Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『第35回 俳優祭 夜の部』 3等A席

2009年04月27日 | 歌舞伎
歌舞伎座『第35回 俳優祭 夜の部』 3等A席

初めて『俳優祭』に行きました。今までは予定が合わなかったりと機会がなく、今回もどうしようか悩んだのだけど今の歌舞伎座の最後の俳優祭だしと思い切って行ってみました。確かにお祭りでした。舞踊とパロディ劇『灰被姫 シンデレラ』も楽しかったけど模擬店が一番楽しかった。素顔の役者さんたちが目の前のいるというだけでテンションが上がります。

ざっと自分的覚書を。

一、舞踊二題

『狸八島』
立役勢揃い。源平の八島の合戦を描いた舞踊『八島(屋島)』をかちかち山になぞらえた舞踊のようです。うさぎさんチームが白紋付き袴で狸さんチームが茶紋付き袴での素踊り。うさぎさんが花道、下手を出入り、狸さんが上手を出入り。

パートごとに役者が入れ替わりいかにも顔見世的な舞踊かと思いきや、三津五郎さん(ウサギ)、歌昇さん(タヌキ)のコンビでの踊りがさすがに超上手い。見ごたえたっぷり。錦之助さんと橋之助さんの男前コンビがすっきりと爽やかな踊りぶりで目立つ。松緑くんは振り付けのせいか?妙に子供ぽい雰囲気でした。段治郎さん、右近さんコンビは凛々しく。右近さんがメリハリがあってなかなか上手。染五郎さんと愛之助コンビは出てきた瞬間、一段と大きな拍手が。人気ありますね。リズム感のある派手な振り付けもあって踊っている最中も拍手喝さいでした。特に染五郎さんの踊りは大きくて華やかでした。

『おまつり』
大和楽連中での舞踊で、いつもの『お祭り』とは趣が違う。俳優祭デザインの浴衣姿の女形勢揃いでさすがに出てくるだけで華やか。御神輿担いでわっしょいわっしょいの振り付けがかなりハード。後半、何かの罰ゲームかと思うほど。それにしても女形さんたち、薄い浴衣姿でハードな踊りしても男に戻らないとこが凄いです。

そのなかでも、魁春さんと時蔵さんさんの身のこなしが本当に柔らかで綺麗でこれぞ女形って感じでうっとり。菊之助くんがとっても可愛い、このところ女形でもごつい感じがなくなってきましたね。亀治郎さんはおきゃんな感じで踊りが柔らかで目立つ。それと孝太郎さんが表情豊かで可愛かった~。

二、模擬店

これぞお祭りという感じでした。お客さんの熱気がすごい(笑)。役者さんたちも売り子に徹して大サービス。こんなに色んな役者さんを真近に拝見できることって普段無いですから思わずテンションが上がってしまいました。

私と友人二人でとりあえず一通り巡ってみました。まずは2階の画廊で絵を買いたかったのですがダッシュしていったにも関わらず凄まじい人で目当ての絵は売り切れ。いやはやビックリ。それから3階に戻り、押すな押すなの長蛇の列に並び染五郎さんのところから手ぬぐいを購入。ふんわり優しい笑顔で、ふんわり優しい握手をしてくださいました。反対ブースでTシャツ売られていた中村屋さんのとことでは勘太郎くんが皆におめでとうと祝福されてニコニコ顔でした。2階に下りて「ほうおうの間」、仁左衛門さんのところが凄まじく、ご本人の顔さえ拝めない状態。しょうがないのですぐに諦め、芝雀さんのお弟子さんからサンドイッチ、彌十郎さんの所でポテトをゲット。こうなったらまずは食料確保と1階の秀太郎さん、愛之助さんバーを横目で見つつ、地下食堂へ。とっても可愛らしい玉太郎くんからおにぎりを。おかずも欲しいので髭がお似合いの獅堂さんから鳥のカラアゲをゲット。いつまでもお若い艶々の藤十郎さんがお寿司をにぎっているの眺めてから1階に戻り、松緑さん、亀三郎、亀寿兄弟のところでビール。松緑くんも亀兄弟もすでに酔ってます…ちゃんとお金受け取ろうねっ。ここら辺で少し落ち着いてお腹を満たし、役者さん見物。甘味売りの錦之助さん、隼人くん親子。イケメン親子だ~。錦之助さんの笑顔、素敵。隼人くんはたぶんこれから人気が出そうな今時の超イケメンくん。おばさまたちにとっ捕まっていました。お隣でアンミツ売りをする由次郎さん、桂三さんコンビに和み、てぬぐい売りの少し細面になられた團十郎さん、ちょっと怖い顔をしながらもマジメに売り子をする海老蔵さん、いかにもマジメそうな友右衛門親子などを堪能。2階に上がり品のいい笑顔の菊之助さん、ウロウロしている綺麗系な松也くん、可愛い種太郎くん、女性にしかみえない段之さんなどに遭遇。爽やか芝雀一門を再度眺め、歌六さんからモナカアイスをゲット。3階に上がり、サンプルの手ぬぐいや自分が首に巻いていたものまで売り切り笑顔の染五郎さん、錦吾さん高麗屋一門のところで一緒に手打ちをし、おでん売り場で段四郎さん、亀治郎さんをじっくり拝見。中村屋兄弟がサインしてあげているのも眺め、また階下へ。ほのぼのな富十郎さん親子を拝見したり、山田洋二監督に遭遇したり、とにかくグルグルと歌舞伎座中を見てまわった感じ。名題下の役者さんにも「買ってください~」と声をかけられたり、どこを見ても役者さんだらけ。とにかくテンションあがりっぱなしでした。

