Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席中央

2007年04月21日 | 歌舞伎
歌舞伎座『二代目錦之助襲名披露 四月大歌舞伎 昼の部』3等B席中央

『四月大歌舞伎』昼の部を観てまいりました。演目の好き嫌い別として昼の部のほうが15日に観た夜の部より全体的に面白かった。というか15日夜は役者さんたち本気で疲れてた?とか思いましたことよ。特に、富十郎さん、勘三郎さん、錦之助さんが今日はかなり良かったです。

『當年祝春駒』
曽我十郎の勘太郎くん、良いわ~。柔らか味、しなやかさ、決まりの美しさ、足捌きの安定感。一段と良くなってきたような気がする。曽我五郎の獅童さんは頑張ってました。2年前の納涼の時に較べたら、かなり成長。でもまだ頑張ってるね、段階ですけど。特に足捌きが…ばたばたわたわた。リズムに微妙に乗れてない?でも一生懸命さが良い方向には出てたと思うよ。舞鶴の七之助くん、可愛いわ。やはり成長ぶりが見えました。チト硬いけど踊る姿が前より大きくなったと思う。珍斎の種太郎くん、丁寧だし筋が良さそう。

『頼朝の死』
うーん、とあんまし好きなタイプの演目ではありませんでした。つまらない、とかそういうわけじゃないんですけどね。説明過剰といいますか。観てて、なんだよぉとイライラするというか…。でも梅玉さんはこういう新歌舞伎での役はピッタシですねえ。梅玉さん以外演じられないんじゃなの?これ、とか思いました。あと政子の芝翫さんが貫禄。ラストの台詞、これぞ政子じゃって思いました。

重保の歌昇さん、大熱演。でも暑苦しいです~~~。もう少し内に秘めた雰囲気があってもとか。台詞回しが上手いだけに、熱さが倍増で「もっと落ち着け~~」とか(笑)。この演目に関しては梅玉さんくらいのすっきりした台詞回しのほうが私は好きだわん。

目立ったのが小姓の梅丸くん。行儀良すぎなくらいきっちりしてて凄すぎです、しかも最近、綺麗になってきたような気がする。上手く成長してほしい。このままいけば梅玉師匠の後を継げるくらいになりそうな予感。

個人的に門之助さんが何気に最近、良くなってる気がする。


『男女道成寺』
道成寺ものは大好きなので、とーっても楽しかったです。勘三郎さんが、やっぱり見事だわ。舞踊ってこういうものだ、と感じさせてくれる踊りになってきた。元々お上手ですけど、このところやっぱもう一段ランクが上がったと思う。それにしてもほんと可愛いし、もっともっと見せろ~~~と騒ぎたくなりました。『娘道成寺』をまたぜひ歌舞伎座でよろしく。

対する仁左衛門さん、勘三郎さん相手はちょっと不利ですねえ、やっぱし。踊り手しては丁寧で綺麗なれど少々不器用さが否めないので勘三郎さんと対になるときはどうしても勘三郎さんに目が行く。でも見現しは愛嬌があるし、狂言師の姿になってからはカッコイイし、楽しそうに踊られるので観て楽しかったです。


『菊畑』
15日夜に拝見した『角力場』での富十郎&錦之助さんがもうひとつ覇気が無かったのでちょっと心配でしたが、今日の昼の部はお二人とも良かったです。

鬼一法眼の富十郎さん、病身ぶりが板についてるのでヒヤッとしましたが、いえいえ、演じての病身ぶりです。姿も大きく、決まりの姿、台詞の鋭さ、鬼一法眼というキャラクターが活き活きと前に出ていました。富十郎さん、まだまだ大丈夫ですね。

虎蔵の錦之助さん、品の良さのなかに芯がある虎蔵。特に牛若丸でのきっぱりした姿が良かった。後の義経、という部分がしっかりありました。かなり良い出来じゃないでしょうか。決まり決まりもキレイだし、姿にいつもののびやかさがあった。ノリの部分は少々あっさりかなと思ったけど丁寧でわかりやすかったです。

智恵内の吉右衛門さん、上手いですね。特にこういう役は本当にピッタリ。鬼一法眼との腹の探り合いでの性根がハッキリわかる。また奴らしいおおらかさ、大きさもあるし。義太夫のノリも見事。 

皆鶴姫の時蔵さん、お美しいです。とても丁寧にきっちりと。でもいつもより控えめな感じ?赤姫の情熱といった部分が少なめな気がしました。

笠原湛海の歌昇さん、こちらは熱さがちょうど良い感じでした。ちょっと人がよさげな雰囲気もありましたが。殺されて可哀想とか(笑)


歌舞伎座『四月大歌舞伎 夜の部』 3等

2007年04月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『二代目錦之助襲名披露 四月大歌舞伎 夜の部』3等

『実盛物語』
仁左衛門さんのお得意の役のひとつ。「和実」である実盛にピタリと嵌っておりました。この芝居は物語を観るというよりは個々の役者さんの見せ場と子役の愛らしさを楽しむもの、だと思うのですが今回、まさしくそういう舞台でした。

