Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 3等A前方下手寄り

2014年11月24日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 3等A前方下手寄り

『御存鈴ヶ森』
上から観ると白井権八@菊之助さんの佇まいに梅幸さんを感じる。ふっくらとしなやかななかの線の太さ。声の良さも際立つ。

歌舞伎十八番の内『勧進帳』
弁慶@染五郎さん、とても素敵でした。大きさと骨太さが無理なく出てたし何よりも本当に真っ直ぐな弁慶。動きに伸びやかさもあり声もよく出てた。そして何より台詞がますます分かりやすく、場の情景がありありとわかる。ストレートに弁慶を弁慶として現わしている。

義経@吉右衛門さんは牛若を感じさせる芯の強靭さのなかの位の高さが特徴だと思う。

富樫@幸四郎さんは老獪さと重さが特色。恩情少な目かな(^-^; それだけによくぞ通したという感慨も持たせる。弁慶@染五郎さんとの問答の間は中日頃からかなりしっかりあわせてきている。さすが親子、ぴったりと間が合い問答に迫力がでた。

三人が横並びになった時の空間の濃密さには圧倒させられる。幸四郎、吉右衛門という大きな役者に挟まれての染五郎さんの弁慶。その二人のオーラに負けてないと思わせたのは大したもの。

余談:中村屋ファンには怒られるかもしれないけど今日、十七代目か十八代目のどちらかが勧進帳を観に降りて来られたと思う。だってすんごく不思議な大きさと飛びかたしてたのですもの。応援しにいらしたと勝手に解釈。

『義経千本桜』「すし屋」
22日に拝見した時も思ったのですが権太@菊五郎さんの華と巧さが突出している。さらりと演じながらも芝居の吸引力が強い。場が浮き立つ。江戸の型なので初手はまずは悪さを通しハラを見せません。そこで後半が活きる。それも権太なりの義理の部分をしっかりみせながら情の部分を感じさせる方向。「すし屋」の報われない理不尽さ突き詰めていかないのでたっぷり泣かせるわけではないのですが反対にざっくりとした味わいがあり後味として悪くありません。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階後方花道寄り

2014年11月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階後方花道寄り

『御存鈴ヶ森』
権八@菊之助さん、相変わらずクールビューティ。安定感があります。

長兵衛@松緑さん、少し余裕が出てきたかな。

全体的に立ち回りが締まってきて見応えがありました。

歌舞伎十八番の内『勧進帳』
弁慶@染五郎さんがますます弁慶だった!そして役に膨らみが出てきていた。感情の揺れのなかで弁慶としての決断力の早さや決意、そして素直な優しさ懐の深さなどがもっと明快になったというか。そこに弁慶としての大きさがみえた。それを観ることができてとても嬉しいし幸せ。

弁慶@染五郎さん、台詞の調子を評論家に褒められていた。これはかなり嬉しい。この段階で少し荒れ気味なとこがあったとはいえ声がかなり保ててるし、だいぶコントロールもできてた。友人と弁慶@染五郎さんの台詞が昨日は特に音のど真ん中に入ってたね~と感想を言い合う。単なる台詞劇から一歩進んだかな。そこに弁慶の感情も大きく膨らんで現れるのだなと思ったり。にしてもやはり今月の染五郎さんの弁慶は先人たちの弁慶が重なっているかのよう。ようやく弁慶が身体に馴染んできたかな?という段階だし体現しきれてない部分は多々だけど方向性はしっかりある。そして、そのなかですでに染五郎さんがつくりあげようとする、体現しようとする弁慶がそこにあった。

『義経千本桜』「すし屋」
菊五郎さんの「すし屋」は初めて拝見するかも。重くなりすぎず、かといって情が薄いわけではなく十分に権太の情を伝えていく音羽屋ならではのバランスの一幕。芝居全体を通して菊五郎さんが出ると華やかに浮き立つのが印象的。また幸四郎さんが梶原平三景時で付き合うので、二人のやりとりの場面に大きさと濃さがありました。さすがというところ。

