Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『三月大歌舞伎 昼の部』 1等A席前方花道寄り

2012年03月24日 | 歌舞伎
新橋演舞場『三月大歌舞伎 昼の部』 1等A席前方花道寄り

『荒川の佐吉』
私はなぜこの芝居が苦手だったんだろう?と思うほど以前感じていた印象から違う印象へと変わった芝居となりました。真山青果特有の何もそこまで言葉で表現しなくてもと思う持って回った理屈ぽさはやはり多少気になる部分はあるのですが今回は登場人物たちの等身大の不器用なまでの生き様がみえて「物語」として受け入れることができました。

今月の『荒川の佐吉』は役者を見せるというより物語のほうが先に立った芝居になっていたので色んなものがみえてきていたような感じです。染五郎さん佐吉の良い意味での初役ゆえの余裕のない真っ直ぐな芝居だからこそ見えてきたものがあったのかも。まずは佐吉という男の成長譚としての側面がよくみえました。また物語のなかの「力」の世界の矛盾をついてくる話でもあり。またそのなかに「お金」の力に対するものも含まれているのだという事もようやくきちんと判ったかも。金を持つものの傲慢さ、持たざるものの悲哀。単に力、金があるだけでは人は生きていけないのだと、そこに人情、義、といった人としての真っ当さ、そして愛するものを思いやるものがなければ「生き様」としてどうなのか?と問うものだったのかな~と。

佐吉@染五郎さん、8日に拝見したときよりだいぶ人物像にメリハリが出ていて進化していました。1回目に拝見した時にすでに「佐吉」という人物像が染五郎さんのなかにしっかりと浮かび上がっていたので完成度が高いと思ってたんですが今回拝見してみると実はかなり芝居の手順に追われいっぱいいっぱいで芝居してたのがよくわかりました。それだけ難しい役なんだということも。今回のほうが場面場面にもっと説得力がありました。染五郎さんのなかに佐吉がしっかりと馴染んでいたと思います。染五郎さんの佐吉の一言一言、その行動のなかにある実感のこもりようが見事でした。佐吉@染五郎さんは仁左衛門さんの佐吉をよく写してるだけじゃなく、かなり自分に引き寄せてる部分があると思います。真っ直ぐに「佐吉」という人物を捉えてる。今は等身大の部分で一番共感できるとこを膨らまして演じてるんだと思います。

任侠に憧れ、いきがりつつも性根の真っ直ぐさや優しさを失わない。そして自分と係わった人々をとても大事にする。人として「大事」な部分がどこにあるか感覚的にわかっているけどそれを自覚し表現するにはとても未熟で弱い。そんな佐吉が本当に大事で守るものができた時に少しづつ成長していく。そういう佐吉だった。丁寧に丁寧に佐吉の心持ちを拾って描き出していました。なぜ旅立たなくてはいけなかったのか、弱さがあればこそ、そこが本当によくわかる。弱さを自覚したからこそ強くなれた、そして愛するもののために最後一人で去ることを決められた。染五郎さんの佐吉の強さはただひたすらに守るもののために必死に生きているという部分なんだなあと。颯爽とした自覚的な強さはない佐吉だけどとても切なくて愛おしい男でした。最初の辰との引っ込みでのまだ自分に無自覚な可愛い笑顔とラストのやせ我慢して涙をこらえた男らしい顔の対比がよかった。染五郎さんが次に演じる時にどういう佐吉像に持っていくかわからないけど次に拝見するのがとても楽しみになりました。

堅気な佐吉がなぜ任侠に憧れたんだろうと思っていたのだけど、染五郎さんの佐吉は人としてはずれてしまう部分があったわけではなく、外れもの達の寄り集めで力だけで生きていくためゆえの義理と人情の約束事が強い任侠の世界の擬似家族に憧れたんじゃないかと思ったり。小さい時に家族を亡くしたのかなとか。妄想がチト広がってしまいました(笑)

辰五郎@亀鶴さん、いかにも堅気の人のよいしっかりものの辰五郎をしっかりと演じていました。佐吉と友人としての間柄もとても良かったです。お互いの信頼度というか互いの気の使い方が同じところで繋がってる友人同士な感じというか。お互いがフォローしあってる感がありました。今回の佐吉が弱いところを隠さないので亀鶴さんの「しっかりもの」の側面が強い辰五郎とピッタリでした。佐吉と辰五郎は年齢が近い役者同士のほうが良いのかもしれないですね。

