Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『十月歌舞伎公演『俊寛』『うぐいす塚』』3回目 1等A席1階花道寄り

2007年10月27日 | 歌舞伎
国立大劇場『十月歌舞伎公演『俊寛』『うぐいす塚』』3回目 1等A席1階花道寄り

千穐楽に行ってきました。千穐楽だけあって、役者さんたちは大熱演。『俊寛』では幸四郎さんがかなり前のめりでラストなんてほんとに崖から落ちるかと。『うぐいす塚』ははっちゃけてて、ますます楽しい芝居になってました。この演目、歌舞伎座でもいけると思うんだけな。

『平家女護島-俊寛-』 
俊寛@幸四郎さん、大熱演。ますます若い俊寛になっていました。気持ちがまだまだ若いんですよね。恋語りを聞き、その「恋心」というものを妻に重ねる可愛い男性。なので東屋を亡くしたことを知って都へ戻る意味がなくなってしまい、千鳥を船の乗せることで「父」としての使命を果たし「都」への思慕を断ち切ろうとする気持ちがストレートに伝わってくる。それでも諦観の気持ちよりじたばたする気持ちを整理しきれない俊寛。最後、幸四郎さんは勢い余って崖の上から落ちてしまうかと思うほど身を乗り出してていて「うわ、落ちそう」とドキッとしてしまいました。「これからどうしていけばいいのか」不安に押し潰されそうな俊寛でした。絶望感であのまま崖から身を投げるかも、とか思ってしまいましたことよ。「未来で~」はもうその覚悟ゆえの台詞か、とか。

それにしても幸四郎さん、今回は「歌舞伎」の芝居術に拘って演じていたような気がする。いわゆる型も大事にしてきたなあと。初日、中日に較べても台詞がどんどん義太夫にノってきてた。いつもだと、得意の現代劇の心理描写に長けた二重性をもつ台詞術で押してくるんだけど、今回それを封印してました。勘三郎襲名披露時での「俊寛」は極めて複雑な二重性をもつ台詞術での「おーい」が一際印象的で、その「おーい」も聞きたかったような気もするけど今回のじたばたしてる熱い俊寛も結構好きです

今回、康頼の錦吾さんの表情も一際印象的でした。俊寛という人物をずーっと身近に観てきた人なんだろうなと。ある程度の距離を持ち、気持ちを抑えていながらもとても心配そうに見守っている、そんな表情でした。なんとなく錦吾さんという役者の持ち味というものをしみじみ考えたりもしました。

それにしても今回、役者さんたちのバランスがほんとに良かったなと思います。瀬尾の段四郎さん、丹左衛門の梅玉さん、千鳥の芝雀さん、成経の染五郎さん、それぞれ自分の味というものをしっかり出しつつ、役に殉じていたなと。前のほうでみると細かい表情もよく作ってて見応えがありました。


『昔語黄鳥墳-うぐいす塚-』
もうほんと楽しかった。緩急がついて、見せ場がきちんと見せ場になってて。役者さんたちが楽しんでる、というのがストレートに伝わってきたし。皆さん弾けてました。

序幕からハプニング。鶯が後ろ向きに飛ぶのはアリなんでしょうか~。鷹も低空飛行でジタバタしてるし。腰元連中の大騒ぎが楽しかった。腰元ではおぶんの紫若さんがいい味出してました。ハプニング時にフォローに動こうとする機敏な動きも素晴らしい。

淀川堤のとこは錦弥さんがもう必死(笑)「おしりかじり虫」を提案した責任を果たしたのではないでしょうか~。しかしあの拵え、原型留めてないですよ…いい男が台無し(笑)。他の名題下の乞食さんたちは楽仕様だった。メイクがすごいことにっ。

