Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター

2011年05月27日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』1等1階前方センター

千穐楽を拝見。二週間空けての再見です。若手の勢い、パワーと彼らの生理感覚でのテンポのよさ、そのなかでの等身大の造詣の面白さを見せてくれた今月だったように思います。反対に言えば「芝居」のなかの緩急の間合いのなかで生まれる余韻は少なかったと思います。でもいずれ少しづつたっぷりとした間合いになっていくでしょうし、今現在の若手の勢いやテンポを今は大事にして見せていくのも必要かなと思いました。何より若手の熱気ある芝居はエネルギーが満ち溢れ、観客のほうも元気をもらえますし、また若い観客を惹き付けて行く力がある。

とはいえ若手は花形歌舞伎ばかりですと芸の深みを得る機会は失ってしまうでしょうからバランスよく大歌舞伎と花形歌舞伎の両方をこなしていってほしいです。また大歌舞伎にしてもベテランを中心にし若手が脇に添えてという芝居だけでなく、花形を中心にしベテランが脇でしっかり固めるという芝居も上演していくべきでしょう。今月の明治座を拝見してその感を強くしました。

『怪談 牡丹燈籠』
千穐楽のお遊びはほとんどなく極めて真っ当にしっかりみせてきていたのが印象的。女たちの深すぎる愛ゆえの悲劇でした。愛するがゆえに男を追い詰めていってしまう、その果てに「死」がありました。しかしながら女たちはしっかりと男たち絡めとり自分の元へ連れて行くのですからある意味、幸せでもあるのでしょう。

2週間前に観た時よりお峰・伴蔵、お露・新三郎、お国・源次郎のカップルのそれぞれのキャラがきちんと立っていて、かなり納得でした。

お峰・伴蔵は割れ鍋に綴じ蓋のようなお互いを信頼し合った夫婦だったものが図らずも欲っ気を出してしまったがために業を背負い少しづつ気持ちがすれ違う。そしてお互いの気持ちを計りかね奈落へと落ちていく。お峰は良い暮らしよりも伴蔵の愛情が必要だったことを悟り伴蔵に捨てられることへの恐怖に打ちのめされ、伴蔵は間接的に人を殺したことへの恐れにおびえながらお峰の愛情にあぐらをかきつつ刹那的に逃げるように生きている。欲という罪に目をそむけた二人のすれ違いが「殺意」を産む。伴蔵は罪から逃れたくて。お峰は伴蔵から離れたくなくて。すれ違ったままの二人の死出は哀しい。

今回、一幕目のお峰@七之助さんと伴蔵@染五郎さん夫婦のらぶらぶ度が半端なく高かったです。だからなおさら二幕目のすれ違いぶりが切なかった。今回は金ゆえにというだけでなく、人を間接的に殺してしまったことへの恐れが伴蔵にもお峰にもそれぞれに心の底に絶えずあって、それゆえにお互いが本音のぶつけ合いが出来なくなってしまい、すれ違ってしまったようだった。

一幕目の伴蔵宅内でのテンション高い伴蔵@染五郎さんにお峰@七之助さんが一生懸命に付いていってるのがほんと可愛かったです。蚊帳が体に絡み付いてそこから出られなった伴蔵@染五郎さん、もがくのやめてぐったりと動かなくなった時、すかさずお峰@七之助さんが「諦めるじゃないよっ」。で、それに対して伴蔵@染五郎さんが「見てないで手伝えよっ」って甘えてみたり。ここ、たぶんアドリブだったと思いますが(笑)、こういう場面含めて喧嘩腰なつっけんどんなお互いの物言いがお互いの信頼感のなかで行われてるのがミエミエで結局はいちゃいちゃしているようにしかみえないカップル。

終盤、伴蔵がお峰を殺すために連れ出して花道を歩いてるところ、ずっと手をつなぎっぱなしでした。でも伴蔵は腹に一物ありって顔をしてて、お峰さんは超嬉しそうで…。傍目は仲良し夫婦だけど、気持ちがすれ違ってるなあって一目でわかり、一幕目の喧嘩腰での態度の二人のほうがどれだけ仲良し夫婦だったかと、そう思うだけでとても切なかった。だから殺し場での二人が悲しかった。お互い必死で同じ方向を向いていた一幕目と、お互い必死だけど違う方向を向いてしまった大詰の対比がなんともいえなかったです。

伴蔵@染五郎さん、前回観たときはちょっと小悪党風情がありましたが今回は等身大のちょっと情けないけどキュートでどこか飄々とたくましく生きているごくごく普通の市井の人だったように思います。前半はぶっきらぼうに接してはいるものの、気の強いお峰に世話してもらうのが嬉しそう。女房に甘えつつも自分もなんとか頑張っている気の良い男。

後半は成功し気が大きくなって虚栄を張っているなかに、どこか開き直れない気の小ささを垣間見せる。間接的に人を殺してしまったことへの恐れから逃げよう逃げようと生きているかのようだった。決してお国に心変わりしてるわけではなく、女房はお峰以外ない、そう思っていたには違いない。ところが成功してしまったがゆえに自分を曝け出せなくなってしまい、どんどんお峰とすれ違っていく。またそのなかにもその自分の底にある恐怖心はお峰と共有しているという甘えがあったのかもしれない。それだからこそ、お峰にお札を剥がしたことを突っ込まれ罪を暴露される恐れが出てきた瞬間に恐怖のどん底に落とされてしまう。「恐れ」は自分にしかなかったのかと。

