Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』3回目 1等1階前方センター

2008年02月25日 | 歌舞伎
歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』3回目 1等1階前方センター

昼の部に続き夜の部も千穐楽を拝見。夜の部は3回目観劇です。2日前に観たばかりですので簡単に。

『対面』
前回も感じましたが理詰めの『対面』。不思議な『対面』を観たという感じなのです。いつもだと祝祭劇として歌舞伎の記号化されたキャラクターを楽しむのですが、今回は個々のキャラクターがその生き様を垣間見せておりました。いかにも粒が揃った芝居という感じでした。

工藤@富十郎さん、声が絶好調でした。ぽーんと突き抜け感のある良いお声です。

五郎@三津五郎さん、いつも以上に力のこもった五郎でした。前回感じなかった若々しさもありました。

大磯の虎@芝雀さん、ついさきほどまでお軽だったと思うと不思議な感じ。まったく雰囲気が違うんですよね。もう少し華が出てくるといいなあ。


『熊谷陣屋』
役者の皆さん、力が入ってまして押し出しの強い芝居でした。それとかなりたっぷり感がありました。それぞれニンにあった役をしっかり見せてきたなあという印象。

熊谷の幸四郎さんの送り三重に乗っての引っ込みが前回と少し違いました。前回、ドンと座り込まずに笠を被り小さく体をまるめるだけだったんですが、今回はドンと座り込んで小さく小さくなっていました。それからドンチャンで小次郎を討ったその戦場を思い出したかのように遠い目をし、そこから逃げるように去っていく。初代吉右衛門の映像で観た熊谷の引っ込みそっくりでした。

キリの段の義太夫の綾太夫さん三味線の宏太郎さん、いつも以上に気迫ある演奏で、つい床を見てしまうこと度々。


『春興鏡獅子』
個人的に夜の部は『春興鏡獅子』が目当てでした。凄かった、凄かった。いえ、たぶんにまだまだな部分はあったと思います。でも、もっと踊ってて欲しい、もっと観たいと痛切に思いました

しかし良い席での罠が…。舞踊を観るには4列目は前すぎました。ギリギリ、足裁きも見え姿全体は観られるのですが全体のバランスを観るには近すぎです。しかも役者の表情がよく見えてしまうのでつい上半身ばかりを観てしまう。

染五郎さんの弥生、ほんとに可愛いです。硬質さがあり、そういう部分でまだ女性としての柔らか味はあまりないのですがそこに透明感があって清楚で初々しさがあります。近くで観ると可愛い仕草をした後、ふわっ~と顔を次の仕草に流す瞬間の目がかなり色ぽかったです。無心さからでる意識しない色気。あと襟足からのぞく背中が綺麗でドキドキしてしまいました。なんだかおやじ目線になってる気がする私…。

それにしても手捌きが本当に柔らかくとっても綺麗だった。あと胸の使い方がとっても柔らかになって風情とか華やかさが出てきた感じ。それと前回もちょっと感じたのですが弥生の途中、二枚扇の石橋のところで獅子が完全に憑いたと思いました。あっ、今入ったな、と感じた瞬間を感じたのです。

そして後シテの獅子。こちらが本当に素晴らしかったです。勇壮で優美。迫力があって、まさしく獅子でした。胡蝶との戯れはやはり可愛い。

左右に振る毛の勢いもよく、最後の毛振りは今回なぜか毛洗い(毛を前でふるふると揺らし滝のような振りをする部分)をやらずにいきなり廻し始めました。その勢いは止まらず、ラストは体をナナメにして超高速毛振り。いったいどうやってるの?「染五郎さん、大丈夫ですか?」ってくらいの凄まじい毛振り。獅子の狂乱も狂乱、凄まじい勢いとキレでした。最後の片足立ちもピタリと決めてきました。そこにまさしく獅子がいたような気がしました。

胡蝶の梅丸くん、錦政くんの二人はお互い持ち味を十分活かしつつお互いを見ながらバランスよくしっかり踊っていました。錦政くんは途中、鈴太鼓を落としてしまったのですが動ぜずそのままきちんと続けていました。後見の錦一さんがタイミングよく代わりの太鼓を渡し、その後も何事もなく踊りきりました。内心、かなり焦ったでしょうけどよく踏ん張りました。

歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 昼の部』3回目 3階1列目上手寄り

2008年02月25日 | 歌舞伎
歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 昼の部』3回目 3階1列目上手寄り

千穐楽。昼の部は『祇園一力茶屋の場』のみの観劇です。前3幕を捨てるという自分的暴挙。私にはチケットを取ったからには他の幕を見ないで空席にするというのがどうにも馴染めなくて…。前3幕で熱演されていた役者さんには大変申し訳ありません。

3階席には女子高校生が大挙しておりました。きゃーきゃーとまあうるさいことうるさいこと(笑)これは、どーなることかと思ったんですが幕が開くと大人しく観劇。ホッと一安心。寝てる子もいましたが案外しっかり観てて、へえ~と思いました。七段目はわりと初心者にも観やすいからかな。