権太@菊五郎さん、憎めない小悪党然とした登場からたっぷりとした華があり惹きつけていきます。非常に自然体にそれでいてくっきりと権太という人物をみせていく。ほんとに見事だなあとしみじみ感心。さりげないのに所作のひとつひとつが印象的。また台詞もさらりとした味わいに巧さを感じさせました。

維盛@時蔵さんは丁寧に演じていきます。鷹揚としたところがらしい。お里@梅枝さんとの息がぴったり。

お里@梅枝くんはとにかく巧い。声もよく台詞廻しも丁寧でお里というキャラを丁寧に活写。巧すぎて少し洗練されすぎているかも。田舎娘の哀れさがもう少し欲しいかな。

梶原平三景時@幸四郎さん。白塗りでの登場で清濁飲み込んだ人物として演じていきます。さすがに舞台に大きさがでます。またやはり華やか。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』 『勧進帳』幕見

2014年11月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』 『勧進帳』幕見

歌舞伎十八番の内『勧進帳』

染五郎さんの弁慶、今日も一途で必死な素敵な弁慶でした。身体のキレのよさ、丁寧さは観てて気持ちがいい。そしてなにより弁慶としての気迫に観客がのまれていくのを感じた。義経と弁慶との信頼の深い情愛に泣け、そして富樫への感謝、天への感謝に感慨深くなる。

最近、六方に手拍子が起こりがち。今回は起こりそうになっても弁慶@染五郎さんの気迫が勝りそれは消える。感覚的に手拍子は応援。拍手は称賛。だから私は拍手がいい。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方花道寄り

2014年11月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方花道寄り

二日目に観たときより『井伊大老』も『熊谷陣屋』もアンサンブルが密になってて見応えあった。両親も満足してた。『井伊大老』のせいで彦根城にまた行きたくなったみたい。彦根は私もまた行きたい。


『寿式三番叟』
染五郎さん、空間目一杯大きく鋭く踊る。形を決めたとこで溜めてキレよくパンといく緩急は歌舞伎的といえば歌舞伎的。お囃子の音のど真ん中で踊ってた。流れるようにというのを求めたら破調には違いないけど、観客の気持ちをあげていく。

反対に松緑くんはゆるりと三番叟の格を意識した丁寧な踊りぶり。

文楽の『寿式三番叟』を観たことがありますが文楽の二人の三番叟の頭は白塗りと砥塗りで踊り方と性格が正反対。白塗りは端正でちゃっかり、砥塗りはダイナミックで正直。イメージ的に染五郎さんが白塗り、松緑が砥塗りぽくなるかなだったんだけど実際は反対だった(笑)

『井伊大老』
下屋敷の場がやはり見応えがある。

吉右衛門さんの井伊大老、感情豊かになってますます人物像にふくらみが出て説得力がますます。

お静の方はどうしても雀右衛門さんのが好きすぎてつい比べちゃう。芝雀さんのはひたすら健気系。夫婦間の絆が感じられて好きだけどもう少し可愛い色気が欲しいところ。

『熊谷陣屋』
幸四郎さんが調子を戻したようで細やかな感情がよく伝わり舞台が濃くなっていました。そこに菊五郎さんの義経が入るから大舞台。魁春さんの相模はまたよくて。最近、魁春さん本当に良い。それと左團次さんの弥陀六が手強くたっぷり。前はもっとさらっとした手触りだったと思う。高麗蔵さんの藤の方もよかった。この役、前はあまりなじまなかったように思うけど何度か手掛けて役に馴染んできたのかも。松緑くんの軍次は前から好きなんだけど今回も軍次の立場を明快に演じてて良かったです。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』 『勧進帳』幕見

