Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『第三十六回俳優祭』 A席後方花道寄り

2012年01月28日 | 歌舞伎
国立大劇場『第三十六回俳優祭』 A席後方花道寄り

『第三十六回俳優祭』に行って参りました。歌舞伎座での俳優祭とはだいぶ趣きが違いましたけどとっても楽しかったです。まさしくお祭り。

『絵本太功記 十段目 尼ヶ崎閑居の場』
最初の演目は研修発表演目として次代を担う花形に古典を演じさせた『絵本太功記 十段目 尼ヶ崎閑居の場』。いつもの俳優祭ではこういう真面目な演目の上演はありませんから国立劇場での俳優祭ならではでしょう。配役も今のところなかなか無い配役です。そしてこれが思っていた以上に充実していて今回の座組みできちんと本興行で観たいと思いました。皆忙しいなか、よくぞあそこまでしっかりと作り上げてきたと思います。この演目の難しさもわかりましたけど役者それぞれが十分にこれから先の期待を持たせました。本当にとても良かったです。

武智十兵衛光秀@染五郎さん、かなり骨太さが要求されるお役なので配役を聞いた時に演じきれるだろうか?と思いましたが思っていた以上にしっかりと光秀を演じてきていました。染五郎さんは最近だいぶ骨太な役もこなすようになってきましたね。特に複雑な翳りのあるお役だとハマってきます。まずは顔の拵えが非常に立派。線の細さをあまり感じさせません。拵えた姿は幸四郎さんにも吉右衛門さんにも似てると思いましたが一番連想させたのは初代吉右衛門丈。初代は映像でしか拝見したことがありませんが「あっ、似てる」と思わせました。出のところで小刀が落ちるトラブルもありましたが動じずに堂々と演じ重厚さを醸し出していきます。さすがにまだ春永への恨みを抱く不気味さ凄みはありませんが立ち姿が美しく決めの部分では大きさを感じさせます。丁寧に演じていくうちに光秀の人となりが浮かんできて特に十次郎が手負いで戻ってきたあたりからが非常に良かった。子への情愛、家族への想いが身体から溢れてきていました。十次郎へに掛ける「ててじゃ、ててじゃ」という言葉に籠められた愛情の深さに胸が衝かれました。染五郎さんはこのところ台詞術がかなり上手くなっていますね。言葉のひとつひとつに実感がありました。武将としての芯の強さと父の顔の両方をうまく混在させドラマをしっかり作っていたと思います。染五郎さんは丸本物が似合うと思うのですが他の花形より演じる機会をなかなか与えられていない気がします。今回のお役を拝見するにもっと手掛けるべきだと思います。丸本物をしっかり身体に入れられると自然に大きさも出せると思いますし声ももっと自然に出てくるのではないかと思います。

十次郎光義@七之助さん、柄に合う、いわゆるニンのお役。まずは風貌、佇まいが良かった。凛とした風情のなかの儚げな様子は若い身空で命を散らす十次郎に嵌っていました。そしてそれ以上に十次郎としての心持ち、健気で一途な想いが伝わってきました、祖母、両親、許婚に対する気持ちのひとつひとつが明瞭。そういう意味でたぶん今回の座組みのなかで一番役として出来上がっていたと思います。時々勘三郎さんがダブりました、特に台詞廻しをよく写してきたなと思いました。前半は光秀の嫡男としての責任の重さのなかに若さゆえの逸る気持ちを見せ、後半は戦場での無残な結果への無念さとともに、家族を思いやりそして初菊を置いて命を散らすことへの切ない気持ちを切々と訴える。初菊@梅枝くんと良いバランスでした。

初菊@梅枝さん、どの場面にも絶えず十次郎を一途に想う気持ちがしっかりあってとても良かったです。健気で可愛いだけでなく十次郎を心配する愁いを帯びた雰囲気があって初菊にピッタリ。ひとつひとつとても丁寧に演じていました。特に後半、十次郎に呼ばれるまでの受けの部分、気持ちが途切れず非常によかったです。そこがあるから呼ばれて必死に縋るその姿に哀れさがありいじらしかった。前半はまだ身体の線が初菊になじんでいない部分もあったとは思いますが手掛けていくうちに義太夫ものの赤姫らしいふんわりとした風情も出てくるでしょう。梅枝さんは赤姫が似合う女形になりそうですしすでに独特の持ち味があります。

皐月@秀調さん、難しいお役ですので大変だったと思いますが思った以上に良かったです。わりと淡々とした台詞廻しではあるのですが息子に自分の気持ちを伝え諭そうとする心持ちがしっかり出ているため気丈さがみえ武家の女の哀しさがをそこに自然と現れたと思います。複雑な心境、情味の部分が足すことできたらもっと良い皐月になるでしょう。

操@孝太郎さん、家族を守ろうとする強い気持ちが伝わる。妻として母としての辛さをいったんぐっと飲み込んで悲しさを出す。特に姑の皐月を思いやり訴えかけるとこが非常によかった。初菊への気遣い、十次郎への母としての気持ちの部分、もっと強く出してくれるともっと印象が強くなるかなと想います、

真柴久吉@松緑さん、今回の場だけだといきなりの出となるのでとても難しいと想いますがきちんと腹に一物ありを感じさせ、後半は押し出しもよくしっかり捌き役になっていました。

佐藤正清@亀三郎さん、拵えも似合い、朗々とした声のよさでしっかりとした輪郭を描きだしていました。

『殺陣 田村』
いわゆる剣舞。紋付袴姿の素での舞台。それだけにそれぞれの芯の役者の柄がよくわかる。斬られ役の三階さんたちが細かい手に合わせてよく動いていた。

勘太郎くん、腰の入りっぷりが見事。またキレとメリハリがあって型として一番綺麗。観てて気持ちが良かったです。さすが踊り上手な役者さんです。海老蔵さんは柄のよさでみせる。丁寧にこなしていました。橋之助さんは決まり決まりが華やかで芝居っ気が非常に楽しい。みせるということをよく判っている。扇雀さんは女形らしくしなやか。身体の使い方に余裕があった。