三、『灰被姫 シンデレラ』
思っていた以上に楽しかった~。 以下、出番順に印象などを。

福助さんの拵えが矢島美容室のナオミ。ああいうメイクだと男ぽいぞ(笑)なぜにこの格好?と思ったら、あとでその理由がわかる。それにしても福助さんたら、玉さまに「先輩をいたぶるのは気持ちいい」とか言っていたような?(笑)

橋之助さんの矢絣の腰元スタイルは可愛い~。意地悪に見えないし~、可愛い<女形好きの私のツボを押されました。

勘三郎さんの継母、眼鏡に渋い和装姿。似合う~~。ちょっとカミカミの灰被姫@玉様に突っ込みを入れるのが楽しそう。勘太郎くんのことで玉さまに逆襲されてたけど(笑)

灰被姫の玉三郎さん、可愛い~、可愛い~。カミカミなのも可愛い。マジメなんだけどなんかノリノリな玉様。また洋装ドレスが似合うんだ、これが。なんでそんなに似合うのか。勘三郎さんとのやりとりは漫才のようだった。

左團次さんの魔法の使えない魔法使いの老女、出てくるだけで笑える。顔を手先だけ白塗りって~~。んで真っ白なノースリーブのドレスって~~~。ひいいい。

菊五郎さんのおくりびと、ってそれかい(笑)モッくんのマネ。でも似てないけど似てるその微妙さ加減で笑える。

仁左衛門さんのグラント将軍、ご挨拶は「Yes,we can」でした~~。

団十郎さんのキャサリン夫人の衣装が素晴らしい。素敵。ご挨拶はフランス語で最後になぜか英語で「Change!」

北島の宮康人殿下の海老蔵さんはなぜか上半身裸になり(笑)ズボンにも手をかけたがさすがに止めた。どうやら「裸でなぜ悪い」とクサナギくんネタ?を言った模様。声がでかすぎて何言ってんだかわからなかった(笑)その後は大人しくしてるかと思いきや、さすが悪ガキ海老くん、田之助さんになんてことを~~~~。

千葉勝五郎の菊之助さんが…、あの菊ちゃんが天津木村のエロ詩吟を~~。なんてことだ~。でもなぜか菊ちゃんがやるとエロくないんだけどね。本家より詩吟上手いし(笑)「彼女と海に遊びに行ってぇぇ、バナナボートにまたがってる彼女を見てぇぇえ、 何だか(今日)イケそうな気がする~~~」と吟じてました。

人力車で新橋雀躍楼女将の雀右衛門さんが登場した時は涙が出そうになりました。足はお悪くて座ったままでしたが声はお元気そうだったし、さすがのオーラというか存在感で圧倒してました。その傍らにいる小山三さんの半玉姿もまだまだ可愛らしく素晴らしい。

翫雀さんの美濃紋太郎、普通に普通の司会者に見えるんですけど…(笑)

亀治郎さんの白柳徹子はすっかり黒柳徹子です。かなり似てる…。藪空棒之助の染五郎さんにぶつぶつ突っ込みを入れてる時が一番楽しそうだった(笑)「扇、落としませんよね、落とすわけないですよね、NHKの中継が入っていますからね、歌舞伎体操で人気のお兄さんだから落としたら全国の子供たちがガッカリしますよ」とか染五郎さんにプレッシャー掛けまくり。染五郎さんが扇を落としちゃったら「踊りは一にも二にも稽古!」って言い放つし(笑)。でもちゃんと、金太郎襲名披露を宣伝してくれました(^^)

銀子@福助さん、若手二人とともに「SAKURA ーハルヲウタワネバダー」で踊りまくり。途中ヘタってたけどね(笑)若手二人がいい感じにキレのいい踊り。化粧が濃すぎて誰だかわからなかったけど新悟くんと巳之助くんだったらしい。客席大盛り上がり。

