Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立小劇場『仮名手本忠臣蔵 第三部』1等前方センター

2006年09月24日 | 文楽
国立小劇場『仮名手本忠臣蔵 第三部』1等前方センター

千秋楽です。

八段目『道行き』戸無瀬が煙草吸ってる…歌舞伎ではあのシーン無いよね?無いよね?と驚いた一場面でした。私が記憶してないだけ?インパクト大でした。

九段目『山科閑居』が素晴らしい出来でした。住太夫さんの情感あり語りが絶品。義太夫、人形とも非常に気合の入った締まった舞台でした。

詳細感想後日補完予定

歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 夜の部』2回目 1等1階前方センター上手寄り

2006年09月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 夜の部』2回目 1等1階前方センター上手寄り

今月の歌舞伎観劇のラストです。昼夜とも見ごたえがあって大満足な今月の歌舞伎座でした。

『菊畑』
役者の皆さんが台詞、動きともに義太夫のノリが良くなって見ごたえが出てきてました。

皆鶴姫@芝雀さん、個人的に芝雀さんの古風な赤姫姿が本当に可愛らしくて目がハート。世間知らずで恋に一途な品のあるお姫様がピッタリ。硬質な声質も良いのよね。少しづつ濃厚オーラが出てきたかなあとか…贔屓目かな。

智恵内@幸四郎さんに愛嬌が出てきて楽しくなった。もう少しおおらかさ、というか単純さがあってもいいかなと思うけど、風貌も大きさも○。幸四郎さんはコメディもかなりお上手だと思うのだけど、時代物になると可笑し味が減るのよねえ。

鬼一@左團次さん、鬼一のキャラクターがはっきり出てきて、見ごたえありました。

虎蔵@染五郎さん、前回より台詞の義太夫のノリがかなり良くなっていた。メリハリも利いて耳に綺麗に入ってくる台詞廻し。よく頑張りました!虎蔵から牛若丸への変化もよくつけていた。柔らか味はまだ薄め。この日はお疲れ気味だったのか、動きにキレがなかったような?ピタリと決めてはくるのだけど、どこか弱かった。それと襟を抜きすぎていて線の細さが目立ってしまったような感じ。染ちゃんはうなじに色気があるので、多少襟を抜いて欲しいとは思うんだけど、今月、痩せちゃったような感じなのでもう少し押さえた抜き方でもいいような。いつもより首が長く顔が小さくみえてしまっていたのでちょっと気になった。

『籠釣瓶花街酔醒』
前回拝見した時もかなり見応えがありましたが今回、「縁切りの場」が秀逸でした。

次郎左衛門@吉右衛門さんが気持ちがかなり入ってて良くなっていました。もしかして吉右衛門さんてスロースターターなのかなとちょっと思いました。見初めの部分はやはりもう少し自然体な朴訥さが欲しいなあと、ちょっと贅沢な望み。ただ、次の場からは吉右衛門さんの真骨頂。洒落っ気が出て、ウキウキと浮かれている様子、八ッ橋に惚れこんで痛々しいほど気を使っている様子、縁切りの言葉に信じられないでいる様、あまりに惨めさに絶望しコンプレックスを刺激され怒りを溜めていく風情、その心の在り様が手に取るようにわかる。八ッ橋を切り殺す時、次郎左衛門@吉右衛門さんの場合、籠釣瓶の因果はほとんど関係ないですね。狂気ではなく、やりきれない怒り。

八ッ橋@福助さん、見初めの笑みがやはり切ない。にっこりと次郎左衛門に微笑みかけるのは花魁としての営業スマイルでしかないんじゃないかなと思うのですよ。次郎左衛門から顔を背けてから、そうした笑みを浮かべた自分を自嘲しているかのように哀しい笑顔だったように見えました。売れっ子花魁としての自信とか華はあまり無いのだけど、苦界の女の哀しみがある八ッ橋。だからこそか、縁切りの場が本当に素晴らしかったです。どうしようもなさ、というのが伝わってきてとっても切なかったです。

