Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

シアターコクーン『桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版』S席1階後方上手寄り

2009年06月29日 | 演劇
シアターコクーン『桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版』2回目 S席1階後方上手寄り

『桜姫 現代劇ver.』前楽、2回目の観劇です。先日の1回だけの予定でしたが友人からチケットを安く譲っていただいていそいそと行ってまいりました。もう1回観てもいいなあと思っていたので行けて良かったです。私にとってはこの芝居、複数回観る価値ありの芝居でした。やっぱり面白かった~~。若干、求心力の弱いところはあるけど、役者を変え、演出を変えて再演してもらいたい。

物語のなかの物語。運命に支配され、そのなかで蠢く人々。生きることの切なさ。外からの支配と内からの支配。

この脚本、やはり好きだな。

二度見ても面白い部分は変化なかった。しかし筋を追わない分、どこが物足りないかも見えてしまった。それでも好きだけどね、この芝居。特に二幕目のココとイヴァが暮らしている場のシーンがなんともいえず好き。

串田和美さんの演出、今回観たほうが内輪に向きがちな演出も、まあ在りでもいいかなと、そこは気にならなかったけど、一番欲しかった、南米の空気はやはり足りない、という感想を強くした。どことなく空気感が小洒落すぎてる感じがあるんですよね。音の使い方はヨーロッパの特に中欧・東欧あたりを連想させてしまうのでもっと南米を表現するにはベタな音を使ったほうがよかったと思う。

あとは前回の感想では書かなかったけどマリアとゴンザレスの衣装が気に入らない。何か違うような気がする。マリアは終始白にするべきじゃないかなあと思う。色があってはいけないキャラクターだと思うのよね。あとゴンザレスはセルゲイの裏側なのだから黒基調にすべき。セルゲイはあのままの衣装で良い。白から薄汚れていく様は象徴的でこの物語に合っている。

今回、マリアのキャラがやはり一人の人格としてのマリアとして描かれていない、というのがハッキリわかった。語り部、外からの干渉「運命」の器としてしか機能していない。いわば「無」でした。人格があるマリアは父が殺された瞬間に崩壊したのかも、と今回思った。だから何者でもない者になり、運命(自己決定がない)そのものに絡み取られる。

笹野さんも色んな役を演じてたけどすべて墓守り(語り部で運命をつかさどる役割)としての存在だった。物語の外枠の存在。そこにまた物語がある、という多重構造の使い方。

しかし、この物語を表現するうえで、ゴンザレスがやはり弱い。脚本?と思ったんだけど、それだけじゃない。やはり勘三郎さんが演じきれていない。現代劇の手法を会得できてないせいだ。ゴンザレスというキャラを体現しきれてない。終始、同じトーンの佇まいに台詞回し。ゴンザレスのカリスマ性、屈折、弱さなどが現われていない。なのでセルゲイを見事に体現している白井さんに負けてる。セルゲイと表裏一体、という部分がまったく見えない。歌舞伎役者が現代劇を演じる難しさを感じた。天才と言われる勘三郎さんだけど、それでもいわゆる現代劇の手法は勉強していないのだから、簡単に会得できるわけがない。勘三郎さんにとっては冒険でしたね、やはり。

ゴンザレスには革命家としての狂信的な部分が必要。そのうえで俗を体現しなければセルゲイと表裏にならない。今回残念ながらそこが見えない。

実はエルモの役者も物足りなかった。もっと存在感、威圧感、屈折度が必要かなあとか。ゴンザレスやセルゲイと同格じゃないとね。

ココ@古田新太と老婆(=マリア)@大竹しのぶさんの毒酒(ブルーハワイ)に絡んだハプニングに見えるいかにもアドリブなやり取りはアドリブではなく演出でした。初見だとアドリブでフォローしたようにしか見えないですね、あそこ。

ラスト、セルゲイとゴンザレスは「運命」にあがらうことで自己が成り立つ。自己の解放。運命の糸から解き放たれる。しかしあくまでも物語のなかの自己でもある。物語としての物語。そのうえで人が生きることへの問い掛けがあったように思う。

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『桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版』
原作: 四世 鶴屋南北
脚本: 長塚圭史
演出: 串田和美
出演:
マリア(桜姫)/墓守・・・ 大竹しのぶ
墓守/他・・・・・・・・・笹野高史
セルゲイ(清玄)・・・・・白井晃
ゴンザレス(権助)・・・・中村勘三郎
ココージオ(残月)・・・・古田新太
イヴァ(長浦)・・・・・・秋山菜津子
イルモ(入間悪五郎)・・・佐藤誓

歌舞伎座『さよなら公演 六月大歌舞伎 夜の部』 1等1階センター

2009年06月27日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 六月大歌舞伎 夜の部』 1等1階センター

千穐楽です。初日ぶりにとにもかくにも金太郎くんを観に、という感じでした(笑)。千穐楽の今日、なんと写真入りの筋書きが売り切れで写真が入る前の錦絵入りの筋書きを買う羽目に…その絵入りの筋書きも売り切れそうな勢いでした。今月はさよなら公演、一世一代、襲名披露と記念が三つも揃いましたので買う方が多かったのでしょう。舞台写真も売り切れが多く、早めに買っておいて良かった。