『模擬店』
1階から3階まであちこちふらふらと。お相手してくださった役者さんたち、本当にありがとうございました。個人的に一番印象に残ったのは寿猿さんと長話したこと。今月のお役のことを色々教えていただきました。お話できてよかった。あと海老くんがご機嫌さんだったのも印象的。

『質庫魂入替』
ベテラン組が勢ぞろいしてるだけで楽しい、嬉しい、わくわくする。俳優祭ならではのゆる~い出し物のノリが楽しい。立役と女形の人形の魂が入れ替わってしまうという舞踊劇。役者さんたちの個性が爆裂(笑)。んと楽しかったわ~。またなかなかない組み合わせだったりするのが良いんですわ。

男雛@菊五郎さんがさすがの貫禄ある愛嬌(笑)。金時@團十郎さんの天然ぶりは誰にも勝てない。可愛いすぎる。禿@三津五郎さんが踊り上手すぎて、笑うことも忘れてつい見入ってしまう。勘三郎さんのふんわかした上手さがあるからこその自由さが素敵。宿場女郎@福助さんメリハリの利かせかたが上手いこと。凄みの効いた拵えでの平将門@仁左衛門さんの可愛い仕草に爆笑。お三輪@時蔵さんは人形ぶりが上手い、時蔵さんのお三輪を観たくなる。女雛@芝雀さんはひたすら可愛い。誰と並んでもかいがいしい可愛い相手役になるんですね~。雷神@左團次さんの滑稽味はとても独特で可愛らしい。素顔はあんなにダンディなのにっ。奇妙印@梅玉さん、ちょっと怪しげなお役、似合いすぎ(笑)。八重垣姫@魁春さん、真面目なんだかすっとぼけてるんだかな踊りが楽しい。とにかく楽しい一幕でした。

『ご挨拶』
最後の締めは藤十郎さんと水谷八重子さん。藤十郎さん、「今回の収益金は東日本大震災被災地にすべて寄付いたします。前のように皆さんが歌舞伎を観られるような環境に戻れますように」とのご挨拶。

国立大劇場『初春歌舞伎公演「通し狂言 三人吉三巴白浪」「奴凧廓春風」』 特別席前方本花道寄り

2012年01月21日 | 歌舞伎
国立大劇場『初春歌舞伎公演「通し狂言 三人吉三巴白浪」「奴凧廓春風」』 特別席前方本花道寄り

『三人吉三巴白浪』
今月の国立の『三人吉三』は原作の意図に近づけた物語本位の芝居。これが本当に面白かった。描かれた江戸末期の時代性や価値観、そのなかで道からほんの少し外れてしまった人々の逞しさや哀しさが、そして生きて行くなかでの義や情というものの価値がクッキリと浮いてでた。「親の因果が子に報い」の因果応報、その価値観がその時代生きて行く上で真っ当に生きていかなければという縛りになっていたんだと痛切に感じさせた。それだからこそ因縁因果の絡み合いのなかで悪さをしても「義」の部分を忘れない三人の吉三が切なかった。そしてそのなかで一番の犠牲になった十三郎とおとせがなんとも哀れで悲痛さがあった。

『三人吉三』という芝居のなかでアウトローとしての哀しさや退廃をみせたのはやはり戯曲を丁寧に拾い上げたコクーン歌舞伎であったけど、今回の国立はアウトローのみならずそこにいる人の弱さ、哀しみをあぶりだしてきていた。今回、いくつかの場を抜かしているけどどうせならしっかり全通しでやってくれても良かったかも。正月らしからぬになってしまっただろうけど。そこを見せてこれるのは今回の座組みならではだったかもしれない。幸四郎さんの「人を見る目」がこの演出になったんだろうし、またその意図を汲んで皆が芝居してきたんだろうなと思う。2日目に観た時はまだそこが鮮明になっていない部分がありましたがさすがにこなれてきたせいでしょう役者それぞれが際立たせてきた。

今回、感覚的に従来のこの芝居に求めるアウトローとして人生をどこか投げているからこその退廃的な空気感とか同世代の役者の丁々発止による熱はむしろ必要とされてないんじゃないかと思った。今回の『三人吉三巴白浪』はそれぞれのキャラクターのなかでの「生きていくために必要だった奥底にある義」の部分を際立たせていたような気がする。そこにいる彼らは道を外したものの、暗闇に向かうのではなく光を求めている人たちだった。光のあたる道を歩きたくてしかたのない人たちだった。とても切なかった。

こういう捉え方もあるんだと、私の心の深いところでじわっと感動しました。なんだろ、「そうか、ここに描かれているのは「人」なんだな」と。たぶん、この感覚での『三人吉三巴白浪』はそうは観られないだろう。もしかしたら今回限りかもしれない。今回の座組みで国立だからできた芝居だ。

基本的に今現在『三人吉三』という芝居に求められているのは同世代を揃えることで刹那的な世界が生まれ、またそこに生まれる熱気をたぶんに求めていくであろう芝居になってしまっていると思う。私も基本的にその感覚の芝居に慣れているのでそちらが好みです。でも今回の芝居は時代性とそれゆえの時代性を超えた人の営みの哀しさを提示したということでとても大事な芝居になっているなと思った。この芝居が観られたことを感謝しよう。幸四郎さんの演出の歌舞伎はいつもではないけれど非常に独特の切り口があって「戯曲」の芯の部分を見事に掬い上げることがある。今回の芝居がそのひとつだと思う。もちろん人それぞれ好みがあるのでそこを面白いと思うか思わないかは別の話。