嫉妬されて責められた時に出た言葉「お国とは縁を切り、一からやり直したい」というのはお峰の機嫌取りだけではなくどこか本心のような気もした。成功しているのにわざわざ一からやり直すという言葉が出てくるのは自分の逃げを自覚しているからだったのではないか。ところがその「恐れ」の源を図らずもお峰が引き寄せてしまっていたから怒ったのだ。そして伴蔵が明らかに狼狽しはじめたのは江戸にいた時分のことをお峰が言い出してからだった。罪を晒されて運命共同体だと思ったお峰が自分を破滅させることもできると、そう思ってしまった哀れな男だった。お峰はただ伴蔵から離れたくない一心だけだったのに、もうその心がみえなくなっていた。自分が生きていくために、お峰が邪魔になってしまった瞬間。そうして必死にお峰を殺したものの、殺して良かったんだろうか?という狼狽と我に返ってお峰への愛惜の狭間での怯えがあった。伴蔵@染五郎さんは人を陥れて成功した後ろ冷たさ、恐れをうまく造詣してきていました。

お峰@七之助さん、前回以上に愛する男のために生きている女になっていました。女の底にあるしたたかさは完全に無くなり、一途に伴蔵を思う可愛いお峰になっていました。伴蔵のことが好きで好きで仕方がなく、ぽんぽんと言い放つ口調は強いもののなるべく伴蔵が心地よくいられるように頑張ってる女性。まずは自分より旦那が大事。お金が欲しかったわけじゃないんだなあと。幽霊にお金を吹っかけるのもまずは旦那の命が大事でまさかほんとにお金が入るとも思っていなかったからだろう。でもお金が入ったことでもっと楽に暮らしができると夢は広がっただろう。だからこそ逃げてきた先で夫婦は一緒に必死になって働いたんじゃないかな。元手があったからといって商売なんて簡単に成功するものじゃない。それがあっという間に成功したのはそのせいだろう。

しかし成功すれば、必然的に忙しくなり使用人も使い、二人きりでいる時間が少なくなり、じゃれあうことも出来なくなってしまったんじゃないかな。また成功したことで漠然とその幸せが罪を背負ったことで成り立っていることへの後ろ冷たさにも繋がったのだろう。そこで伴蔵は逃避した。でもお峰は伴蔵の恐れに気が付かない。どこかその後ろ冷たさを感じながらも旦那と一緒であればそれでいい女だからだ。だから勘違いをする。伴蔵が自分のことが好きじゃなくなってしまったのではないか、その恐れのほうが強い。以前のように一緒にいたい、捨てられたくない、その想いがばかりが募って強い不安に陥ってしまっている。そして伴蔵の不安を悟れずに追い詰めてしまうのだ。言っていけないことを不安のあまりに口走る。それゆえに決定的な溝を作ってしまったことに気が付かない。伴蔵が自分のほうをまた向いてくれたと、そんな哀しい勘違いをしてしまう。その後の大詰で伴蔵と一緒に歩いている時の笑顔がとても切ない。殺される時もなぜ殺されるのかわかっていない。お国に嫉妬し、なぜこうなってしまったんだろう?と戸惑いのなか、叫ぶことすらせずに小さい声で「助けて、助けて…」と。その「助けて」が「私を捨てないで捨てないで」と言っているかのようにもみえた。殺される恐怖だけでなく伴蔵が自分を見捨てたんだという恐怖がそこにあった。誰にも渡したくない、それゆえに引寄せる、渾身の力で。離さない、何があろうと離さないと。そしてただ引きずり込むだけでなく伴蔵を抱きたい、そんな様相にみえました。

お露@七之助さん、新三郎@染五郎さんは無垢で純粋な恋ゆえの悲劇。お互い想いあっているのに世間知らずのために周囲の思惑でタイミングがずれ生と黄泉の世界へと離れ離れに。境界線を越えた愛情はよりお露@七之助さんのほうが強い。どうしても添いたい。それゆえに新三郎を自分の元へと引き込んでいく。その冴え冴えとした執着の炎がみえるかのようだった。そして新三郎@染五郎さんはやはり魅入られてしまうだけの隙のある浮世離れした空気の持ち主。「死」への恐れはあっただろうけど、お露に惹かれる気持ちは本物。だからその死顔はおだやかで美しい。

お国@吉弥さん、源次郎@亀鶴さんは愛欲の果て悲劇。肉欲に絡みとられた愛情と家督相続の金狙いの両方が結びついた愛と欲との二人連れ。そのために短絡的に人を殺し、結果逃げる羽目に陥り落ちぶれる。地獄をみたゆえか運命共同体のように深い部分で離れられなくなった二人。懺悔しながらもお国@吉弥さんの愛ゆえの開き直りが源次郎@亀鶴さんを追い詰め、錯乱のうちに源次郎は自死し、図らずもお国は源次郎の腕の中で突かれ心中のように死んで行く。