九重@芝雀さんはとても優しい九重。優しさは苦界に生きていく覚悟が出来ているからこその強さなんではないかしらと思いました。精一杯、生きていくしかないと。次郎左衛門への優しさは半分営業のためと解釈される九重ですが、芝雀さんの九重はやっぱり次郎左衛門のこと好きだったんじゃないかな。売り物のはずの花魁に真っ直ぐに本気で惚れこむ、そんな男は苦界に生きる女にとっては理想の男性でもあったと思う。

『鬼揃紅葉狩』
更科の前@染五郎さんがますます可愛らしくて、なんとジワまで起こってたよ。1階の前で観てもちゃんと可憐なお姫様だった。まだ少女のような、花がほころぶ前の蕾のような上品なお姫様。お顔自体は綺麗系だと思うのだけど雰囲気が非常に愛らしい。女舞は柔らかさが増して、しなやかでたおやか。鬼の正体をフト現す時のきつめの表情はかなり男顔。それが一瞬にしてまた可愛い姫の顔に戻る。もう、ほんとに可愛い~今回もあまりにも私的ツボに入ってしまったので前回同様、染ちゃんばっかり見てしまった~。萌え萌え。鬼女になった時の豹変ぶりも見事。顔が二倍に見えた(笑)長袴の捌きも綺麗で回転軸もピタリと決めて拍手、拍手。もう少し大きさが出るとなお良し。

にしても好きな役者さんばかり出ているのでどこを見たらいいか悩みます。結局ほとんどは染ちゃんで、合間に高麗蔵さんと信二郎さんにターゲットオンという状態でした…。もう少し目配りしたかった。でも今回は前回全然わかんなかった鬼女になってからの高麗蔵さん、吉弥さん、宗之助さん、吉之助さんの区別はついたかも。

常磐津、義太夫、鳴り物のコンビネーションがますます良く、大薩摩が気合入ってて、間延び感を感じさせなかった。

歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階前方花道寄り

2006年09月17日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階前方花道寄り

初日での客席の妙な緊張感(笑)はさすがに無かったのですが、芝居のほうはますます充実していました。

『車引』
松王丸@染五郎さんに大きさが出て、また敵役としての悪さと苦渋、そして静かな威圧感がありました。顔も大きく見えほんと良い出来ではないでしょうか。声も良く出ていました。「俺は俺の立場で行く」と突っ張った感じの部分とか、よく心情が出ていました。初日に拝見した時はお父さんの幸四郎さんに似てると思ったのですが、ふとした瞬間、吉右衛門さんの台詞廻しのほうを連想させました。

桜丸@亀治郎さんは切々としたものが台詞に乗り、申し訳なさといったものがよく伝わってくる。また優しげな風情がありつつしっかり芯がありました。ひとつひとつの形が非常に美しい。

梅王丸@松緑さんはだいぶ台詞にメリハリが利いてきたかな。もう少し抑揚を付けられると聞きやすい台詞になるし、情感も出ると思う。にしてもどっしりとした存在感が出てきましたよね。よく見ると相変わらず受けの芝居の時に形が崩れがちなのですがそれが目立たなくなってきました。国立での崇徳院や和藤内といった大きな荒事系の役をしっかりやってきた成果でしょう。

今回、思った以上に三人のバランスが非常に良かったです。他の演目でも観てみたい組み合わせ。

『引窓』
それぞれが役柄にピタリと嵌って、文句なしの出来栄えとしか言い様がない。

濡髪@富十郎さん、ほんとにこの方の華と台詞回しが良いです。小柄なのにここまで関取らしい雰囲気が出るのは本当に見事だと思う。また苦渋に満ちた、それでいてきっぱりとと覚悟を決めたその気持ちの伝わり方が、カッコイイです。こういう役の富十郎さん、素敵です。