『門出祝寿連獅子 -四代目松本金太郎初舞台-』
初日に観て以来です。金太郎くん、一月の間、本当によく頑張りました。初日の元気の良い時の金太郎くんを観ていたので、かなり疲労が溜まっているなという感じがアリアリでした。前シテでの所作台を踏む音が初日に比べ弱かったし、動きも少しばかり小さかった。それでも必死に頑張ってる姿をみて涙が出てきてしまった。4歳の子が大人でも大変な毛振りが入るこの舞踊を25日遣り遂げたことに心からの拍手を送りたいです。

口上、初日では「松本金太郎です、よろっ!(よろしくお願いしますが途中で切れた)」でしたが今日は「松本金太郎です、よろしくお願いします!」まで言えてました。「よろ」のタイミングでお辞儀をしてしまうので声が遠くまで届かず人によっては「よろっ!」までに聞こえてしまったかもしれません。

それにしても金太郎くんは本当に獅子の踊りが好きなのでしょうね。後シテの毛振りは初日に比べかなり成長ぶりを見せました。初日には腰が決まってなくて毛を振る度に体が動いてしまい移動してしまっていたけど、今日はしっかり腰が決まって同じ場所から動かなかった。疲れてしまってヨロッとなり毛を廻しきれない場面もあったけど、諦めずに自力で立て直して果敢に挑戦し、腰からきちんと廻していました。えらい!!。千穐楽ということもあったのか30回近く廻していたと思います。

今日は髪洗い~巴に入る時の毛振りのタイミングがなんとお父さんの染五郎さんと金太郎くんがピッタリ同じだった。ああ、親子だ~~~って思いました。あそこは、染五郎さんが合わせようとすれば一拍遅くなるはずなのでたぶん合わせようというのは考えないでやっていたと思う。でも振り始めのタイミングがピッタリでした、凄いなあ。

初日の時は金太郎くんの様子を窺いながら毛振りをしていた染五郎さん、今日は金太郎くんのことを、ほとんど見てなかったです。父の息子への信頼と、あと師匠として先輩としての姿を見せ付ける、という部分での心構えもできてきたのかな、なんてことも思いました。それにしても染五郎さんの毛振りは本当に綺麗ですねえ。毛先が絶えず上向きで綺麗な軌道を描く。ただ綺麗なだけでなく荒ぶる獅子としての激しさもあるのです。今回は金太郎くんにすっかり視線はもっていかれたでしょうが、染五郎さんの獅子は本当に良いですねえ。

じいじの幸四郎さんは口上で本領発揮でしょうか。さすがに観客をうまく引っ張っていきます。後シテの獅子の毛振りはゆったりと、若干ヨロヨロぎみ?(笑)。でも絶えず孫の金太郎くんを気にしているのがわかって微笑ましいです。


『極付幡随長兵衛』
この演目はもう吉右衛門さんの懐の深いでっかい幡随長兵衛を観る演目、という感じです。カッコイイ吉右衛門さんを堪能。任侠の親分としての男気の覚悟のほどの強さとそのなかに裏家業の悲哀をさりげなく滲ませていきます。吉右衛門さんの大きさに台詞術の上手さが絡んで、幡随長兵衛という実在の人物がそこに立ち上がっているかのようでした。今回、水野の家来たちの無体を止めに入る時の観客席の通路から出てくる場でいつもより観客サービスが旺盛だったような?悠然としながらもニコニコと愛嬌を振りまく様がまたステキで通路側のお客さんいいなあ、と指を加えて観ておりました(笑)

観客席の通路から出てくるのは長兵衛子分三人もです。この三人が出てくる通路側に私はおりました。極楽十三@染五郎さん、雷重五郎@松緑さん、神田弥吉@松江さんが勢いよく走ってきて、間近で顔を拝めたのは一瞬でしたが、通り抜けた勢いある風を体で受けられたのはちょっと嬉しかったり。この三人は二幕目でも仲がよさそうに楽しげに話をしている様子でした。松緑さんが本当に嬉しそうに演じていたのが特に印象的。極楽十三@染五郎さんの髪型がちょっと面白かったです。何か髪に付けていましたよね?あれはなんなんでしょう?

子分連中は他に男女蔵さん、亀寿さん、亀鶴さん、種太郎くん。さよなら公演だけあってなかなかに贅沢な面子です。纏まりが良くて、個性的で良かったです。観ていて楽しかったです。

子分の感想が先になってしまいましたが、素敵だったのが女房お時の芝翫さん。いかにも任侠の芯の強い女房でカッコイイ女でした。芝翫さん、こういう伊達女のようなお役が本当に似合います。毅然としたなかに濃い情を覗かせて、悲哀を内に秘めている風情がなんとも良かったです。

倅長松@玉太郎くんが可愛らしい。玉太郎くんは芝居の器用さはないけれど一生懸命さのなかに華があると思います。

敵役の水野十郎左衛門に仁左衛門さん。白塗り殿様の拵えが似合いすぎてカッコイイのでちょっと懐の小さい敵役に見えないですが(笑)尊大でプライドが高そうな水野を丁寧に演じていました。しかし、やっぱりセコイことして騙まし討ちする柄には見えないかなあ。水野は幸四郎さんが似合いそうなんだけど…(笑)

