Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『第十二回 梅津貴昶の会 夜の部』 3等B席センター

2007年11月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『第十二回 梅津貴昶の会 夜の部』 3等B席センター

一、『長唄 連獅子』
親獅子:梅津貴昶
仔獅子:中村壱太郎

梅津氏の舞踊は本当に端正です。軸が本当にしっかりしているので動きに無駄がないです。所作台を踏み鳴らす音もほんとに真っ直ぐに綺麗に鳴る。小柄な方ですが後半にいくにつれどんどん大きく見えてきました。静かな威圧感。

壱太郎くんは元気いっぱいに踊っていました。私は壱太郎くんの舞踊を見るのは初めて。非常に勘所のいい踊りをするな、という感じでした。若いので荒さはありますが小さくまとまるよりずっといい。これから伸びそうですね。

素踊りの連獅子ですので毛振りはありませんでした。しかし毛振りの代わりに体をくるくると回転させて、また扇の使い方も工夫し派手に盛り上がるように振り付けを工夫をしていたのが印象的です。


二、『義太夫 芸阿呆』
安藤鶴夫 作
竹澤彌七 作曲・演奏
八世 竹本綱太夫 語り

竹本大隅太夫:中村勘三郎
弟子(他):市川染五郎

大隅太夫という人物の生涯を通して芸道の厳しさを表現した演目でした。「芸阿呆」とはよくぞ付けたり。この演目はとにかく義太夫の語りがテープであろうと本当に素晴らしかったです。義太夫に興味のある人には聴いてもらいたい。これ今音源どうなってるのかな?普通に売ってなさそうですね。もったいな~い。

二代目豊澤團平が三代目竹本大隅太夫に稽古をつける場面とかすごいです。「吃又」の台詞のなかの一言「土佐のばってぇぃ」を何度も何度も繰り返させそれでも納得しない、という件には鳥肌立っちゃった。たまたま有吉佐和子『一の糸』を読んでいたので尚更、三味線と太夫の関係とか、そういうところに思いを馳せることができたせいかもしれない。とにかくこの物語自体が面白いのです。

そして舞踊のほうですが、これが台詞のない芝居のようでした。すべて義太夫の台詞に合わせた当て振りなんです。踊りという感じはしない。でも計算された動きでもありました。これ並大抵のことじゃ表現できないですよ。かなり舞踊と芝居の地力がないと。勘三郎さんがやりたがったのもよくわかる。そして勘三郎さん、地味な役を明るいオーラを消してただひたすらに向かっていました。勘三郎さん、舞踊に関してはやはり単なる上手さという部分からもうひとつ高いところに向かっている最中なんだとそう感じます。晩年の部分は年齢的にまだ早いかなとは思いましたが、それこそ静かな気迫で迫ってきました。先代はどういう感じで演じていたのかなあ。

そして染五郎さんですが、勘三郎さんが明るいオーラを封印していた分、舞台が明るくなる華を見せていました。たぶん、本人が意識してない「華」だったような気がします。大隅太夫の弟子役ですが前半は時代の情景描写時に時々出てきます。張り詰めている舞台の空気を時々ふっと抜けさせる役割を果たしていました。染五郎さんてふわっとした空気感があるのですね。後半、弟子の部分ではかいがいしい世話ぶりをごく自然に。おじぎの仕方とか、太夫の言葉を聞く時の表情とか、体の不自由な太夫を支えるとことか、ちゃんと「お弟子さん」なの。やはり、舞踊、芝居の地力があるんだなと感じさせました。大隅太夫を支える弟子の立場というものが素直に表現されてて、じんわり。

これまたぜひ、やって欲しいです。

それと久しぶりに勘三郎さんと染五郎さん、歌舞伎で共演して欲しいなって思いました。ここ最近、どうしても座組みが別になってしまってるからなあ…。

内容:
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斯道の名人の伝記を綴った、義太夫節の新作。義太夫節の語りの芸の正しさ、美しさを確認したいという意図で、義太夫語りを父に持つ文筆家・安藤鶴夫が詞章を作り、昭和の名コンビとうたわれた八代目竹本綱大夫・十代目竹澤弥七(三味線)の作曲・演奏で、昭和三十五年十一月二十四日、芸術祭参加音楽部門作品として文化放送が放送したものです。
主人公の三代目竹本大隅太夫は、明治の義太夫界で、二代目竹本越路太夫(摂津大掾)と並び立った人です。越路太夫が絢爛たる美声で上品な語り口を聞かせたのに対し、大隅太夫は、義太夫節の壮絶なドラマのなかに人間の真実を描こうとしました。三味線の巨匠・二代目豊澤團平の厳しい指導に耐え、一途な修業の末に到達した至芸。にもかかわらず、非運が重なり、その最期は悲惨でしたが、写実を極めた彼の芸風は、今日まで、義太夫節の本道として受け継がれています。
のちに放送の音源がレコード化され、十七代目中村勘三郎が、これを踊りにしたいと熱望。それが実現したのが昭和五十三年九月の「藤間会」でした。晩年の弟子・静太夫を登場させる二人立ちの素踊りの形にした六世藤間勘十郎の振付が好評を博し、以後、歌舞伎座の本公演を含め、何度か再演されています。
こうした、厳しい芸道修業の姿を後世に伝えたいという願いをこめて、今回は梅津貴昶の新しい振付により、当代勘三郎、それに市川染五郎という好配役での上演となります。
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三、『地唄 雪』
梅津貴昶

