Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 3階前方センター

2004年12月24日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 3階前方センター

『花雪恋手鑑』
さすがに後半だけあって座組のまとまりがよく、テンポが良くなっていてお話のどうしようもなさが妙にストレートに伝わってきてしまった前回と違い様式美の部分も出てきてちゃんと歌舞伎になってました。上方の雰囲気が出てきたとは言い難いものの、役者たちの関西弁がだいぶ板につき「お江戸」の雰囲気よりは柔らかな空気感はなんとなく出てたように思います。今回は主役はもちろんだけど役者さんたち全員が色々と頑張った芝居だったなあと感じ入りました。

染五郎は京都弁の言い回しに苦労しているなという部分が無くなり台詞の言い回しをかなり自分のものにしていたのには感心。柔らかさが出たとまでは言わないけどキメの部分などだいぶ和事の雰囲気は掴んできたかなと。それと赤子との一人会話の間が良くなっていた。これはなかなか難しい部分だろうと思っていただけに、よくここまでもってこれたと思う。前回観た時は『花雪恋手鑑』の染主演の再演はどうだろう?と思ったんだけど、今回のを観て再演もありと考えが変わりました。5年後くらいに観て見たいです。

染五郎の頑張りのなかで、芝雀さんの小雪がやはりポイントとして締めていてくれてたなあと私は感じました。芝雀さんの可愛らしくそして品のある色気の小雪は『花雪恋手鑑』という歌舞伎のなかでの女としての存在をきっちり伝えてくれていました。どーしようもないばか旦那に惚れていて時に厳しく、時に甲斐甲斐しく接する姿に、女の可愛らしさを見せ、そして強姦という生々しいシーンですら美しい姿を見せる。女形だからこその形の美しさや硬質な台詞回しで歌舞伎の様式美のなかに引き込んでくれました。上方の女形が見せる特有のエロチックを感じさせる色気が無いというむきもあるとは思いますが題材が題材だけに今回ばかりは小雪が芝雀さんであったことで国立劇場で見せる芝居として受け入れられるものになったと個人的には思いました。

とりあえず全体的に楽しい芝居になっていてよかった。

『勧進帳』
幸四郎さんは観るたびに微妙に違う弁慶になっているような気がします。いまだに試行錯誤されているのか…。私のほうも観た位置が違うので確実なことはいえないのですが、それにしてもこれにはちょっと驚きです。今回の弁慶は義経への気遣いがより強いものになって、泣きの部分が非常に好感のもてるものになっていました。また富樫との対決の場の気迫が素晴らしく、前回2回の時より存在感の大きさがでてました。これは染五郎富樫がより厳しいものになったせいでもあるかもしれません。それにしても幸四郎さんの弁慶は3階からも表情がよく見える。前のほうで見るとやりすぎ感をどうしても感じてしまうのだけど上からみると大きさが際立つ。これはバランスが難しいんだろうなあ。

染五郎の富樫は観るたびに良くなっています。従来のちゃんとした声は残念ながら戻ってなくて、ところどころキツそうな部分がありましたが、だいぶ台詞が前に出るようになっていて、低音などは3階にまでびりびりと響いてまいりました。そして情を殺しあくまでも弁慶一行に対し厳しく見極めようとする凄烈な気持ちが伝わってきます。あの厳しさがあるからこそ、弁慶が主君を打たざる終えない気持ちの苦しさが際立つ。問答~呼び止めのシーンの染五郎富樫の迫力と形の美しさ大きさは素晴らしいものがありました。そのシーンでは周囲から声にならない感嘆のザワも起こっていました。富樫の引き上げの部分の解釈は上から見てても、抑制された感情のあり方がやはりいいなあと。

芝雀さん義経は相変わらず優しげで可愛らしい義経だ。小柄だからそう見えちゃうのもかもしれないけど時に子供ぽい儚さがあるんだよね。能の子方みたいと言われてしまうのもしょうがない。ほとんど男役をやったことないし、武将としての格はこれからもっと付いていくでしょう。でも気合が入っている台詞回しは非常にいいと思う。