お早@芝雀さん、やはり素晴らしい出来。家族を思う気持ちが込められていて可愛らしく健気。また細々した仕事しながら決して邪魔にならず、後ろ姿で控えている時にもしっかりお早の気持ちがみえました。 

お幸@吉之丞さん、優しいお母さんです。切々と、という言葉がぴったり。小さく小さく座っている姿が本当の老婆のようでドキッとしました。背の高い方なので体の使い方がお上手なんでしょう。

与兵衛@吉右衛門さん、初日に拝見した時よりメリハリがあってとても良かったです。町人と武士の切り替えが気持ちの切り替えと上手く重なり心情がよくみえる。吉右衛門さんらしい細やかさ。また今回、与兵衛が女房、お早の事が大好きなのね、というのが見えて可愛らしかったです。あらあ、お早と濡髪のこと勘違いして嫉妬してる?とかそんな部分があって(笑)いい家族だよなあ。

『六歌仙容彩』
小町@雀右衛門さんが可愛らしい&濃厚オーラ。決めポーズはたおやかで美しい。でも足元はやはりきつそう(;;)。

業平@梅玉さん、色気が出てきた?平安装束の貴公子姿が本当にお似合いで品の良い踊り。梅玉さんの硬軟自在な踊り、いつ見ても上手いなあと思う。

文屋@染五郎さん、おおっ、初日より断然踊りにキレがあるし、愛嬌もしっかり。軽妙洒脱とまではいかないけどみせる踊りにしてきた。手捌きのしなやかさには相変わらず惚れ惚れ。腰がブレないできちっと決まっているから踊りが大きく見えるのだろう。かなり難しい踊りだと思うのだけど一つ一つ丁寧によどみなく決めていく。染ちゃんの踊り、好きだわ。

『寺子屋』
松王丸@幸四郎さんと源蔵@吉右衛門さんのテンションが初日から衰えずというかますます気合入りまくり。それなのに、二人ともしっかりと押さえたハラのある芝居。

松王丸@幸四郎さん、首実検のところで父としての悲哀がグッとハラに秘められていました。すさまじいまでの緊迫感。「でかした!」その一言に小太郎への想いのすべてがありました。

源蔵@吉右衛門さん、苦渋が深くなってました。他人の子を殺す、その浅ましさの自覚があったように思います。源蔵は難しいお役ですよねえ…。

千代@芝翫さん、情味のあるなんともいえない味わいの千代でした。子への想いの深さがありました。さすがです。前回薄かったように思った松王丸と千代の夫婦のありようがしっかり見えました。切なさ倍増。

涎くり@松江さんが少年らしくて可愛らしい。ちょっと品が良すぎる気もするが…。悪ガキぽくはない(笑)

国立小劇場『文楽九月公演 仮名手本忠臣蔵 第二部』 1等前方下手寄り

2006年09月16日 | 文楽
国立小劇場『文楽九月公演 仮名手本忠臣蔵 第二部』1等前方下手寄り

一部は今回はパスしたんですが四段目が評判が良いようでちょっと観たかったかなと。それにしても今回、つくづく『仮名手本忠臣蔵』は非常に良く出来た物語だなあと思いました。二部は六段目と七段目がよかったです~。人形のほうでは特におかるがよかった。勘十郎さん操るおかるは品のある柔らかい色気があって、なにより親や勘平を思う情感がありました。蓑助さんの由良之助は色気がありますなあ。

詳細感想後日補完。


歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 夜の部』 3等A席前方センター

2006年09月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 夜の部』3等A席前方センター

昼の部とは違う面白さ。かなり昼夜の雰囲気が違うような気がしました。んで、夜の部はやっぱり女形が良かったです~。

『菊畑』
『鬼一法眼三略巻』のなかの一場。非常に華やかな場面ではあるが『鬼一法眼三略巻』全体のストーリーを把握してないとわかりずらいかも。典型的な歌舞伎の老け役、奴、色若衆、赤姫、悪役といった役柄が揃うのと、義太夫のノリを楽しむといった場面でしょうか。