和尚吉三@幸四郎さん、若々しい。2日目に拝見したときは河内山のようだったけどさすがに和尚をしっかり作りこんで込んできた。幸四郎さんの和尚はちょうど改心して真っ当な道へ進もうとした矢先に親の因果に絡め取られた人でした。出来心、弾み、そこから落ちて悪に染まったものの、どこか熱い義理人情を抱えている。だから兄貴分として見込まれるだけの人としての厚みが備わっている、そんな和尚でした。そして親の因業の深さに苦しみ、そして我知らず知らず畜生道へ落ちた双子への哀れみと慟哭がとてもとても深かった。自分でその因業のすべてを断ち切るその覚悟と恐れと、そのないまぜであった。幸四郎さんの和尚には強さと弱さがある。前回物足りなかったけど今回は「ああやっぱり見事だなあ」ってつくづく思いました。

お嬢吉三@福助さん、個人的にとてもとても魅力的なお嬢でした。たぶんかなり好みが分かれるお嬢吉三だと思う。でも私は今回の『三人吉三』のなかではピッタリと嵌ったと思う。根っからのずぶとさ、骨っぽさのあるたくましいお嬢。女装も生きていくための方便。かどわかされ、売られた身の上のなかで生きていくために悪さを覚え孤独に生きてきたそんなお嬢吉三のように思う。そして「家族」を知らないがゆえに人との繋がりを心の奥底で求めていたのだろうと。自分と繋がる人のことばかり考えて突き進んでいくお嬢はいじらしく可愛らしかった。自分のためではなく誰かのために、そう生きはじめたお嬢のなんと活き活きしたことか。

お坊吉三@染五郎さん、いかにも「お坊」と渾名される甘さや品のなかに切なさを帯びた陰を見せる。三人の吉三のなかで一番刹那的でありながらも人恋しい寂しさを抱えている。ずるずると楽な悪い方向へ足を踏み入れながらも、いかにも家柄のよい素直なおぼっちゃま気性ゆえの甘さとプライドの高さのなかで揺れている。家名再興の願いを忘れられない芯の部分の真っ直ぐさが「義」としてある、それゆえに悪に染まりきれないお坊でした。どこにも身の置き場のないやるせない哀しみがそこにあった。幸四郎さん、福助さんのなかに入るとどうしても芝居の輪郭がまだちょっと薄い部分があるかな~とは思うのですが「お坊吉三」の造詣はとても良かったと思う。それとやはり台詞が非常に良いですね。黙阿弥独特の七五調の台詞を綺麗にまっすぐよく聞かせてくる。再演していくうちに輪郭が太くなっていくでしょうし、もっと深みもでると思う。

おとせ@高麗蔵さん、十三郎@友右衛門さん十三郎が今回本当に良かった。芸の力をこの二人から感じました。もちろん十代の薄幸な若者二人には確かに見えない。でも惹かれあってしまった悲劇、哀れさ、犬の祟りゆえの運命、そこをしっかり伝えてきました。ここまで犬に祟られてしまった悲劇の二人を感じさせたのは初めて。そして本当に哀れだった。この祟りのために犬化してしまう双子の演出は何度か観ていますけど、なかなかそこが鮮明になりません。今回、所作事の上手い高麗蔵さんと友右衛門さんだからこそあそこまで表現できたのでしょう。

伝吉@錦吾さん、拵えを工夫してだいぶ押し出しは出てきていたと思いますがやはり昔悪党であった凄みが少々効かないですね。こういう凄みの効いた悪党は演じてこなかった方ですから難しいのでしょう。とはいえ、そこがない分、因果応報に苦しむ父としての顔の部分はとても鮮明で「割下水土左衛門伝吉内の場」はとても良かったです。

九兵衛@寿猿さん、情味があって、芯がしっかりしていてとても良い九兵衛です。今回、九兵衛の役割が鮮明にみえました。芝居上『火の見櫓の段』での九兵衛の出は大抵、唐突感があるのですが今回は駆けつけてくれたことで三人の心が救われるいう役割をしっかり感じました。

『奴凧廓春風』
2日目に拝見したときは全体の流れにメリハリが効いてなくて、もう少しタイトにしたほうが観やすいかなと思ったんですが今回は長さを感じませんでした。場ごとに何を見せるかという部分がこなれてきて踊りがしっかりハッキリしていたためでしょう、舞踊劇として三場とも楽しいものになっておりました。振りも少し手直しした部分もあるかな?特に踊りとしてメリハリが効いてないなという印象だった宙乗り奴凧での踊りの部分が詞章とうまくかみ合い見応えが出ていました。再演していってもう少し練り上げていけばかなりまとまりの良い舞踊劇になっていくと思います。

「大磯舞鶴屋格子先」
華やかさと艶やかさがある一場。また曽我ものの一端をみせるのでいかにもお正月といった気分にもなります。両花道を使っての曽我十郎祐成と大磯の虎ので出と掛け合いが楽しいです。基本、掛け合いや揃っての手踊りなど見た目の華やかさを重視した振り付け。大磯の虎@福助さんがたっぷりと余裕のある踊り。曽我十郎@染五郎さんはすっきりとしつつ十郎らしく柔らかに。十内@高麗蔵さんがキビキビとキレよく。

「大磯八丁堤」
まずは花道から駈けて出る小伝三@金太郎くんがひたすら可愛い。一生懸命に大きく身体を使って踊りひとつひとつの所作がしっかりしています。台詞もかなりしっかりしてきましたし舞台度胸がありますね。それにしても本当に可愛いです。朝蔵@幸四郎さんは見事な好々爺ぶり(笑)。舞台と実生活をうまくリンクさせてような一場面。そして奴凧@染五郎さんが出て三代親子共演で観客を沸かせます。その後、風に飛ばされた奴凧@染五郎さんの宙乗りでの舞踊。かなり足捌きを工夫してきたでしょうか、見応えが出ておりました。宙乗りで踊るのはかなりの筋力がいるでしょうが一手一手、丁寧にしっかりと踊りこんでいて詞章の情景ともピタリと嵌り「宙乗り舞踊もありだな」というとこまで持ってきたかなと思います。最後は凧の糸が切れてクルクルと回りながらせり下がるというケレンのサービス。

