Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

博多座『二月花形歌舞伎 昼の部』 A席1階前方上手寄り

2010年02月21日 | 歌舞伎
博多座『二月花形歌舞伎 昼の部』 A席1階前方上手寄り

2月21日(日)

『双蝶々曲輪日記「引窓」』
花形らしいとてもわかりやすい芝居になっていました。花形歌舞伎はコクとか滋味といった味わいが少ない代わりに輪郭がハッキリしてストレートに物語が伝わってくることがあります。その典型的な芝居になっていたように思います。思っていた以上にとても良くて嬉しくなりました。

南方十次兵衛/南与兵衛@染五郎さん、2008年10月秋巡業での初役を拝見しております。この時はこういう役は案外似合うなと思いましたし、かなり健闘していたと思いますがまだこなれていませんでした。その時と比べて今回、段違いに良くなっていました。役柄にピタッと嵌ってきただけでなく、義太夫のノリ地がかなりしっかりしてきて台詞廻しの緩急が非常に良いのに加え、決まり決まりの姿が美しくとても大きく見えました。染五郎さんの十次兵衛(与兵衛)は男の可愛らしさがあります。真面目で骨ぽい男なんだけど優しくて非常にキュート。出世した姿を母と妻に自慢したくてウキウキしている様などほんわかした空気感を出し場を和ませ、また、濡髪の存在を知った後の母想いの芯のあるキッパリした部分への切り替えもよく、とても心情が細やかで表情豊か。役柄にうまく緩急をつけてきたことで非常に説得力のある十次兵衛(与兵衛)になっていました。また、染五郎さんが出てくると場の空気が締まり濃くなっていました。この役、持ち役にできるでしょうね。ここまで持ってきたことにも感動しました。

母お幸@竹三郎さん、輪郭がくっきりして感情の流れが非常に分りやすいお幸でした。上方の役者さんならではのお幸なのかな。場面ごとの心持ちをかなり明確に表現してくるんですね。母としての子を想う強さを前面に押し出し芯がしっかりしています。濡髪長五郎@獅童くんが手順に手一杯で濡髪の心情をしっかり出せていなかった分、竹三郎さんがその心情の明快さで、色んな場面、カヴァーしてあげていたように思います。さすがベテランの役者さんです。

お早@高麗蔵さん、やはり2008年10月秋巡業で拝見しています。高麗蔵さんはちゃきちゃきした雰囲気がある方でどうしても上方で遊女をしていたという、はんなりした雰囲気はありません。なんとなくお江戸の女性ぽくなってしまうのですね。それが前回の時は強かったように思いますが、今回、やはりちゃきちゃき感はそのままではありますが、お早という女性の性根の部分の可愛らしさというものを表現してきてて、とても良かったです。夫と義母の両方ともとっても大事に思っているというのがしっかり伝わってきました。

平岡丹平@種太郎くん、三原伝造@壱太郎くん、かなり若い、幼さの残るお役人さんです。若すぎるかなあと思いましたが、二人ともきちんと一生懸命にこなしている分、弟、兄のために敵討ちをと必死になっているのね、というようにも見えなくもなく、未熟さが物語の粗にはあまりなってませんでした。平岡丹平@種太郎くん、ちょっと力みすぎかなと思いますが台詞がだいぶしっかりしてきました。

濡髪長五郎@獅童くん、姿は非常に良いし、声もよくでてる。関取らしい風情はあったとは思います。が、そこが良いだけに…。必死にやってるのには好感持ちます。しかし、台詞があまりに一本調子。義太夫のノリ地がまったくできていません。また決めの部分で腰が入らないので決めきれないのですよね。それと、芝居の手順でいっぱいいっぱいのようで、受けの部分でまったく受け切れてない、ただひたすら自分の出番のきっかけを待ってる感じ。なので濡髪の心情がしっかり伝わってきません。姿が良いだけにもったいないです。