お国@吉弥さんはしたたかに生きる女の逞しさのなかに惚れた男は離さない情の深さをみせていく。積極的な色気が凄かったです。千穐楽では生キスしてました…(驚)。源次郎@亀鶴さんは強い女に振り回されながらもどうにも離れられない気弱さをみせてきていました。前回拝見したときはお国、源次郎はどこか気持ちがすれ違っていたように思いますが今回はどうにも離れられない二人という関係性に変化していたように思います。

久蔵@亀蔵さん、純朴で単純な久蔵をとってもキュートに演じてくださいました。ふんわりとした間合いが楽しいです。

お絹@ 宗之助さん、酌婦としてしたたかな世慣れた風情のなかにも気遣い優しさをほんのり感じさせ絶妙なバランス。普段、女形をする時は世慣れない娘を演じることが多いので新鮮でした。また今回、宗之助さんってこんなに上手だったっけ?(失礼)と思いました。亡くなられた師匠(宗十郎丈)の空気感を少し感じさせました。

お梅@新吾くん、女形が身についてきたなと思いました。体は大きいですけど純朴で可愛い娘でした。

お米@萬次郎さん、相変わらずキャラが立っています。自分の恋が実らなかった分、お露の恋を成就させようという執念が感じられました。

三遊亭円朝@勘太郎さん、なぜかちょっと緊張しているようにみえました。やはり落語家風情はあまりないですね。やはり難しいのでしょうね。しかし「物語」を伝える語り部としての役割をしっかり丁寧に演じていました。

『高坏』
次郎冠者@勘太郎さん、前回観た時より踊りに緩急がつき、またかなり高下駄タップが進歩していました。前回は台詞の調子や声がお父さんにとても似ているな、という部分ばかり目に入りましたが、今回は親子の違いもよくみえました。勘太郎さんの愛嬌は一生懸命な可愛さなんだな~って思う。一生懸命に高坏探して、一途にお酒が好きでって感じなんですよね。そこにほのぼのします。踊りに関しては勘三郎さんの情景描写のうまさ、高下駄タップのうまさがつい思い出されてしまい、そういう意味で勘太郎さん大変だなあと思ってしまいましたが、でも本当にこれからもっともっと素敵になっていくだろうと感じさせてくれてとても良かったです。

高足売@亀鶴さん、今回は伸び伸びと楽しそうに演じていらっしゃいました。なので踊りものびやかになっててとても良かったです。また、少しばかり肩に力が入りすぎている勘太郎さんを一生懸命ほぐしてあげよう、というような気遣いも感じられ、いい役者さんだなあとしみじみ。

大名某@亀蔵さん、丁寧に端正に。ほのぼのとした可愛らしい大名です。

太郎冠者@宗之助さん、出すぎず茶目っ気を出しての太郎冠者。意地悪にならないところが良いです。

明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

2011年05月22日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

『義経千本桜~川連法眼館の場』
忠信@亀治郎さん、初日の時より本物と狐とのメリハリが出ていて良かったです。狐忠信の表情がかなり子供っぽい作りになってた感じ。子狐の’子’の部分の愛らしさを強調する方向に。狐と見現した後がとても無邪気。丸顔なので尚更幼く見えるのかな。本来の狐忠信は成狐で長年生きてきた妖狐ですが、澤瀉屋の狐忠信の性根の芯は親を慕い想う気持ちを強く押し出す。そこがよく出ていました。台詞を言う時の息遣いが独特。なるほどあれで台詞コントロールしてるのですね。その息遣いを隠さず獣らしさを表現するものとしてわざと見せているような感じでした。 また、身体もよく動いていました。しかも丁寧に動くのでひとつひとつの動きが鮮やか。武将忠信のほうは丁寧にしっかりと。動きもだいぶこなれてきた感じです。とはいえやはり小ぶり。線がどことなく柔らかだからでしょうか。

義経@染五郎さん、品よくしっかり受けの芝居。だいぶ存在感が出てきたかな?とはいえもっと押し出しが強くても良いですね。狐忠信の肉親への情愛への共感、自分の身の悲哀は深くなっており、狐忠信に鼓を与える行動に説得力が。その時の義経@染五郎さんはとても満足気な表情をしており何気に可愛い表情でした。今回はやはり通常の演出とは違い御簾と途中で下げずに忠信@亀治郎さんを最後までしっかり見送っていましたね。どんな気持ちで見送っているのでしょう。ご苦労様です。ちなみに荒法師軍団たちが出てきた時は若干素になって怪我しないでね~って感じで何気に心配そうな顔になってたのを見逃しませんでした(笑)。

静御前@門之助さん、古風な雰囲気がやはり良いです。ただ初日は丁寧に丁寧に演じてらして可愛い感じだったのですが今回は少しばかり動きが雑にみえ線が太くなっていたのが残念。義経さまラブの部分があまりみえなかったなあ。忠信@亀治郎さんとの息はきちんと合っていました。忠信への追い込みが強い静御前ですね。

亀井六郎@弘太郎くん、とても元気いっぱいではじけるよう。とてもよかった。

荒法師軍団は若手ばかりで勢いがあって良かったです。アンサンブルもよくなってきてたし、見応え充分でした。

『けいせい倭荘子 蝶の道行』
演出というか衣装は変えて欲しいけど、踊りは男女二人で直裁的に恋愛模様を描くので好きです。こういう舞踊は他にはあまりないから。『二人椀久』ぐらいかなあ。まあ『二人椀久』のほうが断然好きですけど。

染五郎さん、七之助さんコンビでの『蝶の道行』、やはり情の通い合いがもうひとつ足りません。個人的にはもっとお互いが大好き度が欲しいです。綺麗なカップルねで終わってる感じだなあ…。う~ん、染五郎さん、孝太郎さんコンビのイメージが強すぎるのだろうか?