「富士野猪退治」
改めて観てみますとこの場の振り付けはわりと古典から離れた部分があり自由な感じ。仁太郎@染五郎さん、今回はとても楽しんで踊っていたように思いました。イノシシとのコンビネーションも良かったです。イノシシは所作に余裕が出てきて勢いとユーモラスさが加味されてて楽しかったです。最後、日の出でおめでたく締めて気持ちのよい打ち出しとなりました。

国立大劇場『第八回 伝統歌舞伎保存会研修発表会』 自由席(特別席花道ブロック中央列)

2012年01月21日 | 歌舞伎
国立大劇場『第八回 伝統歌舞伎保存会研修発表会』 自由席(特別席花道ブロック中央列)

『ごあいさつ』
幸四郎さんのご挨拶から始まります。本花道より紋付袴姿の幸四郎さんが雪下駄を履いて傘を差し雪道を踏みしめるように登場。さすが洒落た演出です。天候の悪い中をいらしていただきありがとうございますとのご挨拶、そして幕外の舞台を歩きながら『三人吉三』の初演時の配役や背景、ちょっとしたあらすじなどを解説。また今回、勉強会ではよく掛ける『大川端の場』ではなくなぜ『本郷火の見櫓の場』を取り上げたのかという説明も。歌舞伎の様々な要素、七五調の台詞あり、所作事あり、立ち廻りあり、音楽も竹本あり清元ありの場ですし、また慣れてない場で勉強するのも緊張感があっていいでしょうしとのことでした。ちょっとしたユーモアを交えながらのご挨拶とても素敵でした。そして仮花道をまた傘を差して去っていく幸四郎さんでした。いちいち絵になる幸四郎さん。

『三人吉三巴白浪「本郷火の見櫓の場」』
町人三人が友右衛門さん、福助さん、染五郎さん、門番が錦吾さんという配役。いつも舞台中央で脇や裏方に支えてもらっている側が今回支える側に回り花を添える、その気持ちが良いですよね。サービス精神旺盛な福助さんと染五郎さんが観客を擽り、錦吾さんと友右衛門さんはお人柄同様に真面目に。

さて、そしていよいよいつもは脇で活躍する若手役者さんたちの登場です。こういう勉強会は本公演にないがむしゃらな必死さの熱があって本公演で観るのとは別な面白さを感じることが多いですが今回も緊張感と必死さとそしてやり遂げようという前向きさと、そして脇でしっかり勉強してきた成果と、そんなものが真っ直ぐに伝わってきた舞台でした。同時に「芝居」を見せる難しさをも感じさせました。舞台の難しさを十分に経験してきた役者さんだからこそ、ただの「熱」だけではないものを見せてこれたのかもとも思いました。

お嬢吉三@芝のぶさんがダントツに良かったです。凛とした美しいお嬢でした。「女」でいることに違和感を自分で感じていない、そこに色気がある真女形のお嬢です。そしてそのなかに芯の強さを感じさせとても良いお嬢吉三でした。台詞も所作も堂に入ってしっかりとした芝居。やはり大きな役を一番経験していることも大きいのでしょう。センターに立つことがどういうことかわかっての芝居でした。お嬢吉三という役に負けていませんでした。

和尚吉三@錦弥さん、かなり体が細い方ですので和尚はどうかな?と思っておりましたが声を太めにとり兄貴分の貫禄を出しておりました。押し出しはさすがにまだ無いですが極まった部分の体の線が綺麗です。

お坊吉三@錦一さん、色んな部分で拙いところが多かったかなと思いますが丁寧にしっかりと演じようとしていたのが良かったです。あの場のお坊は意外と色々とやることが多いので大変だったと思います。お嬢とのバランスとしてはよく木戸門でのやりとりに実感がありました。

九兵衛@紀世助さん、丁寧にしっかりと演じていらっしゃいました。こういうお役をきちんと演じていくことはとても大事なんですよね。

個人的には和尚とお坊の配役を逆にしたほうがよかったかなと思います。錦弥さんは二枚目ができますから。錦一さんは少し不器用ですけどわりと骨太な役のほうが似合うと思うんですよね。


『解説』
どなたが解説されるんだろうと思ってましたらすっぽんから幸四郎さんが。「また出てまいりました」と笑わせつつ『素襖落』の解説を成り立ちからさらりと。幸四郎さんはこういうのが本当に上手ですねえ(感心)。すっぽんからまた去っていくときの扇を広げ形を作って決めた姿がさりげないけどなんとも形がいい。ちょっと唸ってしまいました。なんだか格が違うって感じですね。

『素襖落』
こちらはいわゆる御曹司たちの勉強のための演目。とはいえ、主役の太郎冠者の染五郎さんが本興行で普通に上演してもいいのでは?という出来栄えで、かつ大名が友右衛門さんに姫御寮が高麗蔵さんというこういう役には鉄板なお二人が配役されているので研修会とは思えない舞台でした。本当にこれから勉強という配役は10代の役者、廣太郎くんと廣松くんの兄弟と児太郎くん。

