Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日生劇場『十二月歌舞伎公演 夜の部演目』 1等1階前方センター

2011年12月23日 | 歌舞伎
日生劇場『十二月歌舞伎公演 夜の部演目』 1等1階前方センター

変則日程の日の観劇です。昼に夜の部演目のみ上演。

『錣引』
初日に拝見した時に面白みのない演目で「なぜこの演目を染五郎さんと松緑さんでやらせるの?…」とちょっと憤慨。今回、再見してもやはり演目としてはそれほど面白みがあるとは思えませんでした、とはいえやはりこなれてない初日から比べると舞台全体としてはだいぶ締まってて、趣向の部分、部分ではわりと楽しめました。それでもこの二人なら違う演目があったでしょうと思います。

まずは悪七兵衛景清@染五郎さんと、三保谷四郎@松緑さんの役者ぶりが大きくなって、お互いの立場でわざわざ正反対なことを言って相手を探りあう、そのばかばかしいようなやりとりが随分と面白くなっていました。そして何より立ち回りが、あらこんなにカッコイイ立ち回りだったっけ?と思ったほど見ごたえが出ていました。二人が息をピッタリ合わせてきてて様式美たっぷりで楽しかったです。

伏屋@笑也さん、男勝りの姫。すっきりと美しいですね~。渋い薄紫の衣装もお似合い。でもどうせならもう少し華やかな衣装でも良かったかも男むさいなかでの紅一点なんだし。

『口上』
他の日に拝見した友人たちの話を総合するに、染五郎さんが七代目幸四郎の人となり(数種パターンあり)を解説し、また昼の部の演目説明&宣伝、松緑さんが日替わりで楽しいくすぐりを入れた口上、海老蔵さんは定番で真面目に。そして最後、染五郎さんが松緑さん口上を受けて落して客を和ませるというのが今回の定番口上ぽいですね。三人ともそれぞれに存在感や華がありますね。

日替わりの松緑さんの23日の口上:小さい頃、祖父、父と出演した舞踊で舞台上で踊りを忘れ頭が真っ白になってしまった事があり、舞台は無事済んだが楽屋でいつもは綺麗な父に鬼のような形相で怒られ、子供心にそんなに怒らなくてもと思った記憶がある。しかし、いざ自分が息子と共演すると父を同じように怒ってしまっている。そのせいで大河(松緑くん息子)から同じ舞台に立ちたくないと言われる始末。1月には大河の念願かなって別々の舞台です(笑)

松緑さんのその口上を聞きながら染五郎さんは横で肩震わせ大笑い。自分にも身に覚えありとみた(笑)。松緑くさんはお父様の思い出話のほかに「今日は染五郎さんと私の学校の先輩、中車を襲名される香川さんが本日いらしてる」と暴露(笑)。染ちゃん、それを受けて35分の幕間に「香川さんを探せ」をしても良しと煽る。人気ものの香川さんゆえ客席は盛大にざわざわ(笑)


『勧進帳』
個人的には不満足な『勧進帳』でした。私はこの演目は「義経」を想う人々の物語と解釈しているのでそこがないと満足しません。

義経@染五郎さん、そしてそういう部分で今回、染五郎さんの義経は想われるだけの人物像としてしっかりそこに立っていたと思います。ほんとに良かったと思います。頭領たる品格と度量の大きさのある優しさがあった。また花道での極まる姿が美しい。座ってる姿も美しい。また流転の貴公子としての色気もありました。個人的に初日同様にやはり芝翫さん、勘三郎さんのお二人のイメージがそこにふんわりとだぶりました。演じ方が芝翫さん→、勘三郎さん系統の義経なのだと思います。

富樫@松緑さん、前回、どこで関所を通すことを許したのか不明瞭でしたが今回はそこをしっかり演じてきました。松緑さんの富樫は義経一行を弁慶の主君への想いに心打たれてではなく、黙って打たれる強力のその姿に義経だと確信しその瞬間に義経のために見逃すというやり方にしていた。打たれている義経を辛そうに見、目を背ける。台詞廻しが初日よりちょっともったりしたのが残念かな。落ち着いた富樫を演じようと意識しすぎたか。芯の強い厳しい富樫という造詣は良いと思うが、この造詣にする場合、もう少し全体的に緩急が欲しいのと台詞に鋭さがあるほうが良いかも。弁慶@海老蔵さんの間に合わせてあげていた部分もありましたので、そこら辺で自分のペースを掴みきれてない部分が少々あったようにも思います。

