Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』その四

2006年10月24日 | 歌舞伎
大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』1等1階センター&3等3階前方センター

★感想その四

観てない人にはわからない感想です、すいません。

【詳細感想もといツッコミ 第二幕続き】

「宝殿炎上の場」
火事が屋敷中に飛び火した訳は猿と犬と猫のせいですってよ、奥さん(誰だよ?)。猫の尻尾パタパタに煽られた火が宝物殿までっ。

会場中が煙に巻かれはじめましたっ。もくもくと視界も曇ってきます。真っ赤な照明に照らされた幕がゆらゆらと揺らされ、臨場感たっぷり。ハイテンションな講談師のナレーションも手伝って、ドキドキワクワク。

花道から友右衛門登場。あれ?スレンダーな友右衛門が体格がよくなってるぞ~。数分の間に太ったか(笑)着物がすでに焼きただれ、炎が付き、ぶすぶすと煙がふいております。(この装置を仕込んだ着物のせいで着膨れ友右衛門なのであった)

火が噴く(本火もあり)なかを走り回る、走り回る友右衛門。百廻りのスピード、はやっ。キレがいい回転じゃのう。しかも普通より長くないか?ふええ、なんだかこちらの気分もヒートアップしてきちゃう。もうね、見惚れてるだけでした。

友右衛門、まさしく命がけ、真っ直ぐに、なんのためらいなく御朱印状を守るためだけに。火が付いた御朱印の箱(これも本火だった、やけどしなかったかな?染ちゃん)を見つけ、中から御朱印状を取り出し逃げ出さんも、火の手に囲まれ絶対絶命。死を覚悟した友右衛門、布の包んだ御朱印状を口にくわえ、ふっと一瞬目を閉じ、おもむろに刀に手をかける。この時友右衛門が思い浮かべたの数馬?細川の殿様?どちらだろう。私は殿かな?ってちょっと思ったのでした。殿のために、今そこにいるのだから。「殿、この友右衛門、命をかけて御朱印状を守ってみせます」と心の中で呟いたんじゃないかなあ。この一瞬の友右衛門の静謐さに胸打たれた私なのでした。

そして切腹。ここがまた一気に妙なハイテンションになる切腹で(笑)切腹して次々に内臓を取り出す友右衛門。そこの講談師の語りは「これが肝臓、これが腎臓、これが小腸。三つ合わせて勧進帳(肝腎腸)ーっ!」。おーい、そこでギャクかよっ。どうやら元々、講談にあるオチなんだそうですがっ。ここは賛否両論凄まじいですけど、私は実はアリでした。なんつーの、笑いに落としてはいるけど、切腹する友右衛門の迫力は衰えてなかったから。でも、思いっきり悲壮感ある切腹も見たいとは思うよ、勿論。

噂の火の粉、キターー。うわあ、きれい。三階から見ると、赤いセロファン紙がキラキラしてほんとに火の粉のように見えた。次の日、一階で観劇した時は火の粉を浴びるのが嬉しくて(笑)

火事場はとにかく生で見ないと興奮は伝わらないと思う。まさしくエンターテイメントでした。

「奥庭仮御座所の場」
友右衛門の見事な死体ぶりに目が釘付け。ほんとにピクリとも動かない。体からまだ煙が燻っていて、顔にも火傷の跡がクッキリと。でも美しい死顔でした。壮絶な死にかただったけど満足して逝ったんだろうなあ。へたれで可愛い友右衛門から後半、凛々しい友右衛門に変貌しておりました。

数馬の「義兄上様いのう~」と泣きじゃくる姿は可愛らしくも哀れ。すっぱりと置いてかれちゃったんだもんね。

細川の殿様、泣きそうな顔してたよ。堪えきれないものが体から溢れていた。うん、そうだよね、殿様、友右衛門のこと本当に好きだったんだよね。こういう表情をしてくれてありがと、段治郎さん。殿と友右衛門の絆、確信させていただきました(笑)

ここの場面、家臣たちもみんな本当に辛そうに泣きそうな顔してるの。なんだか感動しちゃったな。なんだろう、友右衛門が亡くなったことを皆が惜しんでるってすごーくよく伝わってきた。それがこの芝居の座組みのお互いの信頼度にも繋がって気がして。

数馬、一人取り残されて…。歌舞伎ぽくないエンディング。どうなんでしょ、ここ必要かな?うーん、切ないシーンと言えばそうなんだけど、バックにはムード歌謡だし…。

数馬は友右衛門がいなくなって初めて友右衛門のことを本当に愛していたんだ、と思い知らされたのかもしれないなあ、なんてネ。今までは愛されるのが当たり前だったから。

嘆く数馬の背後に見守るように在り日の姿の友右衛門。幽霊キターー、つーか、おまえは『阿修羅城の瞳』の翼鬼(椿)かよっ。桜の代わりに杜若の花びらがハラハラと。

【まとめ】
ということで私のツッコミ感想は終わりとさせていただきます。実際、まさしくこのツッコミをしながら観てました。今回の復活狂言、全体的にはまだまだかなり荒い芝居だったと思います。でも若さ溢れるパワーがそこにありました。面白い芝居を作り上げようという想い、観客を楽しませようとする心意気、それが十二分に伝わってきました。楽しくて楽しくて、爽快感とパワーをもらえた芝居でした。この芝居に関わった全員にありがとうを!

大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』その三

2006年10月23日 | 歌舞伎
大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』1等1階センター&3等3階前方センター

★感想その三

観てない人にはわからない感想です、すいません。

【詳細感想もといツッコミ 第二幕】

<第二幕>
「本石町玄庵宅の場」
幕開けはチャリ場。思いっきり遊んでます。お昼休憩でゆるんだ客を舞台に集中させようという魂胆かな。

NHK教育で染ちゃんがやっている「歌舞伎たいそう」を踊り始める面々(國矢、喜太郎、福太郎、はしの)。一緒に踊りたいなあと思ったけどさすがに恥ずかしいのでやめた(笑)

紫之助@國矢さんの父ちゃん近江屋判兵衛@欣也さんの「何をしのすけ?」が可笑しい。

紫之助の芝居好きは血でしょ~。父ちゃんもすっかりノリノリで芝居してるじゃん(笑)

玄庵先生曰く「芝居狂いは医者には治せない病気」。どきっ!わ、わたしのこと?

