Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『浮世柄比翼稲妻』 特別席前方センター

2012年11月24日 | 歌舞伎
国立大劇場『浮世柄比翼稲妻』 特別席前方センター

思っていた以上に楽しかった。歌舞伎らしい華やかさと南北の突っ込みどころ満載感溢れる筋や趣向満載の場面などなど楽しめる所いっぱい。両花道はウキウキするわ~。幸四郎さんが座頭の時の通し狂言は全体通してメリハリがあってわかりやすく演出してくれることが多い。役者の使い方も上手いなといつも思う。今回、意外な役者さんが入ってたりしたけど皆さん魅力的だった。

改めて思ったのは歌舞伎の二枚目はろくでなしばかり(笑)名古屋山三、孝な男とは思えども金にだらしなく女にもだらしない。反対に敵役の不破伴右衛門が恋に純情で不器用なのにも笑った。

幸四郎さんがやはり突出してる。出るだけで場が締まるし舞台が弾む。今月は声がいつも以上によく出てたかも。不破伴左衛門、凄みのなかに軽妙さを交えて面白いキャラにしてたのが上手い。幡随院長兵衛は存在感でみせる。

福助さん、活き活きと演じてて三役とも良かった。演じわけが見事。傾城葛城が華やかで美しく、そのなかで矜持を見せて上手い。お国はいじらしく可愛い。こういう役だとベタつくこともあるけど今回はほどのよさがあって良かった。長兵衛女房はキッパリと。

高麗蔵さん白井権八、前髪が似合い忠の一途さがありつつ剣の腕に没頭してしまう鋭さを秘める。色気はあまりないもののちょっと独特の雰囲気が面白い。

錦之助さん名古屋山三はどこか亡羊したおおらかな二枚目。衣装がとても似合い女が惚れこんでしまう浮世離れした二枚目役に説得力があった。もう少し艶があるとなおよし。

右之助さんの赤っ面が可愛くて個人的にツボ。

「鈴が森」での雲助の立ち回りに錦弥さんが入っていたのだけど体のキレが素晴らしく一際上手で大きな拍手。最近は立ち回りはなさらないけどやっぱりさすが。

新橋演舞場『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階後方センター

2012年11月19日 | 歌舞伎
新橋演舞場『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階後方センター

『熊谷陣屋』
熊谷直実を2日目から急病で倒れられた仁左衛門さんの代役で松緑さんが演じています。

熊谷直実@松緑さん、急な代役を頑張ってました。拙い部分多々だけどに最後まで飽きずに観られました。周囲も盛りたてようとフォローしていましたし急な代役としては及第点ではないでしょうか。線が太いタイプだし柄にあっててキツキツに頑張ってるなと思えどその姿が良い方向に出ていたと思います。前段は残念ながら語りきれずでしたけど後段は必死さが熊谷の苦渋に繋がったので役としてきちんと見せることができてた。しかし以前に比べたらかなり改善されてるとはいえ台詞術が…。もう少し義太夫を徹底的に稽古してもらいたい。声があれだけ出るのにもったいない。とはいえ柄に合う役ということを見せられたのはお手柄だし、あれだけのベテランに囲まれフォローしてもらいながら演じることができて彼にとって幸せだと思う。なんとなくですが松緑くんの熊谷は團十郎さんに似てるなあと思いました。「陣屋」より「組討・陣門」のほうが似合うかも。

相模@魁春さん、武士の女房としての品とそのさらりとした質感のなかに子を思う母の気持ちを表現されておりました。夫への気遣い、子への愛情をさりげなく湛えるような台詞廻しが印象的で優しい相模像でした。魁春さんは位取りの高さがあるので藤の方のほうがしっくりきますが若い松緑さんをしっかり支えての芝居に夫を大きく支える妻の顔がみえて予想以上に良かったです。

藤の方@秀太郎さん、子への思い入れが非常に強い藤の方です。嘆きがストレートに伝わってきて感情移入がしやすい。また間の取り方が非常に上手く、代役の松緑さんのまっすぐすぎる芝居にうまく緩急をつけていました。フォローの仕方がさすがに上手いですね。

源義経@梅玉さん、当たり役の一つ。安心して観ていられます。義経たる存在感のなかにさりげない情味をみせる。

弥陀六@左團次さんは手強さをみせる。

堤軍次@亀寿さんがきっぱりとしたほどのよい距離感での家来を演じとても良かったです。

『汐汲』
蜑女苅藻@藤十郎さん、とても可愛かったです。足運びなど動きは衰えましたがさすがに決まり決まりが綺麗。衣装もとても似合ってらして素敵でした。

此兵衛@翫雀さん、動きにメリハリがありキビキビしてて良かったです。

『四千両小判梅葉』
個人的にあまり楽しめませんでした…途中で飽きてしまった。「物語」を見せるという部分での脚本が面白くないのよね。上演回数が少ないだけある。原作もこういう感じなんでしょうか。リアルな牢屋内のしきたりを見せるとこを面白がれれば面白いのかも。あとは菊五郎劇団の役者さんが好きなら個々の持ち味は出ていますし楽しめるかなと思います。

富蔵@菊五郎さんは芝居の間合いといい世話の台詞廻しの上手さといいさすがですね。さらりと演じつつ突っ込むところと抜けるところの緩急が絶妙。また声の良さには惚れ惚れします。小悪党ながら富蔵の男としての太っ腹な部分を粋の描いています。

藤十郎@梅玉さん、小心者ながらどこか鷹揚さを湛える藤十郎を演じ、富蔵@菊五郎さんと対照的な人物像を描き出します。