そこへ染五郎さんの藪空棒之助。歌舞伎体操の曲で登場。染五郎さん、早乙女太一くんばりの流し目を飛ばしまくりでここでもかなりの拍手をもらってました。何かやるごとに流し目、扇捌きをキメては流し目、おかしすぎる。踊りは二枚扇を使う加賀屋狂乱のひとくさり、だったそうな。でも最後、扇落としてガックリ、ヨヨヨッと崩れこむ、でも流し目(笑)。亀ちゃんに金太郎襲名披露の話題を振られて素に戻る染ちゃん(笑)せっかく話題振ってもらったのにきちんと宣伝できない染ちゃん(笑)

真打の玉三郎さん、洋装で「鏡獅子」の二枚扇のくだりの踊り、さすがに扇捌きがほんとに綺麗~。 で、なぜか途中後見が差し金の扇を使い、ひらひらと4枚使い。綺麗だけどなぜか可笑しい(笑)

ラストは舞台が回って歌舞伎座正面。歌舞伎座の守り神が。芝翫さんが八重垣姫、藤十郎さんが河庄の治兵衛、富十郎さんが親獅子の精、幸四郎さんが寺子屋の松王丸、吉右衛門さんが毛谷村の六助の拵えで登場。歌舞伎座、歌舞伎を守っていくのは客様の温かい応援と役者の芸。これからも皆で守っていきましょう、とのメッセージ。そして舞台に出演者が勢揃いし皆で声を合わせて「この先百年、千年、万年とも歌舞伎座を守りましょう」と。暖かいラストでした

最後の最後に芝翫さんからご挨拶、そして藤十郎さんの音頭で観客も一緒に手打ち。

とても楽しく素敵な俳優祭でした。実行委員、俳優協会の皆様、裏方で携わった皆様、どうもありがとうございました。お疲れ様でした~。

サントリーホール『エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル』D席RA後方

2009年04月23日 | 音楽
サントリーホール『エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル』D席RA後方

3年ぶりのキーシンさん、相変わらずほわほわ頭で少年の面影残す37歳。この人はどこか幼い雰囲気というかピュアな雰囲気がいまだにある。天才少年そのままに成長したような感じ。そしてそのまま「天才」でいるのが凄いんだけど。少年のような可愛い雰囲気とは裏腹に常人離れしたパワフルでスケールの大きい演奏をするのがまた魅力的。今回、3年前より楽譜に殉じる優等生的なものだけでないキーシン自身の熱が前に出てきたかな、なんて感じました。

それにしてもサービス精神旺盛なのも変わらず、今回はなんとアンコールを9曲も!!3年前も7曲、アンコール曲を弾いてくれたんだけど、その時はピアノに憑かれちゃった?感があった。だけど今回はキーシンさんがどんどん調子が乗ってきて、って感じで楽しそうでした。にしても終演が10時15分過ぎてました…(笑)。3時間以上のリサイタル…体力がよく持つな。

前半はプロコフィエフ。最近プロコを聴くことが多い。わざわざプロコプログラムを選んでるわけじゃなのにな。おかげで苦手意識がだいぶ取れたというか、プロコの面白さがわかるようになってきた。演奏は何でもそうだけどプロコは特に生演奏で聴くほうが魅力的かも。

最初の『バレエ「ロミオとジュリエット」からの10の小品op.75』はちょっと硬かった感じ。珍しく演奏が荒かった。でもこういうキーシンを聴けたのもよかった。あまりにパーフェクトすぎる演奏ばかりでこの人の感情はどこに?と思わせちゃうところがあったので。この人も人間だ~って(笑)なんとなく安心。しかもそれがかえってこの曲に合っていた気もする。繊細さとダイナミックが混在した粒だった音色は相変わらず美しく聴き応えあり。

そして『戦争ソナタ』、これがもうね、素晴らしかったですよ。この曲もキーシンさんらしからぬ荒さがあったんですが、それ以上に「熱」が感じられて惹き付けられました。なんかね、この曲のもつ壮絶さというか暗さとか寂しさとかみたいなのが伝わってくるんです。なんとなくキーシンさんとプロコフィエフって合わないような気がしてたんだけど…すいません、すいません、と謝りたくなりました。完璧な、ではない演奏だったかもしれないけど個人的に凄く好きな演奏でした。

後半はショパン。キーシンさんのショパンは甘くないんですよ、叙情に流されない。えっ?これがショパン?って一瞬思うんだけど、すっかりキーシンのショパンとして成り立っていた。なんか聴いていくうちに、もしかしてこちらが本当かも?って思わせちゃう。

