Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

鎌倉芸術館『歌舞伎巡業公演東コース 昼の部』 S席

2007年07月29日 | 歌舞伎
鎌倉芸術館『歌舞伎巡業公演東コース 昼の部』 S席

舞踊『玉兎』
初日はひたすら丁寧にこなす感じでしたが、今回とっても味のある楽しい舞踊になっていました。ふっくらとした柔らか味はまだ足りないものの、表情が豊か。情景のひとつひとつが更にクッキリとし、また面白味が加わっておりました。総じて可愛らしい雰囲気を保ち、なんとも愛らしい作品となりました。 それにしても染五郎さん、また痩せてしまっていました。痩せやすい体質なのでしょうがあばら骨がみえるくらいなのでちょっと心配になってしまいます。

『仮名手本忠臣蔵』「祇園一力茶屋の場」
吉之助さんの前説がだいぶ流暢になっていました。内容は前回と変わりないのですが語りが流暢になるだけで随分わかりやすい感じをうけます。でもやっぱり今回出さない「祇園一力茶屋の場」前半の説明もするべきかと思う。それよりおおざっぱな短縮でもいいから芝居して見せることは出来なかったんだろうか?とも。種太郎くんがいるから力弥のお使いの場もできるし。

さて、今回初日から一番変化したのはやはり染五郎さんの平右衛門。段取りをただ追うだけで精一杯だったところからしっかり役の性根を掴んできました。ちょっとおっちょこちょいな足軽風情、家族を思う心根の優しさや忠義一途を胸に秘め仇討ちに加わるための必死さがきちんと伝わり、また押し出しも良くなっていました。芝雀さんのお軽と較べるといかにも若く、弟のような雰囲気にはなってしまうものの、兄妹の物語としての本筋が明確に出た。山崎の家族が平右衛門とお軽のやりとりのなかでしっかりと浮かんでくる。またお軽に真実を話す時の悲痛さなど、一気に感情をみせるシーンに上手さをみせるし聞かせる。

私は勘三郎さん(勘九郎時代)の兄妹愛を朴訥な雰囲気で全面に出す平右衛門が好きなのですが、それに近かった。染五郎さんの場合は余裕なさが平右衛門の必死さに繋がっているのでまだまだ芸で魅せる部分は足りないのだけど、造詣としては非常に良いと思う。また体の動かし方、形もかなり綺麗になってました。でもやはりもっとひとつひとつ、客を湧かせるくらいのノリの良さをもっと身に付けていかないといけないだろう。喉の調子は相変わらず治っておらず、時々台詞の伸びが足りずに掠れたりしてしまっていたのですが、いわゆる声の出はかなり良くなっていました。また台詞を義太夫にきちんと乗せてこれるようにもなっていました。これで喉の調子が治ったらかなり良い出来になると思う。

お軽の芝雀さん、初日よりはかなりこなれてきた。特に芝雀さんの持ち味である一途さ優しさをストレートに見せるという部分で勘平一途、親への気遣いが明確にあって、六段目のお軽が身を売ってここにいるのだという哀れさが見え隠れする。なので平右衛門とお軽の兄妹愛としての物語がストレートに伝わる。これは芝雀さんと染五郎さんの間(マ)が合ってきたせいで、お互いのキャラクター造詣が上手くハマって見えたということだと思う。芝雀さんのお軽は勘平以外の男性が入る隙間がない、いつまでも恋する勘平の妻である。大星に請け出されて嬉しがる姿にも家族の元へ帰れるという気持ちゆえというところがハッキリと。

とても可愛らしくて好きな造詣なのではあるが、でもやはり七段のお軽にはこの心根が底辺にありつつも、遊女としての華やかさ色気、人のあしらいの洗練さが欲しいと思うのです。でも芝雀さんは売られた直後のお軽に見えてしまうのですよね…。芝雀さんの不器用な部分が悪いほうに出てしまったというか。特に大星とのじゃらつきがどうも様になってないのです。丁寧に丁寧に、はわかるのですが段取りくささが抜けず…。七段のお軽は段取りが多いので大変だとは思うのですが、もう少し自然な感じを出して欲しかった。また抜け感のある台詞回しがあまり上手ではなく終始張った感じで緩急が足りない。ああ、そうかこういうとこがまだまだなんだと芝雀さんの足りない部分がよく見えてしまったお軽でした。勘平が死んだと知れた後のところが良いだけにあともう少し頑張ってという感じです。六段のお軽だったらすごく似合うと思うんですけど七段となると難しいですね。