それにしても弁慶一行と富樫一行が対峙するシーンの歌舞伎ならではの絵画的な美しさにただ感動しました。こういうのがあるから歌舞伎って好きなんだよなー。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 1階前方花道脇

2004年12月18日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 1階前方花道脇

『花雪恋手鑑』
46年ぶりの復活狂言で別名『乳貰い』。上方狂言が好きで研究しているという染五郎が「役者の色で見せる芝居をしたかった」という理由で選んだんだそう。大正時代に風紀が乱れるという理由で上演禁止された演目。その内容は、もうなんというかどうーしようもないお話でして(笑)。監修の奈河さんが「鷹揚にご見物のほどを」と筋書きについ書いてしまうほどのどうしようもなさ。

放蕩のあまりに家から勘当された四郎二郎はこっそりと許婚の小雪に金の無心。その日、小雪はかどわかしにあってしまうが必死に逃げ出し気絶寸前、そこに四郎二郎が通りすがり、たまたま触れた女の肌に魔が差して襲ってしまう…をい(^^;)。暗闇なのでお互い相手が誰だか知らないまま四郎二郎は逃げ、小雪は自殺しようとするが通りすがった商人に助けられる。さて1年後、大阪にいる四郎二郎は相変わらず放蕩三昧。いちおうお家の宝刀を探すという目的で大阪にいるんだけど、そりゃ言い訳だろっとツッコミが入りますわな。で、金に困った四郎二郎が金のため、養子先を探していた赤ん坊を引き取るのだが、その赤ん坊を生んだのがなんと許婚の小雪。そうと知り「貞操を守ると言ってたくせに愛人を作ったな」とさんざん文句をたれるんだけど、実はその子供の父親は自分だった、と。んで、なぜかたなぼたで宝刀も戻ってきちゃう、というそんな阿呆なというツッコミどころ満載のお話です。

こういうばか旦那を愛すべき男として描くのが上方世話狂言なのですが、このばかあほ旦那の四郎二郎を染五郎がくねくねひょこひょこじゃらじゃらと演じておりました。こういうどうしようもない男を染五郎は品よくキュートに演じて「こいつ、あほや(笑)」で納めるだけのキャラクターに仕立ておりました。そこかしこにネタ台詞を入れつつ笑わせてきちんと喜劇になっていたと思います。特に出でのピンクのほっかむりをした着流し姿にはふわっとした色気が出ており、またどこか憎めない可愛げのある仕草や、コト!が終わったあと逃げる部分での身のこなしもなんだか色っぽい。

部分部分ではとてもいい出来かなとは思ったけど、やはり間が悪い部分や、京都弁の台詞がうまくのってこなかったりというところも多かった。京都弁の言い回しに苦労しているのが見えちゃうんだよね。やっぱりニンではないなあと思う。いわゆる上方役者に必要な柔らかいねっとりした色気は残念ながらなくて、やはり硬さのほうが目立つ。とにかくやってやるといった若かさゆえの勢いがあったこそ出来た四郎二郎かなあ。ただ、染五郎のもつ品のある硬さがかえって、リアルすぎないものになっていて、この下世話な物語が「見てられない…」といったものにならなかったのかもしれない。

でも鴈治郎さんとか勘九郎さんあたりやったらかなり面白そうと思うのも事実。この二人、間の良さとか柔らか味のある愛嬌とか天性で持っている役者だからねえ。そう考えるとやはりこの芝居は染五郎大挑戦の巻でしたね。染五郎さんは上方狂言が好きで今後も挑戦していくつもりのようだ。柄として元々柔らか味が薄い人だけにかなり大変なことだと思う。ただ、面白い狂言を観客に提示していきたいという意気込みは買うし、険しい道のりだけど地道にやっていってほしい。でもそれだけじゃなく江戸歌舞伎の柄に合う役もいっぱいやってね。