竹原はんさんが得意とされた舞踊ですよね。いわゆるお座敷芸での舞踊なので立ち位置が変わらない。体全体の風情と手裁きだけで見せる舞踊。これ、かなり難しいでしょうねえ。梅津さん、しっとりと透明感のある踊りでした。非常に小さな舞踊にも関わらずあの歌舞伎座の大きな舞台で緊張感を途切らせないのは凄いかも。

歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 夜の部』 1等1階席上手寄り前方

2007年11月24日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 夜の部』 1等1階席上手寄り前方

『宮島のだんまり』
大薩摩、今回のほうがハリのある良い演奏だった。

それにしてもやっぱり全部の役者を見ることは不可能。目がウロウロしてしまいます。歌江さんの存在感ってやっぱり凄いわ。桂三さん、若い奥さん貰ったんだからますます頑張ってねえ~と思わず応援。芝のぶちゃん、ほんと女の子にしか見えないよ。父が「さっきの誰?女性?」とかのたまいました。芝のぶちゃんは男の人だからネ。亀寿くん、結構目立つ顔してるのよね。高麗蔵さん、今月やたらと綺麗。團蔵さん、でかいわ怖いわ(笑)。

んで、袈裟太郎の福助さん、いやん素敵。前回少しばかり疲れた顔をしてたけど今回は綺麗というか、特に男顔した時がもうハンサムさんでかっこよかった~。今回、花道を堪能できたので、ニタリ顔がこれまたいいお顔で。六方はよく体を動かしていましたが、やっぱり傾城の足運びのときのほうが艶があって良かったです~。


『仮名手本忠臣蔵九段目 山科閑居』
やっぱり仮名手本忠臣蔵はどこ切り取っても面白いよなああ。何度観ても飽きないし。しかし今回、やっぱり大舞台だと思う。隙がないというか、前半の女の物語と後半の男の物語が同等の重さがあった。配役のバランスがほんとに良かったんだと思う。それと、後半のせいか役者の思い入れがたっぷりになっていて、それぞれの想いが明確に伝わってきた。

まずは本蔵家族のお互いへの情愛をストレートにみせ、家族の繋がりの強さが前回以上に強くなっていました。本蔵、戸無瀬夫婦の子可愛さの愛情。また本蔵の戸無瀬への完全なる信頼。戸無瀬の強さを信じているからこその、というのがあった。

次に力弥と小浪と恋心。前回、目を合わす場面がひとつくらいで力弥が小浪をどう思っているのか見えにくかったのですが、今回、お互い恥ずかしそうに何度も目線を合わせていて、若い恋というのがよくみえてました。これだったら小浪ちゃんも一夜限りの妻でも本望でしょう。

そして由良之助とお石。最後の別れの部分の手の握り合いにかなり熱がこもっていました覚悟を決めているからこその冷静さのなかに、一瞬見せるお互いの激情。信頼しあっている夫婦なんだなって伝わってきました。

戸無瀬の芝翫さん、時代物の武家の女なのに世話に落ちてるとも言われていますが、元々前段「八段目 道行旅路の嫁入」で煙草を吸いつつ、これから嫁入りする小浪に艶話を語る女でもありますから手強さだけじゃなく、娘を想う情愛が前面にでる戸無瀬像があっていいと思うのです。芯の強さは十分に感じさせてくださいますし、その上で娘一途な想いからの優しさ弱さがあって、芝翫さんならではの戸無瀬でした。台詞の一言一言がじんわりと伝わってきました。

小浪の菊之助さん、ほんとに可愛いったら。少し痩せたようでますます可憐で可愛らしくなってました。やっぱり萌え萌え。本蔵、戸無瀬夫婦が娘を溺愛するのもよーくわかる。力弥様じゃなきゃいや~と切々と嘆くとこ、台詞回しが工夫されてよく伝わってきました。今回、超音波少な目だった。

お石の魁春さん、前回ほんとに良い出来と思ったんですがますます良くなっていました。キリッとした静けさのなかに心ならずもの部分がさりげなく出ている。そして今回、由良之助の妻としての情愛がしっかり見えました。吉右衛門さんの由良之助とのバランスが良くなったというか。

本蔵の幸四郎さん、九段目はやっぱりこちらが本役だと思う。本蔵の人となりがこれほどよく見えてくる本蔵は初めてです。主人のために賄賂も厭わず、義よりも守るべき人を守ることをする人間であり、ゆえに今度は娘のためだったらなんでもやる男なのだ。「父がなんとかしてやるから」と言わんばかりに小浪を見る目の、声の優しさがそれを物語ります。また力弥に槍に刺されるのも、力弥と見定めてから自ら槍を持ち腹に刺す。「子故に捨つる親心」がなんともストレート。台詞もいつも以上にかなり明快でした。役への心情の重ね方がピタリとハマった感じでした。

由良之助の吉右衛門さん、やっぱりいい。包容力があり存在感たっぷりの大きさ。本蔵への共感がしっかり見えるのがほんとにいい。また屋敷の絵図面をもらってからの高揚感や、そしてお石、力弥へのさりげない情が非常に自然。