『祇園一力茶屋の場』
思い切って来て良かったと思いました。今回、この場がお軽、平右衛門の物語の場となっていたように感じました。後段の兄妹のやりとりのところで一気に空気が動き、密になっていった感じ。芝雀さん、染五郎さんがかなりの熱演でした。未熟な部分はまだまだあるけどぐわ~っと熱が来ました。

どこか遊女に馴染みきっていない芝雀さんのお軽はやっぱり可愛い。押し出しのある華はやはり最後まで出なかったけど、色んな部分での恥じらいがなんとも可愛らしくて。またどことなく愁いがあるんですよね、絶えず勘平への想いが心の底にある感じで。勘平が死んだと聞いた後の愁嘆がほんとに凄かった。なんかこう心の底からの悲嘆だった。そして自害を覚悟したあと、由良之助が止めに出た後はもう呆けちゃってて、感情が動いて無いかのようだった。仇討ちに参加できると喜んでる兄と対照的だった。ああ、最後こういう顔をするんだなあと。なんだかとっても哀しかった。

染五郎さんの平右衛門、とても良かったです。真っ直ぐな気性で心根の優しい平右衛門でした。染五郎さん、この一月でどんどん成長していったんじゃないでしょうか。台詞の調子がかなり良くなっていて、また平右衛門という人物の輪郭もかなりハッキりしていました。演じるだけでいっぱいいっぱいな、わさわさした感じが無くなり、場面場面をしっかり見せていました。芝雀さんと並ぶとどうしても「兄」というよりは弟のような雰囲気ではありましたが、血の繋がった兄妹という絆がしっかりありました。きちんと兄妹の距離感があるのです。妹を思いやる、その気持ちがストレートに伝わり、またお軽の悲しみへの強い共感が、愁嘆場での切々した台詞に乗っていました。この場面、かなりの出来だと思います。この大変な役でこれだけのものにしてきたのは大きいでしょう。今後にかなり期待が持てると思います。

七段目の幸四郎さんの由良さんはやっぱり何か違うよなあと。幸四郎さんは四段目の役者でしょう。七段目で必要な遊興にふけっているという雰囲気が無さすぎなんですね。討ち入りへの覚悟ぶりを隠しきれてないですからっ。なぜああいう時に色気が全然、出ないんでしょうね?あんなに最初から鋭く作りこまなくてもいいと思うのだけど。根が生真面目すぎだからっていうのではないと思う。役によってはすごく色気を出すし。やはり忠臣蔵をやるときの性根が由良さんではなく大石内蔵助になってる気がする。ただ由良之助の心情はとても伝わってはきます。その時々の揺れをハッキリ見せてくれるので。後段の部分はその厳しさが活きてすんなり受け止められます。楽のせいか台詞にかなり力が入ってました。そのまま吉良家へ討ち入りか?ってぐらいの勢いでした。

歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』1等席1階花道寄り中央

2008年02月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』1等席1階花道寄り中央

夜の部、2回目観劇です。それぞれに見応えがありました。特に『春興鏡獅子』が今回かなり良かったです。弥生は超らぶり~。柔らか味が増して可愛らしい少女でした!二枚扇のとこで少しヒヤッとさせたけど他はかなり良かった。咲き乱れる牡丹の花が見えましたよ!それと今回は獅子が、獅子が凄かった~~~~。この前はちょっと未熟さが見えてましたが今回、ほんとに獅子でした。気が凄かったです。

『寿曽我対面』
祝祭劇としての華やかさに目を奪われがちな『対面』のなかの物語がしっかり見えて今まで観てきた『対面』と違うものを見たなという印象です。

工藤@富十郎さん、お膝の加減か最初から台に座ったままでほとんど動かないままでの芝居でしたが、曽我兄弟とのやりとりでの鋭さ、懐の大きさが本当に見事でした。声の調子が非常に良くてかなり明快でした。そして物語るところ、五郎とのやりとりで工藤の立場、人となりが浮かんでくるかのようでした。

五郎@三津五郎さんも台詞の明快さでは負けていなくて、工藤に向かっていく様の心情がストレートに伝わってきました。やんちゃさ、華といったものを表現するというよりは曽我五郎時致という人物の芯が見せたという感じ。ベテランならではの五郎でした。また深く腰の入った形が本当に素晴らしかったです。力の入り方が見事。

十郎@橋之助さん、今回、工藤×五郎がちょっと凄かったので少々大人しく感じてしまいましたが柔らかさとキリっとした部分のバランスが良かったです。横顔がお父様の芝翫さんに似てる、と初めて思いました。

朝比奈@歌昇さんが、やはり押し出しがあって良かったです。

大磯の虎@芝雀さん、本当に綺麗でした。品格もあってふんわりした艶が素敵でした。声もやはりいいですねえ。

化粧坂少将@孝太郎さん、近頃存在感が出てきたと思います。あと台詞回しがほんとうに上手い。前回ちょっときつい感じの表情でしたが、今回はだいぶ表情も柔らかくなっていました。

景時の市蔵さん、景高の亀蔵さん、近江の松江さん、八幡の亀三郎さん、鬼王の東蔵さんと口跡のいい方が揃ってしっかり芝居を支えておりました。


『口上』
少数人数でもほのぼのとした良い口上です。観客の皆さん、あったかい気分になったのではないでしょうか。なんとなく空気がほんのり暖かくなった感じがしました。雀右衛門さんが先日よりお声がお元気で嬉しくなりました。


