Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

2017年04月10日 | 歌舞伎
歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

長かった。狂言立てをもう少し考えて欲しい(*_*; 昼夜にしてなくて良かった。

『醍醐の花見』
中堅花形を揃えての舞踊劇。舞台面が華やかで春らしさを楽しめばいい。女形のほうがそれぞれの個性が出ていたかな。笑也さんと壱くんのバトルが面白かった(笑)

萬太郎くんが軽妙さが欲しい役どころで生真面目な萬太郎くんにはどうかな?と思ったらきちんとこなしてた。幅が出てきたかも。種ちゃんがいつもの拵えと違ってて一瞬誰かと思った。二枚目風情な顔になってたよ。

『伊勢音恋寝刃』
今回は半通しでの上演。

「追っ駆け」
橘三郎さん橘太郎さんのベテランがいい味。隼人くんはちと硬いかな。今の時代、この場はもう少し刈り込んでもいいかも。

「二見ヶ浦」
ここで舞台の空気が変わる。貢@染五郎さんは柔らか味がありつつ芯のあるさらりとした風情でいかにもぴんとこな。手紙を読む件に間や身体の使い方の巧さをみせる。あともう少し愛嬌があってもいいかも。万次郎@秀太郎さんが若い。いかにも若旦那の柔らか味のある風情がさすが。

「油屋」「奥庭」
初役揃いの「油屋」は個々、場面場面はいいところはあるものの全体的にまとまりが薄い。場の流れが一つの方向に向いていってない感じ。ほんのちょっとのところでどこか噛み合わないところがある。後半、これが解消されるといいんだけど。

「油屋」での貢@染五郎さん、まずはやはり柔らかすぎない生真面目を感じさせるいい風情。姿と性根の部分はとてもいいけど、芝居運びにまだ緩急が足りないのと辛抱の感情の積み重ねの部分が浅い。もっとくっきり演じて欲しい。万野を叩くあたりから「奥庭」にかけては決まり決まりの姿の美しさと感情の張りつめ方は非常の良かったと思う。着物から透ける太ももの形がエロかった。全体通して考えると良い貢ではあるけどもっと出来るでしょ?と思ってしまう。

万野@猿之助さん、さぞかし合うだろうと思ってたんだけどもしやニンじゃないの?な万野だった。顔はきつく拵えてるけど万野に必要な澱が全然ない。底意地の悪さ、そうなってしまった心のなかの泥を感じさせない。勿論巧い人なのでこなしてるけど真っ当さが勝つ。廓を動かしていくだけの才覚があるという部分がハッキリあるのと、芝居の為所での間合いの良さはさすがだと思う。ただその巧さだけではない部分で万野をどう作っていくのかというところ。

いまのところ萬次郎さん、京妙さんのほうが万野だな~と。造形にじめっとした澱があるのよね。そういう意味では萬次郎さんもお鹿じゃないのかも。万野に引っ掛かりそうにないもの。お鹿なりのプライドを明快に伝える巧さはあるけど単純な可愛げさはあまりない。

お紺@梅枝くん、拵えを少し変えたかな?どちらかと言うとすっきりした風情の人だけど今回ふんわりとした風情が足されていて綺麗さが増えた。もう少し心ならずもな裏腹な情味を出せたらベスト。

お岸@米吉くんは可愛い。性根の部分も可愛いのだろうと思わせたのが吉。

『熊谷陣屋』
わかりやすい『熊谷陣屋』だなというのが最初にでた感想。『伊勢音頭』でだいぶ疲れてしまい集中できない状態だったけど、そんな状態の頭にすんなり入ってきた。幸四郎さん熊谷を筆頭に役者たちのそれぞれの人物造形が非常に直球というかクリアだったように思う。

