Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

東京芸術劇場中ホール『ザ・キャラクター』 S席2階中央下手寄り

2010年07月28日 | 演劇
東京芸術劇場中ホール『NODA・MAP15回公演『ザ・キャラクター』マチネ S席2階中央下手寄り

25日(日)に野田地図『ザ・キャラクター』を観ました。感想はまだちょっとまとまらない。今回の芝居は最近の野田地図のなかでは好きなほうで面白かったんですが後半、野田さんが芝居として消化しきれずまんま提示したところで「現実」のほうが勝ってしまって、こちらも消化しきれてなくて…。15年も前のことなのにあの一日のことはほんとに鮮明に覚えてる。乗っていたかもしれない電車のことがどうしても浮かんで、あの日が浮かんでくる。あの日、私は運が良かっただけだった。だから私にとってあまりに近しい事件なのだ。

私なら「忘れないために祈る」だ。「忘れるため」にではない。面白かったし、ここ最近の作品『ロープ』『パイパー』より芝居としても良いと思う。でもあまりにストレートすぎてしんどかった。私はあの日、一文字も書けずに倒れてしまったあの人たちの立場になっていたかも…あの電車の乗っていたかもしれなかったから。今でのあの日のことは鮮明だ。 この芝居は年齢やあの時どこにいたか、あの時どうしていたかでだいぶ受ける印象は変わる芝居かも。

そういう意味では彼らを「幼い」と断罪した野田さんにはこの題材を取り上げてくれてありがとうと思った。私がずっと思っていたことだったから。なんて幼稚な集団なんだろう、それが暴力に結びつくとこうなるんだ、と。

でも、ほんとはそこだけで観ちゃいけないんだろうなとも感じてはいる。野田さんはもっと広い範囲で「幼さ」を描きたかったのだと思う。けど、あまりに事件をそのまま提示しすぎて、その部分の余白をかえって狭めてしまったんじゃないかと思ったり。でもそれは観る側の私の問題でもあるのかなあ。だからラストの言葉、「忘れるために」でいいんだろうか?と思ってしまうのか…う~ん、う~ん。

とりあえず今はここらヘンで思考がうろちょろしてて「芝居」がどうのってとこまで思考がまわらないでいます。


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NODA・MAP15回公演
『ザ・キャラクター』

町の小さな書道教室、そこに立ち現われるギリシア神話の世界、
それが、我々の知っている一つの物語として紡がれていく。
物語全てが、ギリシア神話さながらの、変容(=メタモルフォーゼ)を
モチーフとしたお話になっています。信じていたものが、姿を変え、
変化を遂げていく物語。その最後に立ち現われる、我々が知っている物語とは…。
物語尽くしの物語です。乞うご期待!
                   野田秀樹

作・演出:野田秀樹
美術:堀尾幸男
照明:小川幾雄
衣装:ひびのこずえ
選曲・効果:高都幸男
振付:黒田育世
ヘアメイク:宮森隆行

【キャスト】
マドロミ----------------宮沢りえ
家元--------------------古田新太
会計係・ヘルメス--------藤井隆
ダフネ------------------美波
アルゴス----------------池内博之
アポローン--------------チョウソンハ
新人--------------------田中哲司
オバちゃん--------------銀粉蝶
家元夫人・ヘラ----------野田秀樹
大家・クロノス----------橋爪功

大阪松竹座『七月大歌舞伎 昼の部』 1等席1階前方花道寄り

2010年07月19日 | 歌舞伎
大阪松竹座『七月大歌舞伎 昼の部』1等席1階前方花道寄り

7/19(日)

『妹背山婦女庭訓』 「三笠山御殿」
花形の皆さんが頑張っていらして思ったいた以上になかなか見応えがありました。

お三輪@孝太郎さんがとにかく非常に良かったです。孝太郎さんはお三輪は似合うに違いないとは思っておりましたが、持ち味の良さという部分だけでなくしっかり見せてきたと思います。見事に純で一途な田舎娘のお三輪だった。世間知らずで幼さがあるために、その娘が嫉妬に狂う女になる場での切り替えが鮮やかに活きたと思う。それだけに求女の役に立てることを喜ぶお三輪が哀れ。一目会わせてあげたいとほんとに思った。個人的に今月四役のうちではこの役が一番です。

