Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日生劇場『カエサル -ローマ人の物語より-』マチネ  S席前方センター

2010年10月23日 | 演劇
日生劇場『カエサル -ローマ人の物語より-』マチネ S席前方センター

長大な塩野七生さんの原作をどう芝居化するのか?ちょっと危惧しておりましたが思っていたより面白く拝見できました。ただ、原作をなぞっただけのような表面的な芝居ではあるかなあ。歴史劇としては2時間半にうまく纏めたなと思う。ローマ共和制のことは非常にわかりやすく提示してて、ローマの歴史に興味を持たせる出来ではあったと思う。ただドラマチックな人間劇を求めるとちょっと違う。時系列通りにカエサルたちの内面をクローズアップして描いていったほうが面白かったのではと思う。題材は面白いけど脚本・演出、もう少しなんとかしてほしかった、もったいない出来かなあと。

カエサル@幸四郎さんが一人突出しすぎてた感じが…。存在感とか朗々たる台詞廻しとか、やっぱり流石という感じ。幸四郎さん流な人間くさいカエサルでした。しかし、どうせならもっと突き詰めたカエサル像を演じさせてあげたかったような。にしても、ほんと幸四郎さんの台詞ってとっても独特よね。センテンスの切り方とか結構不思議な切り方をするんだけど、それが印象に残る。それと今回の巻き舌の「ローマ」の言い方は耳に残る。あれだけヘンに突出した言い方なんだけどカエサルのローマへの思い入れの強さみたく感じられたりしちゃう。

セルヴィーリア@高橋惠さん、凛としてて優雅でほんと綺麗でうっとり。幸四郎さん、役得ねえって本気で思った(笑)。役に非常に合ってて光っていた。

ブルータス@小澤征悦は個性的な風貌で存在感はあったけど、せっかくの良い役を演じ切れてないかなと。舞台は初かな?一生懸命にやってま~す感が。好感はもてたけど、幸四郎さんに対抗しきれてなさすぎで…。もう少し屈折した想いを表現してほしかったかな。

キケロ@渡辺いっけいさん、さすがに上手いと思うんですがああいう演じ方でいいのかな?コメディリリーフぽい雰囲気になりすぎだったような。楽しいには楽しかったのですけど、物語的には弁の立つ文人であるのだしもっと知的で屈折した部分を出してくれたほうがよかったような気も。まあ、ああいう芝居を求められたんでしょうけど…どこか少し違和感が。

アリス@水野美紀さん、う~ん、個人的に浮きすぎかなと。狂言回し的役柄ですが、どちらかというとその荷を背負っていたのはキケロ@渡辺いっけいさん。であれば水野美紀さんにああいう芝居させないで真っ当に切ない芝居にしたほうが活きたと思う。

クレオパトラ@小島聖さん、あんなにヘタだったっけ?な…。役に合わないのかも…。せっかくの美女ぶり活かされてなかったですね。

ポンペイウス@瑳川哲朗さん、クラッスス@勝部演之さんはベテランとしてしっかりとした芝居。舞台上に活き活きとしたキャラクターを出現させておりました。

オクタヴィアヌス@小西遼生さんは綺麗な役者さんですね。芝居もしっかりしてるし人気ありそう。

アンサブルの方々は非常にしっかりしててレベルが高かった。


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日生劇場『カエサル -ローマ人の物語より-』

原作:塩野七生『ローマ人の物語』(新潮社刊)
脚本:齋藤雅文
演出:栗山民也
出演者:
松本幸四郎------------カエサル
小澤征悦--------------ブルータス
小島聖----------------クレオパトラ
小西遼生--------------オクタヴィアヌス
瑳川哲朗--------------ポンペイウス
勝部演之--------------クラッスス
水野美紀--------------アリス
渡辺いっけい----------キケロ
高橋惠子--------------セルヴィーリア
久保酎吉--------------バルブス、ガリア人の召使
佐藤祐四--------------ディヴィチアクス
檀臣幸----------------ラビエヌス
高橋礼恵--------------カルプルニア
松井工----------------マルケルス
今井あずさ-------------クレオパトラの侍女