『幻想ポロネーズop.61 』の流れるような音の美しさと多彩な音色、それでいてダイナミックな骨太さがあって、面白い。『マズルカ』はこれがマズルカですか?な感じですが(笑)やっぱり音で楽しめちゃう。で、『12の練習曲op.10から』あたりから何かスイッチが入ったか、音が力強く踊り始める。かの有名な『別れの曲』もま~ったく甘くない。音が強い風に煽られてクルクル踊ってるような感じとでもいうか。面白い~~。

圧巻だったのは『革命』。叩きつけるような演奏。これは暴風雨でした。不思議なのは弾いているキーシンの感情が叩きつけられているというより、そこからどこか向こうに伝わってピアノから感情が湧き出してる感じ。でもって『12の練習曲op.25から』ではショパンってもしや変な人だった?な曲に変人感を感じさせるキーシンの演奏ってなんだ?感覚的なものが何か伝わってくる。超絶技巧に感心するんじゃなくて、これをこう弾くのか、こういう曲だったのか、みたいな。3年前のキーシンさんのショパンは本当に音が綺麗でクリアで音色も多彩で、それを聴くだけで楽しいみたいな感じだったんだけど、今回はもうひとつ、何か、を見つけた感じ。らしからぬ荒さと熱を持ったキーシンさんの演奏はすこぶる面白かった。

で、乗ったのか、アンコールがこれまた凄かった。キーシンにプロコフィエフは合うと確信できたし、ま~ったく甘さも可愛らしさもないショパンがまた楽しくって。アンコールでは肩の力が抜けて、音のクリアさ綺麗さ、端正さが際立ってました。

【曲目】
プロコフィエフ:バレエ「ロミオとジュリエット」からの10の小品op.75より 少女ジュリエット、マキューシオ、モンタギュー家とキャピレット家
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番op.84「戦争ソナタ」
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ショパン:幻想ポロネーズop.61
ショパン:マズルカ
op.30-4、
op.41-4、
op.59-1
ショパン:12の練習曲op.10から
第1番 ハ長調、
第2番 イ短調、
第3番 ホ長調「別れの曲」、
第4番 嬰ハ短調、第12番 ハ短調「革命」
ショパン:12の練習曲op.25から
第5番 ホ短調、
第6番 嬰ト短調、第11番 イ短調「木枯らし」

【アンコール曲】
ショパン:ワルツ 第7番 嬰ハ短調 op.64-2
ショパン:ワルツ 第6番 変ニ長調 op.64-1 「子犬」
プロコフィエフ:オペラ『3つのオレンジへの恋』より「行進曲」
プロコフィエフ “4つの小品”op.4 より「悪魔的暗示」
ショパン :マズルカ 第40番 ヘ短調 op.63-2
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66
モーツァルト:ピアノ・ソナタ イ長調 K331 第3楽章「トルコ行進曲」
ショパン:ワルツ 第14番 ホ短調
ショパン:ノクターン 第10番 op.32

歌舞伎座『さよなら公演四月大歌舞伎 昼の部』 1等1階席後方センター

2009年04月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演四月大歌舞伎 昼の部』 1等1階席後方センター

『通し狂言 伽羅先代萩』
やっぱり通し狂言はいいなあとつくづく。もっと歌舞伎座で通し狂言を掛けていただきたいです。

今回観た全体の印象としては仁左衛門さんオンステージ。たぶん今、仁左衛門さん絶好調なんだと思うのですが、芝居全体としてはそれはどうなのか?という感じも若干…。仁左衛門という役者を見るという部分では仁左衛門さんファンにはかなり美味しい今月と思いました。

正直なところを書くとこの日、肝心の玉三郎さんの政岡が弱かったかなあと…。体調がよくなさそうで動きも台詞も弱く絶好調の時の玉三郎さんのいつもの吸引力があまり無し。それでも凛とした風情はとっても素敵でした。それと吉右衛門さんの仁木が妖気がなく、また詰の甘さがありそうにも見えずちょっと仁木はニンぽくないかなと…。とはいえ、力のある役者が揃ったし子役も可愛いし上手いしなので、かなり面白く飽きずに観れました。

戯言を言わせていただければ、政岡は絶好調の玉三郎さん、八汐は仁左衛門さんそのまま、栄御前は芝翫さん、仁木は幸四郎さん、勝元を吉右衛門さんで観たかったなあ、と思いました。