芝雀さんの小雪は可愛らしくて、けなげな様子がぴったりでした。やっぱりこういう役が似合う役者さんだよな。最初の場の「こちの人~」などの会話のバカップルぶりの部分など笑えるんだけど可愛らしいから微笑ましいんだよねえ。またいいところのお嬢さん風情と芯の強さが出てて若さで突っ走った演技をする染五郎をきっちりと受け止める演技はさすが。

周りの役者もまとまりがあってよかった。ただやはりほとんどの役者が江戸育ちだけあって、上方狂言の雰囲気がほとんどなかったのが残念。京都や大阪といった風情が見えてこない。江戸世話物に少し上方の雰囲気が混じってたという感じかな。こればかりは身に付いた空気感だからねえ、難しいでしょう。


『勧進帳』
前回拝見した『社会人のための歌舞伎入門』の『勧進帳』とはだいぶ雰囲気が違ってました。幸四郎さんは前回かなり表情が大きくて、ある意味富樫にばればれやん、と思わなくもなかったのですが今回はその表情の部分がかなり抑えられ、ハラに収めている感が出てながら義経を気遣う雰囲気もたっぷりあって緊迫感が出てました。大きさ、存在感も抜群。声もよく出ていた。ただ、富樫のやりとりから開放されてホッとして義経から労われる部分はやっぱり大げさかなあ。もっと抑えた泣きのほうが心に訴えてくるのではないだろうか。延年の舞の場面はやはり良い。前回『社会人のための歌舞伎入門』での派手な演出は今回は無し。あの派手な踊り部分、大変だろうけど見ごたえはあったんだなあ。でも普段のあっさりした演出で十分真意が伝わる。六方の引っ込みも今回のほうが礼節な雰囲気があってよし。前回はしてやったりな満足感がちょっと出ていたので。

染五郎の富樫は気迫が出てきてますます神経を研ぎ澄ました厳しい富樫になってきていました。弁慶の仕草ひとつひとつに集中し、隙を見逃してはならじとしている姿が美しかったです。あくまでも厳しく弁慶と問答するシーンは声の調子もだいぶ戻ってきているようで迫力が出ていました。ぎりぎりのところで感情を抑え、悟られないようにしつつ、温情をかける、そんな富樫像が見えてきました。この解釈の染富樫、好きです。弁慶との問答の時などもっと声を張ってもいいかなとは思うけど、やはり少しかすれそうになるのが残念ではありました。あと贅沢を言えばもっと大きく動いてもいいかなと思うシーンもありました。でもこれは回数こなすうちに出てくるでしょう。染五郎本人にとってまだいっぱいいっぱいの役らしいのですが、どうかこれからも富樫役にはチャレンジしていってほしい。富樫役は絶対に染ちゃんのニンの役だっ。

芝雀さんの義経はやっぱり品があってそして情があっていい。前回より主君としてのただすまいが出ていたと思います。とても気合が入っていてました。弁慶へのねぎらいのシーンは本当にしみじみと義経の弁慶への信頼が感じられ、胸に響きました。

あと前回書き忘れましたが四天王の出来が素晴らしい。声の通りが素晴らしく、秀調さん、高麗蔵さん、亀三郎さん、錦吾さん、それぞれに個性がありつつ結束があり気迫がこもっていて本当に良かったです。

帝国劇場 劇団☆新感線『SHIROH』 2階前方下手寄り

2004年12月16日 | 演劇
帝国劇場 劇団☆新感線『SHIROH』 2階前方下手寄り

期待しすぎました…。基本的にはいのうえ歌舞伎なんだろうと思ってのぞんだ観劇でした。稽古風景を見る限り、新感染のような歌舞伎&ストレートプレイ&小劇団ネタ系のジャンルミックスがうまく融合した『阿修羅城の瞳』『髑髏城の七人』と同じ感覚で観られると思っていました。が、それは裏切られました。