劇中劇の「公平法問諍」では坂田公平@歌昇さんと御台柏の前@福助さんがどことなく古風さを感じさせて上手かった。


『髪結新三』
幸四郎さん、なぜこの演目を選んだわけ?2006年に初役で演じられた時にまったくニンじゃないと思ったんですが…。と、全然期待してなかったのですがこれが意外と面白く観られたのが幸い。また初夏の鰹の季節の芝居ということで季節的に若干遅めではあるもののちょうどいいのも良かった。この芝居は江戸の初夏の風景が活写されているのも見所でもありますから。

とにかくも新三@幸四郎さんが重々しい大悪党じみた前回に比べ、飄々とかなり小悪党にしてきたのと、髪結いらしい佇まいを獲得してきていたのがまずは伊達に2回目を演じようとしてきたわけじゃないんだなと。どうしてもどっしりとした大きさが時々出てしまい、成り上がろうとする無法者の軽さとか鋭さがあまりないしニンじゃないなあという部分もやはり感じてしまうのだけど、それでも今回は江戸弁もさらりと気持ちよく口に出てきていて、あら?二世松緑さんに似てる?という部分もあったりして、また幸四郎さん独特の男の可愛らしさの部分での愛嬌に色気も感じられ、悪くないじゃんと思う部分も結構あった。まあ、家主にやり込められるとこはやりすぎ感もあったけど。もう少しあそこは押さえてもいいかなあ。

また当代、菊五郎さん勘三郎さんが演じる今までの新三にあるいかにも江戸っ子気質の部分を演じきれないと踏んだのか、上総生まれの田舎出「上総無宿の入墨新三」を前面を押し出しどこか陰を漂わせ、ヤクザ者が江戸っ子に憧れ無理している感を見せてきて、この造詣がなかなか良かった。しかし、もう少し幸四郎さんが若い時で見たかったなあ、と思わなくも無い。造詣はとても上手いのですが、それでも年齢的なところの佇まいがちょっと違うかなという部分があるのが残念。その部分でいずれ染五郎さんが新三を演じる時が来ると思うのだけど、ここら辺の陰なところを加味してくると面白いかもと思ったり。まあ、染五郎さんが演じるとして最初は勘三郎さんに教わる気はしますが…。(余談:私は勘三郎さんの新三と染五郎さんの勝奴のコンビがとても好きなのです。)

あと役者を見せる部分より戯曲をみせようとする幸四郎さんの演出も良かったのかも。この芝居は元々が落語の人情噺を黙阿弥が歌舞伎化したものですが、その部分を強調させたのではないかと思う。芝居の間をいつもより短くしぽんぽんと進ませて、見せていく。そして二幕目の大家と新三のやり取りに入るのだから、ここが上手い。これほどオチをうまく見せた『髪結新三』もなかなか無い(笑)オチが三段だ~、っていつもより明確でした。それだけでなく、大詰めの部分で、老親分、遊び人として成り上がろうとする新三、そして次の世代の不良人の三様の筋立てでもあったということがしっかりと見えたのも面白く、 起承転結の筋運びが明快な芝居でした。

今回の芝居に多大なる貢献をしたのが2006年でも初役ながら良い味を出していた家主長兵衛の彌十郎さんと今回初役の萬次郎さんの家主女房おかくです。

まずは家主長兵衛@彌十郎さんが本当に良いです。いかにも老獪で強欲な家主然しているところがまずとても良く、また台詞の間が前回同様やはり良いです。押して引いて、幸四郎さん新三とぽんぽんとやり合う様が非常に面白い。最初は飄々と、そして少しずつ手強さを出して新三をやり込める。とぼけた雰囲気もあるが、あえてヤクザ者を住まわせているクセ者的な雰囲気のほうが強い。こういうクセの強い役が出来るところを見せたことで、彌十郎さんはこれから芸幅が広がっていくのではないかとう思う。

初役の家主女房おかく@萬次郎さんもとても似合ってて楽しかったです。こういう長屋のおかみさん風情は上手な方ですが、そこに一刷けクセを足してくる。長兵衛に負けず劣らずの強欲ばばあを軽妙に演じていらして楽しかったです。

勝奴@染五郎さん、幸四郎さんの新三とは初めてですが勝奴は何度か勤めています。新三の腰ぎんちゃく的なちゃっかりした軽妙さとすっきりとした風情のなかにどこか新三の隙を狙う鋭さを時々垣間見せる勝奴です。また細々した仕事をさりげなく、しかししっかりと演じ、江戸風情の佇まいとしてみせてきます。こういう部分、上手ですね。今回は幸四郎さんの陰とメリハリをつけるためでしょうか、いつもより軽妙さのほうを強く出してきた感じがしました。そのせいもあり、新三の弟分というより子分風情が出てしまっていたのが残念です。幸四郎さんが貫禄がありすぎる新三なのでバランスがもうひとつどうかな?と。個人的には幸四郎さん新三には前回の性根の部分にはみ出し者の荒さがありそうな市蔵さんの勝奴のほうが合うように思います。