仁左衛門さんはやはり姿が本当に美しいですね。決まった時のラインが本当に綺麗で惚れ惚れ致します。また台詞のノリもとても心地よく、物語る様子も情景がクッキリと。また柔らかさも持ち合わせまさしく「和実」のお見本のような実盛。今月はお孫さんと一緒のせいで、後半「おじいちゃん」の顔が出ていました。太郎吉@千之助くんの相手をする時の笑顔が完全にオーパでした(笑)それがまたほのぼの感があって可愛らしい感じ。ただそのせいかどことなく押さえ気味というかちょっと枯れた雰囲気が…。もっと若々しく押し出しを強くしていただいたほうが個人的に好きです。最後の花道での引っ込みは文句無くかっこよかったです。

太郎吉の千之助くん、7歳なんですね。大きくなりましたねえ。今回、期待に応えてしっかりとお芝居をしておりました。動きが大きく見栄えがします。このまま素直に成長していってほしいです。

葵御前の魁春さん、この方の品格あるお役は最近とみに良くなっているように思えます。小万の秀太郎さん、死体姿がですら美しい小万でした。また母として、娘としての情がほんの少しの出にも関わらずストレートに伝わってきましした。このお二人が舞台を引き締めていたと思います。

九郎助の亀蔵さん、さすがにまだ老け役はちょっと可哀相かなと思うのですが、気持ちがハッキリ出ていてなかなかいい出来、頑張ってました。

瀬尾十郎の彌十郎さん、台詞回しに深みが出てきたように思います。戻りの部分もメリハリがあって良かったです。

『口上』
二代目錦之助を暖かく見守り、応援していこうという気分に満ち溢れていました。ほのぼの感があって、夜の部は『口上』が一番楽しかったです。

『角力場』
少し辛口になってしまいました。これも期待するゆえ、ということでご了承お願い致します。

ん~、なんと書いたらいいでしょう。全体的にピリッとしない感じでした。富十郎さんは濡髪はお得意ですし、声のハリ、台詞回しの上手さは相変わらずでしたが、全盛期にあった大きさが残念ながら…。お年だからしょうがないんですけど…。『角力場』の濡髪には有無を言わさぬ大きさ、オーラが必要だと思うので、ちょっと物足りなさが。

さて、主役の錦之助さんですが、二役とも全体的に固いですね…。まず与五郎ですが、「つっころばし」って本当に難しいんだと改めて思いました。ぼんぼん、な雰囲気はありましたけど正直「つっころばし」には残念ながらなってませんでした。体の使い方、愛嬌、色気、ふわっとした抜け感等々。この役をやるには生真面目すぎる感じ。笑いどころが笑いどころにならないというか…。うーん、無理にこの役をやらせなくても。まあ今いる役者で「つっころばし」がまともに出来る役者はほとんどいませんけどね。完全なのは藤十郎さんくらいなものだし。

放駒長吉のほうは合うだろうなと思ったんですけど…。一生懸命さは伝わってくるんですけど…。この役は勢いというか前のめりくらいに前に出ないと、と思います。あとお疲れなのか極まる時に体が重そうというかいつものキレがあんまりなかったです、いつもより小さく見えました。蹲踞も安定してなかったし。襲名のプレッシャーやら色々あって疲れているんだろうとは思うのですが、どーん、と勢いよく行っていただきたいです。後半、頑張ってください。

それにしてもせっかくの襲名、丸本物の勉強ということはあるでしょうけどもう少し合った演目が他になかったのか?と思わなくもないです。最近、骨太な役で光っていた信二郎さんですから、そちら系の役があってもと思いました。

福助さんの吾妻は色ぽくて可愛らしくてとっても良かったです。獅童さんは華を添えるかと思いきや、地味でした。体の使い方がどうもへなへな…。むーん、期待した私が悪かった(;;)


『魚屋宗五郎』
かなり辛口感想です。どうやら15日の出来が良くなったようですね。

勘三郎さんは確かに上手いです。でも…勘三郎さんでもこんなことがあるんだと愕然としたくらい『魚屋宗五郎』の世界が立ち上がってこない。そして宗五郎の気持ちが立ち上がってきてない。初役でまだ試行錯誤の最中?と思ったくらい…でももう手がけた役なんですよね…なんで?なんで?絶対ニンの役だと思うし、決して悪い芝居をしてるわけじゃない。でも人物像が薄く感じてしまった。玄関先でのくどきが全然伝わってこないよ~~。ヘンだ、何かがおかしい。それと酔った時と酔いが醒めた後の切り替えも上手くできてなかったようにみえた。お疲れ??

おはまの時蔵さん、得意役です。きちんとやってる。細かい情愛があって、チャキチャキっとしていて。でも勘三郎さんとどーにも合わない。どんな夫婦かみえてこないんです。

三吉の勘太郎くん、めったに外すことのない勘太郎くんですが今回はちょっとダメかも、浮いてる…。世話物の、黙阿弥の世界に一人入れてない。最近、世話ものやってなかったせい?だからかな?世話物のなかの人になるのってある程度、経験が必要なんだろうなあ。

おなぎの七之助くん、姿も声も良いんですけど台詞でいっぱいいっぱい。

太兵衛の錦吾さんは安定感があります。時蔵さんと錦吾さんはしっかり世界に入ってたんだけどなあああああ。世話物というのはアンサンブルが命だ、と思い知りました。今回、アンサンブルがバラバラです。どこがどう良くないのか?皆が微妙にかみ合ってないとしか…。

救いは磯部主計之助の錦之助さんと浦戸十左衛門の我當さんでしょうか。どちらもニンにあったお役。錦之助さんはこういう役が一番「らしい」と思います。ご本人もリラックスしていたようにみえました。殿様然としているのは案外難しいの思うので、これぞニンてことでしょう。