良い意味ではきちんとミュージカルになっており思った以上に歌を堪能できたという部分。

反対に悪い意味では、新感線劇団員がミュージカルという枠なのなかで完全に浮いてて、どう贔屓目で見ても良いとは思えなかった部分。また演出のなかで頑張りすぎて違っちゃったという部分があり、その最たるものがモニター。多数使用していたのだが完全に邪魔だった。2階席から見るとチカチカして役者を観るのに邪魔になりうっとおしい。またその使い方も歌詞や台詞を映し出してみたり。おい、おい、歌の台詞を聞かせる自信が無いわけ?と邪推してしまった。

一番ダメだったのは脚本かも。あんなにだらだらメリハリの無いストーリーでいいんでしょうか?書きたくないけど正直に言えば、『SHIROH』という芝居のなかで新感線劇団員すべてがいなくても成り立ったであろう、そしてその部分を脚本で切ってしまったほうがより良い芝居になりそうと思ってしまう出来だったのが一番がっかりした部分です。これは新感線らしさを出そうとした演出のせいでもありますが、客演と劇団員がまるでかみ合ってない状況のなか、客演が良い出来だっただけに、劇団の贔屓役者の良さがまったく出てないというか悪い方向に出ているのを目の当たりにした悲しさに泣きそうになりました。観る人によってはあれでいいのかもしれないけど…だから劇団員個々に言及しません。

私が今回良かったと思ったのはすべて客演の人たちでした。特に上川さんは芝居の地力が違うという感じ。そして中川さんの歌のうまさと華だけで魅せられる存在に圧倒させられました。メリハリの無いストーリーでしたが個々の役者の魅力で持たせたようなものです。

上川隆也さんは小劇団出身でミュージカル初体験という新感線劇団員と同じ土俵にいるはずなのに、突出して役者としてのうまさ、凄さをみせました…。凄いと思ったのがミュージカルという演劇体系のなかにきっちり自分を持っていってしまっていた部分。これからミュージカルにもっと出ない?と言われてもおかしくない出来だった。歌はすごく上手いわけではないけど、台詞であり役の感情を表す表現としての歌がきっちり出来ていました。しかも声が艶やかで非常に聞きやすい。役柄的にはしどころが無い感じで難しい役だったと思いますが、それをまっすぐに演じて芯としての存在感がありました。

中川晃教さんは芝居はちょっと出来てない感じで台詞になかなか感情がのってこない一本調子。でも歌になると俄然、感情が表に表れてきます。歌い方はちょっと独特で正統派ミュージカルの歌い方ではない。でもハイトーンの歌声は今回の天の声を持つ天草四郎役にはピッタリだったと思います。またとても華があるのと同時に純粋な雰囲気が出ていたのも役柄的に良かったです。

高橋由美子さんは、TVのイメージと違っていて一番の驚きだったかも。あれほどきちんとミュージカル女優としての存在感があるとは思ってもみませんでした。芝居は元々うまいけど歌が非常に安定していて、時に激しい感情を歌にのせる部分がかなりの迫力。見直しました。上川さんと高橋さんのシーンをもっと増やしてほしいと思う。高橋さんはもったいない使い方だったなあ。

吉野圭吾さんはなんとネタキャラを振り当てられていたのですが、それがなんともハマってて楽しい。歌や身体性が優れているだけに、ネタキャラとして一番目立っておりました。劇団員を食ってましたね。彼を見てミュージカルでネタキャラをするときはミュージカル役者としての資質がないとダメなのねと思った…。

秋山菜津子さんは「うまい」その一言。ある意味一番キャラ立ちしていた。唯一、きちんと心情に訴えかけてくる役柄でキャラ的に美味しいとはいえ、表現のうまさでメリハリのないストーリーを救っていました。

泉見洋平さんは天草四郎の友人役。最初のうちはそれほど目立たず注目しなかったのですがなぜか途中から視線がいくようになりました。可愛らしい男の子といった一生懸命さに好感を持つといった感じ。歌も非常に上手という感じはしないのですが聞きやすく安定しておりました。

