Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『杮葺落五月大歌舞伎 第三部』 3等B席センター

2013年05月24日 | 歌舞伎
歌舞伎座『杮葺落五月大歌舞伎 第三部』 3等B席センター

『梶原平三誉石切』
観る前はまたこれか~と思っていたのですが観たらそういう気持ちは吹っ飛んでいきました。これぞ義太夫狂言!といった濃厚さ。花形の一生懸命もいいけどやっぱりベテランの役者が揃った舞台の密度や質感の濃さの面白さはちょっと別格。

梶原平三景時@吉右衛門さんはもう完全に手の内に入っているお役ですがその充実ぶりといったら。このところの吉右衛門さんの丸本物は輪郭をざっくりと描きおおらかに演じているように見せつつも非常に緻密。台詞廻しや声の幅のが広いところに思い入れのある受けの芝居が上手いのだから感嘆する。いつも以上にたっぷりとしてて明るい。表情を大きく作らないのに場ごとのストレートな心持ちが伝わってくる。ちょっとした間や動きで表情をつけていく。そしてそれが全体的にご機嫌なお役として現われとても気持ちよく見られました。

六郎太夫@歌六さん、老け役は芝居が上手いのでかなり説得力をもたせてはいましたが今まではどこか若々しさの前に出てしまっていたように思います。しかし今回は老けが板についてきていました。かといって弱さを感じさせるわけではなく輪郭が太くなって説得力が増していました。また受けの芝居がますます上手くなっているような気がします。

梢@芝雀さん、この役は当たり役です。とはいえ最近いわゆる娘を演じることが減っていますし年齢的にどうかな?と思いましたが想像以上にとても良かった。可愛らしく健気な娘を今までは可憐な風貌でみせていた部分を芸の力で見せてきました。このところ丸本物の濃さをここ数年でしっかり身に着けてきた感じがする。台詞廻しと受けの芝居が濃くなっている。

大庭三郎景親@菊五郎さん、どっしりとした存在感はあるものの二枚目ですし梶原と捌き役が二人並んでいる風情がどうしても出てきてしまいます。悪役ぽくないんですよね。とても理に沿った精神的な大人な大庭でした。とはいえ台詞がわかりやすく大庭の立場というものがよくわかり、それがとても印象的。らしくないなとは思いましたがこれはこれで面白い造詣でした。

俣野五郎景久@又五郎さん、赤っ面らしい押し出しと滑稽味がほどがよく拝見してて楽しく気持ちのよい俣野。声の伸びと身体のキレがいいです。

『京鹿子娘二人道成寺』
とても綺麗な舞台でした!またかなり濃厚な空気感がそこにありワクワクしながら拝見。玉三郎さんと菊之助さんの二人道成寺が今回で三回目四回目(平成16年、18年、21年)。今までは玉三郎さんが引っ張り、そこに菊之助さんが必至についていき玉三郎さんの間に合わせていくという構図のなかで本体と影としてシンクロした踊りとして見せていったように思いますが今回は花子二人をシンクロさせずに従来の個々の個性を見せる方向に少しばかり転じた感じに見えました。菊之助さんの踊りの腕があがり、自分の間で踊っていく場面が多くなっていたせいかもしれません。でも玉三郎さんと菊之助さんが二人で踊る場面での色っぽい空気感は健在。玉三郎さんが舞台の空気を作り上げて支配しているのがよくわかりました。

玉三郎さんはさすがに全体的な動きには少々衰えがみえたもののそこを上半身の動きと表情の付け方でカバーし独自のオーラを醸し出していきます。その妖艶なオーラたるや動きに勝る菊之助さんをどんどん凌駕していきます。これは本当に見事ですね。玉三郎さんは特に人外の表情をみせるときになんともいえない誰にも真似できないような味わいをみせます。肩、胸の表情、そして顔を使い方、そして独特のタメのある動きや回転。それが混然一体となって観ている側の興奮を呼び込みます。

