Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『柿葺落十二月大歌舞伎 夜の部』 1等A席前方センター

2013年12月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落十二月大歌舞伎 夜の部』 1等A席前方センター

『仮名手本忠臣蔵』
「五・六段目」
五段、六段を堪能するにはベストボジションすぎて胸が潰れる思い。勘平の心の動きが手に取るよう。そして勘平視点でお軽がみえるものだから、お軽の想いもぜ~んぶ受け止める恰好になってしまい、なんとも切ない気持ちに。「かる…、かるを頼みますぞ」と女房を案じながら死に行く勘平でした。

勘平@染五郎さん、染五郎さんの勘平はまったくもって成仏してないかも。仇討の徒党に加えられた安堵感、これで本来の自分に戻れたという誇りのなかで想いは残していきたい、そんな風にみえた。仇討をし、お軽に武士の女房としての誇りを残してあげたかったんじゃないのかな。色んな意味で全うしたかったのだろうね。性根が根っからの武士、というのがよくわかる勘平だった。そのうえで人としての情のありかたが真っ直ぐでそれゆえに弱い。

お軽@七之助さん、ほんとうに勘平さん一途なお軽でした。勘平の女房でいることだけで満足な女の子。母といるときの娘然とした顔と勘平が戻ってからの顔が違う。売られていくことがお軽なりの勘平を強引に連れてきてしまった詫びでもあるのだなと今回思ったり。離れがたい勘平への想いが真っ直ぐにこちらに飛び込んできた。

色んな想いがそこで勘平の脳裏を過っただろう。なぜこうなったとの後悔とお軽への愛情と。苦しんで苦しんでの別れ。その勘平とお軽のお互いの迸りの一瞬があの抱き合う場面で一つの絵として昇華されてた。

今回の染五郎・七之助コンビ「文使い」「裏門」からの五段・六段目を観たいと思った。昨日はそれをしっかりと連想させるだけの勘平・お軽だった。また周囲がほんと揃ってた。吉弥さんのおかやがほんとよかった。おかやとして強すぎず弱すぎず。

勘平は相当、精神的にきつい役ですねえと今回しみじみ。勘平の心の動きに沿おうとするときつすぎてしんどいわ。短慮と間の悪さがしでかしたこととはいえ…。五段・六段目でかなりグッタリ。特に今回の染勘平と七お軽は想いに一途すぎて哀しすぎた。

「七段目 一力茶屋」
由良之助@幸四郎さん、幸四郎さんの由良さんは今年1月に演じた時から肩の力が抜けてとても大きさのある由良さんになっていると思う。丁寧に丁寧に由良之介の心持ちを活写していく。白鸚さんの由良さんの間合いにほんと似てきた。四段目での鋭い強い想いを肚の底の部分にぐっと落とし込んでいる感。とはいえ個人的には幸四郎さんの由良さんは今年一月に吉右衛門さん平右衛門と芝雀さんお軽を相手に演じた七段目のが良すぎたので今回はちょっと物足りなさも。どこがどうという言うわけではないのだけど相性的にも一月の座組みのほうが幸四郎さんには合ってたと思うし。色んなところがピタッと嵌ってたと思う。

九太夫@錦吾さん、すっかり持ち役。最初に演じられた時はニンじゃない、こんな役やらせるなんてと思ったものですが、いまじゃ錦吾さんじゃないと物足りない。強欲さより、由良さんに嫉妬してる感などこか抜け感があるのが好きです。あと台詞の間合いが良いんですよ。

お軽@玉三郎さん、今回は完全に玉さまワールドでした。出で「うわ~っ」とジワがきてましたわ。ほんと綺麗ですものねえ。海老くんさすがに完全に食われてたかも…。前回は兄妹にみえてたけど姉弟だったかも(^^;)七段目の後半は前回同様やっぱり義太夫ものを観てる気はしなかった。

力弥@児太郎くん、台詞というか声の調子を整えられるようになってきたかも。彼は少しづつですがきちんと課題をクリアしていってますねえ。


国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 特別席前方センター

2013年12月21日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 特別席前方センター

吉右衛門さんの新歌舞伎かぁ(色々とトラウマ)と思いつつ座組みが好きなので行ってきました。忠臣蔵外伝と銘打って『主税と右衛門七 ―討入前夜―』『弥作の鎌腹』『忠臣蔵形容画合 忠臣蔵七段返し』の3演目。