『一谷嫩軍記「熊谷陣屋」』
かなり見応えがありました。前回より舞台が大きくなっていたような気がします。キリの段の義太夫の綾太夫さん三味線の宏太郎さんコンビが前回もとても良い思ったんですが非常に情感があって素晴らしかったです。

熊谷の幸四郎さん、前回より哀しみが深くなっていました。様々な思い入れを繊細に情感たっぷりに表現されていました。子を自ら打たなければならなかった悲痛さ、妻に対する申し訳なさが全身から伝わってきました。もののふの哀れさ。かといって小さくならないのです。無骨にしか生きられない男の生き様が熊谷を大きくみせます、この「泣き」の熊谷、やはり私は好きです。これしか方法がなかったのだ、と自分にも妻にも言い聞かせるように言い聞かせるように物語っていました。敦盛を打ったとして語っているが実は小次郎だというのが伝わってくるようなそんな物語でした。また首実検の時の義経に対する気迫も見事です。送り三重に乗っての引っ込みは武士の気概もなにも無くしてしまった熊谷でした。絶望感がひしひしと伝わってきました。ただの一介の人間としての引っ込みでした。

相模の芝翫さん、やはり母としての情を全面に出す相模でした。前回よりキッパリした感じがあって手強さも感じました。この強さも「母」の強さ。それだけに首が小次郎と知れた時の嘆きの悲痛さが見事に出ていました。ただ個人的好みからすると妻の部分がもう少し見えたらいいな、と感じました。

弥陀六の段四郎さんが今回、かなり良かったです。弥平兵衛宗清として部分をかなり強く押し出しており、大きな存在感がありました。平家のものとしての苦渋がよくみえる弥陀六。

藤の方の魁春さんも非常に良かったです。今回、母としての情の部分がより強く出ていて、品格ある姿と相まって藤の方の立場というものがよりストレートに伝わってきました。


『春興鏡獅子』
染五郎さん、今回、本当に素晴らしい出来だったと思います。丁寧に踊る部分からもう一段上がって、中身が濃くなっていた感じがしました。弥生としての気、獅子としての気が充実しておりました。

前シテの弥生は腰を深く落としてとても形よく、柔らかにしなやかに踊って初日近くに観た時よりノビノビとしていたようでした。そして気品溢れる清楚な可愛らしさ。少女のような透明感のある可愛らしさでした。そのなかにふんわりとした色気があってうっとりと見入ってしまいました。そして神妙に踊り始め、そのうち踊りに没入していくという小姓弥生でした。前回は終始丁寧にしっかりと、という部分が見えたのですが、今回は弥生その人が本当にだんだん無心に踊っていく、そんな様がありました。そのため、その踊りのなかの情景がとても鮮明でした。桜の花が咲き、ほととぎすがそこにいて、牡丹の花が咲き乱れておりました。きちんと色彩として浮かんできます。これは見事でした。また石橋の様子を踊る部分に入ったところは最初、二枚扇の扱いがちょっと硬くなっていたところもありますが、獅子に憑かれてしまう気配を感じさせる空気がありました。ふっ、とどこか存在が大きくなるのです。そして獅子頭に引っ張られての花道での引っ込みもどうしようもなく、という部分がしっかりありました。

後シテの獅子、これが「気」の入り方が素晴らしかったです。前回はちょっと未熟さが見えました。弥生の部分に力が入りすぎて獅子のところでパワーが少し落ち加減かな?という感じも見受けられたのですが今回は見事に獅子の勇壮な勢いのあるパワーを見せ付けました。とにかく、キレがいいのと大きさ、鋭さがありました。正面を向きピタリと止める部分、手をナナメに伸ばしキメる部分がなんとも美しい形。また左右の振る毛振りもピーンと張り、毛先が御殿の天井にまで届いておりました。胡蝶との舞はやはりどこかほんわかした無邪気な空気が流れます。そして獅子狂いの毛振り。その力強さと速さ。そして狂乱。ほんとに獅子の狂いでした。毛が絶えず上向きでの廻しでちょっと凄かったです。若いからこその鋭い毛振りでした。

胡蝶の二人、梅丸くん、錦政くんがやはり上手です。踊りのタイプはまったく違うにも関わらず、しっかり合わせてきていました。梅丸くん、綺麗で色気があります。彼のゆったりと優雅な踊りは安定感があります。師匠に梅玉さんの舞踊にやはり似ていますね。錦政くんはキビキビと跳ねるように踊りとっても可愛らしいです。音の捉え方が真っ直ぐで、やはりいかにも染五郎さんのお弟子さんという感じがありました。

国立小劇場『二月文楽公演 第二部』 1等中央下手寄り

2008年02月17日 | 文楽
国立小劇場『二月文楽公演 第二部』 1等中央下手寄り

『二人禿』
桜がいっぱいの春らしい華やかな舞台。床も人が沢山で曲も明るい出し物。禿のお人形がとっても可愛い。足が付いてましたよ!踊りはまあ、他愛もない感じ。所作事って基本の実力が見えちゃうみたい…。勘弥さんのほうが滑らかだったな。

