Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 雀右衛門襲名披露公演 夜の部』 1等1階前方下手寄り

2016年03月19日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 雀右衛門襲名披露公演 夜の部』 1等1階前方下手寄り

『双蝶々曲輪日記「角力場」』
花形らしいスッキリとした物語本位の楽しい一場となっていました。最初に吾妻と与五郎のじゃらじゃらを付けたのはわかりやすくて良かった。高麗蔵さんと菊之助さんだと江戸風味(笑)

与五郎/長吉@菊之助さんは二役の演じ分けをしっかりと。与五郎はつっころばしにはなってないけど、ウキウキとした気分を観客に伝えることは出来ていた。チャリ部分を楽しそうに演じていたのが印象的。自分でも笑っちゃってたのはご愛嬌。長吉はいかにも米屋の丁稚風情と真っ直ぐな気象を丁寧に活写。台詞が非常にいい。個人的にはもっと勢いというかやんちゃさがあるほうが好みだけど真面目なほうが勝っているかな。所作は珍しく少しやりきれてない部分が。蹲踞はきついんでしょうね。菊之助さんには冒険な役だったと思いますがよくやりきっていました。

濡髪長五郎@橋之助さん、はまず姿の大きさをしっかり出せているのがいい。また拵えがよく似合い立派。台詞は長吉に含み聞かせるように丁寧に。義太夫には乗り切れてない感もあったけど関取口調をハッキリ聞かせるのが難しいなかでわかりやすく。

『口上』
ずらりと役者が並んで壮観。総じて真面目な口上なのは当代の人柄ゆえか。先代雀右衛門丈の素敵エピソードも多し。我當さんが連なってくださっているのが有難い。ゆっくりなれど言葉はハッキリされていました。この日は吉右衛門さんにちょっとハラハラ。東蔵さんの激励にはうなずく。

『祇園祭礼信仰記「金閣寺」』
雪姫@雀右衛門さん、やはり出がお父様の先代雀右衛門丈を思わせる。鴇色の着物が似合い可憐で愛らしくしっとりとした風情。当代の良さは台詞で旦那への想いや慶寿院尼を助けたいと心が千々に乱れる様子や相手に対する想いの強さがよく伝わってくる。芯の強い雪姫。お父様がもっていた品のよい濃厚な色気がそこに足されていくといいな。

大膳@幸四郎さんは輪郭の太い存在感の大きさと抜け感のある変態オーラなエロさが「らしく」て好きです。大膳はすぐに人を信用するし隙がありすぎるし、国崩しのわりにバランスの悪い悪党で、幸四郎さん大膳にはそれがある。追いつめられてからは異形感を纏う異様なオーラ。

此下東吉@仁左衛門さんは、東吉自身を描写する台詞にそぐわない二枚目ぶりで凛々とした姿はひたすらかっこよく。大仰にではなくさりげなく、それでいてクッキリと場の様子を伝えてくる。非常に鋭いタイプの東吉でした。

狩野之介直信@梅玉さんのはおっとりとしているなかに運命を享受する格があってさすが持ち役。

慶寿院尼@藤十郎さんは出てきた瞬間の存在感の大きさと圧する空気があってさすがとしかいいようがない。

鬼藤太@錦之助さんが役割をしっかりと。何度も手掛けていらっしゃるのもあるのか赤っ面の抜け感があってこの役はすっかり手中にした感じ。

軍平@歌六さんは目配りがうまくかなり手強さがあって二重スパイらしい佇まい。巧いですね。

『関三奴』
最後の打ち出しに相応しい花形の踊り。三人三様の奴ぶり。勘九郎くんが伸び伸びと形よく踊り観ていて気持ちいい。松緑さんはカッチリと。鴈治郎さんは丁寧に。姿がまるくだるまさんのようで可愛らしい。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 雀右衛門襲名披露公演 昼の部』 1等1階前方下手寄り

2016年03月12日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 雀右衛門襲名披露公演 昼の部』 1等1階前方下手寄り

『寿曽我対面』
花形総出のなかなか観られない面白い組み合わせ。どこか爽やかさがある不思議な『対面』だったかも。

工藤祐経@橋之助さん、まずは姿が立派。声がちょっと荒れてたのが残念。人の好さが見え隠れ。

五郎@松緑さん、勢いのよさが身上。台詞もいつもよりはまとめてきた感じで良い。ただもう少し稚気が欲しい気もする。

十郎@勘九郎くんは凛として優美。姿の美しさが格別で芝翫丈を思い起こさせた。台詞廻しは勘三郎さん譲り。この十郎、かなり好き。

朝比奈@鴈治郎さんのが安定した巧さとおおらかさで目を引く。

女形は総じて控え目な感じ。化粧坂少将@梅枝くんの立ち姿が綺麗だった。喜瀬川亀鶴@児太郎くんがお父様にそっくりに。美人さんですね。八幡@廣松くんの台詞がしっかりしてていい。所作はもっと頑張れ。景時@錦吾さん、景高@橘太郎さんらのベテラン勢がさすがにぴりっと場を締める。

『女戻駕』
美しい三人の並び。時蔵さんの芝居っ気のある踊りが場を盛り立てる。菊之助さんはあくまでも端正な踊り。お澄まし顔にどこか茶目っ気がみえて楽しい。錦之助さんはいかにもな二枚目の奴ぶりと強い女二人に挟まれてのおろおろぶりが嵌る。

『俄獅子』
粋にさらりと、だけどたっぷりと。鳶頭と芸者の並びってだけでウキウキする。梅玉さんと魁春さん兄弟の足腰の強さには毎回感動してるんだけど二人並ぶとそれが顕著。兄弟の息の合いっぷりが楽しい。孝太郎さんは踊りが巧い。そして目に色気ある。

『鎌倉三代記「絹川村閑居の場」』
休演されていた菊五郎さんの復帰でテンションあがったのもあるかもしれないけど、これぞ大歌舞伎の密度の濃さに感動しまくり。とにかく菊五郎さんと吉右衛門さんが凄くて、そこに五代目雀右衛門さんが食らいついて、加えて周囲もよくて、大満足。

時姫@雀右衛門さん、は出がまずしっとりと綺麗で◎。一途さと品のよい可愛らしさと。三浦之助への強い思慕と親への義理の狭間で悩む姿を切々と描く。とてもらしい時姫でした。まだ必死に演じてる感じがあるものの情味の強さがしっかりあって良かったです。

三浦之助@菊五郎さん、休演されていたとは思えない充実ぶり。この役はこの方のど真ん中の本領の役。ごくごく自然に三浦之助の若者らしい悲壮感、母への情、主への忠、時姫を図りつつも受け止める泰然たる心持ちを舞台に活写する。そして華やかな艶。見事だった。

佐々木高綱@吉右衛門さん、舞台をかっさらう。緻密さが大きさとして表出する芝居。前半の茫洋とした軽妙さのなかのじっとりした味わい、後半 の古怪などっしりとした大きさと鋭さ。存在感が本当に半端なかった。

おくる@東蔵さんが立ち場が鮮明で悲哀がありとても良かった。富田六郎@又五郎さんは役者ぶりが大きくなってきた。秀太郎さんが母長門でお付き合いくださって舞台が一段と大歌舞伎。

にしても吉右衛門さんと菊五郎さんに挟まれる雀右衛門さん大変ですね。

『団子売』
華やかな打ち出し。仁左衛門さんの華やかさ、孝太郎さんの色気。そしてこの親子共通のサービス精神旺盛な愛嬌。とても楽しい舞踊でした。