特に小槇@七之助さんがだいぶ可愛げにはなってきてたけど、助国大好き度がまだ足りない。振りのなかでの表現がまだ足りないんですよね。踊りこめていない。目線とかちょっとした体の位置などなんだと思いますが。一途に相手を思うという「雰囲気」を身体全体から出せてない。

助国@染五郎さんは踊りこみは充分に出来ていますし身体の表情自体に色気がかなりあります。小槇に対しても熱い視線を送っているんですけど、そこが小槇@七之助さんとうまく噛み合わない。なので踊りこみが出来ている染五郎さんのほうがどうしても先へ先へと行ってしまってる感。レベルを落とせとは言いませんが、もう少し小槇@七之助さんに合わせてあげてもいいかも。

『恋飛脚大和往来「封印切」』
初日で感じた世話物は難しいのねという感想はそのまま。とはいえ全体のアンサンブルはよくなっており全体的には楽しく拝見できました。しかし初日のときより江戸前な『封印切』になっているのはどういうことなんだろう…。

忠兵衛@勘太郎さんはやっぱりニンじゃない気がする…。勘太郎さんらしい可愛らしさはありますが、いわゆる忠さんの可愛さではないんですよね。熱演はわかります、でもそれ以上のところまではまだまだいってない。ほんとにいっぱいいっぱいでやってる。とりあえず台詞廻しの緩急の持っていきかた、いわゆる「イキ」が違う。一生懸命なところは好感がもてますし、いわゆる芝居上手な部分である程度きちんと見せてはいるんですけど。でも忠兵衛を体現することまでいかない。忠兵衛のどうしようもない弱さ、婚約者がいるのに梅川に溺れて、金がないのに男としてミエっぱりなところを見せ追い詰められていく、そんなものがどうも見えてきません。どうしようもなくなっての梅川への「死んでくれ」のやるせなさが立ってこなかったです。忠兵衛って役、ほんと難しいんだなってつくづく思いました。勘太郎さん、意外と不器用かなと思う部分がいくつか。初日だからかな?と思っていた羽織や小判や財布の扱いに進歩があまり見られず…。上方狂言の世話ものは細かい積み重ねで人物造詣していくものなので、ついそこら辺が気になります。がんばってください。

梅川@七之助さんは初日がどうにもまったくハマっていなかったことを考えればかなり進歩していました。気の強さばかりが目だってましたが今回は忠さん一途な雰囲気がだいぶ出てました。台詞の調子を少し柔らかく変えてきていましたし表情もよく作れてた。ただし台詞のない部分がまだまだ。七之助さんは台詞は良いのですが身体を使って物語ることがまだまだ足りないですね。所作事、頑張ろうね~。とはいえきちんと成長ぶりは見せてきていました。

八右衛門@染五郎さん、今までの歌舞伎での八右衛門の敵役という造詣にこだわらずにやっている感じです。あくまでも「忠兵衛のともだち」としてぼんぼん育ちの上から目線での嫉妬心やからかいや対抗意識での振舞い。そのなかで図らずも忠兵衛を追い込んでいくという造詣。 初日は染五郎さん甘えたな雰囲気のほうが勝り、もう少し意地の悪さを出したほうがいいんでは?と思いましたが今回はこの造詣でもしっかり追い込めるんだなと思いました。舞台で一番客の雰囲気が盛り上がったのが八右衛門がいた場面でしたし。そういう意味で、一人でしゃべりまくる、仕方噺の部分がかなり上手くなっていた。また、勢いよく容赦なく忠兵衛を追い込んでいました。が、その代わり間合いが勢いが良すぎて江戸前でした…。忠兵衛@勘太郎さんと八右衛門@染五郎さん、どちらもつられてなんでしょうけど、上方言葉を話してはいるんですがお互い押しっぱなしで…。どこかしら緩急をつけてどこかボンボンの喧嘩のはんなりさを感じさせないと。 初日のほうが間合いはもっときちんと上方だったと思う…。

新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』 1等1階中央センター

2011年05月21日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』 1等1階中央センター

『敵討天下茶屋聚』
あまり再演されてこなかった演目ということで期待してなかったのですが結構楽しめました。芝居自体はあまり深く考えずざっくりとした物語を鷹揚にご見物する感じ。近代になって再演されてこなった演目だけあっていわゆるドラマ性は薄いけど天保時代の芝居ってこんな感じだったのかと思ったりも。物語ではなく役者個々のいかにもなキャラクターを楽しむ方向だと意外と色々ツボに入る。また『盲長屋梅加賀鳶』(元右衛門の目が見えないふりをする件)『忠臣蔵六段目』(奥さんが身を売ろうと決意する件)『合邦』(源次郎が兄、足萎えの伊織を運ぶ件)あたりを何気なく連想させる場面があったりして、そこら辺も個人的には良い擽りになっていたかな~と。