智恵内@幸四郎さん、奴らしいおおらかさはあまりないけど衣装が似合い大きさ十分。ノリの良い台詞回しと形の良さのなかに芝居ッ気を含ませ、ゆったりとみせる。鋭い目つきながらどことなく無邪気な雰囲気があり予想外に良い智恵内でした。(失礼ながら幸四郎さんに智恵内は似合わないと思っていたもので…)

鬼一@左團次さん、重々しさがだいぶ出るようになってきて姿も大きくて良いです。座頭級のお役という部分ではもう少し味わいが欲しいかな。もう少し厳しさのなかに度量の広さをみせると貫禄が出るのではないかしら。

虎蔵@染五郎さん、すっきりと美しい色若衆。じっと控える姿も美しく、後半には後の義経らしい凛々しさもみせます。その反面、ちょっと柔らか味が足りないかなあ。キッパリと決めすぎてしまうのですよね~。直線的すぎるのでもう少しふわっとした部分が出るといいと思います。高い声のほがちょっとキツそうでしたがノリのいい台詞回しを聞かせてくれました。義太夫のノリをかなり勉強してきてるなあという感じです。

皆鶴姫@芝雀さん、とにかく可愛い。お持ち帰りしたいくらい可愛い。赤姫らしさがよく出てましたねえ。品がよくて世間知らずな一途さがあって。赤姫役者だなあつくづく思いました。芝雀さんの八重垣姫をきちんと観たいなあ。

湛海@歌六さん、何でもこなせる人ですねー。細身な方ですが太くみえます。


『籠釣瓶花街酔醒』
八ッ橋@福助さんが絶品。見初めの笑みの哀しいこと。先の運命が見えるような笑みでした。運命に翻弄され、どう生きていくのかの覚悟ができてない女のように思えました。そこがとても切なくて、哀れさがありました。福助さんが演じる哀れな女性って非常に生(なま)な質感があるように思うんですよね。女としてのどうにもならない苦しみが非常によく伝わってくる。特に愛想尽かしの場がほんとに良かったです。理屈じゃなく、間夫に惚れてしまっている弱みと、恩義のある人を裏切る辛さと、そんなものが全身から滲み出ている。玉三郎さんとはかなり違うタイプの八ッ橋でした。同時期に素晴らしい八ッ橋を二人の役者で観られるとは観客の一人として幸せです。

九重@芝雀さんも本当に素敵でした。心根の優しい可愛らしい九重でした。情が深くて、八ッ橋のことも次郎左衛門のことも心から心配している。特に、次郎左衛門に対して単なるお客さん以上の想いを持っているのかなと思わせました。芝雀さん、お父様にほんと似てきたなあと思った九重でした。

次郎左衛門@吉右衛門さん、大店の旦那風情のほうが先にたち朴訥さというものはあまりない次郎左衛門。見初めのところはもう少し朴訥な雰囲気が欲しいなあと思ったんですが、八ッ橋と馴染みになり有頂天になっているところから縁切りに至るまでは心の動きが手に取るようにわかり、さすがの上手さをみせる。吉右衛門さんらしい次郎左衛門造詣でした。屈折度具合が結構強いんですねえ。真面目な男が一途に女に惚れた風情があり、その分、裏切られた反動での怖さが大きい。愛想尽かしをされ大きな体がどんどん小さくなっていく過程で絶望感と静な怒りが溜め込まれて凝縮されていくかのようでした。かきくどきの時点ですでに泣きじゃないんですよね、すでに怒りが心を渦巻いている。最後、八ッ橋を切る部分、いわゆる狂気に入ってない。かなり自覚的。観てて結構しんどかったです。