お八重@梅枝くん、とても納得できたお八重ちゃんでした。気の強さのなかに傷ついた娘がみえる。

鍾馗の仁兵衛@錦吾さん、運から見放され投げやりになってしまった仁兵衛を元親分だったという格を失わずに表現しててとても良かったと思います。また、力で取り戻せないなら金で、という意地の部分が非常に鮮明で真山青果の言いたかった部分のひとつが拾い出された感じがしました。

相模屋政五郎@幸四郎さん、前回より貫禄が増した感じがしました。とはいえ幸四郎さんの相政は貫禄で有無を言わさずではなく佐吉に丁寧に言い聞かせる。

『九段目 山科閑居』
前回は加古川一家と大星一家のカラーが違いすぎて芝居のまとまりがいまひとつだったけど今回はさすがにしっかりかみ合わせてきた。情の加古川一家と義の大星一家、それがラスト交じり合いひとつの方向へと向かう、今回はそういう九段目だったように思う。

戸無瀬@藤十郎さん、娘可愛さの情味が溢れててとても良かったです。藤十郎さん演じる女はとても芯が強いことが多くその強さのなかに熱を帯びる、といったものが特徴のような気がしますが今回はそれとは趣が少し違っていたように思います。今回は藤十郎さんのたっぷりとした情が内へと入る感じ。今回の藤十郎さん演じる戸無瀬はすごく「女」なんだな~って思いました。旦那の言いつけをひたすらに守ろうとし、娘への情に揺れ、お石の言動に戸惑い悩む、その部分の弱さを隠さない。生さぬ仲の娘、小浪のために惑う姿がとても「妻であり母であり女」でそこがとってもよかったです。

お石@時蔵さんのお石は武家の女たらんとした凛とお石。非常に気を張って家族を守ろうとしまたそのうえで同じ「母」としての戸無瀬を思いやる。その気の張りようや使いようが良かったです。戸無瀬@藤十郎さんとは正反対にまずは強さを表へ表へと向かわせる。しかしその実、内心に不安を抱えているような繊細なお石さんでした。時蔵さんの戸無瀬も拝見してみたいです。

小浪@福助さん、とてもいじらしい一途な可愛い娘でした。愛らしさを全身で表現しとても美しかった。情が先に立つ戸無瀬@藤十郎さん、本蔵@幸四郎さんのなかにあってその愛情を一身に受けた強さがあったように思います。それにしてもここまで抑えた芝居ができるのであれば、このところ柄に合わなくなったかな?と思っていた姫も十分にまた表現できるでしょう。今後もこの感覚を忘れずに演じていってほしいです。

本蔵@幸四郎さん、この本蔵というお役は情をストレートに表現する幸四郎さんにピッタリです。。娘可愛さ、情の部分で動いてしまう本蔵というキャラの質をそのままに描き出す。主人のために賄賂も厭わず、よかれと思って判官を抱き止める。そしてそのために窮地に追いやられた大星一家への申し訳なさと、娘への愛情ゆえに自分の命を投げ出す。義ではなく情に生きた男の切なさがそこに浮かぶ。納得の造詣でとても良かったんですがそれはと別にどことなくお疲れかな?と思わせる台詞のキレの弱さがちょっと気になりました。

由良之助@菊五郎さんのは由良さんという押し出しはやはりないです。菊五郎さんはやはり判官、勘平役者なんだな~と思いました、とはいえ菊五郎さんの由良之助は本蔵の想いをしっかり受けとめ共感と思いやりが深い。そこを丁寧に表現されていて九段目の在りようをしっかり見せてきました。

力弥@染五郎さん、なぜにあんなに若くみえるのか?十代にしかみえなかったです。儚さばかりが先に立った8日とは違い今回はきちんと仇討ちに向けての若者らしい高揚感がありました。