『猿之助十八番 金幣猿島郡』
「宇治通円の場」「橋姫社の場」「木津川堤の場」

突っ込みどころ満載で面白かったです。派手だし、ただひたすらエンターテイメント。亀治郎さんオンステージな舞台ですが周囲もきちんと固めていて楽しかったです。

清姫/藤原忠文@亀治郎さん、活き活きと楽しげにかつ必死にやっていてるのが伝わってきてとても良かったです。清姫は、恋する男に一途で押しの強い女の子。いかにも亀治郎さんにピッタリのお役でした。目が見えない最初はいじらしいのだけど目が開いた途端にあからさまに押し捲る強い女の子(笑)。頼光と七綾姫に嫉妬する様は同情するより思わず笑ってしまう。あまりに前のめりな様に色々笑ってしまったけど、叶わぬ恋をする女の哀れさは必要ないのかしらん(笑)と思ったりも。でも、亀ちゃんらしくて、これはこれで好きです。忠文のほうはねっとり系のストーカーちっくな男。こんなんじゃ七綾姫がなびくわけないわ。亀治郎さんはその忠文をこれでもかとしつこく演じてそのねっとりした情念を見せてきます。清姫/忠文のどちらも亀ちゃんらしい造詣。個人的には清姫のほうがより似合っていたと思いますし、好きですねえ(基本、亀ちゃんの女形が好きなので)。猿之助さん時はどういう感じだったのでしょうね?

如月尼実は乳人御厨@歌六さん、カッコイイ。以前、女形さんを拝見した時は加役といった雰囲気でしたが、今回はしっくり嵌っていて素敵でした。筋書きを読むと何度か手掛けているお役なんですね。乳人としての性根が強く、目的もはっきりしています。そこをぶれないでキッパリと演じていらして存在感ありました。それでいて、母だからこそ娘の命を差し出すことができるのだという母という女の強さの部分も感じさせました。こういう母だから、ああいう清姫なんですね(笑)

安珍実は文珠丸頼光@染五郎さん、美しい貴公子です。女にモテモテなのもよくわかります(笑)。高貴のお方らしく、おっとりと繊細で優しいです。女に挟まれオロオロとしつつ、どちらにも情をかけちゃう。でもそれが女たちを惑わすんですよっ、と突っ込みが(笑)。とはいえ二世を誓った七綾姫が一番大事というのがまた可愛気でもあります。足手まといといいつつ水を汲みに行っちゃうんですからね(笑)

七綾姫@梅枝くん、綺麗ですねえ。おっとりといかにも赤姫らしい風情。世間をまだよくわかっていない風情がいい感じです。もう少し、頼光らぶ光線を飛ばしてくれるとなお良し。でも梅枝くんは次世代の真女形として本当に有望な若手です。頼光@染五郎さんと七綾姫@梅枝くんカップルは雰囲気が非常に良くて相性がいいかも、と思いました。この二人で他のものも観てみたいです。

腰元桜木@門之助さん、勇ましい女性をキッパリと。私は門之助さんは女形さんのほうが好きなんです。このお役、お似合いでした。かなり派手な立ち回りをしっかり決めていらっしゃいました。

犬上兵藤@猿四郎さん、存在感ありました。上手いですね~。役をしっかり演じつつ、さりげなくアドリブもきかせられる。

寂莫法印@獅童さん、ひたすら浮いてました…。他が役者さんたちが歌舞伎味たっぷりで濃い芝居をしているので、一人場違いというか歌舞伎役者に見えない…。軽すぎるというだけでなく、寂莫法印というキャラになりきれていません。出だし、ハプニングで運んでいる鐘に足をぶつけてしまい、そこで本気で痛がって、笑いを誘ったまではいいのですが、そこから芝居にきちんと戻せない。その後も素で笑ってしまう部分も度々だし、何より寂莫法印という役柄で何をしたいのかという部分みせてこれてませんでした。うむむ、これはちょっと、う~ん。復活狂言でいわゆるきちんとした型がないだけにかえって地力が出ちゃうんだろうなあ。役柄的には美味しい役だと思うんですけど…。