橘姫@春猿さん、華やかで可愛らしい姫。橘姫のおっとりとしたなかの一途さをしっかり演じようという意識があって良かったと思います。

求女@段治郎さん、 実は藤原淡海の心持ちがしっかりあって、そこが非常に良かったです。台詞もなかなかしっかりと伝えていました。すっきりとした容姿も求女らしいですが、痩せられたせいもあるのでしょうが全体的なシルエットがかなりペタンとしてしまっているのが少し気になりました。着物の着付けをもう工夫されるといいかなと。

鱶七@愛之助さん、声を太くし、しっかりとした台詞廻しが良かったです。全体的にひとつひとつ丁寧に演じている感じでした。大きく見せようとしてかえって衣装に着られてしまっている感があったのがちょっと残念。


『大原女・国入奴』
すいません、前日寝不足だったので少しばかりゆるりと観てしまいました。翫雀さん、全体的に丸みのある踊りで丁寧にしっかり踊られていたと思います。また翫雀さんの愛嬌が踊り全体にあり、この舞踊に合っていました。特に勢いがあった国入奴が良かったです。今後も踊り込んでいってほしいですね。


『御浜御殿綱豊卿』
綱豊卿@仁左衛門さんと助右衛門@染五郎さんの組み合わせでの上演3回目です。しかもあまり間を置かずにやっているんですよね。そのためか細かい部分、非常に練り込まれています。今回は役者同士の熱い丁々発止の面白さのなかに『元禄忠臣蔵』という戯曲のなんたるかという部分での解釈もいつも以上に明快に伝わってきたような気がしました。

それにしても仁左衛門さんと染五郎さんのお互いの台詞の応酬のなかでの細かい反応が細かいこと細かいこと。どっぷり役にハマってるんじゃないか、役者と役が一体になっているんじゃなかと思わせるくらいでした。それだからこそ観客のほうも感情移入できるんでしょうね。今回はいつも以上に『元禄忠臣蔵』の男泣きの世界がここにあった。元禄忠臣蔵の全体の世界観があの一場のなかにありました。

実は私、『最後の大評定』での内蔵助と井関の関係性が『御浜御殿』で繰り返されてるかも?と感じたんですよね。「もののふ」としてどう生きるべきかの指針、そして理想。血気に逸る井関を内蔵助は諌めます。そして、井関が早まったことをしてしまったことで、どの道へ行くのか内蔵助は決意します。ところが前段の『伏見撞木町』を観てるとわかると思いますがここで内蔵助はお家再興を願ったことで迷いが生じているように描かれます。その揺れを「実は」と正すための場なのかなあ、なんて気がしたのですよね。綱豊卿が内蔵助と同質の感覚をもっている、というのは前回の歌舞伎座の仁左衛門さんの綱豊卿にも感じたんですが、今回は前回以上に綱豊卿と内蔵助を完全にオーバラップさせてきたって感じがしました。そしてそれだけでなく染五郎さんの助右衛門が拗ね者の雰囲気をも押し出してきたという部分で、助右衛門が井関にも重なりました。 もう一度、どの「覚悟」がそこに必要なのか、というやりとりをすることで次の幕の大石の決断を納得させていくという形になっているのかなと。戯曲の作りが基本「大石内蔵助」を描いていったものなんだな、という感じを受ました。

綱豊卿@仁左衛門さん、緩急自在でもう完成品という気がしてしまうほど。その完成されたなかでも助右衛門@染五郎さんという相手が少しづつ成長していることもあるのかどんどん芝居が鋭く深くなっている気がします。華やかな鷹揚さのなかに熱く鋭い情熱を秘めた綱豊卿です。圧倒させられますね。

助右衛門@染五郎さん、綱豊卿@仁左衛門さんの手加減まるで無しどころか容赦ない突っ込みにそこにしっかと喰らいついていっています。今回はひたすら真っ直ぐに向かっていくだけでなくかなり緩急を効かせてきました。綱豊卿の言葉をじっと聴いているところなど押さえたところでの表情がかなり豊かになって、今回は受けの部分の言葉のない泣きの部分がすごく良くなったいました。助右衛門の切実さがしっかり伝わってきた。それと無骨さより拗ね者の雰囲気のほうを強く出していて、生き様の不器用さがそこにあって面白かったです。