「花水橋」
足利頼兼@橋之助さん、姿がとっても良いです。立ち回りはさすがに捌き方がしっかりしてて上手い。ただ、酔い風情、殿らしい鷹揚さがもっと欲しいかなあ。

絹川谷蔵@染五郎さん、どんだけ着込んでいるんでしょう?というくらい着込んで体を太くしております。それと拵えをキツメにしてました。個人的にそこまで着込まなくてもいいのでは?と思うが、どうなんだろう?染五郎さんは声を太く作ってきちんと線が太く見えました。立ち回りは勢いもあるし大きさもあって頑張ってました。でもやっぱり頑張ってます感が少々…。見るからにどすこいな雰囲気は残念ながらあまり無いかな。

ここ、役が反対では?と言う声が多いです。確かに私もそう思います。そのほうがそれぞれがニンにあってすんなり演じてこれたんじゃないと。でも、お互い色んな役を経験するという意味では二人ともそれぞれしっかり演じてきたので良し。

「竹の間」
政岡@玉三郎さん、若いですね。雰囲気が若い。凛としていて意思の強さあり、母性の部分より乳人としての役割を自分にきつく課しているという風情。品格がありつつ、乳人の立場をわきまえた存在。ここは終始受けの芝居。今回は2004年松竹座で演じた時より、かなり弱々しさが強い感じを受けました。松竹座の時は八汐との対決で見せる気丈さとそのなかで見せる立場の弱さを体全体で演じていてそのメリハリがとても良かったと思うのだけど…。乳人としての「母性」を感じさせる優しげな雰囲気も若干以前より足りない感じ。ここで乳人として鶴千代をどうにかして守らなくちゃ、という心情が前に出てこないと、と思うのだけど薄く感じた。う~ん、足をかなり引きずっていらしたので、体調が悪かったかな?と思うしかない。この場で観客を政岡が可哀相と心情的に味方に付けなければいけないのだけど八汐に取られちゃってたなあ。

八汐@仁左衛門さん、見事に芝居を自分のペースに巻き込んできた。当たり役だけあって自在。きちんと女形としての柔らかさ、格の大きさを見せるなかに嫌らしい性根をみせていく。その憎々しい表情のなかにどこか愛嬌をもにじませる。かなりネチっこく非情さを見せつつも、虎の威を借りた底の浅さをポロッとのぞかせる、その間が上手い。敵役だが観客を見方につけてしまう場面も多々。押し出しがかなり強く、政岡をとにかく追い込んでいく。役とは別なところで仁左衛門さん、お膝がかなりきつそうで、座る場面でガクンと膝を打ち付けるような感じになっていてかなりハラハラ。女形の着物は長いし重いし、それを捌くのは大変なんでしょうね。にしてもお膝を悪くされている役者さん、多いですね…。

沖の井@福助さんが、八汐@仁左衛門さんにがっちり対抗し丁々発止と渡り合っています。福助さん、夜の部のお園に比べこちらはかなり良い出来。八汐の詰の甘い策略をしっかり論破していく。いかにもしっかり者という雰囲気の手強さがある沖の井、かなり好きです。仁左衛門さん八汐の大きさに負けない大きさをみせてきました。キッパリとしつつも、負けないわよ、な対抗心が楽しい。たぶん、この沖の井は八汐のことをどこか好かない感じを元々受けていたんだろうと思わせました(笑)。理を求めて図らずも政岡を擁護しているキャラではなく(時蔵さん、染五郎さんの沖の井はこちらのキャラでした)、明快に政岡寄りの心情が見え隠れ。

松島@孝太郎さん、地味ながら落ち着きのある佇まいがよく、場の押さえになっている。控えめながら出るとこはきちんと出て、八汐@仁左衛門さんに負けない強さもありました。局としての格も十分にあり良かったです。

「御殿」
政岡@玉三郎さん、やはり全体的に弱い、と感じてしまいました。「まま炊き」から「殺された千松に対してのクドキ」まで非常に細やかに心情を描写しているとは思うし、気を張りつつ丁寧に演じていたし、ダレるところは一切なかった。だけど私にはかなり物足りなかったです。もっとその場、その場での心情を前に出して演じていただきたかった。心情の緩急が今回なかなか前に出てきてないように見受けられました。個人的に大阪松竹座(2004年11月21日)に拝見した時の玉三郎さんご本人の政岡がとても気に入っていて、その時とどうしても比べてしまいます。

神経を張り詰めていた「竹の間」から「御殿」に移り、心情的にホッと一息つき、鶴千代と千松に対し、いつもの関係性が出る場。叱ったり、褒めたり、なだめすかしながらご飯の支度をしていく。そのなかで鶴千代大事な乳母としての心持ち、千松可愛いという母としてのちょっと子に甘えつつな心持ち、そういう柔らかな優しさが以前ほど出てなかったです。絶えず神経を張り詰めていることへの疲れが見えてました。現実的にはこういうのは十分アリだと思いますが後の悲劇を際立たせるためにも、もう少し自分達だけしか信用できないという三人の結束の強さのなかのほのぼのとした空気、そして母として子供たちに早くご飯を食べさせなくちゃという焦り、そういう空気を作っていただきたかった。