国立大劇場『十月歌舞伎公演「天保遊俠録」「将軍江戸を去る」』 特別席前方センター

2010年10月17日 | 歌舞伎
国立大劇場『十月歌舞伎公演「天保遊俠録」「将軍江戸を去る」』 特別席前方センター

『天保遊侠録』
真山青果作品のなかでは完成度が低いと言われてる作品ですが、私は好きです。親子の情という普遍的なテーマが主題だし、青果にしては緩い雰囲気がある作品で、見ててわりと素直に観られるし、それほど集中せずに適度に緩やかに観られるから。

小吉@吉右衛門さんはいまだ「あ~う~」が台詞の途中に挟み込まれる…。もっとぽんぽんと聞かせてほしかったな。破天荒で無頼な江戸っ子、とまではいかない感じ。それに吉右衛門さんが演じると分別のありそうなな小吉に見えたりも(^^;)。とはいえ、それでも聞かせどころ、見せ所できっちり見せてくるのが上手いところ。特に麟林太郎に対する想い入れシーンはさすがにグッと泣かせてきますね。

庄之助@染五郎さん、とっても楽しそうに「叔父さん!叔父さん!」と言ってた(笑)。ふくふくしててコロコロ転がって『京乱噂鉤爪』の大子ちゃんみたい。拵えも体型も姿勢もかなり作りこみ、すっとぼけたキャラを造詣し楽しい。基本コメディリリーフだけど、締めるとこはきちんと締める。ただ、理不尽さへの怒りはもっとあってもいいかなあと思う。今回はどちらかというと立ち回り担当という感じ。よくまあ動いてました。

麟太郎@梅丸くん、ピッタリはまり役。端正ではしこそうで、とっても良かったです。梅玉さんの後、継げると思う。

八重次@芝雀さんは可愛らしくて優しい雰囲気で品のある艶。恨み言の部分が弱いかな。深川の芸者のイキな部分が足りない。良いとこのお嬢様が何の因果か芸者になったて感じ?

阿茶の局@東蔵さん、場をピリッと締めます。小吉を諭す台詞に思いやりがあり貫禄。

『将軍江戸を去る』
地味だわ、台詞がクドイわ(笑)な青果節爆裂芝居。以前観た時よりはどういうことを言わんとしているのかはよくわかりました。役者さんたちが台詞の意味をしっかり伝えてくれたせいだと思う。にしても、台詞は膨大だわ、動きは少ないわで観ててちょっと疲れる…。せめて目の保養のために女形どっかに出してくんないかな~ってついつい思ったり…(^^;)。

一幕目
西郷隆盛@歌昇さんがとても良かったです。凄まじい莫大な台詞をこなしただけじゃなく一言一言に心がこもってて良かった。

勝麟太郎@歌六さん、このところ勝海舟役が定着している感じ。べらんめい口調が気持ちよく、西郷の台詞を受ける時の表情が良いです。歌六さん、受ける芝居が上手いですねえ。

半次郎@種太郎くん、このところ台詞がだいぶ良くなってるなあって思う。血気盛んな勢いこんだキャラクターにとても合っていて骨太な芝居でよかった。

新八@松江さん、こういう大事な脇をしっかり勤められます。松江さんは安心して拝見できる役者さん。

二幕目
徳川慶喜@吉右衛門さん、今現在の吉右衛門さんは新歌舞伎があまり似合わないと個人的には思っていたのですが慶喜役は哀愁を帯びた品格のあるお殿様でとっても似合っていて良かったです。それに小吉役に比べこちらの台詞は非常に良かった。あ~、これぞ、って感じで謳いあげるんですけど朗々と語る部分に悲哀がこもっているんですよね。台詞を聴かせることに長けてるなってつくづく思わせました。ほんと上手いよなああ。

山岡鉄太郎@染五郎さん、『天保遊侠録』庄之助と打って変わってカッコイイ。背の高さまで変わったかと思うほど雰囲気をがらりと変えてくる。無頼ななかに実直さがあり非常に説得力がありました。慶喜@吉右衛門さん相手の応酬の気迫がとても良かった。命がけで相手に迫る、それがただの熱演じゃなく、説得しようとする気概溢れる台詞になってる。山岡が何を言わんか、何をしたいのかがとにかく明快。 台詞の伝え方がほんと良くなってると思いました。実は私、この芝居での尊王と勤皇に違い、今回でようやくわかりました。染五郎さんの山岡は仁左衛門さんの綱豊卿相手に助右衛門でしっかりぶつかってきた成果が出てるのでしょうねえ。
(贔屓目で書きますけど、無頼な雰囲気が予想以上に似合っていたのでいずれ『天保遊侠録』の小吉もできるなあと思いました)