お喜世@孝太郎さん、控えめに可愛らしく演じていらっしゃいました。個人的好みからするともう少し「お喜世」という人物を押し出していいかなと思いますが控えている時の佇まいは綺麗でした。

江島@笑三郎さん、知的ですっきりとした美貌の江島でした。今後、持ち役にできそう。台詞廻しが玉三郎さんにかなり似ててちょっとビックリしました。

大阪松竹座『七月大歌舞伎 夜の部』 3等席/1等席

2010年07月18日 | 歌舞伎
大阪松竹座『関西・歌舞伎を愛する会 結成三十周年記念 七月大歌舞伎 夜の部』3等席/1等席

7/17(土) 3等3階前方センター 『双蝶々曲輪日記』のみ
7/18(日) 1等1階前方上手寄り

大阪に観劇遠征に行きました。夜の部は2日続けて観ましたので感想は一つにまとめました。

『双蝶々曲輪日記』
今回、三段目「井筒屋」、四段目「米屋」、五段目「難波裏」、八段目 「引窓」の半通し上演の半通し上演です。『双蝶々曲輪日記』は二段目「角力場」と八段目「引窓」はよく上演されますし何度も観ていますが半通しは初めて観ました。やはり、通しでやると人物関係や物語がしっかりわかって非常に面白いです。どうしても単独上演だときちんと人間関係が見えてこなかったりしますから。上演が絶えた場はわりと面白くないこともありますが、『双蝶々曲輪日記』はどの場面もよく出来ていますし面白いです。今回の半通しで「角力場」と「引窓」だけではわからなかった濡髪の男らしい優しさがわかり、濡髪長五郎という人物が物語の核にあることがわかり、彼の人生が描かれたものという印象も強く残りました。

出来れば二段目「角力場」も付けて上演していただければもっと物語として面白かったんじゃなかと思いますが今回の半通しだけでも、それぞれに人物像が明快になり深みもでていました。よく拝見する「引窓」もそこに到る流れが見えただけで全然見えるものも違いました。この演目、もっと通し上演するべき演目だと思います。そのくらい通して観たことが面白かったです。配役も想像以上に良かったという部分も大きいかもしれません。それぞれの役者さんたち説得力がありました。

●三段目「井筒屋」
「引窓」での南与兵衛の妻のお早が都という遊女として登場します。またその都の妹分として濡髪を贔屓にしている与五郎の恋人、吾妻がいることがわかりました。これで「引窓」でなぜお早が濡髪を見知っていたのかが知れました。それと南与兵衛が濡髪のことを知っていたということも。にしても実はこの時、南与兵衛も与五郎のために殺人を犯しているんですね…。濡髪が「引窓」でつぶやく「人を殺して運の良いのと悪いのと」の意味がここでハッキリと。

都@孝太郎さんはしっかり者で好いた人のためならば、という気の強さを持ち合わせ女性でした。にしても恋に一途な女は何でもしますね(笑)。

吾妻@春猿さん、綺麗です。春猿さんのしなしなっとする風情がこの場にはよく合ってました。

与五郎@愛之助さん、大阪弁がネイティブということもあり、いかにもつっころばしといった若旦那風情がありました。にしても与五郎が悲劇の元凶なんですねえ。

●四段目「米屋」
濡髪長五郎と放駒長吉のお互いの贔屓のためにした喧嘩の決着と付けようという場から、喧嘩ばかりしている長吉を心配した姉おせきと、その同業の人々の人情、そしてそれを傍から見ていた濡髪長五郎の義侠心からの放駒長吉との義兄弟の契りが描かれます。

●五段目「難波裏」
話が急速に展開。吾妻を勝手に連れ出した侍たちとのやりとりのなかで行きがかり上、殺人を犯してしまう長五郎が描かれていきます。

濡髪長五郎@染五郎さん、最初にこの配役を聞いた時は「えっ?この役合うかな?」と思いましたが、これが非常に役に似合っていてビックリ。拵えがまず似合いまなんともいえない美丈夫ぶり。そしてとても大きく見え(勿論、着肉をなかに着こんでおりましたが今までこういう役を演じた時より大きく見えました)、なにより存在感がありました。しかもどことなく色ぽいのが染五郎さんらしい雰囲気。また台詞廻しは声を低めに抑え関取らしい線の太さを表現していました。三段~五段にかけての濡髪は辛抱役。どっしり落ち着いた品格のある関取風情のなかに芯のある義侠心が表現され、また情に篤く色々なものを自分の身に引き受ける男として存在していました。そういう体も心も大きな男のなかに家族のない身の寂しさも漂わせ、その先の濡髪の哀しい運命の切なさがあったように思います。