『主税と右衛門七 ―討入前夜―』
若手3人が頑張っていました。まだ頑張ってますね段階だけど等身大の年齢のお役ということもあり、ひたむきさがよく出ていました。でも最後、歌六さんに持ってかれてた。歌六さん、カッコイイです。

『弥作の鎌腹』
なんだかんだ『弥作の鎌腹』が一番良かった。小品だけど笑わせ泣かせの人情話。たまに上演していってもいい芝居かも。

弥作@吉右衛門さんが台詞は少々危ういところありつつもそこをかえって朴訥さに転化してしまうほどの味わい。さすがに巧いし芝居をしっかりと魅せる。

女房おかよ@芝雀さん、千崎弥五郎@又五郎さんもとても良かったし。芝雀さんは地味な女房役も良いですよね。

『忠臣蔵形容画合 忠臣蔵七段返し』
『仮名手本忠臣蔵』のダイジェスト的な舞踊劇なので知っているほうが楽しめる。配役をきちんと見ていかなかったせいもありえっ?ここだけの出番なんですか!な贅沢な配役もあり楽しかったです。東蔵さんの踊りが格違い。廣松くんは身体の作り方が上手い。鷹之資くん、しっかりしてきた。存在感あるね。種之助くんの判官、最初子役かと思った…まじ童顔(笑)歌六さんにカッコイイ役をもっと!芝雀、錦之助コンビでまた何か観たい。





歌舞伎座『柿葺落十二月大歌舞伎 昼の部』 1等A席前方センター

2013年12月14日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落十二月大歌舞伎 昼の部』 1等A席前方センター

討ち入りの日だったけど観たのは昼の部。改めて花形世代に力が付いてきたなと思った。そして四段目がかなり面白かった!

『仮名手本忠臣蔵』
「大序」「三段目」
染五郎、菊之助、海老蔵の三対並びがなんだかんだ見応えあり。皆、綺麗ですよね。染五郎さん、菊之助さんが共演が多くなってきたせいか息の合い方が前よりかなり自然になってきていました。共演していくうちにお互いの間がわかっていくというか、そういう息の合い方ってありますよね。

判官@菊之助さん、品よくおおらかに構えているのがいいですね。「大序」はあまり為所がないですが前回演舞場で演じた時よりかなり存在感が出ていました。「三段目」では気持ちをストレートに表現されていました。おっとりを構えたところから理不尽な物言いをされ我慢しつつも心がどんどんヒッートアップしどうにも我慢できなくなるものの理性で抑え、それでも爆発してしまう、その過程をクッキリと描こうとしていたと思います。とても良かった。

若狭之助@染五郎さん生一本で直情的、若干石頭な正義感的な若狭之助でした。とても大きく見えました。浅黄色の衣装が似合いますね。フルフルと怒りに燃えまくっていました。

高師直@海老蔵さん、老け役はどうかな?と思いましたがそれほど老けの拵えをしなかったのがかえって功をそうしたかもしれません。なにか不穏さを感じさせイヤミたらしい部分や好色な部分をきちんと出せていました。「三段目」はちょっと崩しすぎて位取りの部分が無くなってしまい人物像がかなり小さくなってしまったのが残念。判官@菊之助さんを追い詰めきれていなかったですね。

顔世@七之助さん、品がよく丁寧に演じていました。もう少しまろやかさがあるといいかなあ。

「四段目」
由良之助@幸四郎さん、さすがの存在の大きさ。花形とは格の違いを見せます。この人が来てくれたという安心感を醸し出す。相手が花形なので大きすぎてしまい家老の身分という部分より判官の父親のようにみえてしまうのはいかしかたないか。父性溢れる由良之助とみれば納得。残された諸士たちを支え切ろうという覚悟やじっくりと構えようという気概がある由良之助でした。門外では白鸚さんの由良さんにかなりそっくりでした。特に感情の出し方というかその部分での緩急が似ていました。白鸚さんよりは鋭利なのは幸四郎さんらしさ。ですね。にしても幸四郎さん、足痛めてますね…大丈夫かしら。あの幸四郎さんがまさか、という感じで…。もう、ほんとベテラン勢は満身創痍(涙)