様々な小ネタがいっぱいありましたがそれは他の感想ブログでどうぞ。すいません、お笑いはあんまり知らないのです。ハンカチ王子はわかったけどね…。

チャリ場が終わったら本筋へ。四年間も音信不通な友右衛門を心配する玄庵先生。そこへ友右衛門と数馬がっ。つーか、なぜに四年間も音信不通なわけ?どう考えても解せないんですけどっ。友右衛門の律儀でマジメな性格から言って親代わりの先生夫婦や妹きくちゃんを四年もほっておくわけないと思うのよねっ。しかも細川の殿様がちゃんと友右衛門の元主人の秋山家に筋を通してくれてるわけだし、音信不通をする意味がないわけで。そりゃ、物語的にいくと、きくちゃんと連絡とったら横山図書の正体が早々にバレる危険性はあるのだけど、そこは色々考えて欲しかった<脚本家の今井先生っ。

手紙のやりとりはしててもその時点では図書が数馬の敵とイコールにならなくて(ほら、姓が違ってるし今の立場的にまさか会津藩にいた図書とは思っていなかったとか)、たまたま最近、夫が脅されているのに気が付きどうもヘン?と思ったきくちゃんが兄を呼びよせて相談したら、って展開でもいいんじゃない?

友右衛門がその四年ゆえに家族に薄情なキャラになるのは、どうしても解せないっ。恋に盲目ゆえに出奔したのまではわかる。でも落ち着いたら色んな部分で筋を通す男であってほしいのよ。だからこそ、ラストの殿への忠義の覚悟が際立つんだからさ~。

それでもまあ、友右衛門が本当に申し訳なさそうに謝ったり、自害しようとしたきくちゃんをそのまま置いていくのが辛そうにしている姿があっただけでもまだしも救われましたが。でも曲がりなりにも妹の夫が数馬の敵だった、という部分で一瞬でも数馬の助太刀を逡巡してしまう、とかそういう部分が欲しかった。きくちゃん、「兄に任せろ」という言葉を信じて待っていたと思うよ。兄としては全然ダメじゃん。そんなのやだ~。

んで、ここでの数馬の態度がまた物足りないというかちょっと薄情に見えたというか…。もう少し愛する友右衛門の家族に対して愛情を持って欲しかったりしました。なんだか紹介されてもそっけなく見えたんだけど…。ここの場は友右衛門の義兄弟なら家族も同様と言うってくれてる玄庵夫婦やきくちゃんに、「これから私を弟と思っていただき末永く仲良くしていただきたい。これからはちょくちょく伺わせていただきます」とか。なんていうのかなあ、親しみを感じてる、な雰囲気を出して欲しかった。それがあれば、最後、数馬はちゃんときくちゃんを責任もって世話をしてくれるだろう、って思えてきくちゃんが救われるんだけどなあ。図書が敵と知れた後、ほんとに敵を討つことしか考えてないんだよねえ。きくちゃんを心配する友右衛門を無理矢理引っ張っていくし。うーん、うーん、もう少しきくちゃんへは申し訳なさを見せてくれても…。

にしても、きくちゃんは図書と幸せだったらしいから、この後の展開は本当に悲惨。夫も殺され、頼りの兄も死んでしまうんだもんなあ。

友右衛門と数馬、細川のお屋敷へ一目散へと走り出す。客席まわってるよ。あーん、通路脇の席に座りたかったっ。

数馬がこけて、友右衛門が助け起こそうと「数馬!」って呼ぶシーン好き。というか染ちゃんのその心配そうに数馬を呼ぶ声が素敵…ああ私もその声で呼ばれたいっ。

「細川屋敷内広間の場」
なぜに細川家に図書がいるんだ~都合良すぎ(笑)細川の殿様となごやかに歓談。酒を断ってるとは、図書も悪人じゃないんだよね。心が弱いだけで…。でも同情できるキャラだと数馬のあだ討ち部分がちょっと複雑な気分になりまする。

図書と入れ違いに友右衛門と数馬が殿にお目通り。わざわざ奥方自ら取次ぎしてくれるなんて照葉様もこの二人はお気に入りのなのね。わかるわ、その気持ち♪

殿は殿で数馬のあだ討ちのために図書を屋敷から出させないようにするなんて、四年たってもやっぱりお気に入り。

「奥御殿仇討ちの場」
細川の家臣たちに足止めを食らう図書、だけど強い強い。さすがは剣術指南役。猿弥さんは体つきのわりに身のこなしが軽いです。

逃げ惑う図書に「数馬の命を助けてくれたら逃がしてあげる」とはあざみちゃん、なんですとー。四年たっても、男に取られてもまだ数馬のことが好きやったんか。哀れじゃ。でも火付けは死罪だぞ~。考え直せっ。友右衛門が殺されても数馬があざみちゃんになびくとは到底…。恋は盲目。

数馬、なぜかお着替えして図書を追いかけてきましたっ。さっそく戦いに挑む二人。数馬、ひらりひらりとなかなかに華麗な殺陣です。でも図書のほうが上手でちょっと押されぎみ。

あざみ「数馬を助ける約束のはず、嘘をついたのねっ」とすがるも図書「偽りではない、方便じゃ」。おー、これは使える(笑)こういうとこは小ずるい図書。ようやく悪人ぽくなってまいりました~。

あざみちゃん、激昂のあまりか、数馬を助けようとしてか短剣片手に図書に挑みます。よろよろ弱々で、はっきり言って邪魔っ。数馬の邪魔をしているようにしか見えませんっ。

数馬、大ピーンチ。ようやく来ました、来ました友右衛門。やっぱりお着替えしてるし…(笑)あっでもそのブルーの衣装お似合いよ。

友右衛門と図書の立ち回りは、出来る者同士な殺陣なのでスピード感が凄まじいです。早すぎて太刀筋が見えないくらい。とにかく見ごたえありです。21日夜の時は図書の刀が曲がってましたし。一歩間違えるとほんとに怪我するんじゃないかと。にしても染ちゃんの殺陣は本当に鋭くて綺麗だなあ。猿弥さんも負けじと軽やかに動いていたし、この二人の殺陣はもっと見たかったなあ。

友右衛門、図書に致命傷を負わせたところで、トドメは数馬に任せます。愛だわね。

そこへタイミングよく細川の殿様登場。最後のトドメを刺すところを見届けます。見たかったんでしょうなあ。たぶん、二人の剣修行を折に触れ見ていて腕前を信頼してたんじゃないかと。よくやった、と目を細めて嬉しそう。

が、めでたしめでたしと言っていられない状況がっ。まずはあざみちゃん、自分のしでかしたことに顔面蒼白。もう死ぬしかない、と自害しようとするけど数馬に止められちゃう。でもここは死なせてあげたかったなあ。「寛大なご処置を」って、たぶんさすがの細川の殿様でも火付けを庇うのは無理ぽな気がする…。よしんば寛大な処置で命を永らえても、あざみちゃん辛いやね。

