Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『初春大歌舞伎 夜の部』 二等一階下手前寄り

2004年02月21日 | 歌舞伎
歌舞伎座『初春大歌舞伎 夜の部』 二等一階下手前寄り

『三人吉三巴白浪』
「両国橋西川岸」「大川端庚申塚」「割下水伝吉内」「巣鴨吉祥院本堂」「裏手墓地・元の本堂・本郷火の見櫓」

なんというか筋立てや、舞台構成やらの妙が素晴らしかったです。玉三郎、仁左衛門、団十郎の豪華顔合わせ『三人吉三巴白浪』は通しでは初めてだし、生でも初めてだった演目なので楽しみでした。「月も朧に白魚の篝も霞む春の空~こいつぁ春から縁起がいいわぇ」の名セリフで有名なのですがこの五七五調のセリフが聞いてて気持ち良いし、なんといってもわかりやすい。

しかも、『松竹梅湯島掛額』という演目のパロディというか見立ての場面(「巣鴨吉祥院本堂」「本郷火の見櫓」)があるのですがちょうど去年11月に『松竹梅湯島掛額』を観劇していたので見立ての面白みがわかったのも自分的にうれしかった。「本郷火の見櫓」の舞台装置、演出も素晴らしかった。歌舞伎座の奥行きをめいっぱい使い、迫力満点の立ち回りには大興奮。

今回の顔ぶれの『三人吉三巴白浪』は賛否両論あるのですが私は心の底から楽しみましたし、歌舞伎座ではめずらしく拍手がなかなか鳴り止まなかったのをみれば観客を惹きつける力は素晴らしかったのだと思う。私的にはスタンディングオベーションしたいくらいだった。

女装の盗賊、お嬢吉三の玉三郎さん、ご自分でも「まさかやるとは思ってみなかった」初役。この役は菊五郎さんのように女形、立役両方をこなす役者が演じることが多いように「女」を演じるのではなく「盗賊をするために女装している青年」役なのである。「女としての立ち振る舞い、仕草」を徹底していかに美しく見せるかを自分に課してきた玉三郎さんにとっては冒険だったと思う。

そのとまどいが少し見えたものの、役者としての貫禄というか「これもあり」とすぐに違和感はなくなる。ずっと女の姿で暮らしてきてしまった男という倒錯した存在としての美しさが際立って私的にはちょっとクラクラ~。それと相手役に合わせて背を低く見せることなくまっすぐに立ち、大またで外向きに歩く玉三郎さんなんてこの役でしか見られない。男らしい玉三郎さんも素敵(どこか間違ってます?)。それと仁左衛門さんとの絡みの「巣鴨吉祥院本堂」「本郷火の見櫓」の場は男ぽい仕草をしてるのに色っぽいのなんのって、倒錯美っていうのはこういうものを言うのねーという感じでした…鼻血が出そう。11月『松竹梅湯島掛額』のお七役の菊之助も素敵だったけどお七を見立てた役柄のお嬢吉三の玉三郎さんのほうが美しさ色気100倍増でした。激しい立ち回りは女形捨ててやってたし、新たな魅力発見。

家人崩れの盗賊、お坊吉三にやはり初役の仁左衛門さん。この方は何をしても安定してきっちり役柄を捉えて演じる。粋がってはいるものの武家の出という線の細さが見え隠れし、品が消えてない中に暗さを見せ付ける仁左衛門ならではの盗賊でした。お嬢吉三とのプラトニックラブが可愛らしくて、それでいて濃密なムードが漂って、なんともいえない空間を作り出しておりました。しかし仁左衛門さんは体があまり丈夫ではないので激しい立ち回りとか見てるほうがハラハラするのだけど、(もちろん立ち回り自体は型の美しさも迫力もあり体の弱さをほとんど感じさせない方なんですけどね)最後の場では屋根の上で立ち回るは屋根から屋根へ飛んじゃうは高いところから下へ降りちゃうは、すごいことになっておりました。若い人でもあまりここまではやらないのでは?と絶句した後は「仁左さんたら、ここまでやっちゃいますか」と敬服。

吉祥院のお坊さん上がりの盗賊和尚吉三はこの役お得意の団十郎さん。さすが手馴れたものでセリフ回しは今回はこの方が一番。気持ちよく謳いあげて、聞いてて気持ちがよい。細い二人に囲まれ、兄貴分としての貫禄も十分で物語の中心にきちんといなければいけない和尚吉三の役柄がはっきり見えてひさびさに良い出来の団十郎さんを見てうれしかったです。

体調不良で先月お休みだった左團次さんが昔名うての盗賊で今は夜鷹宿をしている土左衛門伝吉。こいつが一番の元凶なんだよー!。だけど左團次さんがやるとどこか憎めないおやじになるなー。しかし、昔、悪でいまちょっといい人になっちゃったっていう役ってこの方が一番上手かも。

十三郎の翫雀さん、おとせの七之助はセリフがとても聞きやすく、間の取り方もうまく大事な脇役をしっかり演じていた。今回は脇の人たちがかなり良くて、そのおかげか全体的にテンポもよく見ごたえありました。有名戯曲は一度は通しで見るべきだなあと改めて思った次第。

『仮初の傾城』 
時蔵さんの傾城姿は華やかで美しい。でも踊りはなんというかきれいなだけで情感が感じられない。でも以前見た踊りの時よりは型がずいぶんきれいになってはきたかな。

『お祭り』
坂東三津五郎さん、ひさびさだーー。この方は襲名してからどんどん良くなっているような気がする。小柄なのだが一人立っているだけで存在感がある。お祭り好きの鳶頭役がピッタリでいなせで本当にカッコ良かったよ!「待ってました!」の大向こうに「待っていたとはありがたい」と颯爽と受けて踊りだす。体のキレのよさは天下一品。短い演目なのがもったいない。三津五郎さんの踊りはもっと観ていたかった。

池袋サンシャイン劇場『レッツゴー!忍法帖』 S席後ろ上手

2004年02月11日 | 演劇
池袋サンシャイン劇場『レッツゴー!忍法帖』S席後ろ上手

『阿修羅城の瞳 2003』にハマってしまった時に新感線ファンの方から、「この劇団はドラマ系のいのうえ歌舞伎とギャグ満載のおぽんち系の2種類があり、おぽんち系もおすすめですよ」との情報をいただいた。ネタ好きとしては一度は観て見ないとと今回観ること決定。いやあ、笑わせていただきました。ここまで徹底してお笑いだとは、お見事ですな。ネタ好きにはたまらないものがある。しかしあらゆるところからネタを拾っているのにもビックリだ。個人的にはマシュー・ボーン『白鳥の湖』までパロっていたのがツボに入ってしまった。X-Japan、マトリックス、ナウシカ、マイケル・ジャクソン、あやや、少年ジャンプあたり押さえておくと楽しみ倍増。舞台演出にあわせたタツノコプロ作成のオープニングアニメの凝り様に驚きました。

役者のほうでは客演の阿部サダヲさんがちょっとすごかった。歌って踊って動き回って…あんなに色々できる人だとは思ってなかった。橋本じゅんさんは微妙な動きがやっぱり楽しい。でも今回はいじる人がいなかった?分大人しく見えました(笑)。高田聖子さんはやっぱりうまいなあとあらためて。あとラストのはじけっぷりに脱帽。生鑑賞お初の古田新太さんは存在感がある人ですねー。色気のある役がお似合いだそうですが、今回はわりとまとめ役に徹していたような感じでした。