放駒@翫雀さん、ちょこまかした感じがいかにも素人の相撲取り。翫雀さん独特の愛嬌と動きの若々しさで短期で乱暴ものながらそのなかに一本気で素直な青年を表現されていました。根が真っ当な男という部分がよく出ていて良かったです。

おせき@吉弥さん、しっかり者で優しい放駒のお姉さんでした。乱暴ものの弟をかかえながらしっかりと店を守ってきたんだなという落ち着きもあり、弟のために色々と画策する様に説得力がありました。

●八段目 「引窓」
家族の情愛、絆が描かれる「引窓」の場。この場単独でも非常に見ごたえのある良い場だと思いますが通して観た時になおいっそう深いものが浮き出てくる場だなと。とても感動的な場になっていました。それぞれ相手を思いやって、という情愛がより強く感じられた「引窓」でした。

与兵衛@仁左衛門さん、色んなことを経てきたからこそ持ちえた優しさを持った情の深い与兵衛でした。母や女房に出世した姿をウキウキと見せる様が本当に可愛らしく、またそこがなんとも素直な表現で仁左衛門さんらしい与兵衛。図らずも出世できた身への感謝の念も強く、そのために濡髪召捕の命を全うしようとする厳しさを見せる。その表情の切り替えの見事さ。仁左衛門さんはことさら家族に見せる与兵衛の顔と十手を持った南方十次兵衛の切り替えをするわけではなく、自然の流れのなかでの感情をとても細かく表現されていきます。母を想う気持ちの強さと共に濡髪への共感しっかりと見せた与兵衛@仁左衛門さんでした。台詞、表情の緩急の巧さがさすがです。また決まりの姿が相変わらず美しいです。

濡髪長五郎@染五郎さん、この場では覚悟を決めた人生への悲哀を感じさせる切ない濡髪長五郎を演じていました。前段までは押さえた表情で静かに様々なものを身に引き受けてきた姿を見せただけに、母に会えた喜び、そして母を苦しめてしまった苦渋の表情などが印象に残ります。濡髪はいつでも相手のためを思って行動をする男なんだなんと改めてこの場でも。ただひたすら母のために母の言うことを聞きそして諭す。そこをしっかり演じてきたのには感心。染五郎さんは丸本物ものでの台詞がこのところとても良くなってきたと思う。母への細やかな感情が表現されていて、母そして与兵衛とお早への気遣い、感謝の念がしっかり伝わってきました。そういえば、ここの場での染五郎さんは前段まで手足に着込んでいた着肉は外しておりました。

母お幸@竹三郎さん、今年二月に博多座でも拝見していますが感情の輪郭がくっきりしているお幸です。また二月に演じた時より、母としての情愛を細やかに演じてきたような気がします。なんというか自身のお幸像を深い部分まで表現されていたかなと。母としての実の子供への体の底から沸いて来る愛情や、義理の息子への切実な義理などを感情豊かに真っ直ぐにより切なく表現されてきます。とっても納得がいき、胸に迫ってくる母親像でした。

お早@孝太郎さん、通したことで遊女としての過去がわかるのでお早の言動の色々納得がいきます。孝太郎さん、とても丁寧に演じてきます。家族を大事に思う気持ちがしっかり伝わってきて良かったです。もう少し緩急がつくとお早の女性としての可愛らしさがもっと出てくるかなと思います。

『弥栄芝居賑』
関西・歌舞伎を愛する会結成三十周年記念のための口上の場です。構成は病気で倒れられてからリハビリに励んでいらっしゃる澤村藤十郎さん。初日には特別出演されたとか。澤村藤十郎さんは関西歌舞伎を盛り立てる一役を担った方でもあります。いつか舞台復帰されることをお祈り致します。