あざみちゃんが引き立てられる時、数馬は辛そうな顔をしている。自分ゆえにあざみちゃんを狂わせてしまったのがわかっているからねぇ…罪な男じゃ。友右衛門は目を合わせようとせずまっすぐ前を向いている。それがあざみに対する思いやり、のように思えた。ライバルに哀れみの目を向けられるほど屈辱なことはないからねえ…。

それから屋敷中に火が回って大変な状況ですっ。照葉様、キンキラな防災頭巾がお似合いで…。

宝物殿にも火がまわりはじめたということで殿様が「家康公から賜りし御朱印状を焼失したら、細川家の一大事」と取りに行こうとします。そこは友右衛門、殿の恩義に報いるためにと自分が行く決心を。見つめ合う、殿と友右衛門。ここの場、お互い気持ちがピーンと張ってて目と目でも会話してた、ような。

すでに死を覚悟した友右衛門、一緒に行くという数馬に「殿と奥方をお守りしろ」と置いていく。今生の別れと知りつつきっぱりと一人、宝物殿へと向かう友右衛門。あだ討ちを遂げることができたし、数馬は一人でやっていけると確信できていたからこその行動かな。数馬より殿への恩義を優先した友右衛門。もうひとつの愛に殉じることにしたんだろう。それだけ数馬のことも信頼してたわけで。だって数馬強い子だもの。

一人、駆け出す友右衛門が、かっこいいんだよ。花道七三での低い見得の美しいこと。そして走り抜けるその姿が大きく見えた。惚れ惚れ。えーっと、かなりの贔屓目ですが染ちゃん、花道立たせると日本一!って言いたくなった。

感想その四に続く。

大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』その二

2006年10月22日 | 歌舞伎
大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』1等1階センター&3等3階前方センター

★感想その二

観てない人にはわからない感想です、すいません。

【詳細感想もといツッコミ 第一幕】

<第一幕>
「会津国料理茶屋の場」
お話の発端からきちんと始まった~。

横山図書@猿弥さん、酒好き派手好きとの講釈が最初にあったわりに、普通に良い人?十内の病に臥せってる息子さん(数馬のことだっ)の心配してるし。

印南十内@薪車さん、優しくてカッコエエ父ちゃんだ。

図書をそそのかす四人組(欣也、橋弥、橋吾、宮脇信二)。企み顔しちゃってこちらのほうがよっぽど悪じゃん~。

「会津城内横山図書宅の場」
いよ@芝のぶさん、このころは女は結婚相手を選べないのよね、可哀想。図書のことはあんまり好きじゃないさげ。誰か想う人があったのかな、と私も四人組の話を信じそうになる(笑)

いよの父ちゃん、一ノ瀬九郎右衛門@寿猿さん、不吉な刀を見極める力がありながら娘のいよが意に染まぬ結婚してるのは気が付かないのかなぁ…。病の娘を気遣う優しい父ちゃんぽいから実はわかってたのかもね。でも殿からの申し出じゃ断れなかったんだろう。ああ、女には辛い時代だわ。

図書、奥さんの不義密通を信じちゃうのも分らないでもないが殺すのはいかんだろう。

ああ、十内ったら間の悪い時に…ほんとに良いやつなのね。薪車さん、おみ足&ふんどしの大サービス。ファンの人にはたまらないかも。

図書、最初は罪を認めて自首しようとしてたのに、いきなり悪に豹変は刀のせいですか?そこら辺の変化がいまいち判らず…。図書は最初からもう少しイヤなやつ的キャラ造詣のほうが良かったな。

「浅草伝法院見染めの場」
数馬@愛之助さん登場!お小姓姿どう?どう?どうかしら~?まあ、可愛らしいじゃないですか。ちょっとふっくり感はあるけど合格。チラシより本物のほうが断然良いわ。

あざみ@春猿さん、美形だわ、可愛いわっ。あざみってショタコン?らぶらぶ光線を数馬に送っております。

あざみのらぶ攻撃を気がつかない数馬はただのお子ちゃま?と思ったけどどうやらただの同僚としか思ってなかったのか。仲はよさげなんだけどね。頼りになるお姉ちゃん、くらいな感覚?あっ、数馬、花(杜若)泥棒してる~。

友右衛門@染五郎さん、ようやく登場だああああ。はあ、登場までが長かった。最初はキリリとした男前な武士なのね。それが、すぐ後にあーなろうとは(笑)

友右衛門と数馬は最初はいっさい目線が合わないのです。お互いぶつかって数馬が杜若を落とし、友右衛門が拾ってあげるとこで、はい目線合いました!一目会ったその日から状態です~。ここから一昔前の少女まんがなラブコメが始まりました。

友右衛門の目がほんとにハート形になったかのよう。恋にまっしぐら、身も心もふにゃふにゃ、へたれ友右衛門の出来上がり(笑)数馬から目を離せないその姿ったら、可愛いよ、可愛いよ友右衛門。

数馬もほけ~っと恋に落ちてます。どこかそわそわ。お父ちゃんの面影を友右衛門のなかにちょっと見つけちゃった?とか?そんな感じかしらん。

「浅草観世音仁王門の場」
「夢であったか」って、数馬いつの間に着替えてそこにいるん?数日前の出会いで夢見心地ってことですか?あれ?でもまた杜若持ってるなあ。時系列がよーわからん。にしても数馬はヒロインだけあってお着替えいっぱーい、です。

数馬母お民@吉弥さん、芯の強いお母様。息子に父の仇討ちを忘れないように諭します。この後、急に亡くなる、という雰囲気はあまりなかったな。体が弱っていても気持ちを強く持っている、みたいな感じがあるともっと良かったかも。

友右衛門と数馬、再会。あら?2度目じゃないらしい。それぞれの中間同士のこぜりあいを友右衛門が仲裁したとか。一応ポイントを挙げてるらしい友右衛門。毎日、浅草寺にお参りしてる数馬会いたさに日参する、ストーカーちっくな、もとい情熱的な友右衛門。嬉しいそうな顔してるのよね、ここの友右衛門。数馬は一応平静顔を装ってる風情。

その場を去ろうとする数馬に友右衛門が「お袖に汚れが…」と引き止め袂に恋文を(笑)周囲にもバレバレな恋心。なんかねえ純情で一途でやることもちょい無骨でヘタレな友右衛門が可愛いよ、可愛いよ。

恋文を袂に忍ばせてあるのを見つけた数馬の反応が、これまた可愛いんだよ。ドギマギしちゃて。やっぱラブコメだ。

図書、なぜに姓を印南に変えているんだろう?友右衛門の妹きく@芝のぶさんに結婚申し込み。前妻と似た人を選ぶとは…。

きくちゃんは図書のことを気に入ってるらしい。悲劇まっしぐら。

医者玄庵@幸太郎さん、友右衛門兄妹の親代わりとか。パルコ歌舞伎の洪庵先生雰囲気がにちょっと似てる?