治六@歌昇さん、若々しかったです。痩せられたのかな?にしても田舎物の朴訥さ、主人想いな真っ直ぐさ、非常に印象に残る治六でした。

栄之丞@梅玉さん、手の内に入ったお役なのでさじ加減が絶妙です。私、梅玉さんの栄之丞、好きなんですよ。さらっとした冷たさのなかに自信が垣間見えて。お坊ちゃん然としたところの可愛らしさとか男のいやらしさとか。こういう男が間夫ということで八ッ橋の哀しさが浮き立ってくるんですよね。

立花屋長兵衛@幸四郎さん、お付き合いの出演なんですが舞台が締まりますね。さらっと演じられているのですが、それがちょうどいい塩梅加減。

『鬼揃紅葉狩』
1960年4月に初演され、そのままになっていた曲を復活させ、補綴し新たに振り付けをした、新作舞踊。音楽が鳴り物、常磐津、竹本、大薩摩と華やか。間狂言から後ジテになるまでが少々間延びしますが全体的に楽しい舞踊となっています。

更科の前@染五郎さんが自分の目を疑ってしまうくらい綺麗でした。ええっ?まじで染ちゃん?と何度もオペラグラスでのぞいてしまいました。今まで染ちゃんの女形は品があってとーっても大好きではありましたが、それでも綺麗とか可愛いの範疇ではなかったんですけどぉ…。今回ほんとに綺麗で楚々してて可愛いんですよ~。そして姫の舞が、これまた想像以上に柔らかく、たおやかで見応えあり。ここまで持ってきたか~。(私は染ちゃんの弥生が観たくなりました。)

後半、鬼女になってからは大きく勢いよくしなやかに。ただの鬼ではなくきちんと鬼女でした。個人的には歌舞伎十八番の『紅葉狩』の染ちゃんが見たかったのだけど、新作舞踊を作っていこうとする姿勢は好ましいしなあ。更科の前の唯一の難点は声。声が枯れてて甲の声が出せてない。喉をきちんと治して欲しいなあ、ってもう2年くらい言ってますね。休まないと治らないらしいからねえ。思い切って休んで欲しいとかも思う。

平維茂@信二郎さん、貴公子の拵えが本当に似合う。凛々しく美しい。ちょっと堅物な感じがあるのが信二郎さんらしい。もう少し色気があるとなお良し。

高麗蔵@かえでのテキパキした侍女ぶりも素敵でした。ちょっときつめの目が印象的。楚々とした更科姫@染と対照的な雰囲気がいいです。

間狂言の男山八幡の末社の子役たちが皆可愛らしかったです。チビちゃん具合で玉太郎くんが目立っていましたが廣太郎くん、廣松くん、隼人くんもきっちりと演じてて良かったです。隼人くんはこのなかでは舞台経験が一番多いこともあると思うけどしっかり踊れていました。個人的に廣松くんが芝居上手だなという印象。表情も可愛らしいし女形のほうに進んでほしいなあ。

新橋演舞場『魔界転生』 3等A席上手寄り

2006年09月03日 | 演劇
新橋演舞場『魔界転生』3等A席上手寄り

普通にエンターテイメントな時代劇でした。派手でスペクタクルな舞台を想像していたのでちょっとばかり肩透かし。なんというか真っ当すぎといいましょうか。もっと伝奇色を強くしてほしかったかなと。原作を丁寧に拾い出してるとは思うんですけどね。その分とても判りやすい芝居ではありました。誰が見ても楽しめるようには出来ていました。

演出面では屋台崩しとか宙乗りとか盆廻しとか演舞場の舞台機構を頑張って使おうとはしてましたが、予想の範疇すぎて新味さは無かったです。G2さんの演出の個性がどこにあるのかは分りませんでした。この舞台に関して言えばクセがない感じですね。非常にストレート。チャリ場がいくつかあったんですが笑いどころはかなり微妙でした…なんといいますか、微苦笑しか出ませんでした。笑いのツボが違うのかなとも思いましたが大半の観客はほとんど笑ってなかったような。

