Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第二部』 1等1階席後方センター

2016年08月30日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第二部』 1等1階席後方センター

『東海道中膝栗毛 奇想天外!お伊勢参りなのにラスベガス?!』

マジメに徹底的に体を張っておバカをしていた(笑)それでいてきちんと夏狂言としての歌舞伎として構成されていた一幕。11日に拝見したときよりかなり面白くなっていて、日々マイナーチェンジしながら進化させたんだろうなと。その徹底ぶりには頭が下がる。

今回だけしか上演できないこの芝居に実力のある役者さんたちがここまで徹底してやりきったことに、実はえらく感動したりもした。竹三郎さんや錦吾さんまでもラップに乗っちゃうんですから。大好きだ~~!

弥次@染五郎さんと喜多@猿之助さんはもう言わずもがなというか、全力投球でおばかをやったことに敬意を表したい。そして実は結構高度なことをしていたわけで、それを軽々と飄々と、ゼーゼーしながら(笑)楽しそうにやりきった。そして、このコンビでの毛振りを観られたのは嬉しかった。

ドタバタ劇のなか清涼剤だった梵太郎@金太郎くん、政之助@團子くんの主従ペアはバランスがいいし本当に可愛かった。芝居もしっかりしてて、そしてこの20日間で動きも台詞もかなりの成長ぶりをみせていた。この二人の大人のなるギリ前のまだ少年な時代での舞台を見られたのは幸せ。

出飛人/大岡伊勢守忠相@獅童くんは自分が求められているものを全力で出し切ってきれたと思う。あの不思議な魅力は彼の個性。時にやりすぎるけど、その按配もだんだんわかってくると思うから、今はこのままでいいよ。私はだいぶ前の博多座での染五郎・猿(当時亀治郎)・獅童の組み合わせからよくぞここまでと胸熱。

十六夜@壱太郎くんもあのなかではマジメに、だったけど彼の独特の熱さがそこはかとない面白みになっていたのは皆さんお分かりだっただろうか。

にしても個々あげていくときりがない。皆が皆、魅力的でした!

弥次@染五郎さんと喜多@猿之助さんの新作(復活)を見てきて思うのはもちろん全て成功はさせてないし失敗もあるけど、基本的に役者の皆を等価に魅力的に見せたいと思っていて、役者の皆を等価に魅力的に見せることが出来る二人だなと。今回のように徹底的にバカバカしいのもいいけど徹底的にまじめなものもこの二人で作ってみてほしい気持ち。

  

『艶紅曙接拙「紅翫」』
江戸の商人たちをみせる風俗舞踊。私は初めて拝見しました。商人たちの衣装を拝見するだけでも楽しいですね。踊りのほうは前の幕の余韻を引きずってしまっていて、さらりと流し見になってしまい申し訳なかったです。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 3等A席前方上手寄り

2016年08月29日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 3等A席前方上手寄り

『嫗山姥』
12日に拝見した時も良いなと思ったのですがますます良くなっていました。

八重桐@扇雀さんの語りにメリハリがつき、また艶も出ていて見応えがあり、また時行との合体後も華やかで非常に良かったです。上方のやり方ということもあり全体的に線の柔らかさがある感じがして新鮮に拝見。

時行@橋之助さんは砕けた調子の時の台詞廻しが芝翫さんに似てきたなあと。頑張ってきたことが空回りしてしまう悲哀が出てました。こういう柔らかめの白塗りもしっくりくるようになりましたね。

太田太郎@巳之助くんが声の張りがよくきびきびと。沢瀉姫@新悟くんがはんなり柔らかいなかでの芯の強さを表現きちんと赤姫でした。局頭の歌女之丞さんがさすがに場を締め、立ち回りの皆様も良かった。

『権三と助十』
岡本綺堂せんせの歌舞伎作品は苦手なのが多いのですがこの作品は別。大好きなんです。長屋の皆がわちゃわちゃ出てくるだけでニコニコしちゃうんです。基本的にがさつだけど良い人ばかり出てくるし。そのなかで一人、人としての情がない勘太郎の怖さが日常に潜む怖さとして表現されているのが綺堂らしさ。

今月は菊五郎劇団の芝居に比べると世話物とはいえ全体的に軽い感じはありましたけど、反対にファンタジックでコミカルな明るさがあって人物たちが皆愛らしく、非常に見やすく楽しい気分にさせる芝居になっていたなあと思います。

権三@獅童さん、とても似合った役で活き活きと演じていてとても良かったです。ぽんぽんと捲くし立てる台詞もよく、こういう明るく甘えたな軽みがあるお役はピッタリ。

助十@染五郎さん、日和見主義でちゃっかりしてるようだけど案外マジメな助十をキュートに。無精ひげ面だけど色気ある助十だったw 啖呵をきる時はポンッと台詞がいくのだけど早いテンポの台詞だと少し重めになる。もっと軽くトントンとできるといいと思う。芝居の間の作り方がさすがに巧み。

