと辛いかなあ。児太郎くんは声が安定せず女形の声を出せてなかったです。もう少し年齢がいって安定してから出させても良かったのでは?と思わなくも。

歌舞伎座『十二月大歌舞伎 昼の部』1等1階前方花道脇

2008年12月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『十二月大歌舞伎 昼の部』1等1階前方花道脇

久々に前方の花横の席でした。さすがにちょっと首が疲れましたけど花道横は色々と面白いです。昼の部はハラハラドキドキな場面多しでした。昼の部は演目が地味かなあとあまり期待してなかったんですが思った以上に楽しめました。

『高時』
犬ちゃんたちが可愛い。ストーリーはなんだかイマイチよくわからん!でした…(^^;)。天狗たちの立ち回りが面白かったです。ぴょんぴょんと高く飛び跳ねているのに音をほとんどたてずに着地してるのが凄い。三階さんたちお見事でした。でも還暦過ぎてる梅玉さんが振り回されているのにはハラハラドキドキ。大丈夫でしょうか~。

その梅玉さんですがお役としてはニンかな?なんて思っていたのですがなんとなく今ひとつ精彩に欠いたかな。最近、何をやっても良い感じだったので、お疲れ?と思ったりも。魁春さんもなんだかあれ?って感じでした。ああいう感じは似合うはずなんだけどなあ。足捌きもぎこちなかったし。兄弟でもうひとつピリッと来てませんでした。それがチト残念。

『京鹿子娘道成寺』
坂東流の娘道成寺、これがかなり面白かったです。華やかさはそれほどないんですがなんだか可愛らしくてとても端正な踊りでした。また終始、一途な娘の花子でした。それにしてもやはりこの舞踊、ほんとに大曲ですよねえ。

私、三津五郎さんの踊りでハラハラドキドキしたの初めてです。いつもの安定感がありすぎるくらいの舞踊にその安定感が無かったんですよ~。でもそこがまた可愛らしかったりもしました。やはり普段、女形をされていないというのが大きいんでしょうか。着物の捌き方や小道具の扱いが何箇所かぎこちなかった。特に道行きでの三津五郎さん、もうドキドキものです。ちょうど私が拝見した日は花道の途中で草履が片方脱げてしまって、なかなかうまく履き直せなくて、足元がかなりバタついてしまったのが一番のハラハラドキドキ。そのせいで焦ったのもあるのでしょう、帯をうまく取れないのが2度ほど…。どうも袖の扱いがスムーズじゃなくその袖に邪魔されて帯をサッと取れないんですよねえ…。それと懐紙の扱いもぎこちない。あうう、三津五郎さん、がんばれ~~~~!!!心の中で大声援です。あっ、花道で三津五郎さんとバッチリ目が合いましたわ。紅の付いた懐紙、もらえるかしらと期待したくらい。でも私の前の列の方が受け取りました。残念。

と最初は大丈夫かしらとかなり心配しましたが本舞台で最初の引き抜きをしてから調子がどんどんあがっていきました。水浅黄の衣装が華やかでお似合いでとても綺麗でした。本舞台に出てからも裾捌きや小道具の扱いが時々ぎこちなかったりもしたのですがそれ以上に体の形の良さが見事です。ひとつひとつをキチッと決めていくうちにそれが流れるようになって、また娘らしい可愛らしさ、一途な恋する気持ちなどがどんどん前に出てきていました。ああ素敵だなあ、と観ていくうちに私の気持ちに高揚感が出てきました。もうなんだかとにかく素敵、って感じになるのです。ほのかな娘らしい色気のある花子が見事に立ち上がっていました。ラスト、赤の衣装で鐘にあがるのがまたなんだか良かったです。私の席の角度的に最後のキメのお顔が観れなかったのが非常に無念。観たかった。

『佐倉義民伝』
う~ん、これは話をはしょりすぎだろう、というのはあるんだけど今回も結構気に入ったかも。役者が適材適所。さまざまな部分での細かい生活描写がまたいいんですよね。こういうものを残していくのも歌舞伎の使命なんだろうな、なんて思います。また義太夫が良いんですよ~~。三味線の音色、義太夫の(綾大夫さんが特に良かった)の哀切な語りがと情景が見事にマッチしておりました。