太郎冠者@染五郎さん、本興行で上演したことなかったんでしたっけ?と思いましたら20代の時のご自身の勉強会での上演以来とのこと。花形役者のなかでは舞踊上手な一人ですしこの演目は縁のある演目ですから染五郎さんとしては本興行に繋げたいとの目標での今回の上演となったようです。とても気合の入った力強いキレのある踊りでした。キュートな雰囲気があるので太郎冠者のお茶目な様子も楽しくみせていきます。染五郎さんは情景描写の上手い踊り手ですがやはり那須与一の戦語りの部分がとても良かったです。反面、酔いの部分でのふんわり加減が少々足りない感じ。ちょっと肩に力が入りすぎているかなという感じです。ここの部分は回数を重ねて踊りに余裕が出ないとなかなか難しいでしょう。この太郎冠者はとても染五郎さんに合う演目だと思いますのでぜひ次回は本興行で拝見したいです。

三郎吾@廣松くん、小さい頃から芝居っ気がある役者さんです。今回もうまく役にハマっていました。こういう滑稽さのなかに品が必要なお役が得意だと思います。台詞、動きともにかなり良かったです。きちんと精進しているなと思いました。

鈍太郎@廣太郎くん、品よく丁寧に演じていたと思います。弟くんに比べると少し不器用かなと思う廣太郎くんですがこのお役は相当頑張ってきたなと思いました。このところ舞台に立つことも多くなり役者として自覚ができてきたかなと。お父様の大名@友右衛門さんと一緒に太郎冠者をからかう場面はさすが親子、息がピッタリで楽しい場面にしていました。

次郎冠者@児太郎くん、一生懸命にきちんと演じていました。体をしっかり使おうという意識がみえたのが良かったです。まだ声が安定していませんが以前に比べたらだいぶ進歩。少しづつ前に進んでいけばいいと思います。頑張ってほしいですね。

大名@友右衛門さん、姫御寮@高麗蔵さんは所作事の上手なお二人ですし安定感がありますし余裕があります。若手をしっかり受けて引き上げていました。

代々木第一体育館『STARS ON ICE JAPAN TOUR 2012』 2階スタンド席

2012年01月14日 | イベント
代々木第一体育館『STARS ON ICE JAPAN TOUR 2012』2階スタンド席

代々木第一体育館『STARS ON ICE JAPAN TOUR 2012』を観に行きました。生でアイススケートを観るのは超久しぶり。プロのを観るのはお初。プロと今、旬なスケーターの両方を観られる贅沢な時間。ほんと楽しかった。アイススケートは生で観ないとスケーターたちの本当の良さはわからないと痛感しました。スピード感、スケーティング、身体の使い方、見せ方等々、映像じゃまったく伝え切れてない。いつも書いていますけどやっぱりライブものはライブで観ろ!ですね。

そして今日は私が大好きだったカート・ブラウニングの美しいスケーティングを拝見してとっても幸せな気分になった。4回転を試合で初めて成功させた選手でもあるけど、なにより彼はスケーティングが素晴らしいんです。はああ、もう彼を拝見できただけでも大満足。とにかくそれぞれのスケーターが素晴らしかったんだけど技術面でレベル高すぎだろと思わせたのはペアのチン・パン&ジャン・トンと男子の高橋大輔。調子も良かったんだろうけど「うわああ」と唸るしかなかった。映像でも良いスケーターだとはわかるけど生で観ないとあの凄さはわからないかもしれない。

出演者:
サーシャ・コーエン(トリノオリンピック 銀メダル)
エカテリーナ・ゴルデーワ(リレハンメルオリンピック 金メダル)
ジョアニー・ロシェット(バンクーバーオリンピック 銅メダル)
カート・ブラウニング(1993世界選手権 金メダル)
トッド・エルドリッジ(1996世界選手権 金メダル)
ジェフリー・バトル(2008世界選手権 金メダル)
ライアン・ブラッドリー(2011全米選手権 金メダル)
チン・パン&ジャン・トン(バンクーバーオリンピック 銀メダル)
シニード・カー&ジョン・カー(2011欧州選手権 銅メダル)
キョウコ・イナ&ジョン・ジマーマン(2002世界選手権 銅メダル)
浅田真央(バンクーバーオリンピック 銀メダル)
荒川静香(トリノオリンピック 金メダル)
安藤美姫(2011世界選手権 金メダル)
村上佳菜子(2010グランプリファイナル 銅メダル)
小塚崇彦(2011世界選手権 銀メダル)
高橋大輔(バンクーバーオリンピック 銅メダル)
羽生結弦  (2011四大陸選手権 銀メダル)
高橋成美&マーヴィン・トラン (2010世界ジュニア選手権 銀メダル)

公式サイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/soi2012/


両国国技館『大相撲一月場所』 2階イスB席

2012年01月08日 | 古典芸能その他
両国国技館『大相撲一月場所』 2階イスB席

両国国技館に『大相撲一月場所』の初日に行ってきました。大相撲観戦初体験でございます。国技館自体が楽しいし、相撲も楽しい。やばい、これハマる。やっぱライブものはライブで見ろ!ですね。まずは全体の雰囲気のハレ感が良い。楽しいご見物を、という精神に満ちている。おみやげもの屋さんもいっぱいあるし、親方や力士も普通にうろうろしているし。そして客席もかなりフリーダム。好きなときに好きなように食べたり観たり、席はずしたり。そして男女問わず応援する力士の大声で大向こうをかけている。子供もかなり多くいました。それが楽しいんですよね。

なんだろ、これだよって思った。歌舞伎観劇からは失われつつある「ゆるさ」がそこにあった。そのゆるさが楽しいに結びついてるのが今の大相撲。それと相撲の取り組みが思った以上に面白いのよ。きゃあきゃあ言いながら見ちゃった。2階の真ん中列の席だったので遠いんだけどそれでも迫力。儀式性があるのがまた良いのかも。スポーツだけどスポーツじゃない。今はチケット取るのも楽になっているので興味のある人ぜひオススメです。