弁慶@海老蔵さん、わが道を行っていた。行き過ぎていて私にはどこに向かっているのかわからなかった…。台詞廻しの拙さ、音を時々外す舞、過剰な演技は置いておきます。これでいいと思う方も多いようですしあとはご本人次第でしょう。私が海老蔵さんの弁慶に不満なのは「義経」をしっかり意識してないという一点に尽きます。私には海老蔵さん弁慶からは義経大事がどうにも伝わってきません。最後も客席を終始見てるあの六法はなんですか?あそこは義経を守るために必死で追いかけていく姿をみせるための六法です。義経一行を追いかけるそぶりすら見せない、客にどうこれ?というように踏む六法はさすがに初めてみました。

弁慶は義経を心から慕い義経を救いたいその一心で行動している、その純粋な心根からの強さと愛嬌がある人物だと私は思っています。そしてそれがある父様の團十郎さんの弁慶の義経大好きっ子な弁慶にいつか戻ってきてくれることを私は祈ります。

日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼の部』 1等1階前方上手寄り

2011年12月18日 | 歌舞伎
日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼の部』 1等1階前方上手寄り

『碁盤忠信』
さすがに初日に比べ全体的に随分と締まってた。他愛もない内容を様々な趣向でみせていく流れがスムーズになって見やすくなっていた。とはいえやはり2幕目1場は少々冗長。この場はもっと刈り込んでぽんぽんリズムよく見せて言ったほうが良いと思う。照明ももっと明るくていいと思われ。小車の出のところだけ一瞬暗くすれば、あとは流れで霊だとわかるしね。しかし、小車の出ですっぽんが使えなかったのが痛いね。日生はすっぽん、作れるはずなんですけどねえ。あとこの場での碁盤、碁石はもっと大きいほうが視覚的に派手にしたほうが絶対楽しいと思う。

復活新作ゆえのアラはあるものの楽しい気分にさせてくれる芝居であることは確か。歌舞伎ならではの趣向のオンパレード。音楽も義太夫、大薩摩、常磐津を聞かせるし衣装も華やかでそれぞれのキャラを引き立てる。忠信の衣装は3枚とも柄・色合いともによくて素敵でした。

忠信@染五郎さん、まだ余裕はなさそうで肩に力が入りすぎてる感もありますがだいぶこなれてきていました。そして隈が顔にノッてきていましたねえ、非常に綺麗な顔の拵え。体の線の美しさ形の美しさはいつも思うけどほんとに見事ですし舞踊にはキレがある。荒事特有の動きや台詞はまだ馴染みきれてないけど初日に比べ成長の跡をみせたと思う。今のところ声も保ててるし伸びは少々足りないものの言葉はストレートに立っている。荒事をほとんど演じてこなかったことを考えるとほんとよく頑張っていますねえ。立ち回りも皆とのコンビネーションがよくなったせいもあるのか華やかさが増した。造詣としては真面目さのほうが勝ってます。2幕目以降はもっとおおらかな茶目っ気を出してもいいと思います。

小柴入道浄雲@錦吾さん、今回は役にしっかり入れていたと思います。ちょっととぼけた味わい。悪者ぽくならないのが錦吾さんらしさ。もう少し輪郭太くてもいいかなとは思いますがほどのよい抜け感があって良かったです。

覚範@海老蔵さん、こういう拵えをするとお父様の團十郎さんにソックリですね。改めて見ると動きも似てる。色んな意味で存在感があります。相変わらず台詞がこもって何を言っているのか伝わってこないのが残念です。声は届けど言葉届かず。もう少し工夫していただきたいです。しかし忠信に相対する覚範にあの拵えは解せないし他に覚範らしい出のありようがあると思う…。基本的にこの歌舞伎の世界では忠信が正義の味方、覚範が悪役。それなのに悪役が正義の味方を押し戻すとはこれいかに?しかも押し戻しは普通は人でないものを押し戻すのが普通です。これは海老蔵さんのせいではありませんが…脚本か演出のミスだと思います。

