国立大劇場『第三十六回俳優祭』 A席後方花道寄り
『第三十六回俳優祭』に行って参りました。歌舞伎座での俳優祭とはだいぶ趣きが違いましたけどとっても楽しかったです。まさしくお祭り。
『絵本太功記 十段目 尼ヶ崎閑居の場』
最初の演目は研修発表演目として次代を担う花形に古典を演じさせた『絵本太功記 十段目 尼ヶ崎閑居の場』。いつもの俳優祭ではこういう真面目な演目の上演はありませんから国立劇場での俳優祭ならではでしょう。配役も今のところなかなか無い配役です。そしてこれが思っていた以上に充実していて今回の座組みできちんと本興行で観たいと思いました。皆忙しいなか、よくぞあそこまでしっかりと作り上げてきたと思います。この演目の難しさもわかりましたけど役者それぞれが十分にこれから先の期待を持たせました。本当にとても良かったです。
武智十兵衛光秀@染五郎さん、かなり骨太さが要求されるお役なので配役を聞いた時に演じきれるだろうか?と思いましたが思っていた以上にしっかりと光秀を演じてきていました。染五郎さんは最近だいぶ骨太な役もこなすようになってきましたね。特に複雑な翳りのあるお役だとハマってきます。まずは顔の拵えが非常に立派。線の細さをあまり感じさせません。拵えた姿は幸四郎さんにも吉右衛門さんにも似てると思いましたが一番連想させたのは初代吉右衛門丈。初代は映像でしか拝見したことがありませんが「あっ、似てる」と思わせました。出のところで小刀が落ちるトラブルもありましたが動じずに堂々と演じ重厚さを醸し出していきます。さすがにまだ春永への恨みを抱く不気味さ凄みはありませんが立ち姿が美しく決めの部分では大きさを感じさせます。丁寧に演じていくうちに光秀の人となりが浮かんできて特に十次郎が手負いで戻ってきたあたりからが非常に良かった。子への情愛、家族への想いが身体から溢れてきていました。十次郎へに掛ける「ててじゃ、ててじゃ」という言葉に籠められた愛情の深さに胸が衝かれました。染五郎さんはこのところ台詞術がかなり上手くなっていますね。言葉のひとつひとつに実感がありました。武将としての芯の強さと父の顔の両方をうまく混在させドラマをしっかり作っていたと思います。染五郎さんは丸本物が似合うと思うのですが他の花形より演じる機会をなかなか与えられていない気がします。今回のお役を拝見するにもっと手掛けるべきだと思います。丸本物をしっかり身体に入れられると自然に大きさも出せると思いますし声ももっと自然に出てくるのではないかと思います。
十次郎光義@七之助さん、柄に合う、いわゆるニンのお役。まずは風貌、佇まいが良かった。凛とした風情のなかの儚げな様子は若い身空で命を散らす十次郎に嵌っていました。そしてそれ以上に十次郎としての心持ち、健気で一途な想いが伝わってきました、祖母、両親、許婚に対する気持ちのひとつひとつが明瞭。そういう意味でたぶん今回の座組みのなかで一番役として出来上がっていたと思います。時々勘三郎さんがダブりました、特に台詞廻しをよく写してきたなと思いました。前半は光秀の嫡男としての責任の重さのなかに若さゆえの逸る気持ちを見せ、後半は戦場での無残な結果への無念さとともに、家族を思いやりそして初菊を置いて命を散らすことへの切ない気持ちを切々と訴える。初菊@梅枝くんと良いバランスでした。
初菊@梅枝さん、どの場面にも絶えず十次郎を一途に想う気持ちがしっかりあってとても良かったです。健気で可愛いだけでなく十次郎を心配する愁いを帯びた雰囲気があって初菊にピッタリ。ひとつひとつとても丁寧に演じていました。特に後半、十次郎に呼ばれるまでの受けの部分、気持ちが途切れず非常によかったです。そこがあるから呼ばれて必死に縋るその姿に哀れさがありいじらしかった。前半はまだ身体の線が初菊になじんでいない部分もあったとは思いますが手掛けていくうちに義太夫ものの赤姫らしいふんわりとした風情も出てくるでしょう。梅枝さんは赤姫が似合う女形になりそうですしすでに独特の持ち味があります。