新橋演舞場『初春大歌舞伎 昼/夜の部』3等A席/3等B席

2012年01月07日 | 歌舞伎
新橋演舞場『初春大歌舞伎 昼/夜の部』3等A席/3等B席

昼夜通し観劇ですが都合により今回はかなりの変則観劇です。菊五郎さんの演目を両方とも抜かすハメに陥ってしまったのが無念です。菊五郎さんの世話物、大好きなのにな~~。

★新橋演舞場『初春大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

『相生獅子』
女形二人、しかも姫姿でひらひらと楽しげに踊るってだけで私的に喜ぶ演目です(笑)。魁春さんが白姫姿、芝雀さんが赤姫姿。舞台面が華やかです。魁春さんと芝雀さんは雰囲気が対照的な女形さんですが息が合っていて姉妹のよう。お二人とも姫役者ですし、姿も雰囲気もとても可愛かった。

姿が対照的なら踊り方もかなり対照的。魁春さんはしなしなと柔らかく独特の捻りが入ります。芝雀さんは一手一手を真っ直ぐに丁寧にきっちりと。踊っていくうちに二人の姫がクスクスと会話しているかのように見えてきました。後ジテで本格的に毛振りをするので驚きました。姫姿のままで振るのは大変そう。毛振りの勇壮さは「女」からは逸脱しそうですがそこは姫獅子としてきちんと女形として毛を振れてるのがさすが。

『金閣寺』
思ってたよりいわゆる「花形歌舞伎」だったかな。もう少したっぷり感が出るかなと思っていたんですが…。まあ今までが濃厚なのばっかり観すぎていますからその比較論でです。十分見ごたえはありました。

雪姫@菊之助さん、楚々としたなかにほんのり色気を感じさせとても可愛かったです。一途さが全身に滲み出てそこが一番良かったです。このところの菊之助さんは演技に安定感がありますね。台詞廻しもしっかりしていますし以前は高い声が不安定でしたけど声も安定してきています。筋書きを買っていないので確かではありませんが完全に玉三郎さんの型で演じていたと思います。また舞台面も玉三郎さんの型。とはいえ、玉三郎さんに稽古をつけていただいたなとわかりつつも単に似てるだけでなくしっかり菊之助さんらしい個性もある雪姫。地力がかなり付いてきた証拠でしょう。

玉三郎さんの型は舞台装置は芝居の流れとして理にかなってるのと大木で舞台に見切れが出ないので私は舞台装置は玉三郎さん型が主流になってもいいなと思います。しかし「芝居」の遊びが無くてすっきりしすぎなのは個人的に物足りない部分。特に若手が演じるとサラリとしすぎてしまいます。玉三郎さんくらいになると十分風情で舞台が濃厚になるのですが。桜の量とか最後の引っ込みの芝居とかは歌右衛門丈の型が好きです。

大膳@三津五郎さん、三津五郎さんらしい知的な鋭さと陰を含んだ大膳です。かっちりと演じて輪郭が太い。天下を狙う知将という雰囲気があります。大時代さや雪姫に色目を使うエロさはあまり無い感じ。もう少し色気があったほうが面白いと思います。三津五郎さんが演じるとキャラクターの行動様式はわかりやすいです。

東吉@梅玉さん、すっきりと爽やかな東吉です。手馴れたお役のせいか迷いのない動き。慶寿院を救うという心持ちで一本筋を通した造詣がお見事。ただ、個人的好みからいうと東吉の見せ場になる碁笥を井戸から取り出すところなどはもっとたっぷり間を持たせたほうが面白みが出るかなあと思ったり。

狩野之介直信@歌六さん、二枚目のお役はなり久しぶりかと思いますが非常に良かったです。少しぽってりとした古風な味わい。また台詞廻しがすばらしいです。だいぶ古い役者さんのどなたかに似てると思う。たぶん、私が学生時代に観た役者さんの誰かだと思うんですが誰って出てこないですねえ…どなただったかしら。

余談:『金閣寺』は若手だと亀治郎さんに昔からの京屋型(人形振りが入るほう)でやって欲しいです。近頃、芝雀さんがこの型で演じましたが残念ながらいわゆる踊り上手でないので時々、人形振りの部分で無理感を感じさせました。それでも十分に素敵な雪姫でしたが芝雀さんは後年お父様が演じてこられた雪姫(歌右衛門型(成駒屋型)を昇華させた型)のほうが似合うと思います。今、京屋型を演じられる役者は亀治郎さんくらいかなと思います。この型はかなりドラマチックですし埋もらせておくのは惜しい。亀治郎さんだと型として残せると思うのです。

★新橋演舞場『初春大歌舞伎 昼の部』3等B席右袖

『矢の根』
以前も五郎@三津五郎さんで拝見してる演目で、洒落っ気があって好きな演目です。荒事ですが言葉遊びが多いので台詞の上手な人じゃないと面白さ半減だと思う。そういう意味でも三津五郎さんにピッタリなお役だと思う。キレのよい動きとキレのよい台詞。拝見しててなんとも気持ちのよい五郎でした。

久しぶりに拝見するはずだった十郎@田之助さんは立ち位置が上手すぎて拝見できず。田之助さん目的でもあったのに…(涙)。田之助さんの場面を考えたら右袖席失敗でした。声はハリがありお元気そうで安心。

『連獅子』
吉右衛門さんと鷹之資くんの『連獅子』はやはり観ておくべきかなと夜の部も取りましたが正解でした。個人的に観た4演目中、これが一番感動しました。富十郎さんの追善を肌で感じ、知らず知らず涙が出そうになりました。今回の『連獅子』は完全に師匠と弟子の間柄での連獅子でした。演じてる役者同士の関係性ってやっぱり出るのでしょうかね。