まずはなんといっても第一場の段四郎さんの恩を受けた旦那さまのためを純粋に思う甚兵衛がすごく良かったです。こういうお役、本当にお似合いです。本当にこういう老人がいそう、という生活感がある。「だんなさま~」っていう台詞だけでもほんとに宗吾を慕っているんだなあ、って感じさせてお上手です。台詞がまだ入りきっていなくて時々プロンプがついてちょっとだけハラハラしましたけどそれが粗になっていなかったです。

幸四郎さんは正義感のあるまっすぐな気性、人の上にたつ大きさ、家族想いの父としての優しさを包括した宗吾。幸四郎さんが演じると陰が強くなるかと思ったのですが悩める男にうまく転化していて良かったと思います。またリアル志向にいかず、歌舞伎の様式のなかに情感をうまくはめ込んでいたと思います。なので愁嘆場がきちんと歌舞伎の愁嘆場として立ち上がっていました。

福助さんのおさんは感情過多な部分が意外とこの役には合います。かといって押さえるとこはきちんと押さえ宗吾一途な女の可愛らしさがあって、宗吾の女房たらんとしている感じがいい。一蓮托生な夫婦ラブラブな雰囲気がすごくありました。

この演目、別れの愁嘆場が見せ場で演出が元々クドイく、少々長すぎるかなと思わなくもないのですが、見せ場としてよく作ってあるなと思います。雪がどんどんひどくなっていく情景と別れの切なさがうまくリンクしています。ここは子役が重要で上手い子役が必要。今回の子役たちもかなり達者で健気で可愛かったです。おみや、結局貰えないでこの子たちも殺されちゃうんだと思ったら泣きがくどすぎると思いつつ、じんわりしてしまいました。

宗吾が家から去るキッカケを作る長吉@三津五郎さんはかなり唐突な出番。前振りが絶対あるはずなんですが、そこがバッサリ切られている感じです。きちんと通しで見てみたいですが以前、勘三郎さんが宗吾を演じた時も同じだったので現行の上演ではいつもこのバージョンなんでしょうね。でも、三津五郎さんの存在感がかっこよくて、これはこれで良し。

二幕目の東叡山直訴の場の転換が歌舞伎らしい。白から赤の鮮やかな舞台面の変換です。

松平伊豆守の彌十郎さんが良いお役をいい感じに。今月、彌十郎さんが何気に素敵。

家綱の染五郎さんとにかく綺麗です(笑)。ちょっと若造なお殿様ですが…実際のところ、家綱は10~40才の在位で病弱でしたから、若造な感じでもいいんじゃないかと。たぶん、まだ20歳くらいな感じで周囲に盛りたてられている時期のはずだし。まあ芝居的にはもう少し貫禄があったほうが締まるとは思いますが…。

歌舞伎座『十二月大歌舞伎』『高坏』一幕見

2008年12月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『十二月大歌舞伎』『高坏』一幕見

ふと思い立って会社帰りに『高坏』を幕見してきました。短いし楽しい舞踊なのでストレス解消にちょうど良いです。

『高坏』
配役のバランスもよくほのぼのとした愛らしい一幕。品の良い羽目物らしい舞踊になっておりました。

次郎冠者@染五郎さんはほんわかととってもキュートな次郎冠者。とにかく可愛いったら。あのほわほわ感のある愛嬌は染五郎さんならでは、ですね。どこにも嫌みなところがないのが良いです。思わずお持ち帰りしたい!と思うくらい可愛いかった。

舞踊のほうは伸びやかでムダのないまっすぐな踊り。情景描写がほんとに丁寧でその部分で体の表情が豊か。足捌きも確実にしかも軽やか。でもまだ振りをしっかりこなしていますな段階ではあるかな。勘三郎さんのを観てしまっているので場の吸引力がまだまだ足りないなあとか、メリハリが不足してるなあだったりですが、回数をこなしていけばもっと良くなっていくでしょう。