伊勢守@東蔵さん、慶喜を気遣いつつ理を諭す。今回、東蔵さん諭していくお役なんですね。優しさが滲む伊勢守でした。
  
二幕冒頭に出てくる種之助くん、今までほとんど舞台に立ってなかったと思うけどかなりしっかりしていました。感心。

新橋演舞場『錦秋十月大歌舞伎 夜の部』 3B席左袖席

2010年10月09日 | 歌舞伎
新橋演舞場『錦秋十月大歌舞伎 夜の部』 3B席左袖席

『近江源氏先陣館』「盛綱陣屋」
とにかく役者が適材適所であること、役者それぞれの芸が充実していること、子役にも恵まれ、とにかく見応えがある。全体の物語が鮮明。松嶋屋さんらしい家族の情愛の見せ方が印象的。

盛綱@仁左衛門さん、芝居を非常に細かく組み立てていきます。場ごとの心情を巧みに演じてその積み重ねで人物に太い輪郭を作っていく演じ方。浄瑠璃に沿りつつ、自分の色を重ねていく。いやあ、ほんと観ていて惚れ惚れします。また、仁左衛門さんが演じると、母微妙の前では盛綱の武将の顔のなかに子の顔がのぞく。そこはかとなく甘い雰囲気が出るのですね。前半の厳しい盛綱像のなかにこういう部分を見せるので後半の情味に納得がいく。首実検の部分の表情、仕草の細かさには感嘆。盛綱の心情が手に取るようにわかる。仁左衛門さんの細やかな芸が物語をわかりやすく提示するようになっている。仁左衛門さんの芸が自身の芸として昇華してきたのだろうと思う。

和田兵衛@團十郎さん、これまた素晴らしい。あの存在感とどこか人をくったような造詣がとても良かった。

時政@我當さんの不気味な存在感も良かった。ここまでの押し出しがあるとは。また、やはりさりげなく芸が細やか。目線の鋭さ、不気味な笑い、得体の知れなさがよく出ていた。

微妙@秀太郎さん、芯の部分での手強さをみせる。そこに情の部分での弱さをかぶせとても納得のいく微妙だった。台詞の使いかたが上手い。

篝火@魁春さん、品があり武将の妻と母の顔のバランスが非常によくてさすが。

早瀬@孝太郎さん、凛とした存在感で大健闘。個人的にはもう少し篝火へ女としての同情の部分をそこはかなとなく効かせてくれると私好み。

信楽太郎@三津五郎さん、さすがの一言。メリハリが効いて鮮やか。もう素晴らしいったらないです。

他、脇の脇までしっかり揃って、見ごたえのある一幕でした。


『神楽諷雲井曲鞠 どんつく』
皆がとっても楽しそうで見ているこちらも楽しい。

三津五郎さん、相変わらず端正に踊って巧さを見せます。どうせならもっとはじけていただいてもいいかな。

團十郎さん、太神楽をしっかりこなしてました~。大活躍ですね。

福助さんの芸者姿が美しかった。
  

『艶容女舞衣』「酒屋」
歌舞伎では初めてみましたけど、もうひとつ面白味が…。全体的に納得いかない。文楽ではとっても面白かったんだけど。文雀さんのお園、素敵だったんだけどなあ。お園って人形だからこそ成り立つ女な気がする。それと義太夫の語りの力技で納得させてしまう理不尽さが生身の人間が演じると表に出てきてしまうというか…。

丸本物を観るという部分で、我當さんと竹三郎さんの会話の部分がさすがに義太夫にまるまる乗ってることもありそこは面白かったとは思うんですが。

お園/半七@福助さん、非常に丁寧に演じているし、くどきの部分動きは非常に美しい。しかし、お園を演じるには「女」が生すぎるような気がします。お園はある意味、「聖女」だと思うので、なにかを越えてないと。これは福助さんが悪いわけではなく歌舞伎で演じるべきキャラクターではないんじゃないか…と思います。半七のほうは二役する意味がわからず。なぜ?他に役者がいなかったわけじゃないのになあ。(*どうやら、歌舞伎ではお園役者が半七を演じるのが通例のようです。う~ん、でもあまり早替えを楽しむような演目ではないと思うし、あえてやらなくてもと思います)