呉葉@笑三郎さん、言い立てを楽しく聞かせる、やっぱり上手いですねえ。

静御前@春猿さん、綺麗なだけでなく色気のある静御前でした。

番場の忠太@猿弥さん、こういう役がすっかり持ち役に。丸い体型と愛嬌のよさでこの三枚目を魅力的に演じます。この手の役での独特の台詞廻しが以前に比べなじんできましたね。


『茨木』
こちらも初日に比べだいぶ密になってきていました。

伯母真柴実は茨木童子@松緑さん、体の使い方がやはり良くなっています。個人的に門外での踊りが一番良いと思います。子への愛情がきちんと見える。また初日には全然なかった鬼の見え隠れが出るようになってきていました。とはいえ宅内はまだまだ丁寧にこなしてます段階かな。でもこの丁寧にがなかなかできないもの。気を抜かずに集中力を切らしません。今の段階でここまで踊りこなすのは大したものです。妖気の部分はやはりまだまだ出し切れていませが大きさが出てきてました。非常に良い出来でしたが残念ながらこの日はどうも声の調子が悪そうでした。そのせいか台詞の抑揚がちょっと安定してなかった。

渡辺源次綱@海老蔵さん、綱は柄にあって全体の佇まいが良いです。また初日は能面のようだった表情に良い表情が出ていました。特に叔母の舞踊を見るとこの表情が柔らかくなっていてそこが個人的に良い変化だなと思いました。手柄語りは語りになりきれてないですね。まだ振りに意味付けしきれてない。綱の見せ場なのに単にバサバサ動いてるだけで面白くなかったです。踊りこみが足りないんでしょう。キメの部分は力強いんですが…。そういう意味で全体的に形のよいところと悪いとこが混在していました。音をもっとしっかり捕まえてほしい。後半は迫力があるのはいいのですが少し押さえたほうが良いと思う。あれでは綱があのまま茨木童子に殺され化け物化した雰囲気…。台詞は初日に比べたらかなり進歩。時に前半は頑張ってた。しかし後半につれて不明瞭に…力みすぎるとああなるのかしら?

太刀持音若@梅丸くん、控えているときの行儀のよさが目を惹きます。そして舞踊がとてもよいです。すっと手足が伸びとても丁寧。梅玉さんのご指導が目に浮かぶようです。

KAAT神奈川芸術劇場『ロッキー・ホラー・ショー』 S席真ん中下手寄り

2011年12月17日 | 演劇
KAAT神奈川芸術劇場『ロッキー・ホラー・ショー』 S席真ん中下手寄り

映画『ロッキー・ホラー・ショー』は未見です。事前知識ほぼ無い状態で拝見。

ベタベタなB級SFホラーでした。なかなか楽しかったです。まだ観客含めて芝居がノリきれてないかなと思う部分はあれどたぶんこれからもっと良くなりそうな感じでした。

いのうえさんの演出は個人的に久しぶりに良かったです。元が映画だからでしょうか、今まで使いすぎと思っていた映像の使い方も今回はうるさいと感じませんでした。

全体としては曲に日本語が乗りにくいのか歌詞が聴き取りにくい場面多々。皆さん、お上手なんですが言葉としてはうまく聴きとれない。今から観る人は映画で予習しておいたほうが楽しめるかも。出来れば、劇場で歌詞カードを渡してくれたらな~ってちょっと思いました。

観客参加型の芝居ですが参加する場面はそれほど多くないです。なので参加したもの勝ちというか参加して楽しんでしまったほうが良いです。新聞紙、ペンライトは持参しましょう。そして踊りも踊っちゃおう!わりと簡単な振りですし、間違っても無問題。楽しめば良しだと思います。

フランクフルター@古田新太さん、やっぱり古ちんは古ちんなんだけどキモ可愛くてとても良かったわ。中央ブロック最前列は古ちんファンにはたまらないと思う。上演後半になって観客がノリノリになった頃合に最前列で観てみたいな~。古ちんにハグされたい。そういえば、古ちんはかなり痩せてたけどさすがにお姫様だっこは難しかったらしい(笑)