『大喜利所作事 双面道成寺』
『奴道成寺』と『法界坊』の大切りの『双面水照月』を合わせたような所作事。かなりハードな舞踊です。 面白かったのではありますが物足りなさも残りました。踊り上手な亀治郎さんですが、この長時間の舞踊、まだメリハリつけて魅せる、場を支配する、というところまではいってませんでした。さすがにこの踊りは難しいのでしょうね。勿論、丁寧にかなり上手く踊っていたとは思います。しかし、踊りわけがピタっと決まらないとこも散見。おかめ(傾城)、お大尽(客)、ひっとこ(幇間)」の三つの面での舞踊は切り替えの早さは見事でしたが、もうひとつメリハリが足りない感じ。切り替わりの間というかタイミングに溜めが欲しいのと、女と男の切り替わりの身体の使い方の差がきっぱりと出てこない部分が。また双面のほうでは声での演じわけは見事でしたが清姫の霊と忠文の霊の差がそれほど出ず。特に忠文の霊の部分にあまり凄みがありません。女形の部分は非常に柔らかくていいんですが、男になる時も身体の線に丸みが出てしまう感じ。亀治郎さんは柔らかい踊りのときは良いけど、大きさを求められるときにまだその大きさが十分に出ないって感じかな。こういう舞踊の時には全体が柔らかすぎるのかも。よくやっていると思うのですが猿之助さんの舞踊となんとなく比べてしまった、という部分でちょっと辛口になってしまった。

白雲@高麗蔵さん、黒雲@門之助さんの「起き上がりこぼし」の踊りが可愛らしかったです。

頼光@染五郎さん、七綾姫@梅枝くんはひたすら綺麗でした。顔だけでなく姿勢も!かなりの時間、じっとしているのですがピクリとも動きません。

博多座『二月花形歌舞伎 夜の部』 C席/A席

2010年02月20日 | 歌舞伎
博多座『二月花形歌舞伎 夜の部』C席/A席

2/19(金) C席3階前方センター 『竜馬がゆく』『三社祭』のみ
2/20(土) A席1階前方上手寄り

博多に観劇遠征に行きました。博多座はお初でした。なかなか良い劇場でした。夜の部は2日続けて観ましたので感想は一つにまとめました。

『竜馬がゆく 立志篇』
歌舞伎版『竜馬がゆく』の第一弾「立志篇」の3年ぶりの再演です。2007年の初演を拝見しております。初演の時もなかなか良い芝居だなとは思っていたのですが、今回初演時に比べて芝居全体がかなり締まってかなり見応えのあるものになっていてビックリしました。脚本そのものは変わっていないし全体の流れは変わっていません。細かい部分での演出の手直しと役者の役のこなれ具合でこうも変わるものかと。再演することの大切さを思い知りました。

2007年から毎年、新作歌舞伎『竜馬がゆく』は「立志篇」、「風雲篇」、「最後の一日」と上演してきています。そして今回、「立志篇」の再演があったことで完全に新作歌舞伎として確立した演目になったと思います。エピソードを加え通し狂言としての上演も視野に入れているようですが、そう遠くない時期に上演できると確信できる芝居となっていました。この新作歌舞伎『竜馬がゆく』を毎年続けて拝見してきて本当に良かったと思いましたし、今回「立志篇」の再演を博多まで観にきて良かったとつくづく思いました。

幕開け、もうおなじみのテーマ曲、き乃はち氏の『宙へ』が流れます。流れてきた瞬間、昨年拝見したばかりの『竜馬がゆく 最後の一日』が思い出されてグッと胸が詰まってしまいました。どんだけ思い入れがあるんだと自分にツッコミが(笑)。初演時にはシンセサイザーを組み合わせた録音での曲を流していましたが今回、幕開けのみであとはすべて黒御簾からの生演奏でした。第二弾「風雲篇」からはずっと生演奏にしていますが、これで「立志篇」も生演奏での上演ということになりました。歌舞伎の舞台にはやはり生演奏のほうがしっくりくるような気がします。それにしても『竜馬がゆく』で流す曲は『宙へ』含めてとっても素敵ですねえ。

一幕目
坂本竜馬@染五郎さん、もうすっかり染五郎さんの竜馬というキャラクターが確立しています。完全に竜馬という役になじみ、そこにしっかり存在していました。初演時はどこか線の細さを感じさせましたが今回はその細さをまったく感じません。爽やかな真っ直ぐさや朗らかさといった魅力とともに、男らしい骨ぽさが加味されています。長州藩に間者として乗り込んでいっても気負いもてらいもなく、興味のあるものに真っ直ぐ飛び込んでいく。まだ自分の見据える先がわからないまま、楽しそうに目をキラキラさせている竜馬が印象的。闊達で素直な人柄で、桂小五郎を巻き込んでいく様が楽しい。