今回、一際よくなっていたのは梅ヶ枝@宗之助さんかな。源之助に恋する桃色オーラが出ててとっても可愛らしかった。梅ヶ枝がいいと芝居が締まる。

染五郎さんはやったるで~って感じでした。源之助はやっぱ麗しくて、素敵。演奏は鼓は20日の時のほうが良い音を響かせてたと思うけど、太鼓のほうは前回のときより強弱をつけてきて今回のほうが良い演奏。大仁坊はかなりコミカルな方向にもってきてて、おかしすぎる(笑)「いかにも」ないやらしさとか「いかにも」な見得とかで沸かせてた。早替りがメリハリ利いててほとんどダレてなかったのが○。

芝雀さんの幾代は当り役でしょう。頼りになる腰元だけどとっても女らしいんですよねえ。芝雀さんの柔らかさが好き。立ち回りが案外良いのが私的収穫。立ち回りの手をキッパリと決められるんですよね。

玉木@東蔵さんはますます色ぽくて、すんごく良かった。今後もこういう色気のある悪女をやってほしい~。

ちょっとホケッとした長者の梅玉さんは可愛い。説明台詞がサラっとしてるのでいやみじゃないのよね~。

淀与三右衛門@幸四郎さん、無駄に豪華な配役(笑)。大時代な台詞回しが楽しかった。なんだ、こういう台詞回しもできるんじゃん。この人の台詞術の引き出しの多さにビックリだ。

国立大劇場『十月歌舞伎公演『俊寛』『うぐいす塚』』1等1階特別席中央花道寄り

2007年10月20日 | 歌舞伎
国立大劇場『十月歌舞伎公演『俊寛』『うぐいす塚』』2回目 1等1階特別席中央花道寄り

『平家女護島-俊寛-』 
「六波羅清盛館の場」
こなれてきてより判りやすくなっていました。

東屋@高麗蔵さん、寂しげなとこが好きです。キリッとした表情がかえって切ない。

教経@松江さん、台詞を一生懸命こなすところから伝えるという意識になってきてました。この役かなり重要なのでもっと頑張っていただきたいところ。

「鬼界ケ島の場」
この場はやはり良いです。全体のバランスが非常に良いんですよね。

俊寛@幸四郎さんの今回の解釈がとても面白い。今まで寂しげで諦観した孤高の人として提示していた俊寛をかなり変えてきて、人としての弱さをそのままひっくるめた熱い30歳代の俊寛を演じてきた。最後の「おーい」が今までとまったく違う。自分でもどうしたらいいのか、不安でしょうがない「おーい」だった。その情けない諦めきれない表情に余韻がとってもあって、孤高の人たる前の解釈の俊寛もかなり好きなんですが、今回のはなんだか後から妙に余韻が残る。

千鳥@芝雀さんが可愛い。ちょこちょこした足捌き、初心な田舎娘風情、恋する人と別れたくないという切々とした気持ち、どれも極めて自然に「千鳥」としての存在感があった。最近、芸に芯がついてきた。年齢的に確かに見た目はトウが立っている。でも10代の可憐さを芸として提示できるようになりつつあると思う。もう少ししたらどこかで化けるんじゃないかと期待してます。

成経@染五郎さん、都人風情の抜けない色気があるのがいい。千鳥との「恋」もどこか宮廷人としての「恋」だ。「今の時代の恋」ではない、その時代をみせる。浮世離れしてて、所詮は身分違いの部分を感じさせる。にしてもやはり恋を物語る様が艶ぽいし聞かせる。

瀬尾@段四郎さん、本当にこの役は見事だと思う、手強い。本来の悪役じゃない部分がしっかり見えるんですよね。役人としての真っ当な言い分はきちんと伝わる。融通の利かなさとか、意地悪さが瀬尾の悲劇の元(笑)押し出しの強さが楽しい。


『昔語黄鳥墳-うぐいす塚-』
6日に拝見した時よりさすがにだいぶ芝居が締まってきた。ゆるゆるさも楽しい。演出、細かい部分で手直しもしていました。私はこういうどうしょうもない話って好きなので、観ててとにかく楽しい。でもやっぱ大詰の場はもう少し工夫してもいいかなとは思う。早替わりは影武者さんたちとの間が良くなったせいでだいぶ効果的な見せ場になっていましたが、もう少しストーリーを工夫するとか。要望としてはカタルシスがもう少し欲しいかな。