2014年11月12日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』 『勧進帳』幕見

歌舞伎十八番の内『勧進帳』

芝居としてきちんと濃厚だったように思う。初日、2日目は私が染弁慶しか観てないのでなんともなんですが、それでも今日のほうが全体のアンサンブルがよかったと思う。今月の『勧進帳』はドラマに緊迫感があってスリリング。

弁慶@染五郎さんと富樫@幸四郎さんがようやく間があってきたのも大きいかな。初日周辺では富樫@幸四郎さんが突っ込むというよりゆるりと受けるほうが強くて問答の緊迫感が少し生まれにくくなってる感があったので。役割的に問答の場は富樫が突っ込んでくれないと弁慶がうまく受けられないと思う。そこを幸四郎さんが調整してきてくれたかなと。

弁慶@染五郎さんと義経@吉右衛門の主従の関係性は相変わらず濃厚。共に戦ってきたなかでの信頼関係という無骨さのある関係性。そこにまた義経一行の悲壮さが伝わってくる。

弁慶@染五郎さん緊迫感が凄まじくてとにかく負けねえぞ的な。一途で必死でとにかく性根が真っ直ぐ。六方も追いかけなくてはな気迫ありすぎ。すっ飛んでいった。弁慶@染五郎さん、ほんとに真直ぐに正攻法で高麗屋型にぶつかっていってる。苦しいとこも勿論多々あると思う。だけどそのなかで台詞の良さは際立っていると思う。どう対峙しようとしているのか、何をどう決心したのか、どう気持ちが動いてるのか、その時々の気持ちがくっきり。だから弁慶に寄り添える。そしてその弁慶がどうあるべきか、どうあらんとすべきかという部分で非常に気持ちのよい芯がある。とても愚直に生きてきた弁慶だ。弁慶の立往生を今日は連想させた。それほどまでに義経を守ろうとする使命感に燃えている。余裕はないけど大きくみえた。弁慶の六方は白鸚さん譲りかもしれない。天の感謝から、一気に跳び去る。

今日はようやく、義経@吉右衛門さんが問答の時に様子を伺うところと太刀持ち@金太郎くんが刀を差し出すとこにも目がいった(笑)

明治座『十一月花形歌舞伎 昼の部』 1等1階前方花道外

2014年11月08日 | 歌舞伎
明治座『十一月花形歌舞伎 昼の部』一等1階前方花道外

『高時』
あんまり面白くない演目だと思ってたけど今日はなかなか楽しかった。右近さん、身体がよく動く。

『夏姿女團七』
女團七、楽しい~。

竹三郎さん最高です。台詞といい表情といい、因業ばばあを演じて憎たらしいのにどこか可愛い。竹三郎さんでしか味わえないものですね。あのお年での立ち回りもお見事。

猿之助さん、カッコイイです。矜持ある筋の通った女が似合う。やっぱり女形だと色っぽい。本水の立ち回り、猿之助さん、あくまでもきちんと女形のしなやかな見得でした。身体の使い方が巧い。

猿之助さんの女形は本当に良い。久しぶりに二ヶ月連続で堪能できてとっても満足。今は立役が多めですけど女形も今後も色々やっていってほしいです。

今日は猿之助さんからお水いただきました(笑)

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』 『勧進帳』幕見

2014年11月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』 『勧進帳』幕見

歌舞伎十八番の内『勧進帳』

立ち見と言われたんだけどなんとか空き席ゲット。札止めになりそうなくらい入ってました。結局、今日も染五郎さん弁慶ばかりをガン見(^ー^;

弁慶@染五郎さんは先人たちの弁慶がそこにあって、でも染五郎さんの弁慶になっている。それと台詞が分かりやすい。勧進帳の台詞は難しいけど何を語らんとしているかがしっかり伝わる。そして所作のひとつひとつが大きく綺麗。細かいところを言えばまだまだこれからなとこ沢山だとは思うけど勧進帳の弁慶がそこにいるって今日も感じさせてくれた。