菊之助さんは玉三郎さんとは正反対に清楚な可愛らしい娘たる花子。端正に丁寧に丁寧にふくっとした表情をみせていく踊りです。身体をよく動かし弾むよう。いわゆる動きでは玉三郎さんを完全に上回っていました。よくぞここまで成長したなと思います。特に裾捌きがとても綺麗になっていました。一人で娘道成寺を踊る日も近いでしょう。(すでに手掛けているとのこと、申し訳ありません。)やはり菊之助さんは梅幸さんの流れを汲む資質をお持ちなのだなと痛感した幕でもありました。

※二か所訂正させていただきます。玉三郎さんと菊之助さんの『二人道成寺』は四回目で大阪公演を入れると五回目。歌舞伎座上演は今回含めて四回ともすべて拝見しているのに何を勘違いしたのやら(^^;)。また菊之助さんはすでにお一人で道成寺を踊られているとのこと。私が拝見していないだけでした…。菊之助さんには申し訳ない書き方をしてしまいました。次回上演なさる際にははかならず拝見させていただくことにします。

教えてくださったのは六条亭さまです。ありがとうございました。

明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席2階左袖

2013年05月21日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席2階左袖

『将軍江戸を去る』
真山青果作品のなかでもこの作品はある程度等身大の役者である程度の勢いや熱気で表現したほうがわかりやすくなる作品かなと思ったり。幕末は良くも悪くも若い人間たちの熱き想いが時代を動かしていた時期ですし。そういう意味で花形でこの作品を観られて面白かったです。

慶喜@染五郎さん、慶喜の立場からの悩み、苦しみ、悔しさ、そして孤独さを熱く静かに演じていたと思います。青果作品の独特の抑揚のある難しい台詞術のなかに細やかに感情表現していく。あそこまで言葉のひとつひとつのなかの想いがストレートに伝わってくるのに正直驚きました。独特の朗々とした台詞術は歌舞伎独特のものですがヘタするとなかなか感情が伝わりにくいかなと思っていたのですが伝えようがあるんだなと今回思いました。また染五郎さんの佇まいに品格があり感情に溺れない慶喜像が良かったです。この佇まいがあるからこそラストが活きたかなと。

山岡鉄太郎@勘九郎さん、熱く勢いのある本当に真っ直ぐな鉄太郎。なんとか慶喜を説得しなければという焦りにも似た勢いが身体から出てくるような雰囲気。その必死さに慶喜が耳を傾けざるおえなくなっていく、そこが良かった。また台詞の部分で争いの不毛さ悲惨さを初日に比べ粒立ててきて鉄太郎の行動原理に説得力がありました。

伊勢守@愛之助さん、落ち着いた佇まいとのなかに伊勢守としての芯をしっかり感じさせてくれました。

『藤娘』
藤娘@七之助さん、可憐で初々しい藤娘です。透明感があり硬質。娘らしさというより精の部分が大きい感じ。自身が恋する娘ではなく恋する娘を真似して踊って踊ってるというか。そこに可愛らしさがある藤娘。

舞踊としては丁寧にきちんと踊っていくという感じからはまだ抜けてきてないかな。ふんわりとしたオーラは少し出てきてたように思います。

『鯉つかみ』
ケレン優先にエンターテイメントに徹した内容。とりあえず観客との距離を身近にしようという感じ。小屋はもう少し小さいほうがよさそうな演目ではありますが明治座の客層的に今回はうまく伝わったかなと。

前半の流れは少々平坦でもう少しメリハリがあるともっと全体的に楽しめたかな。後半の立ち廻りは身体を目いっぱい張ってテーマパークのように観客を巻き込んで楽しく見せたと思います。

明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 1等席前方センター

2013年05月19日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 1等席前方センター

『実盛物語』
実盛@勘九郎さん、ますます台詞廻しがお父様そっくりで大切に演じてるんだろうなという気迫があってやっぱりとても良かったです。初日より余裕が出てきたのか観客にわかりやすくという思いか表情がかなり豊かになっていました。機嫌のよい役というよりは真面目で必死という部分が先に立つけど勘九郎くんらしい。頑張って演じてるという部分が前に出過ぎな部分もあるけど今はそれでいいと思う。演じていくうちにいわゆるご機嫌な役での明るさや愛嬌もも出てくるでしょう。また決まり決まりがしっかりしてて綺麗でした。そうそうこれが勘九郎くんの動きだなと。一時期それが表に出ないこともあったように思うけどそこをしっかり抜けて芸の部分、一段上った。

