Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『柿葺落七月花形歌舞伎 夜の部』 1等席前方上手寄り

2013年07月21日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落七月花形歌舞伎 夜の部』 1等席前方上手寄り

『東海道四谷怪談』

2回目観劇です。今回はは首が飛んでもビューな席でした。こういう言い方がいいのかわからないけど面白かった。可哀想さとか怖さとかもしっかりあるんだけどわくわく感もあるという感じ。不思議な感覚でした。

お岩@菊之助さん、やはり武家娘らしい佇まいとその美しさが印象的なお岩さま。可哀想さというか哀れさの部分が前回拝見した時よりかなり出てきてました。でも顔が変貌してからがだいぶ身体が男っぽくなっちゃってたのが少々残念だったかな。その代わりケレンの部分がこなれていて早変わりがかなりスムーズで拍手をかなりもらっていました。菊之助さんのお岩はやっぱり恨みや怒りで死ぬ前の絶望感から生霊化してる可哀想なお岩さまでした。凛としたプライドが一気に崩れるその瞬間の心の隙間から闇がみえるようでした。

伊右衛門@染五郎さん、ますます身勝手ぶりに磨きがかかってた。何も考えないその場凌ぎな短絡男。大事なのは自分と家名だけ。悪いことをしようという自覚的なものすらない、まったくもって薄っぺらいダメ男。こんな男に引っかかったら地獄。とりあえず潔く同情の余地なしな男に徹していました。そのなかで元はお坊ちゃまな甘えや我侭さをのぞかせてきたのが面白かった。そして前回も思ったんですが柄の部分は違うけどどこか團十郎さん伊右衛門の何も考えてない、悪いことしてる感なしな伊右衛門を連想させる部分がある。無自覚な悪という感じというか。にしてもかなり声を低く取り、心底冷たい無慈悲な声色でかなり骨太に演じつつも単なる悪ではなく甘さがありそこに色気があるという染五郎さんならではの造詣になっていたと思う。また前回はちょっとそこだけ浮いてた気がした「首が飛んでも、動いてやるわ」が図太さから出た言葉ではなくいきがっての言葉として発せられてて場に馴染んでいました。台詞のちょっとした言い回しでだいぶ印象が変わりますね。

歌舞伎座『柿葺落七月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

2013年07月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落七月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

『東海道四谷怪談』
思っていた以上に充実しておりました。かなり怖かった。人の嫌な部分や弱い部分の歪み。それが肥大することの怖さと哀れさ。また裏忠臣蔵としての南北の企みが分かりやすく提示された芝居になっていた感じがしました。

お岩@菊之助さん、武家娘らしい凛とした美しさのなかに女のプライドと浅はかさをのぞかせる。お岩への伊右衛門の執着をどこか女として誇りに思っていたのではないかと思った。それゆえに伊藤家への恨みの強さに哀れさがあり嫉妬心に情念がある。また怒りや嫉妬へ振り切れるのが他のお岩様役者より早い。醜さを突き付けられた瞬間に一気に絶望と怒りに陥る。伊右衛門を取り戻せないことを突き付けられたからだと思う。武家の娘としてのかたき討ちの矜持だけではない。恨みは本気のとこで伊右衛門に向かわない。ああ、なるほどこの人も伊右衛門に執着してるんだなと思う。伊右衛門のことはなぜか殺さない。蛍狩りの場があることで執着へのイメージが喚起される。私はこの場があることで伊右衛門と岩の関係性が膨らむと思う。今回の伊右衛門とお岩様には共依存的なものを感じる。菊之助さんのお岩様は情念の部分ではなく生活の陸続きのとこでポカッと穴に入り込んでしまった女の悲劇って感じを受けました。子供を産んでやつれる前まではさしたる遠慮もなく「夫婦」としてお互い様な普通な生活を送っていたような気がする。

菊之助さんのお岩様の品のよさのなかにほんのり滲む女としての一途さが一番の特徴。それゆえに身も心も崩れていく場が哀れで可哀想。台詞のひとつひとつの粒だたせ方が巧いんだなあと思う。あと今回は身体の作り方もすごく良かった。産後で身体が薄くなったようにしっかりみえた。