『魔界転生』といえば期待するのは殺陣でしょう。この殺陣に附け打ちを付けたのは画期的。この音があるとグッと殺陣が締まります。ついつい注目して附け打ちさんを見てしまいましたがパルコ歌舞伎『決闘!高田馬場』で一躍有名になった福島洋一さんが本当に頑張っていらっしゃいました。音のキレが良くなってきたんじゃないかしら。

肝心の殺陣はやはり橋之助さんがダントツに上手い。腰の入り方と着物の裁き方が良いので見栄えがします。またその大勢のなかではやはり橋之助さんのお弟子さんたちが上手いです。足運びとか刀の持ち方とか殺され方とか、堂に入ってる。それにしても劇団☆新感線の殺陣を見慣れてしまうとスピーディさに物足りなさを感じてしまいましたが劇団☆新感線の殺陣が特殊なんだなとも思いました。

役者のほうですが全体的にレベルは高かったです。台詞がきちんと届く。観ていてストレスを感じるような役者さんは今回いませんでした。ただ個性という部分で強烈な人は少なかったかなあ。あともったいない使われ方をしている役者さんとか、役柄が合ってるのかな?と若干思う方はいらっしゃいました。

十兵衛@橋之助さんが明るく飄々とご自分の持ち味を活かした十兵衛で安定感がありました。見ていて気持ち良い出来。

天草四郎@成宮くんは白い衣装がお似合い。演技が上手いとかそういう感じではないのですが独特の雰囲気があってなかなか存在感がありました。また身のこなしが柔らかで綺麗でした。芝居がこなれていくうちにそういう部分がもっと活かされていくのではないでしょうか。

弥太郎役の子役が上手かった。可愛らしくとても健気で、出るたびに場をさらってました。プログラムを買わなかったのでお名前がわかりません。

柳生十兵衛/中村橋之助
天草四郎/成宮寛貴
お縫/藤谷美紀
お品/馬渕英俚可
お銭/遠藤久美子
柳生但馬守/六平直政
新木又右衛門/山本亨
牧野兵庫頭/千葉哲也
徳川頼宣/升毅
宮本武蔵/西岡徳馬

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

2006年09月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎』の初日。昼の部に行ってきました!まだちょっと興奮ぎみです。これぞ大歌舞伎でした。初日なのに完成度の高い素晴らしい舞台。久々に歌舞伎座にかなり濃い空気が流れていました。舞台と客席に妙な緊張感と一体感。大向こうも凄かった(笑)そして全演目、かなり良い出来というか素晴らしい出来だったんじゃないでしょうか。役者全員が気合入りまくり。これが初日なの?という、それぞれがしっかり役に入り込んでの芝居でした。

『車引』では若手三人がしっかり舞台の空間を埋めていました。それぞれに存在感が出てきたような気がします。若手から少し抜け出そうな大人の雰囲気もありました。様式美を見せるだけではなく、「車引」という場の役どころがきちんと伝わってきたからだと思います。

梅王丸@松緑さんは形が非常に良かったですね。台詞回しの部分でちょっと拙さはありましたが声量は十分。力強さという持ち味が活かされ、直情的な梅王丸の柄に合っていたと思います。

桜丸@亀治郎さんはとても優しげな桜丸。気負わず、しっかり気持ちを伝えようとしていて良かったです。声のトーンはほぼ女形の時に近い発声。線をしっかり保ちつつ柔らか味を出そうという感じがありました。

松王丸@染五郎さんはなんと肉襦袢なしでの等身大の松王丸。思った以上に隈取が映え、美しい松王丸でした。細身な雰囲気は多少ぬぐえませんがきちんと長男(ほんとは次男なのだけどこの場は長男の気概で演じるとのことです)としての格と大きさも出てました。荒事の基本を丁寧にしっかりと見せようという気概があり、足の親指を天に向かってピーンと伸ばした姿勢を終始保ち、声も腹の底からしっかり出していました。そして何より台詞の伝え方が良かったです。松王丸の苦渋がハラにある。『車引』が『菅原伝授手習鑑』の一場面だということを明確に伝えるものでした。