さてこの一幕は芝居小屋前に様々な人たちが集い、という流れになっています。役者の皆さんがとても楽しそうで座組みの雰囲気のよさとか感じられました。

個人的には仁左衛門さんのカミカミの口上が可愛かったり竹三郎さんの女形らしいお茶目さが可愛かったり、翫雀さんの丁稚が似合いすぎて可笑しすぎたり、膝の怪我でずっと休演していて最近復帰された段治郎さんが本当に楽しそうな笑顔だったりしたのが印象的。

仁左衛門さんは関西での歌舞伎興行が1年中できるようにと切実にお話されていました。苦労されてきたことがわかります。翫雀さんと愛之助さんは関西の役者として頑張りたいとのご挨拶。

関東の役者側は左團次さんがいつもの真面目な顔して飄々と半分冗談めかした口上。それでも歌舞伎がお好きなんだなというのが感じられたりするのが左團次さん。若旦那姿の染五郎さんははんなりした風情でふわふわしていました(笑)ご挨拶の時はしっかり自分アピール。若手の澤瀉屋さんはこの場に居合わせることができて幸せと一様に。

手ぬぐい撒きがありましたが私は残念ながらGet出来ず。


『竜馬がゆく 風雲篇』
2008年9月に初演された『竜馬がゆく 風雲篇』の再演です。再演と言っても初演で重要な役を果たした中岡慎太郎が今回出て来ず、その代りに武市半平太や以蔵らを出してきたのでかなり脚本が違います。たぶん通し狂言を見越してエピソードを新たに付け加えたというところでしょうか。ただ、初演の中岡が出てくるシーンがかなり重要だった&完成度が高かっただけに、そこを切って新たなエピソードを付け加えた部分がちょっと唐突というか中途半端な感じがしてしまいました。

半平太、以蔵という「竜馬がゆく」に大事な人物が登場したのは面白くはあったのですが、この二人はまずは竜馬が脱藩する前のエピソードとして出さないと「目指すところが変わってしまった二人」という部分が活きてこないかなと。

また、中岡が出てくるシーンをバッサリ切ったことで竜馬とおりょうの出会いも描かれないということになるので面白味が減ったかなと。竜馬とおりょうの出会いの場で社会情勢やら人の命のことが語られるからこそ、ラストの「生きとるっちゅうことは、ありがたいのう」とか「ハニムーンぜよ」が活きてくるんだと思うんですよね。

あと歌舞伎座上演のときは生演奏だったテーマ曲『宙へ』の尺八の音色が録音だったのもチト残念。まあ歌舞伎座上演時の生演奏が贅沢だったのかもしれないけど…。

と、不満をまずは書いてしまいましたが、『竜馬がゆく』ではいつも思いますが、若手の役者さんたちが本当に活き活きと芝居されていてそれを拝見するのがとても楽しいです。脇の配役が「おっ!」という新鮮さがあったりしますし。

竜馬@染五郎さん、本当に魅力的です。自由闊達でとてもキュート。芯に熱い気持ちを秘め、柔軟な感覚で前へ前へと進む竜馬を表情豊かにキラキラした瞳で演じます。何度も演じるううちどんどん「竜馬」という人物にハマってきてる気がします。ヒーローではない等身大の竜馬なんだけど、皆が愛さずにはいられない魅力的なカッコイイ竜馬でした。

おりょう@孝太郎さん、とっても可愛いおりょうでした。初演では亀治郎さんが演じた役です。八金八鷹の男勝りな気の強さがある女性という感じは亀治郎さんのほうがあったと思いますが、孝太郎さんのおりょうは竜馬が大好きでたまらないオーラが出ていて、なんだか観ていて気持ちがほんわかします。イメージとはちょっと違ったけど孝太郎さんのおりょうもキュートで良いなあと思いました。やはり役者が違うと同じ役で同じ台詞でもだいぶ受ける印象が違ってきますねえ。この役を観て久しぶりに染五郎さん&孝太郎さんで『封印切』が観たいなと思いました。