子役二人はとっても可愛くて、台詞もしっかりしているし、若君らしい我侭と鷹揚さ、千松の母のため、という一途さがきちんとあって泣かせてくるだけに、ここでの政岡には包み込むような母としての優しさ大きさがもう少し欲しかった。

そして栄御前の入り後、千松が弄り殺される場。玉三郎さんは鶴千代を打掛けに隠すやり方。ここでの政岡@玉三郎さんは千松を一切見ずに八汐だけを見ています。これは松竹座でも今回でも同じですが気持ちの持っていきようが微妙に違うように見えました。松竹座では悲痛さを耐えに耐え、泣くまいと必死に堪えるといった気迫といったものを感じた場。今回は内心の悲痛さを押し殺し、怒りを溜めていっている感じ。覚悟をしていたとはいえなぜ千松が殺されなければいけないのだ、という哀しみの怒りのほうが前に出ていたように思いました。

そして千松の遺骸と二人だけになった場。ここ、個人的に慟哭が足りなかったです。クドキの台詞がもうひとつ哀しみの気持ちと一緒になっていない感じ。気持ちが慟哭のほうに流れていかないというか。気持ちと台詞がブツブツと切れている感じで感情を一気に吐き出せてないというか…。なので息子に対する申し訳なさの母の気持ちより、そこをも気丈に耐えうる「烈女」の印象が大きくなる。だけど玉三郎さんはそこを表現したかったのだろうか?。それなら「竹の間」での芝居は少し違ってしまう。そうでないと思う。

ここでも比べてしまいますが、松竹座では全身をよじるようにして、そしてなんとも悲痛な声で嘆いていました。一気にただの「母」になった瞬間の崩れ、その悲壮感と哀れさが本当に見事だったと思う。私はこの政岡が見たかったんです。どうしよう、どうしよう、なぜこうなってしまったんだろう?そんな嘆き方だった。自分の言いつけを健気に守ってくれた息子に対するすまなさと誇りと、自分の立場の苦しさと、それが一気に吐き出されていました。弱い母の部分が一気に出てて、私は観ていてもうただ一緒に泣くしかなかった。そういう政岡を今回も観たかったです。

栄御前@歌六さん、こういう役は珍しいですが品よくしっかりこなされていました。ただ、栄御前という人物の腹に一物、といったいやらしさとか得体の知れなさのなかの抜け感といった味わいはまだまだかな。

八汐@仁左衛門さん、ここでも強烈。かなり非情な八汐ですがどこかしらに可愛らしさがある。そのバランスがとてもお上手です。

この場、幕切れで小槙が再登場します。企みの逆転劇。栄御前がなぜあっさり騙されたかが判りやすく、また八汐の企みもハッキリさせるので筋が通りやすくなります。絵面的にも華やかになりますので歌舞伎座でここを持ってきたのは正解じゃないかなと思います。

「床下」
男之助@三津五郎さん、この場だけのご出演。もったいないですねえ。小粒ながら声の通りもよく、形はもちろん綺麗ですし、存在感があってお見事です。

仁木弾正@吉右衛門さん、大きさと存在感がたっぷりの仁木で見応えあり。豪快で巨悪といった風情。が、異様さとか妖気といったものはあまりありません。目の拵えをもう少し強くてもいいかな?とか。

「対決」「刃傷」
対決の場の仁木弾正@吉右衛門さん、神妙に控えていても存在感が大きいです。悪人風情はしっかりあるのですがどこか懐が深い大きさを感じさせます。真っ直ぐな悪、というのも変な言い方ですが、吉右衛門さんの悪はスケールが大きいんですよね。この場のせせこましい、奸智に浅さのある仁木の人物像と齟齬を起こしています。白々しい受け答えにネチっこい嫌らしさがもっとあってもいいと思うんですよね。でもこの仁木なら隙を見せずにもっと大きくハッタリを利かすだろうという感じなんですよね。そこで悪のありようが少し中途半端になってしまっているというか、やり込められるところにかえって爽快感がありません。「刃傷」でも仁木は本来ならやはり異様さが必要かと思いますが、その異様さはなく、ひたすら大きいずっしりとした悪の華。でもこの場の吉右衛門さんの問答無用の存在感は仁木のキャラクターを無視してもいいくらい悪の凄みがきいてかっこよかったです。

個人的にはかなり怪しい人物ながらどこどなく抜け感のある、という感じは幸四郎さんのほうが上手いと思いますし、妖気漂うという部分もありますし、イメージ的には幸四郎さんが全体を通すとなると一番、仁木がニンかなあと。そして吉右衛門さんのニンは勝元だろうなと。懐の太さ実直さ役柄の重さなどバランスの良い素敵な勝元になりそうです。この配役でいつか観てみたいです。