力弥の染五郎さん、非常に良くなっていた。凛としながらも若衆の初々しいさ柔らかさがある。終始神妙ながらも瞬間瞬間でみせる小浪への淡い想い、また絵図面を前に討ち入りに逸る気持ちがきちんと伝わってきた。由良之助の息子としての佇まいがやはり明快。そこはかとない色気、鋭さもありいい出来。ほとんど台詞がない受けの芝居でここまで見せてくるのはなかなか難しいと思う。まあ欲を言えばもっと前のめりな存在感を見せちゃってもいいんじゃないかとは思う。


『土蜘』
前回、菊五郎さんが少し無理してるかなあ、という感じを受けたのですが今回はとても充実した踊りを見せてくださいました。出からどこか不気味さを湛えていましたが今回、特に良かったのは正体を見破られた後。源頼光@富十郎さんと対峙するときの鋭さと恨みの気、そして花道引っ込みの時の不気味さ。とにかく集中度が素晴らしく大きく見えました。またそのなかにやはり艶があるのですよね。そして声が一段と太く響いていました。後ジテでの土蜘の精も大きく、華やかな立ち回り。絶好調だったのかしらと思いました。

頼光の富十郎さん、小柄なのを感じさせない品格の大きさと爽やかさを見せてくださいます。やっぱり声に惚れ惚れ。

音若の鷹之資くんが本当によく頑張っていた。お父さんに似て口跡もいい。

胡蝶の菊之助さんは前回より柔らかさが出てきたかな。端正な踊りです。


『三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場』
面白かった~~。何かが変わってました。舞台上の空気が濃くなった感じかな。今回の三人の配役でそのまま通し上演したら、とそう思いました。芸としてはかなり若いしまだまだな部分も多いのですが、確かに江戸末期の闇に住まうどこか不安感を抱えた寄るべない三人の若造たちでした。

お嬢吉三の孝太郎さん、どちらの方向でキャラクターを作りこんでくるのだろうかと思っていたのですが、あくまでも男性の心根でのお嬢でした。男と女の切り替えの鮮やかさ、凄みの利いた声色、世をすねた表情、小さい頃から泥水を飲んで這いつくばって生きてきたんだろうと思わせる根の太い魅力的なお嬢吉三でした。台詞もたっぷりと謳いあげイキイキと演じていました。孝太郎さんの七五調台詞には少し粘りがあるのですが、そこに底辺を生きてきた強さを感じました。

お坊吉三の染五郎さん、お嬢吉三とは正反対のキャラクター。苦労知らずの甘さのある刹那的なお坊です。闇に落ちても根の育ちの良さが抜けず、どこかぬくもりを求めているような感じ。和尚に義兄弟になってくれろと素直に言い出し、嬉しそうにするお坊。義兄弟の契り、お坊が言いだしっぺなのがよくわかるキャラクターでした。お嬢に「貸してくれろ」とほろ酔い加減でのたわごとぶりも色ぽくて良かったです。甘すぎて凄みが少々足りない気もしますが通しで観た時に納得しそうなキャラクターのような気がしました。台詞廻しはやはり吉右衛門さんにソックリです。独特の陰があるのですよね。この台詞廻しを染ちゃんがやると腹の底が見えない突拍子のなさになって地に足がついてない雰囲気を醸し出していました。

和尚吉三の松緑さん、兄貴分の貫禄はさすがにまだ無いのですが独特の明るさが喧嘩に割って入る気性のキャラクターに合ってて良いです。お坊、お嬢がなんとなく和尚に惹かれるのがわかります。また性急すぎかなと思っていた台詞回しにメリハリがついてました。個人的にはもう少したっぷりやってもらいたいのですが、これはこれでいかにも下町に生きてきた江戸っ子風情を醸し出していいのかもしれません。大きさ、いわくありげな雰囲気などを身に付けていけたら持ち役にできそう。

国立大劇場『通し狂言 摂州合邦辻』1等A席1階センター後方

2007年11月23日 | 歌舞伎
国立大劇場『通し狂言 摂州合邦辻』1等A席1階センター後方

以前、観た菊五郎さんの『摂州合邦辻』とはかなり違う肌合い、演出。今回の本行(人形浄瑠璃)にかなり近い演出のも面白かったです。物語本位というところでしょう。しかし人形の代わりに役者がやることで生々さが醸し出されるので下世話な感じに落ちる部分もありました。それが悪いわけではなく、肉体を通してのほうがストレートに台詞が伝わることもあるんだと。庶民の物語だったんだなというのを改めて思いました。

物語本位とはいえ藤十郎さんが演じるので基本的には藤十郎さんを見る芝居でもありました。いやはや、この方の今の境地って凄いですね。しかも若いっ。それにしても濃いわ、濃いわ。藤十郎さんの玉手は最初から恋する女でした。終始、本気です。絶品だったのは「合邦庵」の段の出ですね。なんともいえない緊張感があって、玉手の覚悟がひしひしと伝わってきました。また娘らしい立ち振る舞いと感情のありかたに説得力がありました。玉手の短絡的なとことか激情とかそれも演技じゃなく本気。覚悟したからこその心の揺れ、とも感じました。

この濃さに対抗できてたのは秀太郎さんだけですね。それと合邦庵での合邦の我當さんが、不器用な芝居ではあるのですが義太夫のイキをしっかり飲み込んだ台詞で聞かせてきて対抗。我當さんてニンにハマさえすれば台詞で説得力を持たせるタイプなのね、と今更ですが。