吉右衛門さんの由良之助は相変わらずの貫禄と存在感。これだけの出番とはもったいない。

『太刀盗人』
全体的にメリハリがついてますます楽しい舞踊劇になっていました。特に歌昇さんのすっぱにとても愛嬌があって、やりすぎの一歩手前で押さえているところに上手さを見せます。マジメな高麗蔵さんとの対比もよく、非常にバランスが良い。吉之助さんの目代の亡羊とした感じがスパイスとしてかなり効いてます。表情に余裕がでてきてますますいい感じ。種太郎くんも硬さがだいぶ取れてきて生真面目な感じがうまく嵌っていました。にしてもお父さんや高麗蔵さんを見る目が完全にお勉強モード(笑)そこがまた可愛らしいですね。

NHK教育テレビ「『俳優祭』

2007年07月27日 | 舞台関連映像(映画・TV・DVD)
NHK教育テレビ『俳優祭』

映像視聴なので観劇感想番外編ということになりますが。

全てを見て一番印象的だったのは模擬店でインタビューを受けていた親子で出ていた役者さんたち。全員が全員、お子様たちを前に押し出し紹介していた。継いでいってもらう、その意識が絶えずあるんだろうなと。その自覚的な行動をとっさにできる役者根性に見事だなあと思った次第。

『郷土巡旅情面影』
「勧進帳」
かなり本格的。いい声の子がいてぜひ続けてもらいたいな、なんて思いました。

「山鹿灯籠踊」
きれいな舞踊でした。これは生で見たほうが幻想的だったかもしれないですね。それにしても誰が誰やらさっぱりわかりませんでした。

「阿波踊」
子供たちが可愛い~。猿弥さんが美味しいところをもっていきました(笑)錦之助さん、すんごく楽しそうな笑顔。松江さんも何気にはじけてたかも。爆発ヘアの若手、体のキレが良かったけど尾上右近くんかな? <尾上右近くんで当たりだそうです。

『木挽森賑売座留(模擬店)』
模擬店の様子を見ていて私が一番行ってみたいと思ったのは梅玉さん画廊。なんかまったり、いい感じ。

染五郎さんの写真館。染五郎さんは『白雪姫』での鹿メイクだった(笑)夜の部限定だったらしいので鹿メイク染ちゃんと一緒の写真はかなりのレアアイテムですよねえ。

エコバック売り場の菊之助さんがすっきり細くなって素顔がとってもかっこよくなっていた。菊ちゃん素顔は以前かなり真近で見たことがあります。たまたま電車のなかで遭遇したんですけど、色白で(案外ヒゲが染ちゃんに負けず劣らず濃い)、印象的なのが卵型の輪郭と茶色の目。とにかく、いまどきじゃない品オーラ漂う可愛らしい青年でした。

左団次さんは素顔&洋装がほんとにかっこいい。私が散々そう母に言っていたのだけど信じて貰えないでいたのだが(なぜにして?)今回の映像でようやくわかってもらえた。

『白雪姫』
想像していたより楽しかった。もっとグダグダなのかと思っておりました。玉三郎さんの可愛い赤姫姿にぽよ~んとしつつ、玉三郎さんの玉手御前を見たい欲望がふつふつと…。小鳥では芝雀さんと七之助くんに目が行く。小鳥のなかではこの二人が私好みのお顔なのです。

この演目での私的大ヒットは皆様とは違い菊五郎さんたちの千住観音ではなく、団十郎さんのお妃です~~。可愛いわっ、可愛いわっ。私、団十郎さんの加役の女形が異常にツボらしいです。

森の動物たちの配役はどーやって決めてるんでしょうね?染ちゃんの鹿の踊りは「CATS」だよね、それ?あっ、メイクもだ。勘太郎くんが原型留めていない、じいさんメイク…リスに見えないからっ。声がやっぱ勘三郎さんにクリソツ。菊ちゃんのうさぎがラブリー。松緑くんたぬきがあまりにもピッタリで(笑)母が「松緑くん、踊りが超ヘタになってる~~~腰がふらふらじゃん」と言うので「あれは酔っ払ってるからだよ」とフォローしときました。獅堂くんはイノシシでしたっけ?ねずみに見えるんだけど…。