元右衛門/東間三郎右衛門@幸四郎さん、中間、元右衛門は柄らしていわゆる小者らしさはあまり無し。酒好きゆえに人として落ちていく雰囲気もあまりなし。たぶんニンのお役ではないと思う。しかしコメディセンスのある芝居上手な部分で作りこんでみせていており、メリハリのある芝居でなかなか楽しくみせてきていました。また、非常に身軽でよく動きます。尻はしょりする場面が多いのですが70才近い方の太もものラインとは思えない綺麗なラインにもビックリ。鍛えていらっしゃるのでしょうね。東間三郎右衛門のほうは柄に合い押し出しもよく姿が立派。前半は東間はそれほど大悪党という感じには作っておらず。もっと押し出しが強くてもいいかな。後半にいくにつれふてぶてしさが出てきて良かったです。

ただ、せったかくの一人二役ですが、元右衛門と東間の一人二役はあまり効果は感じられませんでした。演じ分けの落差があまりなく、化粧もそれほど変化がないので早替わりの面白さもあまりない。ニンではないにしろ元右衛門の一役に集中したほうが良かったのでは?と思ったりも。

早瀬伊織@梅玉さん、前半では正義感溢れる凛々しさを、後半では怪我で動けなくなった後の苦悩を端正にいかにも二枚目として演じてて役にピッタリ。とはいえ、少々お疲れかいつもより若々しさがなかったかなあ。でも悔しさのうちに死に至る場はさすがでした。台詞だけでやるせなさ切なさが伝わってきました。

早瀬次郎@錦之助さん、前髪姿がよく似合ってて綺麗でした。どこか世間知らずな若者らしい初々しさと一途さ。兄を慕う様子がまた良し。

弥助@彌十郎さん、温かみのある主思いのマジメな弥助を真っ直ぐに。酒ゆえに落ちた兄、元右衛門を思う姿も心根の温かさが出ていてとてもいいキャラでした。

染の井@魁春さん、武家の奥方としての凛としたなかに夫思いの健気さをみせて出番は少ないものの印象が深かったです。

早瀬玄蕃頭@段四郎さん、懐の深い骨のある家老としてさりげなく存在感を見せます。バランスのよい線の太さとでも言いますか、なんとも味わいのある上手さ。

腕助@錦吾さん、ちゃっかりとした腕助を楽しそうに演じていらっしゃいますねえ。ほんのり可笑し味があって良い感じ。やはり70歳近いとは思えない美しい太ももを見せてくださってます(笑)

片桐造酒頭@歌六さん、キリッとした捌き役として登場です。大きさもあってカッコイイです。しかし、物語の役どころがもうひとつ判りづらかった。何かありそうなんですが、どういう人物だったんだろう?

庄三郎@友右衛門さん、少し痩せられたかな?珍しく大立ち回り担当でした。頑張ってらっしゃいました。

幸右衛門@吉右衛門さん、少しの出番でもったいない。しかし、存在感の大きさ、繊細でさりげなくも懐の深い芝居で印象に残します。さすがです。

京屋萬助@歌昇さんもそれだけ?なもったいない使い方でした。でもこのクラスの役者がちょっとでも出てきてくださると嬉しいのも事実。

明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 1等A席前方上手寄り

2011年05月14日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 1等A席前方上手寄り

『怪談 牡丹燈籠』
初日に拝見した時にすでにほぼ出来上がってる感がありましたが、やはりしっかり進化させてきました。芝居全体の緩急にメリハリがつき、また人物造詣の輪郭もしっかりしていました。若手らしくテンポのよい勢いがあり、また観客を楽しませようという余白も作っており、とても面白かったです。染五郎さん、七之助さんの息もピッタリで「夫婦感」がよく出ている。この二人でのコンビの当たり狂言になるかもしれませんね。

今回は人の欲の怖さというより人の心の弱さ哀しさのようなものが強く出てきていたような気がします。楽しくて怖くて、でも余韻は哀しい、そんな芝居でした。愛情が掛け違った男女の物語でした。

新三郎@染五郎さん、前回より佇まいが美しくなっておりました。やはりどこか浮世離れしており、生命力があまりない感じ。夢のなかで生きてるような不思議な新三郎。お露さんにすでに魅入られてしまって、人でも幽霊でもどちらでもよかったのではないかなと思いました。早替わりは本当に早いですね。最後の早替わりの場もマスクではなく砥塗りから白塗りへきちんと拵え替えしておりました。

伴蔵@染五郎さん、小心者ながら自分の小さい欲には正直な情けない小悪党を本当に楽しそうに飄々と演じています。どんな状況でもどこか「生きる」ことを楽しんでしまおうとする明るさ、甘え上手さがあります。気の強い女房お峰には頭があがらないようで実はうまくさりげなく甘え、世話をさせてる感じ。お峰が自分のことを愛していること自覚しそこのあぐらをかいてる。前半では「欲」があるといっても楽しく生活できるだけで満足しているようなどこか根の気の良さがある。後半は成功しちょっと「欲」が出て自分を本来以上に見せようと豪勢に遊ぶことで「男」の虚栄心を満たそうとしつつも生来の小心者風情が消えない男としている。根の部分では女房への情が無くなったわけではなく、どちらかというとお峰の自分への愛情に甘えている。身の保身のために女房殺そうとする場でも、自分のためになら死んでくれてもいいだろうという甘えのなかでの殺意のよう。だから冷酷さはなく、必死に殺した挙句、これでよかったのか?という後悔、愛惜が「お峰!」という叫びにこもる。自分勝手な欲と生への執着が哀しい。