エディ@ROLLYさんはちょっともったいない使い方かなと思ったり。個人的にROLLYさんの歌声は聞き取り易かったです。

リフラフ@岡村健一さん、配役をきちんと把握してなかったので後から岡村健一さんと知りました。不気味さがあって物語のスパイスとして効いてました。動きもヨタヨタした風情と軽快さを切り替えて使っていて身体能力あるな~って思いました。

蛇足:KAATはやっぱり音響が悪いような気がした…。

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『ロッキー・ホラー・ショー』
脚本・作詞・作曲:リチャード・オブライエン
演出:いのうえひでのり
出演者:
古田新太 
岡本健一 
笹本玲奈 
中村倫也
グリフィス・ちか 
右近健一 
辛源 
ニーコ
飯野めぐみ
生尾佳子 
JuNGLE 
皆本麻帆
ROLLY 
藤木孝

国立大劇場『十二月歌舞伎公演『元禄忠臣蔵』』特別席前方花道寄り

2011年12月10日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演『元禄忠臣蔵』』特別席前方花道寄り

『元禄忠臣蔵』の抜粋で「江戸城の刃傷」「御浜御殿綱豊卿」「大石最後の一日」の3場面でよく上演され練られている場を繋げた構成です。国立はどうも中途半端な半通しがこのところ多いですね。国立劇場開場40周年記念の時の3ケ月全幕上演の企画はとても良かったのに…。国立には出来るだけ通し上演をしていただきたのだけど。とはいえ「御浜御殿綱豊卿」「大石最後の一日」はよく上演され練られている場なので見ごたえはありました。しかし、真山青果の台詞はくどいよね…。

「江戸城の刃傷」
事の発端の場です。刃傷沙汰はあえて見せず直後の場から詮議~沙汰までを描きます

浅野内匠頭@梅玉さん、松の廊下で刃傷に及んだ浅野内匠頭の無念さと達観を端正に品よく描き出します。手の内にはいったお役で存在に説得力があります。

多門伝八郎@歌六さん、理をわきまえた好人物というだけでなく気骨さのある人物造詣。場が削られていたものの伝八郎@歌六さんがいることで物語が立ち上った感じがしました。

田村右京大夫@東蔵さん、この方が出ると場が締まります。

片岡源五右衛門@歌昇くん、少々幼い感じもしましたが主を思う気持ちがしっかり出ていて良かったです。

「御浜御殿綱豊卿」
『元禄忠臣蔵』のなかでは女形が出てくるので唯一華やかな雰囲気があり人気の場ですね。

綱豊卿@吉右衛門さん、久しぶりに演じるお役だそうです。大石役者ですからどうなるんだろう?と思いましたら、案の定、今までのイメージとは少々違う綱豊卿でした。所詮天上人の純粋さや孤独ゆえのどこか鬱積した心の揺れがない。真っ当すぎる懐の大きい人物でした。すでに将軍になるのが決まっちゃってます?みたいな。どう生きていくかすでに腹を括っているし、浅野家への処遇も完全に決めちゃっている感じ。なので助右衛門をただあしらってるだけな感じがした。人物の大きさがあり台詞の抑揚が上手いので、芝居として見ごたえはあるのですが物語のうねりが若干薄れたかなと。

新歌舞伎ですので台詞の入りを心配をしましたが時々間が空くもののほぼしっかり入っていたかと思います。ただ、ゆったりと時々間が空く台詞廻しなので畳みかけるような台詞のところが少々効いていない感じ。助右衛門@又五郎さんとの台詞の応酬が思ったほど盛り上がらなかったのはそのせいもあるかな。

富森助右衛門@又五郎さん、愚直さのある助右衛門を造詣していました。丁寧に台詞をきちんと聞かせてきます。どちらかというと攻めより受けの芝居が際立っていたかな。助右衛門の焦りもしっかり見せてきて良かったです。ただ、攻めの部分が少し足りないかな~。大石や上のものに対する屈折した気持ちがあまり見えなかったです。それと全体的に芝居にメリハリをもう少し効かせてほしかったかな。足の怪我はだいぶ良いのでしょうか。花道の出こそ少し引きずっていましたけど、他は気にならなかったです。

お喜世@芝雀さん、非常に愛らしいお喜世でした。この役をこのところ続けて演じているせいでしょうか、お喜世という女性の有りように存在感がありました。特に兄、助右衛門に相対する場での、お喜世の矜持が鮮明で説得がありました。