新橋演舞場『三月大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

2012年03月17日 | 歌舞伎
新橋演舞場『三月大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

夜の部は三演目それぞれに座頭の役者の個性が現れて色んな意味で面白かったです。

『東山桜荘子「佐倉義民伝」』  
4年前にも幸四郎さん、福助さんコンビで拝見しております。今回のほうがしみじみとした味わいだったような気がします。前回は別れの愁嘆場が少し長すぎるように感じたのですが今回はその「時間」が別れ難いんだなとすんなり心に入ってきました。宗吾と家族の別れの場で幕が閉まった後も子供たちの「ととさまいのう」が残響のように聴こえてきました。私の空耳だったのかそれとも子供たちが幕が閉まったあともととさまを呼んでいたのか…。「東叡山直訴の場」の今までは紅葉の季節だったはずですが今回桜にしておりました。家族との別れからが直訴に到る期間のことを考えたら桜の春のほうがしっくりきますね。桜のほうが未来を暗示させますし。

宗吾@幸四郎さん、前回は宗吾を高潔な英雄としての側面を強く出し描いたと思いますが今回はもう少し情に落したというか一個の悩める男として演じてきたように思います。家族想いの部分を強調し、それゆえの宗吾の決断の苦悩の部分を際出せていました。

おさん@福助さんは今回はかなり抑制の効いた芝居。そのため芯がしっかりした健気な奥さんぶりが際立って非常に良かったです。

彦七@金太郎くんを筆頭に子役が三人がとっても可愛らしくて、いじらくしかった。子供たちも処刑されてしまうという行く末がわかっているだけに泣けてしまいます。金太郎くんは6歳という年齢より大人びてる雰囲気ですが素直で行儀のよい芝居。

渡し守甚兵衛@左團次さん、頑固じじいな無骨さが前にでる。

松平伊豆守@の彦三郎さん、いわゆる肚芸はないんだけど直線的な芝居がなかなか印象的。

家綱@染五郎さん、前回に比べだいぶ風格が出ていました。家綱は宗吾のことをまったく見ようとしないんですよね。今回それに気がつきました。立ち姿と長袴の扱いが相変わらず綺麗です。


『唐相撲』
狂言をもとにした舞踊劇。色んな意味で菊五郎劇団クオリティ(笑)。重い題材の『佐倉義民伝』」の後の演目としては最適だったかもしれません。まったり楽しい。この演目には座頭の菊五郎さんの劇団への愛情がみえました。名題下含め皆それぞれにに見せ場をきちんと作ってあげていました

通辞夫人@萬次郎さんの中国語、四声がきちんとしていました!!耳が良いのでしょうね(感心)

官人@亀三郎さんのポージングがなにげに綺麗でした。

『小さん金五郎』
あまり期待してなかったんですが楽しかったです。上方のお芝居らしいばかばかさが良い。全体的に金五郎@梅玉さんと小さん@時蔵さんの持ち味で品のよさでばかばかしい芝居に品のよい可笑し味を与え可愛らしい芝居にしていたと思います。本来はもう少しこってりが必要なんでしょうがこの雰囲気もなかなか良いと思う。梅玉さんは少し前までは時蔵さんとコンビで積極的に上方狂言を手掛けていましたが最近やってなかったんですよね。今回久しぶりでしたけどこういう狂言の掘り起こしはこれからもやっていただきたい。梅玉さんと時蔵さんコンビの上方世話の狂言では『おさん茂兵衛』がかなり面白かったのを思い出しました。

今回の芝居ではなんといってもお鶴@秀太郎さんですね。秀太郎さんが出ると芝居が弾む。活き活きと楽しそうに弾けて芝居をなさっていました。こおういうお芝居には照れのない突っ込んだ芝居のほうが楽しいんですよね。

お鶴の連れの子役の子もとっても可愛かった。

お糸@梅枝くんが芸者の風情がしっかりあり、また六三郎への可愛い恋慕や嫉妬などの細かい表現がしっかりしていて上手いです。梅枝くんは今のところ何を演じても安定しています。これで個性がもっと出るようになると華が出るのではないかと思います。

アン・リンセル監督『ピナ・バウシュ 夢の教室』

2012年03月10日 | 舞台関連映像(映画・TV・DVD)
アン・リンセル監督『ピナ・バウシュ 夢の教室』

『ピナ・バウシュ 夢の教室』はピナ・バウシュが企画したピナの代表作『コンタクトホーフ』を10代(高校生)の少年少女40人たちに十ヵ月かけて舞台で踊らせるというプログラムの様子を追ったドキュメンタリー。この映画の主役は十代の子どもたち。でもそこにピナの大きな視点が存在していた。ピナが出演しているから、ということではない。このドキュメンタリーの視点そのものにピナの息遣いがあった。やはり私はピナの視点、世界観が好きだ。もしピナを知りたかったらピナ不在の映画『pina ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』より是非この映画を観てほしい。ほんの一端だけど触れられると思う。