図書と友右衛門はすれ違い。この後すぐに友右衛門は出奔しちゃったってことだよな。友右衛門がきくに打ち明け話をしても先の展開は同じだよね、ならば妹には訳を話して欲しかったなあ。

「細川屋敷内玄関先の場」
なんと友右衛門、武士の身分を捨て数馬の主人、細川家にご奉公。をいをい、そこまでするのかよ。でも恋ボケはしてるけど、仕事はしっかりこなして中間から足軽へ出世。元来、まじめな性格らしい。

数馬登場、さっそく友右衛門が例の「お袖に汚れが…」作戦(笑)。無事、恋文を袖のなかに。ほんとに恋に夢中でへたれすぎな友右衛門。きりりとした男前なお前はどこへ行ったっ。でもこれでダメなら諦める覚悟はしてるわけで、そこら辺はストーカーなイヤなやつではないのよね。ちょっとホッ(笑)

数馬、恋文もらって嬉しそうだねえ。乙女ちっくな喜びよう。可愛いなあ。あっ、あざみの前で恋文落としちゃいかんだろう。

あざみちゃん、それを読んで嫉妬に燃えまくり。きーっ、と悔しがる姿が可愛いよ。少女マンガのもろライバルキャラです。春猿さん、似合すぎ。ちょい、一本調子な台詞回しがキャラに似合いすぎて、ツボにハマりました。イケイケGOGO(古っ)、あざみちゃん。

数馬、友右衛門にお礼の返信。すれ違いざまにぽいっと投げ渡してるんですけど…いいのか。なんてバレバレなっ。あざみに現場を見つけてと言わんばかり。

友右衛門もその場で大声出して読むなよ~(読んでくれないと観客はわかりません)。数馬ったら部屋へ忍んできてね(はーと)な返信。狂喜乱舞な友右衛門、良かったね、良かったね~。なぜか応援しちゃうんだよなぁ。

「細川屋敷内数馬の部屋の場」
来てくれるか心配しながら部屋で待つ数馬。へえ、数馬も不安なんだ。ちょっと意外。

友右衛門、忍んできたー。「胸がドキドキいたしてならぬ」だって、可愛い~。

想い想われ同士だった友右衛門と数馬。ひしっと抱き合い、あらもうそっち方向へ?はやっ。

灯りを消し寝室へいざなう数馬。おや、慣れてるねえ。閨ではすっかり主導権を握ってる。くるくる、あ~~れ~~、と帯を解かれているのは友右衛門のほうでした(笑)さすが殿の寵愛を受けてるだけあるわ。勿論、数馬は殿の色小姓だよね~。

にしてもシルエットロマンスなラブシーンは正直こっぱずかしいんですけど。なんというか正視できなかったっす。あ、いや観てましたけどね、どこに焦点合わせようかな?とか。目がうろうろして終わってしまった私…もったいないことしたかも。でも、再演の折にはシルエットじゃないのがいいなあ。押し倒してキス、で暗転とか。

このラブシーンを目撃していたのは観客だけではなかった。そう!あざみちゃんがですね、見ちゃってたんですよ。「恋しい人を男に寝取られるなんて~、きぃ~」。なんて可哀想なあざみちゃん。すいません、笑いのツボでした、ここ。そうよね、女に取られるならまだしも男に取られちゃ、どうしようもない。でも諦めないのがあざみちゃんの良いところ♪

コトが終わった友右衛門と数馬。数馬が袴を、ふんっと気合入れて結びながら出てきたのは生々しかったっす(笑)友右衛門のはだけまくりな着物は染ファンへのサービスショットでしょうかあ。生足たっぷり。つい凝視な私…えっ?

想いがかなった友右衛門、自信がついたんでしょうかね。凛々しさが戻ってきたというか、へたれ具合が減りました。声の調子がね、違うわけで。

でも数馬のほうが上手です(笑)ここで友右衛門に自分に仇がいることを告白。力を貸してねっ、もう逃さないわよっ。ちょっと計算ちゃんな数馬くん。

ということで、めでたく?義兄弟の契り。お互いの血をすすりあう姿はさっきのラブシーンより色っぽいんですけど。

あざみ、殿へ告げ口です。このご注進のせいで「不義密通の疑い」で捕まえられちゃう数馬。捕まる前に長持ちに友右衛門を隠すわけですが(すっかり間男な友右衛門)なぜに鍵をかける~~~。逃げられないじゃん。

「細川屋敷内広間の場」
細川の殿様@段治郎さん、奥方様@吉弥さん登場。姉さん女房なのねん。でも仲良さそうかも。

不義密通がバレた友右衛門と数馬。殿の前に引き出された友右衛門たら、長持ちのなかで袴をはいたわけ?

細川のお殿様(細川越中守)、怒りまくり。そりゃあ、可愛い数馬を身分卑しい男に寝取られちゃったんだもん、怒るよねえ。「手打ちにしてくれるわ」と激高しております。

友右衛門と数馬、庇い合っております。らぶらぶ。いちゃついてるいるようにしか見えないし~。

友右衛門、まっすぐに殿と顔を合わせて命をかけて覚悟の訴え。殿、その姿に惚れたでしょ?ねえ、ねえ?俺好みかも…とか思ったに違いない。いきなり、寛大になったのはそのせいだよね、とか思った私。数馬の仇討ちにもちょっと惹かれたんだろうけど、それより友右衛門の男気に惚れた、のほうが正しそう。あっ、顔も好みだったりして?美形好きな殿様だしね。

んで、友右衛門はこの太っ腹な殿様に感動したよね。許してくれた殿様に命かけることをここで決めたんじゃないかね~。見つめ合う殿と友右衛門にもうひとつの愛があったことを疑わないわっ。あっ、腐女子発言ですか?これ?