菊之助さんの立役のほうは与茂七はすっきりとした二枚目。大詰の場でそこが活きる。前半は遊びの部分が生真面目すぎて硬い。小平は忠義一途に凝り固まった風情で近年の小平のなかで一番納得。

伊右衛門@染五郎さん、完全に性格破綻者だった…。芯がどこにもない。その場その場で自分の都合のいい方向へと流れていく。目先のことだけを考え徹底的に冷酷にもなり甘くもなる。何も考えずその時に手に入れたいもののため、身を守るためだけに動く。人でなしとはこのことだ的な伊右衛門。生活というものにどこか倦んでいて投げやり。執着したものが自分の意に沿わなくなると面倒になっていくのだろう。自分にとって気持ちのよいものにしか目が行かない。美貌のお岩には執着するが産後、衰えをみせ自分の面倒をみてもらえないとなると嫌悪していく。伊藤家におもねったのはお梅がいいのではなく金。それをハッキリ見せていた。どこまでも自分勝手。そして投げやりになればなるほど冷酷非道になりタガが外れていく。しかし完全に外道に陥らないのが不思議なところで「武士」の体面をどこか忘れない。染五郎さんの伊右衛門は一貫性のなさが際立っていた。そして、従来の染五郎さんのイメージよりかなり骨太に演じ輪郭をクッキリと作ってきていた。声の調子を低目にとり悠然と動き大きさを出してきていた。そしてその場その場の伊右衛門の考えのなさや冷酷さを声の調子や台詞廻しで表現していく。なんとも投げやりで冷たい風情のなかにじんわりと色気を出す。あそこまで勝手な人間なのに人が寄ってくる。どこか隙のある色気があるから、なんじゃないかと思った。

そういえば伊右衛門の「首が飛んでも、動いてやるわ」という台詞は次の幕の伊右衛門と整合性がないのがずっと気になっていたんだけど。原作になく途中、役者が入れごとをしたのが定着した台詞とのこと。有名台詞になってしまっているのでこのまま残っていくのであろうな。

直助@松緑さん、落ち着いた小悪党ぶり。ざっくりとした性格描写にイヤミがなく染の伊右衛門と好対照でキャラが活きた。また台詞も舌足らずにならずしっかりと聞かせてきてとても良かった。口跡がだいぶよくなってきた。あとは受けのときの姿勢が時々緩むのを気を付けてもらえれば。

お袖@梅枝くん、華やかさはないものの可憐さのなかにほんのり強さをのぞかせて安定感ある演じっぷり。梅枝くんはこういう役がほんとに似合うし真っ当ど真ん中で演じてどこも外さないのが凄いわ。勘がいいのか。菊之助さん与茂七とも松緑さん直助ともバランスよく。

お梅@右近くんは現代的な華やかさ。真っ当なお嬢様ぶりがかえって怖さを感じさせていい。

花形が頑張っているところにベテラン勢が脇をしっかり固め盛り立てる。芝居の地盤がしっかりしていたのはそのせい。

おいろ@小山三さん、もう感心するばかり。別次元にまでいってる。江戸の闇をなかをしたたかに軽やかに生きる女。年齢をまったく感じさせない元気さ!!

四谷左門錦吾さん、頑固で真っ当な武士。娘をもつ父としての筋道も堅く伊右衛門が思わず殺めてしまうだけの手強さをみせ存在感をみせる。

伊藤喜兵衛団蔵さんが一筋縄ではいかない鋭さ。こういう人間が孫可愛さに人の道から外れるから怖い。

宅悦@市蔵さんは人の良さが前面にでる。わりと一直線に真っ当な雰囲気で演じる。十分芝居をしているけど個人的にはもう少しいやらしさやクセがあってもいいかな~。菊之助さんのお岩様も直線的にいくのでじめっとしたものがあまり出ない感じ。

歌舞伎座『柿葺落七月花形歌舞伎 昼の部』 3等B席前方センター

2013年07月06日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落七月花形歌舞伎 昼の部』 3等B席前方センター