源之助@染五郎さんは今のところやっぱ二枚目の役者だよな、とつくづく思う秀麗さを見せる、立役版、阿古屋の演奏披露のところが伴奏とのバランスも良くなり、かなり良い演奏になっていました。鼓も太鼓もお上手です。今回、鼓の音がスコーンと響いてました。この場はやはり盛り上がります。役者の生演奏ということで観てる側もワクワクドキドキしてしまいますし。

大仁坊@染五郎さん、こちらはかなり楽しそうに演じていますね。悪ガキ風な破戒僧です。重さは全然ないのですが、飄々と悪さをやってのけるのが面白いです。

玉木@東蔵さんがお色気が増してかなり素敵。しかもますます若々しくてなんだか綺麗になってません?非常に良いキャラを出されています。

梅ケ枝@宗之助さんはやはりもう一歩ってところからなかなか前に出てこないかな。なんというか存在感が地味なのよねえ。もっと梅ケ枝が印象的だと芝居の印象も変わると思うのだけど。「決闘!高田馬場」のおもんではあれほど弾けていたのになあ。ラブラブ光線や可愛らしさがもっと欲しいな~。

幾代@芝雀さん、芝居を締めています。姫想いの優しくて頼りになる腰元。でも単にパキパキしてるだけじゃなくて柔らかさがあってとっても女らしいんです。また幾代の拵えがかなり似合って相当な美女ぶり。

青山劇場『キャバレー』ソワレ S席前方上手寄りセンター

2007年10月18日 | 演劇
青山劇場『キャバレー』ソワレ S席前方上手寄りセンター

松尾スズキ版『キャバレー』を観ました。わりと軽めの演出で楽しかったです。内容からするともう少し時代に翻弄される重さとか暗さ、そして退廃した雰囲気などがあってもいいかなとは思ったんですが、エンターテイメントとしてはしっかり作りこんでいました。ただし、本格的ミュージカルという感じではないかな。どちらかというと音楽劇の粋かな。

まずはやはりMC@阿部サダヲちゃんが上手いです。舞台の人ですね、やっぱりこの人は。縦横無人に動き回り、客席をいじる。猫メイクがとってもキュートでした。

サリー@松雪泰子さんは綺麗だし、歌が思った以上に上手い。低音の部分が魅力的。んが、ちょっと舞台では線が細いというか押し出しが少々弱いかな。体の使い方が小さいんですよね…。あと台詞術もちょっと弱め。映像では松雪さんの淡々とした口調が素敵だったりするのですが舞台だと平坦な感じを受けます。

クリフ@森山未来くんは得意な踊りをだいぶ封印されていてちょっと残念。その分印象がちょっと薄かったけどクセのない芝居で素直に演じていました。

印象的だったのがシュナイダーさん@秋山さんとシュルツ@小松さんのパート。楽しかったり哀しかったりがストレートに伝わってきた。秋山さん、こんなにコメディができる人なんですね。


青山劇場『キャバレー』

ジョー・マステロフ【作】
ジョン・カンダー【作曲】&フレッド・エブ【作詞】 
目黒 条【翻訳】
松尾スズキ【日本語台本・演出】

出演者:
松雪泰子 【サリー・ボウルズ/キット・カット・クラブの歌姫】
阿部サダヲ 【MC/キット・カット・クラブの司会者】
森山未來 【クリフォード・ブラッドショー/アメリカ人作家】
秋山菜津子 【シュナイダー/下宿屋の女主人】
小松和重 【シュルツ/ユダヤ人果実商】
村杉蝉之介 【エルンスト/ナチスの政党員】
平岩 紙 【コスト/シュナイダーの下宿に住む若い娘】