結局、二人を許し、友右衛門を武士として取り立てて、数馬を友右衛門預かりにして満面の笑みの殿様。俺って、俺って、いい男(じーん)とばかりに自分に酔う殿様、素敵すぎ。お気に入りを二人も側におけるのが嬉しいんでしょ~。

まるく収まったかにみえたそのなかで一人茫然自失なあざみちゃん。どーしてそうなるわけ?頭真っ白、ぽかーん。ああ、なんて可哀想なあざみちゃん(笑)

「感想その三」に続く。

大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』その一

2006年10月21日 | 歌舞伎
大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』1等1階センター&3等3階前方センター

★感想その一

【観たばかりの時の全体の感想】

10/21(土)~10/22(日)の日程で大阪松竹座『十月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』を観劇すべく遠征してまいりました。期待半分、不安半分だった復活狂言『染模様恩愛御書』、これが楽しくて、楽しくて。ツッコミどころ満載な部分含めてすげー楽しかった。観てる間中、顔がニマニマしてたと思う。

21日(土)夜の部は3階から拝見。もうね、思いっきりツボに入りました。かなりクスクス笑いぱなし&ツッコミしまくり。そして想像以上に復活狂言として「歌舞伎」になっているのには大感激。

22日(日)昼の部は1階で拝見。前日同様、ツッコミしまくりでクスクス笑えるかと思いきや、客の雰囲気が違っていたのか、皆真剣に物語のなかに入り込んでいて笑うどころではない。というか皆、マジ見。私もツッコミモードがだんだん真剣モードに。勿論、笑うところはしっかり笑っていましたが。

にしても、なんでこんなに楽しいんだろう。大阪上演じゃなきゃ通ってたと思う。役者さんたち、皆活き活きしてて楽しそうに演じてらした。配役がどうなのかな?と思っていた部分が多少あったのだけど実際観て、友右衛門が染五郎さん、数馬が愛之助さんで正解だった。そして猿弥さん、段治郎さん、春猿さん、吉弥さん、芝のぶさんもピタリ嵌ってて、脇の皆さんもしっかりと固め、座組みの勢いの良さが感じられた。多少寄せ集め的な座組みかな?と思ったんだけど、いやいや、かなりまとまりの良さがあった。かなりの少数人数の座組みだったけど、舞台がとても密に感じられた。今こうして書いていても、楽しくて(笑)観ていて出演している役者さんたち全員を大好きになれる芝居だった。記念にクライマックスの火事場で舞い散った火の粉(キラキラした赤いフィルム紙&薄い白い紙)を持ち帰りしました。

そして一言!染ちゃんはやっぱ素敵だ!キリッとしたとこもヘロヘロッとヘタレになるとこも必死な形相も情感がこもっている台詞回しと声も、見事な死体ぷりも、とにかくまるごと全部良かった。私の性分だからたぶん詳細感想では演出的な部分に関しては注文も出ると思うけど、それでもこーんなに大満足な芝居を仕掛けてくれてありがとう、と声を大にして言いたいです。正直なとこパルコ歌舞伎より好きだ(笑)

【舞台演出等】

染模様恩愛御書と大きく描かれた幕。セリから講談師さん登場。今から始まる芝居の発端を説明。以後、たびたび黒御簾なのかで物語の補足をしていく。いわば義太夫の代わりの役割を果たしている。これが非常にわかりやすく、また語り口が歌舞伎と相性が思った以上に良い。これからも歌舞伎のなかで講談師を使う、のは有りだと思います。今まで使ったことはないのかな?初の試み?

舞台上には木を組んだだけの櫓のようなシンプルなセットで片方が階段が3つ、片方は階段無し。場によって襖やのれん、スクリーンなどをで様々な部屋に仕立て照明の暗転で盆廻しにして場を変えていきます。なので場面転換はかなり早くほとんど幕を閉めません。その代わり場によっては華やかさに欠けるところがあり、それが少し残念でした。最初のお祭りの部分と、見初めの杜若の場はもっと華やかにしてほしかったかなあ。

照明は普段のフラットな照明ではなく様々な色を使い、ピンスポット使いも多様。素早い舞台転換のための暗転も多様しておりました。いわゆる現代劇での照明の使い方だと思うのですがそれほど違和感は感じませんでした。ラブシーンの紫の照明はベタすぎてどうよ?とも思いましたが(笑)。火事場の赤はかなり効果的でしたがどうせなら赤一色ベタ使いではなくゆらゆらさせるような立体的な照明でもいいかなあとも思ったりしましたが、それをすると歌舞伎ぽくなくなるのなとも。

火事場の演出。天井や脇から会場全体に煙を飛ばし、舞台両端からは火の粉に見立てた赤いセロファン紙と白い薄い紙をどっさりと撒き散らす。会場全体が火事場に見立てられています。舞台上では本火も少しながら使用し、また焼けだだれた梁が天井から落ちてきたり、とスペクタクル。階段落ちは階段部分が仕掛けで滑り台のようになり、そこをざぁ~っと滑り落ちる形。

音楽はほぼ正統派な使い方。すべて黒御簾内で演奏しておりました。火事場での太鼓、鼓の音にはわくわくさせられましたー。んが、一つだけ今回のテーマソングと言いますか、「数馬愛のテーマ」と言いたくなるような歌詞の歌があったのですがこの曲調がムード歌謡な曲調なんですよ。聞いてて恥ずかしくなるんですけど…。こればかりはもう少し正統派な長唄調にしていただきたかったと。

「感想そのニ」に続きます。

国立大劇場『元禄忠臣蔵 第一部』 1等A席

2006年10月15日 | 歌舞伎
国立大劇場『元禄忠臣蔵 第一部』1等A席花道寄り

第一部 6幕12場
「江戸城の刃傷」
「第二の使者」
「最後の大評定」

風邪をひいてしまい体調が良くなかったのですが緊張感溢れる舞台だったので集中が途切れることなく観ることができました。第一部は話全体が重く、観終わった後はどっと疲労感。男ばかりの舞台とは聞いていましたがこれほど男ばかりしか出てこないとは思わなかった。男泣き、男泣き、男泣き、な舞台でした。そのなかで女形と子役が出てくる場と井関徳兵衛@富十郎さん、紋左衛門@隼人くんの場は少しばかりホッとした場面でした。井関親子は最後切ないんですけどね…可哀相。

真山青果の歴史劇、いわゆる新歌舞伎です。史実に近い物語となっていて下座音楽が無く、映画の時代劇を見ているかのようでした。ストーリーが密なのと舞台転換がスムースなのでだれることはありません。それにしてほとんどの場で男泣きがあります。それも色んな泣き方で。男が泣く、ということが今より重い時代のお話ということで、その「泣き」に想いを巡らせる、というお芝居でもあるのでしょう。

大石内蔵助@吉右衛門さん。最初の出からして存在感が大石内蔵助でした、見事です。すべてをハラに飲み込んで行動する姿がいかにもな雰囲気。タダの人で終わりたかった昼行灯にはチトみえませんでしたが、心の揺れを丁寧にみせて非常に見ごたえがありました。特に後半「最後の大評定」での心情吐露での台詞回しの巧さが物語を締めました。こういう会話だけの芝居だと物語を引っ張っていく力がある役者さんだというのが際立ちますねえ。

