Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

東京芸術劇場『NODA・MAP『MIWA』』 S席前方上手寄り

2013年10月26日 | 演劇
東京芸術劇場『NODA・MAP『MIWA』』 S席前方上手寄り

『MIWA』は三輪さまで野田さんだった。美輪さんの半生をベースにした物語。そのなかに野田秀樹さんの想いを詰め込んだ作品だったように思う。

昭和という時代、愛がフリークであった時代への哀切、そして罪と赦し。記憶の欠片。現実と虚構。生きていくその想い。

野田さんの役はある意味トリックスター。文学好きならすぐに、あの人だというのはわかる。あの役は野田さんに凄く合ってた。そして野田さんは役者である前に作家なんだなぁと思った。作家である事の覚悟をきちんと受け止めたんじゃないかなって感じた。MIWA@りえちゃんとあの作家@野田さんとのの最後のやりとりは野田さんの自問自答のセリフだ。野田さんのウェットな部分がでた芝居だと思うけど素直に良い芝居だったと思う。

MIWA@りえちゃんの美貌と繊細さと安藤牛乳@古田新太さんの存在感があってこその芝居でもあった。


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東京芸術劇場『NODA・MAP『MIWA』』

【作・演出】
野田秀樹

【スタッフ】
美術:堀尾幸男 
衣裳:ひびのこづえ 
選曲・効果:高都幸男 
振付:木佐貫邦子 
美粧:柘植伊佐夫 
舞台監督:瀬崎将孝 
プロデューサー:鈴木弘之 
企画・製作:NODA・MAP 
共催:東京芸術劇場

【キャスト】
MIWA:宮沢りえ
赤絃繋一郎:瑛太
マリア:井上真央
最初の審判/通訳:小出恵介
ボーイ:浦井健治
負け女:青木さやか
半・陰陽:池田成志
オスカワアイドル:野田秀樹
安藤牛乳:古田新太


【アンサンブル出演】
秋草瑠衣子、秋山エリサ、大石貴也、大西智子、川原田樹、菊沢将憲、木原勝利、河内大和、近藤彩香、佐々木富貴子、佐藤ばびぶべ、佐藤悠玄、紫織、下司尚実、竹内宏樹、手打隆盛、土肥麻衣子、鳥居功太郎、中原百合香、西田夏奈子、野口卓磨、深井順子、的場祐太、六川裕史(50音順)

国立大劇場『十月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』『春興鏡獅子』』2等B席3階センター

2013年10月18日 | 歌舞伎
国立大劇場『十月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』『春興鏡獅子』』2等B席3階センター

16:30からの開演で早退するつもりでしたが仕事が忙しく『熊谷陣屋』の相模が小次郎の首を受け取りの嘆くの場からの観劇になりました。もったいないことをしました…。

『熊谷陣屋』途中より
相模の嘆きから拝見。真ん中の席だった為、迷惑をかけるよりはと立ち見(4階)です。立ち見だと視界が邪魔されず俯瞰して観られるので疲れますが芝居に集中も出来ます。

魁春さんの相模からは子を宿し直実と都落ちし、そして出産し子、小次郎との三人の生活、そんなものが見事に垣間見えました。相模@魁春さんは家族を細腕で守ってきたの芯の強さ女です。なぜ、こんなことに…そのやるせなさ。小次郎の首をかき抱くように打掛けですぐに覆ってしまう、その仕草が印象的。

そして直実@幸四郎さんのナイーブさを感じさせる苦しさ、罪悪感に満ちた表情が悲劇を浮き立たせます。

弥陀六@左團次さんの気骨ある武士の顔が強い表現が、「人の情」ゆえの人の儚さ哀れさをストレートに伝えてくる。

今回はこの相模、直実、弥陀六の三人の在り様がとても際立っていたように思います。


『春興鏡獅子』
三階席にも気がビンビンと伝わってくる素晴らしい踊りでした。

弥生/獅子@染五郎さん、弥生の可愛らしさ、嫋やかさ。端正な美貌ゆえ連れてこられた時の戸惑いっぷりにどこか被虐美を感じさせる。女小姓が御前で緊張しながら無心に踊っている、というそのものがそこにありました。所作事が丁寧ながら心得として身についている、そんな感じ。そして踊るうちに空気に華やかさが満ちてくる。そして獅子頭に引っ張られる場では見えない力に勢いよく引っ張られ、身体が制御できなくなる様が見事。そして獅子、凛としたその姿は美しい若獅子。身体に気が満ち溢れ迸る。そのキレのよい動きには惚れ惚れします。観ていて元気が出てくる、本当に霊力が宿ってるんじゃないか?と思わせるようなそんな獅子でした。

胡蝶@團子ちゃんと金太郎くん、息があってしっかりと踊っていました。二人で霊山に飛翔する可愛い蝶々でした。團子ちゃんは勢いよく元気に、金太郎ちゃんは音のど真ん中でカッチリと。

国立大劇場『十月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』『春興鏡獅子』』 特別席1階花道ブロック前方