『ひばり山姫捨松「中将姫雪責の段」』
雪のなかで姫を折檻する、というなんとも凄惨な場なんだけど、美しい。人形ではとにかく文雀さんの切なくて健気な中将姫が素敵だった。品がある儚い雰囲気で透明感のある美しさ。芯の部分から青白いオーラが放たれている感じなんですよね。雪の冷たさが伝わってくるかのようでした。浮船に「死んだ振り」を合図された時にコックリと小さくうなずく様がもう可愛いのなんのって。抱きしめてあげたいっ、と思ってしまいました。

腰元の浮舟の玉英さんと桐の谷の清之助さんもキャラが立ってて良かったです。女同士の取っ組み合いの場は絶対文楽のほうがリアル(笑)人形遣いの方、こういう場楽しいのかな、活き活きしてました!それと浮舟が岩根御前に向かって「猫又ばばぁ」って言うのがツボにハマった。

意地悪継母の岩根御前の玉也さんは押し出しがちょっと弱かったような。でも品を崩してはいけない役らしいのでこのくらいがいいのかな?

床はキリの嶋大夫さんの語りと宗助さんの三味線がとっても良かったです。途中から胡弓の音がかぶさるんだけど、これがまた効いていて。とても熱い語りと舞台上のひんやりした空気感のバランスが不思議に合っていました。嶋大夫さんは中将姫雪責の段の切場を語るのは今回が最後とのこと。良いものを聴かせていただきました。

にしても『ひばり山姫捨松』は酷い話だ。姫の父はなんで後妻にあんなに甘いんじゃ!と少々突っ込みが…(^^;)

『壺坂観音霊験記「土佐町松原の段」「沢市内の段」「山の段」』
明治期の作品なので言葉もわかりやすく、またこの作品は事前にレクチャーしてもらっていた事もあり細かい部分でも楽しめました。

でもやっぱり人形ではお里の蓑助さんに尽きるかも。なんというか華と艶と情熱。目が離せない。「沢市内の段」での針仕事の細やかさや夫に対する情愛の繊細さ、「山の段」での嘆きの激しさ深さ、その振れ幅が独特。崖の下に沢市を見つけた後の狂乱といっていい、その相手だけを想うその深さが強烈。神さまだって出てこないわけにはいなかないよね、と思わせるだけの力がそこにある。

その熱いお里を受ける沢市は勘十郎さん。しっかり受けて品のよい沢市さんでした。出すぎることがないのに存在感がありました。

床ではやっぱり「沢市内の段」の住大夫さん。淡々と語られるのだけど物語のなかの含みが大きいのです。情景、そして細やかな情感というものが大きく膨らんでみえてきます。体力が許せば「山の段」まで語って欲しかったです。お里の嘆きは住大夫さんで聴きたかった。

「山の段」は伊達大夫さんが休演で千歳大夫さん。熱演だったし声も良いしわかりやすいしストレートに伝わってはくるのですがまだ深みが足りないというかちょっとまだ表面的な感じが少し物足りなかった。

歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階席センター

2008年02月10日 | 歌舞伎
歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階席センター

『小野道風青柳硯「柳ヶ池蛙飛の場」』
2回目拝見でも不思議な味わいの歌舞伎で楽しい。

道風は書家というだけでなく官僚として有能な人だったんでしょうね。木工頭って?と思いまして調べてみましたら建築の指揮を取る部署のTOPだったようです。この演目では「番匠の荒仕事」もしてきたので力自慢でもあるということになっておりますがこれは史実ではなく大工=力仕事というイメージでの後付けの設定のような気がします。でもその飛躍した設定のおかげで優男風のお公家姿の道風が力士どもをやり込めるという楽しい演目となっています。

力士がなぜ登場するのかと思いましたら、前段で取り組みがあるのですね。浄瑠璃の脚本を見つけました。
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~tsubota/chrono/ononotou.html

道風の梅玉さんはお公家さんらしい柔らかさと品があるので、その風貌とかけ離れた立ち回りを見せるのが面白い味わいです。立ち回りもどことなく優雅。

駄六の三津五郎さんは反対に腰の入った鋭い立ち回りを見せてきます。その対比がまた面白いのです。池から這い上がってきた後、蛙飛びや、相撲の形をとった六法を見せてくださいます。


『菅原伝授手習鑑「車引」』
この場を様式美として表現した歌舞伎の演出にはほんと感心します。『菅原伝授手習鑑』は久しぶりに通し狂言で観たいです。

梅王丸の松緑さんの勢いのあるやんちゃな雰囲気がやはり良い。梅王丸はニンなんでしょうね。台詞もだいぶ聞かせられるようになってきたし。この日は少しお疲れだったか時々、腰があがってしまっていたのが残念。

桜丸の錦之助さんは優しげな雰囲気で丁寧に。もう少しふんわりとした艶が欲しいかなあ。あと。台詞のなかにもう少し後悔の念というものを前に出してくれるといいな。

松王丸@橋之助さん、台詞が良くなっていて重厚さが出てました。でもその代わりちょっと落ち着きすぎな感じも。兄弟と相対してる前のめりな感じとかがあるともっと良くなるんじゃないかなと。