この映画はドキュメンタリーとしても秀逸。十代の子たちの未熟さ、痛々しさ、そして強さをしっかりみつめている。彼らに与えた課題『コンタクトホーフ』という作品は十代の子が表現できるとは思えない作品。よくぞこの作品をやらせる気になったものだ。指導者たちは十代の目線を降りることなく、「ここまで来られる?おいで、やってみて。そしてあなたたちというものを教えて」そういう教え方をする。そして少年少女たちの瑞々しい感性が少しずつ花開いていく。良い映画でした。

ビム・ベンダース監督『pina ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』

2012年03月10日 | 舞台関連映像(映画・TV・DVD)
ビム・ベンダース監督『pina ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』

ビム・ベンダース監督『pina ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』は完全にピナ不在の映画だった。いわばピナの慰霊碑をこれがピナでしたと言っているような映画だった。どこにもピナはいない。ピナが見た世界、ピナが語ろうとした世界はどこにもなかった。私にはこの映画はとても不満。ピナってどんな人?どんな踊り?という興味で観てもピナの世界はそこにはないです。正直、ピナを知らない人にこの映画はオススメできない。あそこまでピナの視点が欠けてる映画だとは思わなかった。型の断面があるだけです。ピナの魂がそこにはなかった。不在を痛感させられただけだった。唯一、ピナの踊りは外の世界に出ても存在感を失わない踊りだったんだと、それがわかっただけかな。せめて何か一つの作品を映像として見せることはできなかったんだろうか。

私にとってピナの作品を観るということはピナと対話することだった。ピナの作品はそういうものだった。ピナはミクロとマクロが愛と憎しみが喜びと悲しみが相反するものが同等に内包された世界観の持ち主であったと私は感じている。その世界観、視点をこの映画に残念ながら見出すことが出来なかった。とても残念。

新橋演舞場『三月大歌舞伎 昼の部』 3等B席前方上手寄り

2012年03月08日 | 歌舞伎
新橋演舞場『三月大歌舞伎 昼の部』 3等B席前方上手寄り

『荒川の佐吉』
正直なところ、染五郎さん佐吉と亀鶴さん辰五郎がここまでやれるとは思ってなかったです。思っていた以上にとても良い舞台でした。役者たちが一幕、一幕、とても丁寧に演じており充実しておりました。以前から気になっている演出面で舞台転換の多さゆえのたるさは変わらず。もう少し舞台転換をどうにかできないかな。

私はこの演目は何度も拝見しているんですがかなり苦手です。出演している役者さんが好きでも物語にハマれないと楽しめません。この演目に関してはお話そのものが好みじゃないんですよね。同じように真山青果もの『頼朝の死』も大嫌いで役者がいくら好演してても乗れないんです。なので今回もまったく期待していませんでした。ところが今回は『荒川の佐吉』という物語に乗れてしまった。納得できてしまったんですよね。今まで『荒川の佐吉』という物語は任侠もので男の勝手なドリームもの、男が美学に酔いしれ女がとことんバカでって、そういう芝居というように受け止めていました。しかし今回はそうではなかった。前回までは真っ当に生きる辰五郎と卯之吉にしか感情移入できなかったんだけど今回はなぜか登場人物個々を受け止められた。カッコイイとか格好悪いとかひどいとか優しいとか、そういう前に皆個々それぞれ必死に生きてるんだなと、そう思ったんです。

今回の舞台からはやくざものは所詮やくざもの、はみだしてしか生きられない、そういう立場のなかで生きているという部分がみえたような気がする。だからかえって色んなものが納得できた。お新さんもお八重ちゃんも苦しんだんだってわかってあげられた。そして佐吉はまだまだ未熟な男なんだと、だから旅立つんだ、そうしないではいられないんだこの人はって思った。自分がこの芝居でで納得できるとは思ってもいませんでした。実際のとこ、真山青果はこういう芝居を書こうとして書いたか?と思えばそうではないと思う。潔い桜の散るような男の生き様をみせるための芝居として書かれているので。本来はもっとやくざものの男の美学が前に出る芝居になるべきなんでしょう。でも私は今回の解釈の芝居のほうが受け入れられるし好きです。