2013年10月12日 | 歌舞伎
国立大劇場『十月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』『春興鏡獅子』』 特別席1階花道ブロック前方

国立大劇場二回目の観劇でした。初日の手さぐり感がなくなって『一谷嫩軍記』も『鏡獅子』も熱が帯びた舞台になっていて充実していました。どちらの演目も空気が密だった。初日の手さぐり感のある舞台も好きだったりするけど、やっぱりこなれてきて充実した舞台のほうが心ゆすぶられる。

『一谷嫩軍記』「― 陣門・組討・熊谷陣屋 ―」

熊谷直実@幸四郎さん、初日は少々お疲れがみえた幸四郎さんが声も朗々と芝居をなさってこの芝居を引っ張っていて安堵しました。決まり、決まりではさすがの存在感です。しかし、この役は通して演じるのは精神的にも体力的にもほんとに大変そう。

幸四郎さんの熊谷直実は『陣門・組討』の武骨な武将たる父像に落とし込んだ芝居で好きです。『熊谷陣屋』のほうは単体で演じる時は「夫」であり「父」である部分に落とし込みすぎかなと思ってしまうことが多いけど通しで演じると直実の嘆きがわかりやすくなるし観やすい芝居になるなと思いました。初日より線を太く描いて実直さ、愚直さがありました。そしてやはり自分の決断に苦悩する弱き男でした。幸四郎さんの直実の特徴は首を義経にみせるところだと思っています。ほんとにこれで良かったのかとの心の奥底からの悲痛さが前に出る。

小次郎/敦盛@染五郎さん、品のよい幼さの残る憂いある貴公子然としているだけでなく、自分の運命を受け入れ毅然と敦盛を演じている小次郎という二重性を見事に体現してて芸があがったなあって思わせました。父を諭すように首を差し出す。

玉織姫@笑也さん、ちょっと幼くて純粋な姫。でも敦盛をひたすら慕うことで少女ではなく「女」として死んでいく。死ぬ瞬間に大人になる姫でした。

平山@錦吾さん、時代物らしいベリベリっとした佇まいのなかほんのりおかしみもみせてとっても良かった。錦吾さんは時代物役者だなあ。

相模@魁春さんが非常に良い。武家の女としての凛とした気概、その芯が通る相模。そのなかで妻として母としての情味が迸る。子を亡くした嘆きの深いこと。子を手にかけた夫への責めが強い。弱いだけでない子を案じ長い距離を歩むだけの強さがある。この母ゆえあの凛とした小次郎がいる。拵えもいつもより魁春さんご自身の顔に合った目元の化粧だったような気がします。

藤の方@高麗蔵さんもいい。今回の熊谷陣屋は女の弱さだけでなく強さもしっかりと見せてくる。高麗蔵さんの藤の方は本気で直実を殺す気だったし、それだけの殺気を持つ。またただそれだけでなく品位を保ち宮中の女であることに納得できる佇まい。

弥陀六@左團次さんも今回はほんと良いんですよね。宗清としての顔がハッキリしててその想いの複雑な悔しさが伝わってくる。

今回の『一谷嫩軍記』ではキャラクターそれぞれの「想い」がストレートに伝わってくる芝居だったように思います。

『春興鏡獅子』

初日よりかなりパワーアップしてて大興奮!弥生は可愛いわ、色っぽいわ、獅子はまさしく霊獣だわ、凄かった。

弥生/獅子@染五郎さん、まずは弥生は可愛らしく凛として嫋やか。恥じらいの可愛らしさのなかに腰元ではなく女小姓という位取りがみえるのが染五郎さんならではかも。そして振りのひとつひとつに緩急があり情景が鮮やか。染五郎さんの『鏡獅子』は色が多彩と評してくださった方がいるけどほんとにそう思う。今回は踊っていくうちにどんどんと無心になり踊りそのものに憑かれてくるという感じがありました。そこら辺からどこか色気が出てきて、無心だからこそ何かが入る、獅子に憑かれてしまうのだろうって感じさせました。弥生の無心さのなかの色気、その部分は今まで勘三郎さんの弥生でしか感じたことがなかったけど今回は染五郎さんでも感じた。ここまで踊りこめてこれてると思ったら観てる私が興奮。そして獅子は勇壮で品格があった。その聖獣たる清冽な気が入り込んできたかもって感じでした。染五郎さんの獅子、聖獣たる気を感じさせるようになったのは友人たちからの感想を聞くにどうも12日あたりからのような。毎日そこまであるとは限らないのかもしれないですが、とにかく清々しい空気を運んできた獅子でした。初日に比べ断然勢いとキレがあった。毛振りは髪洗い、巴、菖蒲打ちと多彩に。

今の花形たちは『春興鏡獅子』を踊る役者が多い。それぞれの個性の鏡獅子の競演をこれから観ていけるんだと思うとなんだかワクワクしてくる。染ちゃんの鏡獅子は二代目松緑さんと勘三郎さんの魂を基礎におく高麗屋の『鏡獅子』になっていくんだな。