今回本当に義経が吉右衛門さんで良かった。最初の染の弁慶をねぎらう義経としてはこれ以上の事はないと思った。最初はこの座組なら吉右衛門さん富樫で幸四郎さん義経もありでは?とか思ったけど、やはり今回の配役なんだなと。お父さんはお互い認めあってもあくまでもライバルであり染五郎さんとの間はあの立ち位置がしっくりくるのだろうなと。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

2014年11月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

『寿式三番叟』
楽しかったです。

染五郎さんは大きくキレよく勢いよく。若干トランス系だったかも(笑) 松緑さんは丁寧に丁寧に。


『井伊大老』
しみじみと良かったです。吉右衛門さんの存在感がそのまま井伊大老でした。

芝雀さんのお静は自分の立場ゆえの自信のなさみたいなのが可愛らしさに繋がっている。お父様のなんとも色気のある可愛らしさとは違う。持ち味の違いなんでしょうね。

『熊谷陣屋』
いつもの安定感のある座組だけど義経@菊五郎さんが入って舞台が大きくなった。

熊谷@幸四郎さんは少し元気なかったかな。去年の国立での熊谷がとても良かったんだけど今日はまだそこまではいってなかった感じ。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階真ん中花道寄り

2014年11月01日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階真ん中花道寄り

個人的に待ちに待った今月。染五郎さんの弁慶がようやく拝見できる、その想いで胸いっぱいの観劇でした。

『御存鈴ヶ森』
若々しい端正な『御存鈴ヶ森』でした。

白井権八@菊之助さん、クールさが印象。ひとつひとつの所作が美しいです。権八としてのみずみずしい不穏さはなく、ちょっとすっきりしすぎかな?という部分もありますが回数重ねて色がついていくでしょう。

幡随院長兵衛@松緑さん、大親分まではいきませんが頭目として人を束ねている雰囲気まで出せてたので十分。何より、台詞の聞かせどころをしっかり聞かせて良かったです。


歌舞伎十八番の内『勧進帳』
染五郎さん念願の弁慶初役の初日です。客席の空気がとても独特でした。期待と応援とが入りまじった空気が満ち満ちて異様とも思える静けさと熱気とそして大きな大きな拍手と。歌舞伎座で客席がこんなに湧いたのを久しぶりに体験しました。

感無量。言葉が出てこない。観た直後はほんとに言葉にできなかったです。少し落ち着いてようやく言葉になりました。

染五郎さんの弁慶は無理なくきちんと弁慶だった。弁慶以外の何物でもなかった。一点の迷いなくど真ん中の正攻法で弁慶を演じていた。もうそれだけで十分。義経を全身全霊で守り抜こうという気迫とまっすぐな性根。まず台詞の調子が良く力感も十分、そして何よりひとつひとつの所作が丁寧で大きく美しい。石投げの見得、延年の舞、六方と気持ちよく決まっていました。六方に入る前の天への感謝に佇んだその時のなんともいえない感慨深い澄んだ瞳。それらのすべてが弁慶としてあった。とても素晴らしかったと言いたいです。弁慶役者がまた一人誕生した瞬間でした。

個人的にはとにかく緊張しまくりの観劇。硬直してただひたすら観てた。時々、いきなり涙腺決壊するし…(笑)一番泣けたのは問答終わって義経が見咎められてからの一連と吉右衛門さん義経がねぎらいの言葉をかけるところと延年の舞のところ。あとは六方で引っ込んだ瞬間。泣きすぎ(笑)自分でもこんなにも染弁慶を観たかったんだなと。そしてほぼ染五郎さんの弁慶しか観てないという観劇でした…。

富樫@幸四郎さん、ひたすらでかい壁という感じでした。朗々とゆったりと弁慶@染五郎さんを受けていました。

義経@吉右衛門さん、出の時はやはり「うわっ大きい」でしたが身体の使い方や台詞廻しで義経をきちんと体現。武将としての義経の格をみせていくやり方。弁慶を労う時の厳しくも優しいという風情がなんとも良かった。