多門伝八郎@歌昇さんが素晴らしい出来。やはりこの方は上手いですね。台詞術に聞き応えありました。若輩者ながら理不尽なことを許せず正論で突っ込んでいく、その姿に説得力がある。この方の口跡の良さが際立ちました。

浅野内匠頭@梅玉さんは品のいい透明感のあり、そして内面に熱いものを感じさせる印象深い造詣の内匠頭でした。切腹前の静かな佇まいに、哀れさを感じさせてとても良かったです。浅野内匠頭の辞世「風誘う花よりもなほ我はまた春の名残をいかにとやせん」を詠う場がいかにも似合っていました。

片岡源五右衛門@信二郎さんの主を思う気持ちがよくみえる芯のある佇まいが素敵でした。平伏しながら泣く姿が美しい。

加藤越中守/奥野将監@東蔵さんはどちらもきちんとこなしておりましたが加藤越中守のほうはもう少し非情さがあるといいかな。奥野将監はピッタリ。思慮深く目配りのできる奥野将監でした。

井関徳兵衛@富十郎さん、この方も存在感があります。一部台詞の入りが怪しい部分はありましたがそれが気にならないほどの台詞回しのよさと声の良さ。明るい声が全編に渡って重い芝居のなかでホッと一息つける存在としてありました。明るい人物造詣だけにかえって不器用で一途な男の哀しい生き様をみせてくれました。

井関紋左衛門@隼人くん、ひょろひょろとしていて所在なげが雰囲気が哀れさを誘いました。声変わりの時期のようで台詞の部分がきつそうでしたが、紋左衛門の14歳という年齢や彼の生まれと育てられ方がリアルに感じられ、私はとても良かったと思います。

おりく@芝雀さん、暖かい人柄と武家の妻としての凛とした部分とがあるおりくでした。ほんの少しの出番なのが悲しかった。

松之丞@種太郎くん、一生懸命さが良かったです。武家の長男としてのしっかりした佇まい。口跡がいいのはお父さん似でしょうか。このところ大活躍ですよね、将来が楽しみです。

サントリーホール『マウリッツオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル』P席

2006年10月11日 | 音楽
サントリーホール『マウリッツオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル』P席

Bravo!!!!大大感激でした!!1年ぶりに拝見するポリーニさんは、背が少し曲がりおじいちゃまな感じ。たった1年で随分老いたなぁ…とちょっと哀しかったりしましたが、演奏のほうはというと昨年より断然音が良かったです。ポリーニさんの音は本当に独特。この音が大好きです。全盛期の正確無比な完璧な超絶技巧の演奏とはいかずやはり衰えている部分がありタッチがたまに荒くなったりはするのですが、それでも華麗で圧倒的な演奏。そして何より音楽に対する情熱が感じられる素晴らしい演奏でした。やっぱりポリーニさんが弾くシューンベルクは楽しい。また後半のプログラムのリストが本当に素晴らしかった。それにしても調子が良かったんでしょう、なんとアンコール曲が5曲。いやはや、熱狂するしかないです。来日される限りこれからもポリーニさんの演奏を聴きに行きます、と心に誓った夜でした。

【プログラム】
シェーンベルク: 3つのピアノ曲 op.11
シェーンベルク: 6つのピアノ小品 op.19
ベートーヴェン: ピアノソナタ第23番 ヘ短調 op.57 「熱情」
 * * *
リスト: 灰色の雲
リスト: 凶星!
リスト: 悲しみのゴンドラ1
リスト: リヒャルト・ワーグナー ―― ヴェネツィア
リスト: ピアノソナタ ロ短調

【アンコール曲】
ドビュッシー: 前奏曲集第1巻より 「沈める寺」
リスト: 超絶技巧練習曲集 より
ショパン: 練習曲 第12番 ハ短調 op. 10-12 「革命」 
      夜想曲 第8番 変ニ長調 op. 27-2
      スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 op. 39

歌舞伎座『芸術祭十月大歌舞伎 昼の部』1等2階前方センター

2006年10月09日 | 歌舞伎
歌舞伎座『芸術祭十月大歌舞伎 昼の部』1等2階前方センター

昼の部は期待以上に良い舞台を見せていただきました。今月は昼の部のほうが好みです。後半、もう一度見たいなああ。

『芦屋道満大内鑑』
葛の葉の魁春さんが母としての想いが切々としてとても良かったです。狐の身で人を愛してしまった切なさも伝わってきました。また魁春さん独特の女形の体の作りとちょっと無機質な雰囲気が狐としての異形さにピッタリ。まだ”気”自体に「異」は無かったのですがそういう部分も出せるようになると説得力が増すと思います。障子への曲書き等、ケレンの部分でまだ段取りに追われていてこなれていないな、と思う部分もありましたが持ち役として演じていっていただきたいです。幻想的な引っ込みの演出も素敵でした。葛の葉姫のほうは女房葛の葉に引きずられたのか、いつもの楚々とした可愛らしさがあまり無かったかも。女房役のほうが似合うようになってきたのだろうか。

保名の門之助さんが非常に良かったです。品と憂いがあり芯の通った情も細やか。とても丁寧に保名像を拾い出し、狐の葛の葉と添ったことを後悔せず子供とともに追いかけるのがなんとも説得力のある素敵な保名でした。門之助さん、抜擢に応えましたねえ。

信田夫婦の錦吾さん、歌江さんは手堅く。

『寿曽我対面』
絵面が楽しい荒事。工藤祐経の団十郎さん、5月の時よりお元気そうでなにより。声の張りは全盛期に比べると落ちてるかな?とは思いますが大きな存在感は健在。重さが出てきたような感じもしました。

曽我十郎の菊之助さんが目を見張るほどの上出来ぶり。形の美しさに感嘆。柔らかさとキッパリした部分とがうまく同居し、台詞回しに艶もありました。体の使い方が格段に上手くなったように思います。

曽我五郎の海老蔵さん、姿形の美しさは素晴らしいし華も存在感も見事。ただし台詞が無ければ…。リズム感があんまり無いだけでなく、とっても良い声なのに台詞が篭って所々何言ってるのか…と思えば現代語の台詞?な軽い言い回し。うなってるようにしか聞こえないとは後ろにいた歌舞伎初観劇らしきおじ様連中。歌舞伎役者としての資質は同世代のなかじゃ突出してるだけに、良さも目立つが粗も目立つ。

朝比奈の権十郎さん、ハリのある良いお声で楽し気に演じてらして観ていて気持ちのいい朝比奈でした。

大磯の虎の田之助さん、貫禄十分、座っている形も美しい。しかしお膝の具合のせいで動くのがかなりおつらそうで少々ハラハラしてしまいました。

化粧坂少将の萬次郎さん、可愛いです。最近のほうがお顔が可愛らしいような気がするのは気のせい?声はいつもの独特のお声ですが台詞回しが普段の調子よりどこかふんわりとした雰囲気だったような?