時平の歌六さん、落ち着きのなかに妖気を持っている不気味さがあってかなり良いです。


『積恋雪関扉』
小野小町姫・傾城墨染実は小町桜の精@福助さんが会心の出来ではないでしょうか。本当に素晴らしい踊りを見せてくださいました。特に小町姫の愛らしい色気のある風情にはうっとり。福助さんの舞踊は華やかなのですが時に動きすぎなところでマイナスな要因を見せてしまうことがあったと思うのですが、今回その余分な動きが無かったです。かといって、柔軟性と華やかさという持ち味は消えていません。体全体で表現する、その部分が際立って品のいい風情が出たんじゃないかと思います。

また前回大人しいと思った傾城墨染にも艶ややかさが増して廓の情景描写の踊りが大きく華やかでした。また小町姫で見せた愛らしい色気とは違う傾城の色気をみせながらも品が落ちることがない。ここがほんとに良かった。小町桜の精は恨みの気が入り、ここもいい。決まり決まりでちょっと不安定だったり時々ピタッと形が入ってこない部分はあったものの、大伴黒主に向かっていく勢いはあったので良し。墨染実は小町桜の精の拵えの紅は完全に黒でした。

関守関兵衛実は大伴黒主@吉右衛門さん、前回より体がこなれてきたのでしょう、全体的に大きさとメリハリが出ていました。関兵衛での亡羊とした茶目っ気のおおらかさがとても素敵です。大伴黒主での押し出しの強さと存在感は独特。

良峯少将宗貞@染五郎さん、やはり品格があります。落ち着きが出て隠棲している貴人という風情がしっかりと出ていました。しなやかで端正さのある踊りも観ていて気持ちがいいです。

三人の手踊りのところは楽しいところですが、今回も三人の息があっていてとても楽しいです。この部分だけ舞台上の空気が暖かくなる感じ。

常磐津の演奏は前回拝見した3日の時のほうが揃ってたような。


『祇園一力茶屋の場』
物語本位のかなり締まった芝居でした。やはりいわゆる華やかなたっぷり感は薄いです。通し狂言のなかの一場ではなく、見取り狂言として、この場だけで物語を見せていかなければならない、その部分をクリアできていたのかどうか、全体の物語を知ってしまっている私には判断つきかねるのですが、でも『仮名手本忠臣蔵』という物語の流れのなかの場としては評価したい舞台でした。大きな流れのなかに巻き込まれた人物像として今回それぞれのキャラは立っていました。

由良之助の幸四郎さん、いわゆる押し出しの強さはありません。敵討ちへの執念をかなり強く持つ鋭い由良之助です。すべての行動において「敵討ち」の信念が垣間見られる。酔いにも決して深酔いはしないぞ、という強い意志がある。この段の由良之助にはほろ酔い加減の色気が必要と言われています。その部分が無いです。七段の由良之助はこういうものだ、というものをひっくり返してしまっています。「違う」、ついそう言いたくなるのですが、ただ、その代わりこの段での由良之助の行動はかなり理解しやすいです。

個人的に幸四郎さんの由良さんはやっぱり主君個人への想いが強すぎのような気がします(笑)。「家」やら「家臣」を背負って、の仇討ちじゃなくて、故人への想いがそうさせる感じで。だからそういう部分での大きさ、重さがなかなか感じられないのかなとか。

お軽の芝雀さん、かなり良いと思いました。元は腰元だった品と娘気分がどこか抜けない可愛らしさがありました。そして『仮名手本忠臣蔵』の「お軽」の性根は近年の「お軽」のなかじゃ一番だと思う。勘平への想いが終始、心の中にあります。そして残してきた家族も背景にしっかりあります。だから六段があっての七段だというものがスコンとイメージできる。今まで歌舞伎では通しでみても六段目と七段目にはどこか乖離があった。勘平とお軽のドラマが六段目で切れていた。しかし今回しっかり繋がっていました。勿論、今回の芝雀さんの芝居は巡業の時に比べたら格段に良くはなっているけどまだ未熟な部分が多い。とにかくまだ余裕がなく、全体のメリハリがあまりなかったり、台詞も押しっぱなしで抜け感がない。それでも「お軽」としての存在感はしっかりあったと思う。

補足:芝雀さん@お軽で七段目がすこんと納得いった理由のひとつ。

愚かさがあるお軽だった。そもそもお軽がどういう女性か。その部分が見えた。恋のためにどこか盲目で周りをよく把握できない短慮さがある。勘平共々、思慮が足りないカップルだったゆえ、遊女という立場まで落ちた女性である。そうなのだ、彼女は深く考えることをしない。由良之助の文を盗み読みしたのはいたずら心。文の内容の大事さを把握できるだけのものを持ち合わせていない。だから簡単に身請けの話を受けてしまう。勘平に会えるとそう思った途端、もう勘平に会えることでウキウキしている。そして兄、平右衛門が身請けの話を不審に思うその態度にもまったく察することができないのだ。無邪気すぎるその愚かさ。真相を知った後も、まずは勘平のこと。ただ恋する男のためだけにしか生きられない女。そのお軽が今月の舞台にはいる。『仮名手本忠臣蔵』のお軽の本質が、今更ながらみえた。文楽で観た時もここまではスコンとハマってこなかった。ようやく七段目のお軽の行動が綺麗に私のなかでハマった。今回、足りないピースを見つけた感じ。「芸を魅せる」部分での充実度は昨年の通し狂言での七段目には及ばないのは重々承知うえで、今回の「お軽」の性根の部分でのキャラの立ち上がりように、感動を覚えている私でした。