西郷@猿弥さんも初演とは違います(初演は錦之助さん)。猿弥さんはずっしりとした雰囲気を作り、なかなか腹の底をみせないタイプの西郷を演じてきました。

武市半平太@愛之助さん、すっきりとした容姿が似合っていました。半平太もまた信念の人、という部分がハッキリしていて良かったと思います。

以蔵@喜之助さん、大抜擢という感じでしょうか。風貌がまず以蔵らしく、また以蔵の翳りをきちんとみせてきてインパクトがありました。

三吉慎蔵@松次郎さん、初演でもとても良い味を出されていましたが今回もとてもよかったです。前回より表情も細かくて芝居が断然よくなっていました。

国立文楽劇場『夏休み文楽特別公演 第一部「親子劇場」』後方センター

2010年07月18日 | 文楽
国立文楽劇場『夏休み文楽特別公演 第一部「親子劇場」』後方センター

7/18(日)

当日券で入りました。客入りは6~7割程度だったかなあ。

文楽劇場は文楽を観るには少々大きい感じでしたが小屋としては非常に良かったです。座席はどこからでも観やすいし、ハレ感のある雰囲気もいい。また来る機会を作りたいです。

『解説 文楽へのごあんない』
初心者向けの文楽教室。基本的な人形の操り方と上演する『雪狐々姿湖』の簡単な説明。ざっと一通りって感じでした。話ぶりがちょっと早すぎる気がした。もう少し丁寧にやってくれてもいいような。大阪のテンポなのかしらん?

小学生三人に体験させるコーナーがありましたが、大阪の子供達は元気に挙手していました。それにしても人形を操るのは大変そうでした。


『雪狐々姿湖』「崑山の秋」「猟師源左の家より冬の湖畔」

高見順=原作 有吉佐和子=作 四世鶴澤清六=作曲 西川鯉三郎=振付

いわゆる新作文楽という括りでしょうか。信州の伝承物語を文楽にしたものだそうです。狐の姫が人間の恋したための悲劇。きちんと義太夫に乗せているのだけど、どことなく新歌舞伎を連想。異種婚譚という似たモチーフの『狐と笛吹き』を思い出したためかも。

子供向けかと思いましたら言葉は現代語でわかりやすいけど子供に阿ってるわけじゃないし御伽噺の残酷さもしっかり描いていてなかなか面白かったです。狐たちが可愛いし。人間側も良い人ってところでの悲劇なので素直に見られたっていうのもあるかな。最後の場はかなり迫力がありました。嶋太夫さんの語り、非常にわかりやすく良かったです。

主人公の狐、白百合には文楽の女性特有の怖いくらいの恋の一途さがあるのが、とてもらしかった。こういう姫の一途な心情は人形でみるほうがストレートに伝わってくる気がする。主遣いは和生さん、師匠譲りの品がありつつしっかり異のオーラがある白百合でした。

狐姫の許婚のコン平がいい男(雄)でねえ。人間に恋しちゃった白百合を、白百合のために応援しちゃう狐くん。なんだか可哀想やら可愛いやら。私ならこちらを選ぶ、とか思いました(笑)。

また、右コン、左コンの双子の弟狐くんが可愛すぎて涙を誘う。

あらためて感想書いてみると結構この演目好きかも。人形をもうちょっと近くで見たかったな。

新橋演舞場『七月大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター

2010年07月10日 | 歌舞伎
新橋演舞場『七月大歌舞伎 夜の部』1等1階前方センター

『歌舞伎十八番の内 暫』
演舞場ってそういえば歌舞伎座より狭いんだったなとつくづく思った。人がみっちり詰まってる感じ。またそれを感じさせる舞台だった。

権五郎@團十郎さん、でっかい、そして可愛い。あのおおらかな雰囲気がいかにも権五郎。この役は今のとこ團十郎さんのものだ。権五郎の拵えがあれほど似合う人はいない。荒事の主役はもうすでにいわゆるキャラクター化しているけど、團十郎さんは権五郎キャラクターそのものの姿をしている、と思わせる。体のキレは病気前に比べれば随分落ちてるとは思うけど、それ以上にその嵌りぷりの説得力のほうが強い。

鹿島入道震斎@三津五郎さんがとにかく「上手い」。間といい雰囲気といい、動きといい、これぞ、と思わせてしまう。三津五郎さんは自身のキャラを消しそして芝居のなかのキャラを纏う。その緻密さに舌を巻く。