桂小五郎@獅童さん、初役です。真っ直ぐに思慮深い桂小五郎を演じてきています。初演時の歌昇さんが大人すぎたので、そういう部分で獅童さんだと竜馬と同年代として分かり合える気安さやライバル心が明快だったと思います。なので、竜馬と意気投合する部分に説得力がありました。ただ、歌昇さんの桂小五郎と比べると殺陣や説明台詞が弱めかな。でも違和感なく拝見できたので十分な出来かと思います。

二幕目
土佐藩の郷士への差別への悲哀がストレートに伝わってきて泣けてきました。初演時もこの場面は切なくて辛かったですが、今回のほうがより仲間たちの結束力や熱き想いそのなかでの悲哀が伝わってきていたような気がします。

中平忠一郎@壱太郎くん、まだ幼さが残る忠一郎です。一生懸命にぶつかって演じているという部分で役柄に重なり、哀れさがあります。

池田寅之進@種太郎くん、前回は忠一郎を演じた種太郎くんが今回、兄を演じます。骨太さのある種太郎くんですから、弟のために激情に駆られる様に迫力がありました。また、竜馬に「脱藩せい」と説得させられる場で一瞬、希望に満ちた顔をするので結局は切腹してしまうその姿に悲しさが増します。種太郎くんは身体の使い方が上手くなりましたねえ。殺陣もとても上手です。

ここの場での竜馬@染五郎さんは若者の中心にいる人物像としての存在感と華がありました。仲間を愛し、仲間のために泣く。友の悲哀をその身にすべて受け取り、そしてその先の覚悟をしたのだろう、とそういう竜馬でした。

三幕目
勝海舟との出会いの場です。ここは丁々発止の応酬に見応えがあります。今回の歌六さんと染五郎さんの応酬は、歌舞伎ならではの間合いで、真山青果『御浜御殿綱豊卿』並の台詞劇だなと思わず唸らされました。

勝海舟@歌六さん、この方は台詞の聞かせかたが本当に上手いです。べらんめいの江戸弁が心地よく勝海舟らしさを醸し出していく。また先のことが見えない若者に対する容赦無い厳しさとを見せるつつも、ふとした瞬間の軽妙さのなかに懐の深さをみせていく。そのメリハリを利かせた芝居で場を締めていきます。

対する竜馬@染五郎さんは一歩も負けていません。真っ直ぐに素直に勝海舟に向かっていき、自分のなかの惑いを晴らしていく様を表情豊かに演じてきます。『御浜御殿綱豊卿』で仁左衛門さん相手に助右衛門を演じてきた成果でしょうか、攻めと受けの硬軟を使い分けた台詞をしっかりと聞かせてきます。一歩踏み出した竜馬が一段を大きく見えました。ラスト、未来への希望を見出した若者の真っ直ぐに天を仰ぐ姿がとってもかっこよかったです。

千葉重太郎@高麗蔵さん、ちょっと融通のきかない、でも愛すべき重太郎を演じてきました。なんだか前回演じた時より可愛らしい感じで良かったです。

『三社祭』
染五郎さん、亀治郎さんコンビでの『三社祭』は2008年5月に拝見しております。前回はお互い競い合うような踊りでしたが今回はそれぞれの持ち味を活かしつつ決めるとこはピッタリと合わせるという前回より一回り大きくなった踊りでした。この二人の踊りは持ち味がまったく違うところに面白さがあります。それにしても、観ていてとっても楽しかったです。二人とも楽しそうに活き活きと踊られていたように思います。

悪玉@染五郎さん、踊りが大きいです。空間の捉え方が大きいので見ていてとても気持ちが良いです。勢いとキレのよさ、そして手足の長さを活かしたノビノビとした形のよさで見せてきます。力強さのなかに筋肉のしなやかを感じさせます。また決まり決まりが非常に美しいです。今回、腰の入りっぷりが見事でした。亀治郎さんより絶えず体勢を低く構えてピタリと動きません。また足の上げ方も高く、それでも軸がずれません。相当、踊りこんできたな、と思いました。かなり調子が良かったのではないでしょうか。また後見の錦一さんとのコンビネーションがカッコイイんですよね。お互い、どうかっこよく見せようかと精進してるんだろうなあ。その信頼関係がまた素敵。それにしても染五郎さんの踊り、本当に好きです。ここまで伸びやかに空間を大きく捉えてくる踊り手は若手のなかではなかなかいないと思います。