弥太五郎源七@歌六さん、この方は本当に器用というかなんでもこなしてきますね。今回も初役だと思うのですが源七の親分らしい風格と貫禄をしっかり見せてきました。また台詞が明快なので弥太五郎源七という人物の役割も非常に明快で、旧世代のヤクザ者の悲哀を感じさせてきます。ただ、やはり幸四郎さんの新三相手だと、格上の部分がどうも見えにくいのと、ラストの場での落ちぶれた侘しい佇まいが出てこないのが残念。歌六さんはどんな役でもこなすのでどうしても年上の役者相手に老け役を演じることが多いのですが、非常に張りのある若さを持っていらしてるので、強い部分をみせる時にはハマるのですが年長の侘びしい部分をみせるにはまだ味わいが出てこないです。昼の部の『女殺油地獄』徳兵衛でも思いましたが、これは役者が悪いわけでなく、配役の問題でしょう。

手代忠七@福助さん、五月に久松を演じていたのも良かったでしょうか、手代風情の佇まいがしっかりあり、そのなかで忠七の弱さをみせ、とても良い出来だったと思います。

善八@錦吾さん、実直さのなかに店者の軽い味わいもほんの少し加味されてて良かったです。錦吾さんはどちらかというと時代物のほうがしっくりくる役者さんですが近頃、世話物も少しづつハマってくるようになってきた感じがします。

序幕で、紙屋丁稚@錦成くんの高麗屋部屋子お披露目がありました。芝居好きの丁稚という設定で、新三に「松本錦成」という名をつけてもらう、という流れでした。時代に張った芝居台詞を言って見得を切り、皆に暖かい拍手を貰っておりました。これから頑張ってくださいね。中村屋の鶴松くん、高砂屋の梅丸くんと共に活躍していってくれますように。

シアターコクーン『桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版』A席中二階ML

2009年06月21日 | 演劇
シアターコクーン『桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版』A席中二階ML

面白かった!なんとラテンアメリカのマジックリアリズムな芝居でした。鶴屋南北『桜姫』オマージュであり、ラテン文学の特にたぶんガルシア=マルケスのオマージュ。長塚さん、ラテン文学と鶴屋南北に共通点を見つけたんだと思う。物語が物語を内包するいわゆる「綯交ぜの物語」。ここを持ってきたってだけで私はもう楽しくてしょうがなかった。そして、そのなかで人として生きていくことの罪と罰、生きるということが何か、っていう所ときちんと向かい合おうとしている姿勢が良い。長塚さんは海外文学大好きっ子だと思う。私は長塚脚本は『sisters』と今回の芝居しか知りませんが、かなり私好みかもしれない。次も追いかけるよ、と思いました

今回の作品、ラテン文学好きには色々楽しめるかもよ~。原作の『桜姫』を知っているとなお面白いけど、知らなくても十分、おお、これはラテン文学オマージュですねっ、なところで絶対楽しめると思う。

ラテン文学の手法を使った、鶴屋南北『桜姫』を内包する長塚圭史『桜姫 現代劇ver.』でした。少しばかり頭でっかちで綺麗にまとめすぎている感はあるけど、よくぞ巧く嵌め込んだ、という面白さのほうが勝った。南米を舞台に『桜姫』を作ると聞いた時はどうするんだろう?と思ったんですけど見事に綯交ぜの物語にしてきた。非常に重層的な物語。そして舞台の空間、世界、時空の飛び越えをなんとも絶妙に使ってくる。正直言えば長塚演出で観たかった。もっとちゃんとマジックリアリズムを見せてきたんじゃないかと思う。

今回の串田さんの演出もかなり脚本の意図を汲み取っていたとは思う。長塚さんの意図を汲んでラテン文学、映画の手法も勉強してきたのではないかと思う。だけど、串田流の箱庭的調和が時々、脚本と噛み合わないかな?という部分があったのが少々残念。今まで観てきた串田演出作品のなかじゃ一番私のなかでしっくりはきたのだけど。私は串田さんの脚本に対する演出家としての姿勢は好きだけど内輪に向きがちな演出やミニチュアと人形に拘る演出がちょっと好みから外れるのだ。でもいつもよりは違和感を感じなかったし、かなり楽しめたことは確か。

今回もっとなんとかできなかったかな?と思ったところは「南米」が完全には立ち上がってきてなかった所。音楽の使い方や空気の捉え方がなんだかヨーロッパ的なのよ。どことなく空気が乾いていてラテンぽくない。なんだろな、あの濃いねっとりした空気、抜ける青空、乾いた赤土、みたいなものがもうひとつ伝わってこないのはなぜだろう?役者がラテンの濃さを出せてない、という部分もあったかもしれないけど。まあ日本の芝居でここを求めるのは酷かもしれないなあ。テキストが面白かっただけに求めてしまうけどね。

しかし、よくぞこれをコクーン歌舞伎のなかでやってくれました、という感じだ。もう、歌舞伎じゃないですよ。完全に現代演劇だもん。いくら現代劇ver.となっているとはいえ勘三郎さんのコクーン歌舞伎だからと行った人は多分「ん?」ってなったんじゃないかな(笑)。それと現代劇でもいわゆるマジックリアリズムの寓意性、不条理性を理解できないと面白味を味わえないかも、とも思うし。長塚さん、冒険してきたなあ。ラテン文学は日本ではマイナーっすよ。

さて、役者さんは一番良かったのはセルゲイ(清玄)の白井昇さん。役に合いすぎです。この芝居の主役はセルゲイでした。聖職者はいつでも内のなかの俗と戦わなければいけないわけで(笑)、その揺れ動きを見事に表現していた。聖職者たらんとする狂信的な浮世離れな部分が良かったなあ。純な部分の狂いがあった。