『熊谷陣屋』
見ごたえありました。なんと言っても熊谷直実の幸四郎さん、先月の松王丸に続き、渾身の出来ではないでしょうか。やはり幸四郎さんは時代物のほうが似合います。特に熊谷直実に関しては私は幸四郎さんのが一番好みです。子を想う父としての顔、だけでなく坂東武者としての格と無骨さがありまたその不器用な生き様のなか、妻に対する想いをも明確にある熊谷直実です。幸四郎さんの真骨頂は僧侶姿になってから。寂寥感漂う花道での引っ込みは見事としかいいようがありません。戦場のドラを聞いて一瞬、武将の顔に戻る。まだ武将の心を捨てきれないことを表現することで男の哀れさが一層際立つ。この熊谷はフィルムでみた初代吉右衛門さんの『熊谷陣屋』に非常に似ていました。私はこのフィルムを観た時、初代の演技の資質に近いのは幸四郎さんのほうだと思いました。そして今回、幸四郎さんと初代では身体性はだいぶ違うとは思うのですが、やはりそうなんじゃないかなと思った次第。(余談:二代目吉右衛門さんのほうは実父、白鸚さんの資質によく似ていると思う。)

幸四郎さんの熊谷直実はかなりの回数を観ています。そのなかでも今回は気持ちを初心に戻し、初代吉右衛門さんや白鸚さんの熊谷直実を思い出しながら演じたのではないか?と思うほど、いつも以上にひとつひとつをとても丁寧に、そして気持ちを込めて演じていたように見えました。幸四郎さんの熊谷直実は本当に無骨です。不器用な生き方をしてきたんだな、と思わせる。義を重んじる武将としての生き様がそこにあります。それゆえの悲劇。また私が幸四郎さん熊谷が一番好きなのは妻、相模に対する不器用な愛情がきちんとみえるからでもあります。僧侶姿になり陣屋を離れるシーンで、相模への申し訳なさを体全身で現します。私は女ですからやはり相模の視点で熊谷という人物を見てしまうのですが、一番女として許せる熊谷なんです。現代風の解釈かもしれないのですが、でもやはりここが好きです。

源義経の團十郎さんが想像以上に良かったです。情味と存在感が見事でした。なんというか重量感のある品格がみえました。武将の役だとどこが肩に気負いがありすぎることも多い団十郎さんですが、その部分が少し抜けてきたかなと思います、

弥陀六の段四郎さん、やはりこの方は上手い。とにかく人物像の捉え方に説得力があります。老獪さと気概さとがあるとてもいい弥陀六。

藤の方の魁春さんの品格、非常に良かったです。藤の方として芝翫さん相手にきちんと位取りの高さを見せ、また子を思うやるせない切羽詰ったものも感じさせ見事でした。

相模の芝翫さん、存在感はちょっと格別。どことなく色気があって、熊谷への甘えた風情が可愛らしく、夫婦の情愛がよくみえる。また母としての強い情もよく伝わってくる。ただ、もっといつもだと子への想いをもっと濃く出してくれると思うのですが私が拝見時はまだ少々ハマりきっていない感じも見受けられました。

堤軍次の高麗蔵さん、すっきりとした生真面目な軍次。いいです!

『お祭り』
鳶頭松吉の仁左衛門さん。ただひたすらカッコイイ。爽やか、美しい。江戸の粋、という感じではないのだけど色ぽくって眼福。

歌舞伎座『芸術祭十月大歌舞伎 夜の部』3等A席前方センター

2006年10月07日 | 歌舞伎
歌舞伎座『芸術祭十月大歌舞伎 夜の部』3等A席前方センター

『仮名手本忠臣蔵』
「五段目 山崎街道鉄砲渡しの場 ・二つ玉の場」
「六段目 与市兵衛内勘平腹切の場」

勘平の仁左衛門さんが大熱演。切腹の場で似てると思ったことがなかった十三代目にとても似ていてビックリしました。仁左衛門さん、とても若々しく悲哀のある美しい勘平。出の憂いを帯びた表情に後の悲劇を連想させます。どことなく運命として悲劇を背負っているかのようでした。反面、勘平の愚かしさという部分があまり見えてこないのが唯一残念な部分でした。まあこれは個人的好みではありますが。それにしても物語運びが非常に丁寧で場ごとの心境がひとつひとつ雄弁に語られ(表情、台詞ともに)追い詰められている様が見事。歌舞伎独自の台詞「色のふけったばっかりに」のところの表情がなんとも色ぽく、後悔とともに甘酸っぱい思い出として語られていたかのようでした。また、もうこのクラスの役者さんに対してわざわざ書くのも失礼かなとは思うのですが仁左衛門さんの体の線の美しさが本当に見事で惚れ惚れします。どの部分を切り取っても絵のように綺麗に決まる。崩れていてさえ美しい。

と主役の熱演は素晴らしかったのですがそれに比べ脇がどうも薄め。後半、こなれていくといいのですが…。

海老蔵さん定九郎、姿は本当にいいし、眼力のある凄みの利いた美しい顔もとてもいいんですが全体的にどこか軽すぎ。何がいけないのでしょうね。あっさりさらさらっと流れていってしまう。定九郎はニンだと思うのでもう少し悪党としての存在感をみせて欲しいです。

菊之助さんのお軽は勉強してきてるなというのはよくわかる。体の作り方もしなやかで綺麗だし、台詞回しもきちっとしている。しかしどうにも情が薄い。娘として、女房としての心のありようが滲み出て来ないんですよね。もうちょっと勘平らぶな雰囲気が欲しかった。

家橘さんのおかやは全然ニンじゃなくて、とにかく違う。いつもならおかやで泣くんだけど、泣けない。なんというか元気すぎるのかな?意地悪そうに見えてしまう部分が多々。娘を売り、旦那は殺され、絶望に陥ったがための狂乱が見えてこない。それこそ母として妻としての情があんまり見えてこない。物語る部分でキッパリしすぎてる部分もあるかなあ。おかやがどういう立場にいるか、はきちんとあるんだけど…。うーん、うーん。


『髪結新三』
「序 幕:白子屋見世先の場・永代橋川端の場」
「二幕目:富吉町新三内の場・家主長兵衛内の場・元の新三内の場」
「大 詰:深川閻魔堂橋の場」

戻り鰹の時期に初鰹の季節の芝居というのはどうなんでしょうね?