善玉@亀治郎さん、とってもしなやかな踊りです。特に手の動きがしなやかで柔らか味に溢れています。また軽やかさも持ち味でバネがきいているという感じです。ふんわりしたところが善玉にピッタリですよね。亀ちゃんの悪玉はイメージできません。個人的にはちょっと踊りが小さいなあと思ってしまう部分が無きにしも非ずですが、こればかりは観る側の好みになるのでしょう。

『瞼の母』
有名な演目ですが、私は初めてみます。こういうお話だったのですね。お涙頂戴ものではあるけど脚本がしっかりしててなかなか見応えがあります。

忠太郎@獅童さん、とっても似合う役でなかなか良かったです。周囲の好演にも助けられ、いい芝居をしていたと思います。私は今まで獅童さんの映像での芝居はわりと好きなんですが舞台だとどうも良いと思ったことが無いんです。でもこの役は獅童さんに非常によく似合っていて、ニンという部分できちんと見せてきたと思います。とはいえ台詞の弱さ(声はよく出ていますが感情を伝えるという部分がまだ未熟)とか決めの姿が決まりきらないといった部分、舞台役者としてはやはり弱い部分多々あります。けれど、この役は積み重ねればモノにしていけると思います。きちんと再演していって欲しい。獅童さんはもっと歌舞伎の舞台に立つ機会を増やし、色んな役者に稽古をつけてもらったほうがいいと思います。センスはあるけど技術がまだ追いついてない段階ですね。にしても殺陣についてはさすがにヘタすぎ…あれじゃ相手切れないよ…腰が決まってないのが一番の難点かなあ。もう少し舞踊をしっかり稽古してくださいまし。華はあるし、姿も顔も良いし、何より今回、忠太郎に関してはとても素直に芝居しているのが良いと思います。どうか頑張ってほしい。

水熊のおはま@英太郎さんが素敵でした。女形さんとして非常に美しい方ですね。また品格があるなあと思いました。新派の女形さんですが世話物でしたら歌舞伎でも十分にいけると思います。娘可愛さに忠太郎に冷たく当たる様にもどこか女の生き様の哀しさが底にあるおはまでした。この役、非常に難しいと思います。おはまの生き様が身体に滲み出ないと説得力がなくなる。今回の『瞼の母』 はこのおはまあってこそ、と思いました。

おむら@竹三郎さん、この芝居で「母」の象徴のような母を演じます。情が濃く、しっかりもので地に足が着いた肝っ玉母さん。竹三郎さんの女形は輪郭が太いですねえ。色んな部分が明快です。

おぬい@壱太郎くん、可愛らしいです。今のところ女形のほうがしっくりきますね。健気で兄思いのおぬいを好演。

金町の半次郎@亀治郎さん、こういう男ぽい役は珍しいですね。こういうお役をするとお父さんの段四郎さんにソックリですねえ。特に、声と台詞廻しが似ているのかしら。きちんと堅気に戻れそうな半次郎でした。

お登世@梅枝くん、母思いで素直に育った娘なんだろうなと思わせてくれました。梅枝くんの女形は不安定さがないのが凄いです。

国立小劇場『二月文楽公演 第二部』 1等前方センター

2010年02月15日 | 文楽
国立小劇場『二月文楽公演 第二部』 1等前方センター

第二部は近松門左衛門の『大経師昔暦』の通し上演です。この演目は歌舞伎で拝見して印象深かったものです。歌舞伎は「大経師内の段」のみをうまくアレンジして一幕物に仕立てての上演でした。その時は運命論的物語と思いましたが文楽で通しで見るともっと悲惨というか不条理な物語でした。昔と今では価値観が違うので不条理、と思うのは現代人の感覚かもしれませんが…。それにしても可哀相すぎなお話だわ~。詳細感想後日。

『大経師昔暦』

おさん@文雀/茂兵衛@和生/お玉@清十郎/大経師以春@玉志/助右衛門@文司/おさんの母@簑二郎

「大経師内の段」
松香/喜一朗
綱大夫/清二郎

「岡崎村梅龍内の段」
文字久/清馗
住大夫/錦糸

「奥丹波隠れ家の段」
三輪・南都・芳穂・津国・文字栄さん/富助



国立劇場2月文楽公演解説書に特別付録!

2010年02月12日 | Memo
今月の国立劇場2月文楽公演のプログラムに『曾根崎心中』のお初の記念絵はがきがついているそうです。美しい。残念ながら今月は第三部は拝見する予定はないのですがプログラムは買いですね。

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国立劇場2月文楽公演解説書に特別付録!