細川勝元@仁左衛門さん、意地悪な八汐から打って変わって、爽やかな捌き役。「対決」さっそうと登場し、いかにも正義の味方という明るさやかっこよさがあります。場の雰囲気を一気に自分に引き寄せていました。そのなかでただ真っ直ぐに正義を振りかざすわけではなく、理をきちんと通していく聡明さをそのまま体現。台詞がいいんですよね、聞かせてくる。そこに場の空気を読むのがうまい、有能な捌き役といった風情が生まれていました。そのなかに少しばかりちょっといけずな雰囲気があるのが仁左衛門さんらしく、仁木をやりこめられることが嬉しそう。「刃傷」でも颯爽と登場し、瀕死の外記に温情を見せていきます。しかし、個人的にはこの場は愁い顔はあるものの明るすぎるというか少々鷹揚な軽さを少しだけ感じてしまいました。もう少しこの場では重厚さや哀を含んでいるといいなあ。

山名宗全@彦三郎さん、融通の利かないお役人といった風情。悪に加担しているといういやらしさがもっと前にでると面白くなりそうです。

渡辺外記左衛門@歌六さん、前の幕で栄御前を演じていたとは思えないほどガラリと変わって実直な老武士を演じます。いかにも自分の良心に恥じずに生きてきた雰囲気でお人よしな感じだけに鬼貫や弾正らにいいようにされてしまう詰めの甘さがみえます。それだけに訴えが認められない場に悲哀が漂います。

渡辺民部@染五郎さん、父想いの優しい青年といった風情です。自分が、ではなく介助して父に仁木のトドメを刺させる、という行動に破綻のないキャラクター。その一生懸命な爽やかさがいいです<あっ、たぶん贔屓目(笑)。染五郎さんは、どことなくオロオロした感じが上手いというか可愛い。

歌舞伎座『さよなら公演 四月大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄り

2009年04月11日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 四月大歌舞伎 夜の部』3等B席下手寄り

『彦山権現誓助剱』「毛谷村」
この演目は大好きなのですが今回ちょっと大人しい出来だった感じがしました。全体的にメリハリが若干足りなくて、ほのぼのとした大らかさもどこか足りない感じが?座組み的にはアンサンブルは良いはずなんですけど。

六助@吉右衛門さん、大らかで朴訥とした六助は非常にお似合い。人としての大きさや優しさがある六助。佇まいに説得力がある。また怒りや憤りを爆発させる部分に上手さを見せる。安定感はあるもののただ少々お疲れか、もっと覇気が欲しかったような気がする。どこか勢いが足りなかったかな。特に前半がもうひとつ、いつもの吉右衛門さんらしからぬ感じが。後半にいくにつれメリハリがついて、いつもの大きさは出ていました。

お園@福助さんは三月のおみのに続き、もうひとつ納得できず。娘役がニンじゃなくなってきてる気が…。六助が許婚とわかって恥らうところ、恥じらいではなく媚態にみえてしまうのは良くないんじゃないかと思う。また、柔らかく作りすぎて、絡み手を使ったくどきの部分もメリハリがなく冗長に感じてしまった。ここは見せ場になるはずなんだけど…。なんというかお園の心情がうまく伝わってこない。お園の女武道家としての強さのなかに娘らしい気持ちがあってこそ、この演目は活き活きと活写されるのだと思う。この役は段取りが多く難しい役ではあるがもう少しひとつひとつ丁寧にやってほしい。前半どうなることかと思ったけど六助が中心になる後半は佇まいもよく、しっかり六助を立てていてまあ良かったと思う。

ちなみに絡み手を使う派手な演出は播磨屋型です。
(4/20追記:*筋書きを読んだところ絡み手の演出は成駒屋にもあるそうです。今回、福助さんは成駒屋型のお園とのこと。友人と播磨屋型と成駒屋の違いはあるかな?と少し検証しましたが詳細はわからず。ただ絡みの殺陣の型が若干違うかな?くらい。)
女武道の部分が強調され、強さと女らしさの落差をみせます。絡み手を使わずお園の心情を丁寧に描写するのが京屋型です。京屋型のほうが少し地味ですがお園の娘らしさが前面にでます。最近では染五郎さん、亀治郎さんコンビでの『毛谷村』のお園が京屋型でした(亀治郎さんは雀右衛門さんにお稽古をつけてもらい、後見もわざわざ京屋の京蔵さんを使いました)。女形さんにとっては京屋型のほうがやりやすいんじゃないかと思いますが時蔵さん、芝雀さんは播磨屋型で演じても娘らしい恥じらい、可愛らしさが十分出ています。しかし福助さんは柄からいって女武道の骨太さがありすぎるくらいなので播磨屋型/成駒屋型より京屋型のほうが良いかもしれません。