仔獅子@鷹之資くん、とにかく鷹之資くんの頑張りにまずほんとに感動しました。身体をめいっぱいきちんと使って丁寧に丁寧に楷書で踊っていた。手足がぴんと伸びてキレのよさも感じさせる。前へ前へと一生懸命に進もうとする仔獅子でした。私が富十郎さんの舞踊が大好きで思い入れが強いせいもあるでしょうがとても好きなタイプの踊り方でした。毛振りも昨年夏(『趣向の華』)に比べて段違いに良かったです。腰できちんと綺麗にまわしていました。最後の数回だけ我慢できず首を使ってしまっていたので首を痛めない様に気をつけてほしい。

親獅子@吉右衛門さん、思った以上に良くてビックリ。踊りなれてない部分での身体の使い方の甘さ不確かさや膝を痛めてるせいでの足運びの不安さがあるものの丁寧に丁寧に踊り、親獅子の心持ちをしっかり伝えてきてくれました。大きく包みこむように、そのなかで特に厳しく特に優しく、仔獅子をいざなう。完全に師匠の面が強い獅子だったように思います。毛振りは最初こそちょっと不安な面もありましたが途中から安定し、綺麗に振れていました。

又五郎さん、錦之助さんの宗論がちょうど良い按配で拝見してて心地よし。

国立大劇場『初春歌舞伎公演』 2等3階後方上手寄り

2012年01月04日 | 歌舞伎
国立大劇場『初春歌舞伎公演「通し狂言 三人吉三巴白浪」「奴凧廓春風」』 2等3階後方上手寄り

『三人吉三巴白浪』
個人的に因果の糸がもつれ合うこの物語が大好きなので楽しかったです。ただ惜しむらくは今回、吉三の役者の世代がバラバラなのが非常に残念。そういう意味で三人の吉三の義兄弟としての友情という繋がりの部分での物語を観ようとすると少しばかり傷がある。花形、ベテランどちらでも同世代だと役者のぶつかりあいや熱はが出て三人吉三の繋がりが鮮明に出ると思うのですが世代が三世代にそれぞれ離れている今回はその部分が出にくくなっているかなという印象を受けました。ただ、役者のバランスの悪さはあるものの三人のイキが合っているのとそれぞれに個性的なキャラクターをノビノビと演じているために黙阿弥の物語の骨格、因業因果の物語の部分が立っていてその部分で鮮明になっているところがあって、物語本位で拝見できてそこが非常に面白かった。今回、狭い世界のなかで縺れ合った因果を三人の「義」が解きほぐしていったように感じました。それゆえ最終的に死に行き着く三人に晴れ晴れした空気があった。演出の解釈ゆえか、今回の役者三人の個性ゆえかはわかりませんがこれもまた一つの『三人吉三巴白浪』だなと納得いきました。

また久しぶりの両花道の舞台というのが嬉しかったですね。最近は両花道をこしらえてくれない芝居が増えました。芝居中、短い時間しか使用しないので劇場が嫌がるのかしら。しかし、両花道あることでの場の距離感が視覚的に鮮明で効果的に使える装置だと思うんですけどね。また今回、改めて両花道がると黙阿弥の台詞の掛け合いがとても活きるなと思いました。

和尚吉三@幸四郎さん、貫禄ありすぎて河内山のようだった。ただ、やはり物語を伝える部分が巧み。特に「割下水土左衛門伝吉内の場」「吉祥院本堂裏手墓地の場」での行動原理が鮮明。ここがハッキリすると物語がわかりやすい。ただ、和尚吉三の想いというものがまだ表面的なところがあり双子を殺す場はもっと重いものを抱えた悲しみを深く演じてほしい気がした。幸四郎さんのことですから後半、もっと作りこんでくるとは思います。

お坊吉三@染五郎さん、甘さのなかに陰のあるお坊。世の中から外れ刹那的に生きる陰を抱えながらも頭領息子としておかいこぐるみで育てられ、お家大事の刀を探すことを忘れきれない育ちの良さがある、いかにも「お坊」然とした吉三。染五郎さんはお坊役では大川端を何度か手掛けていますが通しで演じるのは初めてかと思います(お嬢では演じていますよね)。無理を通そうとする我侭さと素直な性格の両極端をてらいなく素直を演じ、それゆえのお坊の寂しさが伝わってきました。以前に比べて台詞廻し随分と良くなっていました。声の調子を低めにとり、黙阿弥の台詞を謡いあがる寸前でストレートに伝えていました。一番聴きやすかったです。吉右衛門さんに稽古をつけていただいたのでしょう、台詞の調子が似ておりました。それにしても染五郎さんはほっかむりが相変わらず似合いすぎ(笑)。染五郎さんお坊はワガママを言わせていただければ同世代の花形での『三人吉三巴白浪』で観たかったです。

お嬢吉三@福助さんは、従来での演出のお嬢はお初ですがコクーン歌舞伎で何度か手掛けています。私はコクーン歌舞伎での福助さんのお嬢吉三が大好きで今回も楽しみにしておりました。女形さんですが骨太さのなかに甘ったれたものを持っているのが独特でそこに色気を醸し出していたと思います。今回はコクーンの時よりも甘えも生きていくための芝居という雰囲気が感じられ、芯の部分がきっぱりさっぱりとしたお嬢だったようにみえました。根っから男、生きて行くためだけに女装している感じ。好き嫌いありそうだけど、このかなり骨太なお嬢吉三、個人的にはかなり面白く拝見。福助さんの芝居っ気が活きてるのと、義で因果を解きほぐした今回の『三人吉三』に合っていた。

おとせ@高麗蔵さん、十三郎@友右衛門さん十三郎は双子同士の禁断な恋愛のリアル感はないけど、知らず知らずに落ちていってしまう空虚さがありつつも下卑たところに落ちない人間性の良さもあり性根の部分でさすがにしっかり演じてきてる。