皐月@秀調さん、難しいお役ですので大変だったと思いますが思った以上に良かったです。わりと淡々とした台詞廻しではあるのですが息子に自分の気持ちを伝え諭そうとする心持ちがしっかり出ているため気丈さがみえ武家の女の哀しさがをそこに自然と現れたと思います。複雑な心境、情味の部分が足すことできたらもっと良い皐月になるでしょう。
操@孝太郎さん、家族を守ろうとする強い気持ちが伝わる。妻として母としての辛さをいったんぐっと飲み込んで悲しさを出す。特に姑の皐月を思いやり訴えかけるとこが非常によかった。初菊への気遣い、十次郎への母としての気持ちの部分、もっと強く出してくれるともっと印象が強くなるかなと想います、
真柴久吉@松緑さん、今回の場だけだといきなりの出となるのでとても難しいと想いますがきちんと腹に一物ありを感じさせ、後半は押し出しもよくしっかり捌き役になっていました。
佐藤正清@亀三郎さん、拵えも似合い、朗々とした声のよさでしっかりとした輪郭を描きだしていました。
『殺陣 田村』
いわゆる剣舞。紋付袴姿の素での舞台。それだけにそれぞれの芯の役者の柄がよくわかる。斬られ役の三階さんたちが細かい手に合わせてよく動いていた。
勘太郎くん、腰の入りっぷりが見事。またキレとメリハリがあって型として一番綺麗。観てて気持ちが良かったです。さすが踊り上手な役者さんです。海老蔵さんは柄のよさでみせる。丁寧にこなしていました。橋之助さんは決まり決まりが華やかで芝居っ気が非常に楽しい。みせるということをよく判っている。扇雀さんは女形らしくしなやか。身体の使い方に余裕があった。
『模擬店』
1階から3階まであちこちふらふらと。お相手してくださった役者さんたち、本当にありがとうございました。個人的に一番印象に残ったのは寿猿さんと長話したこと。今月のお役のことを色々教えていただきました。お話できてよかった。あと海老くんがご機嫌さんだったのも印象的。
『質庫魂入替』
ベテラン組が勢ぞろいしてるだけで楽しい、嬉しい、わくわくする。俳優祭ならではのゆる~い出し物のノリが楽しい。立役と女形の人形の魂が入れ替わってしまうという舞踊劇。役者さんたちの個性が爆裂(笑)。んと楽しかったわ~。またなかなかない組み合わせだったりするのが良いんですわ。
男雛@菊五郎さんがさすがの貫禄ある愛嬌(笑)。金時@團十郎さんの天然ぶりは誰にも勝てない。可愛いすぎる。禿@三津五郎さんが踊り上手すぎて、笑うことも忘れてつい見入ってしまう。勘三郎さんのふんわかした上手さがあるからこその自由さが素敵。宿場女郎@福助さんメリハリの利かせかたが上手いこと。凄みの効いた拵えでの平将門@仁左衛門さんの可愛い仕草に爆笑。お三輪@時蔵さんは人形ぶりが上手い、時蔵さんのお三輪を観たくなる。女雛@芝雀さんはひたすら可愛い。誰と並んでもかいがいしい可愛い相手役になるんですね~。雷神@左團次さんの滑稽味はとても独特で可愛らしい。素顔はあんなにダンディなのにっ。奇妙印@梅玉さん、ちょっと怪しげなお役、似合いすぎ(笑)。八重垣姫@魁春さん、真面目なんだかすっとぼけてるんだかな踊りが楽しい。とにかく楽しい一幕でした。
『ご挨拶』
最後の締めは藤十郎さんと水谷八重子さん。藤十郎さん、「今回の収益金は東日本大震災被災地にすべて寄付いたします。前のように皆さんが歌舞伎を観られるような環境に戻れますように」とのご挨拶。