マリア(桜姫)の大竹しのぶさん、相変わらず上手いです。墓守とマリアのいったりきたりがお見事。ころころと絶えず変化する。どんな時でもこの二人がいつでも内包されている。そして墓守は語り部でありマリアは運命である。「女」としての一個のキャラとしてはたぶん描かれていない。大竹しのぶさんの芝居からはそう見えたのだが、さてどうなんだろう?脚本を読んでみたい。

ゴンザレス(権助)の勘三郎さん、アクの強い役をちょいムサイ感じで演じていて、悪くはないのだけどどこか浮き気味かな。欲望のまま悪事を働き、革命家として持ち上げられる、という「悪」のカリスマ性が欲しかったなあ。それがマリア(桜姫)に出会うことで矮小化していく、って感じのキャラのような気がするのだけど、最初から小悪党な感じで。感覚的な部分でゴンザレスに嵌りきれてない気がした。でも脚本的にも描ききれていない感じもしたので勘三郎さんのせいだけではないかもしれない。あと台詞が意外と聞きづらいところが…歌舞伎だとそんなことないのに。

ココーシオの古田新太(残月)、イヴァの秋山菜津子(長浦)は、それぞれ役者のキャラが活きていてとても良かった。二人の後半の場面は可笑しいと切ないが同居している、いかにもマジックリアリズムなシーンなのだけど(青トカゲの毒酒がブルーハワイに変わる、それが普通としてそこにある、そんな場面とか、色々ね)そんな場面をあれだけ演じきれるのは見事だと思う。この二人のシーン、好きだ~。台詞もあれこれも好きだ。「現在だけしか信じない」


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『桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版』
原作: 四世 鶴屋南北
脚本: 長塚圭史
演出: 串田和美
出演:
マリア(桜姫)/墓守・・・ 大竹しのぶ
墓守/他・・・・・・・・・笹野高史
セルゲイ(清玄)・・・・・白井晃
ゴンザレス(権助)・・・・中村勘三郎
ココージオ(残月)・・・・古田新太
イヴァ(長浦)・・・・・・秋山菜津子
イルモ(入間悪五郎)・・・佐藤誓

歌舞伎座『さよなら公演 六月大歌舞伎 昼の部』 1等1階センター

2009年06月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 六月大歌舞伎 昼の部』 1等1階センター

『正札附根元草摺』
幕開けの舞踊。とても気持ちよく拝見。曽我五郎@松緑くん、踊りがだいぶ上達したような気がする。指先、足先まで神経が行き届いていていました。決まり決まりがすっきりと綺麗でした。最近、松緑くん一皮剥けつつあるかも。存在感も出てきたし。化粧もとても良く、似合っていた。それにしてもこの化粧ができてなぜ荒事以外の化粧があんなにヘタなのだ?

舞鶴@魁春さん、この拵えの魁春さんが好きです。独特のクセのある古風さが印象的で。歌右衛門さんの面影がふと見えました。動きは全然違うんですけど骨格やお顔が似ているのでしょう。今の魁春さんはこういうどこか強さのある役が似合います。それにしても改めてこの方の女形の肩の作り方、腰の落とし方、膝の落とし方が見事だなと思いました。背が高い方でしかもあの舞鶴の拵えなのに松緑くんの頭から上に体を上げてこないんですよ。またこの体勢で松緑くんに負けないくらいしっかり足を鳴らしている。お膝、大丈夫なんだろうか?と心配になってしまいます。

『双蝶々曲輪日記』
幸四郎さん、吉右衛門さんが揃うと歌舞伎座の舞台が小さくみえる。この二人の存在感はやっぱりすごいですね。『双蝶々曲輪日記』の『角力場』はここだけ観ても筋がハッキリしないので物語としても面白みはありませんが、長五郎役者と長吉役者の対比を楽しむ役者対決な部分を楽しむところかなと思います。今回は幸四郎さんの鋭さと吉右衛門さんのまるみの対比が活きた舞台だったと思います。それと兄弟ならではの息の合い方が場を密にしていました。いつか『引窓』まで通しで掛けて欲しいですねえ。出来ればこの座組みで。

濡髪長五郎@幸四郎さん、隈取が似合い、錦絵のよう。声を低く取りゆったりと関取の大きさを出す。贔屓の与五郎に対しては優しく、頼りないぼんな部分をも引き受けている感じ。本当に山崎屋に対して恩を感じているのだなと感じさせる。しかし長吉に対してはどうしても関取としてのプライドが邪魔して下出に出てるつもりで融通がきかない感じ。その二面性が面白い。

放駒長吉@吉右衛門さん、長吉にしては押し出しはありすぎる部分もあったが、ちゃんと若造だったのがまずは見事。声をかなり高くし、低音の濡髪長五郎との対比で、柄の大きさ以上に若さを押し出す。どこか笑いを誘う青臭さ、世間知がまだない単純さがよく出ていた。また若者らしい義憤もよく表現し、観客が長吉に肩入れしたくなるキャラを体現されていた。

