歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 夜の部』2回目 1等1階前方センター上手寄り
今月の歌舞伎観劇のラストです。昼夜とも見ごたえがあって大満足な今月の歌舞伎座でした。
『菊畑』
役者の皆さんが台詞、動きともに義太夫のノリが良くなって見ごたえが出てきてました。
皆鶴姫@芝雀さん、個人的に芝雀さんの古風な赤姫姿が本当に可愛らしくて目がハート。世間知らずで恋に一途な品のあるお姫様がピッタリ。硬質な声質も良いのよね。少しづつ濃厚オーラが出てきたかなあとか…贔屓目かな。
智恵内@幸四郎さんに愛嬌が出てきて楽しくなった。もう少しおおらかさ、というか単純さがあってもいいかなと思うけど、風貌も大きさも○。幸四郎さんはコメディもかなりお上手だと思うのだけど、時代物になると可笑し味が減るのよねえ。
鬼一@左團次さん、鬼一のキャラクターがはっきり出てきて、見ごたえありました。
虎蔵@染五郎さん、前回より台詞の義太夫のノリがかなり良くなっていた。メリハリも利いて耳に綺麗に入ってくる台詞廻し。よく頑張りました!虎蔵から牛若丸への変化もよくつけていた。柔らか味はまだ薄め。この日はお疲れ気味だったのか、動きにキレがなかったような?ピタリと決めてはくるのだけど、どこか弱かった。それと襟を抜きすぎていて線の細さが目立ってしまったような感じ。染ちゃんはうなじに色気があるので、多少襟を抜いて欲しいとは思うんだけど、今月、痩せちゃったような感じなのでもう少し押さえた抜き方でもいいような。いつもより首が長く顔が小さくみえてしまっていたのでちょっと気になった。
『籠釣瓶花街酔醒』
前回拝見した時もかなり見応えがありましたが今回、「縁切りの場」が秀逸でした。
次郎左衛門@吉右衛門さんが気持ちがかなり入ってて良くなっていました。もしかして吉右衛門さんてスロースターターなのかなとちょっと思いました。見初めの部分はやはりもう少し自然体な朴訥さが欲しいなあと、ちょっと贅沢な望み。ただ、次の場からは吉右衛門さんの真骨頂。洒落っ気が出て、ウキウキと浮かれている様子、八ッ橋に惚れこんで痛々しいほど気を使っている様子、縁切りの言葉に信じられないでいる様、あまりに惨めさに絶望しコンプレックスを刺激され怒りを溜めていく風情、その心の在り様が手に取るようにわかる。八ッ橋を切り殺す時、次郎左衛門@吉右衛門さんの場合、籠釣瓶の因果はほとんど関係ないですね。狂気ではなく、やりきれない怒り。
八ッ橋@福助さん、見初めの笑みがやはり切ない。にっこりと次郎左衛門に微笑みかけるのは花魁としての営業スマイルでしかないんじゃないかなと思うのですよ。次郎左衛門から顔を背けてから、そうした笑みを浮かべた自分を自嘲しているかのように哀しい笑顔だったように見えました。売れっ子花魁としての自信とか華はあまり無いのだけど、苦界の女の哀しみがある八ッ橋。だからこそか、縁切りの場が本当に素晴らしかったです。どうしようもなさ、というのが伝わってきてとっても切なかったです。
九重@芝雀さんはとても優しい九重。優しさは苦界に生きていく覚悟が出来ているからこその強さなんではないかしらと思いました。精一杯、生きていくしかないと。次郎左衛門への優しさは半分営業のためと解釈される九重ですが、芝雀さんの九重はやっぱり次郎左衛門のこと好きだったんじゃないかな。売り物のはずの花魁に真っ直ぐに本気で惚れこむ、そんな男は苦界に生きる女にとっては理想の男性でもあったと思う。
『鬼揃紅葉狩』
更科の前@染五郎さんがますます可愛らしくて、なんとジワまで起こってたよ。1階の前で観てもちゃんと可憐なお姫様だった。まだ少女のような、花がほころぶ前の蕾のような上品なお姫様。お顔自体は綺麗系だと思うのだけど雰囲気が非常に愛らしい。女舞は柔らかさが増して、しなやかでたおやか。鬼の正体をフト現す時のきつめの表情はかなり男顔。それが一瞬にしてまた可愛い姫の顔に戻る。もう、ほんとに可愛い~今回もあまりにも私的ツボに入ってしまったので前回同様、染ちゃんばっかり見てしまった~。萌え萌え。鬼女になった時の豹変ぶりも見事。顔が二倍に見えた(笑)長袴の捌きも綺麗で回転軸もピタリと決めて拍手、拍手。もう少し大きさが出るとなお良し。
にしても好きな役者さんばかり出ているのでどこを見たらいいか悩みます。結局ほとんどは染ちゃんで、合間に高麗蔵さんと信二郎さんにターゲットオンという状態でした…。もう少し目配りしたかった。でも今回は前回全然わかんなかった鬼女になってからの高麗蔵さん、吉弥さん、宗之助さん、吉之助さんの区別はついたかも。
常磐津、義太夫、鳴り物のコンビネーションがますます良く、大薩摩が気合入ってて、間延び感を感じさせなかった。