Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

2017年04月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

『醍醐の花見』
舞踊劇としての舞踊の部分での面白味は少ないものの、役者の個性や演じているキャラクター造詣の面白さで見せてきて楽しかった。混成の座組みの面白さもあったと思う。淀殿と松の丸殿のバトルがバワーアップ。松の丸殿の気乗りのしない拍手の仕方ったら(笑)

三條殿は治長くんにこなかけてた(笑)歌種萬の並びが可愛い。鴈治郎さんは秀吉より家康ぽいけどどこか哀愁も帯びた風情がなかなか。右團次さんがキレキレでした。松也くんは柄はいいけどもう少し踊り頑張れ。

『伊勢音頭恋寝刃』
染五郎さんの貢の太もも、きりきりぷんぷんな二枚目顔を堪能。 しかも目があったかな~と勘違いしたので、きゃ~殺されると万野のように反り返りましたっ(気持ちだけな)。

初旬に拝見した時に比べ芝居の流れが段違いに締まった出来で面白く拝見。花形中心の座組みで初役揃いということを考えたら、ここまで芝居を密に出来たら上出来かな。花形以上を求めてしまうけど。べったりとした空気の濃密さはこの芝居に必要ない(さらり、でもざらりがベストな芝居のはず)けど、役に膨らみをもたせて役の密度濃くすることができたらというところなのです。数年後に期待。少し演出を変えてもいいかな~と思ったりもする。

この芝居、感情の行くつく先での殺しではなく、妖刀に操られてという流れになり、また大量殺人したわりにいきなりめでたしになるので誰がやっても釈然としない芝居ではある。物語で納得させるのではなく、場ごとの見せ場をいかにみせるかという芝居なので、案外難しいのだろう。

「追っ駆け」
テンポがよくなっていた。やはり橘三郎さん橘太郎さんが巧い。隼人くんは硬さがだいぶ取れ、緩急が出てきた。役としても非常に合っているなと思う。ただ硬さが取れた反面、現代的になりすぎる部分があったかな。

「二見ヶ浦」
同じ二枚目でも染五郎さんの貢の芯のあるぴんとこなの風情、秀太郎さんの頼りなげなつっころばしの風情の違いを明瞭にみせる。染五郎さんの貢の手紙を読む件の間合いが巧く、焦りの部分の所作に抜けをつくって独特の愛嬌を出してきたと思う。

「油屋」
前回拝見した時に会話などの間が悪いわけではないのに物語の流れがどこか噛み合わないところがあって心配したのだけど、さすがにその部分は解消されていて流れがよく場自体も締まってました。前半は花形たちが自分の役をこなすのに気をとられていたのだろうね。

染五郎さんの貢、芝居運びに緩急がつき、感情の積み重ねを丁寧にしっかりと演じてきていました。貢の性根の部分に武士という芯がハッキリとあるのがいい。あくまでも主従、恩義の世界の物語。世間に揉まれてこなかった若いがゆえの甘さや弱さの部分での怒りであり、神経質ではあるがあくまでも元々殺人を犯すような気質の持ち主ではないという造詣。貢という人物像として非常に良いところで表現していると思う。松嶋屋の解釈がそうなのだと思う。なので殺しが自分の意思外に刀に操られてしまっている感が強く出る。また「奥庭」での殺しでの地に着かないような足運び、刀が先にでる強さのない刀裁き、宙に浮かせた目線、すべてが「本性」での行動でないのがわかる。単に怒りという意思で殺していかないところで見せ場としては役者として難しいところだろうけど、欲が出さずあくまでも貢という人物の範囲で押さえている。前半観た時は松嶋屋をなぞるのに精一杯だった感じでしたが染五郎さんの個性もだいぶ出ててきたようにもみえた。

染五郎さんの貢の造形は松嶋屋に習ったことをきちんと表現できているということではありますよね。ただ、このやり方でいくのは年期も必要なとも思います。個人的には感情をもっとぶつけていく江戸型のほうが合うなと思いました。感情が擦りきれそうになるところに色気がでるタイプの役者なので。