荒川の佐吉@染五郎さん、優しいし実直だけどやくざに憧れてはみだしてしまった未熟さのある佐吉でした。仁左衛門さん写しの佐吉だとは思うのですが持ち味の違いが際立ってもいました。染五郎さんは佐吉という人物像のなかの共感する部分を膨らませたんだろうと思います。だからほんとに等身大の男性としてそこに立っておました。反対に、その等身大の部分で芝居としてたっぷり見せたり、佇まいだけでみせるという技術が足りてない部分もありました。しかし反対に必死に生きてる男もみえました。

佐吉にある未熟さ、潔く格好よく生きて来られなかった、そういう部分がある佐吉はとても好ましかった。染五郎さんの清濁飲み込んだ人物解釈が好きです。今回の佐吉は愛らしくて切なかったです。相政の親分とお新が卯之吉を引き取りにお願いにくる場、染五郎さんの佐吉は金持ちの勝手さや卯之吉を見放した女二人を責めますがそこに自身の人としての未熟さも入っていました。だから相政の親分にそこを突かれてしまうのがわかりました。あの場面、いつもピンとこなかったですよね。今回はああなるほどって納得いきました。自分というものの身の置き場をなかなか見つかられなかった人でした。卯之吉のことを一番に考えられた、その瞬間にようやく自分がわかったんだろうと思わせました。それだからこそ旅立たないではいられない。卯之吉と離れなきゃいけない、それを悟ったあとの染五郎さんの佐吉は本当に辛そうな表情でした。本当に我慢してるだなという感じで観てるほうも辛かったです。しかし悲しい結末ではあるけどそこからが佐吉の一歩という印象がありどこか未来もみえました。卯之吉が大きくなったら会えるんじゃないかな~、そんな風に思ったラストでした。

辰五郎@亀鶴さん、ほんとに真っ直ぐで友人思いの辰五郎。兄貴分と慕ってる部分と対等な友人という部分のバランスが絶妙。足がしっかり地について真っ当に生きるすべを知っている真っ直ぐな性分の辰。染五郎さんとのバランスがまたとても良かった。弱さのある染五郎さんの佐吉をしっかり支えていました。出すぎずにきちんと存在感をみせる、やはり亀鶴さんは上手いですね。染五郎さんと亀鶴さんのコンビ想像以上によかったです。

お八重@の梅枝くん、若いせいか硬質さがあるせいか、若さゆえのお八重のその時の怒りや悲しみがわかってあげられるお八重ちゃんでした。好きでもない佐吉と結婚して子供育てろって受け入れられるわけないじゃんね~って。んで、ラストの場で謝るところ、実は私嫌いだったんです。お八重ちゃんだけがなんだか一方的に悪者になってる感じがして。でも今回はお八重と佐吉、両方が未熟だったんだってわかるからお互い様だったんだよねという場面になってイヤじゃなかっです。

お新@福助さん、前回演じたときより抑えた芝居でしたがそれがとても良かったです。佇まいからほんとにこうするしかなかった、カタギの世界で生きていく女になるためにはそこまでしなくてはいけなかったって伝わってきました。

鍾馗の仁兵衛@錦吾さん、予想外に役に嵌っていらっしゃいました。親分として慕われた格を失わず、運悪く落ちぶれたために頑固になり周囲が見えなくなっている、そういう仁兵衛でした。

成川郷右衛門@梅玉さん、ニヒルで少々虚無的な成川。人の隙に入り込むような雰囲気を漂わせ面白い造詣。梅玉さん、こういうお役が意外にお似合い。悪役ももっとやってほしいです。

相模屋政五郎@幸四郎さん、すべてを飲み込んでという鷹揚さはないのですが頼られる人物としての貫禄は十分。佐吉を諭す言葉に申し訳なさがほんのり滲む。幸四郎さんらしい相政。

『九段目 山科閑居』
この段は個人的に2007年の芝翫さん戸無瀬、魁春さんお石、幸四郎さん本蔵、吉右衛門の由良之助の座組みの時の印象が強い。全体のバランスと芝居の濃さで個人的のこのときが最近のベスト。その2007年の九段目のイメージを期待すると全体的に芝居のたっぷり感が足りなかった。なんとなく薄味に感じられた。ただ皆的確な芝居はしてて物語は前面に立っていてわかりやすかったし、そういう意味で面白かったです。両家の立場の違いがカラーとしてみえたというか。