それにしても染五郎さん、よく動きます。腰を抜かしマトモに歩けなかったり、見えない何かに引きずられてたりと。その所作が上手いです。また立ち回りでは七之助さんとの息も合い、ピタッと極まったところなどは附けがないのに附け打ちの音が聞こえるかのようでした。

お露@七之助さん、初日のときより新三郎への執着心の強さが出ていたように思います。お嬢様育ちの純な可憐さと、幽霊になった時の儚さが本当にピッタリ。

お峰@七之助さん、この役が本役だったのかというくらいに、ぽんぽんと捲し立てるお峰が似合っています。玉三郎さん写しではありますがやはり自分の色もしっかり出してきてますますお峰という人物をたたせてきていてました。台詞の間が上手いです。特に後半の悋気の部分で絶妙。女のしたたかさの部分は少し薄くなり、どちらかというと旦那伴蔵のことが大好きで大好きで、一緒に貧乏生活をしていくうちに逞しくなっていった「女」かなという感じでした。伴蔵と一緒に楽しくいられることが大事。幽霊からお金を取ろうというのも旦那と一緒に生活してくために欲しい、その発想からだったのかもしれない。後半の悋気も単なる嫉妬心だけではない絶対に旦那に捨てられたくない不安を抱えのヒステリー。だからついあげくに判蔵脅してしまうような言い方になる。最後もそのために自分の命が危なくなったことすら思いがゆかず、あくまでもお国に嫉妬し伴蔵という男への執着だけをみせる。生への執着や恨みではなく、愛ゆえに伴蔵を自分のもとへ引寄せたのだろうと感じた。

お米@萬次郎さん、独特の愛嬌のあるお米さん。恨み執着が強く純粋にお露ちゃんのためにというより、自身のこの世の恨みを晴らしたい、自分が叶わなかった恋の成就をお露に託してという可笑し味がありながらも力のある幽霊。面白いです。

三遊亭円朝@勘太郎さん、初日より出だしの台詞廻しが勘三郎さんに似ていました。とはいえ、やはりこの役に関しては落語家という役としてはあまり作りこまず「物語」を伝えることに徹している感じです。

お国@吉弥さん、源次郎@亀鶴さんカップルは年齢差が少々気になるものの安定した出来。快楽的でありながら情の濃いお国に引きづられ荒んでいく源次郎。短絡的で先のことを考えずに失敗し、また生活地盤の不安定さから少しづつ気持ちがすれ違ってしまったカップルでした。

『高坏』
次郎冠者@勘太郎さん、お父様の勘三郎さんが得意とする舞踊に勘太郎さんが臨んだ舞台です。一生懸命にお父さんに追いつこうと頑張る姿が良かったです。持ち味や雰囲気は親子、違いますが強烈に親子なんだなというものを感じさせました。特に台詞廻しと表情が似ています。愛嬌のある表情で楽しい舞踊を楽しく踊っていきます。まだまだ一生懸命にというところですが持ち味は充分活かされていたと思います。似ているだけに勘三郎さんの超絶な上手さも再確認してしまいましたけど、そこに到達していくのは大変そうですね。頑張って欲しいです。

高足売@亀鶴さん、舞踊はなかなか上手な方かと思いますがちょっと硬かったかな。もう少し飄々とした味わいがほしいところ。

大名某@亀蔵さん、太郎冠者@宗之助さん、お二人とも軽妙に丁寧にしっかりと 。

明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

2011年05月03日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

初日を拝見。

『怪談 牡丹燈籠』
なぜこの演目を今の染五郎さん七之助さんにやらせるのだろう?もう少し年齢がいってからでいいのでは?と期待薄だったんですが、蓋を開けてみたら意外や意外、かなり面白かったです。まあ確かに伴蔵&お峰夫婦を演じるにはちょっと若すぎるかなってところはありますけど、周囲がきちんと固めることもあり見応えがありました。

この演目を拝見して花形はそろそろ侮ってはいけない時期にきてるのかもしれないと思いました。それにしても前半静かにクスクス笑わせつつも淡々と物語を運び、後半盛り上げていって一気に見せていく大きな緩急でのみせ方が上手いです。全体の目配りができてる感じがしました。

新三郎@染五郎さん、こちらは一人二役ということもありほとんど為所がない役。初日で見る限りは綺麗な新三郎さんですねって感じです。生命力なさげでお露さんと一緒に逝って良しな(笑)。それでいいのか?ですが…。取り殺される場の早替わりはかなり早いですがマスクかな?お露に振り回されるとこが『かさね』みたいで、そこの所作が非常に美しかった。6月『かさね』、期待たくなりますね。