判官@菊之助さん、凛とした佇まいがいいですねえ。品のよさがまず目につきます。梅幸さんがそうでした。芝居の持って行き方は今回はお父様のほうでした。覚悟の強さ、芯の強さなかに無念さを潜ませる。若いだけあって由良之助への託す部分ではお父様の菊五郎さんより激しさがありました。

顔世@七之助さん、楚々として美しかったです。抑えた芝居に情感もあり大序より四段目のほうが良かったです。

石堂@染五郎さん、位取りが必要なお役で心配しましたが、なかなかいい感じに仕上がってきていました。貫目はないけど位取りがきちんとあって「近こう、近こう」の台詞の間合いがすごくいい。イメージ的に勘三郎さんの台詞の間合いに近いんだけどそんなわけないよね…。どなたに稽古つけていただいたのかな?吉右衛門さんだよね?

「道行」
道行は玉三郎さんが華やかでしなやかで美しいです。何もしていない時の姿の美しさがまた格別。そして、良い意味で貫禄がもついた。相手が仁左衛門さんだったらな~と思ってしまった…。そして今日も思いましたが(最近はずっと願っているのですが)玉様は定高をやるべきですね。若い綺麗な役もいいけど、そろそろこちらも!!

歌舞伎座『柿葺落十二月大歌舞伎 夜の部』 3等A席上手前方

2013年12月07日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落十二月大歌舞伎 夜の部』 3等A席上手前方

先月は重厚さと芸の深さ、今月は華やかさと物語の豊かさの『仮名手本忠臣蔵』という感じがした。あくまでも私の感覚でですが。今月は上置きがいるとはいえ花形中心なので細かい部分言えばかなり突っ込めるんだけど五・六段目~七段目~大詰での場のありようが各役者の個性で彩られ、その部分で全体の流れにメリハリがついた『仮名手本忠臣蔵』であった。五・六段目の緻密さ、七段目の華やかさ、大詰のカタルシス。

『仮名手本忠臣蔵』
「五・六段目」
五・六段目の勘平は染五郎という役者の芸の繊細さ緻密さがとても活きる場だと私はずっと思っていて観たいなと思っていました。それがほんとに結実した場になっていたと思います。特に六段目はどんどんボルテージをあげ一気にドラマを収斂させいく、その空気の作り方がとても良かった。

勘平@染五郎、心持ちがゆるぎなく「武士」であり、主君の大事に居合わせなかったことへの後悔を抱えて生き、仇討への想いがその生きていく拠り所であるというのが鮮明。その想いが真っ直ぐにあるので掛け違っていく哀しさと「死」をもって図らずもそれを引き戻す一途さが鮮烈。お軽の家に婿として信頼されながらもどこか馴染んでなさがある、そんな勘平は初めてみた。お軽への愛情、家族への愛情を真っ直ぐに受け止めながらも借り宿という意識もあったのでは?と。そんな風に今回は感じた。といはいえ染五郎さんの勘平はまだまだ発展途上というか、今後かなり変化していく感じがする。それれにしても姿の美しさにはやはり惚れ惚れする。仁左衛門さんがそうなんだけど、一瞬一瞬の場の絵面の美しさを常に感じさせる。そしてこのところ義太夫狂言の台詞廻しがほんとに良くなったと思う。今月は勘三郎さんを彷彿させる場面も多かったけど吉右衛門さんの口跡もふと感じさせた。

表情とかも時々、勘三郎さんの面影がみえるのにはビックリしました。今回、小山三にも見ていただいたとはいえ稽古していただいたのって22年前くらいのはず(さすがにそれは見てない)。その後、染五郎さんは五・六段目は演じてないから。勘三郎さんと違う部分も多いけどそれは初代播磨屋がやった型がmixiされているからのはず。勘平に播磨型なんてあるのか?と疑問でしょうけど、初代吉右衛門丈は勘平も演じていて、たぶん音羽屋型の変形だと思います。私もそこはきちんと知らないのですけど。初代吉右衛門丈の勘平を幸四郎・吉右衛門兄弟に二代目又五郎丈が「木の芽会」で教えたそうなのです。詳しい方にここら辺のこと聞いてみたいところです。