染五郎さん貢と猿之助さんの万野とのやりとりは間合いがよくなっていた。ここのテンポがよくないと貢が追い詰められた感が出ないので万野とお鹿は非常に大事な役どころだと思う。

猿之助さんの万野は佇まいや台詞の突っ込み具合などは申し分はないのだけどやはり澱は感じさせず。なんのためにあそこまで追い詰めるのか?というところで今回はお金のために万事動いている感じがある。でも金に意地汚いというところまでいかないのが崩しきれない芸質を思う。猿之助さんの万野、巧い人だし、客の喜ぶところを知っているし、貢をきちんと追い詰めはいるのだからこの万野でも良いのかなと思うのだけど、私はもうひとつ「何か」を求めてしまう。私が万野という役に思い入れがあるせいかな。猿之助さんを観て女形として基本的に娘役者であり女房役者だよねとやはり思うなど。万野が貢を追いかけて花道で極まるとこ、魚屋宗五郎のおはまに見えたのよね。真っ当なんだよね、やはり。

『熊谷陣屋』
やはり物語がとてもクリアに伝わる。

幸四郎さんの熊谷は骨太さと繊細さが同居している感情豊かな熊谷だった。

続く)

歌舞伎座『四月大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄り

2017年04月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『四月大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄り

『傾城反魂香』
通称『吃又』は上演回数の多い演目の一つですね。色んな方の組み合わせで見ていますが吉右衛門さんの又平が一番多い。またか、と思わなくもなかったですが手の内に入ったお役を絶妙に自然体で演じてみせて、今の年齢だからこその又平で拝見して良かったです。

吉右衛門さんの又平はどちらかというと絵を描き上げるまでの絶望感、悲哀、憤怒、諦めといった感情の在り様や表現の克明さで芝居としての見せ場を作っていたと思うのですが、今回は絵が抜けた後の解放感がより印象的。隠れていた又平の愛嬌が弾ける。

菊之助さんのお徳は若いのでやはり役としての膨らみはないけど、丁寧に丁寧に演じて、それが又平の気持ちのひとつひとつを拾っていくような感じになって良かった。

座組みのいつものメンバーなので纏まりも良かったです。錦之助さんの修理之助がこれまで何度も演じてきたなかで一番若々しく持ち味も出てて、いい嵌り具合でした。

『桂川連理柵「帯屋」』
歌舞伎では初めて拝見。文楽のほうが「物語」として昇華されてるなという印象。人形がファンタジィー化してくれるしね。役者がやると少々、お話的に生々しい部分が。とはいえ山城屋さんの若さ、佇まいの色気には感心してしまう。

扇雀さんのお絹がとってもよかった。個人的に大当たり。心から旦那を思う情味と哀切さと。

壱太郎くんは長吉とお半の二役。やはりお半が本役で華やかな可愛らしさと一途な強さがあってピッタリ。長吉も巧いけど、これが似合ってしまうのにはちょっと複雑な気持ちも(^^;)

吉弥さんのおとせもこのお役に吉弥さんか…という気持ちはあれど、こなしてしまうのがさすがとも思う。繁斎がうっかり後添えにするのもわかる。綺麗だもの。

染五郎さんの儀兵衛はどこぞのぼんぼんが来ましたか?な…。端敵になっておりません。無理にやらせなくても…。

『奴道成寺』
華やかに打ち出し。猿之助はほどのよい踊りぶり。どうしても三津五郎さんをふと思い出してしまう。重心の使い方など少し似てるところがあるからかも。

なぜか今月は勘三郎さん、三津五郎さん、福助さんの不在をとても感じてしまう。どうにも切り替えができていないんだなと自分でも思う。

歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

2017年04月10日 | 歌舞伎
歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

長かった。狂言立てをもう少し考えて欲しい(*_*; 昼夜にしてなくて良かった。

『醍醐の花見』
中堅花形を揃えての舞踊劇。舞台面が華やかで春らしさを楽しめばいい。女形のほうがそれぞれの個性が出ていたかな。笑也さんと壱くんのバトルが面白かった(笑)