 国立劇場2月文楽公演では、解説書(プログラム)に、吉田簑助文化功労者顕彰記念として今回特別に撮りおろした『曾根崎心中』のお初の記念絵はがきをお付けしました。価格はいつもと同じ600円、公演期間中の国立劇場売店でお求めいただけます。ご観劇の記念にぜひご利用ください。
 お問合せ=国立劇場売店(株式会社文化堂) 電話03-3239-2417(直)
http://www.ntj.jac.go.jp/topics/news100204.html
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歌舞伎座さよなら公演『二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

2010年02月06日 | 歌舞伎
歌舞伎座さよなら公演『二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

3等B席でしたが花道七三がかろうじて見えて意外と良い席でした。隣がたまたま空いてて足伸ばせたのもあり、ストレス無しの楽な観劇でした。イマイチ、間が悪い大向こうさんがお二人ほどいたのが少々悲しかったけど。

『壺坂霊験記』
文楽でしか観たことが無かった演目です。蓑助さん操るお里の狂乱ばかりが印象に残っています。演目自体はあまり面白みを感じず、それほど期待していなかったのですが、これが意外と面白く拝見。文楽は沢市が死んだことを知ったお里の狂乱部分が見せ場だったと思いますが、歌舞伎では生身の人間が演じるせいか、ラストの奇跡が起こった喜びの部分にカタルシスがありました。

沢市@三津五郎さん、沢市の自信なげな嫉妬心やお里の本心を聞いたあとの嬉しさなど、沢市の人となりを真っ直ぐに演じどこか可愛らしい男の人として演じてきていました。そのためラストの無邪気な喜びを素直に受け取ることのできました。着付けがダボッとしていたせいかちょっと老けて見えてしまったのが少々残念だったな。

お里@福助さん、とっても良かったです。沢市一途なちょっと世話女房的な部分での可愛らしさがいっぱいなお里。顔の表情に頼ることなくぐっと押さえた芝居。そのなかで台詞廻しは表情豊かで体全体の表現も非常にしなやか。表現のバランスが今回とても良かったので説得力がありました。福助さんは顔の造作が派手なのでことさら顔を作って表現しないほうが伝わってくる気がします。台詞がお上手ですし、動きも綺麗なので、それで十分表現できる。

観世音@玉太郎くん、可愛いです。華もあります。でも、このお役だとどうも台詞の拙さが目立つかも…。がんばれ~~。
          
『高坏』
次郎冠者が勘三郎さんだからこれがもう期待するなというほうが無理。で、期待しすぎたかも…。相変わらず高下駄タップのメリハリの利かせ方は上手くてさすが、と思うのですが、今回その技巧の部分を見せるだけに若干なってしまっていたかも。なんというか勘三郎さん独特のキュートさやふんわりした可愛らしさがあまり出てなかった。特にほろ酔いの部分の所など勘九郎時代だったらふわ~っと花が咲いたようだったのに…。勘三郎さん少しお疲れかな??

高足売@橋之助さんはイヤミがなくてちょっとすっとぼけた味わいで良かったです。大名某@彌十郎さん、太郎冠者@亀蔵さんも楽しげで良かった。


『籠釣瓶花街酔醒』
この演目もちょっと期待しすぎたかなあ。『籠釣瓶花街酔醒』は物語的にも面白いですし、見せ場も沢山あるので、面白いにはかなり面白かったのです。しかし個人的にはこのところの幸四郎さん(2008年)、吉右衛門さん(2006年)の佐野次郎左衛門が良すぎたなというのがある。幸四郎さんと吉右衛門さんはまったく違うタイプの次郎左衛門を演じてきましたがどちらもとても納得できる造詣で非常に説得力がありました。勿論、勘三郎さんも上手いんですけど、もうひとつ型から抜け出せてないのと自分の持ち味の部分が生かしきれてない感じがしました。それにしても今の役者では佐野次郎左衛門は幸四郎さん、吉右衛門さん、勘三郎さんしか演じてないんですね。

佐野次郎左衛門@勘三郎さん、私が拝見するのは今回で3回目です。今回の勘三郎さんの次郎左衛門はちょっと陰のある暗い男で元々少々危ういものを秘めた感じがありました。それが勘三郎さんの陽の部分の良さを消してしまっていたような気がします。