与五郎@染五郎さん、久しぶりのつっころばしですね。いかにも濡髪が大の贔屓という風情と人がよくて皆に愛される可愛いぼんぼん風情が似合います。力なくヨロヨロしてしまう姿でうまく笑いも誘っていました。ここ難しいんですよね。ただ、どこかつっころばしになりそうで、微妙にまだ江戸のぼんぼん風情だったかな。柔らか味は十分出ているけどスッキリしたところがまだ見えちゃう。でもとっても可愛い与五郎さんでした。

吾妻@芝雀さんが綺麗でした。このところ雀右衛門さんの雰囲気に似てきたような気がします。ほんのり桃色オーラを漂わせ、以前より華がみえるようになってきたような。お付きの仲居連中が贅沢です。吉之丞さんと歌江さん、この二人はそこに居るだけで濃厚な存在感。貴重な女形さん二人です。後ろにちょこちょこ付いてくる宗之助さんも可愛かったです。ご無事に舞台に復帰おめでとうございます。

また、平岡郷左衛門@由次郎さん、三原有右衛門@桂三さん、茶亭金平@錦吾さんと脇も揃って良い舞台を作っていました。

『蝶の道行』
歌舞伎座で演じられる時のどこかチープさが漂う派手な舞台装置と衣装はどうにかならないのか?と今回も思う…。色遣いがきつすぎるんですよねえ。背景か衣装か、どちらかをシンプルにするだけでだいぶ印象が違うと思う。舞踊自体は面白いと思うんですが…。

梅玉さん、福助さんの助国&小槇はアダルティ。ロミジュリの若いカップルならではのファンタジックな切なさは見えなかったけど、その代わり、もっと現実味のある色気があって、なかなか面白かったです。踊るカップルによってだいぶ印象が変わる舞踊でしょうね。

『女殺油地獄』
仁左衛門さんの一世一代。型にはまりすぎるギリギリのとこでやれたな、という感じがしました。個人的には、ここで一世一代を決断してたぶん良かったんじゃないかと。体力さえ許せばたぶん、まだまだ演じることはできるとは思うのですが、正直なところ、これ以上行くと短絡的な青臭い与兵衛というキャラから外れると思いますし、何より仁左衛門さんを芯にして脇をできる人がいない。今の仁左衛門さんが与兵衛をするには芸格が高すぎるんですよね。若い揺らぎがさすがに身体に無くなっている。芯がしっかりしすぎてるんです。貫禄がありすぎるというか年齢を得た人間の大きさが見えちゃうというか。 だからこその一世一代なのかもしれません。これ以上行くとどこか破綻する、その直前。一世一代の渾身の見事な与兵衛でした、それはもう間違いが無い。しかし与兵衛としての一番しっくり来た時分の仁左衛門さんの与兵衛を観ているからこそ書きます。

仁左衛門さんを芯にして脇をできる人がいない、という部分で今回の芝居で、すでにギリギリだった。正直なところを言えば弱かった。なので芝居全体として仁左衛門さん与兵衛に対して説得力が薄くなってしまった部分がいくつかあったような気がする。座組みとしては達者な役者さんばかりだったんですけど、それでも仁左衛門さんの大きさに対抗するには弱かった。与兵衛は小さい人間です。それが舞台にあまり現れてこないのは、どこか違うんじゃないかなと思ってしまう私です。

ただ、今回明確に人物の輪郭を描いてくる役者さんが揃ったために『女殺油地獄』という芝居の内容が非常にわかりやすく提示されていたとは思います。

今回の仁左衛門さんの与兵衛は本行(文楽)に近づけたのか、性根の悪い与兵衛そのものだった。個人的に今年2月に国立小劇場で観た文楽の『女殺油地獄』に近い印象を受けた(私の感想)。あまり情を感じさせない自己中心的な冷たい与兵衛でした。

「徳庵堤の段」
与兵衛@仁左衛門さん、かなり若いとは思ったけど意外と腰の軽い放蕩もの見えず。友人たちにけしかけられて、見栄っ張りな部分でわいわいやっているというタイプに見えなくて率先して悪さをしでかすリーダー格にみえる。叔父、山本森右衛門に対しても、どこか開き直りが見えて、「殺されるかも、怖い、どうしよう」って感じに正直みえなかった。それにお吉さんに本当に不倫仕掛けそうにもみえちゃうし。お吉@孝太郎さんがあほぼんを世話してる、って雰囲気にならない。まあ、ここばかりは芸だけでは見せられない、こいつあほやな、な他愛もない場なので、それこそ「若さ」が前面にでないと説得力が出ないのでしょう。ここはしょうがないかな。

お吉@孝太郎さんはこの役を何度も手がけているし、人のよいおせっかいなおかみさんというだけでなく子を産んだ人妻の色気がそこはとなく感じられて良かった。娘お光@千之助くんが実の親子だけあってお父さんソックリで、それが二重写しになってさりげない情愛が伝わってきたのも良かった。お光@千之助くん、健気な雰囲気があってとても可愛らしかった。