九郎助@錦吾さんもとても良かったです。こういう役が似合うようになっちゃったんだなという寂しさはありつつ最近の錦吾さんの老父役は個人的にツボすぎて大好き。ちょっと頑固で真面目で底の部分に愛情をたっぷりもっている、そんな造詣がとっても素敵。

瀬尾十郎@亀蔵さん、祖父の顔を見せる情味の部分がとっても良くなっていました。孫への情愛がしっかり伝わってくる。亀蔵さんはもっと色んな座組みに入って役の幅を広げてほしい。丸本物でもっと色んな役を演じられるんじゃないかなと思う。

小万@七之助さん、男勝りでと言われる負けん気の強さオーラがあって血が通ってない死体に魂だけある設定も納得できる小万だった。

『実盛物語』は子役もほんと可愛くて健気で良かったし、脇が取りこぼしなくこれぞ適材適所でほんとによく固めていたと思う。やはり芝居は揃ってこそ。

『与話情浮名横櫛』
染五郎さんの与三郎と七之助さんのお富はどっちも芯のとこが初心。育ちが良すぎて一途な与三郎と世慣れてスレれてはいるものの惚れたら周囲がみえなくなるお富。3年経って境遇が変わってもそこが変わらないので再会した後、どちらもお互いへの甘えが入る。あの状況ですっかり天然ラブラブモード。仁左衛門さんと玉三郎さんコンビの与三郎とお富を観ているのでもっと濃厚ラブラブになって~と思うものの花形らしいカップルでその可愛らしい色気を楽しみ今月の『与話情浮名横櫛』。

与三郎@染五郎さん、生来のお坊ちゃん気質や品のよさと悪に転落してからも甘さや弱さを隠しきれない与三郎を体現。悪党として詰めの甘い蝙蝠安のような男と組むのがよくわかる与三。嫉妬にかられた拗ねや甘えが落ちぶれてなおいまだにお富が大好きだというところに直結しているのが可愛い。ワルを気取っていても多少の世慣れがあってもそこに生来のぼんぼんの真面目さも見え隠れするのがいいですね。細かいところに神経を使いつつその積み重ねで演じているのだけどそれを自然に見せていく。ちょっとした仕草や手紙の扱いなどでいいとこの真面目なぼんぼんだったのが伝わってくる。それと羽織の扱いがごくごく自然になった。すっと肩から綺麗の落とせるのは仁左衛門さんくらいだなと思っていたけど今回は染五郎さんもいかにもな着崩しをしなくても羽織を落せていました。

染五郎さん、与三郎はすっかり持ち役になりましたね。台詞廻しも声の調子といい抑揚といいかなり気持ちのよいところまで持ってきているし、あとは回数重ねてもっとたっぷりしたふくらみを持たせられたら。それにしても姿の美しさと太ももの美しさはこの役にピッタリです。。

お富@七之助さん、どこか凛としたすっきりとした佇まいがまず美しい。若いのでイキな女というよりイキな女であろうとする気概があるお富。かなり若くして親分のご新造になった風で世慣れてはいるもののいわゆる恋をしたことがなかったのかなと今回は思わせました。与三郎に一目惚れしてからはその恋情に一途。与三郎に対してだけいわゆるしたたかな強さが出ず可愛らしい女、純な部分が表に出てしまう。「赤間別荘」では「もしも」の状況がみえず一時でも離したくない、それだけで終始かき口説く。演出、お富が逃げる場面は花道じゃないほうがよかったかも。咄嗟に海へ飛び込んでしまうというように見せられたらもっと説得力があったろうに。「源氏店」では藤八へのあしらいなど余裕が出てきたなと。とはいえ与三郎が入ってきてそれとわかるあたりからの受けの芝居はまだちょっと薄いかな。芝居があるところでは与三郎への想いや甘えはみえるんだけど受けてるとこではもう少し与三郎に対して身の置き所がない風情が欲しい。七くんお富は能動的なほど活き活きする。受け身の部分がまだ足りないというのもあるのかもしれないけど芯の部分で流れされて生きるタイプではないお富の性格が出て面白いと思いました。