『第三十六回俳優祭』に行って参りました。歌舞伎座での俳優祭とはだいぶ趣きが違いましたけどとっても楽しかったです。まさしくお祭り。
『絵本太功記 十段目 尼ヶ崎閑居の場』
最初の演目は研修発表演目として次代を担う花形に古典を演じさせた『絵本太功記 十段目 尼ヶ崎閑居の場』。いつもの俳優祭ではこういう真面目な演目の上演はありませんから国立劇場での俳優祭ならではでしょう。配役も今のところなかなか無い配役です。そしてこれが思っていた以上に充実していて今回の座組みできちんと本興行で観たいと思いました。皆忙しいなか、よくぞあそこまでしっかりと作り上げてきたと思います。この演目の難しさもわかりましたけど役者それぞれが十分にこれから先の期待を持たせました。本当にとても良かったです。
武智十兵衛光秀@染五郎さん、かなり骨太さが要求されるお役なので配役を聞いた時に演じきれるだろうか?と思いましたが思っていた以上にしっかりと光秀を演じてきていました。染五郎さんは最近だいぶ骨太な役もこなすようになってきましたね。特に複雑な翳りのあるお役だとハマってきます。まずは顔の拵えが非常に立派。線の細さをあまり感じさせません。拵えた姿は幸四郎さんにも吉右衛門さんにも似てると思いましたが一番連想させたのは初代吉右衛門丈。初代は映像でしか拝見したことがありませんが「あっ、似てる」と思わせました。出のところで小刀が落ちるトラブルもありましたが動じずに堂々と演じ重厚さを醸し出していきます。さすがにまだ春永への恨みを抱く不気味さ凄みはありませんが立ち姿が美しく決めの部分では大きさを感じさせます。丁寧に演じていくうちに光秀の人となりが浮かんできて特に十次郎が手負いで戻ってきたあたりからが非常に良かった。子への情愛、家族への想いが身体から溢れてきていました。十次郎へに掛ける「ててじゃ、ててじゃ」という言葉に籠められた愛情の深さに胸が衝かれました。染五郎さんはこのところ台詞術がかなり上手くなっていますね。言葉のひとつひとつに実感がありました。武将としての芯の強さと父の顔の両方をうまく混在させドラマをしっかり作っていたと思います。染五郎さんは丸本物が似合うと思うのですが他の花形より演じる機会をなかなか与えられていない気がします。今回のお役を拝見するにもっと手掛けるべきだと思います。丸本物をしっかり身体に入れられると自然に大きさも出せると思いますし声ももっと自然に出てくるのではないかと思います。
十次郎光義@七之助さん、柄に合う、いわゆるニンのお役。まずは風貌、佇まいが良かった。凛とした風情のなかの儚げな様子は若い身空で命を散らす十次郎に嵌っていました。そしてそれ以上に十次郎としての心持ち、健気で一途な想いが伝わってきました、祖母、両親、許婚に対する気持ちのひとつひとつが明瞭。そういう意味でたぶん今回の座組みのなかで一番役として出来上がっていたと思います。時々勘三郎さんがダブりました、特に台詞廻しをよく写してきたなと思いました。前半は光秀の嫡男としての責任の重さのなかに若さゆえの逸る気持ちを見せ、後半は戦場での無残な結果への無念さとともに、家族を思いやりそして初菊を置いて命を散らすことへの切ない気持ちを切々と訴える。初菊@梅枝くんと良いバランスでした。
初菊@梅枝さん、どの場面にも絶えず十次郎を一途に想う気持ちがしっかりあってとても良かったです。健気で可愛いだけでなく十次郎を心配する愁いを帯びた雰囲気があって初菊にピッタリ。ひとつひとつとても丁寧に演じていました。特に後半、十次郎に呼ばれるまでの受けの部分、気持ちが途切れず非常によかったです。そこがあるから呼ばれて必死に縋るその姿に哀れさがありいじらしかった。前半はまだ身体の線が初菊になじんでいない部分もあったとは思いますが手掛けていくうちに義太夫ものの赤姫らしいふんわりとした風情も出てくるでしょう。梅枝さんは赤姫が似合う女形になりそうですしすでに独特の持ち味があります。