お幸@吉之丞さん、この役は吉之丞さんでないと、と思うほどの当たり役。品格がありつつそこはかなとなくユーモアを含む。一味斎の奥方としての格の在り方が大きく、それでいて女性らしい柔らかさがあるのが本当に素敵です。少し足元が弱られていたのが心配。台詞もいつもより弱くメリハリが若干ですが薄い感じがしました。お体に気をつけて長く舞台に立っていただきたいです。
                
杣斧右衛門@東蔵さん素晴らしかったです。この役がこんなに納得し、引き立ったのを初めて観たような気がします。あんなにひょうきんな拵えで台詞も言葉遊びだったりするのに、亡くなった老母への想いが切々と伝わってきます。こんなに良い役だったのかと目から鱗でした。

微塵弾正実は京極内匠@歌昇さん、丁寧に演じられていました。目が利いてなかなかにふてぶてしさがありました。「杉坂墓所の場」があるとなお活きたと思うのですが歌舞伎座ではなかなかこの場はやりませんねえ。


『夕霧 伊左衛門 廓文章』「吉田屋」
久々にこの演目観ました。そういえばと~っても苦手でした。話が嫌いとかではなく、むしろ他愛もなくてほのぼのするのです。でもなぜかいつもすんごく眠くなってしまうのです…。そしてせっかくの久々の仁左玉コンビの『吉田屋』だったのに、今回も時々気が遠くなってしまいました…でも眠るまではいかなかったのは個人的にはかなり相当きちんと見れたってことなんですが(苦笑)

仁左衛門さん、可愛い~。ちょこちょこ歩きがなんて愛らしいんでしょう。でも気が遠くなる。秀太郎さん、こういうの絶品。でも気が遠くなる。我當さん、足が辛そうですが楽しそうに演じられててほのぼの。松嶋屋三兄弟が揃うのってワクワクするわ~。でも気が遠くなる。玉三郎さん、超綺麗です~~。打ち掛け、豪華ですね、でも負けてないわ、玉さま、素敵。でも気が遠くなる。という繰り返しでした…ううっ(涙)。なのでまともな感想書けません…。

『曽根崎心中』
藤十郎襲名披露の時の『曽根崎心中』がもうなんか違う~~、という感じで藤十郎さんの世話物の女形、特にこのお初は苦手(藤十郎さんは時代ものの女形は大好きです)と思っていたのです。私のお初のイメージとまったく違っていて(個人的に文楽の初々しい健気なお初のほうが好き)、今回観なくていいかなと思っていたのです。しかし周囲の評判がよく、とりあえず観ることにしました。そしたら思った以上に楽しめて自分でもビックリ。

藤十郎さんのお初で気になっていた台詞のずるずる度が減っていた&カマトト度が少し減っていた部分で最初から入り込めたのがまず良かったというのと、なにより天満屋店先でのお初の「死」の覚悟の部分が、徳兵衛と共にの心持が強く見え、ただの自己中心的でなくなっていたのが非常に良かった。今回はお初の心情にだいぶ沿えた感じ。

たぶん、徳兵衛@翫雀さんと九平次@橋之助さんの芸が成長したために座組みのバランスが前回より良かったせいかとも思う。前回は藤十郎さんのお初が突出しすぎて熱演が空回りしていた部分もある思った。たぶんその部分が今回だいぶ押さえられていたんじゃないかしら。

徳兵衛@翫雀さん、前回に比べかなり徳兵衛という人物像を咀嚼してきていたように思う。徳兵衛の人のよさや弱さ、またお初に対する情熱などがしっかり造詣できていて、きちんと藤十郎さんのお初に相対していたと思う。

九平次@橋之助さん、前回は大阪の商人にはみえなかったのだけど、今回はきちんといけずな大阪商人でした。九平次がきちんと表現できないと、徳兵衛の悲哀が活きてこないのだけど、今回きちんと徳兵衛を追い詰めていました。橋之助さん、かなり良かったです。

久右衛門@我當さん、この役は当たり役かなと思うのですが前回以上にすごく良かったです。ニンに合ってるという部分だけでなく、徳兵衛を思いやる気持ちがよく出ていました。足の調子の悪さもなんのその、台詞が絶好調なので存在感がありました。いつも以上に久右衛門@我當さんに対して拍手がわっと沸いてました。

田舎客の儀兵衛@錦吾さん、代茂兵衛@亀鶴さんと脇もかなり揃っていました。