平右衛門@染五郎さん、奴のおおらかさは無いものの平右衛門の足軽としての苦渋、そしてお軽への真相をなかなか話せない優しさや母への想いといった家族思いの部分が真っ直ぐにある。また忠義一途ゆえに由良之助の本心を見抜くはしこさが台詞に滲む。やはり台詞の義太夫のノリが良くなっています。それと少しづつではありますが声を張るだけではない部分での工夫をしていました。ただ、声の伸びがまだなのと演じるので精一杯な部分がありワサワサしてしまう部分がありまだまだ改善していく最中なのだろうなという感じは多々。余裕のなさという意味では芝雀さん以上に余裕がなく、細かい部分で兄としてお軽を受け止め切れてない。こなすことで精一杯なんだろうな。でも「お軽の悲劇」を身の内で感じているという部分がしっかりあるのが好きです。

歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』3等A席前方センター

2008年02月09日 | 歌舞伎
歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』3等A席前方センター

『寿曽我対面』
工藤@富十郎さん、出だしこそ声がかすれ風邪かな?と思ったけど、どんどん調子をあげてらして、朗々とした素敵な台詞回し。白の衣装(普通は黒)でもしっかり威厳と大きさがあって素晴らしい。

五郎@三津五郎さん、やんちゃな部分はあまりなく落ち着いた五郎でしたが前のめりな感じが良く出てるし、なにより体の置き方がやはり綺麗。上手いなあ。台詞のほうは珍しく少しばかり掠れる部分があるもののキレのよいきっちり聴かせる台詞回し。

十郎@橋之助さんは思った以上に柔らか味があって、ひとつひとつ丁寧でいい。ふんわりした輪郭がちょっと足りない感もあるけど十郎って五郎以上に「魅せる」のが難しい役だからね。五郎と十郎の配役を逆にしてもよかったかな?と若干思わなくもなかったけど今の橋之助さんにとってこういう役をやるのもいいかなと。芸が拡がるんじゃないかな、優しげなのが案外似合う。

朝比奈@歌昇さんが初役とは思えない、りっぱさ。押し出しといい丸みといい、大当たりの出来かと。

大磯の虎@芝雀さん、か、可愛い~~~。いやいつも可愛いけど単に可愛いだけじゃなく、座ってるだけで風情と存在感と艶があって。このところほんとに芸格が上がったと思う。

化粧坂少将@孝太郎さん、綺麗な役がしっくり合うようになってきた、座っている時の形も良い。ただ、キリッとさせすぎで時々きつい顔になってしまうのでもう少し柔らかい拵えをしたほうがいいかなとか。

景時の市蔵さんと景高の亀蔵さんがカラカラッとした雰囲気で良い感じでした。


『口上』
下手から、吉右衛門さん、染五郎さん、幸四郎さん、松緑さん、雀右衛門さんの五人だけのこじんまりした口上。でも潔くてどこかほのぼのしてて良かった。幸四郎さんがしっかり仕切って白鸚さんの思い出話から今月の芝居の見所とか色々とお話を。時にユーモアを交えながらのお話はお上手で、楽しかったです。雀右衛門さん、時々プロンプも入ってはいたもののしっかりご挨拶されていました。米寿で、舞台に上がられているのですからたいしたものです。吉右衛門さんがニコニコととっても嬉しそうなのが印象的でした。松緑さんと染五郎さんの若手は神妙に。松緑さんがあの場にいるのが嬉しかったな。


『一谷嫩軍記「熊谷陣屋」』
役者が揃っての大芝居だった。

幸四郎さんがいつもよりたっぷり感は押さえ気味だった。だけどそのせいで熊谷の苦悩が際立ったかもしれない。息子を犠牲にせざるおえなかった切なさを前に出す熊谷でした。いつもだとこの部分で「父親」として等身大に落とし込み、泣きが強いように思うのですが、今回はギリギリのとこで止めた感じ。前回拝見した時より坂東武者の無骨さ、大きさがありました。ただ私は「泣き」の幸四郎さん熊谷が好きなので、前回の初代吉右衛門の雰囲気も醸し出していた、男としての不器用さのある熊谷像のほうが好きかなあ。今回はあまり初代吉右衛門のイメージは重ならず、白鸚さん追善興行だしお父様の大きさと存在感のほうをイメージしつつだったのかなと思いました。花道での引っ込みは三階からなので観られず。

相模の芝翫さん、母としての情がかなり強い相模でした。今回は終始、小次郎の母としての佇まいだったような気がします。子を想う切々したものがストレートに伝わり泣かせます。またそれだけでなく藤の方への気遣いの細やかさもありとても優しい女性です。ただ情に流されすぎかな?と思う部分がありもう少し、熊谷の妻の部分と武家の女としての毅然とした雰囲気が欲しいような気もしました。