新井勘解由@梅玉さん、丁寧にこなされていましたけど、私のほうで梅玉さんは綱豊卿で観たかった(5年前の綱豊卿がとても良かったので)という思いのほうが強く、ちょっとしっくりこなかったかな。

「大石最後の一日」
個人的にはこの場が一番、芝居として締まっていて面白かったです。

大石内蔵助@吉右衛門さん、やはり綱豊卿よりこちらの役のほうがしっくりきます。佇まいといい芝居のメリハリといい台詞の上手さといい、ハマっているなあという芝居。大きな決断を乗り越えてきた大きさと、武士としての厳しさがある人物造詣。そのなかで一介の人としての情味をみせる。

おみの@芝雀さん、非常に良かったです。前回までは純粋で可愛らしいおみのでしたが、今回はそこに女としての立場、武家の女としての矜持といったものが加味され人物像に深みが出て説得力が増していました。「情」とはどういうものなのか、切々と訴えるシーンで大石を説得するだけの力がありました。それゆえに、おみのに泣けました。理不尽な立場に立たされた哀切さがあった。

磯貝十郎左衛門@錦之助さん、当たり役のひとつです。端正で品のよい磯貝。ほどよく気持ちの優しさを出してきます。

堀内伝右衛門@歌六さん、このお役は二度目でしたでしょうか、今回はとても良かったです。前回より肩の力が抜けた感じ。乙女田親娘を思う気持ちの優しさが今回は立っていました。

細川内記@鷹之資くん、きちんと役を捉えての芝居でした。声がよく通ります。

甚五郎@種之助くんが短い出番ながらいい芝居をしてました。

日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼/夜の部』 3等3階上手/下手

2011年12月07日 | 歌舞伎
日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼/夜の部』 3等3階上手寄り/下手寄り

『十二月"花形"歌舞伎』でよかったのでは…と思いました。印象としては染五郎と松緑に普段なかなかやらない役に挑戦させ、海老蔵は復帰を印象つけるというコンセプトなんだろうねな公演でした。

さて、昼夜通して観た印象では華やかな演目は『碁盤忠信』のみ。他は地味でごつごつしい演目です(笑)。なんせ立女形が松緑さんだし(笑)。初日は色んな意味で初日でした。いや、むしろあそこまでよくやれたって感じだったかも。特に新作『碁盤忠信』。

【昼の部】 

『碁盤忠信』
まともな資料がまったく無いなかでよく作り上げてきたなと思う。完全に「荒事」に仕立ててきていました。演出、芝居ともに練りきれてない部分は多々だし、舞台機構面でも盆とすっぽんがあればな~という感じではありましたけど感覚的に楽しい演目になっていました。

構成は二幕三場仕立て。なぜか序破急ではなく急序急な舞台です。序幕でお約束の物語説明の芝居があり、そこから一気に派手な立廻り。クライマックを最初に持ってきた感で、そこでもうそれやるんですか?ってビックリ。初っ端から盛り上がりましたけどこれでどう繋げるのかな?と思いましたよ。二幕一場はトーンを一段落として細かい見せ場を作りこんでいました。この場がまだ演出も芝居も練りきれてない部分が。場面場面で面白いとこはあるのですが繋がりが甘い。個人的好みでいえばもっと大胆に単純に演出してもいいな。碁石とかもっと大きくてもいいし。ばかばかしさを追求したほうがよいような。最後の場はこれでもか~な派手派手で楽しい。視覚的、感覚的なところで楽しませようという趣向。観客は厄払いをしてもらえます。

全体の雰囲気として染五郎さんらしいウイットというか洒落が随所にあって楽しいお芝居になっています。あと舞台面の華やかさをよくみせてきたなと。またかなりの混成メンバーだと思いますがアンサンブルが思った以上によかったです。後半にむけもっと締まった芝居になると思う。