伝吉@錦吾さんはニンじゃないなあと思えども伝吉の間の悪さと抜け感はありこなれてくると面白い伝吉になるかもしれません。

九兵衛@寿猿さん、情味があってとても良かったです。

夜鷹三人組のの幸雀さん、芝喜松さん、芝のぶさんが非常にいい味わい。


『奴凧廓春風』
今回新たに復活した黙阿弥の三場からなる舞踊劇。楽しむところは多かったんですが個人的にはもう少しタイトでもいいかなあ、ちょっと長かった…。

最初の廓の場が華やかで舞踊としても一番こなれていて面白かったです。大磯の虎@福助さんも曽我十郎@染五郎さんも役にあっていましたし、手数が多いように思いましたがそれを感じさせないしなやかな踊りぶり。また情景がわかりやすい。舞踊の上手い役者は情景描写が的確ですね。十内@高麗蔵さんがキレのよい踊り。舞鶴屋女房の友右衛門さんがなかなかの貫禄。友右衛門さんさんは女形をもっと手掛けてもいいのではと思います。

ニ場の奴凧の場は小伝三@金太郎くんが一生懸命に踊りとても可愛くてほのぼの。凧を揚げたい子供の仕草がきちんと踊りの振りとしてできていました。場の後半、宙乗り奴の舞踊は珍しさもあり最初のうちは面白みがありましたが所詮、宙乗りで踊りを見せるには限界があるかなと。特に奴舞踊は足を使ってなんぼなところもありますし、振りを半分以下に減らし、一回地に落ちるところがありますから、そこで踊りを工夫してみるとか、見せ方にもっとメリハリが欲しかったです。

最後の場はイノシシが可愛いかったです。個人的に歌舞伎の着ぐるみが好きということもありますが楽しいです。どうせなら『鯉つかみ』の鯉ぐるみや『馬盗人』の馬ぐるみの時のように見得をきらせたりしてもう少し活躍させてもいいかも。仁太郎@染五郎さんとイノシシのコンビネーションはまだこなれてない感じでした。

2011年観劇総括

2012年01月01日 | 年間統括
2011年観劇総括

歌舞伎39回、演劇7回、文楽2回、クラシックコンサート4回、舞踊2回、邦楽(舞踊)1回、トークショー2回、美術1回です。トークショーと美術を抜かして55回です。

<<2011年1月鑑賞>>
新橋演舞場『寿初春大歌舞伎 昼の部』
シアターコクーン『十二夜』

<<2011年2月鑑賞>>
紀伊国屋画廊『竹田団吾衣裳作品展』
ル テアトル銀座『二月花形歌舞伎一部『於染久松色読販』』
ル テアトル銀座『二月花形歌舞伎二部『女殺油地獄』』
ル テアトル銀座『二月花形歌舞伎二部『女殺油地獄』』
ル テアトル銀座『二月花形歌舞伎一部『於染久松色読販』』
ル テアトル銀座『二月花形歌舞伎二部『女殺油地獄』』
ル テアトル銀座『二月花形歌舞伎二部『女殺油地獄』』

<<2011年3月鑑賞>>
新橋演舞場『三月大歌舞伎 昼の部』
新橋演舞場『三月大歌舞伎 夜の部』『浮舟』のみ
新橋演舞場『三月大歌舞伎 夜の部』

<<2011年4月鑑賞>>
新橋演舞場『四月大歌舞伎 夜の部』
新橋演舞場『四月大歌舞伎 昼の部』
金丸座『第二十七回 四国こんぴら大芝居 夜の部』
金丸座『第二十七回 四国こんぴら大芝居 昼の部』

<<2011年5月鑑賞>>
明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』
新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』
明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』
シャネル・ネクサス・ホール『シャネル・ピグマリオン・デイズ クラシックコンサート』

<<2011年6月鑑賞>>
帝国劇場『レ・ミゼラブル』ソワレ
新橋演舞場『六月大歌舞伎 昼の部』
新橋演舞場『六月大歌舞伎 夜の部』

<<2011年7月鑑賞>>
シャネル・ネクサス・ホール『シャネル・ピグマリオン・デイズ クラシックコンサート』マチネ
新橋演舞場『東日本大震災 復興支援 歌舞伎チャリティー公演』

<<2011年8月鑑賞>>
日本橋公会堂『趣向の華 プレトークショー』
日本橋公会堂『趣向の華 特別公演 第一部』
日本橋公会堂『趣向の華 特別公演 第二部』
国立小劇場『稚魚の会・歌舞伎会合同公演 A班』
神奈川芸術劇場『杉本文楽 曽根崎心中』
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第一部』
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第二部』
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第三部』

<<2011年9月鑑賞>>
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』
国立小劇場『九月文楽公演 第一部』
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』

<<2011年10月鑑賞>>
世田谷パブリックシアター『オーデュポンの祈り』
青山劇場『髑髏城の七人』
新橋演舞場『芸術祭十月花形歌舞伎 夜の部』
名古屋御園座『第四十七回 吉例顔見世 昼の部』
日生劇場『坂東玉三郎特別舞踊公演』
サントリーホール『キーシン・フェスティバル 2011 ピアノ・リサイタル』

<<2011年11月鑑賞>>
横浜みなとみらいホール『サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団』
池袋コミュニティ・カレッジ『染五郎大いに語る。~歌舞伎って こんなにおもしろい~ 』
五反田ゆうぽうと『エオンナガタ』
ル テアトル銀座『アマデウス』
世田谷パブリックシアター『獅子虎傳阿吽堂 VOL.6』

<<2011年12月鑑賞>>
日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼の部』
日生劇場『十二月歌舞伎公演 夜の部』
国立大劇場『十二月歌舞伎公演』
神奈川芸術劇場『ロッキー・ホラー・ショー』
日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼の部』
日生劇場『十二月歌舞伎公演 夜の部』