あとは奴入平の翫雀さんがニンによくあっていて大健闘。

三津五郎さんが意外に受けの芝居の部分で風情が足りない感じ。台詞は上手いしよく工夫されていて俊徳丸の立場は明快で良いんですけど。存在感がちょっと薄め。藤十郎さんの濃い芝居にはカッチリしすぎなのかも。 というか知的すぎるのですよね。一人でなんとかしそうな感じなので、玉手も浅香姫も必要じゃないんですよね。

全体的にはテンポよく飽きずに観ることができましたが説明的な場が多く、面白さは「合邦庵」に集約されてしまう感じ。文楽のほうが他の段ももう少し物語的面白さがあったような気がするのですが。

東京オペラシティ『ナタリー・デセイ オペラ・アリア・コンサート』 D席2階P席

2007年11月18日 | 音楽
東京オペラシティ『ナタリー・デセイ オペラ・アリア・コンサート』 D席2階P席

いやあ、凄かった凄かった~。ナタリー・デセイは映像でたまたま観たことがあって、それで好きになった歌手です。生で聴けて良かった~。

今回、一番安い席の舞台裏のP席。なのでまともな歌声を聴くことはできないのを覚悟で行きましたがそれでも凄かった。というか、裏の席でこんなに歌声が堪能できるとは想像だにしてなかった。声というのは前にしか響かないんですよ。だから今回デセイのまともな声量の半分しか聴けてないと思うんです。だけど、だけどそれでもボリュームが凄いんですよ。ビックリですよ。どうやら小耳に挟んだところ調子が良くなかったらしいですが、オペラ初心者の私にはほんとに?ってくらい響いてました。

かなりスリムな体型で背も高くは無いのにも関わらず、あの歌声を出せるなんてとは思ってはいたんだけど、生で聴くとほんとに凄かった。そして、実際は実はアスリートなみの筋肉質な体でした。背中が空いたドレスだったのでちょうど背中を拝見な私からは背筋がすごく発達していることがわかりました。じゃなきゃ、あんな声量が出て、声を微細にコントロールできるわけがないわねえ。それにしても人の声ってこんなに響くものなんだと、それだけでも感動してしまいました。

私はオペラは完全初心者で生でオペラ歌手の歌声を聴いたのはほんの数回しかないですが超一流ではないものの一応そこそこのレベルの人たちだったと思うんです。が、席がS席の良い席でさえ、今回ほどのボリュームあるものは聴けてないです。だからほんとに今日は驚いた。(例外として、ホセ・カレーラス氏を聴いた時はやはり舞台裏P席だったにも関わらず本当に心に沁みる素晴らしい歌声を聴かせていただいた。けどオペラ楽曲ではなくて声量に圧倒させられた、というわけではなかった)

今日の演奏のなかで私が特に感動したのは『椿姫』「不思議だわ…ああ、そは彼の人か…花から花へ」と『ランメルモールのルチア』より「狂乱の場」。声量が凄いってだけじゃなくて情感が溢れていてとてもドラマチック。なんだか訳もわからず、知らず知らず涙が出てきそうになった。謳い上げる高音も素晴らしいのだけど、優しく唄うところがとっても優しくなめらかでじわ~と心に響いてきた。次にデセイを聴く時にはもっと良い席で聴こうと決めました。


指揮:エヴェリーノ・ピド
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ヴェルディ:『シチリア島の夕べの祈り』より序曲
ヴェルディ:『シチリア島の夕べの祈り』より「友よ、ありがとう」
ヴェルディ:『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』より前奏曲
ヴェルディ:『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』より「不思議だわ…ああ、そは彼の人か…花から花へ」
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ロッシーニ:『セミラーミデ』より序曲
ドニゼッティ:『ランメルモールのルチア』より「あたりは沈黙に閉ざされ」
ドニゼッティ:『ロベルト・デヴリュー』より序曲
ドニゼッティ:『ランメルモールのルチア』より「狂乱の場」

アンコール曲:
プッチーニ:『ラ・ボエーム』より「私が街を歩くと」
マスネ:『マノン』より「ガヴォット」

歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階前方中央

2007年11月17日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階前方中央

『種蒔三番叟』
梅玉さんの端正で品の良い踊りを堪能。柔らか味とキレのバランスがよくてふわ~っとした空気を醸し出していました。

孝太郎さんはキリッとした面持ちで丁寧に。目元がやはり仁左衛門さんに似てるんだわ、と思いました。


『傾城反魂香』
私的に昼の部の一番は『傾城反魂香』。アンサンブルが非常に良く、役者それぞれが個々に役としての存在感があって、なおかつ纏まっていて見応えがあった。

又平@吉右衛門さん、いやもうほんとに当たり役というのはこういうことを言うのだろうな、と思った。又平という人物というのはこういう人物なんだという説得力が凄い。自分に足りないものがあるのをわかった上で自身の価値を求めずにはいられない愚直な男。無邪気なまでのその真っ直ぐな情熱があるからこそ、おとくは又平に付いていくんだろう。吉右衛門さんは又平の喜怒哀楽すべてをストレートに表現する。それが気迫として迫ってくる。