忠信@染五郎さん、華やかさもキレもあるしなにより形のよさがある。また稚気という感じではないがほどよく抜け感もありキャラクターとしてはしっかり立っていたと思う。観客を楽しませようという気概も感じられましたし、身体を思い切り大きく動かし、観ていて気持ちのよさを感じさせます。ただ荒事をあまり手掛けてないこともあるのかまだまだ荒事が身体に沁みてない。線が細くてもちょっとした間というか溜めの動き&バネのあるような動きが欲しいな。また、呂の声はしっかり出て安定感が出てきましたししっかり響きますが甲の声が出きらないですね。富樫あたりだとだいぶ使えるようになっていましたけど、さすがにこういうthe荒事の役だとまだまだ。出きらない声質でももう少し声を広げる工夫をしてほしい。

塩梅よしのお勘実は呉羽の内侍@笑三郎さんが非常に魅力的。芝居がしっかりしているし味わいが深い。とても素敵でした。また言い立ての台詞を滔々と語りきかせて緩急が上手い。緩急の間が玉三郎さんにちょっと似てるかも。

義経@亀三郎さんが序盤、しっかり台詞を聞かせてきて良かったです。

静御前@春猿さんは可愛らしく丁寧に。

小柴入道浄雲@錦吾さん、残念ながらまだこなれていない。ある程度の年齢以上の役者さんのこと考えると稽古日数をしっかり取れるようにしないと可哀想。強欲さが可笑し味として出ると面白いお役だし重要なお役なので頑張っていただきたいです。

覚範@海老蔵さん、いでたちが和藤内。イメージの覚範ぽくないかな。もっと忠信と対照的なほうが面白いような。見た目派手・派手並びで華やかになるからいいのかな。荒事は似合うし、甲の声が気持ちよくでてる。しかし台詞廻しがやっぱりいつも通り籠もってしまい言葉がはっきりしない…もったいないですね。

『新古演劇十種の内 茨木』
これはつくづくと難しい演目ですね。松緑さん挑戦の巻。まず全体的にいえば緩急が足りない。見せ場が見せ場になりきれず。まあ初日ですから、皆で少しづつ作りこんでいってほしいです。

伯母真柴実は茨木童子@松緑さんは身体の使い方がこのところかなり良くなっていますねえ。体をきちんと殺せてるのがまずポイント大きいです。踊りは出から門外のクドキまではかなり良かったです。表情豊かで切々としている。ただ綱宅内から後半に向けてまだ振りをこなしてますになってしまっていました。それでも松緑くん、真柴の部分は上々。踊りこんでいけばモノになっていくと思います。鬼の茨木童子の見現わし以降が少々迫力不足。異のオーラが出てないのと動ききれてなかったです。バネがある人なのでこなれてくると動きはよくなると思う。異の部分は目の使い方や間の工夫が必要かも。

渡辺源次綱@海老蔵さん、このお役はニンだと思います。座している時の佇まいが良し。丁寧に演じていたと思います。後半の立ち回りも迫力があります。が、少々音に乗れてない部分が。舞踊劇なのだから音をもっと聞いて欲しい…。衣装が少々着せられている感。あそこまでもこもこにしなくてもと思いますが。すっきりさせたほうがカッコイイのでは?台詞に関しては…精進してください。

家臣宇源太@亀寿さん、出るところは出て控えるとこはきちんと控えて安定感あり。キリリッとした風情も良かった。

太刀持音若@梅丸くんが相変わらずお行儀よくて可愛いです。踊りも丁寧だししっかりしてきた。

間狂言の亀三郎さん、市蔵さん、高麗蔵さんの三人がほどのよい品のよさ。間狂言できちんと場が締まってみえるのがさすがベテラン。

【夜の部】

『錣引』
なぜこの演目??とにかく元の本が面白くない…。しかも芝居の作りに盛り上がる要素があまり無い。

染五郎さんと松緑さんの息のあった芝居を(じゃれてるともいう)見るのが好きな私には楽しめるとこはあったけど…。二人でやるのが楽しいって空気感は伝わってきたし二人の拵えとかも含めて九月秀山祭の『石川五右衛門』の続きをみてる感じもしました。でも単純にお芝居としては面白みに欠ける。芝居がこなれていくうちにメリハリはつくでしょうけど限界がありそうな気が…。染五郎さんと松緑さんなら丸本物をやらせれば良かったのに。この二人で評判よかった『引窓』とかでもいい。一演目くらいこの二人の個性が活きるものをやらせても良かったと思う。