杏子さんはあのハスキーボイスがかっこいい。役に合ってるか?という部分ではちょっとどうかな?とも思うし、ミュージカルの歌い方ではなく、まさしくロックボーカリストの歌。でも、役云々ではなくやっぱり歌いだすとかっこいい~というあの存在感が私は好きです。あと歌ってる時の煽りのフリがうまい。自分がピンのときは控えめにしてるけどアンサブルで歌うときの踊り方がまさしくアンサブルを煽ってるような感じがする。あのノリの良さはボーカリストとして板に立ってきた人ならではで、つい目がいく。

江守徹さんは書くまでもなく、独特の存在感で舞台を支配しております。決してうまいとは思えないけどブルースのような歌が似合って、スコンと舞台にハマってる。また細かい台詞がしっかり届いちゃう台詞術にも、ああやっぱりうまいなと。この方が一番楽しそうにやってます。

アンサンブルは歌のハーモニーがとても良く、アンサンブルとしての仕事をしっかりこなしていて好感度抜群です。

日生劇場『ロミオとジュリエット』1階後方上手寄り

2004年12月11日 | 演劇
日生劇場『ロミオとジュリエット』1階後方上手寄り

演出:蜷川幸雄 出演:ロミオ(藤原竜也) ジュリエット(鈴木杏) 僧ロレンス(瑳川哲朗) 乳母(梅沢昌代) マキューシオ(高橋洋) ティボルト(横田英司)

藤原くんが評判通りのうまさを見せた舞台でした。あんなに背が高いくてかっこいいとは思ってもみなかった。TVでの藤原くんは小柄に見えるし、それほどオーラも見えないと思うんだけど舞台の上では素晴らしい存在感。彼も板の上のほうが確実に光る役者だねえ。あと演出家の蜷川さんのすごさもわかったかも。TVではいくつか蜷川さん演出の舞台を観てるけど、やっぱ生で観ないとほんとのとこはわからないよなあと思いました。舞台転換なしで様々なシーンを見事に作り上げていく手腕にはただお見事というしかありません。

ただ芝居としてはかなり物足りなさを感じました。ごくシンプルな舞台装置と衣装なので役者の実力がストレートに分かってしまう若手役者にとっては厳しい舞台だったのではないでしょうか。若さを前面に押し出して、若さゆえの暴走、愛までに至らない恋の盲目的な情熱、そして幼いがゆえの可愛らしさを表現しようという狙いは十分に出てたとは思います。主役二人は膨大なセリフもきっちり伝えるテクニックもありました。そこはさすがだなとは思ったんです。でもセリフにどの感情をのせていくか、という部分で恋情や悲痛さが伝わってこなかった。

藤原竜也くんは非常に無邪気で可愛いロミオを造詣しておりました。抜群の存在感とセリフ術のうまさには舌をまきました。若手でこれほどのセリフを操れる人はそうはいないのではないかと思ったほど。ロミオの基本的に直情型で素直な感じがよく出てた。前半のロミオは誰にでも愛されそうな雰囲気がとてもよかったです。バルコニーでのシーンは恋に突っ走ってる若者がそこにいました。ただ、ティボルトを殺してしまったその後のジュリエットの絡みからがいまひとつ。恋情~悲哀~絶望の道筋が見えてこないんですよね。ジュリエットだけを見つめていかなければいけないと思うんだけどそこの感情がどこか薄い。だから最後が訴えてこない。

鈴木杏ちゃんも、可愛らしい華がありかつセリフを伝えるというテクニックは素晴らしいものがありました。ただ感情の乗せかたが一本調子。キャラとしてアオドクロのときの狭霧と一緒だったのが残念でした。アオドクロの時は気が強くて一途なキャラがうまくハマっていたんだけど…。ジュリエットには痛切なまでの恋情が必要だと思うのですがその部分が見えてこない。あまりにも幼い恋、ということで演じてるのかなあ。でも14歳といえどあの当時の女性は今の14歳より大人だし、哀れさがあってもいいと思うんだけど。泣きの演技が赤ちゃんのようでした。悲痛さが感じられない。

この二人にはロミオとジュリエットの組み合わせとして年齢的にも実力的にも非常に期待したのですが…。すれたおばさんを泣かせるにはまだまだかな(笑)。恋愛劇って難しいんだなと思いました。