おとく@芝雀さん、又平という人間をそのまま受け入れ愛している可愛らしくてとても情愛細やかな旦那思いの女房おとくでした。「腕も二本~」のくだりの切々とした訴えかけるような表情に泣かされました。おとくは絵師としての又平の一番の理解者でもある、というのがストンと伝わってもきた。芝雀さん、完全に役者として一皮剥けたんじゃないかと。台詞が今までと全然違うの。今まで芝雀さんて声は良いのに少し一本調子なところがあったのね。それでいわゆる聴かせどころの台詞をしっかり観客に伝えきれないことがあって、かなりのウィークポイントだったんだけど、今回、そこがかなり上達。強弱、抑揚をしっかりつけてきて、そのおかげでおとくの情感が今まで以上にしっかり伝わってくるようになった。また演じるうえでの、いわゆる抜け、の部分が出てきた。一生懸命に、ってだけじゃない演じ方ができるようにもなった。いやもうほんと素晴らしい出来だと思う。

歌六さん@土佐将監に大きさが出てきた。弟子のために思って、という部分が際立つ将監でした。

吉之丞さん@北の方のさりげない心配りが本当に素敵。おとくとの会話が実に自然。

歌昇さん@雅楽之助、芝居にひとつの動きをつける役目をメリハリのある動きで勢いよく演じていらっしゃいました。

錦之助さん@修理之助、存在感がありました。幼い感じはしないのですが、筋のいい絵師という部分、兄弟子に対する対応ともにしっかり気持ちが入っててとても良い。  


『素襖落』
幸四郎さん@太郎冠者、やはり太郎冠者にしては立派すぎてほわ~っとした可笑し味が無いのが少々残念。でも「那須与市」の踊りのメリハリ、語りの表現力は本当に見事。情景がしっかり伝わってくる。しかも酔い加減での語りという部分も極めてしっかり表現されていて、伊達に何度も手がけているわけじゃないんだなと。

左團次さん@大名某が格がありつつ飄々としていて良いです。太郎冠者をからかう時のおちゃめな顔が可愛い~。


『御所五郎蔵』
今回は『御所五郎蔵』が最初から楽しめた。

仁左衛門さん@五郎蔵、やっぱり素敵だよなああと。カッコイイなあと素直に。とにかく聴かせるくれる台詞術に惚れ惚れ、姿の美しさに惚れ惚れ。伊達男、って言葉がほんとピッタリ。なんか、アホな五郎蔵なんだけど、しょうがないとか思ってしまうのよね。また殺しの場面の孝太郎さん@逢州との親子の絶妙の間がまた見事だった。様式美ってこういうことを言うのだなと。

土右衛門@左團次さんがやっぱ今回、押し出し弱めかも?もう少し凄みがほしいなあとか。この役、幸四郎さんあたりやると面白そうとか。幸四郎さん、凄みのある悪役が似合うんだからたまにやったらいいのにな、とかね。左團次さんは今月は大名某のほうが似合ってるなあ。

甲屋の菊五郎さんがやっぱ存在感が凄い。声がとにかく良いのよねえ、キリッとしてながら色ぽいの。しかし、顔が少々まんまる?お月様のようでしたが太られました?いや、貫禄があって素敵なんですけど、お体のほうは大丈夫かな?とか。

皐月@福助さん、超切なかった。女の哀しさって部分を感じさせてくれるのよね、福助さんて。そこが好きなのかも。

孝太郎さん@逢州は、やっぱり良い。当たり役でしょうねえ。

サントリー大ホール『クレーメル&ツィメルマン デュオ・コンサート』 C席2階RA

2007年11月15日 | 音楽
サントリー大ホール『ギドン・クレーメル&クリスチャン・ツィメルマン デュオ・コンサート』 C席2階RA

ビックネーム二人、クレーメル&ツィメルマンのコンサートですがこれが予想外の演奏。大ホールでのコンサートを聴いたというより、この二人のプライベートサロンに招かれて演奏を聴かせてもらった、という感じでした。とても暖かくて優しい音色で、ふわ~っと音に包むこまれていくような感じ。非常にレベルが高い演奏なのだけど、テクニック部分を押し出すわけでなく、二人の好きな曲を気持ち良さそうに演奏しているという雰囲気でした。

そして何が予想外かって、まずクレーメル氏のヴァイオリンの音色が!とても伸びやかで、ひとつひとつの音がまろやかで優しく暖かい繊細な音色。CDで聴く鋭角的な音色とはまったく違う。ブラームス、こんなにロマンチックな曲だったっけ?と思ってしまった叙情溢れる開放的な演奏でした。いやはやビックリ。

またツィメルマン氏のピアノの柔らかで華やかな少し甘さのあるやはり優しい音色。以前リサイタルで生は聴いていますが、今回はリサイタルの時より音が伸びやかだったような感じ。で、ヴァイオリン・ソナタだとピアノはどうしても伴奏、という感じになるのですが、さすがはツィメルマン、ただの伴奏で終わらない。ピアノがしっかり主張して曲想が際立つ。でも邪魔はしない絶妙のバランスでの演奏。

それにしても、この二人の音色の合い方が素晴らしかったです。音色がとても似てるんですね。また音楽(曲)に対する方向性もたぶん一緒なんだと思われるほどピッタリ。ここまでヴァイオリンとピアノの音が揃ったソナタを聴いたのは初めてです。どこまでも気持ちの良い音色を聴かせてくれる。

アンコールはジャズのような阿吽の呼吸での掛け合いの演奏。かなり楽しく面白い演奏でした。いやあ、この二人、ほんと仲良しなのね、という感じ。

いわゆるダイナミックな演奏ではなかったけど心が気持ちよくなれる演奏会でした。


曲目:
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番「雨の歌」
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番