七人の童の幹部役者さんたちのあほの子メイクにはただただ笑うしか…。似合っているというか、なんというか。秀太郎さん、チト怖いです~~~(笑)玉さま白雪姫とのおにぎりラインダンスが可愛らしゅうございました。

幸四郎さんハニカミ王子に吉右衛門さん童が「おいらによく似たお武家様」って言うシーンで染ちゃん、思いっきり爆笑してましたねっ。見逃しませんでした。

歌舞伎座『七月大歌舞伎『十二夜』』昼の部

2007年07月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『七月大歌舞伎『十二夜』』昼の部 3等B席

大向こうが似合わない芝居だなと今回思った。大向こうさんが2~3人頑張ってかけてたけど、この芝居には正直うるさい。効果的な大向こうだなと思った箇所皆無。ここで欲しい、という場面もない。『十二夜』は会話劇だし、余白作らず、流れるような演出をしている為と思われる。あと音楽にハープシコードを使ってるせいもあるかも。歌舞伎ぽくない雰囲気で始まるので普通のお芝居として観る感覚に頭がなってしまうから尚更、大向こうに違和感を覚えるのかもしれない。初演時は大向こうはあんまりかからなかったような気がするがどうだったろう?

全体的に初演よりはだいぶシェイプアップされていた印象ではあるがまったり感は相変わらず。船のシーンが一番、演出の手直しをしてきたようだがここは非常に良かった。あとは台詞を削ったり、くらいかな?大きな変化は無し。前回、私的に一番気に入らなかった大詰めのマスクは今回もあり、やっぱ失笑系になっていた気がする…。ここ、なんとかならないものか。友人とせっかく鏡を使用しているのだから、それをどうにか使えないか?という話になった。大地真央の『十二夜』ではそこら辺の処理はうまかったらしい<私は未見

捨助と坊太夫の一人二役もやはり気に入らない。一人二役にしたことでどちらも活きてこない。今回は捨助がかなり印象薄く、ますます意味の無い人物に。捨助は物語の目撃者であり、デウス・エクス・マキナなのに…。終始舞台にいるべき人物で、そこが『十二夜』の大団円のキモでもあるはず。蜷川さん、これでいいの?ということで、この演出に心惹かれない私は今回もあまり盛り上がれずに終わる…。

ただし、役者さんたちはそれぞれ活き活きしてて、そこだけを観る分にはとっても楽しかったです。今回、一番の成長ぶりを見せたのが菊之助さん。今回はきちんと役に入ってて表情も前回、緊張感で単なる人形だった獅子丸が晴れ晴れとした表情で楽しげにやっていたのがとっても良かった。少し疲れ気味の声ではあったけど、声の幅がかなり広がっていて、膳之助、獅子丸実は琵琶姫のそれぞれにキャラクターに説得力があった。あと艶も出てきたかなあと思う。獅子丸のふんわりした雰囲気がとっても素敵でした。

それと私的今回の目当ての亀治郎さんの麻阿は相変わらず最高の飛び道具(笑)一挙一同、目を離せません。大河と平行してやっているためか、かなり疲れた様子(顔がやつれてた&声がかなり疲れ気味)ではあり、最初の出の場がいつもの亀ちゃんの勢いがなくて心配したけど、演じるにつれどんどんヒートアップ(笑)観てて楽しくて楽しくて。芝居のメリハリを付けていたのは亀ちゃんの功績。サービス精神旺盛すぎてうるさいと思う人もいそうだけど、私は麻阿に関してはやりすぎても許す。

あともう一人の飛び道具系キャラ、安藤英竹は今回唯一配役が変わり松緑さんから翫雀さん。翫雀さん、物足りない~~~。だって「阿呆」じゃないんだもん!翫雀さん、周囲に踊らされてしまう「阿呆」には見えません。声か台詞廻しかどこかに理知的な部分が見えてしまうのです。松緑くんがどれほど突き抜けてやっていたか今回よーくわかりました。んで、松緑くん英竹がいたからこそ、亀ちゃん麻阿は周囲のバランスを取れてたんだと…。ううっ、松緑くんカムバッーーーク。

前回、大篠左大臣のハンサムぶりに一躍ブレイク?した錦之助さん。噂ではおっさん化してる、とのことでしたが、なるほど爽やか青年な雰囲気から今回は貫禄のある美丈夫ぶり。存在感が出たということでしょうか。前回の夢見る青年な雰囲気が好きでしたが今回の左大臣の格のようなものが醸し出ているのも良い感じじゃないかと。