伴蔵@染五郎さん、とても活き活きと楽しそうに演じています。ちょっと情けない小心者の小悪党を軽妙に演じててかなり楽しい。女房に押され情けなくはあるけど卑屈にならずどこか飄々と生きている感じがあり市井の男としてのたくましさを感じさせる。また後半、「旦那」と呼ばれる立場になってさらりと昔のことを忘れ「今」を謳歌し、気取りつつ、そこに小心者ゆえのずるさをみせる。染五郎さんは後半にガラリとカッコよくしてこないんですね。身なりは良くなり豪気になっても底にある小心者の部分をさりげなく表現している。いくらでもスッキリとした姿をつくれるのにどこか泥臭い部分を消さない。役の性根の部分で身体を作るのが上手いです。大詰は必死の形相が迫力。

お露@七之助さん、前回演じた時も可憐で良かったですけど今回も儚げで良いです。前回以上に新三郎さま命な一途さもみえるし、幽霊ぽさも一段と。

お峰@七之助さん、この役、どうでしょう?と思っていましたらかなり似合っててビックリ。今月の三役のなかで一番活き活きしてました。女のしたたかさ、逞しさ、底にある弱さをしっかり表現。芝居の上手さの部分、際立っていました。玉三郎さん様写し多々ではありましたが、単に写しただけでなく自分の色もしっかりつけていました。時々、間合い、表情などに中村屋(成駒屋も)の血を感じさせました。七之助さんはこういう気が強いけど可愛い女っていうのが似合うんでしょうね。とても見応えありました。七之助さんは「女形」として吹っ切って良かったかも。

お米@萬次郎さん、幽霊度は吉之丞さんに負けるけど、お米として独特の存在感がありました。お嬢様一途というだけでなく、どこかお米の立場としての口惜しさを感じさせる。面白かったです。

三遊亭円朝@勘太郎さん、要所要所で物語を伝えるという役割を丁寧にしっかり演じてくれました。こういう時はお父さんに似ないでしっかり勘太郎くんが出てくるのよね。不思議な親子だ。

お国@吉弥さん、すっかり手馴れたお役で色気むんむん。自分勝手なようで一途なお国を説得力持って。

源次郎@亀鶴さん、お国に押されまくりな(笑)ちょっと屈折した源次郎さんでした。もう押し出しが強くなると亀鶴さんの上手さが際立つんだろうなと思いました。個人的にはどこか抜け感も欲しいかな。

馬子久蔵@亀蔵さん、とぼけた味わいでとにかく楽しい。

『高坏』
体調がすぐれず、今回はパス。申し訳ない。

明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 3等A席センター

2011年05月03日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 3等A席センター

初日を拝見致しました。若手の勢いがありとても面白かったです。

『義経千本桜~川連法眼館の場』
忠信@亀治郎さん、昨年の亀会から大成長してました。亀会の時は柔らか味がありすぎて女狐にしかみえなかったんだけど、今回はしっかり立ち役としての狐忠信。かなりメリハリが効いていて、そのうえで狐らしいまるい柔らかさもあり、また情味の部分もしっかり表現していてとても良かったです。ケレンもかなり華やかにみせてる。猿之助さんが今回かなりしっかり指導されただけあります。亀治郎さんもよくここまで持ってきた。これぞ澤瀉屋の「四の切」。かといって、かならずしも叔父さん写しだけじゃない動きもあり、亀治郎さんらしい柔らか味も重視してるので亀治郎さんの忠信としてバランスが良いと思う。声の調子はだいぶ低めに取っていて叔父さんソックリ。でもあまり舌足らずになってないので叔父さんより聴きやすいかも。宙乗りでは亀ちゃんのドヤ顔炸裂です(笑)。ただ、本物の武将忠信ではまだ輪郭がしっかりしませんね。大きさが不足。カドカドの決まりがやはり柔らかすぎかな。形は綺麗なのですが。しかし、まだこれからですし、十分以上の出来だと思います。完全に持ち役にしてきました。

義経@染五郎さん、こういう格の高い受けでの役はまだまだだなと思っていましたけど、今回、サマになってきたと思います。だいぶ存在感がでてきてました。また義経の流転の哀しい想いを表現できてるのが非常に良い。台詞廻しが吉右衛門さんにかなり似てました。義太夫の勉強をしっかりしているるんでしょう。あとはもっと貴人としてのキラキラオーラを会得できればなと思います。初日だけか今後もなのか、なんと宙乗り亀治郎さん忠信を最後の最後まで見送っていました。今月ぶっ続けの五役なのでこれをやるとかなりキツイと思うのですが、こだわりがあるようですね。

静御前@門之助さん、少しばかり芝翫さん風味入ってて古風な味わいで、とても良かったです。忠信@亀治郎さんの芝居の間もよくあってましたし、さりげない情味もあり、上々出来。また3階からだからか、思った以上に可愛いんですよ(さりげなく失礼…すいません)。最近、女形をされていないせいか時々肩の線が男に戻る時はありましたがこなれてきたらそこも解消されるでしょう。

『蝶の道行』
相変わらずのキッチュな演出&衣装です。どうにかならないでしょうか…。とはいえ、私が見慣れてしまったのか前ほどはそんなに「ヘン」に思わなかったです。慣れって怖い…(笑)