宗岸@我當さん、頑固だけどとっても優しいお園の父でした。我當さん、無骨な優しい人物を演じるのがはまる役者さんですよね。私、我當さんのこういうお役大好きです。

半兵衛@竹三郎さん、立役を拝見するのは久しぶりかも。たっぷり骨太に演じてきます。

半兵衛女房@吉弥さん、老け役は珍しいですよね?なんだかもったいないかも。

三勝@孝太郎さん、非常に風情がありとても良かったです。

新橋演舞場『錦秋十月大歌舞伎 昼の部』 3等A席下手寄り

2010年10月09日 | 歌舞伎
新橋演舞場『錦秋十月大歌舞伎 昼の部』 3等A席下手寄り

『頼朝の死』
このところ真山青果が上演されることが多いですね…。人物の行動原理をひたすら理屈で解釈する作家という感じです。この演目はなぜ頼家に真相を話してやらんのだ~~とイライラして、あまり好きな演目じゃありません。

頼家@梅玉さん、この役、梅玉さん似合いますよねえ。愁いを帯びた横顔が美しいです。浮世離れした傲慢さ、癇癪、甘えなどがそこにいるだけで納得できる。ことさら台詞を謳いあげないのだけど、そこに繊細な苦悩がみえて良いです。

重保@錦之助さん、真面目すぎて秘密に耐え切れない弱さがあって納得できる造詣。

政子@魁春さん。佇まいに品格があるのが良いです。まだ貫禄不足だけど、女の哀しさが先に立ってこれもありかと思う。

小周防@孝太郎さんの可愛らしさが非常に印象的。世間知らずな可憐な一途さが小周防の哀れさに繋がり非常に良かった。

左團次さん、先月お休みなされていましたが今月復帰。良かったです。でも、かなり痩せられたような?声はしっかり出てらしたので大丈夫かな。


『連獅子』
坂東流の連獅子は振り付けがかなりシンプルで「舞踊劇」の「舞踊」の面が強く出ていました。振り付けのなかに情感の余白を作り、物語の狂言師、獅子の造詣を前に押し出すのではなく、振り付けの意味を丁寧に踊り込むことで物語の全体の情景を見せていく。

三津五郎さん、非常にらしいというか端正にひとつひとつの振りを鮮やかにみせていきます。狂言師右近の部分、振りのなかの意味を噛み締めるかのような踊りで、観ていてちょっとじんわりしました。とにかく子を引っ張っていかなくちゃっていう親心がみえるかのよう。毛振りは息子より断然勢いがあります。腰がしっかり入っているので毛が絶えず上向き。軌道に多少揺れがあったのはあまり毛振りをなさってないせいかな。

巳之助くんは、一生懸命に踊ってました。その必死感に好感が持てました。これからひたすら頑張ろうね、というところ。 毛振りは腰できちんと廻せてなくて首を使いがち…首を痛めないように気をつけて。観ながら「頑張れ、頑張れ」と思わず声が出ちゃった(^^;)。

秀調さん、門之助さんの合狂言、二人とも小気味よく。とても、良かったです。合狂言も坂東流のやり方のようですね。


『盲長屋梅加賀鳶』
花道での勢揃いでの鳶連中が華やかで楽しい。久しぶりに薪車さん、進之介さんを拝見したかも。

天神町梅吉/竹垣道玄@團十郎さん、梅吉は独特の存在感で鳶頭の度量を見せます。道玄のほうは…團十郎さん、ニンじゃないような…。愛嬌があっていかにも抜けた小悪党ぽさはあるんだけど…。底にあるしたたかさ、性根の悪さみたいなものが無い。台詞廻しが妙に明るすぎるのかなあ…。全体的にただのコメディになっていた。

お兼@福助さん、今回崩しすぎのような気が?毒気のある色気はいいのだけど、やはり全体的に軽すぎるような?

松蔵@仁左衛門さんはすっきりとカッコイイ。店先ではゆったりと構えつつ気質の鋭さを秘める。

おせつ@右之助さん、芯のあるおせつ。この方は女形が本役なんだなあってつくづく思う。

お朝@宗之助さん、こういう役は久しぶりに拝見。相変わらず可愛いです。