Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演『伊賀越道中双六』』特別席前方センター

2014年12月14日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演『伊賀越道中双六』』特別席前方センター

4時間の長丁場、少々体力低下ぎみに私にはちょっときつかった…クタクタ。芝居自体はとても良かったです。
役者さんたちもそれぞれ充実。又五郎さん、役者として格があがってきたなと思わせましたし、歌六さんもますます充実。もちろん吉右衛門さんの芝居はさすが深い。京妙さんがいつもと違う役だけどとても良い。さすが地力ある。

ただ個人的に『岡崎』の場はやはり苦手です。丸本物には子殺しの話は多いです。でも他の作品だとそういう時代、規範の物語として楽しめるのですが…。あまりに理不尽すぎて。もちろん葛藤はみせるのですがすぐに仇討への高揚感みせるのでなおさらすごーくいや。共感しづらすぎるんですよね…。手にかける直前で幸兵衛さん、止めてやってくれ~~と。もうね、そういう脚本にしてくれないかな~と。『岡崎』の場以外はすごく楽しかったので、この子殺しの場面だけ抜かしてくれないかな~ぐらいの勢いです。役者の芸を観ると割り切れば相当な出来かと思います。場としての緊迫感十分だし。

『岡崎』の場、ちょっと気になったのが芝雀さんのくどきの見せ場の台詞。珍しく聴かせきれない部分があって全体的に少し弱かった。ああいう切々とした語りが巧い人だと思うので、あれ??という感じ。泣きの声のトーンが高すぎるのかな?

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方上手寄り

2014年12月11日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方上手寄り

『御存鈴ヶ森』
さらりとした手触りのなかに歌舞伎独特の滑稽味と冴え冴えとした味をみせた『御存鈴ヶ森』だったと思う。音羽屋ならではの色かもしれない。

白井権八@菊之助さん、決めの姿の美しさとしなやかさ。ほとんど表情を変えないクールビューティな権八。隙をまったく見せないし人をまったく信用していない。幡随院長兵衛に対しても自分に害があると判断したらすぐに切るという殺気を纏う。自身の若さという未熟さに少しばかり苛立ちを感じてる雰囲気もありちょっと危ない系というかサイコの芽生えを感じさせたり。

幡随院長兵衛@松緑さん、さすがにずっしりとした貫目を出すのは難しかったようだけど兄貴分としての格は十分に。鋭い目のなかに松緑さんらしい愛嬌がほんのり混じり頼っても大丈夫そうな雰囲気があるのが良し。台詞もいつものクセはあまり出ず丁寧にしっかりと聞かせたと思う。

歌舞伎十八番の内『勧進帳』
千穐楽の染五郎さんの弁慶は「祈りの弁慶」だったように思う。弁慶の想いと染五郎さんの弁慶という役に賭ける想いがただひたすら重なっていた。ああ、祈りだ、そう思った。

出来としては22日、24日あたりのほうがたぶん良かったと思う。声の響きも身体の伸びやかさも。今日は力が入りすぎていた。でも、やっぱり全身全霊で弁慶だった。シンプルに主大事の真直ぐさや必死さ、そして天の祈りへの気持ちがストレートに伝わる弁慶だった。それがなんとも格好良かった。命懸けで何かをなそうとするその心根に胸打たれる、そんな弁慶。その凄まじいほどの気迫にはアグレッシブさを感じさせながらもそのなかにすべてを引き受けるという深さも感じさせる。豪快な動きのなかにどこか静謐さえ漂わせて美しいとさえ感じさせる弁慶だった。この動と静の両方があっての染五郎さんの弁慶でした。

染五郎さんの弁慶がとても澄んだ目で天へ感謝しているそのなんとも言えない印象的な表情を観ながら、私も天へ感謝していた。染五郎という役者を舞台に戻してくれたことに。そして染五郎さんが弁慶を演じる今月に私も居合わせることができたことに。

私はずっとずっと染五郎という役者に「弁慶」を演じて欲しかった。高麗屋だからというのではなく、染五郎さんが弁慶という役にどれだけの思い入れがあるのかファンとして垣間見てきたから。ニンではない、そう言われてきた。私も持ち役にとか当たり役にしてほしいという願いはなかった。でも夢を叶えて欲しかったし、その想いを乗り越えて欲しかった。染五郎さんが役者として先に行くためにそれは必要だと感じていたから。

でも私の想いをはるかに超えて染五郎さんは「弁慶」を手中にしたと思う。だから言おう、また染五郎さんの弁慶が観たいです。