『口上』
三人だけだし10分もなし。紋付袴姿の口上が珍しい。拵えしてない完全に素顔な三人の並びが新鮮。三人ともそれぞれ違う華ですが華がある役者三人だと思いました。内容はそれぞれ神妙に。

『勧進帳』
『勧進帳』という芝居そのものが立ち上がってなかったです。個々はやることやってるのにまとまりなし。初日で見る限りは技術うんぬんの前に(富樫、番卒)(弁慶)(義経、四天王)の3グループ化されておりました…。ベクトルがそれぞれに違う。

弁慶@海老像さん、風貌も良いですし骨太さ、存在感があります。単純な荒事のように演じていましたかね。太い線でそのまま同じトーンで演じていく感じ。視覚的な部分でインパクトがあります。しかしオーバーアクションがかえって心情を消している感じです。弁慶に必要な義経大事の心情(弁慶は単純に義経に惚れこんでいる思うのです)とか義経を逃すためののための命がけの一芝居、富樫との丁々発止、お互いを認めての感謝等々、そういうものが芝居のなかから見えてこなかったです。型どおりに自分ひとりで手順をこなしている感じ。初日では誰とも対峙できてなかった。特に受けの芝居ができてない。だから攻めも甘くなる。私が今の海老蔵さんの感性と相容れないってことなのかもしれませんが…。以前はどこかしらに「熱」があったけど今回はその熱もみえなかったです。必死さが義経大事にも繋がっていた新之助時代の弁慶が幻だったのかしら?と思えてきます。

また台詞廻しが…。発声も抑揚もリズムも、どうしてああなるのかがよくわかりません…言葉が立たないと思うんですが…。好みもありますけど、あの発声は好みじゃありません。またあんなに目をひん剥かなくても。それと緊迫感が必要な場で歯をむきだしにするのもちょっと…。

海老蔵さんのこういう芝居から浮いた加減が好きな人は好きなんだろうなというのはよくわかりますが、私の求める方向とは違います。

富樫@松緑くん、口跡がかなり良くなっててそこがまず感心。姿も動きもとても良くなってる。このところ成長著しいですね。全体的に安定した富樫でした。しかし造詣は良いところと悪いところと。松緑さんは富樫をかなり厳しい人物像として造詣してました。前半は関守としてのしっかりとした厳しさに通じそれが活きていて良かったです。ただ、最後まで厳しさを崩さず、こういう人物は義経一行に関所を越えることを許しそうにない感じがしてしまいました。許した瞬間がなかったです。弁慶に対して「大した人物だ」という感心が現れてない。なので富樫の見逃しの感情のありようがきちんとみえてこない。弁慶の必死さに感心して、という在り様ではなく、従に打たれても我慢し従を信頼し運命を静かに受け入れようとする義経のために、という部分を出してもいいと思うのです。富樫の在り様をどこに持っていくか、まだ鮮明に出てきてない感じでした。なので富樫の死をも決意した覚悟のところが形がいいのに曖昧になってる。もう少しメリハリつけて演じてきてほしい。とはいえ伸びしろを感じさせましたし今後に期待。

義経@染五郎さんは衣装を着せられて感じのあったさよなら公演の時の義経から比べて相当成長していました。格の高さと透明感のある悲劇の貴公子然としたこの人だから四天王はついてきたときちんとわかる佇まい。そしてその品格のなか懐の深さをにみせた。弁慶へのねぎらいや情味が台詞のなかにしっかり入っていました。良かったと思います。そういえば染五郎さんは義経は誰に習ったんだろう?と思いました。なんとなく芝翫さんかな?って思いました。どこかほんのり感じさせました。また、勘三郎さんかな?と思わせる部分も。ふんわりと勘三郎さんに重なったところもあったんです。もしかしたら、芝翫さんに習って、今回は勘三郎さんに稽古を重ねてもらったりしたかも。

今回、一番『勧進帳』のスピリッツがあったと思ったのが亀三郎、亀寿兄弟の四天王でした。伊達に幸四郎さん弁慶にずっと付き合ってたわけじゃないですねえ。義経を守ろうとする気迫といい気概といい、素晴らしかったです!!!!この二人が四天王を引っ張り、主君大事な結束力をつくりあげてた。富樫への詰め寄りの迫力は抜きん出いました。