わかりやすい『熊谷陣屋』と思ったのと同時にいつもと印象がだいぶ違うなとも。幕開けの場は足してるなとわかりやすいとこもあったけど、一番は幸四郎さん熊谷。細かいところであれ?今までと違うよね?と。顔の拵えが随分と赤く筋も強めだった。『陣門・組打』の熊谷の拵えと繋げて全体の物語の流れのなかのひとつの場というのを意識したのかなとか?あと熊谷の立ち位置(あくまでも義経の家臣で元は藤の方に使えてた身分)をとても鮮明に芝居のなかでみせてきた感。また、戦語りの時
の居場所とかも微妙に違ったようにみえた。藤の方と相模の反応を伺いつつの部分は細やかで、裏にある二重性をくっきり。

ここら辺は前々からで幸四郎さんの演じ方は底割れという人もいるけど、今回はそれほど泣きにならず骨太に物語ってたと思う。今までの幸四郎さん熊谷は心情をその場面ごとに細々と表現してきて、そこで人物造形のわかりやすさを見せていたように思うけど、今回は詞章の大きな流れに乗ってのストレートさがある表現にしてきたかなと。前回の演じ方とだいぶ印象が違ったのよね。引っ込みはいつも通りというよりむしろ前回の熊谷のときより泣きが大きかったかな。その前の相模への申し訳なさとか、そこらへんの表現は好き。でもなおさら連れていけよと思うなど。今回の幸四郎さん熊谷なら相模を連れて行ってもおかしくないようにも思ったり。

猿之助さんの相模、とても丁寧に芝居を重ねて演じていて相模として過不足無く。まだ役としての膨らみはないけど終始目配りが利いてて漏れがないのはさすが。台詞の丁寧さが印象的で特に前半の場で相模という女性の立ち居地が明快でとても良い。真相を知った後半の感情の揺れはまだ心の奥底からのものとして発せられてない感はある。久しぶりに役者としてまだ若いんだよねと思った。ベテラン役者と組むと良さと足りない部分とが見えてくる。次のステップに進むためにもやはり若手はベテランと組むのは必要だと思う。

猿之助さん、この人は女形が本領だという気持ちを新たにした。質としては娘役者であるのも見えたし、そこの延長の相模だった。今回どなたに習ったのかはわからないけど、質的に先代の京屋さん(4雀右衛門)方向の相模が出来そうな気がする。そういう意味で、硬さにあったけど今後の期待ができる相模。ただし、女形の頻度を多くできるのであれば、なんだけど。

染五郎さんの義経、品格がありどちらかというと象徴としての義経だったようにみえた。そして『熊谷陣屋』という物語を裁く裁き役として存在していた。半眼でじっと耳を傾ける。また、やはり何をしに来ているかの語り口が明快。幸四郎さん熊谷に対して位取りもある程度見えたのは成長。とはいえやはりストレートすぎて人物像の膨らみまだ出てない。義経という個が立ち現れる弥陀六(宗清)と相対峙する場面での一瞬の砕け方は先代の7芝翫さんの義経を思い出させた。そういえば染五郎さんの義経はどなたに習ったんだっけ?

高麗蔵さんの藤の方、凛とした位取りがあって若々しく美しい。また息子に対する情愛や藤の方の悲劇性があってかなり良かった。最近の高麗蔵さんは役の嵌り方がいいなあ。

左團次さんの弥陀六はすっかり手の内。飄々としたなかに辛抱がみえる。ベテランでもしっかりこういうところ進化させていて、凄いなあ~と思う。

そういえば幸四郎さんの熊谷と猿之助さんの相模はそれぞれは良いけど夫婦感は少なめ。幸四郎さん熊谷はかなり相模の様子を伺う造詣(これはいつもの造詣)なので、今回はどちらかというと、猿之助さん相模がまだ、精一杯でそこまでの目配りがやりきれてないからかな~と。相性とかの問題ではないと思う。どちらかというとここら辺は女形の芸の積み重ねのひとつだと思う。先代4雀右衛門さん、7芝翫さん、当代なら魁春さん、最近は5雀右衛門も、最初の出から熊谷の奥さんだし、何がどう、ではなく空気感で夫婦間たっぷりになる。