さて染五郎さん、七之助さんコンビでの『蝶の道行』ですが初日はまだ熱烈恋人カップルではなかった。まだ幼い恋というか恋恋してる感じというか。以前拝見した染五郎さん、孝太郎さんコンビでのこの舞踊ではかなり熱烈でしたので…あれはやっぱり相当濃厚だったと思う。あと踊り手としてのバランスも良かったし。染・七となると七之助さんがまだちょっと染五郎さんと同等じゃないので…。とはいえ、染・七だと綺麗な悲恋カップルって雰囲気はしっかりあって、演出&衣装のクドさを中和してるような感じもありました。

助国@染五郎さん、まだ乗り切ってない部分はあったと思うけど踊り手としての表現力がかなり上達していて感心しました。情景描写のひとつひとつが活き活き活写されている。体の使い方がほんと良いです。しなやかさとキレのバランスもいいし、踊り自体に色気があるし。あんなド派手衣装がいらないって感じでした。

小槇@七之助さん、ちょっと細すぎる感はありつつお人形みたく可愛いかった。幼い感じさえ受けました。踊りのほうはまだ余裕がない感じ。何度かこの踊りは踊ってると思うのですが、今回のヴァージョンは初めてでしょうか?今回のはかなり手数の多い高度な振り付けなので。踊りとしては全体的にちょっと硬い感じです。まだ恋人同士の情景をしっかり描くところまでいってない。後半どこまで伸びるか。

『封印切』
世話物は江戸、上方問わずやっぱり難しいのよね~と。特に上方の世話物って独特ですし。今回、ほとんどが江戸の役者ばかりですし上方の空気感はかなり薄かったです。とりあえず芝居としても全体的に硬かった。初日で観た限りでは忠兵衛@勘太郎くんと梅川@七之助さんあまりニンに合ってない感じがした。それらしかったのは秀太郎さんの観てると物足りないけどおえん@吉弥さんといけずな敵役にはなっていなかったけど八右衛門@染五郎さんかなあ。まあ個人的に『封印切』に関してはかなり厳しいから…理想が文楽の玉男さんの忠兵衛ですから(笑)

忠兵衛@勘太郎さん、かなりの熱演でしたし、よくやっていたと思います。しかし骨太というか忠さんにしては強すぎる感じが。勘太郎さん、いまのとこ役どころにおいて基本的に揺らぎが無いというか、とりあえず今回、忠さんが必要な「はんなりした惑う弱さ」がないと思う。純粋なアホというか、あほだねえって言われそうな部分があまり無いですね。緩急の緩が効かないというか、押していく一方で。役によってはそれがすごく活きるけど、忠兵衛のような役はそうはいかない。藤十郎さんに習ったそうですがやっぱり台詞廻しなど勘三郎さんのほうを彷彿さます。八右衛門とのやりとりのあたりは藤十郎さん写しかなと感じさせましたが。耳が良い勘太郎くんにしては上方言葉に相当苦労してるなと。台詞が抜けるところが違うというか。あと「わし」って言わなければいけないのを「おれ」と言ってしまったり。こういう細かい部分は今後修正していってくれると思いますが。

梅川@七之助さん、可愛いです、でもそれだけでした。今月の役のなかで七くんが精彩欠いたのが梅川。役になってる?なってないよね?って感じ。柔らか味がないのは仕方ないにしても一途に忠さんのこと大好き、忠さんじゃなきゃいやって雰囲気にみえなかったです。「うるうる、ふわふわ」って雰囲気あまりなかったです。私の川さんのイメージって上目使いで目をうるうるで雰囲気がふわふわしてて一見弱そうだけど実は芯に一途さを持っているという感じ。七くんだと気の強さばかり目立つというか。

八右衛門@染五郎さん、敵役になりきれてないけど、大健闘といえば大健闘。仁左衛門さんに稽古していただいたのかと思います。仁左衛門さんのイキをよく写していました。そして思った以上に忠兵衛を追い込んでいる。それと井筒屋内でのやりとりの場をしっかり持たせてる。仁左衛門さんの八右衛門時に痛感したけど、あそこは八右衛門がコントロールしないといけない場なんですよね。それが出来ていました。ただし、突っ込みがまだ甘い。歌舞伎の八右衛門は友達がいのないかなり「いけず」な男。でも染五郎さんは「お友達」として忠兵衛と張り合って、からかっているようにみえる。本気で追い詰めようとしている感じではない。原作の八右衛門は確かに忠兵衛とちゃんとしたお友達ですし、本来、それでも悪くはない思うけど、今回、勘太郎くんが骨太なこともあり忠兵衛が単なる抑えの利かない、自爆しちゃった男にみえ哀れにみえない。だからもっとイヤミな男になってあげないとダメかもとか。バランスの問題なので染五郎さんだけが悪いわけではないのですが。あと、良い男すぎるというかかなり可愛い八右衛門ってところも。なんというか、舞台に二人忠兵衛がいるような錯覚に…。つくづく染五郎さんは忠兵衛役者だと思う。八右衛門が忠さんの真似をするとこなど、まさしく忠さんだった(笑)

おえん@吉弥さん、さすが上方役者、はんりしながらも言うことはしっかり言う、色気が漂う色町のおかみさんでした。イヤミがなく忠兵衛、梅川の心強い味方としての存在。

仲居の一人に小山三さん。お元気で若々しい。いつまでも頑張っていただきたいです。