なんというか見初めの部分、一目惚れし気持ちがとろけてしまったというような朴訥さがなく、どこか歪んだ愛情を八ツ橋に向けてしまっているような表情をするんですよね。惚けた可愛らしい醜さではなく、心の底の歪みが表に出てしまったというような。また、二幕目序盤もウキウキした心持ちが以前より薄く、単に自慢したいという心持ちのほうが強くでていたような感じ。なので醜くても心根が可愛らしい男にあまり見えないんですよ。以前は醜くても可愛げがあって、わりと愛されキャラだったと思うのだけど…。今回ちょっと次郎左衛門に感情移入しにくかったかも。縁切りされてもしょうがないなあというか。これでは八ッ橋もほんとに商売としてでしか相手にしてなかっただろうというか。まあそれもありなんでしょうが、なんとなく勘三郎さんに似つかわしくないというか…。なので「そりゃ花魁、ちと袖なかろうぜ」からのくどきが非常に切羽詰ったものでさすがに聞かせてくるし上手いとは思うんですけど、そこに男の純情とか切実感がもうひとつ浮かび上がってこなかったかなあ。ラストの場に関しては凄みと狂気が以前より増していて見ごたえがあり良かったと思います。

個人的には見初めの場は2000年に演じた、明るさのあるいかにも田舎の朴訥した人柄がみえた造詣のほうがらしくて良かったと思いますし、2幕目以降は2005年襲名披露時の八ッ橋も自分に惚れてくれていると素直に信じてしまっていた無邪気さゆえの絶望感をみせてきた造詣のほうが、観客の共感をもたせ良かったと思うんです。


八ツ橋@玉三郎さん、相変わらず本当に美しい八ツ橋で、男が惚れこむのも傾城NO1.と言われるのも納得。ただ個人的には2000年あたりまでのたっぷりと婉然と微笑む強烈に華やかな笑みを求めてしまい、今回のようなわりとあっさりとにっこり程度の笑みだと物足りない。とはいえ「あらあら、田舎から出てきた人がうろちょろしてるわね」という風情はこれはこれで人の視線を逸らさない傾城らしい愛嬌として見えることは確か。後半はどこか芯が強い、苦界生きていくことを覚悟した女としての開き直りのなかに哀れさがあった。次郎左衛門への申し訳なさもうまく立ち回れなかった自分への自嘲も含まれているように見えた。すっかりその世界に馴染み、そこから抜け出すことすら諦めた女かな。

繁山栄之丞@仁左衛門さん、相変わらずカッコイイんですけど、でも今回、甘さがなくてちょっと冷たい神経質な栄之丞だったなあ。なんか、ほんとに八ツ橋のことを金づるとして扱っているというか。栄之丞はいわゆる「悪」ではなくて、性根の部分が甘くて八ッ橋に甘えて半分なんか拗ねてる雰囲気があるほうが、八ッ橋がかいがいしく世話してしまう間夫として説得力がでると思うんだけど。仁左衛門さん、前回はその甘さがあったと思うんですが…なぜ今回そんなにカリカリしてるんだろう?。なんだか今回の八ッ橋と栄之丞、切れない仲ながらちょっと倦怠期入ってません?とついツッコミが(^^;)

治六@勘太郎くん、一生懸命演じている部分で治六というキャラクターにはハマってはいます。でも、旦那・次郎左衛門に対する使用人としての治六の立ち位置が意外と鮮明でないかなあ。どういう主従関係なのかの幅がまだ無いというか。それと台詞廻しと声が勘三郎さんに似すぎて、二人のメリハリ効いてないという部分も若干。まあ、信頼関係のなかの主従という立場が明快で超絶品だった段四郎さんとか、一途で可愛げのある歌昇さんのと比べてしまうのはさすがに可哀相ではあります。

釣鐘権八@彌十郎さん、今回あんまりいやらしい小悪党風情が無かったかも。もう少しずるがしこい性根の悪さがあってもいいかなあ。栄之丞をうまくそそのかしてる感じがもっとあるほうが個人的には納得する。

九重@魁春さんは優しげで好き。それとおきつ@秀太郎さんがいかにもで上手い。

七越@七之助くん、初菊@鶴松くんは綺麗だけど思ったほどは存在感なかったかな…。神妙にお勉強中という雰囲気でした。