『加賀見山再岩藤』
この演目は縁が無くて今回お初で観ました。先行作品(鏡山)のパロディゆえか物語の部分がゆるゆるで説明台詞が多くどうしても場ごとの趣向というか絵面だけで見せていくのでいわゆる芝居の面白さが少ない。趣向を単純に楽しむ方向で観るべきものなのでしょう。私は物語の面白さを観ようとしてしまって肩すかしをくらった。演出もゆったりと正攻法だし岩藤の宙乗りも舞台上で半分だけ。なので観客巻き込み型的な「わああ!!」という面白さも少な目。こうなると役者の存在感やオーラが物を言うだけに正攻法な芝居が得意な今月の花形は大変だろう。だから三代目猿之助さんや勘三郎さんだったんだなと思った。でも物語の面白さのとこを別にすれば場面にいくつかはしっかり印象に残るし、花形がそれぞれに役に合っていて楽しいには楽しかった。突っ込みどころ満載な部分をもっとゆったり鷹揚に芝居し強調できると楽しくなるかも。

岩藤/又助@松緑さん、岩藤も又助もどちらも似合っているけどカッチリと演じすぎてるんじゃないかな。こういうご趣向主義の芝居の芯をやったことないからそこらへんで演じ方のバランスをまだ図りかねてるのもあるかな。岩藤はもっとたっぷり戯画的スレスレでもいいかな~と。又助は完全に本役。特に鳥井又助内での家族への情味、主君への忠義の一途さを丁寧に見せて十分。ただ、個人的好みとしては前半部分にもっと単純さを押し出してもいいかなと。痩せたせいかいつもの陽オーラが少な目。物語的に陽な役ではないんだけど、そこはもっと奴らしい「うっかり」さを見せておくと切腹シーンが活きるのではとか。松緑さんの陽オーラが好きな私としてはそこを押し出してほしいのだ。今の花形で単純な陽を表現できるのって松緑さんくらいだから。最近、そこを目指してなさげなのがな~。まあ役柄を広げている途中だからね。

お柳の方/二代目尾上@菊之助さんの、どちらも似たような格で拵え。演じ分けが難しいと言うだけあって落としどころがまだ見つかってない感じ。華やかで美しいけどやはり両役ともカッチリしすぎかな。脚本の問題もあるけどお柳は何気に可愛げ。もっとクッキリと悪女にしてもいい。

多賀大領/安田帯刀@染五郎さん、多賀大領は序幕のダメ殿は殿らしい鷹揚さと華やかさで存在感あり。大詰で良識を発揮しちゃって悲劇を巻き起こした張本人のわりに中央でめでたしとはこれいかにというキャラでビックリ!この大詰は拵えのせいもあるけど帯刀に近くなってしまうのでもう少し白塗りして殿ぽくなってほしい。安田帯刀は善側の役としての思慮深さのなかに大きさがありこういう役も合うようになってきましたね。受けの芝居が巧み。この役では吉右衛門さんそっくりな部分多々で時々、鬼平風味(笑) 

望月弾正@愛之助さんのはいかにもな悪役をてらいなく演じて存在感ありました。拵えもとても似合ってた。

求女@松也さん、忸怩たる思いを抱えた若衆がとても似合ってよかった。そういえば愛之助さんと松也くん、声がちょっと似てる?台詞廻しがかな?

おつゆ@梅枝さん、楚々とした風情と想い人のためにという哀れさがあって、こういう役ほんと似合う。巧い役者さんだよね。

梅の方@壱太郎さん、正室としての格と存在感をしっかり見せる。

花園姫@右近さん、ゆるりと古風な華がありました。

志賀市@玉太郎くん、健気でかわいい&大活躍。成長しましたね~。

あらためて感想書いてみたらは役者はみんな良いのよね~。ただ、この演目に合ってたか?というところだろうな。松緑が主役なら蘭平が観たかったし。でも後半いってこなれてきたら締まった出来になる可能性も大ありかも。