「河内屋内の段」
ここからようやく仁左衛門さんの完成された与兵衛が見えてきた感じ。与兵衛の性根の悪さをひとつひとつの言動、態度で少しづつじわりと見せていく。父、妹に対しかなり強気。自分の言うことは聞いてくれるもんだ、とかなり上から目線で相手を思いやるすべを忘れてしまったような態度。暴力がいつかエスカレートするかもしれない不安感をここですでに感じさせた。母に対してはさすがに子供の顔を見せる。強気に出られると弱い、そのふてくされ具合がリアル。非常に丁寧に与兵衛という人物を活写していきます。私は前回歌舞伎座で演じた仁左衛門さん与兵衛の、終始親の顔を伺う甘ったれのどうしようもないやつ、な可愛げな部分がもっと前に出ていたときのほうが好きなのだけど。今回は親の顔を伺う、といった部分をサラリと流して演じていた。性根の悪さのほうを強調したのかな?と思った。与兵衛の短絡的な先、先の行動、そこから至る状況が手に取るようにわかる。細かい部分を積み重ね、人物を描写していくのは仁左衛門さん独特の芸であり上手さです。

徳兵衛@歌六さん、芸達者な方で外すことがない役者さんですがさすがに今回の徳兵衛は少々苦戦中かな?この方は何気に芯の部分に格がある方なので、使用人だった義父という悲哀を出すのは難しいのかもしれません。河内屋をしっかり守ってきた気概や、血が繋がらない息子への気配りはしっかり出してきたとは思うのですが。もうひとつ、先代にソックリの息子に対する気兼ねからの甘さや情が欲しいかなあ。

おさわ@秀太郎さんはいかにも大阪商人のおかみさん風情、母の強さ、弱さがきちんとあって、思いがけず良い出来。こういう母像を秀太郎さんが出来るかな?と心配していたので。でもなりふりかわない、情けないほどの母の顔は少しばかり薄かったかな。この方の色気が少しばかり「母の顔」を邪魔をし、悲哀が若干前に出てこない。でも十分に良いおさわでした。

妹おかち@梅枝くん、上手いですね。家族思いの健気なおかちです。兄に意見できる芯の強さをしっかり表現。良かったと思います。

「豊島屋油店の段」
親がどうしても与兵衛を見捨てられない情の部分から一気に与兵衛の自己中心的な殺しへと場の空気が動いていく様が見事だった。

ここは徳兵衛とおさわ夫婦の親の情けなさ悲哀をもう少し際立たせてほしかったが、その代わり、お吉の立場が際立ち、殺しの残酷さがストレートに出て、その緊張感が見事だった。とにかく与兵衛@仁左衛門さんとお吉@孝太郎さんの殺しの場がリアルさと様式美のバランスが絶妙。

この場ではお吉@孝太郎さんが非常に良かった。徳兵衛とおさわ夫婦への同情心、与兵衛へ諭す優しさ、そして不審に思う様から不安におびえはじめる、その変化を説得力をもって演じていた。欲を言えば佇まいにもう少し色気があるほうがいいかなとは思うし、仁左衛門さんに対して上に見せようとする無理感がどことなくあったのだけど、それは仁左衛門さんが大きすぎたゆえなので、かなりの出来。

そして与兵衛@仁左衛門さん、この場では情の部分の揺れが少ない。豊島屋に入る時から殺してでも金を奪おうという気満々に見え、親心への改悛の心持がひどく表面的。そして「お金が足らぬ」の切羽詰り方もどこか、ここに入ったからにはなんとかなるさという性根の悪さゆえの楽観を漂わせていた。なんとも自分の都合のいい方向でしか物を考えないそんな与兵衛。それだけに「殺人」の得体の知れぬ怖さが伝わってきた。また殺しの様式美の美しさと共に殺す側の滑稽で醜いという部分もみえた。殺人というものが美しいものだけではない、そのリアルさがあった。後味が悪い、そこを見せてきた。ヒタヒタと迫る鬼気迫る表情、そしてなりふりかまず金を狙う様、それを絶妙の間で表現していた。これはもう「芸」がなせるワザかと思う。


余談:今回、私は仁左衛門さんの与兵衛に若さ、幼さゆえの無防備な無邪気のある悪、金が足らぬの切羽詰った弱さを感じませんでした。ひたすら底の部分が冷たい与兵衛に見えました。しかし、3階で見た友人は、人間的な甘さのある幼い与兵衛を感じたそうです。観た人の感想を色々読んだり聞いたりしたところ、幼さを感じず怖い部分を感じた人と幼い甘さを感じた人と両極端のようです。たぶん、今回、両方が混在している与兵衛なのかもしれません。仁左衛門さんは芸の部分でその幼さを演じていて、その芸は上からのほうがよくみえるのだと思います。しかし思うに近くの席でみると役者の芸だけじゃなく 役者本人のそのものがどうしても透けてみえてしまうのではないかと。 なので以前の演じ方そのままだと、大人の感覚がある 与兵衛にみえてしまう部分があるのかなとも思いました。

歌舞伎座『さよなら公演 六月大歌舞伎 夜の部』 3等B席センター

2009年06月03日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 六月大歌舞伎 夜の部』3等B席センター

歌舞伎座『六月大歌舞伎』の初日です。四代目松本金太郎初舞台の初日を拝見したくて『門出祝寿連獅子』のみの観劇です。

劇場は華やかな雰囲気のなか4歳の金太郎くんの門出を祝う暖かな雰囲気に包まれていました。2階ロビーにはお祝いの花や金太郎くんの写真、初めて書いたサイン(大きなおおらかな良い字でしたよ)、一代目~三代目金太郎の写真、お祝いの品などが展示されていました。