清原武衡@段四郎さん、ちょっと抜けのある古怪さがあってピッタリ。押し出しのある台詞が巧い。

照葉@福助さん、茶目っ気のある色気がいい感じ。

ベテラン勢が丁寧にしっかりと舞台を固めているなかで若手も頑張っていました。全体的に肩の力がうまい具合に抜けた楽しい『暫』だったと思う。

『傾城反魂香「吃又」』
なんだか凄かった。ここ最近、幹部連中の何人かが丸本物をリアル志向で演じてきているけど、これもそう。なんというか、歌舞伎、丸本物のいわゆる型から抜けて物語のリアルが立ち上がってきている感じ。それぞれの人物像の心持がすごくリアルというか。特に吉右衛門さんと芝雀さんの緊迫感のある熱演のなかに、又平とおとく夫婦のありようが「ああ、いたんだこういう一組の夫婦が」って思わせてきた。

又平@吉右衛門さん、いつも以上に化粧がほぼ素に近い。それだけに表情が非常にリアルに迫ってくる。吉右衛門さんが演じるとその役柄が役柄以上に大きくなることがある。しかし、今回の又平は等身大の一個の人間として立ち現れていたと思う。子供のように単純で感情の激しい一本気な絵師。身邪気さ卑屈とが同居している両面のある様々な感情を身に持つ又平だった。どもりという障害も又平の個性であり、またそれが彼の性格に大きく影響している。どもりゆえにうまくいかない人生、そこに社会に対する恨みだけではなく、障害を自身の言い訳にしてしまうもどかしさをどこかで感じているかのようだ。その哀しさを纏っているからこそ、自身の道を見つけ、道が拓けた喜びがストレートに伝わってくる。吉右衛門さんは又平という人物の心にピッタりと寄り添って演じたのではないだろうか。ことさら強調するわけではなく今まで以上にシンプルな芝居だったにも関わらず、又平の愚直なまでの想いがそこの強く体現されていた。

おとく@芝雀さんがそのシンプルに強く表現してきた又平@吉右衛門に寄り添っての説得力のあるおとくでとっても良かった。又平と一蓮托生の覚悟がある奥さんだった。又平の一番の理解者であり、時に大きく包み込み、また、相手の気持ちに寄り添い一緒に泣く。なんというか又平の良いところも悪いところもひっくるめて全部を愛してるんだなって感じだった。前回、おとくを演じた時はお父様写しの優しいおとくだったけど、そこからもうひとつ芝雀さんの色をつけて来たように思う。これがあるから芝雀さん、見逃せないんですよねえ。特に「きっとこういう女だったに違いない」と思わせる、すさまじく説得のある人物造詣をしてくる。汗だくの熱演でしたけど、その汗が「おとく」の汗であり涙だった。芝雀さんは台詞廻しがこのところ本当に良くなってきていると思う。

土佐将監@歌六さんも非常によかった。この方が演じるとその人物像の輪郭がはっきり浮いてくる。

北の方@吉之丞さん、控えめながら佇まいに情があって素晴らしい。

修理之助@種太郎くんも明快で良かった。修理之助の又平に対する戸惑いや申し訳なさをしっかり表現し、きちんと吉右衛門さんの又平に弟弟子として対峙できてた。

雅楽之助@歌昇さんのキレのある戦語りも勢いがあり見ごたえありました。

全体的にアンサンブルが非常にいい芝居だった。お百姓さんたちの細かい芝居も良かった。にしても吉右衛門さんと芝雀さんの熱演がほんとなんか胸に迫ってきた一幕でした。。

『馬盗人』
とにかく楽しかった。全体的にすっとぼけた可愛らしさのある舞踊劇でした。

馬がとにかくプリティ。すべてを掻っ攫っていってしまった感がある。あのほど表情豊かな馬はなかなか無いでしょう。クネっと科をつくるとちゃんと色ぽいのがまた可愛い。大和、八大さんに拍手!!

悪太@三津五郎さん、ひょうきんで小汚い拵えだから、なおさらわかる舞踊の巧さ。髭面なのに可愛い女性がみえてくるんだもん。すごいなあ。

百姓六兵衛@歌昇さん、真面目ななかにすっとぼけた味わいでピッタリ。

すね三@巳之助くん、若干ダンスぽくみえる場面もあったけど、よく動いていました。楽しそうに踊っているのが良いです。