戸無瀬@藤十郎さん、小浪へのなさぬなかだからこその愛情や武家の女としての矜持、そんなものをたっぷり見せていただきさすがの濃さ。小浪に見せる愛情の細やかさ共に、ふとした佇まいに戸無瀬の張り詰めた心というものをみせる。さりげない部分が上手いのです。とはいえ、今までの政岡、定高、玉手のあった義太夫ものでの女形で藤十郎さんが見せてきた突っ込みの激しい芝居での勢いとか熱が前ほどなかったかなあ。

小浪@福助さん、年齢的にどうかな?と思っていましたが予想以上にしっかり小浪でした。さすがにお顔はトウがたっている。でも可愛らしくていじらしくて、そんな小浪を芸でみせてきた。余計なことをいっさいしない、むしろ控えめ。藤十郎さんが突っ込んで芝居をしていない分抑えたのかもしれないけど、福助さんの場合これで十二分。上手さがあるがゆえにクセも出やすいんだけど抑えると色んな部分での美しさが際立つ。このくらい抑えたほうが福助さんの良さが出る。たぶん、もうあと数年すれば福助さんの芝居の灰汁は良さとして昇華するかもしれない。

お石@時蔵さん、このお役は柄にあっててとても良かったです。。品がよく家を守る気概ある凛とした佇まいの武家の女。さらりとした肌合いで後半もう少し情の部分を際立たせてもいいかなとは思うけど演じていくうちにそこも出るんじゃないかな~と思います。時蔵さんはこういう役の場合には台詞にもう少しねばりを入れてもいいかも。

本蔵@幸四郎さん、相変わらず娘可愛さが先にたつ本蔵。本蔵の情の部分はとってもいい。また本蔵の後悔の念、立場ゆえの苦悩もきちんと見せてくる。なんだけどもう一味足りない感じ。今回ちょっと台詞が先へ先へ行き過ぎてる気がする。なんとなくお疲れ?な気もした。幸四郎さんにしては薄味かなあ。そういえば尺八、幸四郎さんご本人が吹いていました。お上手ですね。

由良之助@菊五郎さん、持ち前の声や台詞の張りの良さで存在感を出していきます。台詞が明快で本蔵を思いやる気持ちもあるし、討ち入りの覚悟もみえる。が、いかんせん佇まいが由良之助ぽくないかな。どこがどうというわけではにのですが…。初役だし、柄に合う役でもないわけだし仕方ないですね。本蔵@幸四郎さんのコンビネーションはとても良かったです。お互いを理解しあってる感がしっかり出ていました。

力弥@染五郎さん、まだ十代の幼さ、儚ささが今回は先にたつ。あだ討ちへの想いばかりがそこにある。前回演じた時にあった仇討ちにかける逸る気持ちや、小浪ちゃんがどうにも気になる若者らしい気持ちが今回は前に出てきてなかったような。命捨てる覚悟のほうが強い…というか、もうすでに命消えそう的な空気感。う~ん、前の佐吉で相当神経を使っているように見受けられるので役とは別に精神的に消耗してるのかなと思ったり…。

サントリーホール『樫本大進&コンスタンチン・リフシッツ ディオリサイタル』 C席LA2ブロック

2012年03月08日 | 音楽
サントリーホール『樫本大進&コンスタンチン・リフシッツ ディオリサイタル』 C席LA2ブロック

とっても良くて大満足。梶本大進(vn)とリフシッツ(pt)のコンビネーションが素晴らしい。これほどヴァイオリンとピアノが絶妙に絡む コンビはそうそうないと思う。 樫本大進とリフシッツが出す音色が非常に似ているのよね。端正でまろやかで膨らみのある良い音。そしてお互いがお互いを引き立てる。ヴァイオリンとピアノが会話をしているかのようだった。

曲想も王道というかベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタってこういう曲だよね、というところから外れない。滑らかに繊細に謳いあげる。とても気持ちのよい演奏でした。

アンコールは非常に楽しく、聴いててウキウキしました。このコンビのリサイタル、今後も聴いてみたいです。


【プログラム】
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 op.12-2
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ第6番 イ長調 op.30-1
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ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 op.30-2
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ第8番 ト長調 op.30-3

【アンコール曲】

クライスラー:シンコペーション