アンコール曲:
ニーノ・ロータ :映画音楽「ラ・ドルチェ・ヴィタ(甘い生活)」
モーツァルト :ヴァイオリン・ソナタ第39番 第1楽章、第2楽章

歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 夜の部』 3等A席中央

2007年11月10日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 夜の部』 3等A席中央

『宮島のだんまり』
よく観る演目だわ、なんて思っていたんですが私が最近観たのは6年前だった(笑)萬次郎さんが6年前と同じ役だった。一応、ストーリーはあるけど歌舞伎衣装のファッションショーだと思ってみればいい演目。というか私がそう観てるってだけの話ですど。

顔見世らしい役者並びです。どこ観たらいいか悩む。福助さん、女だか男だかわからない袈裟太郎。骨太さがある福助さんなので似合う。もっとおどろおどろしいくらいでも良いんじゃないかと。六方がまるで見えなかったのが残念。次回観劇までのお楽しみ。見えた人によるとよく体が動いていたそう。

歌昇さん、錦之助さん、存在感ありました。高麗蔵さん、綺麗だった。女形でもああいうキリッとした拵えだと似合うんですよねえ。芝のぶちゃん、可愛い。大勢のなかで埋もれてなかったです。歌江さんはとりあえず何やっても目立つ。何か濃いのよね。


『仮名手本忠臣蔵九段目 山科閑居』
大舞台でした。これだけで夜の部は大満足してしまいました。それにしても九段目もよく出来た話です。物語が密なんですよね。忠臣蔵という大きな物語の流れのなかに段づつにそれぞれまた物語のうねりがある。見事だわ~。

さて今回の配役、戸無瀬@芝翫さん、本蔵@幸四郎さん、由良之助@吉右衛門さん、力弥@染五郎さんが九段目初役とのこと。しかし初役揃いとは思えないほどしっかりハマってた。なんとも良いバランス。それぞれ不足なし、という充実した舞台でした。

前半の女のドラマ部分。この部分、とっても好きなんです。

まず戸無瀬の芝翫さんがさすがのうまさを見せる。私、玉三郎さんのやるせない雰囲気の戸無瀬がかなり好きなんですが、今回の芝翫さんが貫禄の芝居で、これがまた素晴らしくて。いやあ、ほんとすごいなあと。この方の「情」のあり方はとっても暖かい。外観の無骨そうな雰囲気がかえって情を際立たせている感じ。なさぬ仲、だからこそというのが伝わってくる。また芯の強さと脆さが絶妙に同居している。この戸無瀬が初役とは、恐れ入りました。

そして菊之助さんの小浪はもう手の内に入ったお役で安定感すら感じます。しかし菊ちゃん、白無垢姿がえらい可愛い。清楚でいじらしい姿に萌え萌え。時々声が超音波になってしまうのが気になるところですが、ここをもう少し押さえられるともっと切々としたものが出るのではないかしらん。

魁春さんのお石がまた素晴らしい出来。魁春さんの持つ品格が、お石という女性の気丈さに繋がって、女のいやらしい意地悪な雰囲気を一切見せない。お石はヘタすると意地悪な女に見えちゃうんだけど、魁春さんのお石は心ならずも、の部分がきちんと見える。芝翫さんの熱さをグッと受け止めるだけの力量がみえてビックリです。最近、梅玉&魁春兄弟にもう一味いいものが出てきた感じがします。

後半、男のドラマ部分。いつもここの部分が物足りなくて、付けたし感を感じていたんですけど、今回しっかりドラマとしてみせてきたのがさすが。

幸四郎さんの本蔵、観る前はこの役どうなんだろう?と思っていたのですが、これがハマっていました。幸四郎さんは九段目は由良之助をよくやっていますが、正直、由良之助より本蔵のほうがニンだと思いました。鋭い雰囲気が敵役実はの二重性の部分にうまくハマるし、自分のしたことへの後悔、奥方と娘への情愛をクッキリと見せてくる。ただまだ独白部分が物足りないなあ。幸四郎さんならもっとしっかり聴かせられるのではないかと思う。まだ調子をうまく掴みきれてない感じも。本蔵って難しいのねえ、とつくづく思いました。後半にもう一度観る予定なのでその時が楽しみです。

吉右衛門さんの由良之助、もうピッタリ。これですよ、これ。出てきただけで納得させる大きさ。九段目の由良之助は現在の役者では吉右衛門さんが一番かもしれない。しかし、幸四郎さん、吉右衛門さんが並ぶと舞台が狭く感じる(笑)空気がやたら濃いんですよね、この二人。今回、お互いの悲哀をしっかり感じあっているのがわかる。今回、姿が似ているのもいいです。本蔵と由良之助が表裏一体のキャラだという部分が際立って。

染五郎さんの力弥、なかなか良いじゃないですか。この段の力弥ってわりと難しいと思うんですが、しっかり存在感がありました。そこはかとない色気と鋭さと。濃い面子のなかで沈まず、由良之助の息子としての佇まいがきちんと見えました。吉右衛門さんとの間が良いせいだと思います。

個人的に菊之助さんと染五郎さんの並びが嬉しい。今回ほんのちょっとなのが残念。この二人でこれから何かやってほしいです。質的に丸本物でこの二人、合うと思うんですよね。

『土蜘』
好きな演目です。しかし九段目の次にこれは少々重かったかも?これも結構集中力がいる演目なのでちょっとくたびれちゃいました。

富十郎さん、やっぱりこの方の台詞好き~。空気がさ~っと軽くなるんですよね。鷹之資くんが太刀持ち頑張ってました。ようやく落ち着いて座っていられるようになったみたい(笑)