「源氏店」のお富は玉様だけではなく最近では福助さんや芝雀さんが受けの芝居での与三郎に対する申し訳なさと囲われの身であることの負い目を体全体でみせてくれていたのでそこまで求めてしまう。

蝙蝠安@亀鶴さん、初日に比べだいぶ突っ込んだ芝居をしており、また小悪党らしい卑屈さと図々しさを強調した人物造詣をしてきており与三郎を引っ張ってくるキャラクターとして納得させてきました。ただやはりどこか真面目だし性根の部分で悪ぽくは見えないかな。芝居の巧い人だからきちんと作り込んではいるけどハマりきってない感じ。亀鶴さんは同じような関係性の役でいえば「荒川の佐吉」の辰五郎ほうがしっくりくる。

蝙蝠安は2003年歌舞伎座で御馳走で出演した勘九郎時代の勘三郎さんのが印象に強すぎるのも困りもの。小悪党ぶりと憎めない愛嬌が絶妙なバランスでついそこを求めてしまう。あと好きなのは又五郎さんの蝙蝠安。彌十郎さんも予想外に良かったな。

和泉屋多左衛門@愛之助さん、初日はちょっと押し出しが弱く物足りなかったのですが今回は大店の番頭風情がきちんと出ており道理をわきまえた好人物さもあってとても良かったです。

鳶頭金五郎@勘九郎さんがいかにも江戸っ子気質の金五郎を自然に。与三郎のことを心配しているのだという部分がしっかり表現されているのが上手い。


他に見染の場の小山三さんが時代の空気感を持ち込んでくださる。唸るしかない。それにしてもいつも若々しい。その他にも山左衛門さん番頭がいい塩梅でベテラン組がやはり巧いなあと。錦弥さんが酔っ払いヤクザを楽しそうに演じてた(笑)

歌舞伎座『杮葺落五月大歌舞伎 第二部』 3等B席上手寄り

2013年05月04日 | 歌舞伎
歌舞伎座『杮葺落五月大歌舞伎 第二部』 3等B席上手寄り

『伽羅先代萩』
竹の間と飯炊きがないかなりの短縮Ver.です。藤十郎さんの「飯炊きの場」は義太夫の糸に絶妙に乗りつつも心持ち本位の政岡で絶品ですので拝見したかった。残念です。

「御殿」
政岡@藤十郎さん、涙を流して熱演でした。藤十郎さんの政岡は以前に比べ体は動けなくなっていますが台詞や心持の在り様が素晴らしかったです。とことん乳母でありそして母親である政岡。

八汐@梅玉さん、今までよりパワーアップ。以前はこういう悪役を演じていても梅玉さんの子供好きな甘さがどこかしらに漂っていましたが今回はそれがありませんでした。品のよさのなかにサディスティックなものを見せる。低体温系な冷酷さでかなり怖い八汐でした。この造詣、個人的にかなり好きです。

沖の井@時蔵さん、得意役ということもあり活躍の場のある「竹の間」が無くてもしっかりと存在感がありました。

「床下」
荒獅子男之助@吉右衛門さん、大きさと厚みのある男之助です。

仁木弾正@幸四郎さん、姿がまずは仁木らしい凄みがあり妖気も漂い「いかにもらしい」仁木弾正。


『廓文章』「吉田屋」
この演目ほんとに苦手なんです…あのまったり感が眠気を誘う。でも今回はまったり他愛もなさが歌舞伎座開場のおめでたい気分とマッチして良かったです。仁左衛門さんと玉三郎さんコンビはの華やかさにうっとり。何も考えずに楽しめました。それでも途中ちょっとウトッとしてしまったことは内緒(^^;)