捨助と坊太夫の菊五郎さん。前回はうまく演じ分けているなとは感心はしたものの、キャラクターとしてはどちらも中途半端という印象受けた。特に丸尾坊太夫が弱かった。しかし、今回は坊太夫にかなり力が入っていて、尊大さ、いやみな男の部分を強調しそれゆえの滑稽味もだいぶ加わっていた。でも私的にこの役、菊五郎さんのニンじゃないかも、とか思い始めました。菊五郎さんだといじめられてもしょうがないキャラにはならないのよね。職務に忠実って雰囲気で多少いやみでも許せる範囲んだよね。

誰か他に坊太夫をできる役者いないかなあ、と考えた時に、いた~~、菊五郎劇団には三津五郎さんがいるではないか。そうだよ、足りないのはこの人だ!。この人なら坊太夫が出来るじゃん。んで、菊五郎さんには捨助を飄々と演じていただき、お笑い4人組やら織笛姫と獅子丸らに事あるごとにちょっかいを出してもらえばいい。そしたら捨助を見送る大団円も活きるし。

国立大劇場『社会人のための歌舞伎鑑賞教室『野崎村』』1等前方花道寄り

2007年07月13日 | 歌舞伎
国立大劇場『社会人のための歌舞伎鑑賞教室『野崎村』』1等前方花道寄り

『解説 歌舞伎のみかた』
解説の松江さんが緊張しまくりでした(笑)松江さんビューなお席だったのですが素顔はなかなか素敵です。白い着物って男ぷりが上がりますね。内容は十二支を絡めて歌舞伎の色々を紹介するという趣向。わりと構成はなかなか考えているな、と。全体的に微妙なテンションの笑いがちりばめられていましたが…。あのお百姓さんはどおなの?やっ、楽しかったですが。個人的に黒御簾内を見られたのが一番楽しかったです。鼓の方がノリがよくて手を振ってくれたので振り返しちゃった(笑)

『野崎村』
今回、福助さん、東蔵さんなら結構濃いものを見せてもらえるかな、なんて思ったんですけど…。いえ、この二人の達者な芝居ぶりはきちんと見せてはいただけたとは思います。でも何か違う今回の『野崎村』。全体的に妙にまんがちっく。初心者にわかりやすく、の意識が強く働きすぎじゃないのかな?あと、それ以上にお光、久作の親子コンビに比べお染・久松の恋人コンビが薄かったせいで全体のバランスに欠いたのかもという印象もある。

お光@福助さん、前半は少しおおげさかなと思うけど、ぷんすかしてるとこるはとっても可愛いし、お光が尼の姿になり久松を思い切る所のきりっとしていながらも哀しげな表情なんかはすごーく良かったと思う。んが、久松を見送る場の泣き笑いのとこ、作りすぎでは?哀しみをこらえて、というようにはあんまり見えなくて。テヘとかキャピとかクスンとか、まんがの擬音が見えてきそうでした…。だから「ととさん」と泣き崩れるとこがあまり活きてこない。席が5列めで福助さんのハッキリとした表情を見るには前すぎたのかも。

久作@東蔵さん、改めて達者な役者だなあと。義太夫のノリが上手い。台詞回しが心地良いです。娘を思う熱い気持ちも伝わってきたし。でもちょっと終始ハイテンションすぎかな?とも。もう少しメリハリがあると、久作の苦悩や優しさが出ると思うのだけど。

お染@芝のぶさん、可愛い。でも大店のお嬢様、とまではいかない。もっと華やかさとが欲しい。それ以上に恋する娘の必死さ、みたいな部分がまだまだ薄い。すごーく丁寧にきっちりこなしてるのはわかる。こういう役に慣れてないせいだろう。もっとこういう役に慣れてくると存在感は出てくるかも。

久松@松江さん、ごめんなさい…出てきた瞬間、この役似合わないかも…と思ってしまいました。どーみてもこの役、ニンじゃないような…。この役はただ頑張って出来る役じゃないし難しい役ではあるが。丁寧に一通りこなしてるし、役からはみ出してはないのだけど…。久松という人物像がハッキリ見えないというか。それと
顔の拵えをもう少し柔らかくしたほうが、とか(^^;)。配役は本人のせいじゃないけど、松江さんは骨太な役かちょっとひょうきんな役柄のほうが似合うと思う。

お常@芝喜松さん、情があり芯がしっかりした母親像が明確でとても良かったです。