弥陀六の段四郎さん、老獪さのなかにしっかり気概がある骨太な弥陀六です。やはり上手いですね。今回、今まで以上に大きさがありました。少し台詞が止まってしまった部分があったのが残念ですが瑕になるほどではありませんでした。

義経の梅玉さん品格があり爽やか。義経の御大将然とした佇まいがそこにありました。貴公子役がほんとに似合います。

藤の方の魁春さんの品格も見事。母としての切羽詰ったもののなかにも位取りの高さを滲ませます。完全に持ち役ですね。

軍次の松緑くんがかなり良い出来。熊谷の忠臣という部分がしっかり出ていました。しどころが少ないなか、これはちょっと見事です。


『春興鏡獅子』
とても良かったです。なんというか清涼感のある舞台でした。まだ硬さもあり全体的な丸みやまろやかな風情も足りないのですがそれでも美しい舞台だったと言ってしまいたいです。今後持ち役として踊っていけるだけのものだろうと思います。

染五郎さんの弥生はとっても可愛らしく清楚な色気がありました。とても品良く丁寧にしっかり踊って楷書の踊り。弥生としての十代の生娘の硬質な色気と小姓としての品格があり、将軍の御前で真剣にただひたすらに踊る、その性根での舞踊というのが鮮明にあったのがまず一番の良いところじゃないでしょうか。

女舞で今までなかなか柔らかさを出せなかった肩と胸の使い方が良くなっていたのと、膝もしっかり深く折りブレなく決めていくため、ひとつひとつの姿形が綺麗でした。手捌きのほうは柔らかくとても美しい。袱紗や扇の使い方も流れるように綺麗でした。これは染五郎さんの強みでしょう。

ただあまりにも楷書すぎるかな?と思う部分もあり。様々な踊りのなかでの情景もしっかり見せてはきますがまだイキイキとまでいかない部分があります。そこがイキイキと見せられると吸引力がもっと出るのではと思います。染五郎さんのことだからもっと少し伸びやかに華やかに、という部分も踊れるのではないかしらと思います。だけどほぼ初役での今回、上々の出来でしょう。

獅子のほうは勇壮にキレよく、大きさもありました。とはいえどことなく若々しいちょっと未熟さのある若獅子という雰囲気も。胡蝶との舞がまだどことなく慣れてない感じで。でもそれが獅子と胡蝶の舞のほんわかした空気感にもなり、その空気感はとってもよかった。戯れているという部分はクッキリと。狂いの毛振りのほうはスピード感のほうを大事にしたのか、ゆったり丸く円に廻すのではなく色んな角度での振りを見せてきました。足をしっかりと地につけ、安定感があるので毛先が伸びて綺麗な振り。

胡蝶の二人、梅丸くん、錦政くんが可愛らしいだけでなく踊りも達者。踊りの質が違うけどお互いしっかり確認しながら踊っておりかなり息が合っていました。梅丸くんの踊りは柔らかで端正。またしっかり相手に合わせ背を盗み形を整えてきます。さすがお兄ちゃん格だなという感じ。小柄な錦政くんは体を弾ませるようにノビノビとメリハリの利いた踊りで大きく動いていました。

オーチャードホール『Tanguera』 S席前方上手寄り

2008年02月07日 | 演劇
渋谷bunkamura オーチャードホール『Tanguera』 S席前方上手寄り

渋谷bunkamura オーチャードホールにタンゴミュージカル『タンゲーラ』を観に行きました。タンゴミュージカルとはなんぞや?という状況の観劇でした。ミュージカルというほど歌はなかったです。歌う人は一人だけだし。歌手の方はお芝居はするけど踊らない。これをミュージカルと言っていいのだろうか?という感じです。一応ストーリーはあるものの基本、タンゴ舞踊を見せるという感じの構成でした。ストーリーは単純なものなのでわかりやすいです。その物語に沿って、その状況下に相応しい踊りを見せていく。どちらかというと舞踊劇といったほうがいいかも。

それにしてもタンゴ舞踊は初めて見ましたがスピードと複雑な足裁きにビックリしました。上半身はまっすぐで腰から下で複雑なステップを踏むんですね。あまりの速さにどうやって動かしてるかわからないステップもあって「ひえええ」でした。一歩間違えると怪我するんじゃないかと思うアクロバティクな動きも。タンゴって相手ありきの舞踊なんですね。一人で表現をするというものではなく、何かしらを相手にしてその部分で表現する。そういう部分でペアの相手によって踊りがまったく違ったものになるのが面白かったです。動きは女性のほうが激しいのですがリードする男性の力量がかなり踊りに左右されるのかなというのが見えて面白かった。

アルゼンチンタンゴを観るという部分では大変面白かったのですが、いわゆる感動というものは残念ながらなかったです。タンゴを見るにはオーチャードホールは小屋が大きすぎる。もっと小さい小屋であれば、舞踊の熱みたいなのがダイレクトに感じられたかもしれないなと。それと内面の深みみたいなのがもうひとつ伝わってこない。物語が単純だから、というだけではないような気もしますが、何か心に伝わってくるものが無かったです。ただタンゴ舞踊のかっこよさとかそういうものはしっかりと伝わってはきました。


歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 昼の部』3等B席センター

2008年02月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 昼の部』3等B席センター

昼の部は1月に続き、初春らしい華やかのある演目ばかり。とっても楽しくて大満足です。

『小野道風青柳硯「柳ヶ池蛙飛の場」』
これが、とっても楽しかったです!梅玉さんがお公家さんなのに強い役なんです。立ち回りとか、強めの台詞回しとか珍しい姿が拝見できます。

三津五郎さんの少々滑稽なお役も素敵でした。蛙も大活躍でした~。好きだわ、これ。

『菅原伝授手習鑑「車引」』
役者がそれぞにニンに合ってて良かったです。

梅王丸@松緑さんが急成長中かも。体の置き方とか台詞も随分良くなってて以前より華も出てきた感じです。

桜王丸@錦之助さんも桜丸のやさしげなところが似合ってて良かった。ああいう役だと時蔵さんに似ますねえ。

松王丸@橋之助さんも大きさがあって良かったです。お顔がほんとに良いよね、この方。

金棒引藤内@亀蔵さんの手強さ、時平@歌六さんの不気味さと揃ってました。


『積恋雪関扉』
関守関兵衛実は大伴黒主@吉右衛門さん、踊りは決して上手くはないのだけど柄で見せてきます。それと所作が丁寧だから見せ場が見せ場になるのですね。特に関守関兵衛はほんとにニンに合うというのか、愛嬌があってほんとに良いです。大伴黒主のほうも大きさがあってカッコイイです。

小野小町姫・傾城墨染実は小町桜の精@福助さん。久々に福助さんの姫が良いと思いました。可愛いし品もあって踊りもとっても柔らかで丁寧で良かったです。小町桜の精のほうは綺麗ななかにどこか不気味さもあってやはり良かったです。傾城墨染のほうは福助さんにしては少し大人しい感じ、もっと前に出る感じがあってもいいかも。

良峯少将宗貞@染五郎さん、しなやかで端正な舞です。宗貞は本役としては初めてですよね。私は勘三郎さんと素踊りした時に観ていますが、その時に比べて大きさと品格が出てました。それと踊りに安定感や色気が出てきたというか。いやあ、これは個人的にかなり拾い物というか、染五郎さんの踊り、やはり好きだなあと思いました。


『祇園一力茶屋の場』
全体的に芝居が締まってて、そういう意味で幸四郎さんらしい舞台でした。人物背景とかを極めて明瞭に見せてくる。一場で見せるものじゃなく通し狂言にした時こそ際立つ感じ。前後を知っているとスコンと入り込める。でも一場のみということで観るのであればいわゆるたっぷり感は少し足りないかな?

茶屋の中居さんたちに綺麗どころが揃っててウキウキしちゃいました。人数も多いしさすがに揃えてきたって感じでした。見立てで「美女」扱いされたのは京由さんかな。可愛かった。

由良之助@幸四郎さん、重厚さのある佇まい。でもほろ酔いの色気とか、大きさとか、あんまり無いような。鋭さのほうが先に立つ。だから、そういう点では後半はピッタリで良い感じでした。前半にもっとふんわりとした色気が欲しいなあ。

さて、お軽@芝雀さんと平右衛門@染五郎さんの二人、とても良かったです!去年の夏に巡業で観ているのですが二人とももう少し、という感じでした。でも今回、しっかり作りこんできていました。勿論、まだ足りない部分はあるけど、心情がとてもよく伝わってきて3階B席から観ても存在感がありました。しっかり兄妹だったし、彼らの向こうにある勘平、そして親、与一兵衛とおかやの存在、そして忠義の思い、そのそれぞれがしっかり明快に伝わってきました。

お軽@芝雀さん、遊女の華やかさ色気という部分はそれほど無いのだけど、ほんとに可愛らしく、勘平一途、勘平ラブ、その部分で生きているお軽でかなり説得力のある演じようでした。「お軽」としての存在感が素晴らしかった。なんというかお軽の勘平への気持ちがストレートに伝わってきます。真相を知った後のお軽の嘆きがもうなんというか切々としていてじわ~っと胸に迫ったきました。前半のじゃらじゃらした部分は、娘気分が抜けない感じの雰囲気。恋のためにどこか盲目で周りをよく把握できない、駆け落ちしてしまうような短慮さのある娘、そんなものも見えた。

平右衛門@染五郎さん、台詞回しが非常に良くなってました。義太夫へのノリがとっても良いです。だから存在感が出たし、平右衛門というキャラクターが活き活きと出てていました。足軽の悲哀とか家族思いの部分とか、忠義一途なところとか、きっちりと。足軽としての軽さと由良之助の本心を見抜くだけの鋭さがしっかり同居。そして義のためにお軽を手にかける悲痛さや真相を語らなければならない哀しさがよく出ていた。ほんと良い出来だと思います。

私、勘三郎さんの平右衛門が大好きなんですが、キャラクターの作りの方向が似てて、そうそうこういう平右衛門が好きなんだよなあ、と思いながら観てました。