時平@段四郎さんの古怪さが舞台を締めました。不気味な雰囲気を漂わせ三兄弟を圧倒します。こういうお役だと特に非常に大きく見えますねえ。

『引窓』
アンサンブルの良さが見事。

濡髪@富十郎さんが華もあり、また声の張りが素晴らしく若々しい。小柄なのにしっかり関取としての大きさを見せてさすがの上手さ。死を覚悟した男の意地と母を思う子としての情感が伝わってきました。

お早@芝雀さんは芸格が上がったかな?と思わせるとても素敵なお早。新妻の初々しさと遊郭出だというほんのりとした色気。家族思いなとても優しいお早。なんとなく天然入った素直を受け答えぶりがとっても可愛かったです。

お幸@吉之丞さんが切々した母心を伝えて、やはり見事。芯が強く、そしてとても優しい母親でした。とても心情細やかでじんわりと気持ちが伝わってきます。

与兵衛@吉右衛門さんは手の内の入った役を味わいよく。人の良さが前面にでて、町人、武士の狭間を行ったり来たり。表情豊かな与兵衛でした。

『六歌仙容彩』
小町@雀右衛門さんが美しさはまだまだ十分あるのだけどちょっとハラハラドキドキ。でも私的には舞台に上がってくださるだけで十分です。

業平@梅玉さん、相変わらず気品ある踊りが素敵。衣装もお似合いだわ。

文屋@染五郎さん、活き活きと踊っていました。ちょっと愛嬌ある風情を作り丁寧で大きさのある踊り。手さばきがやはり綺麗です。もう少し飄々とした味わいが出るとなお良し。雰囲気が仁左衛門さんにちょっと似ていました。すっきりした踊りぶりがそう感じさせたか。

『寺子屋』
もう、とにかく素晴らしかったです。緊迫感があり、濃密な見応えのある舞台でした。松王丸の幸四郎さん、源蔵の吉右衛門さんの気合の入り方が凄かった~。いやあ、この二人もっと共演するべきですよ。間の取り方がさすが兄弟。ピタッと視線が合うシーンは鳥肌ものでした。つーか普段起きないとこで拍手起こるし。舞台の引き締まり方がすごいです。役者としての質感が似ていながらも芸の違いがうまく相乗効果をあげて、どかんと心に伝わってきました。

松王丸@幸四郎さん、この方特有の細やかな心情表現と緩急のある台詞回しが松王丸の悲哀を際立たせる。心の奥底の翳が首実検に凝縮され表現される。子を亡くした哀しみが一気に爆発する。なんともやりきれないその切なさ哀しさ。時代がかった台詞廻しなのにとてもリアル。この緊迫感のある首実験があるからこそ、嘆きの心情が手に取るように伝わり、それゆえに小太郎のみならず桜丸への思いもまた胸に迫ってくる。幸四郎さんならではの松王丸。

源蔵@吉右衛門さん。幸四郎さんとは違う部分でのリアル。心情を一挙一動に表わしてみせる。主君を守る、そうすることでしか生きていく道のない男の苦渋。主君のためには生徒を殺すことを厭わない、厭えないその浅ましさすら透けてみえるような源蔵。守りきれた安堵感とやましいまでの罪悪感の両方を見事に表現していたと思います。哀れな人なんだなとそう感じました。

この兄弟二人の芝居はリアルな感情を表現していこうとした初代吉右衛門の系譜の芝居なんだなあとちょっと感慨深かった。<初代はフィルムでしか見たことなんですけどね。

戸浪の魁春さんもほんと良かったです。控えめながらしっかりと源蔵を支える妻。夫の覚悟を自分の身にもきちんと受け止めことのできる芯のある女性。哀しげな表情のなかに夫婦の絆、を感じさせました。

千代@芝翫さんは存在感がありました。まだ少しエンジンがかかりきってないかな、という部分がありましたが後半もっと気持ちが入っていくでしょう。