伊左衛門@仁左衛門さんは姿の美しさと品の良い愛嬌のあるぼんぼん風情に年を得たことで獲得した可愛らしさが加わり、ふんわりとしたファンタジックな空気感に包まれてなんともいえない味わい。今までの仁左衛門さんのなかでも一番良かったです。

夕霧@玉三郎さん、年齢不詳の圧倒的な美貌でこれまたファンタジィーな味わいで、仁左衛門さんと玉三郎さんコンビだからこそのおとぎ話的な「吉田屋」がそこにありました。

おきさ@秀太郎さん、言うことなしですね。じゃらっとした粘り気のある上方の空気を体現されていました。風貌、身のこなし、声質、台詞廻しがこういう上方狂言の世話物で一番活きる役者さんです。

喜左衛門@彌十郎さん、上方の雰囲気が薄いものの風格と押し出しがあり良かったです。

太鼓持@千之助さん、丁寧にきちんと。

明治座『五月花形歌舞伎 昼・夜の部』 3等A席センター

2013年05月03日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 昼/夜の部』 3等A席センター

5/3(金・祝)初日観劇。

明治座は客層考えて演目が軽めなので見やすいですね。またお役が役者それぞれに合っているのもあって初日感はあまり感じさせず充実しており、あとは空気感を密にしていくだけって感じでした。

『実盛物語』
とてもまとまりのいい芝居で爽やかな一幕となりました。

実盛@勘九郎くんがとても良かった。台詞がしっかりしているのと機嫌のよい役を気持ちよく真っ直ぐにクッキリと演じているのとで見応えがありました。いままで押せ押せで一本調子だった勘九郎くんですが緩急の緩がきくようになってきたのが大きいですね。そして緩の部分が勘三郎さんにとても似ててちょっと泣きそうになってしまいました。時々、声を張りすぎてる部分はありましたがこなれてくればそこも落ち着くでしょう。

九郎助@錦吾さん、小よし@吉弥さんの老夫婦が芝居をしっかり動かしつつ締めて固めて実盛@勘九郎くんを盛り立てていました。夫婦の心情の在り様を丁寧に積み重ね説得力を持たせていきます。九郎助@錦吾さんの芯のある朴訥さと小よし@吉弥さんの細やかな心遣いが印象に残ります。

葵御前@高麗蔵さん、凛とした佇まいに格の高さをみせてきます。高麗蔵さんはこのところ色んなお役で存在感が出てきたように思います。

瀬尾十郎兼氏@亀蔵さんのベリベリした押し出しのよさも印象に残ります。役に対する表現の幅が広がってきたなと。

子役もとても可愛く上手でした。

『与話情浮名横櫛』
風情で見せる芝居ですが、そこを染五郎さんと七之助さんの二人がよくわかっていて緻密に姿の美しさと気持ちのよい台詞と間を作りつつも大きな部分で鷹揚にみせてきてる。なのでほんとに気持ちよく見られる。見染めでの一目惚れっぷりが楽しい。

与三郎@染五郎さん、すっかり持ち役になりましたね。風情だけでみてるお役をてらいなく演じてきたかなと。甘さのあるぼんぼんのへたれ具合と落ちぶれても崩れきらない品と色気。純な心根でお富を好いているからこその拗ねも可愛い。自信なさげなふりしてお富は俺のもんという自信がどこかしらにあり、その一途な純粋さに男の色気を醸し出す。もう少し翳りの部分がでるといいな。

お富@七之助さん、任侠のご新造さんらしい気の強さとしたたかさ、そのうえで純なところがあるお富。その純な部分を与三郎に刺激されたんだろうなという雰囲気。なので純粋さのある染五郎さん与三郎との相性がとてもいいと思う。すっきりとした色気の玉三郎さんの部分と少し粘りのある成駒屋の台詞廻しの両方がある独特の味わい。七之助さん今後、お富は持ち役にできると思う。