客席はほぼ満席。若い人からかなりお年のおじいちゃま、おばあちゃま迄、年齢層が広かったです。大向こうさんも多かった。会の方じゃない大向こう(おじいちゃま達たちだったので白鸚さん時代からの高麗屋ファンだったのかもしれません)もだいぶ掛かっていました。

『門出祝寿連獅子 -四代目松本金太郎初舞台-』
思っていた以上に本格的に舞踊として作りこんできました。まさか、こんなに沢山、金太郎くんを踊らせるとは思ってもいませんでした。舞台は羽目物の誂え。背景の色合いがいつもより明るいです。基本、いつもの『連獅子』の変形ver.です。踊りはだいぶ簡略化してありますけど前シテ、後シテと、しっかり踊ります。

まずは大名@梅玉さんが天竺清涼山で新たな獅子が誕生したことを聞き付け、左近夫婦(幸四郎さん&魁春さん)、右近一家(染五郎さん&福助さん&金太郎くん)を呼んで様子を語らせるという形。幸四郎さんが語り踊って、その次に魁春さん、染ちゃん、福助さんが踊り、それから幸四郎さん、染五郎さんが金太郎くんをいざなって三人で踊ります。金太郎くんが入ってからの振りがきちんとあの連獅子の前シテのイメージを壊さない振り付け。幸四郎さん、染五郎さんが誘導しながらも金太郎くんは小さい体を目いっぱい使って、音を外さないできちんと踊っていました。所作台を踏む音も大きく、見得もしっかりと。見事、見事。

それから村人たち(吉右衛門さん、芝雀さん、松緑くん)を呼んで口上です。

まずは幸四郎さんがいつもの調子で「金太郎は大役をこなすまでには後20年、30年かかりますが皆様、せいぜい長生きしていただいてご覧になっていただきたい」とご挨拶。でもちょっと緊張気味だったかも?珍しい。「新しい歌舞伎座、新しい金太郎の誕生を祖父の私からひとえにお願い申し上げます」で締めます。

梅玉さん「私は染五郎くんのファンですけど、2年前の初お目見えでの同席して以来、いっちゃん(金太郎くんの呼び名)が可愛くて染五郎くんから乗り換えて今はいっちゃんのファンです!」

魁春さん「今回はおばあさまの役ですが早く大きくなっていただいて、お母様の役をさせていただきたいです」

福助さん「父の芝翫は白鸚のおじさま、幸四郎のお兄さん、染五郎くん、金太郎くんの四代と共演させていただいてることになります。私は魁春のお兄さんもおっしゃっていましたが金太郎くんが大きくなったあかつきには女房役にさせていただきたいです」

と三人は笑いを取っておりました~。吉右衛門さん、芝雀さん、松緑くんの親戚三人はまじめにお祝いとこれからもぜひ応援してくださいと。染五郎さんも、「このさよなら公演中、歌舞伎座で初舞台をさせていただきありがたい。これも皆様のおかげでございます」と緊張の面持ちでのご挨拶。金太郎くんは「松本金太郎です!」と大きな声でご挨拶です。

それから幸四郎さんが引き取って。「新しい歌舞伎座、新しい金太郎の誕生を祖父の私からひとえにお願い申し上げます」で締め、それから会場の皆で一本締め。

そして一座皆で舞台中央で形を取ってそのまま大セリで下に消えていきました。間狂言は友右衛門さん、高麗蔵さんで品よくひょうきんに。長唄、三味線が入り、いよいよ獅子登場。中央のセリから登場です。金太郎くんだけ台に乗っております。

そして、ここでもちゃんと踊らせていました~、すごいすごい。きちんと連獅子でのあの振り付けをイメージした金太郎くんにできる範囲での振り付け。でも4歳にしてここまで踊らせる?っていうくらいきちんと舞踊仕立てできました。感動。しかも最後の毛振りはさすがにさせないと思ったけどやらせていました!なんとかきちんと毛振りになってた!すごい!さすがに腰が決まらなくて振るごとに上手ナナメ前、幸四郎おじいちゃんの方向に移動していっちゃうんだけどね(笑)それも可愛いかった。

それにしても4歳の子によく毛を振らせましたねえ。きちんと教えこんだのでしょう、首で振らずなるべく腰で振る、という教えを守ろうとしている感じだったと思う。ちゃんとまあるく振れていました!後見は錦吾さんだったかな。うまくフォローされていました。

幸四郎さんと染五郎さんも勿論、廻してました。並べてみると三人とも思いっきりバラバラでしたけど(笑)。20回近くは廻していました。ほんとよくやらせたし、なにより金太郎くんがよくやった!!本当に頑張ってた。大向こうからも「よく出来た!」って声がかかってました。

ほとんど金太郎くんばかりに目が行っていましたが、染五郎さんの踊りが非常に美しくて感嘆。毛振りの時はいつもより軽く廻していたようでしたが、毛の軌跡がとても綺麗だった。やっぱり染五郎さんは踊りが上手い。特にこの頃、安定感がでてきたし、一際体の線が綺麗になってる。

短い演目でしたけど大満足です。金太郎くんの役者としての第一歩の初日が観られて嬉しい。高麗屋の皆さま、一ヶ月、何事もなく無事に勤めてくださいませ!!