ある意味期待の幸四郎さんの新三は想像以上に悪人すぎ…。どっからどうみても愛嬌のある小悪党に見えないんですけど…あれでは凄みのある大悪党。特に序幕が凄みがききすぎです。もっとくだけてもいいんじゃないかなあ。あれでは騙されないよ、とか思いました。髪結いの場は思ってた以上に手捌きがお上手で見せ場にしてましたが…。ただ二幕目以降は面白かったです。なんというか演出の妙というか、それぞれの人物像がよく見え、またやりとりの間合いが非常に良く面白く拝見。二幕目は幸四郎さんも新三らしい可愛い男にかろうじてなっていて、頭の回転は速いもののちょっとおまぬけな雰囲気がなかなか。でもやっぱりニンではないよなぁとは思いました。幸四郎さんの初役世話物シリーズのなかで一番似合ってなかったかと(笑)まっ、でも楽しかったけどね。

家主長兵衛の弥十郎さんがかなり良かった。あの大きな体を小さく折ってお金を数えているとこなんてしっかり爺な体つき。なにより押し出しの強さ、狡猾な強欲ぷりがお見事。台詞の間がこれまた良いんですよ。とにかく上手い!似てない兄弟だと思っていた亡くなられた坂東吉弥さんを彷彿させるところがいくつかありました。血は争えないものだとつくづくと。

勝奴の市蔵さんは幸四郎さんとのバランスもよく好演。小悪党な下っ端風情とか、甲斐甲斐しいマメな部分とかさりげない存在感。

弥太五郎源七の段四郎さん、少々落ちぶれてきた親分風情といい、押し出しといい、ピッタリなんですけど。ただ台詞がまだ入りきっていらっしゃらなくて…。特に大詰めの最後の見せ場で…。客席のほうがらプロンプが飛んでましたが…台詞を教えてあげてたのはお客さんだったのかしら?

魚屋の錦弥さん、素敵でしたーー。粋の良い爽やかないい男ぶり。今回の座組みだからこそ観れた役かもしれないですね。今回の座組みのなかで個人的に一番わーい(嬉)な配役でした。

加賀屋藤兵衛の男女蔵さん、おー、こういう役でご出演とは!なかなか良い感じじゃないですか。

高麗蔵さんのお熊ちゃんはトウが立ちすぎていた…別な役はなかったんだろうか? ただ今回思ったのはお熊ちゃんは弱いお嬢様じゃなくて気の強さがあるお嬢様なんだなと。そういう部分がよくわかった。考えてみたら押し入れに閉じ込められて、メソメソしてるだけじゃなく押入れから出せ!とアピールできるくらいの強さはあるんだもんね。なんだかそこは際立った感じはしました。だから高麗蔵さんだったのか?んー、でもやっぱも少しお嬢様風情が欲しかったなああ。

国立大劇場『弁慶ニ態 能と歌舞伎による』

2006年10月01日 | 歌舞伎
国立大劇場『弁慶ニ態 能と歌舞伎による』1等席前方下手寄り


『舞囃子「安宅 延年之舞」』
能は舞囃子という見所のほんの一部を装束を着けない紋付袴姿での上演形態でしたが『安宅』のフルバージョンをぜひ観たいと思いました。歌舞伎より能のほうがカタルシスがあるような気がする。能は学生時代に何度か観にいったのですが、その後機会がなく…。

シテの近藤幹之助さんは足裁きは少々お年かなという感じはあったのですが体の芯の通り方が素晴らしい。気を溜めた前半と気迫溢れる後半の舞は思った以上に表情溢れるものでした。歌舞伎『勧進帳』の延年の舞は宝生流の「延年之舞」から来ているとのことですが、それがよくわかりました。

囃方がかなり迫力ありました。大劇場なので音がかなり広がってしまってましたが、それでも素晴らしい音色でした。大鼓の亀井忠雄さんの音はメリハリがあって、シテと添うような音の出し方なんですね。相乗効果で弁慶の重さ、緊迫した表情が浮き出てくるようでした。小鼓の大蔵源次郎は鼓の音は勿論のことお声が良いですねえ。笛の一噌幸弘さん、渾身を込めた迫力ある演奏。息の長さにビックリ。

シテ:近藤幹之助 (宝生流)
大鼓:亀井忠雄
小鼓:大蔵源次郎
笛: 一噌幸弘


『歌舞伎十八番の内「勧進帳」長唄囃子連中』
歌舞伎『勧進帳』はフルバージョン。吉右衛門さん弁慶は昨年9月以来、梅玉さん富樫はお初です。

弁慶@吉右衛門さん、相変わらず大きいです。いかにも柄にあったお役なんだなあと改めて思いました。体も大きいですが何より気持ちが大きいのですよね。気合が入ってらして、いつも以上にメリハリがあったような気がしました。

義経@芝雀さん、ここ数年義経を手掛けられ、完全に手の内に入ったかなと思う。特に出の華やかさ美しさが素晴らしかったです。役者としての艶が出てきたかなとか。以前なかなか出せなかった武将としての品格もあるし、本当に良い出来。ただ、弁慶を労う場の情味は今年四月御園座の時のほうがあったかな。一回公演だから気持ちを持っていくのが大変なのでしょうね。

富樫@梅玉さん、品の良い落ち着いた能史ぶり。梅玉さんのことだから冷たい富樫になるかも、と思っていたのですが、情に流されることなく、しかし非常に暖かい心持の富樫でした。ちょっと意外(笑)。出の名乗りでの能がかりの台詞廻しが上手で感心してしまった。にしても富樫という役は、役者の個性が一際目立つ役じゃないかと思う。色んな方の富樫を観ているが、こうまで違うものかと思う。富樫役好きとしては、これからも色んな役者さんの富樫を観てみたい。

四天王は昨年9月歌舞伎座と同じ面子。もうちょっと頑張って欲しいかなと。このなかでは松江さんの役者ぶりが大きくなってます。緊張されたのか由次郎さんが途中コケてました…なんとか芝居の流れは切らないでましたけどトチリ蕎麦ものでしょうか(笑)

個人的に目を惹いたのが太刀持の梅丸くん。非常に姿勢が美しく、きちっと控えていて素晴らしい出来でした。

弁慶:吉右衛門
富樫:梅玉
義経:芝雀
亀井六郎:松江
片岡八郎:種太郎
駿河次郎:吉之助
常陸坊海尊:由次郎