高足売@彌十郎さんもとてもよかったです。へたをすると意地悪になりがちな高足売ですが愛嬌たっぷりで酒好きのちゃっかりした高足売。とても好感がもてるし大人の余裕もあって素敵です。

太郎冠者@高麗蔵さんのキリっとしたキレの良さが次郎冠者と好対照で兄貴分の存在で良し。

大名某@友右衛門さんの品のある大名ぶりも○。

サントリーホール『ロンドン交響楽団』 P席後方

2008年12月05日 | 音楽
サントリーホール『ロンドン交響楽団』≪プロコフィエフ・チクルス≫P席後方

ワレリー・ゲルギエフ指揮『ロンドン交響楽団』≪プロコフィエフ・チクルス≫を聴きに行きました。 レーピンさん目当てというのとゲルギエフさんの指揮というのにも興味があり、自分のなかじゃいまいちよくわからないというか、なじみが薄いプロコフィエフなのにチケット取ってしまいました。結果大当たりでした。楽しかった~。

プロコフィエフは日本人になじみ薄すぎなのかサントリーホールの入りがなんとたった6割。うっそ~、ゲルギエフでロンドン交響楽団でレーピンなのに?私、こんな入りの薄いサントリーホールは初めてです…。レーピン出演じゃないプログラムは4割だったとか…。いくらなんでも出演者たちが可哀相。得チケを出したら来る人も結構いたと思うんだけどなあ。カジモト、何考えてるんだよ、と少々怒りが。もう少し営業努力してほしいよ。定価で買った人、得チケが出ても怒らないですよ。どうしても聴きたいから買ってるんだから、それはそれだもん。にしてもこれがチャイコプログラムならほぼ完売だった気がするなあ。う~ん、クラシックコンサートもどうやらプログラム作りに悩みを抱えてるかも。ずっと聴いてきた人は新鮮なプログラムのほうが歓迎なんだけど一般受けはしない。となるとどうしても一般受けする演目を並べないといけない、と。歌舞伎も似たようなとこあるよね…。

ま、グチはおいといて。とりあえず男性客の多さに驚きました。なんと男性客のほうが多い。これってすごいことかも。芝居にしろコンサートにしろ大抵、女性客が8割以上を占める。でも今回は6割は男性でした。お手洗いに並ぶ列、男性のほうが多かったのにはチト笑えた。あとどうしても聴きたい人だけ来たせいかマナー良すぎ(笑)。咳払いが少なかったし。

さて、演奏のほうはとっても良かったです。プロコフィエフの曲って暗くてわかりずらいイメージがあったんだけど、曲想がきちんとわからなくても聴いてて面白いんだなあと今回初めて思いました。

ロンドン交響楽団は私、たぶん生はお初なはず。とても端正な楽団という気がしました。どこにも隙がないというかすべての音が綺麗で洗練されている。レベル高すぎ。弦が良いのはもちろんのこと管の音がそれぞれ本当に良いんですよねえ。だから海外のオケが好きなんですよね。日本のオケで管に納得することが少ないのだ。

そして期待のゲルギエフさん指揮。ダイナミックに情念でど~んと押して押して歌いあげるというような曲造りをされる方なのかと思いきや、すんごく端正に細かく作り上げてきた感じ。音のひとつひとつをとっても大事に演奏させていて繊細さまで感じました。ちょっと意外でした。といってダイナミックに盛り上げるところは盛り上げる。メリハリが利いてるとでもいえばいいのかな。交響曲第4番はちょっと大人しいかな?と思ったんですが2曲目以降がかなり盛り上がりました。交響曲第5番の演奏は絶品。

にしてもゲルギエフさんの指揮振り(指揮棒使わず手振り)が面白すぎてあやうく笑いのツボに入りそうになったのが困りました…。だって~、ほんとに面白いんだもん。いかにもロシアなおっちゃんな風貌なんですが、手の動きがすんごい柔らかでひらひらと蝶のように舞うんですよ。しかも体の動きも大きいから何か踊ってるみたいなの。そのギャップが~~~。しかも少ない髪の毛が落ちてくるのを気にして、時々、ひらひらの合間にさくさくっと髪の毛を直すしぐさがまたなんか可笑しい…。やばいっす。最初の演目ではもうゲルギエフのおっちゃんに目が釘付け。どーしようかと思いました。