菊之助さんの胡蝶は華やかでひとつひとつ丁寧。情景もきちんとみせてきましたが私の好みからするともう少し艶が欲しいかな。

さて、菊五郎さんの踊り、華やかで艶があって好きなんです。芸風はサラっとしている方ですが舞踊となると粘りがあると思います。んで、今回も楽しみにしていたんですが、いつもより大人しい。どことなく疲れているような…。いつもだと僧の部分でもう何か妙な艶があって独特の異をみせたような気がするんだけど。うーん、うーん。上手さという部分はしっかり見せていただけたんですけど、何かが足りない。私が求めすぎなのかな?そろそろお年だし、いわゆる「うまさ」の部分を見るべきなんだろうとは思うのですが。菊五郎さんには華やかさを求めてしまうのです。

間狂言はなんとも贅沢な配役。梅玉さん、仁左衛門さん、東蔵さん。なんだか微笑ましいです。そして芝雀さんなかなかの美女ぶり。玉太郎くんが可愛らしくて注目を一気にさらっていきました。


『三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場』
なぜここにこれを持ってきたのか不思議な演目(笑)今は晩秋、春じゃないぞぉ~と。どさくさまぎれに、という感じもしなくもないけど楽しかったからいいや。

おとせの宗之助さんがなんかいいぞ、どうした?ってくらいいいぞ。いつもの一本調子が消えてるし。薄倖そうな雰囲気、優しげな雰囲気、おとせにピッタリ。川への落ちっぷりがお見事!

そして似合うのかしら?と思っていた孝太郎さんのお嬢吉三がこれがまた良い。女のときのふんわりした雰囲気から一転男に変化する時の声の調子が良いんですよ。今まで似てるなんて思ってもみなかった仁左衛門さんに声がとっても似てるんですね、ビックリ。顔つきも時々、あら?っと思う時があったくらい。小柄だし、体つきも柔らかなので、女から男への体の変化の部分の切り替えはさほど見えないのがちょっとだけ物足りなかったりもしました。これは玉三郎さんのお嬢も同じだったけど、中性的な雰囲気で押しきったのに比べまだそこまでの押しの強さはなかった。でもこれからこなれてくると、孝太郎さんのお嬢吉三のキャラがもっと立ってきそう。思った以上にハマっていて良かったです。

お坊の染五郎さん、カッコイイ。なんか最近、染五郎さん妙に綺麗になっているような?ちょっと痩せすぎかな?とは思うんだけど立ち姿がやはり良いです。品があって訳ありな感じ。御家人あがりの、の部分が際立ちます。でも、もう少し鋭さをみせて欲しい。台詞回しは吉右衛門さんに似ていました。たっぷりと台詞を聴かせる。声がもう少し響くともっと良いのだけど。染五郎さんのお坊、通しで観たい。伝吉殺しの部分とか結構ハマると思う。吉祥院での甘さとかも出せそうだし。

松緑さんの和尚吉三、拵えが似合うじゃないですか~。ニンだとは思ってたけど想像以上に似合う。明るい声も存外にいい感じ。ただ、大きさが足りないかな。台詞廻しが性急すぎるんですよね。ちょっと早すぎないかしら?もっと緩急をつけてほしい。以前よりはかなり聴きやすい台詞廻しにはなっているんだけど喧嘩仲裁のとこはもっとたっぷりしたほうが大きさがでると思うの。江戸っ子な感じはしっかりあるんだけど、もう少しいわくありげな、部分があると。せっかくの目があるのだから目力を使ってほしい。

それにしても、『三人吉三』は最近、通しで見る機会が多いので「大川端」だけじゃ物足りないですね。この三人でやってくれないかなあ。

サントリーホール『パリ管弦楽団』 P席

2007年11月07日 | 音楽
サントリーホール『パリ管弦楽団』P席

指揮/クリストフ・エッシェンバッハ
ピアノ/ラン・ラン(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調op.15)


大興奮とまではいきませんでしたが楽しい演奏会でした。パリ管弦楽団は2年前にも聴いていますがとりあえずやっぱり上手い。特に管楽器の音がとっても良く、かなり好み。オケ全体の音は洗練されていてなめらかで華やか。いかにもフランスの音という感じです。2年前のミシェル・プラッソン指揮の時のほうがもっと弾むような軽やかさがあったような気がしますが今回は端正さのほうが前面にでて落ち着いた感じ。やはり指揮者によってだいぶ違うんだなと思いました。


『ピアノ協奏曲第1番ハ長調op.15』
最初、オケとピアノのバランスが悪いかな?と思ったんですが途中からまとまりが出てきて、聴かせてきました。オケの音のまとまりの良さが耳に残ります。

ラン・ランは思った以上に音色が多彩でした。柔らかな音がすごーく綺麗で意外。力技だけで押してくるタイプだと思ったけど、結構ひとつひとつの音に神経を行き届かせてました。音はかなり大きいですが広がりはもう一歩。ここらへんはいかにもまだ若手という感じの音。アンコール曲は思いっきり力技というかテクニックを前面に。タッチが確実だし、よく響かせる。まだ25歳ですからね、10年後が楽しみかも。