萬太郎くんが軽妙さが欲しい役どころで生真面目な萬太郎くんにはどうかな?と思ったらきちんとこなしてた。幅が出てきたかも。種ちゃんがいつもの拵えと違ってて一瞬誰かと思った。二枚目風情な顔になってたよ。

『伊勢音恋寝刃』
今回は半通しでの上演。

「追っ駆け」
橘三郎さん橘太郎さんのベテランがいい味。隼人くんはちと硬いかな。今の時代、この場はもう少し刈り込んでもいいかも。

「二見ヶ浦」
ここで舞台の空気が変わる。貢@染五郎さんは柔らか味がありつつ芯のあるさらりとした風情でいかにもぴんとこな。手紙を読む件に間や身体の使い方の巧さをみせる。あともう少し愛嬌があってもいいかも。万次郎@秀太郎さんが若い。いかにも若旦那の柔らか味のある風情がさすが。

「油屋」「奥庭」
初役揃いの「油屋」は個々、場面場面はいいところはあるものの全体的にまとまりが薄い。場の流れが一つの方向に向いていってない感じ。ほんのちょっとのところでどこか噛み合わないところがある。後半、これが解消されるといいんだけど。

「油屋」での貢@染五郎さん、まずはやはり柔らかすぎない生真面目を感じさせるいい風情。姿と性根の部分はとてもいいけど、芝居運びにまだ緩急が足りないのと辛抱の感情の積み重ねの部分が浅い。もっとくっきり演じて欲しい。万野を叩くあたりから「奥庭」にかけては決まり決まりの姿の美しさと感情の張りつめ方は非常の良かったと思う。着物から透ける太ももの形がエロかった。全体通して考えると良い貢ではあるけどもっと出来るでしょ?と思ってしまう。

万野@猿之助さん、さぞかし合うだろうと思ってたんだけどもしやニンじゃないの?な万野だった。顔はきつく拵えてるけど万野に必要な澱が全然ない。底意地の悪さ、そうなってしまった心のなかの泥を感じさせない。勿論巧い人なのでこなしてるけど真っ当さが勝つ。廓を動かしていくだけの才覚があるという部分がハッキリあるのと、芝居の為所での間合いの良さはさすがだと思う。ただその巧さだけではない部分で万野をどう作っていくのかというところ。

いまのところ萬次郎さん、京妙さんのほうが万野だな~と。造形にじめっとした澱があるのよね。そういう意味では萬次郎さんもお鹿じゃないのかも。万野に引っ掛かりそうにないもの。お鹿なりのプライドを明快に伝える巧さはあるけど単純な可愛げさはあまりない。

お紺@梅枝くん、拵えを少し変えたかな?どちらかと言うとすっきりした風情の人だけど今回ふんわりとした風情が足されていて綺麗さが増えた。もう少し心ならずもな裏腹な情味を出せたらベスト。

お岸@米吉くんは可愛い。性根の部分も可愛いのだろうと思わせたのが吉。

『熊谷陣屋』
わかりやすい『熊谷陣屋』だなというのが最初にでた感想。『伊勢音頭』でだいぶ疲れてしまい集中できない状態だったけど、そんな状態の頭にすんなり入ってきた。幸四郎さん熊谷を筆頭に役者たちのそれぞれの人物造形が非常に直球というかクリアだったように思う。