女房おかん@七之助さん、気の強い世話女房が似合う。ぽんぽんと言いたいこと言ってもイヤミにならずに可愛い。この手の焼くは安定感が出てきましたね。綺麗系も好きなんだけどこういう七くん、好きだわ~。どことなく福助さんを思い出させるところがあったりして、納涼という場だけに少し感慨が。

助八@巳之助くん、勢いがあって。声もよく通ってとても良かった。喧嘩早いけど兄思いな良い弟でした。少しマンガちっくではあるけど、どんな場面で良いリアクションをしてて舞台のうえにいることに自信を持ったなって気がしました。いわゆる世話の調子をもう少し頑張ればもっと色々できるようになる。

彦三郎@壱太郎さん、上方から来た父思いの直情型の彦三郎にピタリと嵌って、江戸風俗の芝居のなかにいいスパイス。この配役は本当にうまかった。壱くんは今は女形が多いけど立役もしっかりしてていい。

家主@彌十郎さんはもうこういうきちんとしていて、どこか飄々とした優しいお役は鉄板。

勘九郎@亀蔵さんは一見悪そうにみえなくて、イヤミもそれほど立たないのだけど、だからこそ咄嗟に猿を殺してしまうのが怖い勘九郎でした。

猿廻し与助@宗之助さんは雰囲気が優しいので猿を可愛がってるという部分はっきりみえて、だから猿も可愛くみえてきた感じがしました。

石子伴作で秀調さんがお付き合いしてくださったのが嬉しい。秀調さんの声の調子が好きなんです。

鎌倉芸術館『松竹大歌舞伎 東コース 昼の部』1等後方センター

2016年08月02日 | 歌舞伎
鎌倉芸術館『松竹大歌舞伎 東コース 昼の部』1等後方センター

50回公演のうちの48回目。役者さんたち、最初のうちこそ顔はちょっと疲れ気味かな~と思いましたが回数を重ねた分、役への沿い方がとても自然になって活き活きと闊達に演じられて、とても楽しく拝見。

『晒三番叟』
相模大野ではまだ一生懸命やってます感が強かった壱太郎くん、振りの一つ一つがなめらかになり緩急もついて踊りに大きさが出てました。晒振りも男っぽさが出ないであくまでも姫。芯がぶれず、印象に残る華やかさでした。

『松浦の太鼓』
松浦候@染五郎さん、この役に必要な役者がご機嫌に演じるところまでいったかなと。やはり役どころからすると若さが出てしまうけど面倒くさい性格が嫌味にならず品のある愛嬌と鷹揚さのあるお殿様。吉右衛門さんの松浦候をとことんなぞるっているのがわかる表情と台詞廻し。そのなかで染五郎さん自身の持ち味のとぼけたキュートさもそこはかとなく出ていました。相模大野ではまだ安定していなかった声の調子や台詞廻しがかなり安定して緩急もよく聴きやすくなっていました。また色んな場面で役の緩急をつける間合いの取り方を色々試してる感じもあったので次に演じる時がまた楽しみ。

また、吉右衛門さんの最近の高い部分の声の調子のところまでなぞってきたのにはビックリ。この高い調子は吉右衛門さんの地声の高さからと、特に近年、年齢がいってから出すようになった声で(役的に若く見せるための声の調子だと思う)染五郎さんだとかえって若く見えすぎてしまうので、もう少しトーンは落としてもいいかなとは思う。これは昨年の勝元でも思ったのですが。ただ、ここまでの高低が出せるようになったのは今後、幅が広がるので最初としては正解かな。

大高源吾@歌昇くんはますますお父様に似た熱演。凛とした風情が素敵です。両国橋での表情がよくなって橘三郎さん其角とのやりとりの間もよくなっていた。後半の門前での討ち入りを語る長台詞はまだすべてを観客にしっかり聞かせられる緩急が足りないかな~。ここ難しいんですよね。

其角@橘三郎さんがお見事に役に沿った芝居ぶりになっていてさすが。人生経験からなるよきおせっかいぶり、俳人としての柔軟さとちょっとすっとぼけた茶目っ気さ。いい其角でした。

お縫@高麗蔵さん、丁寧に品よく可愛らしさと健気さを出す。所作の綺麗さ若さには本当にビックリする。声の作りも巧い。

お付のものから馬まで周囲の役者さんも呼吸があい、気持ちのいいお芝居になっておりました。

『粟餅』
巡業の最初からかなり完成度が高かった踊りだけど、これは三津五郎さんも褒めてくださるだろうという出来にまでいったと思う。

杵造@染五郎さん、おうす@壱太郎くんの二人とも自然にウキウキと楽しませてくれる良い踊りぶりでした。丁寧でそして柔らか味とメリハリがあり吸引力がある。二人の間合いもよいし可愛らしい夫婦ぷり。またこういう踊りでも華やか。染五郎さんの踊りは端正のなかにさらりとした洒脱をみせ踊り分けのメリハリもしっかり。壱太郎くんは姫よりこちらのほうがキュートで色気もあった。