胡蝶@團子ちゃんと金太郎くん、ほんとに可愛いし、体をめいっぱいきちっと使った素直でいい踊り。子供の成長って早いですねえ。そして何よりお互いを意識し合いながら息を合わせて踊ってるのがとっても良い。獅子と戯れている可愛い蝶々。

国立大劇場『十月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』『春興鏡獅子』』 2等B席3階上手寄り

2013年10月03日 | 歌舞伎
国立大劇場『十月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』『春興鏡獅子』』 2等B席3階上手寄り

初日を拝見。

『一谷嫩軍記』「― 陣門・組討・熊谷陣屋 ―」

今回、幸四郎さんは「陣門・組討」の演出を従来のに戻していました。以前は色々分かりやすいようにと工夫されていて、それが悪いということではないのですが今回、拝見して
子役を使う遠見含めてやはり従来の演出がこの場には一番相応しいかなと。従来の演出で十分にこの場を説得力をもって見せてきていましたから。

直実@幸四郎さん、表情細かにストレートに親としての苦悩をみせていきます。幸四郎さんの直実はいつもは武骨な男故な直実というか武将の顔も強いと思うのですが今日は一人の男としての弱さが出てた。自分がやることにどこか覚悟できてない優しい面が強くあった。全体的には声が弱めで動きにも重さが見えて少し身体が疲れているかな?と心配も。

小次郎/敦盛@染五郎さん、初陣のまだいかにも少年という小次郎。その小次郎が敦盛に身代わりとして立った時には覚悟をきめたものが持つ冴え冴えとした凛としたオーラがありました。怖いくらいに人形のようで、あまりに儚げで実はなんだかああ、この人は死にゆく者なんだ、と小次郎/敦盛@染五郎さん観ていてどんどん恐くなった。

玉織姫@笑也さん、この方はほんとにいつまでも綺麗ですね。気持ちがストレートに伝わる可憐な姫でした。最初のうち少し時代物らしくないかな?と思いましたが場が進むにつれてとても良くなりました。

平山@錦吾さん、ベリベリっとした佇まいでとっても良かったです。

相模@魁春さん、説得力がありました。いつもより突っ込んだ芝居だったように思います。たっぷりとした情味があってとても良かった。息子小次郎を想ういじらしい母心と夫、直実に対する恋女房だからこその対等さのある想いのぶつけよう。時々、歌右衛門さんの面影を感じました。

藤の方@高麗蔵さん、凛とした格があり、相模といい対照としていたのが見応えあり。

弥陀六@左團次さん、今までは好々爺的な弥陀六だったように思うけど今回は非常に鋭さがあってすごく良い!

義経@友右衛門さんのが思った以上にきちんと格と情味があって良かった。

四天王に廣太郎、廣松兄弟と梅丸くんの可愛らしい三人が。年聴覚の宗之助さんも可愛いし、可愛い四天王でした。でも芝居は行儀よくかっちりとしていました。


『春興鏡獅子』

たぶん、冷静に観られなかったと思う。正直な感想を。

弥生/獅子@染五郎さん、どうしよう涙が止まらない。染五郎さん、完全復活だよ。そして今回のは染五郎さんなりの勘三郎さん追悼だと思う。初日から素晴らしかった。贔屓目もあると思うけど、本当に良かったです。なんだろう、ぱあっと可憐な花が咲き、華やかに舞った感じ。弥生はとても可愛らしいだし、獅子は凛として勇壮。そして踊りの間がね、勘三郎さんに稽古つけてもらったことを丁寧に表現しようとしてるんだなって。もう色々と涙。

初日だし久しぶりの舞踊の大曲だし、久しぶりの女形だしでまだ固い部分はあるけど、これからもっと良くなると思う。観るまでは染五郎さんがこの舞踊をどこまでやれるか不安だった。事故で手首だけでなくあばらも折っていたし、まともに動けていない期間が結構長かったみたいで復帰直後は足腰の筋肉が前ほど使えてないのは明らかだった。それでも驚くほど戻してはきていたけど。でも弥生の身体の使い方は半端じゃないから。でも染五郎さんは私のそのハラハラドキドキな気持ちをどんどん消していってくれました。相当きついんだろうねってはわかっちゃったけど、でもすんごく可愛らしくて、踊るうちにほんのり色気が増してきて、とにかくラブリーだった。そして獅子はカッコイイ。染五郎さん獅子は鋼のようなしなやかさがある。ただ、毛振りはちょっとお疲れだったかも。ほんとはもっと勢いがあるはずなんだけどな~。こなれていっていつもの毛振りを見せてくれるといいな。

胡蝶@團子ちゃんと金太郎くん、よくぞここまで踊りましたというくらいしっかり踊っていました。二人とも詞章をきちんと理解して踊ってたと思う。お互いの息もしっかり合っていて、ほんと良かったです。二人とも超可愛い。