そんななか、ベテラン勢はやはりすごいね。特に瑳川哲朗さん、梅沢昌代の自在に操るセリフのうまさと演技の深さが素晴らしかったです。伊達にベテランやってないよって存在感。若手ではマキューシオ役の高橋洋さんが光っていました。彼のセリフの調子のよさや早台詞のなかにきっちり感情が入っているのにとても惹かれました。サングラスでお顔を隠してるのがもったいない。この人は大注目していきたい。 

国立劇場『社会人のための歌舞伎入門 ~勧進帳を愉しむ』1階前方花道脇

2004年12月10日 | 歌舞伎
国立劇場『社会人のための歌舞伎入門 ~勧進帳を愉しむ』1階前方花道脇

『勧進帳』
松本幸四郎さんの弁慶は2度目です。何年振りだろう。つい最近観た三津五郎さんの弁慶と較べながらみてしまいました。幸四郎さんはさすがに動きが大きくて迫力がありました。入門編ということで、表情を大きくしたのか、弁慶の心情がかなり顔に現れており、わかりやすい弁慶でした。でもその代わり自信たっぷりな部分で、命賭けて義経を守るといった部分の緊張感が少し欠けたかなあ。以前拝見した時はもっと感情をハラに隠し持ってる雰囲気があって一筋縄じゃいかないかつ情のある弁慶だったように思うんだけど。私としてはそちらのほうが好きだったのですが…。あと、お酒の飲み方が思いっきりのんべおやじ入ってて、なんだか可愛いおやじ弁慶だった。もちっと豪胆な感じのほうがいいなあ。しかし最後の延年の舞の場面は酔って踊ってるふうで絶えず富樫の隙を探しといった表情が見事だし、六方の迫力はさすがという感じでした。

もしかしたら初役か?と思っていた染五郎の富樫はどうやら歌舞伎教室かなにかで10年前に演じてるらしい。私としては初見の染五郎の富樫はちょっと冷静な判断は出来かねる。とにかく浅黄色(淡い水色)の衣装の富樫の拵えが似合いすぎて、かっこいいというよりお人形さんのような美しさ。ちょうど私が座った席の位置が富樫最初の出の立ち位置で、真正面から染ちゃんのきれいな眼差しを見てしまい、すっかり心を持ってかれました。どうやっても目が染ちゃんの方向に向いてしまう。海老蔵さんの富樫もきれい、と思ったけど染ちゃんの姿はまたなんかちょっと違うきれいさ。

そしてきれいなだけでなく、動きに品と爽やかさがあり、一段と役者として大きく見えました。また、富樫という人物の捉え方も、感情を露に表に出さず、押さえた演技でふとした瞬間の表情や声の調子で心情を見せ、能史らしいたたずまいに説得力があり、とてもいい出来の富樫だったと思います。と、褒めまくりたいところですが、ダメな部分もやっぱりあるわけで。染ちゃんは先月から喉を痛めていたようだけど、それがまだ治っておらず声に艶がないし朗々と声を張って出さないといけない台詞がかすれてしまってるしで、特に弁慶との問答のところなど迫力に欠ける。姿も動きもいいのに、台詞がぁ…(涙)。長唄演者などは喉を一回潰して声を太くするというけど、そうなってくれることを祈るばかり。嗄れたままにしておかないでね。でも声さえ治れば染富樫は今後かなりよくなっていきそうな予感。弁慶より富樫のほうが今はニンでしょうね。

芝雀さんの義経は、どうなるかと思いましたが女形じゃなくちゃんと立役になってました。声も通るし、品もあってやっぱり可愛い。義経はずっと動かないで座っていなければいけない役なのですが、きれいに座っていらっしゃいました。小柄な姿が義経らしくて守ってあげなくてはという雰囲気があり、また弁慶を労う台詞には情がありとても良かったと思います。ただよく考えてみたら義経は武将なのでその大きさも見せなくていけないんですよね。その部分が残念ながら無かったかなあ。でもこれは鑑賞後、冷静になってからの後付けの感想なんですが。