星野源 花井京乃助 羽田謙治 大川聖一郎 長田典之 川島啓介 小林遼介 町田正明 安田栄徳
康本雅子 安藤由紀 宇野まり絵 坂上真倫 久積絵夢 西林素子 宮本えりか

歌舞伎座『十月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

2007年10月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『十月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

『通し狂言 怪談 牡丹燈籠』
私の覚えている『牡丹燈籠』と演出や台詞があちこち違っていた。どうやら大西信行脚本版を観るのは初めてだったみたい。今回は終始怖くない怪談でした。かなり笑えました。

お露@七之助くんと乳母のお米の吉之丞さんの幽霊コンビ、最強。二人とも似合いすぎです(笑)特に吉之丞さん、絶品。幽霊にしかみえないのっ。足が無ようにみえた…。

さて、やっぱり仁左衛門×玉三郎コンビはいいですねえ。独特の空気感があります。息が合うというのはこういうことだな、って思うのです。絵面が良いってだけじゃないんですよね。会話の間が絶妙なんです。

お峰の玉三郎さん、白塗をしない玉三郎さんは久ぶり~。玉三郎さんの悪婆系のお役、大好きなんですよ。活き活きしててとっても良かったです。玉三郎さんの悪婆って可愛らしいんですよね~。玉さま独特の軽い言い回しがなんとも色気があって。今回、珍しく台詞のトチリや間が空いちゃうところがあって少しドキドキ。いわゆる抑揚をつけない台詞は結構難しいんでしょうね、リズムで覚えられないから。でも現代劇に近く、とんとんと台詞が流れるように行く感じなのでそれがさほど気にならない。それにしても玉三郎さんの「ちゅうちゅうたこかいな」の台詞が耳に残ってなかなか消えません(笑)

伴蔵の仁左衛門さんも楽しそうに演じてました。仁左衛門さんの軽妙なところがうまく活かされていて観ていて楽しい。カッコイイのに情け無いとことか違和感ないのよね。

終始楽しかったのですがラストの演出はどうなんでしょ?ちょっと中途半端かな。伴蔵とお峰夫婦がずっと仲が良いだけに唐突感が否めない。

源次郎@錦之助さん、お国@吉弥さんカップルも美男美女。こちらは妙にお色気むんむんでした。源次郎@錦之助さん、こういう役、ほんとにハマる(笑)こちらのほうがいかにもリアル感があるカップル。こちらのラストは結構壮絶でいい。

『奴道成寺』
この踊りを観るのは坂東三津五郎襲名披露以来です。実のとこ、三津五郎襲名披露時には「確かに踊りは上手いけど、面白みがあまり…」という感想を持った舞踊でした。あの時、三津五郎さんの踊りは上手いけどかなり地味だったように思います。しかし今回、とっても華やかで楽しい舞踊でした。なんというか、襲名時より三津五郎さんの踊りに艶が足されていて華やかさもいい感じにプラスされていました。芸を磨くというのはこういうことなんだなと思いました。

所化さんは御曹司たち中心。三階からだと見分けついたのが数人だけ。みんな顔が定まっていない年齢だからね。これから頑張れ~というとこです。

演奏がいつもの道成寺の演奏より盛り上がらないのが残念でした。うーん、どこがどう違うのか?

国立大劇場『十月歌舞伎公演『俊寛』『うぐいす塚』』3等3階中央

2007年10月06日 | 歌舞伎
国立大劇場『十月歌舞伎公演『俊寛』『うぐいす塚』』3等3階中央

『平家女護島-俊寛-』 
「六波羅清盛館の場」
普段はほとんどかからない平清盛と俊寛の妻、東屋の場です。動きがなく説明の場ではありますが、ここが付いたことで次の場「鬼界ケ島の場」の俊寛の立場、瀬尾の言葉の理解がハッキリとしますね。