蝙蝠安@亀鶴さん、芸達者なだけあって必要なところは外してないけどまだワルとしてのふくらみが少し足りないかな。与三郎を引っ張っていく力が弱い。逆転されてからのほうがハマる。染五郎さんと亀鶴さんの間合いはまだこれからというところ。こなれてきてからが期待。

和泉屋多左衛門@愛之助さんは大店のかなりしっかりした番頭という感じです。理をわきまえた人物像をきちんと体現。

金五郎@勘九郎さん、いかにも江戸の鳶らしい風情。ぼんぼん風情の与三郎@染五郎さんとの掛け合いがいい対称になり、また間もよくて楽しい場面にしておりました。


『将軍江戸を去る』
真山青果作品のなかでは『頼朝の死』についで苦手演目だったりしたんですが今回はかなり面白く観られました。真山青果作品は台詞術が難しいこともありなかなか等身大の年齢で見せるのが難しいと思うのですが花形に実が付いてきたせいかとても良いバランスでの芝居だったと思う。

慶喜@染五郎さん、若い年齢で演じたかったというのがよくわかる若さ溢れる熱い慶喜でした。あの若さで大きな決断を強いられる等身大の苦悩を熱く演じてくる。また決断した後の真っ直ぐな揺るぎなさのなかの寂しさに実感がある。将軍としての大きさもありかなり見応えがありました。台詞廻しは吉右衛門さん譲りで一言一言に感情がしっかり乗りつつよく聴かせてきます。また山岡鉄太郎@勘九郎さんとの間合いが細かい部分まで合ってて初日からほんとピッタリでした。

山岡鉄太郎@勘九郎さん、真っ直ぐな熱さのある鉄太郎。単体でみると押しすぎな感じもある気もしたのですが染五郎さんの慶喜の揺れと熱さへの呼応としてのバランスがよく慶喜と鉄太郎のやりとりがとても密。台詞もしっかりしており内容を把握している。以前納涼で演じた『御浜御殿』、染五郎さん綱豊と勘九郎さんの助右衛門コンビをまた観たいです。

伊勢守@愛之助さんは台詞廻しがちょっと時代がかってしまうけど慶喜と鉄太郎の間に入る伊勢守の立場を過不足なくしっかりと受けの芝居。


天野八郎@男女蔵さんが勢いがありこの芝居にしっくり嵌ってていい感じでした。

『藤娘』
藤娘@七之助さん、博多人形のようでした。可愛いというより綺麗で華やかでどこか寂しげ。踊りとしてはまだ振りを丁寧にこなしてる段階。いわゆる舞踊としての味わいは出てない。娘の方向にいくのか精の方向にいくのか恋か色気かそこらへんまだ未分化な感じ。踊り込んでいった先が観たい。

『鯉つかみ』
他愛もない話を他愛なく、イベント的芝居として楽しむ芝居。かなりわかりやすくケレンを使う。最後の立ち廻りはいわゆる歌舞伎らしい立ち廻りではなく客にとにかく水を掛けまくり、皆でわいわいしましょうという感じ。3列目あたりまでの観客は水に濡れてもいい恰好で。


志賀之助実は鯉の精@愛之助さん、サービス精神旺盛に動き回ります。役としてはさしたることもない役を勢いで見せていきます。

小桜姫@壱太郎くんはおっとりと恋に恋するおぼこな姫。

呉竹@吉弥さん、凛としたなかにどこか茶目っ気を秘める。こういうお役の活き活きとした吉弥さんの美しいこと。

篠村次郎@薪車さん、骨太さがありいい味わい。薪車さんはいい感じで油がのってきた気がする。毛抜の弾正とかやってみてもいいかも。

『鯉つかみ』は染五郎さんも金丸座で復活上演されていますが今回の『鯉つかみ』は筋は同じものの金丸座verとは思ってた以上に違いました。鯉の精の妖しの不気味さとか宙乗りの使い方とか立ち廻りとか幻想さとか早変わりとかそこら辺の作りが違う。同じ戯曲を復活するのでも役者の持ち味でだいぶ変わるものなのだなあと思いました。