『幻想交響曲op.14』
クリストフ・エッシェンバッハ氏はわりと独特の間合い?がある指揮者かなと。緩急のつけ方が極端というか。簡単に気持ちを乗らせてくれない。でもそこが面白くもあり、私は今回の演奏は結構気に入りました。特に後半、第三楽章あたりから一気に盛り上がりました。曲想の面白さもあるとは思いますがかなり楽しかったです。それにしてもパリ管弦楽団は本当にバランスのいいオケですねえ。気持ちの良い音がすっと耳に入ってくる。管楽器の柔らな音には惚れ惚れです


【曲目】
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調op.15
ベルリオーズ:幻想交響曲op.14

【アンコール曲】
ワーグナー(リスト編):楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「愛の死」(ラン・ラン)
スメタナ:歌劇「売られた花嫁」より「道化師の踊り」 (パリ管弦楽団)

歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

2007年11月04日 | 歌舞伎
歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

『種蒔三番叟』
清元がなんか揃ってない、不協和音。いつも以上に気になった。

梅玉さんの舞踊が好きな私は今回も満足。三番叟なので普段より足捌きが激しい踊りだけど相変わらずかっちりしてながらも優しい踊り。孝太郎さん、衣装がお似合いかなり綺麗にみえた。孝太郎さんのは柔らかな丸みがある踊り。

『傾城反魂香』
4日目にしてかなり締まった芝居。見応えありました。

又平@吉右衛門さん、この役は文句なしに当り役&持ち役でしょう。こういうどこか屈折した人物の時の吉右衛門さんって怖いくらいにハマる。「愚直」という言葉がまさしくピッタリの又平です。

おとく@芝雀さん、とっても良かったです。先月も感じたんだけど、ほんとに芸格が上がってきたと思う。私のおとくマイベストはいわずと知れた雀右衛門さんで、さすがにそこは動かないのですけど<ちょっと別格くらい好きなので。それにしても、芝雀さん、予想以上というか本当に良いおとくだった。芝雀さんのおとくは非常に素直で優しい女房。一生懸命に又平を支えて生きてきたというのが本当によく伝わってくる。前に出すぎこともなく、かといって存在感がきちんとあって、素晴らしい出来だと思います。

吉之丞さんの情味のある北の方も良かった。吉之丞さんの存在感っていうのもすごいよね。どんな役でも場にしっくりハマって「そこにいる」ことができる。素晴らし役者さんだとつくづく思う。

修理之助の錦之助さん、爽やかでキッパリとしてた。今まで観たなかでは一番きちんと自己主張する修理之助だった。

他の配役も皆、ピタリとハマって座組みとしてのまとまりもありました。


『素襖落』
『吃又』で集中しすぎて疲れちゃって(笑)やんわりと見物。幸四郎さんの太郎冠者は思ったほど違和感はなかったかも。軽やかなとこがちゃんとあるし。でもなんか可笑し味とかはやっぱり薄い。踊りは上手いとは思わないんだけど体の動きのメリハリや音の捉え方は上手いと思う。キメ、キメの部分がぱっと印象的に目に入る。しかし、こういう演目で必要なふんわり感はほんと無いですね…。

姫御寮の魁春さん、可愛かった。なんかね、姫~って感じなのよね。

高麗蔵さんは羽目ものの舞踊が似合うしこういう拵えも似合う。

錦吾さんが踊っててちょっとビックリ。錦吾さんの踊る姿はなかなか見られないと思う。

ラスト、左團次さんと彌十郎さんのでかい二人に翻弄される幸四郎さんの図は可笑しかった。


『御所五郎蔵』
前半の「五条坂中ノ町の場」が『素襖落』に続き集中度低めでの見物となってしまった。好きな役者さんが結構出ているんですけどね。不思議、なんでだろう?でも後半の「甲屋奥座敷」では覚醒いたしました。

五郎蔵@仁左衛門さん、とにかくカッコイイ!雰囲気が甘いところがまた良いのです。短気でかなりバカ男なキャラなんですが、素敵なんですよね。憎みきれないろくでなし、ってやつですね(笑)

甲屋与五郎@菊五郎さんが出てきただけで場がぐっと締まった。昼の部、これだけの出演とはもったいない。

星影土右衛門@左團次さんは持ち役だけあって安定感。でもいつもならもっと押し出しが強いところが少し弱めだったかな。畠山次郎三@男女蔵さん、一時期のゲッソリ顔から顔が戻ってきたかも。なかなか良いお顔をされていました。梶原平蔵@友右衛門さんの体の置き方がイチイチ綺麗。個人的には錦弥さんが出演なのが嬉しかったです。

皐月@福助さん、綺麗だわっ、色ぽいわ。縁切りする傾城が似合う役者だよね、福助さんて。ギリギリの選択、というのが伝わってきます。後半、もっとノッてくるともっと良くなりそう。

そして逢州@孝太郎さん、やっぱりいい。なんかね、似合うのよ、この役。芯が強くて優しいっていうのが伝わってくる。仁左衛門さんと孝太郎さんの立ち回りのとこはさすが親子、息ピッタリでした。

今回は五郎蔵と土右衛門の立ち回り途中で「これぎり」。これだと、ますます逢州が可哀想なんですがっ。しかし、結構納得いかない話なのよね~これ。五郎蔵には同情できないし。それにしても何がいけないって浅間家の殿様なのよね。女を不幸にしていく元凶。通しでみるとわかります。

この演目、仁左衛門、玉三郎コンビでやった通しのときは本当に面白かった。通しでまたやって欲しいです。仁左衛門さんの百合の方がほんとに怖かった…。