この場は彦三郎さんの平清盛が敵役としての大きさがあって非常に押し出しもよく、とても良いです。我侭ぶりも小さくないというか、芯がしっかりしています。

高麗蔵さんの東屋、ちょっと寂しげな風情。都で一人残されどうしていいか途方に暮れている東屋でした。高麗蔵さんの女形、久々に良いと思いました。キリッとしたお顔が時に女形ではきつく感じるのですが、今回は操を立てる気丈な女なので似合っていました。もう少し、俊寛を思う情、やるせない気持ちが前に出ると良いのですが。後半良くなってくることを期待。

松江さんの平教経、非常に大事なお役なので丁寧に演じようというのは伝わってきたのですが大きさ、品格、情、ともにまだまだ足りない部分が多いですね。東屋を説得させる台詞回しに説得力をもっと持たせて欲しいです。あと、顔の拵えももう少し爽やかな雰囲気にしてくれたほうが。ちょっとキツくみえました。梅玉さんあたりの顔の拵えを参考にしてくれるといいなあ。

歌江さん、鐵之助さんが場に関わるとどこか空気が締まって華やかになります。さすがだ。

「鬼界ケ島の場」
この場は4日目にしてもうかなり密に出来上がっていて見応えがありました。配役それぞれに隙がなかった。アンサブルがよいと安心してみていられます、

幸四郎さんの俊寛がまず非常に良いです。思い入れをじっくりと押さえながら緩急豊かに演じてきました。時に大袈裟になりがちな幸四郎さんですが今回はたっぷり演じながらも非常に自然。また義太夫狂言という部分をいつもより意識してきたような感じがしました。全体的に勘三郎襲名披露の時にご自分で演じた時と演じ方を変えていました。出のところが以前だとかなりヨタヨタと年寄りじみた足取りや台詞廻しだったのですが、今回は少し30歳代を意識した若さを見せてきました。なので、今回は厳しい流刑生活ゆえの足取りであり、また位取りもいつもよりしっかり見えました。品格が大きい。また孤高の人になりがちだった雰囲気が孤独を抱えた人物像となっており、ラストの崖の上での呼びかけの切なさがストレートに伝わってきます。まだパワー全開じゃなさげなので後半観るのが楽しみ。

千鳥の芝雀さんがかなり可愛いです。海女の素朴さがあってとっても健気。おてんばなところも、自分のためじゃなく「父代わりの俊寛」を守るためというのがしっかり見えています。

成経の染五郎さんは端正に演じていました。ふんわりとした風情があって「鬼界ケ島の場」になぜいるのだろう?と思わせるどこか浮世離れしている雰囲気が良いです。千鳥を見初める一人語りの部分などいわゆる聞かせる台詞廻しという部分が相当上手くなっています。

康頼の錦吾さんが品があり、信頼のおけるお世話係り的雰囲気がとても良く安心して観ていられます。

瀬尾の段四郎さんは最高ですね。義太夫味がたっぷりこってり。とっても憎々しげなのですが大きさがあって品を崩さない。俊寛を追い詰める様に容赦がないので、俊寛が瀬尾にとっさに刀を向ける場が際立つのです。

丹左衛門の梅玉さんも最高!この裁き役は今のところ梅玉さんがBestです。爽やかさといい、流されない情の加減といい、なんともバランスのいい丹左衛門です。観客の期待を裏切らない。梅玉さんが登場するだけで思わずニヤリとしてしまいます。


『昔語黄鳥墳-うぐいす塚-』
『うぐいす塚』はおとぎ的な話とあだ討ちを絡めた物語で肩肘張らずに見れてとっても楽しかった。大劇場では70年ぶりという復活狂言。脚本を大幅に手直ししたためほぼ新作に近いとのこと。たわいない話でご都合主義なただ楽しむための芝居。エンターテイメントに徹した部分での王道歌舞伎。私、染五郎×奈河彰輔コンビの復活狂言(今までの作品は『怪談敷島譚』『乳貰い』『染模様恩愛御書』)、かなり好きかも。この二人、歌舞伎という芝居作りの王道路線を真っ直ぐに立ち上げてくれるのよね。