でも2曲目でレーピンさんが出てきたらやっぱ私はレーピンさんに釘付け。すんばらしい~~~~!!!ほんと好きだわ、この方の音。レーピンさんが入っただけでこれはロシア人の曲だ、ロシアの風が流れてくるって思わせちゃうんですよ。うっとし。それできちんと曲が聴けるようになったというか、おっちゃんの踊りはきちんと指揮として認識できて気にならなくなりました(笑)でもやっぱ面白いけどねっ。

レーピンさん、アンコールもしてくれました。なんとコンマスと共演。おおっ、これがまたすばらしい。コンマスの方もかなり上手い。なのでかなり聞き応えがありました。とはいえやっぱレーピンさんの音の独特さには適わないなとつい思ってしまう私でした。まだ前半なのにこれでお終いでもいいくらいな盛り上がりぶりでした。

後半の交響曲第5番はとにかく見事としかいいようがない。オケの良さを指揮者が存分に引き出した演奏なんじゃないかなあ。観客もノリノリで聴いていました。

あれ?なんだかちゃんとした演奏会の感想になってないかも?ゲルギエフさん指揮のオケは次も行こうと思いました。サンクトペテルブルグで今度は聞きたいな。

【曲目】
・交響曲第4番 ハ長調 op.47(オリジナル版)
・ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 op.63
出演 ワディム・レーピン(Vn)
・プロコフィエフ:交響曲第5番 変ロ長調 op.100

【アンコール曲】
・2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 op.56 第2楽章
・『ロメオとジュリエット』組曲第1番 op.64bisから「仮面」


東京オペラシティ『ワディム・レーピン ヴァイオリンリサイタル』B席3階L

2008年12月03日 | 音楽
東京オペラシティ『ワディム・レーピン ヴァイオリンリサイタル』 B席3階L

久々のクラシックコンサート、楽しかった。やっぱクラシックコンサートも良いなあ。演劇とはまた違った感覚を揺さぶられる。

2年ぶりのレーピンさんのヴァイオリンの音色、やっぱり好きだなあ~と思いました。いわゆる一般受けする華やかさはあまり無いかもしれないけど、骨太で深くて豊かな音色。音に包み込まれるような感覚を受けます。音に余裕があって超絶技巧をやってますって感じを受けさせないのが凄い。それでいてこんな幅の広い音色を出せるなんて~って驚きが来るのです。一人オケ状態ですよ、この方。東京オペラシティのホール全体をヴァイオリン1本で響かせちゃうんですから。また相方のゴラン氏の小柄ながらかなりボリュームのあるピアノの音色に負けちゃいないですからね。また、今回は骨太さだけでなく繊細さや叙情性もあわせて聴かせてくれました。

ドビュッシーは軽やかに滑らかに。明るく多彩な音色を聴かせてくれて、フランスものも良いですねえ。

プロコフィエフはただもうすご~い、としか…。私にはプロコフィエフの曲想を楽しめるほどのスキルはまだない…。でも技巧を凝らした演奏にただ感嘆するのみ。この曲はレーピン(vn)とゴラン(pt)の掛け合いの面白さがありました。

で、私の好きなベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタです。泣きそうなくらい美しい響きがあったり、深い深い響きがあったり、その多彩な音色にうっとりと聴いてるのみでした。

アンコール曲も素晴らしかったです。チャイコがとにかく、凄すぎ。大満足の演奏会でした。

【出演者】
ワディム・レーピン(Vn)、イタマール・ゴラン(Pf)

【曲目】
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調、
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番へ短調 作品80
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調「クロイツェル」

【アンコール曲】
ブラームス: ハンガリー舞曲より 第7番 イ長調
ショスタコーヴィチ: 24の前奏曲より 第8番
チャイコフスキー: ワルツ・スケルツォ op. 34