お軽@七之助くんはとても可憐。ここの段のお軽はとても受け身なのだけど、娘として妻としての分をわきまえた身のこなしが佇まいがとてもいい。だからこそ勘平への一途な想いがほとばしる一瞬の激情が活きるのだと思う。勘平のお軽への愛情と申し訳なさの想いを素直に受け止める。

おかや@吉弥さんが、人として姑として真っ直ぐにしっかり勘平を追い込んでいく。そこに愛情を裏切られたと思った哀しさがあるのがいい。たぶん、竹三郎さん譲り。

不破数右衛門@弥十郎さんに情けがあり、千崎弥五郎@高麗蔵さんの真っ直ぐさといいコンビ。

一文字屋お才@萬次郎さんがいかにもなお才。かなりのやり手に見える。おかやや勘平が金の受け取りを確かめずにはいられない恐さがある。いやあ、まさかあの流れが納得でこようとは、です。今までのお才が優しげすぎたのか。

源六@亀蔵さんの軽みがほどよく。

定九郎@獅童くん、顔は凄みがきいていかにもでぬっと出てきたとこは十分なんだけど、その後の所作がぎこちないし「五十両~」の台詞もちょっと流れる。一連の流れがこなれたら、持ち役にはできると思う。

「七段目 一力茶屋」
今回は前の段にかなりの緊迫感があったのでいつも以上に気持ちが開放される場になっていた。遊郭の華やかさ、浮かれ気分のなかにあるその裏のドラマ。義太夫ものを観たという気はしなくて不思議な感じはあったのだけど、それはそれで面白く観た。

由良之助@幸四郎さんは酔態のなかに正気の生真面目な鋭さを見え隠れさせる。今回はそのスイッチを曖昧にみせて酔いが本物かと思わせるようなもっていき方にしていたような。今回は由良之助の大きさをみせるのではなくどこか孤独感を感じさせた。まだノッてない部分も多々。少しお疲れかなぁ?

お軽@玉三郎さん、華やかさといい緩急のよさといい、やっぱりこの役は当たり芸。場を引っ張っていってました。かなり年下の平右衛門@海老蔵相手なのもあっていつも以上にかなり可愛らしい造詣。甘えすぎて恋人ちっくになるのは仁左衛門さん相手のときだけの模様(笑)。きちんと勘平さん一途なお軽でした。根がじゃらじゃらしている甘えたな開放的なお軽。そのふわふわ感が悲劇にすっと落ちていくその瞬間の亀裂を際立たせていた。たぶん、玉様のおかるのなかでもどこか一味違う。今回はもうひとつ先へいきそうな予感をさせた。でもまだ萌芽。玉三郎さん、もっと歌舞伎やって~~。

平右衛門@海老蔵さん、現代人な平右衛門そういう意味でわかりやすいメンタリティの平右衛門になっていて見やすい造詣。私はもっと丸本物のなかの人でいてほしいとは思いつつ、これはこれでアリかなぁと思う。台詞も義太夫では全然ないのだけど語尾のクセが薄れた分、聞き易くはなった。終始仇討に加わりたいと願う気持ちの強さがあり、またお軽の「兄」であることを逸脱しない表現のツボを押さえていて、そこが大健闘。そして奴らしい陽ではなく陰の平右衛門なところが個性。でも持ち味は違うけどお父様の團十郎さんに似てきたな~と思う部分も。

「大詰」
なんだかんだとカタルシスを感じる場面です。大した場面じゃないんですけどね(笑)

獅童さん、松也くんの立ち廻りは、もっと頑張ろう…でした。歌舞伎の立ち廻りはカッコイイんだぞ~って友人たちに見せてあげたかったのにっ、あげたったかのに…。大柄で見栄えする役者二人なのに動きが…。