これは若手の染五郎奮闘芝居(裏・芝雀奮闘芝居でもあります)で、他愛も無いストーリーなので軽い芝居と言えば軽いとは思うのですが周囲に梅玉さん、東蔵さん、幸四郎さんの大御所を揃えてきたので国立大劇場の大きな間口に合った芝居になっていました。

ただ、新作同様の脚本、演出ということもあり、見所がかなり沢山あるわりに、かなりゆるゆるな場もあちこち散見されました。今後そこをうまく整理し締めて、緩急が出てくるとより楽しくなるのではと思いました。

この芝居のなかでは「長柄長者屋敷奥座敷の場」での花婿の嗜みをテストされる場が一番盛り上がっていました。、源之助@染五郎さんが「謡」と「鼓」「太鼓」の演奏を披露する場は立役版、阿古屋状態。演奏を披露するということだけも大変だと思うのですがしっかり見せ場にしてきました。阿古屋は演奏をしっかり聴かせていただきます、という見せ場ですが、こちらは鳴り物だし立ち回りもあるのでどちらかというと観客の気持ちを昂揚させワクワクさせる感じ。長袴で決めるシーンはキッパリしてて大きくかっこよかったです。難題を吹っかけてくる玉木@東蔵さんの突っ込みも非常によくて場がピリッと締まっていました。

反対にちょっと締まらないなあと思ったのが「草土手の場」の立ち回りのシーン。大仁坊と源之助の早替わりがあまり生きてないのですよね。早替わりの出入りの場は全部一緒なので、「おおっ」と思わせるのが少ないのです。なので立ち回りがちょっと長く感じてしまいました。

あと、「淀川堤の場」ももう少し短くてもいいかなあと。それかもっとチャリをいくつか工夫してくれるとか。ひとつのネタで引っ張るのは、難しいかなと。

源之助・大仁坊の染五郎さん、大奮闘です。かなり楽しそうに頑張っています。源之助は美しく、端正さが活きています。が、どうせなら最初の出はもう少しばかり汚い拵えでもいいのではとも。最初から綺麗すぎるので、花婿で颯爽と登場するシーンで落差がないのです。ここで「おおっ」と思わせるほうがより楽しくなるかと。大仁坊のほうは色悪ですがちょっとむさい感じがあってそれが生臭坊主な雰囲気で楽しいです。吉右衛門さんの法界坊をちょっと思い出させました。

玉木の東蔵さん、久ぶりの女形です。もうそれだけで嬉しい~。東蔵さんは女形のほうが似合います。今回は悪女役。ちょっと色ぽいシーンも。イメージではないお役ですが活き活きと演じられています。まだちょっと人のよさげな雰囲気が時々出てしまい「悪」ぶりは効いていませんが、突っ込みのタイミングは鋭くてとっても素敵です。

長者左衛門の梅玉さん、お大尽風情が似合います~。父として娘のことを心配している姿がいいです。娘を諭すとこ、父の情愛があっていいです。結局、娘が病気になってしまい折れちゃうんですけどね(笑)ちょっとぽわんとしたとこがお伽噺のなかの人って感じで好きです。私ったら最近、梅玉さんのことすんごく好きかも。

淀与三右衛門の幸四郎さん、出てくるだけど舞台が大きくなりますね。どういう人物か最初とっても謎な人で、あとから重要なポイントにいることがわかります。あだ討ちものには欠かせない、いかにもなキャラクターです。

幾代の芝雀さん、かいがいしくて頼りになる腰元役をきりっとしたなかに優しさをにじませて演じていてかなり素敵です。また、濃い着物が似合って華やかです。今回は立ち回りも見せてくれてほぼ出づっぱりの大活躍。

梅ケ枝の宗之助さん、とっても可愛いです。ピンクがお似合い。今のところちょっと華不足なところがあるのが残念です。もっと前のめりに源之助ラブな雰囲気を出してくれると楽しいと思います。