皐月@秀調さん、難しいお役ですので大変だったと思いますが思った以上に良かったです。わりと淡々とした台詞廻しではあるのですが息子に自分の気持ちを伝え諭そうとする心持ちがしっかり出ているため気丈さがみえ武家の女の哀しさがをそこに自然と現れたと思います。複雑な心境、情味の部分が足すことできたらもっと良い皐月になるでしょう。
操@孝太郎さん、家族を守ろうとする強い気持ちが伝わる。妻として母としての辛さをいったんぐっと飲み込んで悲しさを出す。特に姑の皐月を思いやり訴えかけるとこが非常によかった。初菊への気遣い、十次郎への母としての気持ちの部分、もっと強く出してくれるともっと印象が強くなるかなと想います、
真柴久吉@松緑さん、今回の場だけだといきなりの出となるのでとても難しいと想いますがきちんと腹に一物ありを感じさせ、後半は押し出しもよくしっかり捌き役になっていました。
佐藤正清@亀三郎さん、拵えも似合い、朗々とした声のよさでしっかりとした輪郭を描きだしていました。
『殺陣 田村』
いわゆる剣舞。紋付袴姿の素での舞台。それだけにそれぞれの芯の役者の柄がよくわかる。斬られ役の三階さんたちが細かい手に合わせてよく動いていた。
勘太郎くん、腰の入りっぷりが見事。またキレとメリハリがあって型として一番綺麗。観てて気持ちが良かったです。さすが踊り上手な役者さんです。海老蔵さんは柄のよさでみせる。丁寧にこなしていました。橋之助さんは決まり決まりが華やかで芝居っ気が非常に楽しい。みせるということをよく判っている。扇雀さんは女形らしくしなやか。身体の使い方に余裕があった。
『模擬店』
1階から3階まであちこちふらふらと。お相手してくださった役者さんたち、本当にありがとうございました。個人的に一番印象に残ったのは寿猿さんと長話したこと。今月のお役のことを色々教えていただきました。お話できてよかった。あと海老くんがご機嫌さんだったのも印象的。
『質庫魂入替』
ベテラン組が勢ぞろいしてるだけで楽しい、嬉しい、わくわくする。俳優祭ならではのゆる~い出し物のノリが楽しい。立役と女形の人形の魂が入れ替わってしまうという舞踊劇。役者さんたちの個性が爆裂(笑)。んと楽しかったわ~。またなかなかない組み合わせだったりするのが良いんですわ。
男雛@菊五郎さんがさすがの貫禄ある愛嬌(笑)。金時@團十郎さんの天然ぶりは誰にも勝てない。可愛いすぎる。禿@三津五郎さんが踊り上手すぎて、笑うことも忘れてつい見入ってしまう。勘三郎さんのふんわかした上手さがあるからこその自由さが素敵。宿場女郎@福助さんメリハリの利かせかたが上手いこと。凄みの効いた拵えでの平将門@仁左衛門さんの可愛い仕草に爆笑。お三輪@時蔵さんは人形ぶりが上手い、時蔵さんのお三輪を観たくなる。女雛@芝雀さんはひたすら可愛い。誰と並んでもかいがいしい可愛い相手役になるんですね~。雷神@左團次さんの滑稽味はとても独特で可愛らしい。素顔はあんなにダンディなのにっ。奇妙印@梅玉さん、ちょっと怪しげなお役、似合いすぎ(笑)。八重垣姫@魁春さん、真面目なんだかすっとぼけてるんだかな踊りが楽しい。とにかく楽しい一幕でした。
『ご挨拶』
最後の締めは藤十郎さんと水谷八重子さん。藤十郎さん、「今回の収益金は東日本大震災被災地にすべて寄付いたします。前のように皆さんが歌舞伎を観られるような環境に戻れますように」とのご挨拶。