わかりやすい『熊谷陣屋』と思ったのと同時にいつもと印象がだいぶ違うなとも。幕開けの場は足してるなとわかりやすいとこもあったけど、一番は幸四郎さん熊谷。細かいところであれ?今までと違うよね?と。顔の拵えが随分と赤く筋も強めだった。『陣門・組打』の熊谷の拵えと繋げて全体の物語の流れのなかのひとつの場というのを意識したのかなとか?あと熊谷の立ち位置(あくまでも義経の家臣で元は藤の方に使えてた身分)をとても鮮明に芝居のなかでみせてきた感。また、戦語りの時
の居場所とかも微妙に違ったようにみえた。藤の方と相模の反応を伺いつつの部分は細やかで、裏にある二重性をくっきり。

ここら辺は前々からで幸四郎さんの演じ方は底割れという人もいるけど、今回はそれほど泣きにならず骨太に物語ってたと思う。今までの幸四郎さん熊谷は心情をその場面ごとに細々と表現してきて、そこで人物造形のわかりやすさを見せていたように思うけど、今回は詞章の大きな流れに乗ってのストレートさがある表現にしてきたかなと。前回の演じ方とだいぶ印象が違ったのよね。引っ込みはいつも通りというよりむしろ前回の熊谷のときより泣きが大きかったかな。その前の相模への申し訳なさとか、そこらへんの表現は好き。でもなおさら連れていけよと思うなど。今回の幸四郎さん熊谷なら相模を連れて行ってもおかしくないようにも思ったり。

猿之助さんの相模、とても丁寧に芝居を重ねて演じていて相模として過不足無く。まだ役としての膨らみはないけど終始目配りが利いてて漏れがないのはさすが。台詞の丁寧さが印象的で特に前半の場で相模という女性の立ち居地が明快でとても良い。真相を知った後半の感情の揺れはまだ心の奥底からのものとして発せられてない感はある。久しぶりに役者としてまだ若いんだよねと思った。ベテラン役者と組むと良さと足りない部分とが見えてくる。次のステップに進むためにもやはり若手はベテランと組むのは必要だと思う。

猿之助さん、この人は女形が本領だという気持ちを新たにした。質としては娘役者であるのも見えたし、そこの延長の相模だった。今回どなたに習ったのかはわからないけど、質的に先代の京屋さん(4雀右衛門)方向の相模が出来そうな気がする。そういう意味で、硬さにあったけど今後の期待ができる相模。ただし、女形の頻度を多くできるのであれば、なんだけど。

染五郎さんの義経、品格がありどちらかというと象徴としての義経だったようにみえた。そして『熊谷陣屋』という物語を裁く裁き役として存在していた。半眼でじっと耳を傾ける。また、やはり何をしに来ているかの語り口が明快。幸四郎さん熊谷に対して位取りもある程度見えたのは成長。とはいえやはりストレートすぎて人物像の膨らみまだ出てない。義経という個が立ち現れる弥陀六(宗清)と相対峙する場面での一瞬の砕け方は先代の7芝翫さんの義経を思い出させた。そういえば染五郎さんの義経はどなたに習ったんだっけ?

高麗蔵さんの藤の方、凛とした位取りがあって若々しく美しい。また息子に対する情愛や藤の方の悲劇性があってかなり良かった。最近の高麗蔵さんは役の嵌り方がいいなあ。

左團次さんの弥陀六はすっかり手の内。飄々としたなかに辛抱がみえる。ベテランでもしっかりこういうところ進化させていて、凄いなあ~と思う。

そういえば幸四郎さんの熊谷と猿之助さんの相模はそれぞれは良いけど夫婦感は少なめ。幸四郎さん熊谷はかなり相模の様子を伺う造詣(これはいつもの造詣)なので、今回はどちらかというと、猿之助さん相模がまだ、精一杯でそこまでの目配りがやりきれてないからかな~と。相性とかの問題ではないと思う。どちらかというとここら辺は女形の芸の積み重ねのひとつだと思う。先代4雀右衛門さん、7芝翫さん、当代なら魁春さん、最近は5雀右衛門も、最初の出から熊谷の奥さんだし、何がどう、ではなく空気感で夫婦間たっぷりになる。